(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記電路サポートを内側に囲むように配置され、水分子を含有した吸熱材と、前記吸熱材の外側に前記吸熱材に接して配置されたブランケット状の断熱材とを備える耐火ラッピングを更に備え、
前記電路サポートのうち少なくとも1つは、前記耐火ボードを貫通して前記耐火ボードの外側へ突出し、複数の前記段に分かれずに前記電路を支持し、
前記耐火ボードは、前記電路及び前記耐火ボードを貫通していない前記電路サポートから50mm以上の間隔を設けて前記躯体に固定されて設置され、
前記耐火ラッピングは、前記耐火ボードを貫通した前記電路サポートのうち前記耐火ボードの外側へ突出した部分を覆って内側に囲む、請求項1に記載の原子力発電所におけるケーブルの耐火構造。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所の安全系設備は、設備を構成する機器及びケーブルの1つに故障が生じても設備の機能が十分に維持できるように、機器及びケーブルに対して多重性と独立性をもった設計が要求されている。この多重性と独立性を確保するために、機器に対しては、安全系設備の機能に応じて区分に分け各区分を分離して配置する設計を行っており、機器に接続する安全系ケーブルに対しては、多重化した上で各区分のケーブルを分離して布設できるよう考慮して電路(電線管やケーブルトレイ)の配置設計を行っている。
【0003】
従来、火災防護対策としての電路の分離方法は、IEEE384 Standard Criteria for Independence of Class 1E Equipment and Circuitsの規定に基づき、電路相互間を規定距離以上離すことを原則とし、必要な分離距離を確保できない場合には、燃焼した電路に近接する異区分の電路へ延焼を防止する耐火バリア(耐火構造)を設置するように設計されてきた。
【0004】
しかしながら、福島第一原子力発電所の事故を受けて原子力発電所の安全基準の見直しが実施され、更なる安全性強化のために「実用発電用原子炉及びその附属施設の火災防護に係る審査基準」(以下、「新基準」と称する)が施行された。この新基準では、同一火災区域に原子炉停止に係る異区分の安全系ケーブルが混在する場合、火災によってそれぞれの系統が同時に機能を喪失しないように、3時間以上の耐火能力を有する隔壁等で相互の電路を系統分離することが定められている。すなわち、3時間の火災の後でも、電路に布設したケーブルが電気特性を維持することが求められている。
【0005】
特許文献1には、従来の電路の分離方法での要求(燃焼した電路に近接する異区分の電路へ延焼を防止すること)に対応するため、断熱材を間に入れた2枚の鋼板をケーブルトレイの底と蓋の形に成型して、電路の周囲に薄い断熱層を構築するケーブルトレイ系統分離用バリアが記載されている。
【0006】
しかし、新基準では原子炉停止に係る安全系設備は火災によって機能を喪失しないことが要求されており、火災防護対象である安全系ケーブルは火災後にも機能を維持することが必要である。したがって、新基準に適合する耐火バリアは、「3時間の火災後も電路に布設したケーブルが電気特性を維持できる」ことが新たに要求され、火災の延焼を防止できるだけでなく、電路への熱の侵入によるケーブルの損傷を防止できる構造とする必要がある。このため、新基準に適合する耐火バリアは、従来の耐火バリアでは考慮していなかった電路への熱の侵入を防止する構造とする必要があり、電路の周囲の構造物(電路を支持する電路サポート等)からの伝熱防止も考慮したバリア構造が望まれている。
【0007】
特許文献2には、耐火材と断熱材とを積層した耐火処理用被覆材をケーブル保護管に巻きつけた、ケーブル保護管の耐火処理構造が記載されている。
【0008】
特許文献3には、外層と内層とから形成される断熱材を備え、トンネル内設備を保護する耐火防護カバーが記載されている。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明によるケーブルの耐火構造は、原子力発電所において、火災防護対象である安全系ケーブル(以下、単に「ケーブル」と称する)が3時間の火災の後でも電気特性を維持することができて新基準を満たせるように、防護対象であるケーブルが布設された電路(電線管やケーブルトレイ)の周囲に構築する耐火構造である。以下では、火災防護対象であるケーブルが布設された電路を、「火災防護対象である電路」などと呼ぶ。本発明によるケーブルの耐火構造は、電路と電路を支持する電路サポートとを内側に囲むように配置されるので、電路だけでなく電路サポートも火災から防護することができる。
【0019】
更に、本発明によるケーブルの耐火構造は、火災防護対象である電路及び電路サポートの構造や、電路の周囲の環境(電路に近接する構造物の有無等)に応じて構造を変更することにより、既設の原子力発電所内に錯綜して配置された様々な形状の電路に対して設置可能である。
【0020】
耐火構造の一例として、火災防護対象の電路及び電路サポートの周囲に構造物がなく、耐火構造の設置に必要なスペースが確保できる場合には、防護対象の電路及び電路サポートの周囲に耐火ボードを構築し、耐火ボードと原子力発電所の躯体(原子力発電所の内部の床、壁、および天井)を利用して電路及び電路サポートの周囲を囲むことで、3時間の火災からケーブルを防護する。耐火ボードは、板状の断熱材とブランケット状の断熱材を組み合わせて構成される。
【0021】
耐火構造の別の一例として、火災防護対象の電路及び電路サポートの周囲に耐火ボードを構築するスペースがない場合には、耐火ラッピングを電路の周囲に巻きつけることによって、3時間の火災からケーブルを防護する。耐火ラッピングは、吸熱材とブランケット状の断熱材を組み合わせて構成される。また、耐火ラッピングは、主に耐火ボードを構築するスペースがない場合に設置するので、必ずしも全ての電路に耐火ラッピングを設置する必要がなく、電路サポートを補強する工事が大規模にならなくてすむ。
【0022】
また、ケーブルを火災による熱から防護するためには、電路サポート及び電路の周囲の構造物からの伝熱が電路内に侵入することを防ぐ必要がある。このため、上記の耐火ラッピングを、電路サポート及び電路の周囲の構造物に巻きつけることで耐火構造を構成することもできる。
【0023】
上記の3種類の耐火構造を単独で又は組み合わせて原子力発電所内の適切な場所に設置することより、錯綜して配置された様々な形状の電路に対して耐火構造を構成し、電路に布設されたケーブルを3時間の火災から防護することができ、新基準を満たすことが可能である。
【0024】
更に、本発明による耐火構造では、耐火構造の内部(例えば、電路上又はケーブル上)に温度計を設置し、耐火構造の内部でのケーブルの周囲の雰囲気温度を測定することもできる。本発明による耐火構造を設置した電路は、耐火構造の外部から目視でケーブルの状態を知ることが困難である。このため、ケーブルの周囲の雰囲気温度を、電路に格納されたケーブルが健全であるか調べる指標とする。このようにして、電路に布設されたケーブルの状態を知ることで、必要に応じてケーブルの引替・撤去を行う時期を判断することが可能である。
【0025】
以下では、原子力発電所内の電路としてケーブルトレイを例に挙げ、ケーブルトレイに対する耐火構造について説明する。電路が電線管の場合にも、以下の説明を適用することができる。なお、以下の説明で参照する図面において、同一の要素には同一の符号を付け、それらの繰り返しの説明は省略する場合がある。
【0026】
図1は、原子力発電所内に設置されるケーブルトレイ2の概要を示す図である。原子力発電所内では、鋼材を梯子形に組み合わせた構造のケーブルトレイ2の中に、ケーブルが布設されている。ケーブルトレイ2は、金属製の電路サポート3に支持されており、電路サポート3は、原子力発電所の躯体(
図1には示さず)に固定される。
【0027】
ケーブルがケーブルトレイに布設されている場合は、火災防護対象のケーブルを布設しているケーブルトレイに耐火構造を設置する。ケーブルトレイは原子力発電所内に錯綜して配置されており、錯綜して配置されたケーブルトレイ及び電路サポートに対して、それぞれ適切な耐火構造を構築する必要がある。そこで、本発明者らは、前述の耐火ボードと耐火ラッピングを発明した。以下、耐火ボードについて、次に耐火ラッピングについて、それぞれ説明する。
【0028】
耐火ボードは、複数の板状の断熱材とブランケット状の断熱材とを備える。複数の板状の断熱材は、並べて配置される。隣り合う2つの板状の断熱材の間に隙間があると、隙間を通して熱がケーブルトレイに侵入する。このため、隣り合う2つの板状の断熱材は、一部が互いに重なるように配置され、これらの間の隙間が可能な限りできないようにする。更に、このように配置された板状の断熱材の外側に、板状の断熱材に接するようにブランケット状の断熱材が配置され、複数の板状の断熱材間の隙間を塞ぐ。ブランケット状の断熱材は、板状の断熱材に巻きつけてもよい。耐火ボードは、このように板状の断熱材とブランケット状の断熱材とを重ねて構成されるので、ケーブルトレイの内部への熱の侵入を防ぐことができる。
【0029】
また、耐火ボードを介して火災時の熱がケーブルトレイに伝わることを防ぎ、ケーブルを3時間の火災から防護して新基準を満たすことができるように、耐火ボードは、周囲を囲っている防護対象のケーブルトレイ及び電路サポートから50mm以上の間隔を設けて設置することが望ましい。
【0030】
耐火ボードの設置に当たっては、ケーブルトレイと電路サポートをともに囲むことを考慮し、原子力発電所の躯体を利用して耐火ボードを固定する。すなわち、耐火ボードは、原子力発電所の躯体(床、壁、および天井の少なくとも1つ)に固定され、耐火ボードと原子力発電所の躯体とで、ケーブルトレイと電路サポートとを内側に囲む構造にすることが望ましい。
【0031】
上記の耐火ボードの性能確認を目的として、原子力発電所のケーブルトレイと電路サポートを模擬した構造物に耐火ボードを適用した試験装置を構築して、原子力発電所での3時間の火災を想定した加熱試験を実施した。ケーブルトレイには、原子力発電所で使用される安全系ケーブルを収容した。また、ケーブルトレイは、実際の原子力発電所にあるケーブルトレイのうち、大きさが最小のケーブルトレイを模擬した。ケーブルトレイは、大きさが大きいと熱容量が大きくなり耐火性能が向上するので、大きさが最小のもので試験をすれば、耐火性能が劣るケーブルトレイに対する耐火ボードの性能を知ることができる。加熱試験では、試験装置を炉の中に入れて、ISO834−1に準拠した標準加熱曲線に従って試験装置を加熱した。
【0032】
加熱試験の結果、熱伝導率が0.05W/m・Kの板状の断熱材(厚さは100mm)と、熱伝導率が0.4W/m・Kのブランケット状の断熱材(厚さ25mm)とを用いて、上記のように構成した厚さ125mmの耐火ボードを、防護対象のケーブルトレイ及び電路サポートから50mmの間隔を設けて設置すると、3時間加熱しても、ケーブルトレイの内部のケーブルの表面温度を約70℃に維持でき、ケーブルが電気特性を維持できることがわかった。
【0033】
したがって、熱伝導率が0.05W/m・K以下で厚さが100mmの板状の断熱材と、熱伝導率が0.4W/m・K以下で厚さが25mmのブランケット状の断熱材とを備える耐火ボードを、防護対象のケーブルトレイ及び電路サポートから50mm以上の間隔を設けて設置すると、新基準の要求を満足する耐火構造が構築できることがわかった。なお、板状の断熱材とブランケット状の断熱材の厚さは、それぞれの熱伝導率に応じて定めることができ、必ずしも上記の値でなくてもよい。例えば、板状の断熱材において、熱伝導率が0.05W/m・Kより小さい場合には、耐熱性能が向上するので、厚さを100mmより小さくすることができ、ブランケット状の断熱材において、熱伝導率が0.4W/m・Kより小さい場合には、厚さを25mmより小さくすることができる。ただし、より確実に新基準を満たすようにするためには、耐火ボードに、熱伝導率が0.05W/m・K以下で厚さが100mm以上の板状の断熱材と、熱伝導率が0.4W/m・K以下で厚さが25mm以上のブランケット状の断熱材を用いるのが好ましい。
【0034】
耐火ラッピングについて説明する。耐火ラッピングは、複数の板状又はシート状の吸熱材とブランケット状の断熱材とを備える。複数の吸熱材は、ケーブルトレイを覆うように並べて設置される。吸熱材は、複数のケーブルトレイをまとめて覆って内側に囲んでもよく、各ケーブルトレイを個別に覆って内側に囲んでもよい。更に、このように配置された吸熱材の外側に、吸熱材に接するようにブランケット状の断熱材が配置され、複数の吸熱材間の隙間を塞ぐ。ブランケット状の断熱材は、吸熱材に巻きつけてもよい。耐火ラッピングは、このように吸熱材とブランケット状の断熱材を重ねて構成されるので、ケーブルトレイの内部への熱の侵入を防ぐことができる。なお、ブランケット状の断熱材を何層か重ねて吸熱材の外側に設けると、複数の吸熱材間の隙間をより確実に塞ぐことができる。断熱材を何層か重ねる場合は、熱伝導率の異なる断熱材を重ねてもよい。
【0035】
吸熱材は、水分子を含有した無機材料からなる。無機材料としては、既存の吸熱材で使用されているものを用いることができる。吸熱材は、吸熱材の周囲の温度が90℃以上になると、内部の水分子が気化し、水蒸気として周囲に放出されることで気化熱を奪い、水分子が全て気化するまでの間、ケーブルトレイの周囲の温度を約100℃に保つ。したがって、吸熱材で重要なのは、水分子の含有量である。吸熱材の水分子の含有量は、吸熱材を構成する無機材料の熱特性、ブランケット状の断熱材の熱伝導率、及びISO834−1の加熱曲線を用いて、3時間の加熱後に吸熱材の内部の水分子が全て気化しないように定める。
【0036】
なお、ケーブルトレイに耐火ラッピングを巻きつけることにより、電路サポートに荷重が追加されるので、必要に応じて電路サポートの追加や補強を考慮する。
【0037】
上記の耐火ラッピングの性能確認を目的として、原子力発電所のケーブルトレイと電路サポートを模擬した構造物に耐火ラッピングを適用した試験装置を構築して、原子力発電所での3時間の火災を想定した加熱試験を実施した。模擬したケーブルトレイと試験条件は、上述した耐火ボードの性能確認の加熱試験と同様である。
【0038】
加熱試験の結果、水分子を含有した無機材料からなる吸熱材と、熱伝導率が0.4W/m・Kのブランケット状の断熱材(厚さ95mm)とを用いて、上記のように構成した耐火ラッピングを、防護対象のケーブルトレイの周囲に巻きつけると、3時間加熱しても、吸熱材の効果により、ケーブルトレイの内部のケーブルの表面温度を約100℃に維持でき、ケーブルが電気特性を維持できることがわかった。なお、吸熱材の厚さは、吸熱材の吸熱特性(特に水分子の含有量)に応じて定めることができる。
【0039】
したがって、水分子を含有した無機材料からなる吸熱材と、熱伝導率が0.4W/m・K以下で厚さが95mmのブランケット状の断熱材とを備える耐火ラッピングを、防護対象のケーブルトレイの周囲に巻きつけると、新基準の要求を満足する耐火構造が構築できることがわかった。なお、ブランケット状の断熱材の厚さは、熱伝導率に応じて定めることができ、必ずしも上記の値でなくてもよい。例えば、ブランケット状の断熱材の熱伝導率が0.4W/m・Kより小さい場合には、耐熱性能が向上するので、厚さを95mmより小さくすることができる。ただし、より確実に新基準を満たすようにするためには、耐火ラッピングに熱伝導率が0.4W/m・K以下で厚さが95mm以上のブランケット状の断熱材を用いるのが好ましい。
【0040】
上記の耐火ラッピングは、電路サポートとケーブルトレイの周囲の構造物とから火災防護対象のケーブルへの伝熱を防ぐために、電路サポートとケーブルトレイの周囲の構造物とに巻きつけてもよい。すなわち、耐火ラッピングは、ケーブルトレイだけでなく、電路サポートやケーブルトレイの周囲の構造物を覆って内側に囲んでもよい。加熱試験の結果、耐火ラッピングを、防護対象のケーブルトレイと電路サポートとケーブルトレイの周囲の構造物とに巻きつけることで、吸熱材の効果により、火災防護対象のケーブルの表面温度を約100℃に維持でき、ケーブルが電気特性を維持できることがわかった。したがって、上記の耐火ラッピングにより、電路サポート及びケーブルトレイの周囲の構造物に対しても、新基準を満たす耐火構造を構築できることがわかった。
【0041】
また、上述したように、ケーブルトレイ上又はケーブル上に温度計を設置し、耐火構造の内部でのケーブルの周囲の雰囲気温度を測定することもできる。温度計としては、例えば熱電対を用いることができる。温度計で測定したケーブルの周囲の雰囲気温度は、耐火構造の外部に設置されたモニタに表示される。ケーブルの周囲の雰囲気温度からケーブルの表面温度を知ることができ、ケーブルの表面温度からケーブルの許容電流を求めることができる。このようにすると、耐火構造の内部のケーブルの状態を知ることができ、必要に応じてケーブルの引替・撤去を行う時期を判断することが可能である。
【0042】
以下、本発明の実施例によるケーブルの耐火構造を、図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0043】
図2Aは、本発明の実施例1によるケーブルの耐火構造を示す図である。
図2Aは、ケーブルトレイ2の横断面を示す図である。実施例1では、耐火構造として、耐火ボード20を用いる。
【0044】
ケーブルトレイ2には、複数のケーブル1(火災防護対象の安全系ケーブル)が布設されている。ケーブルトレイ2は、電路サポート3によって支持される。
図2Aに示した例では、電路サポート3は、原子力発電所の躯体8である床に固定され、上下2段に分かれており、それぞれの段でケーブルトレイ2を支持する。
【0045】
耐火ボード20は、複数の板状の断熱材5と、ブランケット状の断熱材6とを備え、ケーブルトレイ2と電路サポート3の周囲を囲む。板状の断熱材5は、熱伝導率が0.05W/m・Kであり、ブランケット状の断熱材6は、熱伝導率が0.4W/m・Kである。ブランケット状の断熱材6は、板状の断熱材5より熱伝導率が大きく、板状の断熱材5よりも外側に、すなわち、板状の断熱材5よりもケーブルトレイ2や電路サポート3から遠い位置に、配置される。一般に、断熱材は、耐火温度が高いほど熱伝導率が大きい。このため、板状の断熱材5の外側に、板状の断熱材5よりも熱伝導率が大きいが耐火温度が高いブランケット状の断熱材6を設ける。板状の断熱材5は、ブランケット状の断熱材6よりも耐火温度が低いが熱伝導率が小さいので、ブランケット状の断熱材6よりも内側に、すなわち、ブランケット状の断熱材6よりもケーブルトレイ2や電路サポート3に近い位置に、配置される。
【0046】
板状の断熱材5の厚さは100mmであり、ブランケット状の断熱材6の厚さは25mmであり、これらの合計の厚さ(耐火ボード20の厚さ)は、125mmである。板状の断熱材5とブランケット状の断熱材6の周囲は、亜鉛鋼板等の外装板7で固定する。外装板7は、板状の断熱材5とブランケット状の断熱材6の熱伝導率や厚さに応じて、熱特性や厚さを定めることができる。板状の断熱材5は、ケーブルトレイ2及び電路サポート3から、50mm以上の間隔を設けて設置されている。すなわち、ケーブルトレイ2及び電路サポート3と耐火ボード20との間には、厚さが50mm以上の空気層4が設けられる。
【0047】
図2Aに示した例では、耐火ボード20は、原子力発電所の躯体8である床に固定される。したがって、ケーブルトレイ2と電路サポート3の周囲を、耐火ボード20と原子力発電所の躯体8である床で囲むことで、3時間の火災からケーブル1を防護する。
【0048】
上述したように、隣り合う2つの板状の断熱材は、一部が互いに重なるように配置され、これらの間の隙間が可能な限りできないようにする。隙間ができても、ブランケット状の断熱材6で隙間を塞ぐことにより、火災時に、耐火ボード20の内部に熱が侵入するのを防ぐことができる。
【0049】
図2Bは、本発明の実施例1によるケーブルの耐火構造の別の設置例を示す図である。
図2Bは、ケーブルトレイ2の横断面を示す図である。
図2Bに示した例では、電路サポート3は、原子力発電所の躯体8である天井に固定されており、躯体8である壁に近接して配置されている。このような場合には、耐火ボード20を、原子力発電所の躯体8である天井と壁に固定し、ケーブルトレイ2と電路サポート3の周囲を、耐火ボード20と原子力発電所の躯体8である天井と壁で囲むことで、3時間の火災からケーブル1を防護することができる。
【0050】
本実施例によるケーブルの耐火構造を用いると、ケーブルトレイ2に布設されたケーブル1が3時間の火災の後でも必要な電気特性を維持することができ、新基準を満たすことができる。また、ケーブルトレイ2と電路サポート3の周囲を耐火ボード20と原子力発電所の躯体8で囲むので、電路サポートに荷重が追加されることがなく、電路サポートの追加や補強が不要である。
【実施例2】
【0051】
図3は、本発明の実施例2によるケーブルの耐火構造を示す図である。
図3は、ケーブルトレイ2の横断面を示す図である。実施例2では、耐火構造として、耐火ラッピング30を用いる。
図3に示した例では、電路サポート3は、原子力発電所の躯体8である天井に固定され、上下2段に分かれており、それぞれの段でケーブルトレイ2を支持する。
【0052】
耐火ラッピング30は、複数の板状又はシート状の吸熱材9とブランケット状の断熱材6とを備え、ケーブルトレイ2と電路サポート3のそれぞれの周囲を覆う。吸熱材9は、水分子を含有した無機材料からなり、ケーブルトレイ2の周囲の温度を約100℃に保つことができる。ブランケット状の断熱材6は、熱伝導率が0.4W/m・Kである。複数の吸熱材9は、ケーブルトレイ2と電路サポート3の周囲にアルミテープ等の不燃材料で固定される。ブランケット状の断熱材6は、吸熱材9の周囲に巻きつけられる。吸熱材9の周囲には、複数層(例えば、
図3に示すように2層)のブランケット状の断熱材6を形成してもよい。吸熱材9の周囲に複数層のブランケット状の断熱材6を形成する際には、実施例1で述べたように、外側の断熱材6の方が内側の断熱材6よりも耐火温度が高い(熱伝導率が大きい)ようにしてもよい。
【0053】
図3に示した例では、耐火ラッピング30は、上下2つのケーブルトレイ2をまとめて覆っている。耐火ラッピング30は、2つのケーブルトレイ2を個別に覆ってもよい。
【0054】
なお、隣り合う2つの板状又はシート状の吸熱材9は、一部が互いに重なるように配置され、これらの間の隙間が可能な限りできないようにする。隙間ができても、ブランケット状の断熱材6で隙間を塞ぐことにより、火災時に、耐火ラッピング30の内部に熱が侵入するのを防ぐことができる。
【0055】
本実施例によるケーブルの耐火構造を用いると、ケーブルトレイ2に布設されたケーブル1が3時間の火災の後でも必要な電気特性を維持することができ、新基準を満たすことができる。また、ケーブルトレイ2と電路サポート3の周囲に実施例1で説明した耐火ボード20を構築するスペースがない場合には、本実施例によるケーブルの耐火構造が特に有効である。
【実施例3】
【0056】
図4は、本発明の実施例3によるケーブルの耐火構造を示す図である。
図4は、ケーブルトレイ2の横断面を示す図である。実施例3では、耐火構造として、耐火ボード20と耐火ラッピング30を用いる。
図4に示した例では、ケーブルトレイ2を支持する電路サポート3は、
図2Bと同様に、原子力発電所の躯体8である天井に固定されている。ただし、
図4に示した例は、ケーブルトレイ2を支持する電路サポートの数が
図2Bの例よりも多く、少なくとも1つの電路サポートが耐火ボード20と干渉する点が、
図2Bに示した例と異なる。
図4には、1つの電路サポート10が耐火ボード20と干渉する場合を示しているが、複数の電路サポートが耐火ボード20と干渉してもよい。
【0057】
ケーブルトレイ2の周囲は、実施例1で説明した耐火ボード20で囲む。このとき、電路サポート10の全体を耐火ボード20で囲めず、耐火ボード20と電路サポート10とが干渉する場合には、耐火ボード20に、電路サポート10が貫通して突出するための開口部を設ける。この開口部と電路サポート10との隙間は、ブランケット状の断熱材6で塞ぎ、火災時に火炎が耐火ボード20の内部に噴出することを防ぐ。
【0058】
電路サポート10のうち、耐火ボード20の外側へ突出した部分は、実施例2で説明した耐火ラッピング30で周囲を覆う。なお、
図4では、吸熱材9の周囲に2層のブランケット状の断熱材6を形成している例を示している。
【0059】
本実施例によるケーブルの耐火構造を用いると、耐火ボード20と耐火ラッピング30を併用することにより、ケーブルトレイ2に布設されたケーブル1が3時間の火災の後でも必要な電気特性を維持することができ、新基準を満たすことができる。また、電路サポート3、10の配置や形状によらず、ケーブルトレイ2を火災から防護することができる。
【実施例4】
【0060】
図5は、本発明の実施例4によるケーブルの耐火構造を示す図である。
図5は、ケーブルトレイ2を横から見た図である(ケーブルトレイ2は、
図5の左右方向に延伸する)。新基準を満たすような火災防護を必要とするエリア11は、原子力発電所の躯体8である天井と壁で囲まれており、新基準を満たすような火災防護を必要としないエリア15と壁を介して隣り合っている。ケーブルトレイ2を支持する電路サポート3は、原子力発電所の躯体8である天井に固定されている。耐火ボード20は、火災防護を必要とするエリア11において、原子力発電所の躯体8である壁に固定されている。
図5に示した例では、火災防護を必要とするエリア11において、ケーブルトレイ2と電路サポート3の周囲を、耐火ボード20と原子力発電所の躯体8である天井と壁とで囲むことで、3時間の火災からケーブル(
図5には示さず)を防護する。
【0061】
実施例4では、耐火構造である耐火ボード20の内部に、温度計である熱電対12を設置する。
図5に示した例では、3つの熱電対12をケーブルトレイ2上に設置しているが、ケーブルトレイ2に格納されたケーブル上に設置してもよい。熱電対12により耐火ボード20の内部でのケーブルの周囲の雰囲気温度を測定し、この雰囲気温度から耐火ボード20の内部のケーブルの状態を知ることができる。
【0062】
熱電対12は、耐火ボード20の構築前に、予めケーブルトレイ2(又はケーブル)の表面に設置し、熱電対12の導線13をケーブルトレイ2に沿わせて布設しておく。可能であれば、ケーブルトレイ2の内部に導線13を布設してもよい。原子力発電所の躯体8(
図5の例では壁)には、導線13を通すための開口部である躯体貫通部14を設ける。躯体貫通部14は、火災防護を必要とするエリア11と火災防護を必要としないエリア15との境界となる躯体8(
図5の例では壁)に設ける。導線13は、躯体貫通部14を通して、火災防護を必要とするエリア11から火災防護を必要としないエリア15まで引き出され、火災防護を必要としないエリア15で温度測定用のモニタ16に接続される。
【0063】
また、導線13を、躯体貫通部14を通して火災防護を必要としないエリア15まで引き出せない場合には、耐火ボード20を固定する原子力発電所の躯体8と耐火ボード20との隙間から、導線13を引き出し、温度測定用のモニタ16に接続する。この際には、導線13を引き出した箇所にブランケット状の断熱材6を詰めて隙間を塞ぎ、火災時に隙間から火炎が入るのを防止する。
【0064】
以上の説明では、耐火構造が耐火ボード20である場合について説明した。耐火構造が耐火ラッピング30である場合も、耐火ラッピング30の内部でケーブルトレイ2(又はケーブル)の表面に熱電対12を設置し、熱電対12により耐火ラッピング30の内部でのケーブルの周囲の雰囲気温度を測定し、この雰囲気温度から耐火ラッピング30の内部のケーブルの状態を知ることができる。熱電対12の導線13は、耐火ラッピング30に開口部を設けて、耐火ラッピング30の外へ引き出し、温度測定用のモニタ16に接続することができる。この際には、導線13を引き出した開口部にブランケット状の断熱材6を詰めて隙間を塞ぎ、火災時に隙間から火炎が入るのを防止する。
【0065】
なお、本発明は、上記の実施例に限定されるものではなく、様々な変形例を含む。例えば、上記の実施例は、本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、本発明は、必ずしも説明した全ての構成を備える態様に限定されるものではない。
【0066】
また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能である。また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の実施例の構成を追加・削除・置換することが可能である。