特許第6331496号(P6331496)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6331496
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】フッ素樹脂射出成形機用スクリュー
(51)【国際特許分類】
   C22C 19/05 20060101AFI20180521BHJP
   B29C 45/60 20060101ALI20180521BHJP
【FI】
   C22C19/05 D
   B29C45/60
【請求項の数】1
【全頁数】5
(21)【出願番号】特願2014-43580(P2014-43580)
(22)【出願日】2014年3月6日
(65)【公開番号】特開2015-168840(P2015-168840A)
(43)【公開日】2015年9月28日
【審査請求日】2017年2月8日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005197
【氏名又は名称】株式会社不二越
(74)【代理人】
【識別番号】100192614
【弁理士】
【氏名又は名称】梅本 幸作
(74)【代理人】
【識別番号】100158355
【弁理士】
【氏名又は名称】岡島 明子
(72)【発明者】
【氏名】瀬山 博之
(72)【発明者】
【氏名】船平 伸之
(72)【発明者】
【氏名】越 正夫
【審査官】 河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−242969(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 1/00 − 49/14
B29C 45/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、24〜26%Cr、4〜6%W、6〜9%Mo、Ta、Nb、Tiの各元素の総和が0.1〜2.0%、AlとCuの総和が4.0〜6.0%であり、残部がNiおよび不可避不純物であるニッケル基合金製のフッ素樹脂射出成形機用スクリューであって、前記ニッケル基合金の硬さがロックウェルのCスケールでHRC55以上であることを特徴とするフッ素樹脂射出成形機用スクリュー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高腐食性および高圧雰囲気下で用いられるニッケル基合金製のフッ素樹脂射出成形機用スクリューに関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、自動車用部品の素材の1つとして、主に軽量化を目的とした炭素繊維強化プラスチック(CFRP)に代表される樹脂材料がある。中でも、四フッ化エチレン樹脂(PTFE)や三フッ化エチレン樹脂(PCTFE)等に代表されるフッ素樹脂は、優れた耐熱性と耐薬品性とを兼ね備えており、高温雰囲気下で使用される様々な部品への用途展開が図られている。
【0003】
例えば、フッ素樹脂の代表的商品名としてテフロン(登録商標)と呼ばれるフッ素樹脂がある。このフッ素樹脂は、耐薬品性、耐熱性、絶縁性、しゅう動性を兼ね備えており、その特性から射出成形により製造される部品および分野としては、医療系部品のほか電子部品にも広範囲に用いられている。具体的な部品例としては、薬品、腐食ガスプラント用ケミカルポンプ、シールリングチューブ、スマートフォン、モバイル機器向け小型リチウム電池用パッキンなどが挙げられる。
【0004】
そのような樹脂に対して、例えば特許文献1では0.1%以下のC、2.0%以下のSi、2.0%以下のMn、30〜45%Cr、1.5〜5.0%Alであって、残部がNiおよび若干の不純物から構成されるニッケル基合金製の機械構造用部材が開示されており、耐食性と強度を兼ね備えていると説明されている。
【0005】
しかし、フッ素樹脂は成形時に強い腐食性を有することから、射出成形する場合に成形機の部品を早期に劣化させてしまい、特許文献1に示すニッケル基合金ではフッ素に対する耐食性が乏しく、フッ素樹脂の生産効率を依然低いものとしていた。
【0006】
そこで、フッ素樹脂を成形するための射出成形機の機械部品の材料として、例えば特許文献2では重量%で、0.05〜0.20%C、0.5%以下のSi、1.0%以下のMn、14.0〜22.0%Cr、8.0〜12.0%Co、8.0〜12.0%Mo、0.75〜1.5%Al、2.0〜3.0%Ti、5.0%以下のFeであって、残部がNiおよび若干の不純物から構成されるニッケル基合金製の射出成形機用スクリューが開示されている。
【0007】
また、特許文献3には、重量%で1.0〜25.0%Cr、12.0〜25.0%MoおよびTi、Al、Nbから選ばれる元素のうち1種以上を合計で1.5〜7.0%含有し、残部がNiおよび若干の不純物から構成されるニッケル基合金製の射出成形機用部材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−69557号公報
【特許文献2】特開昭61−43531号公報
【特許文献3】特開平6−200343号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、フッ素樹脂は成形時の流動性が悪く、他の樹脂を成形する場合に比べて、射出成形時に高圧成形する必要があるが、特許文献2および3に開示された射出成形機用スクリューについては、機械的強度が低いのでスクリュー自体が湾曲し、樹脂材料の計量動作時にスクリュー回転によりスクリューの外周が磨耗するなどの問題があった。
【0010】
そこで、本発明においてはフッ素樹脂中のフッ化水素に由来したフッ素に対する耐食性と高圧成形に長時間耐え得る耐久性を兼ね備えたニッケル基合金製の射出成形機用スクリューを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前述した課題を解決するために、本発明は、重量%で、24〜26%Cr、4〜6%W、6〜9%Mo、Ta、Nb、Tiの各元素の総和が0.1〜2.0%、AlとCuの総和が4.0〜6.0%であり、残部がNiおよび不可避不純物であるニッケル基合金製のフッ素樹脂射出成形機用スクリューであって、このニッケル基合金の硬さをロックウェルのCスケールでHRC55以上とするニッケル基合金製のフッ素樹脂射出成形機用スクリューとした。
【0012】
なお、Crの含有量を25%、Wの含有量を5%に限定したニッケル基合金製のフッ素樹脂射出成形機用スクリューとすることもできる。
【0013】
さらに、Alの含有量を4.0%、Cuの含有量を1.0%に限定したニッケル基合金製のフッ素樹脂射出成形機用スクリューとすることもできる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る射出成形機用スクリューは、フッ素樹脂中のフッ化水素に由来したフッ素に対する耐食性と高圧成形に長時間耐え得る耐久性を兼ね備えているという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施の形態の一例について説明する。本発明に係る射出成形機用スクリューを構成するニッケル基合金の成分範囲を限定した理由について、以下に詳しく説明する。
【0016】
Cr(クロム)の含有量は、20〜30重量%とする。Crは、耐酸化性および耐食性を向上するのに不可欠な元素である。また、ある程度添加した場合は、針状組織が成長して耐クリープ特性の向上が認められる。しかし、過剰添加した場合、針状組織が粗大化して性能劣化を招くため、20〜30重量%とした。
【0017】
W(タングステン)の含有量は、1〜10重量%とする。Wは、熱間強度を達成する析出強化相が固溶する温度範囲において、固溶強化により高温強度および高温クリープ特性を向上させる元素である。1重量%未満の含有量では高温強度および高温クリープ特性を向上させる効果が発現せず、10重量%を超える含有量では熱間加工性に有害となるために含有量の上限を限定した。
【0018】
Mo(モリブデン)の含有量は、4〜12重量%とする。Moは、熱間強度を達成する析出強化相が固溶する温度範囲において、固溶強化により高温強度および高温クリープ特性を向上させる元素である。4重量%未満の含有量では高温強度および高温クリープ特性を向上させる効果が発現せず、12重量%を超える含有量では熱間加工性に有害となるために含有量を限定した。
【0019】
Al(アルミニウム)の含有量は、3.0〜5.0重量%とする。Alは、Niと結合して金属間化合物γ’相を形成し、オーステナイト相を強化する重要な元素である。Alを増量すれば強化相であるγ’相の量は増加し、高温強度は向上する。しかし、過剰に添加すると、強化相が不安定となり脆化相の析出をまねく。このため、素材の熱間成形性を阻害するので、その添加範囲を3.0〜5.0重量%に限定した。
【0020】
Cu(銅)の含有量は0.1〜2.0重量%とする。Cuは、硫化物系腐食の改善を目的として添加する。過剰添加した場合は熱間脆化を生じるため、その含有量を0.1〜2.0重量%に限定した。
【0021】
Ta(タンタル)、Nb(ニオブ)、Ti(チタン)の各元素の含有量の総和は、0.1〜2.0重量%の範囲とする。Taは、γ’相を形成して、材料強度および粒界を強化する元素である。また、NbはNi(Al、Ti、Nb)などの金属間化合物相を析出し、高温強度を向上する。また、Cと結合して炭化物NbCを生成し、高温硬さおよび強度の向上に寄与する。さらに、TiはNiと結合して金属間化合物γ’相を形成し、オーステナイト相を強化する。Tiを増量すれば強化相であるγ’相の量は増加し、高温強度は向上する。しかし、これらの元素は過剰に添加すると、脆化相の析出をまねき、材料自体を脆化させてしまい、結果として素材の熱間成形性を阻害するので、上記の各元素の含有量の総和については0.1〜2.0重量%の範囲に限定した。
【0022】
なお、Ni(ニッケル)の実質的な含有量は上記各元素の含有量の総和を除いた残部となるが、Niはマトリックスであるオーステナイト基地を形成するため不可欠な元素であり、析出強化相であるγ’相を形成し、高温強度を向上させる役割を果たす。そのため、上記の強化元素を固溶させるための一定量が必要であり、同時に製造原価の上昇を抑制する観点から、その含有量については重量%で50%〜60%の範囲とすることが好ましい。