特許第6331510号(P6331510)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6331510
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】電磁クラッチの制御装置
(51)【国際特許分類】
   F16D 48/06 20060101AFI20180521BHJP
   F16D 27/118 20060101ALI20180521BHJP
【FI】
   F16D48/06 101B
   F16D27/118
【請求項の数】3
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2014-48810(P2014-48810)
(22)【出願日】2014年3月12日
(65)【公開番号】特開2015-172412(P2015-172412A)
(43)【公開日】2015年10月1日
【審査請求日】2017年2月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】早川 正博
(72)【発明者】
【氏名】松本 勤
【審査官】 尾形 元
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭61−282631(JP,A)
【文献】 特開昭59−065581(JP,A)
【文献】 特開2009−210110(JP,A)
【文献】 特開平10−264672(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 48/06
F16D 27/118
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1回転部材と第2回転部材との間のトルク伝達を断続可能な電磁クラッチの制御装置において、
前記電磁クラッチを構成する電磁コイルの一端側に接続される第1スイッチと、
前記電磁コイルの他端側に接続される第2スイッチと、
前記電磁コイルの一端から前記第2スイッチと電源とを接続する電源線への通電を許容する第1ダイオードと、
基準電位点から前記電磁コイルの他端への通電を許容する第2ダイオードと、
前記第1及び第2スイッチのオンオフ状態を制御する制御回路とを備え、
前記第1及び第2スイッチは、それぞれゲート電圧の印加によりオンオフ状態が切り替わる半導体スイッチング素子からなるものであって、
前記第1及び第2スイッチのいずれか一方の温度を検出する温度センサを備え、
前記制御回路は、前記第1及び第2スイッチの双方をオフ状態とすることにより、前記電磁コイルへの電力供給停止し、
前記温度センサにより検出される検出温度が閾値温度以下の場合には、前記第1及び第2スイッチのいずれか一方をパルス幅変調駆動するとともに、他方をオン状態で固定することにより、前記電磁コイルに電力供給を行い、
前記検出温度が前記閾値温度よりも大きい場合には、前記第1及び第2スイッチのいずれか一方をオン状態で固定するとともに、他方をパルス幅変調駆動することにより、前記電磁コイルに電力供給を行うことを特徴とする電磁クラッチの制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電磁クラッチの制御装置において、
前記電磁コイルを流れる実電流値を検出する電流センサを備え、
前記制御回路は、前記電流センサにより検出される実電流値が閾値電流よりも大きい場合には、前記第2スイッチをオフ状態で固定することを特徴とする電磁クラッチの制御装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の電磁クラッチの制御装置において、
前記電磁クラッチは、前記電磁コイルに加え、
前記第1回転部材に設けられた第1噛合部に噛み合い可能な第2噛合部を有し、前記第2回転部材に対して軸方向移動可能かつ相対回転不能に連結された噛み合い部材と、
前記電磁コイルへの通電により発生する磁力によって軸方向移動するアーマチャと、
前記第2噛合部が前記第1噛合部と噛み合う方向に前記噛み合い部材を付勢する付勢部材と、
前記アーマチャの軸方向移動により前記付勢部材の付勢力に抗して前記噛み合い部材を押圧して軸方向移動させる押圧機構とを備え、
前記押圧機構は、前記電磁コイルを支持するハウジングに対して軸方向移動不能かつ相対回転不能に設けられた係止部と、軸方向における少なくとも3つの異なる位置で前記係止部に係止される複数段の被係止部が形成された筒状のピストンとを有し、前記アーマチャの軸方向移動に応じて前記係止部が前記複数段の被係止部のうち軸方向の位置が異なる他の段の被係止部を係止するように構成され、
前記噛み合い部材は、前記係止部が前記複数段の被係止部のうち前記噛み合い部材から最も遠い位置に形成された被係止部を係止する状態が解除されて前記噛み合い部材に最も近い位置に形成された被係止部を係止する際に、前記付勢部材の付勢力によって前記第2噛合部が前記第1噛合部に噛み合うものであることを特徴とする電磁クラッチの制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁クラッチの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電磁コイルに対する通電を制御することにより、第1回転部材と第2回転部材との間のトルク伝達を断続可能な電磁クラッチが広く知られている(例えば、特許文献1)。ところで、第1回転部材と第2回転部材との間のトルク伝達を遮断すべく、電磁コイルへの電力供給を停止しても、電磁誘導により通電量の変化を妨げるような逆起電力が発生するため(自己誘導)、該電磁コイルに流れる電流は即座にはゼロとならず、電磁クラッチの応答が遅れるといった問題がある。
【0003】
そこで、例えば特許文献2には、電磁コイルと並列に抵抗等の負荷を接続し、電磁コイルへの電力供給の停止時に、逆起電力による電流が該負荷に流れるようにした電磁クラッチの制御装置が提案されている。これにより、電力供給を停止した際に電磁コイルで発生する逆起電力が負荷において熱に変換されて消費されるため、速やかに電磁コイルに流れる電流をゼロとして、電磁クラッチの応答性を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−138798号公報
【特許文献2】特開2004−92691号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年、電磁クラッチにおいては、より一層の高い応答性が要求されるようになっており、上記特許文献2のような構成を採用してもなお、要求される水準に達しているとは言い切れないのが実情である。そのため、より高い応答性を実現することのできる新たな技術の開発が求められていた。
【0006】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、高い応答性を実現できる電磁クラッチの制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する電磁クラッチの制御装置は、第1回転部材と第2回転部材との間のトルク伝達を断続可能な電磁クラッチを制御するものにおいて、前記電磁クラッチを構成する電磁コイルの一端側に接続される第1スイッチと、前記電磁コイルの他端側に接続される第2スイッチと、前記電磁コイルの一端から前記第2スイッチと電源とを接続する電源線への通電を許容する第1ダイオードと、基準電位点から前記電磁コイルの他端への通電を許容する第2ダイオードと、前記第1及び第2スイッチのオンオフ状態を制御する制御回路とを備え、前記制御回路は、前記第1及び第2スイッチの双方をオフ状態とすることにより、前記電磁コイルへの電力供給の停止することを要旨とする。
【0008】
上記構成によれば、電磁コイルへの電力供給を停止した際に発生する逆起電力は、第2ダイオードから電磁コイル及び第1ダイオードを介して電源に電流が流れ込むことにより消費される。つまり、電磁コイルの逆起電力は、電源に回生されることにより消費される。そのため、抵抗等の負荷を用いて熱に変換して消費する場合に比べ、速やかに電磁コイルに流れる電流をゼロとして、電磁クラッチの応答性を向上させることが可能になる。
【0009】
上記電磁クラッチの制御装置において、前記第1及び第2スイッチは、それぞれゲート電圧の印加によりオンオフ状態が切り替わる半導体スイッチング素子からなるものであって、前記第1及び第2スイッチのいずれか一方の温度を検出する温度センサを備え、前記制御回路は、前記温度センサにより検出される検出温度が閾値温度以下の場合には、前記第1及び第2スイッチのいずれか一方をパルス幅変調駆動するとともに、他方をオン状態で固定することにより、前記電磁コイルに電力供給を行い、前記検出温度が前記閾値温度よりも大きい場合には、前記第1及び第2スイッチのいずれか一方をオン状態で固定するとともに、他方をパルス幅変調駆動することにより、前記電磁コイルに電力供給を行うことが好ましい。
【0010】
半導体スイッチング素子をパルス幅変調(PWM)駆動する場合には、非常に短い時間でオンオフが繰り返し切り替えられるため、スイッチング損失が大きくなって該半導体スイッチング素子が過熱し易い。一方、半導体スイッチング素子をオン状態で固定する場合には、主な発熱要因が半導体スイッチング素子のオン抵抗に応じた飽和損失になるため、PWM駆動時に比べて発熱量が小さくなり、過熱し難い。したがって、上記構成のように検出温度が閾値温度よりも大きくなった場合に、PWM駆動するスイッチとオン状態で固定するスイッチとを交替することで、第1及び第2スイッチのいずれか一方が過熱することを抑制できる。
【0011】
上記電磁クラッチの制御装置において、前記電磁コイルを流れる実電流値を検出する電流センサを備え、前記制御回路は、前記電流センサにより検出される実電流値が閾値電流よりも大きい場合には、前記第2スイッチをオフ状態で固定することが好ましい。
【0012】
上記構成によれば、実電流値が閾値電流よりも大きく、例えば制御装置と電磁クラッチとの間の配線が地絡等していると推定される場合に、第2スイッチがオフ状態で固定されることで、該第2スイッチ等に過電流が流れることが抑制される。つまり、第2スイッチが電磁コイルへの電力供給を遮断するリレーとしても機能するため、電源線にリレー等の開閉器を別途設けずともよく、制御装置の小型化を図ることができる。
【0013】
上記電磁クラッチの制御装置において、前記電磁クラッチは、前記電磁コイルに加え、前記第1回転部材に設けられた第1噛合部に噛み合い可能な第2噛合部を有し、前記第2回転部材に対して軸方向移動可能かつ相対回転不能に連結された噛み合い部材と、前記電磁コイルへの通電により発生する磁力によって軸方向移動するアーマチャと、前記第2噛合部が前記第1噛合部と噛み合う方向に前記噛み合い部材を付勢する付勢部材と、前記アーマチャの軸方向移動により前記付勢部材の付勢力に抗して前記噛み合い部材を押圧して軸方向移動させる押圧機構とを備え、前記押圧機構は、前記電磁コイルを支持するハウジングに対して軸方向移動不能かつ相対回転不能に設けられた係止部と、軸方向における少なくとも3つの異なる位置で前記係止部に係止される複数段の被係止部が形成された筒状のピストンとを有し、前記アーマチャの軸方向移動に応じて前記係止部が前記複数段の被係止部のうち軸方向の位置が異なる他の段の被係止部を係止するように構成され、前記噛み合い部材は、前記係止部が前記複数段の被係止部のうち前記噛み合い部材から最も遠い位置に形成された被係止部を係止する状態が解除されて前記噛み合い部材に最も近い位置に形成された被係止部を係止する際に、前記付勢部材の付勢力によって前記第2噛合部が前記第1噛合部に噛み合うものであることが好ましい。
【0014】
上記構成によれば、電磁コイルで発生する吸引力の有無によってアーマチャが軸方向に複数回往復動することで、電磁クラッチがトルク伝達可能な接続状態又はトルク伝達不能な遮断状態に切り替わる。そのため、電磁コイルへの電力供給の停止した際に、該電磁コイルに流れる電流が速やかにゼロにならないと、電磁クラッチの応答性が著しく低下することになる。したがって、上記構成の電磁クラッチの作動を制御する場合に、電磁コイルに発生する逆起電力を電源に回生させて速やかに消費する効果は大である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、電磁クラッチの高い応答性を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】第1実施形態の電磁クラッチを備えた車両(4輪駆動車)の概略構成図。
図2】第1実施形態の電磁クラッチの断面図。
図3】第1実施形態のアーマチャの斜視図。
図4】第1実施形態の第2ハウジングに設けられた複数の係止部を示す斜視図。
図5】第1実施形態のピストンの斜視図。
図6】第1実施形態の(a)〜(d)はピストンをアーマチャの押圧突起及び係止部とともに示す押圧機構の斜視図。
図7】第1実施形態の(a)〜(d)は押圧機構の動作を説明するために示すピストン、アーマチャの押圧突起及び係止部の模式図。
図8】第1実施形態の(a)〜(d)は電磁クラッチが遮断状態から接続状態に移行する際の押圧機構の動作を説明するために示すピストン、アーマチャの押圧突起及び係止部の模式図。
図9】第1実施形態の(a)〜(c)は電磁クラッチの動作を説明する断面図。
図10】第1実施形態の電磁クラッチの作動を制御する制御装置のブロック図。
図11】第1実施形態の制御装置による電磁クラッチの制御手順を示すフローチャート。
図12】第2実施形態の電磁クラッチの作動を制御する制御装置のブロック図。
図13】第2実施形態の制御装置による電磁クラッチの制御手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(第1実施形態)
以下、電磁クラッチの制御装置の第1実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、車両1は、前輪駆動車をベースとする四輪駆動車である。車両1の前部(図1において左側)には駆動源としてのエンジン2が搭載されている。エンジン2には、トランスアクスル3が組み付けられている。なお、トランスアクスル3は、トランスミッション、フロントディファレンシャル及びトランスファ等(いずれも図示略)に加え、クラッチ機構4を含んで構成されている。トランスアクスル3には、左右一対のフロントアクスル5R,5Lを介して前輪FR,FLが常時連結されている。また、トランスアクスル3には、クラッチ機構4を介してプロペラシャフト6が連結されている。
【0018】
プロペラシャフト6には、トルクカップリング7を介してピニオンシャフト(ドライブピニオンシャフト)8が連結され。ピニオンシャフト8には、リヤディファレンシャル9が連結されている。そして、リヤディファレンシャル9には、左右一対のリヤアクスル10R,10Lを介して後輪RR,RLが連結されている。なお、本実施形態のリヤディファレンシャル9には、周知のベベルギア式のディファレンシャルが採用されている。さらに、リヤディファレンシャル9と右側のリヤアクスル10Rとの間には、電磁クラッチ11が設けられている。
【0019】
クラッチ機構4は、トランスアクスル3の出力軸(図示略)とプロペラシャフト6との間のトルク伝達を断続可能に構成されている。トルクカップリング7は、その電磁コイル(図示略)への通電量に応じて、プロペラシャフト6側及びピニオンシャフト8側のそれぞれに設けられた各クラッチプレート(図示略)間の摩擦係合力が変化するように構成されている。そして、トルクカップリング7は、各クラッチプレートの摩擦係合力に基づくトルクを入力側のプロペラシャフト6から出力側のピニオンシャフト8へと伝達する。つまり、トルクカップリング7は、ピニオンシャフト8(後輪RR,RL)側へ伝達可能なトルク(トルク伝達容量)を変更可能に構成されている。電磁クラッチ11は、リヤディファレンシャル9のサイドギヤ(図示略)とリヤアクスル10Rとの間のトルク伝達を断続可能に構成されている。
【0020】
これらクラッチ機構4、トルクカップリング7及び電磁クラッチ11には、その作動を制御する制御装置12が接続されている。なお、本実施形態のクラッチ機構4は、図示しない上位ECUを介して制御装置12に接続されている。制御装置12には、アクセル開度センサ13及び車輪速センサ14a〜14dが接続されている。制御装置12は、各車輪速センサ14a〜14dにより検出される各車輪速Vfr,Vfl,Vrr,Vrlに基づいて車速V、及び前輪FR,FLと後輪RR,RLとの間の車輪速差ΔWを算出する。そして、制御装置12は、これら車速V,車輪速差ΔW及びアクセル開度信号S_aに基づいて、クラッチ機構4、トルクカップリング7及び電磁クラッチ11の作動を制御する。
【0021】
具体的には、制御装置12は、車速V,車輪速差ΔW及びアクセル開度信号S_aに基づいてトルクカップリング7のトルク伝達容量の制御目標値(目標トルク)を演算する。制御装置12は、目標トルクがゼロの場合には、車両1を二輪駆動とすべく、クラッチ機構4をトルク伝達不能な遮断状態としてエンジン2からプロペラシャフト6へのトルク伝達を遮断するとともに、電磁クラッチ11を遮断状態としてサイドギヤからリヤアクスル10Rへのトルク伝達を遮断する。また、このとき制御装置12は、トルクカップリング7への電力供給を停止する。
【0022】
一方、制御装置12は、目標トルクがゼロより大きい場合には、車両1を四輪駆動状態とすべく、クラッチ機構4をトルク伝達可能な接続状態としてエンジン2からプロペラシャフト6へのトルク伝達を可能にするとともに、電磁クラッチ11を接続状態としてサイドギヤからリヤアクスル10Rへのトルク伝達を可能にする。そして、このとき制御装置12は、電磁コイルへの電力供給を通じてトルク伝達容量が目標トルクとなるようにトルクカップリング7の作動を制御する。
【0023】
したがって、二輪駆動時には、エンジン2のトルクは、トランスアクスル3、フロントアクスル5R,5Lを介して前輪FR,FLにのみ伝達される。これに対し、四輪駆動時には、エンジン2のトルクは、トランスアクスル3、フロントアクスル5R,5Lを介して前輪FR,FLに伝達されるとともに、プロペラシャフト6、ピニオンシャフト8、リヤディファレンシャル9及びリヤアクスル10R,10Lを介して後輪RR,RLに必要時に伝達される。つまり、本実施形態では、前輪FR,FLが、常時トルクが伝達される主駆動輪として機能し、後輪RR,RLが、必要時にトルクが伝達される補助駆動輪として機能する。
【0024】
次に、電磁クラッチの構成について詳細に説明する。
図2に示すように、電磁クラッチ11は、リヤディファレンシャル9のサイドギヤに一体回転可能に連結された棒状の第1回転部材21と、リヤアクスル10Rに一体回転可能に連結された円筒状の第2回転部材22との間のトルク伝達を断続可能に構成されている。第1回転部材21と第2回転部材22とは、ハウジング23内において、同一の軸線L上で相対回転可能に支持されている。なお、以下の説明では、軸線Lにおけるリヤアクスル10R側(図2中、右側)を第1方向側とし、軸線Lにおけるリヤディファレンシャル9側(図2中、左側)を第2方向側とする。
【0025】
ハウジング23は、それぞれ有底円筒状に形成された第1及び第2ハウジング31,32を備えている。第1ハウジング31の底部33には、軸方向に貫通した貫通孔34が形成されている。第2ハウジング32の底部35には、軸方向に貫通した貫通孔36が形成されるとともに、底部35の外底面から第1方向側に延出された円筒状の延出筒部37が形成されている。そして、ハウジング23は、第1及び第2ハウジング31,32の開口端同士を互いに連結することにより構成されている。
【0026】
第1回転部材21は、第1ハウジング31の貫通孔34に設けられた転がり軸受41を介して該第1ハウジング31に対して回転可能に支持されている。第1回転部材21は、丸棒状の軸部42と、軸部42の第1方向側(第2回転部材22側)の端部から径方向外側に延出された延出部43と、延出部43の径方向外側端部から第1方向側に軸方向に沿って延出された円筒部44とを有している。そして、円筒部44の内周面における開口端部には、第1噛合部としての第1スプライン嵌合部45が形成されている。
【0027】
第2回転部材22は、第1回転部材21の円筒部44の内周に設けられた転がり軸受46、及び第2ハウジング32の延出筒部37の内周に設けられた転がり軸受47を介して第1回転部材21及び第2ハウジング32に対して回転可能に支持されている。第2回転部材22の外周には、転がり軸受46の第1方向側に隣接して、円環状の固定部材48が固定されている。そして、第2回転部材22は、その内周にリヤアクスル10Rの第2方向端部がスプライン嵌合することにより、該リヤアクスル10Rと一体回転可能に連結されている。なお、第2回転部材22とリヤアクスル10Rとは、これらの間に介在されるスナップリング49により軸方向の相対移動が規制されている。
【0028】
電磁クラッチ11は、第2回転部材22に対して軸方向移動可能かつ相対回転不能に連結された噛み合い部材51と、噛み合い部材51を軸方向に付勢する付勢部材52と、噛み合い部材51と協働して第1回転部材21と第2回転部材22との回転を同期させる(一致させる)ためのカム機構53とを備えている。また、電磁クラッチ11は、通電により磁力を発生する電磁コイル54と、電磁コイル54の磁力によって軸方向移動するアーマチャ55と、アーマチャ55の軸方向移動により付勢部材52の付勢力に抗して噛み合い部材51を押圧して軸方向移動させる押圧機構56とを備えている。
【0029】
噛み合い部材51は、円筒状の円筒部61と、円筒部61の第1方向端部から径方向外側に延出された後に第2方向側に延出された有底円筒状の摩擦係合部62とを有している。なお、摩擦係合部62の筒状部分の外周面は、該摩擦係合部62の肉厚(径方向に沿った長さ)が第2方向側に向かうにつれて徐々に薄くなるようなテーパ状に形成されている。噛み合い部材51は、円筒部61が第2回転部材22の外周にスプライン嵌合することにより、第2回転部材22に対して軸方向移動可能かつ相対回転不能に連結されている。円筒部61における第2方向側の端面には、軸方向に延びる収容穴63が形成されている。また、円筒部61における第2方向端部の外周には、上記第1スプライン嵌合部45と噛合可能な第2噛合部としての第2スプライン嵌合部64が形成されている。
【0030】
第2スプライン嵌合部64は、該噛み合い部材51が第1方向側に位置した状態で、第1スプライン嵌合部45と噛み合い、該噛み合い部材51が第2方向側に移動することにより、該第1スプライン嵌合部45との噛み合いが解除されるような軸方向範囲に亘って形成されている。そして、電磁クラッチ11は、第1及び第2スプライン嵌合部45,64が互いに噛合することで第1回転部材21と第2回転部材22との間がトルク伝達可能な接続状態となり、第1及び第2スプライン嵌合部45,64の噛合が解除されることで、第1回転部材21と第2回転部材22との間がトルク伝達不能な遮断状態となる。
【0031】
付勢部材52には、コイルバネ等のバネ部材が用いられている。付勢部材52は、その第1方向端部が噛み合い部材51の収容穴63の底面に連結されるとともに、その第2方向端部が固定部材48の側面に連結されており、固定部材48と噛み合い部材51との間で軸方向に圧縮された状態で配置されている。これにより、付勢部材52は、噛み合い部材51を第1方向側、すなわち第2スプライン嵌合部64が第1スプライン嵌合部45と噛み合う方向に付勢する。
【0032】
カム機構53は、円環状の第1及び第2カム部材71,72と、第1カム部材71と第2カム部材72との間に介在された複数のボール(カムフォロア)73と、第2カム部材72の軸方向移動を規制する円環状のストッパ74とを備えている。
【0033】
第1カム部材71は、第1回転部材21の円筒部44の外周に相対回転可能に嵌合されている。また、第1カム部材71には、その径方向外側端部から第1方向側に延出された円筒状の摩擦係合部75が形成されている。摩擦係合部75の内周面は、該摩擦係合部75の肉厚が第1方向側に向かうにつれて徐々に薄くなるようなテーパ状に形成されている。これにより、第1カム部材71の摩擦係合部75には、噛み合い部材51が第2方向側に移動するにつれて、該噛み合い部材51の摩擦係合部62が強く摩擦係合する。第2カム部材72は、円筒部44の外周にスプライン嵌合することにより、第1回転部材21に対して軸方向移動可能かつ相対回転可能に連結されている。ストッパ74は、円筒部44の外周における第2方向端部に固定されている。
【0034】
第1及び第2カム部材71,72の各対向面には、周方向に対して傾斜する複数のカム溝76,77が等角度間隔で形成されている。なお、本実施形態のカム溝76,77は断面U字状に形成され、周方向中央から周方向両端側に向かうにつれてその深さが浅くなるように形成されている。そして、ボール73は、対向する各カム溝76,77内に配置された状態で第1カム部材71と第2カム部材72とによって挟持されている。
【0035】
このように構成されたカム機構53において、摩擦係合部62,75が摩擦係合していない状態では、ボール73がカム溝76,77の周方向中央に位置し、第1及び第2カム部材71,72に軸方向の押圧力が発生しない。これに対し、噛み合い部材51が第2方向側に移動することにより摩擦係合部62,75が摩擦係合し、第1カム部材71と第2カム部材72とが相対回転すると、ボール73がカム溝76,77内で周方向に移動し、第2カム部材72が第1カム部材71から離間してストッパ74に押し付けられる。これにより、第1及び第2カム部材71,72間に軸方向の押圧力が発生することで、該第1カム部材71の第1回転部材21に対する相対回転が規制される。その結果、第1カム部材71から噛み合い部材51にトルクが伝達されることで、第1回転部材21の回転数と第2回転部材22の回転数とが近づく。つまり、第1回転部材21と第2回転部材22との回転の同期が図られる。
【0036】
電磁コイル54は、樹脂製のボビン81に制御装置12から供給される電流が流れる巻線82を巻回することにより構成されている。電磁コイル54は、鉄等の強磁性体からなる環状のヨーク83に保持されている。ヨーク83は、第2ハウジング32の内周に支持されている。ヨーク83には、第1方向側に開口する嵌合穴84が周方向に間隔を空けて形成されている。また、第2ハウジング32には、第2方向側に開口する複数の嵌合穴85が上記嵌合穴84と軸方向において対向する位置に形成されている。そして、嵌合穴84,85には、軸線Lと平行に配置される円柱状のピン86の端部がそれぞれ嵌合されている。
【0037】
図2及び図3に示すように、アーマチャ55は、円板状に形成されている。アーマチャ55の中央には、第2回転部材22が挿通される貫通孔91が形成されている。また、アーマチャ55には、上記ピン86が挿通される挿通孔92が周方向に間隔を空けて形成されている。貫通孔91の内周面には、径方向内側に突出する複数(本実施形態では、6つ)の押圧突起93が形成されている。押圧突起93は、後述するピストン102の被係止部における軸方向端面に対向する対向面93aが、アーマチャ55の厚さ方向(軸線Lに平行な方向)に対して傾斜した傾斜面として形成されている。
【0038】
アーマチャ55は、ヨーク83との間に配置された皿バネ94によって、該ヨーク83から離間する方向に付勢されている。アーマチャ55は、電磁コイル54に通電されていない状態では、皿バネ94の付勢力によって第2ハウジング32の底部35に当接する。一方、アーマチャ55は、電磁コイル54に通電されている状態では、該電磁コイル54で発生する磁力により、皿バネ94の付勢力に抗してヨーク83に当接する。また、アーマチャ55は、挿通孔92に挿通されたピン86によって第2ハウジング32及びヨーク83に対する相対回転が規制されている。したがって、アーマチャ55は、第2ハウジング32の底部35に当接した第1位置とヨーク83に当接した第2位置との間をピン86に案内されて移動することになる。また、第2ハウジング32には、アーマチャ55の位置を検出するストロークセンサ95が設けられており、該ストロークセンサ95は上記制御装置12に接続されている。
【0039】
押圧機構56は、第2ハウジング32(ハウジング23)に対して軸方向移動不能かつ相対回転不能に設けられた複数の係止部101と、軸方向の異なる位置で係止部101に係止される複数段の被係止部が形成された円筒状のピストン102とを有している。そして、押圧機構56は、アーマチャ55の軸方向移動に応じて係止部101が複数段の被係止部のうち軸方向の位置が異なる他の段の被係止部を係止するように構成されている。
【0040】
図2及び図4に示すように、複数の係止部101は、第2ハウジング32の貫通孔36の内周面から径方向内側に突出した後に第2方向側に軸線Lに沿って突出したL字状に形成されるとともに、周方向に等角度間隔を空けて形成されている。係止部101の先端面101aは、後述するピストン102の被係止部の軸方向端面と対向する。そして、先端面101aは、アーマチャ55の押圧突起93における対向面93aと同様に、軸線Lに平行な方向に対して傾斜した傾斜面として形成されている。
【0041】
図2及び図5に示すように、ピストン102は、円筒状に形成されており、第2回転部材22の外周における噛み合い部材51の第1方向側に嵌合されている。ピストン102は、第2回転部材22に隙間嵌めされており、該第2回転部材22に対して軸方向移動可能かつ相対回転可能となっている。ピストン102と噛み合い部材51との間には、針状スラストころ軸受等からなる転がり軸受103が配置されている。これにより、ピストン102は、上記付勢部材52により噛み合い部材51及び転がり軸受103を介して第1方向側、すなわち係止部101側に付勢されている。なお、ピストン102における転がり軸受103に当接する第2方向側の基端面102aは、平面状に形成されている。そして、ピストン102は、アーマチャ55が電磁コイル54に吸引されて軸方向移動することにより噛み合い部材51を第2方向側、すなわち第1回転部材21の第1スプライン嵌合部45と噛み合い部材51の第2スプライン嵌合部64との噛み合いが解除される方向に押圧する。
【0042】
ピストン102の第1方向端部には軸方向の異なる位置で係止部101に係止される複数段の被係止部が周方向に隣り合って形成されている。本実施形態では、複数段の被係止部は、それぞれ第1〜第4の被係止部104〜107の4段構成とされており、周方向に沿って6組形成されている。
【0043】
第1〜第4の被係止部104〜107は、ピストン102を第1方向側から見た場合に、第1の被係止部104の右側に隣接して第2の被係止部105が形成され、第2の被係止部105の右側に隣接して第3の被係止部106が形成され、第3の被係止部106の右側に隣接して第4の被係止部107が形成されている。第4の被係止部107における第3の被係止部106と反対側の周方向端部には、軸方向に突出する壁部108が形成されている。
【0044】
第1〜第4の被係止部104〜107は、ピストン102における軸方向の位置が互いに異なり、第2の被係止部105は第1の被係止部104よりも基端面102aから離間し、第3の被係止部106は第2の被係止部105よりも基端面102aから離間し、第4の被係止部107は第3の被係止部106よりも基端面102aからさらに離間して形成されている。
【0045】
第1〜第4の被係止部104〜107のそれぞれの軸方向端面104a〜107aは、ピストン102の周方向に対して傾斜している。具体的には、第1の被係止部104の軸方向端面104aは、第2の被係止部105側の周方向端部に近接するほど基端面102aに近づくように傾斜している。同様に、第2の被係止部105の軸方向端面105aは第3の被係止部106側の周方向端部に近接するほど基端面102aに近づくように傾斜し、第3の被係止部106の軸方向端面106aは第4の被係止部107側の周方向端部に近接するほど基端面102aに近づくように傾斜し、第4の被係止部107の軸方向端面107aは、壁部108側の周方向端部に近接するほど基端面102aに近づくように傾斜している。壁部108の軸方向端面108aは、第1〜第4の被係止部104〜107の軸方向端面104a〜107aと同方向に傾斜している。また、壁部108の周方向側面108bは第4の被係止部107に面している。
【0046】
第1〜第4の被係止部104〜107の軸方向端面104a〜107aには、アーマチャ55の押圧突起93における対向面93a及び係止部101の先端面101aが当接する。具体的には、軸方向端面104a〜107aにおける径方向外側部分にアーマチャ55の押圧突起93の対向面93aが当接し、軸方向端面104a〜107aにおける径方向内側部分に係止部101の先端面101aが当接する。
【0047】
そして、係止部101が第1の被係止部104を係止するとき、係止部101の先端面101aとピストン102の基端面102aとの間隔が最も短くなる。これにより、噛み合い部材51が付勢部材52の付勢力により第1方向側に移動し、第1回転部材21の第1スプライン嵌合部45と噛み合い部材51の第2スプライン嵌合部64が噛み合う接続状態となる。一方、係止部101が第4の被係止部107を係止するとき、ピストン102の基端面102aと係止部101の先端面101aとの間隔が最も長くなる。これにより、噛み合い部材51がピストン102に押圧されて第2方向側に移動し、第1スプライン嵌合部45と第2スプライン嵌合部64との噛み合いが解除される遮断状態となる。なお、係止部101が第2の被係止部105又は第3の被係止部106を係止するとき、アーマチャ55がヨーク83に当接する第2位置にあれば、第1スプライン嵌合部45と第2スプライン嵌合部64との噛み合いが解除される遮断状態となる。
【0048】
次に、押圧機構の動作について説明する。
図6(a)〜(d)は、第2ハウジング32における複数の係止部101近傍以外の図示を省略してアーマチャ55及びピストン102を示す斜視図である。また、図7(a)〜(d)は、ピストン102をアーマチャ55の押圧突起93及び係止部101とともに径方向外側から見た状態を示す模式図である。
【0049】
図6(a)及び図7(a)は、係止部101が第1の被係止部104を係止し、アーマチャ55が第1位置にある第1状態を示している。この第1状態では、付勢部材52の付勢力により第1の被係止部104の軸方向端面104aが係止部101の先端面101aに押し付けられるとともに、アーマチャ55の押圧突起93における対向面93aに対向する。また、係止部101は、第1の被係止部104の周方向側面104bに当接し、アーマチャ55の押圧突起93は周方向側面104bからピストン102の周方向に離間した位置で軸方向端面104aに対向する。周方向側面104bは、第1の被係止部104と第2の被係止部105との間に形成された段差面であり、軸線Lと平行な平坦面である。なお、第1の被係止部104において、軸方向端面104aと周方向側面104bとのなす角は鋭角となっている。
【0050】
図6(b)及び図7(b)は、電磁コイル54に電力供給が行われ、図6(a)及び図7(a)に示す第1状態からアーマチャ55が第2位置に移動した第2状態を示している。アーマチャ55は、第1状態から第2状態に移行する過程で押圧突起93の対向面93aが軸方向端面104aに当接し、押圧突起93がピストン102を第2方向側(噛み合い部材51側)に押圧する。また、この第2状態では、係止部101が第1の被係止部104の周方向側面104bに当接した状態が解除され、ピストン102は、第1の被係止部104の軸方向端面104aとアーマチャ55の押圧突起93の対向面93aとの摺動により、第1の所定角度だけ矢印A方向に回転する。そして、ピストン102の回転により、第1の被係止部104の周方向側面104bがアーマチャ55の押圧突起93の周方向側面93bに当接する。
【0051】
つまり、アーマチャ55は、第1位置から第2位置に移動することにより、ピストン102を第2方向側(噛み合い部材51側)に移動させるとともに、ピストン102を第1所定角度だけ回転させる。なお、第1所定角度は、図7(a)に示すアーマチャ55の押圧突起93と第1の被係止部104の周方向側面104bとの間の隙間の距離d1に対応した角度である。
【0052】
アーマチャ55が第2位置にあるとき、係止部101の先端面101aは、第2の被係止部105との間に隙間を空けて軸方向端面105aに対向する。つまり、アーマチャ55が第2位置に移動したとき、ピストン102が第1所定角度回転して押圧突起93が周方向側面104bに当接し、係止部101の先端面101aが隣り合う第2の被係止部105の軸方向端面105aに対向する。
【0053】
図6(c)及び図7(c)は、電磁コイル54への電力供給が停止され、アーマチャ55が第2位置から第1位置に戻る途中の第3状態を示している。この第3状態では、係止部101の先端面101aが第2の被係止部105の軸方向端面105aに当接する。係止部101の先端面101aと第2の被係止部105の軸方向端面105aとの当接により、ピストン102には、矢印A方向の回転力が作用するが、矢印A方向への回転は、アーマチャ55の押圧突起93の周方向側面93bと第1の被係止部104の周方向側面104bとの当接により規制される。
【0054】
図6(d)及び図7(d)は、アーマチャ55が第1位置に戻り、ピストン102が係止部101の周方向側面101bに第2の被係止部105の周方向側面105bが当接するまで矢印A方向に回転した第4状態を示している。この第4状態では、付勢部材52の付勢力を受けたピストン102の第2の被係止部105の軸方向端面105aと係止部101の先端面101aとの摺動により、ピストン102が係止部101に対して第2所定角度回転する。これにより、係止部101が第2の被係止部105を係止する。なお、この第2所定角度は、図7(c)に示す第3状態における第2の被係止部105の周方向側面105bと係止部101との間の距離d2に対応した角度である。つまり、アーマチャ55の第2位置から第1位置への移動によってピストン102が第2所定角度さらに回転し、係止部101が第1の被係止部104に隣り合う第2の被係止部105を係止する。
【0055】
このように押圧機構56は、アーマチャ55が第1位置と第2位置との間を往復動することにより、付勢部材52の付勢力に抗して噛み合い部材51を軸方向移動させる。本実施形態では、ピストン102が4段の階段状に形成された第1〜第4の被係止部104〜107を有するため、電磁コイル54への電力供給及びその停止が3回行われ、アーマチャ55が第1位置と第2位置との間を3往復することにより、係止部101が第1の被係止部104を係止する位置から第4の被係止部107を係止する位置までピストン102が回転する。なお、図7(a)に示すように、ピストン102の基端面102aから第1の被係止部104の軸方向端面104aまでの距離をd3とし、基端面102aから第4の被係止部107の軸方向端面107aまでの距離をd4とすると、距離d4は距離d3よりも長く、ピストン102は、距離d4と距離d3との差に応じた範囲で軸方向に進退移動する。
【0056】
図8(a)〜(d)は、係止部101が第4の被係止部107を係止する状態から第1の被係止部104を係止する状態に移行し、電磁クラッチ11が遮断状態から接続状態に移行する際の動作を説明する模式図である。
【0057】
図8(a)は、係止部101が第4の被係止部107を係止し、アーマチャ55が第1位置にある状態を示している。この状態では、係止部101が第4の被係止部107の軸方向端面107a及び壁部108の周方向側面108bに当接する。
【0058】
図8(b)は、アーマチャ55が第2位置に移動した状態を示している。アーマチャ55は、第1状態から第2状態に移行する過程で、押圧突起93がピストン102を噛み合い部材51側に押圧し、係止部101が壁部108の周方向側面108bに当接した状態が解除されることにより、ピストン102が矢印A方向に第1所定角度だけ回転する。
【0059】
図8(c)は、アーマチャ55が第2位置から第1位置に戻る途中の状態を示している。この状態では、係止部101の先端面101aが壁部108の軸方向端面108aに当接し、ピストン102には、矢印A方向の回転力が作用する。
【0060】
図8(d)は、アーマチャ55が第1位置に戻り、係止部101が第1の被係止部104を係止するまで矢印A方向に回転した状態を示している。図8(c)に示す状態から図8(d)に示す状態まで移行する過程で、ピストン102は距離d3と距離d4との差に応じた範囲の全体に亘って軸方向に大きく変位し、噛み合い部材51の第2スプライン嵌合部64が第1回転部材21の第1スプライン嵌合部45に噛み合う。
【0061】
このように、アーマチャ55の軸方向移動に応じてピストン102が第1方向側(噛み合い部材51と反対側)に移動するとき、付勢部材52の付勢力によって第2スプライン嵌合部64が第1スプライン嵌合部45に噛み合う。より具体的には、噛み合い部材51は、係止部101が第1〜第4の被係止部104〜107のうち噛み合い部材51から最も遠い位置に形成された第4の被係止部107を係止する状態が解除されて噛み合い部材51に最も近い位置に形成された第1の被係止部104を係止するとき、付勢部材52の付勢力によって第2スプライン嵌合部64が第1スプライン嵌合部45に噛み合い、第1回転部材21と第2回転部材22とがトルク伝達可能に連結された接続状態となる。
【0062】
つまり、電磁クラッチ11が接続状態から遮断状態に移行する際には、アーマチャ55が第1位置と第2位置との間を3往復する必要があるが、遮断状態から接続状態に移行する際には、アーマチャ55が第1位置と第2位置との間を1往復すれば足りる。
【0063】
次に、押圧機構の動作による電磁クラッチの状態遷移について説明する。
図9(a)に示すように、係止部101が第1の被係止部104を係止する状態では、第1及び第2スプライン嵌合部45,64が噛み合うことで、電磁クラッチ11は接続状態となる。このように接続状態にある電磁クラッチ11を遮断状態に切り替える場合には、電磁コイル54への通電を制御することで、アーマチャ55を第1位置と第2位置との間で複数回(3回)往復動させ、係止部101が第4の被係止部107を係止する状態とする。これにより、噛み合い部材51が付勢部材52の付勢力に抗して第2方向側に軸方向移動し、第1及び第2スプライン嵌合部45,64の噛み合いが解除され、電磁クラッチ11が遮断状態となる。そして、係止部101が第4の被係止部107を係止する状態では、図9(b)に示すように、電磁コイル54への電力供給を停止することによりアーマチャ55が第1位置に移動しても、第1及び第2スプライン嵌合部45,64が噛み合わず、かつ摩擦係合部62,75が摩擦係合しない状態となり、遮断状態が維持される。
【0064】
一方、遮断状態にある電磁クラッチ11を接続状態に切り替える場合には、図9(c)に示すように、電磁コイル54に電力供給を行うことで、アーマチャ55を第2位置に移動させ、噛み合い部材51を第2方向側に移動させて摩擦係合部62,75を摩擦係合させる。そして、第1及び第2回転部材21,22の同期が図られた後に、電磁コイル54への電力供給を停止し、アーマチャ55を第2位置に移動させて係止部101が第1の被係止部104を係止する状態とすることで、第1及び第2スプライン嵌合部45,64が互いに噛み合って接続状態となる(図9(a)参照)。
【0065】
次に、制御装置の電気的構成について説明する。なお、便宜上、電磁クラッチの制御に関する構成以外についてはその説明を省略する。
図10に示すように、制御装置12は、車載電源(バッテリ)Bから上記電磁クラッチ11の電磁コイル54に供給する電力を制御するための第1及び第2スイッチ201,202と、第1及び第2スイッチ201,202のオンオフ状態を制御するための制御信号S1,S2を出力する制御回路としてのマイコン203とを備えている。本実施形態の第1及び第2スイッチ201,202には、例えばMOSFETやIGBT等、ゲート電圧の印加によりオンオフ状態が切り替わる半導体スイッチング素子が用いられている。そして、マイコン203の出力する制御信号S1,S2は、第1及び第2スイッチ201,202のゲート端子に印加する電圧信号となっている。
【0066】
第1スイッチ201は、そのドレイン端子が電磁コイル54の一端側に接続され、そのソース端子がグランドに接地されている。第1スイッチ201の近傍には、該第1スイッチ201の温度(検出温度T)を検出する温度センサ204が設けられている。
【0067】
第2スイッチ202は、そのドレイン端子が電源線Lpを介して車載電源Bに接続され、そのソース端子が電磁コイル54の他端側に接続されている。電源線Lpには、電磁コイル54(電源線Lp)を流れる実電流値Iを検出するための電流センサ205が設けられている。また、電源線Lpには、当該電源線Lpに通電される電流の平滑を目的としたコンデンサ206及びコイル207が接続されるとともに、コイル207よりも車載電源B側には、機械式リレーやFET等からなる駆動リレー208が設けられている。これにより、電源線Lpは、駆動リレー208がオン状態となることで導通し、駆動リレー208がオフ状態となることで通電不能に遮断される。そして、電磁コイル54には、電源線Lpが導通することにより、車載電源Bの電圧に基づく電力が供給可能となる。
【0068】
また、制御装置12は、電磁コイル54の一端から電源線Lpにおける電流センサ205よりも車載電源B側への通電を許容する第1ダイオード211と、基準電位点としてのグランドから電磁コイル54の他端への通電を許容する第2ダイオード212とを備えている。具体的には、第1ダイオード211は、そのアノード端子が電磁コイル54の一端に接続され、そのカソード端子が電源線Lpにおける電流センサ205とコイル207との間に接続されている。第2ダイオード212は、そのアノード端子がグランドに接地され、そのカソード端子が電磁コイル54の他端に接続されている。
【0069】
マイコン203には、車両のイグニッションスイッチ(IG)のオンオフ状態を示すIG信号S_igが入力される。そして、マイコン203は、IGがオン状態である旨のIG信号S_igが入力された場合には、駆動リレー208がオン状態となるようなリレー制御信号S_rlを出力し、IGがオフ状態である旨のIG信号S_igが入力された場合には、駆動リレー208がオフ状態となるようなリレー制御信号S_rlを出力する。また、マイコン203は、実電流値Iが閾値電流Ithよりも大きい場合には、駆動リレー208がオフ状態となるようなリレー制御信号S_rlを出力する。なお、閾値電流Ithは、例えば制御装置12と電磁クラッチ11との間の配線(ハーネス)が地絡等したことを示す電流値であり、予め実験等により求められている。
【0070】
また、マイコン203には、上記電磁クラッチ11のアーマチャ55の位置を検出するストロークセンサ95が接続されており、マイコン203は、ストロークセンサ95から出力される位置信号S_poに基づいてアーマチャ55の位置を検出している。なお、本実施形態のマイコン203には、ピストン102の初期位置が予め記憶されており、マイコン203は、ピストン102の初期位置とアーマチャ55が第1位置と第2位置との間を往復動した回数とに基づいて電磁クラッチ11が接続状態であるか遮断状態であるかを判定する。
【0071】
さらに、マイコン203には、温度センサ204及び電流センサ205に加え、上記アクセル開度センサ13及び各車輪速センサ14a〜14dが接続されている。これにより、マイコン203には、第1スイッチ201の検出温度T、電磁コイル54を流れる実電流値I、アクセル開度信号S_a、及び各車輪速Vfr,Vfl,Vrr,Vrlが入力される。そして、マイコン203は、入力される各状態量に基づいて車両1を二輪駆動とする場合には電磁クラッチ11が遮断状態となるように、また、車両1を四輪駆動とする場合には電磁クラッチ11が接続状態となるように、制御信号S1,S2を第1及び第2スイッチ201,202に出力し、電磁コイル54への供給電力を制御する。
【0072】
詳しくは、マイコン203は、位置信号S_poに基づいて電磁コイル54への電力供給及びその停止を繰り返すことにより、押圧機構56を作動させて電磁クラッチ11を接続状態又は遮断状態とする。より具体的には、マイコン203は、アーマチャ55が第2ハウジング32の底部35に当接した第1位置からヨーク83に当接した第2位置に移動するまで電磁コイル54に電力を供給し、アーマチャ55が第2位置に到達したら電磁コイル54への電力供給を停止し、アーマチャ55が第1に到達したら再び電磁コイル54に電力を供給する動作を繰り返すことにより押圧機構56を作動させる。そして、マイコン203は、押圧機構56を作動させることにより、電磁クラッチ11を接続状態にする場合には係止部101が第1の被係止部104を係止した状態で電力供給を停止したままとし、電磁クラッチ11を遮断状態にする場合には係止部101が第4の被係止部107を係止した状態で電力供給を停止したままとする。
【0073】
ここで、本実施形態のマイコン203は、電磁コイル54への電力供給時において、検出温度Tが予め設定された閾値温度Tth以下の場合には、パルス幅変調制御(PWM制御)された制御信号S1を第1スイッチ201に印加するとともに、Hiレベルで固定(保持)された制御信号S2を第2スイッチ202に印加することにより、電磁コイル54に電力供給を行う。つまり、検出温度Tが閾値温度Tth以下の場合には、第1スイッチ201をPWM駆動するとともに、第2スイッチ202をオン状態で固定することにより、電磁コイル54に電力供給を行う。
【0074】
一方、マイコン203は、電磁コイル54への電力供給時において、検出温度Tが閾値温度Tthよりも大きい場合には、Hiレベルで固定された制御信号S1を第1スイッチ201に印加するとともに、PWM制御された制御信号S2を第2スイッチ202に印加することにより、電磁コイル54に電力供給を行う。つまり、検出温度Tが閾値温度Tthよりも大きい場合には、第1スイッチ201をオン状態で固定するとともに、第2スイッチ202をPWM駆動することにより、電磁コイル54に電力供給を行う。なお、制御信号S1,S2のデューティ比は、実電流値Iが目標電流値に追従するように、電流フィードバック制御を実行することにより演算される。
【0075】
そして、マイコン203は、電磁コイル54への電力供給の停止時には、制御信号S1,S2をそれぞれLoレベルに固定し(制御信号S1,S2の出力を停止し)、第1及び第2スイッチ201,202の双方をオフ状態とすることにより、前記電磁コイルへの電力供給を停止する。
【0076】
次に、マイコンによる電磁クラッチの制御手順を説明する。
図11のフローチャートに示すように、マイコン203は、IGがオン状態である旨のIG信号S_igが入力されると、駆動リレーをオン状態する等のイニシャル処理を行う(ステップS100)。続いて、各状態量を取得し(ステップS101)、これら各状態量に基づいて電磁コイル54に電力を供給するか停止するかを判定する(ステップS102)。
【0077】
マイコン203は、電磁コイル54へ電力供給を行う場合には(ステップS102:YES)、第1スイッチ201の検出温度Tが閾値温度Tthよりも高いか否かを判定する(ステップS103)。そして、検出温度Tが閾値温度Tth以下の場合には(ステップS103:NO)、第1スイッチ201をPWM駆動するとともに第2スイッチ202をオン状態に固定することで電磁コイル54に電力供給を行い(ステップS104)、後述するステップS107に移行する。これに対し、検出温度Tが閾値温度Tthよりも高い場合には(ステップS103:YES)、第1スイッチ201をオン状態に固定するとともに第2スイッチ202をPWM駆動することで電磁コイル54に電力供給を行い(ステップS105)、後述するステップS107に移行する。
【0078】
一方、マイコン203は、ステップS101で取得した各状態量に基づいて電磁コイル54への電力供給を停止する場合には(ステップS102:NO)、第1及び第2スイッチ201,202の双方をオフ状態とし(ステップS106)、ステップS101に移行する。
【0079】
ステップS107において、マイコン203は、実電流値Iが閾値電流Ithよりも大きいか否かを判定し、実電流値Iが閾値電流Ith以下の場合には(ステップS107:NO)、電力供給を継続し、ステップS101に移行する。一方、実電流値Iが閾値電流Ithよりも大きい場合には(ステップS107:YES)、駆動リレー208がオフ状態となるようなリレー制御信号S_rlを出力し(ステップS108)、IGがオフされて再びオンされるまで電磁クラッチ11を停止させる。
【0080】
次に、本実施形態の作用について説明する。
電磁コイル54への電力供給時において、第1スイッチ201がPWM駆動されるとともに、第2スイッチ202がオン状態で固定される場合、第1スイッチ201は、非常に短い時間でオンオフが繰り返し切り替えられるため、スイッチング損失が大きくなって過熱し易い。一方、第2スイッチ202は、主な発熱要因が該第2スイッチ202のオン抵抗に応じた飽和損失になるため、PWM駆動時に比べて発熱量が小さくなり、周囲温度に応じた所定温度以上には温度が上昇し難い。同様に、電磁コイル54への電力供給時において、第1スイッチ201がオン状態で固定されるとともに、第2スイッチ202がPWM駆動される場合、第1スイッチ201は所定温度以上には上昇し難く、第2スイッチ202は過熱し易い。この点、本実施形態では、第1スイッチ201の検出温度Tが閾値温度Tthよりも大きくなると、第2スイッチ202が代わりにPWM駆動され、第1スイッチ201はオン状態に固定されるため、第1スイッチ201が自然放熱等により冷却され、過熱することが抑制される。
【0081】
また、電磁コイル54への電力供給を停止した瞬間には、電磁誘導により電磁コイル54に逆起電力が発生する。このとき、本実施形態では、第1及び第2スイッチ201,202がオフ状態とされているため、電磁コイル54に発生した逆起電力は、第2ダイオード212から電磁コイル54、第1ダイオード211、コイル207及び駆動リレー208を介して車載電源Bに電流が流れ込むことにより消費される。つまり、電磁コイル54の逆起電力は、車載電源Bに回生されることにより消費されるため、例えば抵抗等の負荷を用いて熱に変換して消費する場合に比べ、速やかに電磁コイル54に流れる電流がゼロとなる。
【0082】
さらに、実電流値Iが閾値電流Ithよりも大きく、地絡が発生していると推定される場合に、駆動リレー208がオフ状態とされるため、第2スイッチ202等に過電流が流れることが抑制される。
【0083】
次に、本実施形態の効果について記載する。
(1)電磁コイル54への電力供給を停止した瞬間に発生する逆起電力を、車載電源Bに回生させることにより消費するようにしたため、速やかに電磁コイル54に流れる電流をゼロとして、電磁クラッチ11の応答性を向上させることが可能になる。また、抵抗を用いて熱に変換して消費する場合に比べ、制御装置12の発熱を抑えることができる。
【0084】
(2)電磁クラッチ11を、電磁コイル54で発生する吸引力の有無によってアーマチャ55が軸方向に複数回往復動することで、接続状態又は遮断状態に切り替わるように構成したため、電磁コイル54に発生する逆起電力を車載電源Bに回生させて速やかに消費する効果は大である。
【0085】
(3)第1スイッチ201の検出温度Tが閾値温度Tthよりも大きくなった場合に、第2スイッチ202を交替でPWM駆動するようにしたため、第1スイッチ201が過熱することを抑制できる。
【0086】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態を図面に従って説明する。なお、説明の便宜上、同一の構成については上記第1実施形態と同一の符号を付してその説明を省略する。
【0087】
図12に示すように、制御装置12は、駆動リレー208を備えておらず、コイル207は、車載電源Bとの間にリレー等の開閉器を介在させずに該車載電源Bの高電位側端子に接続されている。そして、マイコン203は、実電流値Iが閾値電流Ithよりも大きい場合には、制御信号S1,S2をそれぞれLoレベルに固定し(制御信号S1,S2の出力を停止し)、第1及び第2スイッチ201,202をオフ状態で固定する。
【0088】
次に、電磁コイルに電力供給を行う後のマイコンの制御手順について説明する。
図13のフローチャートに示すように、マイコン203は、実電流値Iが閾値電流Ith以下の場合には(ステップS107:NO)、上記第1実施形態と同様に電力供給を継続し、ステップS101に移行する。一方、実電流値Iが閾値電流Ithよりも大きい場合には(ステップS107:YES)、第1及び第2スイッチ201,202の双方をオフ状態で固定し(ステップS201)、IGがオフされて再びオンされるまで電磁クラッチ11を停止させる。
【0089】
このように構成された制御装置12では、実電流値Iが閾値電流Ithよりも大きく、地絡が発生していると推定される場合に、第1及び第2スイッチ201,202がオフ状態で固定されるため、第2スイッチ202等に過電流が流れることが抑制される。
【0090】
次に、本実施形態の効果について記載する。なお、本実施形態では、上記第1実施形態の(1)〜(3)の効果に加えて以下の効果を有する。
(4)マイコン203は、実電流値Iが閾値電流Ithよりも大きい場合に、第1及び第2スイッチ201,202がオフ状態で固定されることで、該第2スイッチ202等に過電流が流れることが抑制される。つまり、第2スイッチ202が電磁コイル54への電力供給を遮断するリレーとしても機能するため、駆動リレー208を廃止でき、制御装置12の小型化を図ることができる。
【0091】
なお、上記各実施形態は、これを適宜変更した以下の態様にて実施することもできる。
・上記第2実施形態では、実電流値Iが閾値電流Ithよりも大きい場合には、第1及び第2スイッチ201,202の双方をオフ状態で固定したが、第2スイッチ202のみをオフ状態で固定してもよい。
【0092】
・上記各実施形態では、電磁コイル54に電力供給を行う場合には、第1及び第2スイッチ201,202のいずれをPWM駆動するかによらず、実電流値Iと閾値電流Ithとの大小比較を行って過電流を抑制するようにした。しかし、これに限らず、例えば第1スイッチ201をPWM駆動するとともに第2スイッチ202をオン状態に固定することで電磁コイル54に電力供給を行う場合にのみ、実電流値Iと閾値電流Ithとの大小比較を行うようにしてもよい。
【0093】
・上記各実施形態では、実電流値Iが閾値電流Ithよりも大きい場合には、IGがオフされてから再びオンされるまで電磁クラッチ11を停止させるようにした。しかし、これに限らず、例えば制御装置12と電磁クラッチ11との間の配線が地絡した状態が継続しているか否かを検出し、該配線が地絡しない状態になったら、電磁クラッチ11を再度駆動するようにしてもよい。
【0094】
・上記各実施形態において、マイコン203が実電流値Iと閾値電流Ithとの大小比較を行わない構成としてもよい。
・上記各実施形態では、第1及び第2回転部材21,22に第1及び第2噛合部として第1及び第2スプライン嵌合部45,64を形成したが、これに限らず、第1及び第2噛合部として、例えば径方向に突出する歯が周方向に並んで配置されたクラウンギヤ状の歯部をそれぞれ第1及び第2回転部材21,22に形成してもよい。
【0095】
・上記各実施形態では、第2ハウジング32に係止部101を一体形成したが、これに限らず、係止部101を第2ハウジング32とは別部材としてもよい。
・上記各実施形態において、アーマチャ55が第2位置にある状態(電磁コイル54に通電されている状態)でヨーク83に当接せず、該ヨーク83との間に隙間が存在するようにしてもよい。
【0096】
・上記各実施形態では、カム機構53を構成する第1カム部材71に摩擦係合部75を設けたが、これに限らず、電磁クラッチ11にカム機構53を設けず、例えば第1カム部材と同形状の係合部材を第1回転部材21に固定してもよい。
【0097】
・上記各実施形態において、第1スイッチ201の温度を検出せず、第2スイッチ202の温度を検出する温度センサを設け、該温度センサにより検出される検出温度と閾値温度Tthとの大小比較に基づいて、PWM駆動するスイッチとオン状態に固定するスイッチとを交替させてもよい。
【0098】
また、温度センサ204を設けなくてもよい。この場合、電磁コイル54への電力供給時には、第1及び第2スイッチ201,202のいずれか一方を常にPWM駆動し、他方を常にオン状態に固定することになる。
【0099】
・上記各実施形態では、押圧機構56を作動させる際に、ストロークセンサ95によって検出されるアーマチャ55の位置に基づいて電磁コイル54への電力供給及びその停止を切り替えるようにした。しかし、これに限らず、例えば電磁コイル54に電力供給を開始してから第1所定時間経過後に、アーマチャ55が第1位置から第2位置に到達したと推定し、電磁コイル54への電力供給を停止してから第2所定時間経過後にアーマチャ55が第2位置から第1位置に到達したと推定することで、電磁コイル54への電力供給及びその停止を切り替えてもよい。
【0100】
・上記各実施形態では、マイコン203は、ストロークセンサ95によってアーマチャ55の位置を検出し、ピストン102の初期位置とアーマチャ55が第1位置と第2位置との間を往復動した回数とに基づいてピストン102の位置を推定し、電磁クラッチ11が接続状態であるか遮断状態であるかを判定するようにした。しかし、これに限らず、例えばピストン102の位置を検出するストロークセンサを設け、該ストロークセンサから出力される位置信号に基づいてピストン102の位置を検出し、電磁クラッチ11が接続状態であるか遮断状態であるかを判定してもよい。
【0101】
・上記各実施形態では、第2ダイオード212のアノード端子を基準電位点としてのグランドに接地したが、これに限らず、例えば車載電源Bの低電位側端子を基準電位点とし、アノード端子を該低電位側端子に接続してもよい。
【0102】
・上記各実施形態では、第1及び第2スイッチ201,202を半導体スイッチング素子により構成したが、これに限らず、機械式のスイッチ等を用いてもよい。
・上記各実施形態において、制御装置12は、電磁クラッチ11の電磁コイル54と同様の制御態様で、例えばトルクカップリング7等の他のクラッチの電磁コイル54に電力供給及びその停止を行うようにしてもよい。
【符号の説明】
【0103】
1…車両、11…電磁クラッチ、12…制御装置、21…第1回転部材、22…第2回転部材、23…ハウジング、45…第1スプライン嵌合部(第1噛合部)、51…噛み合い部材、52…付勢部材、53…カム機構、54…電磁コイル、55…アーマチャ、56…押圧機構、64…スプライン嵌合部(第2噛合部)、83…ヨーク、101…係止部、102…ピストン、104…第1の被係止部、105…第2の被係止部、106…第3の被係止部、107…第4の被係止部、108…壁部、201…第1スイッチ、202…第2スイッチ、204…温度センサ、205…電流センサ、211…第1ダイオード、212…第2ダイオード、B…車載電源(電源)、I…実電流値、Ith…閾値電流、Lp…電源線、T…検出温度、Tth…閾値温度。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13