(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献2に記載の上記技術は、接地線を流れる放電電流を検出する方式が有している上記課題を解決することはできるけれども、特許文献2にも記載されているように(段落0018−0020参照)、結合コンデンサから部分放電が生じた電気機器に供給される充電電流の周波数が低いので(例えば数十kHz〜数百kHz)、そのぶん電流の継続時間が長く、同じ電荷(=電流の時間積分)を供給する場合、充電電流の値が小さくなり、それによってSN比が悪くなり、部分放電の正確な検出が難しいという課題がある。
【0009】
また、特許文献2に記載の上記技術は、工場試験設備であるので、既設の受配電設備への適用が難しく、かつ量産生に欠けるという課題もある。
【0010】
なお、特許文献2には、上記充電電流の値が小さくてSN比が悪いという課題を解決する一つの手段として、電気機器の金属製容器の壁面電位を検出する方式が記載されている。しかしこの方式は、電気機器の金属製容器内に自然に存在する浮遊静電容量から部分放電箇所に充電電流が供給されることを利用するものであり、この充電電流の周波数は上記浮遊静電容量に依存しているけれども、当該浮遊静電容量を人為的に選定できないので、充電電流の周波数を人為的に選定できないという点になお改善の余地がある。
【0011】
そこでこの発明は、特許文献2に記載の技術を更に改善して、コンデンサから部分放電が生じた電気機器に供給される充電電流の周波数を比較的高く選定して部分放電の監視精度を高めることができ、しかも既設の受配電設備への適用が可能で量産生も高い部分放電監視装置を提供することを一つの目的としている。
【0012】
また、そのような部分放電監視装置を複数備えている部分放電監視システムを提供することを他の目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明に係る部分放電監視装置は、金属製容器内に
、商用周波数の電圧が印加される電圧母線およびそれに接続された1台以上の電気機器を収納し
た構成の受配電設備の当該電気機器において発生する部分放電を監視する装置であって、(a)前記部分放電が生じた電気機器に当該部分放電に伴う充電電流を供給するコンデンサを内蔵している碍子を、監視対象の電気機器を収納している前記金属製容器内に収納し、当該コンデンサの一端を前記金属製容器内の電圧母線に電気的に接続し、他端を電気的に接地しており、(b)前記コンデンサの接地回路に、そこを流れる前記充電電流を検出する電流検出器を設けており、(c)更に、前記電流検出器で検出した前記充電電流の値を検出する信号処理装置を備えている、ことを
構成の一部に採用している。
【0014】
上記特許文献2に記載の工場試験設備のように、結合コンデンサを試験対象の電気機器に外付けする技術では、結合コンデンサと試験対象の電気機器との間のインダクタンスが必然的に大きくなり、これが部分放電発生時の充電電流の周波数を低くする大きな要因であったと考える。
【0015】
これに対してこの発明に係る部分放電監視装置は、部分放電発生時の充電電流を供給するコンデンサを内蔵している碍子を、監視対象の電気機器を収納しているのと同じ金属製容器内に収納しているので、当該コンデンサと監視対象の電気機器との間のインダクタンスを小さくすることができる。従って、上記コンデンサから部分放電が生じた電気機器に供給される充電電流の周波数を比較的高くすることができる。しかも、上記コンデンサの静電容量を自由に選定することができるので、上記充電電流の周波数を比較的自由に選定することができる。その結果、部分放電箇所に同じ電荷を供給する場合、特許文献2に記載の結合コンデンサを外付けする技術に比べて、充電電流の値(振幅)が大きくなるので、SN比が良くなり、部分放電の監視精度を高めることができる。
【0016】
しかも、上記コンデンサを内蔵した碍子を、監視対象の電気機器を収納している金属製容器内に収納する構成であるので、コンデンサ周りをコンパクトに構成することができ、既設の受配電設備への適用が容易であり、しかも量産性も高い。
【0017】
前記コンデンサを内蔵している碍子は、前記金属製容器内で前記電圧母線を接地電位部から支持する支持碍子を兼ねていても良い。
【0018】
前記電流検出器は、前記コンデンサを接地する接地線を囲んでいるロゴスキーコイルであっても良い。
【0019】
前記信号処理装置は、前記電流検出器に接続されていて、前記充電電流が流れる電気回路の共振周波数を含む周波数帯域の信号を選択的に通過させるバンドパスフィルタを有していても良い。
【0020】
この発明に係る部分放電監視システムは、(a)信号を伝送する通信回線と、(b
)部分放電監視装置であっ
てその信号処理装置が、前記通信回線を経由して信号を送受信する通信回路を有している構成の複数の部分放電監視装置と、(c)前記通信回線を経由して信号を送受信する通信回路、および、所定時間ごとに前記通信回線を経由して前記各部分放電監視装置に測定データを送信させる指令を与えて、その時に前記各部分放電監視装置が保存している測定データを収集して保存するデータ収集手段を含むデータ収集処理装置とを備えている、ことを
構成の一部に採用している。
【発明の効果】
【0021】
請求項1に記載の発明によれば
次の効果を奏する。
(ア)部分放電発生時の充電電流を供給するコンデンサを内蔵している碍子を、監視対象の電気機器を収納しているのと同じ金属製容器内に収納しているので、当該コンデンサと監視対象の電気機器との間のインダクタンスを小さくすることができる。従って、上記コンデンサから部分放電が生じた電気機器に供給される充電電流の周波数を比較的高くすることができる。しかも、上記コンデンサの静電容量を自由に選定することができるので、上記充電電流の周波数を比較的自由に選定することができる。その結果、部分放電箇所に同じ電荷を供給する場合、特許文献2に記載の結合コンデンサを外付けする技術に比べて、充電電流の値(振幅)が大きくなるので、SN比が良くなり、部分放電の監視精度を高めることができる。
【0022】
(イ)上記コンデンサを内蔵した碍子を、監視対象の電気機器を収納している金属製容器内に収納する構成であるので、コンデンサ周りをコンパクトに構成することができ、既設の受配電設備への適用が容易であり、しかも量産性も高い。
【0023】
(ウ)受配電設備が複数台の電気機器を内蔵していても、その
電圧母線に接続されたどの電気機器で部分放電が発生してもそれに上記コンデンサから部分放電に伴う充電電流を供給し、かつ当該充電電流を検出することができるので、受配電設備内の複数台の電気機器における部分放電を一括して監視することができる。
【0024】
(エ)コンデンサを内蔵している碍子が電圧母線の支持碍子を兼ねているので、当該コンデンサを内蔵している碍子を、既設の受配電設備内の既存の
電圧母線用支持碍子と入れ替えることができる。従って、余分なスペースを必要とせずに、コンデンサを内蔵している碍子を設けることができるので、既設の受配電設備への適用がより容易になる。
【0028】
(オ)前記碍子内に設けられた分圧用コンデンサおよび
当該分圧用コンデンサが分担する交流電圧を受ける直流電源回路を備えていて、それらから信号処理装置に電源を供給することができるので、外部から部分放電監視装置に電源を供給する必要がなくなる。従って、部分放電監視装置の設置が容易になる。
【0029】
請求項
2に記載の発明によれば次の更なる効果を奏する。即ち、信号処理装置は、商用周波数電圧成分の位相とその位相時に検出された充電電流の値とを互いに関連づけた測定データを作成して保存する手段を有しているので、部分放電発生の監視に加えて、電気機器の3相の内のどの相で部分放電が発生しているかの特定も可能になる。
【0032】
請求項
3に記載の発明によれば、通信回線と、複数の部分放電監視装置と、データ収集処理装置とを備えていて、複数の部分放電監視装置の測定データを遠隔地において一括して収集することができるので、当該部分放電監視装置をそれぞれ設けている複数の受配電設備の電気機器における部分放電を遠隔地において一括して監視することができる。
【0033】
しかも、天気が雨もしくは雪または湿度が高い時間帯には、電気機器において部分放電以外の気中の放電現象等が発生する可能性があるという知見が得られており、従ってそのような時間帯の測定データを除外することによって、測定データの信頼度をより高めることができ、ひいては部分放電の監視精度をより高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0036】
(1)部分放電監視装置
図1に、この発明に係る部分放電監視装置を設けている受配電設備の一例を示す。
【0037】
この受配電設備4は、この例では、金属製容器6内に複数台の電気機器10を収納して成る。各電気機器10の間には、この例のように隔壁8が設けられていても良い。また、金属製容器6は、複数台の金属製の箱体を連結して成るものでも良い。そのような構成も、この出願では金属製容器6の概念に含んでいる。金属製容器6に収納している電気機器10は1台でも良い。
【0038】
各電気機器10は、例えば、変圧器、リアクトル、力率改善用コンデンサ、整流器、遮断器、開閉器等であるが、特定のものに限定されない。
【0039】
各電気機器10は、金属製容器6内に設けられた電圧母線12と接地母線14に接続されている。接地母線14および金属製容器6は電気的に接地されている。電圧母線12と接地母線14との間に、商用電源2から商用電力が供給される。電圧母線12は、例えば、6.6kV等の高圧母線または440V等の低圧母線であるが、電気機器10として変圧器を有している場合は、その1次側の高圧母線と2次側の低圧母線の両方でも良い。
【0040】
この受配電設備4に、それに内蔵している各電気機器10において発生する部分放電を監視する部分放電監視装置20を設けている。
【0041】
なお、商用電源2、各電気機器10、電圧母線12等は通常は3相である。部分放電監視装置20は、3相のそれぞれに設けても良いけれども、1相だけに設けておいても、他の相における部分放電を監視することは可能である。これについては後で更に説明する。
図1等は、1相に部分放電監視装置20を設けている場合の例を示している。
【0042】
電気機器10(例えば電気機器10a)において部分放電が発生した場合、前記特許文献2にも部分放電の発生メカニズムとして記載されているように、その部分放電箇所は一種の電荷消失源16であり、これが電気機器10内に発生したと考えることができる。そしてこの電荷消失源16で消失する電荷qぶんを外部から充電して補填することになる。
【0043】
この部分放電監視装置20は、上記のような部分放電が生じた電気機器10(例えば10a)に当該部分放電に伴う充電電流i
0 (これは上記消失電荷qに相当する電流である)を供給するコンデンサ24を内蔵している碍子22を有している。即ち、コンデンサ24を内蔵している碍子22を、監視対象の電気機器10を収納している金属製容器6内に収納し、そのコンデンサ24の一端を電圧母線12に電気的に接続し、他端を電気的に接地している。この例では、接地線26を介して接地母線14に接続して接地している。
【0044】
碍子22は、例えば、磁器碍子、樹脂碍子等であり、その形状、材質等は特定のものに限定されない。
【0045】
充電電流i
0 は、一般的に、それが流れる電気回路(閉回路)のインダクタンスL、静電容量Cおよび抵抗Rで定まる減衰振動波形となる。即ち、充電電流i
0 は交流(より具体的には高周波)であり、その向きは時間によって反転する。
【0046】
部分放電監視装置20は、更に、コンデンサ24の接地回路に設けられていてそこを流れる充電電流i
0 を検出する電流検出器28と、当該電流検出器28で検出した充電電流i
0 の値(振幅)を検出する信号処理装置30とを備えている。
【0047】
電流検出器28は、例えばロゴスキーコイルであるが、その他のものでも良い。また、電流検出器28は、この例のように、碍子22に内蔵しておいても良い。ロゴスキーコイルについては後述する。
【0048】
信号処理装置30は、この例のように金属製容器6内に収納しておいても良いし、金属製容器6外に設けておいても良い。例えば、金属製容器6の外面に取り付けておいても良い。この信号処理装置30のより具体例は後述する。
【0049】
この部分放電監視装置20は、部分放電発生時の充電電流i
0 を供給するコンデンサ24を内蔵している碍子22を、監視対象の電気機器10を収納しているのと同じ金属製容器6内に収納しているので、当該コンデンサ24と監視対象の電気機器10との間のインダクタンスを小さくすることができる。従って、上記コンデンサ24から部分放電が生じた電気機器10に供給される充電電流i
0 の周波数を比較的高くすることができる。しかも、上記コンデンサ24の静電容量を自由に選定することができるので、上記充電電流i
0 の周波数を比較的自由に選定することができる。その結果、部分放電箇所に同じ電荷(前述した消失電荷q)を供給する場合、特許文献2に記載の結合コンデンサを外付けする技術に比べて、充電電流i
0 の値(振幅)が大きくなる。これは、充電電流i
0 の周波数が高いと、その継続時間tが短くなり、次式からも分るように、継続時間tが短いと、同じ消失電荷qを供給する場合、充電電流i
0 の値が大きくなるからである。その結果、SN比が良くなり、部分放電の監視精度を高めることができる。
【0051】
例えば、充電電流i
0 が流れる閉回路のインダクタンスLを5μH〜20μHとした場合、コンデンサ24の静電容量を1000pFに選定し、それと、部分放電が発生した電気機器10の対地間の静電容量との合成静電容量が50pF〜1000pFになるような閉回路を想定すると、充電電流i
0 の周波数(=1/2π√LC)は1MHz〜10MHzになる。これは、特許文献2に記載の結合コンデンサを外付けする技術の場合の周波数(数十kHz〜数百kHz)よりも2桁程度大きい。
【0052】
しかも、部分放電監視装置20は、コンデンサ24を内蔵した碍子22を、監視対象の電気機器10を収納している金属製容器6内に収納する構成であるので、コンデンサ周りをコンパクトに構成することができ、既設の受配電設備への適用が容易であり、しかも量産性も高い。
【0053】
また、
図1の例のように、受配電設備4が複数台の電気機器10を内蔵していても、そのどの電気機器10で部分放電が発生してもそれにコンデンサ24から部分放電に伴う充電電流i
0 を供給し、かつ当該充電電流i
0 を検出することができるので、受配電設備4内の複数台の電気機器10における部分放電を一括して監視することができる。
図1は、電気機器10aにおいて部分放電が発生した場合の例であるが、受配電設備4内の他の電気機器10における部分放電も同様に監視することができる。
【0054】
なお、電気機器10の一つが変圧器(例えば降圧変圧器)であってその1次側と2次側とで電圧母線12が分かれていても、変圧器の1次−2次間の静電容量は通常はかなり大きいので(例えば数百pF以上)、上記のようなMHzオーダーの周波数帯の充電電流i
0 に対しては、等価的に、両方の電圧母線が接続されている状態に近いと考えることができ、従って一方側の電圧母線12に接続された部分放電監視装置20から他方側の電圧母線12に接続された電気機器10の部分放電の監視は通常は可能である。
【0055】
上記コンデンサ24を内蔵している碍子22は、金属製容器6内で電圧母線12を接地電位部から支持する支持碍子を兼ねていても良い。そのようにすると、当該コンデンサ24を内蔵している碍子22を、既設の受配電設備内の既存の支持碍子と入れ替えることができる。従って、余分なスペースを必要とせずに、コンデンサ24を内蔵している碍子22を設けることができるので、既設の受配電設備4への部分放電監視装置20の適用がより容易になる。この例のように電流検出器28も碍子22に内蔵しておくと、既設の受配電設備4への部分放電監視装置20の適用が一層容易になる。
【0056】
電流検出器28は、
図1等に示す例のように、コンデンサ24を接地する接地線26を囲んでいるロゴスキーコイルであっても良い。ロゴスキーコイルは、
図1等では大幅に簡略化して図示しているけれども、周知のように、環状体の芯(または空芯)の周囲に導線を巻き付けた環状のコイルであり、このコイルの内側を通る電流による磁束変化を検出することによって当該電流を検出し測定することができる。
【0057】
電流検出器28を上記のようなロゴスキーコイルにすると、接地線26がそのままロゴスキーコイルの1次回路になるので、電流検出器28を設けても、コンデンサ24と監視対象の電気機器10との間のインダクタンスを大きくせずに部分放電発生時の充電電流i
0 を検出することができる。従って、当該充電電流i
0 の周波数を低下させずに済み、それによって充電電流i
0 の値が大きくなりSN比が良くなるので、部分放電の監視精度を高めることができる。
【0058】
しかも、ロゴスキーコイルは、被検出信号の微分信号を出力する微分型の電流検出器であるので、高周波域での微小信号の検出に優れており、部分放電発生時の充電電流i
0 もそのような微小信号の一種であるので、当該充電電流i
0 をより高精度で検出することができ、ひいては部分放電の監視精度を高めることができる。
【0059】
図2に、信号処理装置30のより具体例を示す。この信号処理装置30は、上記充電電流i
0 を検出する電流検出器28からの信号を増幅する増幅器36と、増幅器36からの信号を選択的に通過させるバンドパスフィルタ38と、バンドパスフィルタ38からの信号を処理して充電電流i
0 の値を検出する処理回路40とを有している。バンドパスフィルタ38は、上記充電電流i
0 が流れる電気回路の共振周波数(これは前述したように例えば1MHz〜10MHzの範囲内である)を含む周波数帯域の信号を選択的に通過させるものである。
【0060】
受配電設備4内には、外部から、様々な外乱信号が伝わる可能性がある。例えば、商用電源2側やその反対側の負荷側から、放電現象、サージ等による周波数の低い(例えば数百kHz以下の)外乱信号が伝わる可能性がある。高い周波数成分は、受配電設備4に接続される電力ケーブルの長さを考慮すると、その伝搬途上で大きく減衰する可能性が大きい。また、放送電波や気中放電に伴う電波のような周波数の高い(例えば10MHz程度以上の)外乱信号が伝わる可能性もある。そしてこれらの外乱信号が電流検出器28からの信号に含まれている可能性がある。
【0061】
そこでこの例のように、上述したバンドパスフィルタ38を設けておくと、電流検出器28からの信号に含まれている上記外乱信号を阻止することができるので、処理回路40による上記充電電流i
0 の検出精度を高めることができ、ひいては部分放電の監視精度を高めることができる。
【0062】
図2に示す例のように、碍子22内であって上記コンデンサ24の接地側に分圧用コンデンサ32を直列に設けておき、更にこの分圧用コンデンサ32が分担する商用周波数の交流電圧を所望電圧の直流電圧に変換して出力する直流電源装置34を設けておき、この直流電源装置34の出力を信号処理装置30の電源として供給するように構成しておいても良い。直流電源装置34は、例えばスイッチング電源装置であるが、それ以外のものでも良い。
【0063】
上記のように構成すると、外部から部分放電監視装置20に電源(制御用電源)を供給する必要がなくなるので、部分放電監視装置20の設置が容易になる。また、既設の受配電設備4への部分放電監視装置20の適用が簡単になる。
【0064】
信号処理装置30の他の例を
図3に示す。増幅器36およびバンドパスフィルタ38は、
図2で説明したものと同じであるので、ここでは重複説明を省略する。
【0065】
この信号処理装置30は、上記処理回路40のより具体例として、電流検出器28で検出した充電電流i
0 のピーク値を検出してそれをデータ処理装置46からリセット信号RSが与えられるまで保持するピーク値検出器42と、上記ピーク値をA/D変換するA/D変換器44と、上記ピーク値をカウンタ52から与えられる商用周波数電圧成分の位相φと関連づけた測定データを作成して保存するデータ処理装置46(データ処理手段)とを有している。電流検出器28で検出する充電電流i
0 の周波数は前述したように高いので、ピーク値検出器42によって充電電流i
0 のピーク値を検出して保持することによって、後の信号処理の負担を軽減することができる。このデータ処理装置46の機能のより具体例は後述する。データ処理装置46は、例えば、マイクロプロセッサおよびメモリを用いて構成されている。
【0066】
電流検出器28で検出した信号には、当然、上記充電電流i
0 に相当する信号の他に、商用周波数電圧成分も含まれている。
図1に示すように、電圧母線12と接地母線14との間には商用電源2から商用周波数電圧が印加されるので、接地線26には商用周波電流も流れるからである。この商用周波電流は、コンデンサ24を通して流れるので、電圧位相から90度の進み電流となる。
【0067】
この例の信号処理装置30は、上記商用周波数電圧成分の位相情報をうまく利用して、1相に設けた部分放電監視装置20によって、他の相における部分放電の監視をも可能にするだけでなく、電気機器10の3相の内のどの相で部分放電が発生しているかの特定も可能にするものである。
【0068】
即ち、受配電設備4を構成する電圧母線12および電気機器10の各相間は、通常は比較的大きな静電容量で結合されていると考えることができる。従って、1相に部分放電監視装置20を設けておいても、他の相で部分放電が発生しても、値の大小はあるにしても、上記充電電流i
0 が流れてそれを電流検出器28で検出することができるので、他の相における部分放電の監視は可能である。
【0069】
それに加えて、部分放電が発生した相の特定を可能にするために、信号処理装置30は、上記電流検出器28で検出した信号から商用周波数電圧成分(これは、部分放電監視装置20を設けた相の、即ち後述する代表相の商用周波数電圧成分である)を抽出するローパスフィルタ48(抽出手段)と、ローパスフィルタ48で抽出した商用周波数電圧成分のゼロクロス点を検出するゼロクロス検出器50と、クロック信号を発生させるクロック信号発生器54と、商用周波数電圧成分の1周期ごとに上記クロック信号をカウントして、商用周波数電圧成分の位相φを決定して当該位相φを表す情報(具体的にはカウント値)を上記データ処理装置46に与えるカウンタ52とを更に備えている。このゼロクロス検出器50、カウンタ52およびクロック信号発生器54が位相決定手段を構成している。
【0070】
データ処理装置46は、上記商用周波数電圧成分の位相φと、その位相時に検出された充電電流i
0 の値(この例ではピーク値)とを互いに関連づけた測定データを作成して保存する。このような測定データを作成して保存することによって、部分放電発生の監視に加えて、電気機器10の3相の内のどの相で部分放電が発生しているかの特定も可能になる。これを以下に説明する。
【0071】
(A)電気機器10の誘電体内に小さなボイド(空隙状欠陥)があってそこで部分放電が発生する場合は、当該ボイドに印加される商用周波数電圧がボイドの放電電圧を超える電圧領域で部分放電が発生することになるので、その商用周波数電圧の位相は、通常は、(a)電圧が0から上昇する正のピーク値まで、または(b)電圧が0から下降する負のピーク値までとなるが、ボイドに印加される電圧の絶対値がある程度大きくなる必要があるため、部分放電が発生する位相は中間付近以降になると考えられる。これを、1相の商用周波数電圧を示す
図4を参照して説明すると、ボイドで部分放電が発生する場合の商用周波数電圧の位相φは、通常は、0度と90度間の中間付近から90度までの位相区間S
1 または180度と270度の中間付近から270度までの位相区間S
2 になると考えられる。
【0072】
(B)一方、電気機器10に導体の鋭端部があって当該鋭端部とその対向部分との間で部分放電が発生する場合は、通常は、両者間の空間ギャップに印加される商用周波数電圧の正または負のピーク値付近が放電開始時の位相になると考えられる。これを
図4を参照して説明すると、導体の鋭端部で部分放電が発生する場合の商用周波数電圧の位相φは、通常は、90度を挟んでその前後の位相区間S
3 または270度を挟んでその前後の位相区間S
4 になると考えられる。但し、鋭端部での部分放電は針端放電現象に近いので、針端放電において周知なように、鋭端部が負のピーク付近になる位相区間S
4 の方がより部分放電が発生しやすい傾向にあると言える。
【0073】
上記(A)および(B)を総合すると、電気機器10において部分放電が発生しやすいのは、通常は、商用周波数電圧の位相φで言えば、0度と90度の中間付近から90度直後付近までの位相区間S
5 または180度と270度の中間付近から270度直後付近までの位相区間S
6 になると考えられる。
【0074】
前述したように商用電源2および電気機器10は、通常は3相であるので、3相の場合を
図5を参照して説明する。A相、B相、C相はそれぞれ120度ずつ位相がずれている。
図4を参照して説明したように、電気機器10のA相における部分放電は、
図4中の位相区間S
5 、S
6 に相当する位相区間S
A で発生しやすい。同様に、電気機器10のB相における部分放電は、
図4中の位相区間S
5 、S
6 に相当する位相区間S
B で発生しやすく、電気機器10のC相における部分放電は位相区間S
C で発生しやすい。
【0075】
従って、電流検出器28を設けている1相、例えばA相を代表相として当該相の商用周波数電圧の位相φを基準にして、当該A相の商用周波数電圧の位相φが90度前後または270度前後の位相区間S
A のときに部分放電を検出した場合は、電気機器10のA相において部分放電が発生した可能性が高い。同様に、A相の商用周波数電圧の位相φが30度前後または210度前後の位相区間S
B のときに部分放電を検出した場合は、電気機器10のB相において部分放電が発生している可能性が高い。A相の商用周波数電圧の位相φが150度前後または330度前後の位相区間S
C のときに部分放電を検出した場合は、電気機器10のC相において部分放電が発生している可能性が高い。
【0076】
従って、前述したように、商用周波数電圧成分の位相φと、その位相時に検出された充電電流i
0 の値とを互いに関連づけた測定データを作成して保存することによって、部分放電発生の監視に加えて、電気機器10の3相の内のどの相で部分放電が発生しているかの特定も可能になる。
【0077】
図4、
図5を参照して説明したように、部分放電現象は商用周波数電圧の特定の位相区間内で集合して発生する可能性が高いので、データ処理装置46は、前述した商用周波数電圧成分の位相φとその位相時に検出された充電電流i
0 の値とを互いに関連づけた測定データを、商用周波数電圧成分の5度〜30度間隔の位相区間ごとに区切り、当該各位相区間内における充電電流i
0 のピーク値を当該各位相区間の充電電流の値とする測定データを作成して保存する機能を有していても良い。このように測定データを位相区間ごとに区切ることによって、3相の内のどの相で部分放電が発生しているかの特定がより容易になる。
【0078】
上記のように区切った測定データの一例を表1に示す。これは30度間隔の例であるが、30度間隔に限られるものではない。
【0080】
位相区間は5度〜30度間隔が好ましいのは、部分放電発生位相のばらつき等を考慮したためである。即ち、5度間隔よりも小さい間隔にすると、位相区間で区切る意味が殆どなくなる。30度よりも大きい間隔にすると、
図5中に示した各位相区間S
A 、S
B 、S
C が互いに近づいて、他の相と混同する可能性が高くなる。
【0081】
部分放電現象は発生し始めると基本的には商用周波数電圧の毎サイクルで発生する可能性が高いという知見が得られているので、データ処理装置46は、上記各位相区間の充電電流i
0 の値について、各位相区間ごとに商用周波数電圧の複数サイクル間の平均値を求め、当該平均値を各位相区間内の充電電流i
0 の値とする測定データを作成して保存する機能を有していても良い。上記平均値を求めるのは、例えば、商用周波数電圧の100サイクル程度にすれば良い。このようにして各位相区間の充電電流i
0 の値について、商用周波数電圧の複数サイクル間の平均値を取ることによって、ノイズ等の影響で散発的な特異な充電電流i
0 の値があってもその影響を非常に小さくすることができるので、測定データの信頼度を高めることができ、ひいては部分放電の監視精度を高めることができる。
【0082】
上記のように平均値を取った測定データの一例を表2に示す。これは30度間隔の例であるが、30度間隔に限られるものではない。
【0084】
(2)部分放電監視システム
図6に、この発明に係る部分放電監視システムの一例を示す。
【0085】
この部分放電監視システムは、信号を伝送する通信回線60と、上述したような複数の部分放電監視装置20であって通信回路をそれぞれ有するものと、中央のデータセンター等に置かれたデータ収集処理装置62とを備えている。各部分放電監視装置20は、監視対象の受配電設備にそれぞれ設けられており、これらは広域に分散して設置されていても良い。
【0086】
通信回線60は、有線でも良いし、無線でも良いし、光回線等でも良い。ネットワーク通信回線でも良いし、インターネット等でも良い。
【0087】
各部分放電監視装置20の信号処理装置30は、通信回線60を経由して信号を送受信する通信回路を有している。その一例を
図3に示す。この信号処理装置30は、データ処理装置46において前述したようにして作成し保存した測定データを通信回線60を経由して送信すると共に、データ収集処理装置62から通信回線60を経由して送られて来る指令信号を受信する通信回路56を有している。通信回線60が無線の場合は、通信回路56はアンテナ58を経由して通信回線60との信号のやり取りを行う。
【0088】
再び
図6を参照して、データ収集処理装置62は、通信回線60を経由して信号を送受信する通信回路64と、この通信回路64を介して所定時間ごとに通信回線60を経由して各部分放電監視装置20に前記測定データを送信させる指令を与えて、その時に各部分放電監視装置20が保存している前記測定データを収集して保存するデータ収集装置66(データ収集手段)とを有している。後述する判定装置68を更に有していても良い。このデータ収集処理装置62は、例えば、処理装置、記憶装置およびマンマシンインタフェース(例えば入出力装置、表示装置等)を有するコンピュータで構成しても良い。
【0089】
この部分放電監視システムによれば、複数の部分放電監視装置20の測定データを、通信回線60を経由して遠隔地においてデータ収集処理装置62によって一括して収集することができるので、部分放電監視装置20をそれぞれ設けている複数の受配電設備の電気機器における部分放電を遠隔地において一括して監視することができる。
【0090】
データ収集処理装置62のデータ収集装置66は、気象情報提供者70から通信回線60を経由して提供される、各部分放電監視装置20を設置している地域ごとの、かつ前記測定データを収集する時間帯の、天気および湿度を含む気象情報を収集して、部分放電監視装置20を設置している地域の前記測定データ収集の時間帯の天気が雨もしくは雪または湿度が所定値以上のときに、当該部分放電監視装置20から収集した前記測定データを除外して保存する機能を有していても良い。
【0091】
気象情報提供者70は、例えば、気象庁や民間の気象情報提供会社等である。
【0092】
湿度は、通常は、一般的に用いられている相対湿度である。この湿度が高いときに、例えば湿度が90%以上のときに、上記除外処理を行う。
【0093】
天気が雨もしくは雪または湿度が高い時間帯には、電気機器10において部分放電以外の気中の放電現象等が発生する可能性があるという知見が得られている。従って、そのような時間帯の測定データを上記のようにして除外することによって、測定データの信頼度をより高めることができ、ひいては部分放電の監視精度をより高めることができる。
【0094】
データ収集処理装置62のデータ収集装置66は、各部分放電監視装置20ごとの前記収集した測定データの時間推移を表すトレンドデータを作成して保存する機能を有していても良い。かつデータ収集処理装置62は、各部分放電監視装置20ごとの上記トレンドデータに基づいて、当該トレンドデータに含まれる前記充電電流i
0 の値が所定期間内に所定幅以上増大し、かつその増大した状態が所定期間継続したか否かを判定して、継続したときに当該部分放電監視装置20を設けている受配電設備4の電気機器10において部分放電が発生していると判定する判定装置68(判定手段)を有していても良い。
【0095】
上記トレンドデータに含まれる充電電流i
0 の値の時間推移の概略例を
図7に示す。
【0096】
電気機器10における部分放電は、発生するときは急に発生し、かつ一旦発生するとそれが長期間継続する可能性が高いという知見が得られており、それに伴ってトレンドデータに含まれる放電電流i
0 の値も、例えば
図7中のA部に示すように、急に増大し、かつその増大した状態が長期間継続する。従ってトレンドデータに含まれる充電電流i
0 の値が(a)所定期間内に(b)所定幅以上増大し、(c)かつその増大した状態が所定期間継続したか否かを判定することによって、部分放電以外の放電現象等の影響を排除して、部分放電発生を正確に判定することができる。
【0097】
上記(a)の判定の所定期間は、例えば2〜3日または5〜6日程度である。上記(b)の判定の所定幅は、例えば、充電電流i
0 の値そのもの(即ち絶対値)でも良いし、変化の割合でも良い。数値の具体例を示すと、例えば、前者の場合は充電電流i
0 の値が50μA以上増大したことを、後者の場合は充電電流i
0 の値の割合が50%以上増大したことを判定する。
【0098】
電気機器10の表面の汚れ等による漏れ電流は、急に増大するのではなく時間経過につれて徐々に増大するという知見が得られており、上記(a)および(b)の判定を加えることによって、このような漏れ電流による充電電流i
0 の値の増大と、部分放電発生による充電電流i
0 の値の増大とを区別することができる。従って、部分放電発生の判定精度を高めることができる。
【0099】
上記(c)の継続判定の所定期間は、例えば、1か月であるが、これより短くても良いし、長くても良い。
【0100】
部分放電監視装置20が外来ノイズを検出した場合とか、部分放電監視装置20を設けている受配電設備4が高湿度に曝された等の場合は、検出した充電電流i
0 の値が増大してもそれが長期間継続することはないという知見が得られており、上記(c)の継続判定を加えることによって、このようなノイズ、高湿度等による充電電流i
0 の値の増大と、部分放電による充電電流i
0 の値の増大とを区別することができる。従って、部分放電発生の判定精度を高めることができる。