(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
駆動装置からの動力により回転する回転要素と一体に回転する支持部材と、前記支持部材の回転に伴って重心が予め定められた揺動軌道に沿って移動するように前記支持部材により揺動自在に支持される複数の質量体とを備える遠心振子式吸振装置において、
前記揺動軌道は、トロコイド曲線により構成されると共に前記質量体の揺動中心線と交差する第1軌道と、それぞれ円周の一部により構成されると共に前記第1軌道の対応する端点に接続されて該第1軌道の両側に位置する2つの第2軌道とを含むことを特徴とする遠心振子式吸振装置。
【背景技術】
【0002】
従来、軸の回りを回転可能なシャフト用の回転数適応式振動吸収装置として、少なくとも1つの慣性質量部材が備わるハブ部を含み、当該少なくとも1つの慣性質量部材を所定の運動軌道に沿ってハブ部に対して往復運動させるものが知られている(例えば、特許文献1参照)。この回転数適応式振動吸収装置において、運動軌道は、少なくとも1つの慣性質量部材が軸から最も大きな間隔をもつように調節された中央位置を有すると共に、少なくとも1つの慣性質量部材の中央位置からの変位が増大するにつれ、段階的または単調に減少する曲率半径を有する。そして、中央位置での運動軌道の曲率半径は、“L”を曲率中心の軸からの距離とし、“x”を励起振動次数とし、“K”を値0.8から値1.2の範囲の係数とすると、式:R=kL/x
2により画定される。
【0003】
そして、特許文献1には、
(1)運動軌道は、サイクロイドの一部分により形成されること。
(2)運動軌道は、曲率半径(R)が一方でk=1.2における式:R=kL/x
2により画定される円(K)により、他方で中央位置での曲率半径(R)がk=0.8における式:R=kL/x
2により画定されるサイクロイド(Z)により限定される区域(F)にあること。
(3)運動軌道は、中央位置に隣接する第一区間において区域(F)の第一領域内にあり、第一領域が、その曲率半径(R)が一方でk=1.0における式:R=kL/x
2により画定される円により、他方でk=1.2における式:R=kL/x
2により画定される円(K)により限定される領域であること。
(4)運動軌道が、第一区間に隣接する第二区間において区域(F)の第二領域内にあり、第二領域が、その曲率半径(R)が一方でk=1.0における式:R=kL/x
2により画定される円により、他方で中央位置での曲率半径(R)がk=0.8における式:R=kL/x
2により画定されるサイクロイド(Z)により限定される領域であること。
が記載されている。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について説明する。
【0011】
図1は、本発明による遠心振子式吸振装置10を含む発進装置1の概略構成図である。同図に示す発進装置1は、原動機としてのエンジン(内燃機関)を備えた車両に搭載され、当該エンジンからの動力を自動変速機(AT)あるいは無段変速機(CVT)である変速機に伝達するものである。発進装置1は、遠心振子式吸振装置10に加えて、エンジンのクランクシャフトに連結されるフロントカバー(入力部材)3と、フロントカバー3に固定されるポンプインペラ(入力側流体伝動要素)4と、ポンプインペラ4と同軸に回転可能なタービンランナ(出力側流体伝動要素)5と、タービンランナ5からポンプインペラ4への作動油(作動流体)の流れを整流するステータ6と、変速機の入力軸ISに固定されるダンパハブ(出力部材)7と、ダンパハブ7に接続されるダンパ機構8と、ダンパ機構8に連結される図示しないロックアップピストンを有する例えば単板摩擦式のロックアップクラッチ(発進クラッチ)9とを含む。
【0012】
ポンプインペラ4とタービンランナ5とは、互いに対向し合い、両者の間には、ポンプインペラ4やタービンランナ5と同軸に回転するようにステータ6が配置される。ステータ6の回転方向は、ワンウェイクラッチ60により一方向のみに設定される。これらのポンプインペラ4、タービンランナ5およびステータ6は、フロントカバー3とポンプインペラ4のポンプシェルとにより画成される流体伝動室(液体室)2の内部において作動油(流体)を循環させるトーラス(環状流路)を形成し、トルク増幅機能をもったトルクコンバータとして機能する。なお、発進装置1において、ステータ6やワンウェイクラッチ60を省略し、ポンプインペラ4およびタービンランナ5を流体継手として機能させてもよい。
【0013】
ダンパ機構8は、回転要素として、ドライブ部材(入力要素)81と、中間部材(中間要素)82と、ドリブン部材(出力要素)83とを含む。また、ダンパ機構8は、トルク伝達要素(トルク伝達弾性体)として、ドライブ部材81と中間部材82との間に配置される複数の第1コイルスプリングSP1と、例えば第1コイルスプリングSP1よりも高い剛性(バネ定数)を有すると共に中間部材82とドリブン部材83との間に配置される複数の第2コイルスプリング(第2弾性体)SP2とを含む。
【0014】
ドライブ部材81は、それぞれ対応する第1コイルスプリングSP1の一端と当接する複数の当接部を有する。ドライブ部材81の各当接部は、ダンパ機構8の取付状態において互いに隣り合う第1コイルスプリングSP1の間で両者と当接する。中間部材82は、それぞれ対応する第1コイルスプリングSP1の他端と当接する複数の第1当接部と、それぞれ対応する第2コイルスプリングSP2の端部と当接する複数の第2当接部とを有する。中間部材82の各第1当接部は、ダンパ機構8の取付状態において互いに隣り合う第1コイルスプリングSP1の間で両者と当接する。また、第2コイルスプリングSP2は、ダンパ機構8の取付状態において中間部材82の互いに隣り合う2つの第2当接部の間に配置され、当該2つの第2当接部の一方が第2コイルスプリングSP2の一端と当接し、他方が第2コイルスプリングSP2の他端と当接する。ドリブン部材83は、それぞれ対応する第2コイルスプリングSP2の端部と当接する複数の当接部を有し、ダンパハブ7に固定される。第2コイルスプリングSP2は、ダンパ機構8の取付状態においてドリブン部材83の互いに隣り合う2つの当接部の間に配置され、当該2つの当接部の一方が第2コイルスプリングSP2の一端と当接し、他方が第2コイルスプリングSP2の他端と当接する。
【0015】
また、本実施形態の発進装置1では、ダンパ機構8の出力要素であるドリブン部材83に複数の第3コイルスプリング(第3弾性体)SP3を介してタービンランナ5が連結されており、これら複数の第3コイルスプリングSP3とタービンランナ5とは、ダイナミックダンパ20を構成する。これにより、ロックアップクラッチ9の係合時(スリップ制御時を含む)には、遠心振子式吸振装置10とダイナミックダンパ20との双方によりダンパ機構8全体の振動を良好に吸収することが可能となる。
【0016】
ロックアップクラッチ9は、図示しない油圧制御装置からの油圧により動作するものであり、フロントカバー3とドライブ部材81とを直結することによりダンパ機構8を介してフロントカバー3とダンパハブ7すなわち変速機の入力軸ISとを連結するロックアップと、当該ロックアップの解除とを選択的に実行する。また、予め定められたスリップ制御実行条件が成立した際に、エンジンすなわちフロントカバー3と入力軸ISすなわちダンパハブ7との回転速度差(実スリップ速度)が目標スリップ速度に一致するように(エンジン(クランクシャフト)とドライブ部材81とに回転速度差を生じさせるように)ロックアップクラッチ9を制御するスリップ制御を実行することで、ロックアップクラッチ9を介した動力の伝達効率やエンジン(原動機)の燃費を向上させることができる。なお、スリップ制御実行条件は、例えば、ロックアップクラッチ9によるロックアップの実行時や、車両の加速中や減速中、変速機の変速中等に成立するものである。
【0017】
ロックアップクラッチ9を構成する図示しないロックアップピストンは、例えばダンパハブ7により軸方向に移動自在かつ回転自在に支持される。また、ロックアップピストンの外周側かつフロントカバー3側の面には、環状の摩擦材が貼着され、上述のドライブ部材81は、ロックアップピストンの例えば外周部に連結される。なお、発進装置1は、単板摩擦式のロックアップクラッチ9の代わりに、多板摩擦式のロックアップクラッチを含むものとして構成されてもよい。
【0018】
遠心振子式吸振装置10は、
図2および
図3に示すように、ダンパ機構8の回転要素であるドリブン部材83に対して同軸に連結(固定)されて当該ドリブン部材83と一体に回転する支持部材(フランジ)11と、それぞれ重心が予め定められた揺動軌道100(
図4参照)に沿って移動するように支持部材11により揺動自在に支持されると共に周方向に隣り合う複数(本実施形態では、4個)の質量体12とを含む。また、遠心振子式吸振装置10は、フロントカバー3とポンプインペラ4のポンプシェルとにより画成されて作動油を収容する流体伝動室2(液体室)の内部に配置される。そして、遠心振子式吸振装置10は、支持部材11(ドリブン部材83)の回転に伴って、作動油で満たされた流体伝動室2の内部で複数の質量体12が当該支持部材11に対して同方向に揺動することで、ダンパ機構8のドリブン部材83に対して当該ドリブン部材83の振動とは逆方向の位相を有する振動を付与する。これにより、ロックアップクラッチ9からダンパハブ7(変速機)までの間で振動を遠心振子式吸振装置10により吸収(減衰)することが可能となる。
【0019】
本実施形態において、各質量体12は、支持部材11を介して発進装置1の軸方向に対向し合うと共に図示しないリベット等により互いに連結される2つの錘120と、2つのガイドローラ15とを有する。各錘120は、
図2に示すように、支持部材11の軸方向からみて当該支持部材11の外周に沿うように概ね円弧状に延びる金属板であり、左右対称の形状を有する。ガイドローラ15は、
図3に示すように、2つの小径ローラ151との大径ローラ152とを一体化したものである。小径ローラ151は、大径ローラ152の軸方向における両端面から互いに反対側に突出する。
【0020】
また、支持部材11には、1つの質量体12に2つずつ(一対ずつ)対応するように複数の第1ガイド切欠部(第1ガイド部)11gが形成されている。一対の第1ガイド切欠部11gは、例えば、それぞれ支持部材11の径方向外側に向けて凸となる曲線を軸線とする左右非対称あるいは左右対称の長穴として形成され、支持部材11(ドリブン部材83)の回転中心(軸心)RCを含む質量体12の揺動中心線(振幅の中心線)に関して対称に配置される。第1ガイド切欠部11g内には、対応するガイドローラ15の大径ローラ152が転動自在に挿入され、各ガイドローラ15の大径ローラ152は、対応する第1ガイド切欠部11gの内周面(基本的に、径方向外側の内周面)上を転動する。
【0021】
更に、質量体12の各錘120には、2つ(一対)の第2ガイド切欠部(第2ガイド部)120gが形成されている。一対の第2ガイド切欠部120gは、例えば、支持部材11の中心に向けて凸となる曲線を軸線とする左右非対称あるいは左右対称の長穴として形成され、質量体12の揺動中心線に関して対称に配置される。第2ガイド切欠部120g内には、対応するガイドローラ15の小径ローラ151が転動自在に挿入され、各ガイドローラ15の小径ローラ151は、対応する第2ガイド切欠部120gの内周面(基本的に、径方向内側の内周面)上を転動する。
【0022】
これにより、遠心振子式吸振装置10では、支持部材11の回転に伴って第1および第2ガイド切欠部11g,120gによりガイドされる各質量体12を振子支点の周りに回動させると共に揺動範囲内で振れるのに伴って当該質量体12の重心の周りに回転させることができる。従って、遠心振子式吸振装置10によれば、質量体12の振子支点周りの揺動のみならず、質量体12の重心周りの回転モーメントをも利用して支持部材11に伝達される振動を減衰することが可能となる。なお、第1ガイド切欠部11gは、1つの質量体12に1つずつ対応するように支持部材11に形成されてもよく、第2ガイド切欠部120gは、各錘120に1つずつ形成されてもよい。また、遠心振子式吸振装置は、支持部材11として、1個の質量体を揺動自在に支持する2本のアーム部材を備えた、いわゆるバイファイラ(bifilar)式の装置として構成されてもよい。
【0023】
図4は、遠心振子式吸振装置10における質量体12の重心の揺動軌道100を示す拡大図であり、
図5は、揺動軌道100を設定する手順を説明するための模式図である。これらの図面に示すように、揺動軌道100は、質量体12の揺動中心線Lを中心として当該揺動中心線Lに関して対称に延びる第1軌道101と、第1軌道101の両側で質量体12の揺動中心線Lに関して対称に位置する2つの第2軌道102とを含む。
【0024】
第1軌道101は、支持部材11等の回転中心RCとは反対側(径方向外側)に凸となるエピサイクロイドやエピトロコイドあるいはサイクロイドといったトロコイド曲線、すなわち基礎円あるいは定直線上を転動する転円(
図5における破線参照)に定められた描画点の軌跡(本実施形態では、エピサイクロイド)により構成され、周方向における中央で質量体12の揺動中心線Lと交差して当該質量体12の小振幅領域を規定する。本実施形態では、第1軌道101を構成するトロコイド曲線を描画する転円の中心の軌跡と揺動中心線Lとの交点を第1軌道101の振子支点PF1とし、重心が第1軌道101に沿って往復移動する際、質量体12が回転半径を変化させながら振子支点PF1の周りに揺動するものとみなす。
【0025】
また、第1軌道101を形成するトロコイド曲線は、支持部材11の回転に伴って重心が第1軌道101の範囲内で往復移動するように質量体12が揺動することでロックアップクラッチ9のロックアップ時(直結時)に駆動装置としてのエンジンからドライブ部材81に伝達される振動を減衰することができるように、当該エンジンからの振動の次数q
inに応じて選択される。なお、エンジンからの振動の次数q
inは、基本的に、当該エンジンの気筒数に応じたものとなり、例えば、3気筒エンジンの場合、q
in=1.5、4気筒エンジンの場合、q
in=2.0となる。
【0026】
一方、2つの第2軌道102は、回転中心RCとは反対側(径方向外側)に凸となる円弧(
図5において二点鎖線で示す円周の一部)により構成される。
図5に示すように、各第2軌道102は、第1軌道101の2つの端点101eのうちの対応する一方に接続される。これにより、2つの第2軌道102は、第1軌道101の両側に位置して質量体12の大振幅領域を規定する。また、第2軌道102が接続される第1軌道101の端点101eは、当該第1軌道101を構成するトロコイド曲線のカスプとされる。
【0027】
更に、第2軌道102を構成する円弧は、第1軌道101(トロコイド曲線)の端点101e(カスプC)での接線Tと直交する法線SNと揺動中心線Lとの交点IPを中心とし、当該交点IPと端点101eとの距離を半径rとする。第2軌道102の振子支点PF2は、端点101eでの第1軌道101の接線Tと直交する法線SNと揺動中心線Lとの交点IPに一致し、図示するように、第1軌道101の振子支点PF1よりも支持部材11の回転中心RCに近接する。
【0028】
支持部材11の第1ガイド切欠部11gと質量体12(錘120)の第2ガイド切欠部120gとの形状は、上述のようにして設定される揺動軌道100に基づいて定められる。すなわち、第1ガイド切欠部11gおよび第2ガイド切欠部120gは、揺動軌道100が上述のような第1および第2軌道101,102を含むように形成される。なお、質量体12が揺動範囲内で振れるのに伴って当該質量体12を重心の周りに回転させない場合、第1ガイド切欠部11gと第2ガイド切欠部120gとは、揺動軌道100の相似曲線を軸線とする長穴とされればよい。
【0029】
上述のように構成される発進装置1において、遠心振子式吸振装置10の質量体12は、ロックアップクラッチ9のロックアップ時に、重心が揺動軌道100の範囲内で移動するように支持部材11およびドリブン部材83に対して揺動し、エンジンからロックアップクラッチ9を介してドライブ部材81に伝達される振動とは逆方向の位相を有する振動をドリブン部材83に付与する。これにより、ロックアップクラッチ9のロックアップ時に、当該ロックアップクラッチ9と変速機との間で振動を良好に吸収(減衰)することが可能となる。
【0030】
そして、遠心振子式吸振装置10において、質量体12の揺動軌道100は、トロコイド曲線により構成されると共に質量体12の揺動中心線Lと交差する第1軌道101と、それぞれ円弧により構成されると共に第1軌道101の対応する端点101eに接続されて当該第1軌道101の両側に位置する2つの第2軌道102とを含む。更に、各第2軌道102が接続される第1軌道101の端点101eは、当該第1軌道101を構成するトロコイド曲線のカスプに一致する。これにより、トロコイド曲線の2つのカスプCの間の全範囲を質量体12の揺動軌道100として有効に活用しつつ、遠心振子式吸振装置10の質量体12の振れ角をより大きくすることが可能となる。
【0031】
また、トロコイド曲線のカスプCに一致する第1軌道101の両側の端点に、円弧により構成された第2軌道102を接続することで、
図5に示すように、第2軌道102の先端(第1軌道とは反対側の端点)を揺動中心線Lにより近づけることができる。これにより、質量体12が片側に最も振れた際(最大振幅時)に当該質量体12の端部を支持部材11の回転中心RCにより近づけることが可能となる。従って、遠心振子式吸振装置10では、各質量体12の振れ角をより大きくしつつ、互いに隣り合うと共に同方向に振れる質量体12同士が衝突するのを良好に抑制することができる。
【0032】
更に、第2軌道102を構成する円弧は、端点101eでの第1軌道101の接線Tと直交する法線SNと揺動中心線Lとの交点IPを中心とし、交点IPと端点101eとの距離を半径rとする。これにより、第1軌道101と2つの第2軌道102とを滑らかに連続させて、遠心振子式吸振装置10の質量体12を支持部材11およびドリブン部材83に対してよりスムースに揺動させることが可能となる。
【0033】
図6は、遠心振子式吸振装置における質量体の重心の揺動軌道を設定する他の手順を説明するための模式図である。同図に示す揺動軌道100Bにおいても、 第1軌道101Bは、支持部材11等の回転中心RCとは反対側(径方向外側)に凸となるエピサイクロイドやエピトロコイドあるいはサイクロイドといったトロコイド曲線(
図6の例では、エピサイクロイド)により構成され、図示するように、周方向における中央で質量体の揺動中心線Lと交差して当該質量体の小振幅領域を規定する。第1軌道101を形成するトロコイド曲線も、ロックアップクラッチ9のロックアップ時(直結時)にエンジンからドライブ部材81に伝達される振動を減衰することができるように、当該エンジンからの振動の次数q
inに応じて選択される。また、2つの第2軌道102Bは、回転中心RCとは反対側(径方向外側)に凸となる円弧(
図6において二点鎖線で示す円周の一部)により構成され、第1軌道101の両側に位置して質量体の大振幅領域を規定する。
【0034】
一方、
図6に示す揺動軌道100Bにおいて、各第2軌道102が接続される第1軌道101の2つの端点101eは、図示するように、第1軌道101を構成するトロコイド曲線のカスプCよりも揺動中心線Lに近接するように定められる。そして、第2軌道102Bを構成する円弧は、カスプCよりも揺動中心線L側に位置する端点101eでの第1軌道101Bの接線Tと直交する法線SNと揺動中心線Lとの交点IPを中心とし、当該交点IPと端点101eとの距離を半径rとする。これにより、第1軌道101Bを構成するトロコイド曲線が上述の揺動軌道100の第1軌道101を構成するものと同一である場合、第2軌道102Bの振子支点PF2は、上記揺動軌道100の第2軌道102のもの(
図6における点線参照)よりも第1軌道101Bの振子支点PF1に近接する。
【0035】
ここで、遠心振子式吸振装置の支持部材の回転中心から振子支点までの距離を“R”とし、振子支点から質量体の重心までの距離(平均値)を“r”とすれば、質量体の振動次数qは、一般にq≒√(R/r)と表すことができる。従って、第2軌道102Bが接続される第1軌道101の2つの端点101eをカスプCよりも揺動中心線L側に寄せて第2軌道102Bの振子支点PF2を第1軌道101Bの振子支点PF1に近接させることで、重心が第1軌道101Bの範囲内で往復移動する際の質量体の振動次数と、重心が第1軌道101Bおよび第2軌道102Bを含む揺動軌道100Bの全範囲内で往復移動する際の質量体の振動次数とのズレを低減させることができる。従って、揺動軌道100Bによれば、質量体の振れ角をより大きくしつつ、重心が第2軌道102Bに沿って移動する際の質量体の振動次数を対象となる振動の次数すなわちエンジンからの振動の次数q
inに近づけて、遠心振子式吸振装置10の吸振性能をより向上させることが可能となる。
【0036】
なお、上述の発進装置1は、いわゆる湿式の発進装置として構成されるが、本発明による発進装置は、ポンプインペラ、タービンランナ、ステータ等を含む流体伝動装置が省略された、いわゆる乾式の発進装置として構成されてもよい。更に、発進装置1のダイナミックダンパ20は、専用の質量体を有するように構成されてもよく、ダンパ機構8の中間部材82(中間要素)やドライブ部材81(入力要素)に連結されてもよく、発進装置1から省略されてもよい。また、遠心振子式吸振装置10が連結される回転要素は、ダンパ機構のドリブン部材83(出力要素)に限られず、ダンパ機構の中間部材82やドライブ部材81(入力要素)であってもよい。更に、発進装置1に含まれるダンパ機構は、例えば径方向に離間して配置される複数のスプリング(弾性体)が並列に作用するように構成された並列式ダンパ機構であってもよく、複数の中間要素を有するものであってもよい。
【0037】
以上説明したように、駆動装置からの動力により回転する回転要素と一体に回転する支持部材と、前記支持部材の回転に伴って重心が予め定められた揺動軌道に沿って移動するように前記支持部材により揺動自在に支持される複数の質量体とを備える遠心振子式吸振装置において、前記揺動軌道は、トロコイド曲線により構成されると共に前記質量体の揺動中心線と交差する第1軌道と、それぞれ円弧により構成されると共に前記第1軌道の対応する端点に接続されて該第1軌道の両側に位置する2つの第2軌道とを含むことを特徴とする。
【0038】
この遠心振子式吸振装置は、支持部材の回転に伴って重心が予め定められた揺動軌道に沿って移動するように質量体を支持部材に対して揺動させることで、支持部材と一体に回転する回転要素に対して、当該回転要素の振動とは逆方向の位相を有する振動を付与するものである。そして、この遠心振子式吸振装置において、質量体の揺動軌道は、トロコイド曲線により構成されると共に質量体の揺動中心線と交差する第1軌道と、それぞれ円弧により構成されると共に第1軌道の対応する端点に接続されて当該第1軌道の両側に位置する2つの第2軌道とを含む。このように、トロコイド曲線により構成される第1軌道の両側の端点に、円弧により構成された第2軌道を接続することで、揺動軌道をトロコイド曲線のみにより構成する場合に比べて、遠心振子式吸振装置における質量体の振れ角をより大きくすることができる。
【0039】
また、前記第1軌道の前記端点は、前記トロコイド曲線のカスプであってもよい。これにより、トロコイド曲線の2つのカスプ間の全範囲を揺動軌道として有効に活用しつつ、質量体の振れ角をより大きくすることが可能となる。そして、この場合には、第2軌道の先端(第1軌道とは反対側の端点)を揺動中心線により近づけることができるので、質量体が片側に最も振れた際(最大振幅時)に当該質量体の端部を支持部材の回転中心により近づけることが可能となる。従って、このような遠心振子式吸振装置では、各質量体の振れ角をより大きくしつつ、互いに隣り合うと共に同方向に振れる質量体同士が衝突するのを良好に抑制することができる。
【0040】
更に、前記第1軌道の前記端点は、前記トロコイド曲線のカスプよりも前記揺動中心線側に定められてもよい。これにより、重心が第2軌道に沿って往復移動する際の質量体の振子支点を、重心が第1軌道の範囲内で往復移動する際の質量体の振子支点により近づけることが可能となる。この結果、質量体の振れ角をより大きくしつつ、重心が第1軌道の範囲内で往復移動する際の質量体の振動次数と、重心が第1軌道および第2軌道を含む揺動軌道の全範囲内で往復移動する際の質量体の振動次数とのズレを低減させることができる。
【0041】
また、前記円弧は、前記第1軌道の前記端点での接線と直交する法線と前記揺動中心線との交点を中心とし、前記交点と前記端点との距離を半径とするものであってもよい。これにより、第1軌道と2つの第2軌道とを滑らかに連続させて、遠心振子式吸振装置の質量体を支持部材に対してよりスムースに揺動させることが可能となる。
【0042】
更に、前記第1軌道を構成する前記トロコイド曲線は、エピサイクロイドであってもよい。
【0043】
また、前記第1軌道を構成する前記トロコイド曲線は、前記駆動装置からの振動の次数に応じて定められてもよい。
【0044】
更に、前記遠心振子式吸振装置の前記支持部材および前記質量体の少なくとも何れか一方は、前記質量体の重心が前記揺動軌道に沿って移動するように前記支持部材に対する前記質量体の揺動をガイドするガイド部を有してもよい。
【0045】
そして、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の外延の範囲内において様々な変更をなし得ることはいうまでもない。更に、上記発明を実施するための形態は、あくまで課題を解決するための手段の欄に記載された発明の具体的な一形態に過ぎず、課題を解決するための手段の欄に記載された発明の要素を限定するものではない。