(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6331610
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤの加硫方法
(51)【国際特許分類】
B29C 33/04 20060101AFI20180521BHJP
B29C 35/04 20060101ALI20180521BHJP
B29L 30/00 20060101ALN20180521BHJP
【FI】
B29C33/04
B29C35/04
B29L30:00
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-78608(P2014-78608)
(22)【出願日】2014年4月7日
(65)【公開番号】特開2015-199236(P2015-199236A)
(43)【公開日】2015年11月12日
【審査請求日】2017年4月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100066865
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 信一
(74)【代理人】
【識別番号】100066854
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 賢照
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(74)【代理人】
【識別番号】100117938
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 謙二
(74)【代理人】
【識別番号】100138287
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 功
(72)【発明者】
【氏名】北井 宏尚
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 有二
【審査官】
▲高▼橋 理絵
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−066861(JP,A)
【文献】
実開平05−013713(JP,U)
【文献】
特開平03−199014(JP,A)
【文献】
特開2002−036245(JP,A)
【文献】
特開2012−153133(JP,A)
【文献】
特開2005−324509(JP,A)
【文献】
特開平03−009814(JP,A)
【文献】
特開平11−077704(JP,A)
【文献】
特開2006−026925(JP,A)
【文献】
特開2003−071844(JP,A)
【文献】
特開2012−096437(JP,A)
【文献】
特開2015−016645(JP,A)
【文献】
特開2014−100839(JP,A)
【文献】
米国特許第05240669(US,A)
【文献】
米国特許出願公開第2001/0054782(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/00−33/76
B29C 35/00−35/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチーム注入ライン、窒素ガス注入ラインおよび排出ラインが接続された加硫ブラダを、モールド内部に配置されたグリーンタイヤに挿入し、この加硫ブラダを、前記スチーム注入ラインを通じて注入したスチームと、前記窒素ガス注入ラインを通じて注入した窒素ガスとにより膨張させてグリーンタイヤを加硫する空気入りタイヤの加硫方法において、
前記加硫ブラダに前記スチーム注入ラインを通じてスチームを注入することにより前記加硫ブラダの内圧を初期内圧に上げる第1ステップを行ない、次いで前記スチーム注入ライン、窒素ガス注入ラインおよび排出ラインを閉じた状態にして前記内圧を低下させる第2ステップと、前記スチーム注入ラインのみを開いた状態にして前記加硫ブラダにスチームを注入することにより前記内圧を上げる第3ステップとを繰り返し行なうことにより前記内圧を第1内圧範囲に維持し、次いで前記排出ラインのみを開いた状態にして前記加硫ブラダからスチームの一部を排出させることにより前記内圧を前記第1内圧範囲よりも低い第2内圧範囲に低下させる第4ステップを行ない、次いで前記窒素ガス注入ラインのみを開いた状態にして前記加硫ブラダに窒素ガスを注入することにより前記内圧を上げる第5ステップと、前記スチーム注入ライン、窒素ガス注入ラインおよび排出ラインを閉じた状態にして前記内圧を低下させる第6ステップとを繰り返し行なうことにより前記内圧を前記第1内圧範囲よりも高い圧力に上げ、次いで、前記窒素ガス注入ラインのみを開いた状態にして前記加硫ブラダに窒素ガスを注入することにより前記内圧を上げる第7ステップと、前記スチーム注入ライン、窒素ガス注入ラインおよび排出ラインを閉じた状態にして前記内圧を低下させる第8ステップとを行なうことにより、前記内圧を前記1内圧範囲よりも高い第3内圧範囲に維持することを特徴とする空気入りタイヤの加硫方法。
【請求項2】
前記第6ステップの後に、前記第7ステップおよび前記第8ステップを繰り返し行なう請求項1に記載の空気入りタイヤの加硫方法。
【請求項3】
前記第3内圧範囲の平均圧力と前記第1内圧範囲の平均圧力との差を、前記第1内圧範囲の平均圧力と前記第2内圧範囲の平均圧力との差よりも大きくした請求項1または2に記載の空気入りタイヤの加硫方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤの加硫方法に関し、さらに詳しくは、スチームと窒素ガスを加硫ブラダに注入してグリーンタイヤを加硫する際に、複雑な装置を用いることなく、加硫ブラダの上下温度差を効果的に低減するとともに、加硫時間の長期化を回避でき、エネルギー消費を抑制できる空気入りタイヤの加硫方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
モールド内部に設置されたグリーンタイヤに加硫ブラダを挿入し、この加硫ブラダにスチーム(加熱媒体)および窒素ガス(加圧媒体)を注入してグリーンタイヤを加硫する方法が知られている。このようにスチームと窒素ガスとを用いる加硫方法では、スチームに比して窒素ガスの比重が大きいため、膨張した加硫ブラダの中では、上方にスチームが圧縮された状態で存在し、その下方に窒素ガスが存在した状態になる。そのため、加硫中の加硫ブラダでは、上側の温度が下側に比して高くなって上下温度差が生じる。これに起因して加硫したタイヤでは、加硫した際の上下方向で加硫程度のばらつきが大きくなるという問題がある。
【0003】
このような問題を解決するため、種々の加硫方法、加硫装置が提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。特許文献1では、加硫ブラダ内部に攪拌羽根を設置した加硫機が提案されている。この加硫機では、攪拌羽根を回転させることにより、加硫ブラダ内部のスチームと窒素ガスとが攪拌混合されて加硫ブラダの上下温度差を小さくすることができる。しかしながら、この提案では、加硫ブラダ内部に攪拌羽根を新設しなければならない。これに伴なって加硫設備が複雑になるという問題がある。加硫設備が複雑になると設備故障が発生し易くなるため、簡素な設備にすることが好ましい。特許文献2で提案されている加硫方法および装置でも追加的な設備が必要になる。
【0004】
他方、加硫ブラダの上下温度差を低減させるため、加硫ブラダにスチームを注入する工程において、加硫ブラダにスチームを注入しつつ加硫ブラダからスチームを排出する、いわゆる、スチームスルー操作を行なうことがある。このスチームスルー操作により、新たに注入したスチームが、加硫ブラダ内部で凝縮して生じたドレーンの温度を上昇させて、加硫ブラダの上下温度差を低減することができる。しかし、スチームスルー操作による上下温度差低減効果は一瞬であり持続性がない。また、多量のスチームの注入および排出を伴なうため、多大なエネルギーを消費するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−29035号公報
【特許文献2】特開2012−96437号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、スチームと窒素ガスを加硫ブラダに注入してグリーンタイヤを加硫する際に、複雑な装置を用いることなく、加硫ブラダの上下温度差を効果的に低減するとともに、加硫時間の長期化を回避でき、エネルギー消費を抑制できる空気入りタイヤの加硫方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため本発明の空気入りタイヤの加硫方法は、スチーム注入ライン、窒素ガス注入ラインおよび排出ラインが接続された加硫ブラダを、モールド内部に配置されたグリーンタイヤに挿入し、この加硫ブラダを、前記スチーム注入ラインを通じて注入したスチームと、前記窒素ガス注入ラインを通じて注入した窒素ガスとにより膨張させてグリーンタイヤを加硫する空気入りタイヤの加硫方法において、前記加硫ブラダに前記スチーム注入ラインを通じてスチームを注入することにより前記加硫ブラダの内圧を初期内圧に上げる第1ステップを行ない、次いで前記スチーム注入ライン、窒素ガス注入ラインおよび排出ラインを閉じた状態にして前記内圧を低下させる第2ステップと、前記スチーム注入ラインのみを開いた状態にして前記加硫ブラダにスチームを注入することにより前記内圧を上げる第3ステップとを繰り返し行なうことにより前記内圧を第1内圧範囲に維持し、次いで前記
排出ラインのみを開いた状態にして前記加硫ブラダからスチームの一部を排出させることにより前記内圧を前記第1内圧範囲よりも低い第2内圧範囲に低下させる第4ステップを行ない、次いで前記窒素ガス注入ラインのみを開いた状態にして前記加硫ブラダに窒素ガスを注入することにより前記内圧を上げる第5ステップと、前記スチーム注入ライン、窒素ガス注入ラインおよび排出ラインを閉じた状態にして前記内圧を低下させる第6ステップとを繰り返し行なうことにより前記内圧を前記第1内圧範囲よりも高い圧力に上げ、次いで、前記窒素ガス注入ラインのみを開いた状態にして前記加硫ブラダに窒素ガスを注入することにより前記内圧を上げる第7ステップと、前記スチーム注入ライン、窒素ガス注入ラインおよび排出ラインを閉じた状態にして前記内圧を低下させる第8ステップとを行なうことにより、前記内圧を前記1内圧範囲よりも高い第3内圧範囲に維持することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、スチーム注入ライン、窒素ガス注入ラインおよび排出ラインの開閉操作(開閉弁の弁操作)によって、加硫中の膨張している加硫ブラダの内圧をコントロールするだけなので、複雑な装置が不要になる。従来のように、スチームが凝縮して生じた加硫ブラダ内部のドレーンの温度を上昇させる目的でスチームスルー操作を行なうことがないので、多量のスチームの注入および排出がなくなり、エネルギー消費を大幅に抑制できる。
【0009】
そして、密封状態の加硫ブラダにスチームを断続的に注入して、加硫ブラダの内圧を第1内圧範囲に維持することで、加硫ブラダの内部にドレーンが発生する初期段階から加硫ブラダ内部のドレーンを高温に維持して加硫ブラダの上下温度差を効果的に低減させることができる。加硫ブラダの内圧を第1内圧範囲に維持した後、加硫ブラダからスチームの一部を排出させて第2内圧範囲に低下させることにより、加硫ブラダの内部のスチームの温度を急激に下げて、加硫ブラダの上下温度差を効果的に低減させることができる。
【0010】
次いで、密封状態の加硫ブラダに窒素ガスを断続的に注入して、第2内圧範囲にある加硫ブラダの内圧を第1内圧範囲よりも高い圧力の第3内圧範囲に維持することで、加硫中の膨張している加硫ブラダ内部の上方の温度上昇を抑制して上下温度差を効果的に低減させることができる。この際に、加硫ブラダ内部の上方の温度上昇を主に抑制するので、加硫時間が長くなる弊害も回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の空気入りタイヤの加硫方法を実施するシステムの全体概要を例示する説明図である。
【
図2】加硫ブラダの内圧Pと加硫経過時間Tとの関係を模式的に例示するグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の空気入りタイヤの加硫方法を図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0013】
本発明の空気入タイヤの加硫方法は、
図1に例示する加硫システム1を使用する。この加硫システム1は、ゴム製の筒状の加硫ブラダ2を有している。加硫ブラダ2の上側クランプ部3a、下側クランプ部3bはそれぞれ、中心機構4に取り付けられた円盤状の上側クランプ保持部5a、下側クランプ保持部5bにより保持される。中心機構4のセンターポストには、加硫ブラダ2の内部に加熱媒体となるスチームSおよび加圧媒体となる窒素ガスNを注入する注入口6と、加硫ブラダ2の内部のスチームSおよび窒素ガスNを加硫ブラダ2の外部に排出する排出口7とが設けられている。
【0014】
この加硫システム1は、さらに、注入口6とスチーム供給源11とを接続して加硫ブラダ2に連通可能に接続されるスチーム注入ライン6a、注入口6と窒素ガス供給源12とを接続して加硫ブラダ2に連通可能に接続される窒素ガス注入ライン6bおよび排出口7につながって加硫ブラダ2に連通可能に接続される排出ライン7aを有している。スチーム注入ライン6a、窒素ガス注入ライン6b、排出ライン7aにはそれぞれ、開閉弁8a、8b、8cが設けられている。さらに、それぞれの開閉弁8a、8b、8cを開閉する弁操作を制御する制御装置10が備わっている。
【0015】
本発明の空気入りタイヤの加硫方法を実施するには、まず、グリーンタイヤGをモールド9の内部に横置き状態で配置する。この実施形態では、モールド9は周方向に複数に分割された環状のセクタ9aと、上側に配置される環状のサイドプレート9b、下側に配置される環状のサイドプレート9cで構成されている。加硫ブラダ2はグリーンタイヤGの内側に挿入され、モールド9を閉型した状態にする。
【0016】
この状態で以下のステップ1〜ステップ8(S1〜S8)の工程を行なって、加硫中の加硫ブラダ2の内圧Pを
図2の実線で模式的に例示するようにコントロールする。このステップ1〜ステップ8の工程で、膨張する加硫ブラダ2によってグリーンタイヤGの内周面は押圧され、これに伴い、グリーンタイヤGはモールド9に押圧されつつ加熱される。
【0017】
まず、開閉弁8aのみを開弁して、スチーム注入ライン6aを通じてスチーム供給源11から供給されたスチームSを加硫ブラダ2に注入する。注入するスチームSの温度は例えば150℃〜250℃程度である。
【0018】
注入したスチームSにより加硫ブラダ2の内圧Pを所定の初期内圧Psに上げて、グリーンタイヤGの内壁面に沿ってドーナツ状に膨張させる(第1ステップ)。初期内圧Psの加硫ブラダ2によって、グリーンタイヤGの内周面を押圧してグリーンタイヤGをモールド9に押圧しつつ加熱する。
【0019】
次いで、開閉弁8aを閉弁して、スチーム注入ライン6a、窒素ガス注入ライン6bおよび排出ライン7aのすべてのラインを閉じた状態にして加硫ブラダ2の内圧Pを低下させる。(第2ステップ)。その後、開閉弁8aのみを開弁して、スチーム注入ライン6aを通じてスチーム供給源11から供給されたスチームSを加硫ブラダ2に注入して内圧Pを上げる(第3ステップ)。加硫ブラダ2の内部に供給したスチームSの一部は、加硫ブラダ2の内部で凝縮して下方に流れ落ちてドレーンDになるので、第2ステップと第3ステップを繰り返し行なって、内圧Pを初期内圧Psとほぼ同等の圧力の第1内圧範囲A1に維持する。第1内圧範囲A1の上限と下限の圧力差は例えば0.2MPa〜0.5MPaである。
【0020】
次いで、開閉弁8cのみを開弁して排出ライン7aのみを開いた状態にして、排出ライン7aを通じて、膨張した加硫ブラダ2の内部からスチームSの一部を外部に排出させて、内圧Pを第1内圧範囲A1よりも低い圧力の第2内圧範囲A2に低下させる(第4ステップ)。これにより、加硫ブラダ2の内部のスチームSの温度が急激に低下して、加硫ブラダ2内部の上下温度差が小さくなる。
【0021】
次いで、開閉弁8bのみを開弁して、窒素ガス注入ライン6bのみを開いた状態にして窒素ガス注入ライン6bを通じて、窒素ガス供給源12から供給された窒素ガスNを加硫ブラダ2に注入して内圧Pを上げる(第5ステップ)。注入する窒素ガスNの温度は常温である。その後、開閉弁8bを閉弁し、スチーム注入ライン6a、窒素ガス注入ライン6bおよび排出ライン7aのすべてのラインを閉じた状態にして内圧Pを下げる(第6ステップ)。第5ステップと第6ステップを繰り返し行なって、第2内圧範囲A2にある内圧Pを第1内圧範囲A1よりも高い圧力に徐々に上げる。
【0022】
次いで、開閉弁8bのみを開弁して、窒素ガス注入ライン6bのみを開いた状態にして窒素ガス注入ライン6bを通じて、窒素ガス供給源12から供給された窒素ガスNを加硫ブラダ2に注入して内圧Pを上げる(第7ステップ)。或いは、開閉弁8bを閉弁し、スチーム注入ライン6a、窒素ガス注入ライン6bおよび排出ライン7aのすべてのラインを閉じた状態にして内圧Pを下げる(第8ステップ)。第7ステップと第8ステップを順不同で行なうことにより、内圧Pを第1内圧範囲A1よりも高い圧力の第3内圧範囲A3に維持する。第3内圧範囲A3の上限と下限の圧力差は例えば0.1MPa〜0.4MPaである。以後、予め設定された加硫時間Teが経過するまで、必要に応じてステップ7およびステップ8を繰り返し行なう。例えば、タイヤの仕様によって異なるが、ステップ7およびステップ8を1回〜5回繰り返し行なう。
【0023】
例えば第7ステップおよび第8ステップを繰り返す周期は、第5ステップおよび第6ステップを繰り返す周期よりも長くする。また、例えば第3内圧範囲A3の平均圧力と
第1内圧範囲A1の平均圧力との差は、第1内圧範囲A1の平均圧力と第2内圧範囲A2の平均圧力との差よりも大きくする。
【0024】
予め設定された加硫時間Teが経過した後は、上側のサイドプレート9bを上方移動させ、それぞれのセクタ9aを拡径方向に移動させてモールド9を開型する。次いで、加硫されたタイヤを上方移動させて加硫ブラダ2から抜き出す。
【0025】
本発明では上記のとおり、スチーム注入ライン6a、窒素ガス注入ライン6bおよび排出ライン7aの開閉操作(開閉弁8a、8b、8cの弁操作)により、加硫中の膨張している加硫ブラダ2の内圧Pをコントロールするだけである。それ故、複雑な装置が不要であり簡便な装置にすることができる。これにより、既存の加硫設備であっても大掛かりな改造をすることなく容易に本発明を適用することが可能である。
【0026】
本発明は、従来のように、スチームSが凝縮して生じた加硫ブラダ2の内部のドレーンDの温度を上昇させる目的でスチームスルー操作を行なうことがない。そのため、本発明で使用するスチームSの量は、スチームスルー操作をおこなう従来方法に比して少量になり、エネルギー消費を大幅に抑制できる。
【0027】
また、第2ステップと第3ステップとを繰り返し行なって、加硫ブラダ2の内圧Pをコントロールすることで、加硫ブラダ2の内部にドレーンDが発生する初期段階から加硫ブラダ2の内部のドレーンDを高温に維持して加硫ブラダ2の上下温度差を効果的に低減させることができる。
【0028】
第4ステップにより、スチームSで膨張させた加硫ブラダ2の内部から、スチームSの一部を排出させて内圧Pを第1内圧範囲A1から第2内圧範囲A2に低下させることで、加硫ブラダ2の内部のスチームSの温度を急激に下げることができる。これにより、加硫ブラダ2の上下温度差を効果的に低減させることができる。
【0029】
その後、第5ステップ〜第8ステップにおいて、窒素ガスNを加硫ブラダ2に断続的に注入して、加硫中の加硫ブラダ2の内圧Pをコントロールすることで、加硫中の膨張している加硫ブラダ2内部の上方の温度上昇が抑制される。それ故、加硫ブラダ2の上下温度差を効果的に低減させることが可能になり、ひいては、加硫した際のタイヤの上下方向における加硫程度のばらつきを小さくすることができる。また、加硫ブラダ2の内部の上方の温度上昇を主に抑制するので、加硫時間が延びるという弊害も回避できる。
【0030】
所定の初期内圧Ps、第1内圧範囲A1、第2内圧範囲A2、第3内圧範囲A3のそれぞれの圧力値やその圧力値を維持する時間は、加硫するグリーンタイヤGの仕様(サイズ、形状、ゴム種など)によって異なる。そのため、予め、加硫するグリーンタイヤGと同じ仕様のグリーンタイヤGを用いてテスト加硫を行ない、これらの最適値を把握して制御装置10に入力しておく。そして、制御装置10に入力されたこれらの最適値に基づいて、スチーム注入ライン6a、窒素ガス注入ライン6bおよび排出ライン7aの開閉操作(開閉弁8a、8b、8cの弁操作)を行なう。
【0031】
本発明を用いて加硫するタイヤの種類は特に限定されない。サイド部が通常のタイヤに比して厚いランフラットタイヤを、スチームSと窒素ガスNを用いた従来方法で加硫すると、横置き状態で加硫する際に上側になるサイド部のゴムと下側になるサイド部のゴムとで、加硫程度のばらつきが大きくなり易い。そのため、本発明を用いて加硫することで、ランフラットタイヤの両サイド部のゴムの加硫程度のばらつきが小さくなり、顕著な効果を得ることができる。
【実施例】
【0032】
ランフラット仕様の空気入りタイヤ(235/40RF18)のグリーンタイヤのサンプルを横置き状態で、スチームおよび窒素ガスを用いて加硫する際に、
図1に例示した同様の加硫装置を用いて、スチーム注入ライン、窒素ガス注入ラインおよび排出ラインの開閉操作(開閉弁の弁操作)を異ならせて、3種類の方法(実施例、従来例、比較例)で加硫を行なった。実施例は、
図2の実線と同様に加硫ブラダの内圧Pをコントロールした。従来例は、加硫ブラダにスチームを注入して内圧Pを初期内圧Psにして所定時間経過後、スチームスルー操作を行なって内圧Pを若干下げ、その後、加硫ブラダに1度窒素ガスを注入して内圧Pを第3内圧範囲に上げて加硫ブラダをそのままの密封状態にして第3内圧範囲を維持した。比較例は、スチームスルー操作をしないことだけが従来例と異なる方法であり、加硫ブラダにスチームを注入して初期内圧Psにして所定時間経過後、加硫ブラダに1度窒素ガスを注入して内圧Pを第3内圧範囲に上げて加硫ブラダをそのままの密封状態にして第3内圧範囲を維持した。
【0033】
その結果、実施例は、従来例に対してスチームの使用量を約50%以上低減することができた。また、加硫終了時の加硫ブラダの上下温度差については、実施例は比較例に対して80%〜90%程度小さくすることができ、従来例に対して20%程度小さくすることができた。
【符号の説明】
【0034】
1 加硫システム
2 加硫ブラダ
3a 上側クランプ部
3b 下側クランプ部
4 中心機構
5a 上側クランプ保持部
5b 下側クランプ保持部
6 注入口
6a スチーム注入ライン
6b 窒素ガス注入ライン
7 排出口
7a 排出ライン
8a、8b、8c 開閉弁
9(9a、9b、9c) モールド
10 制御装置
11 スチーム供給源
12 窒素ガス供給源
G グリーンタイヤ