(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように、リアクトルを構成する注型樹脂にフィラーを混合すると、注型樹脂の熱伝導性を向上させることができるが、引用文献2にも示されるように、多量のフィラーを混合すると、注型樹脂が脆くなってしまう等、注型樹脂の機械的特性が低下しやすくなる。すると、リアクトルが、低温と高温が交互に繰り返される冷熱衝撃に晒された際に、注型樹脂に割れが生じやすくなる。
【0005】
一方、リアクトルにおいて、コイルへの通電時、隣接するコイルターン間に働く相互作用により、コイルに振動が生じる。注型樹脂に割れが生じていると、このコイルの振動が大きくなる場合がある。また、注型樹脂の割れは、絶縁保持等、注型樹脂の機能も低下させる可能性があり、さらに、リアクトルの外観も損なう。
【0006】
本発明の解決しようとする課題は、コイルの放熱性と、低温での注型樹脂の割れの抑制が両立されたリアクトル、およびそのようなリアクトルを与える注型樹脂を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため本発明にかかるリアクトルは、コイルと、前記コイルが収容されたケースと、前記ケースの内部に充填された注型樹脂と、を有し、前記コイルは、前記ケースの底面に一体的に固定され、前記注型樹脂は、熱機械分析法で測定したガラス転移温度が−30℃以下であり、室温における引張弾性率が10MPa以下であり、破断伸びが20%以上であることを要旨とする。
【0008】
ここで、前記注型樹脂は、1.7g/cm
3以下の比重を有することが好ましい。
【0009】
また、前記注型樹脂は、0.3W/m・K以上の熱伝導率を有することが好ましい。
【0010】
そして、前記注型樹脂は、ウレタン系またはエポキシ系の硬化性樹脂であるとよい。
【0011】
本発明にかかる注型樹脂は、熱機械分析法で測定したガラス転移温度が−30℃以下であり、室温における引張弾性率が10MPa以下であり、破断伸びが20%以上であることを要旨とする。
【発明の効果】
【0012】
上記発明にかかるリアクトルにおいては、注型樹脂が、−30℃以下のガラス転移温度を有しており、かつ室温において、10MPa以下の引張弾性率および20%以上の破断伸びを有しているため、−30℃付近の低温においても、大きな破断伸びと低い引張弾性率を有し、柔軟な状態にある。これにより、低温での通電時にコイルが振動し、注型樹脂に応力が加えられても、注型樹脂がコイルによる圧縮および引張に追随して可逆的に変形することができ、割れを生じにくい。
【0013】
一方、ケースの底面にコイルが一体的に固定されていることにより、コイルの放熱が底板を介して効果的に行われる。上記のように、低い引張弾性率および大きな破断伸びを有する注型樹脂は、熱伝導率が高くない場合が多いが、ケース底面からのコイルの放熱が効果的に行われることで、リアクトル全体として、高い放熱性が確保される。
【0014】
ここで、注型樹脂が、1.7g/cm
3以下の比重を有する場合には、注型樹脂中において、樹脂成分に比べて比重の大きいフィラーの含有量が制限される。フィラーを多量に含有させると、注型樹脂の引張弾性率が高くなりやすく、破断伸びが小さくなりやすいので、フィラーの含有量が制限されることで、注型樹脂の引張弾性率が低く、破断伸びが大きい注型樹脂が得られやすい。これにより、低温における割れの発生が効果的に低減される。
【0015】
また、注型樹脂が、0.3W/m・K以上の熱伝導率を有する場合には、その熱伝導率に応じて、注型樹脂を介したコイルの放熱が起こるので、コイルの放熱性が確保されやすい。
【0016】
そして、注型樹脂が、ウレタン系またはエポキシ系の硬化性樹脂である場合には、引張弾性率が低く、破断伸びが大きい注型樹脂を調製しやすい。
【0017】
上記発明にかかる注型樹脂を用いれば、上記のように、コイルの放熱性と低温での注型樹脂の割れの抑制が両立されたリアクトルを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を用いて本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0020】
図1および
図2に、本発明の一実施形態にかかるリアクトル1および、リアクトル1を構成するコイル10を示す。リアクトル1は、全体の物理的な構造としては、特許文献1に記載されるリアクトルと同様の構造を有し、後述する注型樹脂40の構成に主な特徴を有する。
【0021】
<リアクトルの全体構成>
図1,2に示すように、リアクトル1は、コイル10と磁心20の組合体を、ケース30に収容した構造を基本としてなる。
【0022】
コイル10は、導体線の外周を絶縁被覆層によって被覆した素線を、螺旋状に巻き回したものである。コイル10は、2本の直線部10a,10aを、巻き回し方向を揃えて2本並べた全体形状を有している。導体線は、例えば、銅または銅合金、アルミニウムまたはアルミニウム合金等の金属よりなる。絶縁被覆層は、例えば、ポリアミドイミドに代表されるエナメル材よりなる。また、素線の形状としては、放熱(冷却)性を上げ、また巻き回しの密度を高める観点から、平角線であることが好ましい。そして、コイル10は、固定の容易性等の観点から、角柱の角を丸めた形状を有する角型コイルとして形成されることが好ましい。
【0023】
コイル10は、各直線部10aの中空部に磁心20が挿入された組合体とされ、ケース30中に収容される。磁心20は、例えば、磁性材料よりなるコア部21と非磁性材料よりなるギャップ部22が交互に接続された構造を有する。組合体においては、さらに、コイル10と磁心20の間に適宜インシュレータが介在されてもよい(不図示)。
【0024】
ケース30は、コイル10と磁心20の組合体が載置され、固定される底面31と、底面31の外周に立設された側壁面32を有し、底面31と対向する側壁面32の上部には、開口部33が設けられている。底面31は、高い熱伝導性を有し、コイル10の放熱(冷却)を促進できるように、アルミニウムまたはアルミニウム合金等の金属よりなることが好ましい。一方、側壁面32は、絶縁性等の観点から、樹脂材料よりなることが好ましい。底面31と側壁面32の間には、注型樹脂40の漏出を防止するパッキン(不図示)が適宜設けられる。
【0025】
コイル10と磁心20の組合体は、開口部33からケース30に収容され、底面31上に載置されて、底面31に対して一体的に固定される。底面31へのコイル10の固定は、接着性を有する絶縁性樹脂材料を含んでなる接合層(不図示)を介して行われる。つまり、コイル10は、接合層を介して、底面31に直接接触しており、コイル10と底面31の間に、注型樹脂40は介在しない。このように、コイル10がケース30の底面31に一体的に固定されることで、コイル10が通電によって発熱しても、ケース30の底面31を介して、効率的に放熱(冷却)が行われる。接合層は、コイル10と底面31との間の絶縁を保持しながら、コイル10を底面31に一体的に固定できるものであれば、どのような樹脂組成物よりなってもよく、2層以上からなってもよい。例えば、接合層を、コイル10側に配置される接着層と底面31側に配置される放熱層から構成する形態が挙げられる。接着層は、エポキシ系接着剤、アクリル系接着剤等、高い絶縁性と接着性を有する樹脂材料より構成すればよく、放熱層は、金属酸化物、炭化物、窒化物等の無機化合物より構成すればよい。
【0026】
コイル10と磁心20の組合体を収容したケース30の内部の空間には、注型樹脂40が充填されている。注型樹脂40は、コイル10とケース30の側壁面32の間の空間を満たすとともに、コイル10のコイルターン(螺旋の各ピッチ)の間の空間を満たしている。注型樹脂40は、コイル10の絶縁を保つ役割を果たす。ここで、コイル10の絶縁とは、コイル10全体の外部に対する絶縁のみならず、コイルターン間の絶縁も含むものである。また、注型樹脂40は、コイル10の放熱(冷却)を促進する役割も果たし、コイル10の放熱(冷却)は、上記のようにケース30の底面31を介して進行するとともに、注型樹脂40を介しても進行する。
【0027】
リアクトル1は他に、端子81、各種センサ82等、運転および制御に必要な部材を適宜備える。組み上げられたリアクトル1は、ケース30の底面31にて、DC−DCコンバータ中等、所定の取付部位に固定される。底面31と接触する取付部位には、適宜、水冷機構等の冷却機構が設けられてもよい。この場合、コイル10は、底面31を介して、冷却機構によって積極的に冷却されることになる。
【0028】
<注型樹脂の構成>
本実施形態にかかるリアクトル1において用いられる注型樹脂40は、樹脂成分(有機高分子成分)に、必要に応じてフィラー等の添加剤が混合されてなり、絶縁性を有する。
【0029】
注型樹脂40は、熱機械分析(TMA)によって変曲点の温度として得られるガラス転移温度が、−30℃以下である。樹脂材料は、ガラス転移温度以上の温度域では、高い柔軟性を示すが、ガラス転移温度よりも低い温度域では、ガラス状態となり、脆くなってしまう。本リアクトル1の注型樹脂40は、−30℃以下のガラス転移温度を有するので、−30℃程度の低温に至るまで、高い柔軟性を有する状態を維持する。−30℃との温度は、車両に搭載されたリアクトル1が使用される環境として想定されるものである。
【0030】
注型樹脂40のガラス転移温度は、低いほど好ましく、上限値は特に定められない。ガラス転移温度の評価方法として、TMA法以外に、動的機械分析(DMA)法、示差走査熱量測定(DSC)法等、他の方法も用いられるが、ここでは、これらのうち、TMA法による計測値として、注型樹脂40のガラス転移温度を規定している。TMA法は、機械的物性値の直接的変化を確認できる簡便な手法だからである。
【0031】
また、本リアクトル1の注型樹脂40は、室温において、10MPa以下の引張弾性率と、20%以上の破断伸びを有している。樹脂材料は、引張弾性率が小さいほど、応力を受けた際に弾性変形を起こしやすく、破壊を受けにくい。また、破断伸びが大きいほど、樹脂材料が、周囲の部材の収縮などよる変形に可逆的に追随しやすい。リアクトル1において、コイル10に交流が入力されると、コイルターン間に相互作用が生じることで、コイル10全体や、コイルターン相互の間に、振動が生じる。コイル10がこのような振動を起こすと、コイル10の素線に接触している注型樹脂40が、圧縮方向や引張方向に応力を受ける。しかし、本リアクトル1の樹脂においては、室温において、10MPa以下の低い引張弾性率と20%以上の大きな破断伸びを有しており、コイル10の振動に追随して可逆的に変形しやすくなっている。よって、コイル10が振動しても、注型樹脂40は割れを生じにくくなっている。
【0032】
注型樹脂40の割れが抑制されていることにより、コイル10の絶縁性の保持等、注型樹脂40の役割が保持されやすい。また、注型樹脂40の割れによるリアクトル1の外観の悪化も抑制することができる。
【0033】
引張弾性率、破断伸びとも、温度に依存する物性であるが、ガラス転移温度よりも高温では、温度が変化しても緩やかにしか変化しないのに対し、ガラス転移点を境に、低温側では急激に変化する。後に説明する実施例において、温度を変えて注型樹脂40の引張弾性率を測定しているが、この傾向が顕著に示されており、引張弾性率は、ガラス転移温度より高温では、温度の低下に対して緩やかに上昇しているのに対し、ガラス転移温度より低温では、急激に上昇している。つまり、注型樹脂40が−30℃以下のガラス転移温度を有することで、おおむね−30℃程度の低温領域に至るまで、引張弾性率は、室温で測定された値から大きくは上昇せず、破断伸びも、室温で測定された値から著しくは低下しない。つまり、リアクトル1の使用環境として想定される−30℃程度の低温に至るまで、注型樹脂40は、柔軟で変形しやすい状態を維持し、コイル10の振動に追随して変形できることになる。よって、−30℃程度の低温に至るまで、注型樹脂40の割れが抑制される。
【0034】
注型樹脂40の引張弾性率は、割れの抑制という観点からは、低いほど好ましいが、
コイル10の振動時に発生する圧縮応力に抵抗できるようにする観点からは、室温において、1MPa以上であることが好ましい。破断伸びに関しては、大きいほど好ましく、特に上限値は定められない。なお、注型樹脂40の引張弾性率および破断伸びは、ASTM D638に準拠する方法等、公知の測定方法を用いて評価することができる。
【0035】
このように、本リアクトル1の注型樹脂40においては、低い引張弾性率と大きな破断伸びを有することで、特に低温領域における割れを抑制しているが、樹脂材料にフィラーを多量に混合するほど、引張弾性率が高くなり破断伸びが小さくなる傾向がある。上記のように、注型樹脂40において、10MPa以下の引張弾性率や20%以上の伸びを達成するためには、注型樹脂40におけるフィラーの含有量を、従来一般のリアクトルの場合よりもかなり少なくする必要がある。しかし、フィラーの含有量を少なくすると、注型樹脂40の熱伝導率が小さくなり、コイル10が発熱した際に、注型樹脂40を介した放熱(冷却)が起こりにくくなる。つまり、本リアクトル1の注型樹脂40においては、低い引張弾性率と大きな破断伸びを有することが規定されていることにより、フィラーの添加によって、注型樹脂40を介したコイル10の放熱(冷却)が十分に起こるほど高い熱伝導率を付与することが難しい。しかし、本リアクトル1においては、上記のように、コイル10が、ケース30の底面31に一体的に固定され、ケース30の底面31を介して、コイル10の放熱(冷却)が高い効率で行われる。よって、注型樹脂40が高い熱伝導率を有していなくても、リアクトル1全体として、コイル10の放熱(冷却)性を確保することができる。
【0036】
リアクトル1において、通電時にコイル10が発熱した際に、放熱(冷却)が効果的に行われなければ、コイル10や磁心20が加熱され、リアクトル1の出力特性が低下する。また、コイル10からの発熱により、はんだ部の溶断や接着部の剥離等、コイル10周辺に配置された他の部材にも影響を及ぼし、走行中の車両の停止や、部材の不可逆的な損傷等にもつながる可能性がある。しかも、導体抵抗の温度特性によりコイル10の発熱は、加速度的に進む。しかし、本リアクトル1においては、全体として、十分な放熱(冷却)性が確保されることで、このような事態を回避し、安定な出力を得ることができる。
【0037】
従来一般のリアクトルの注型樹脂においては、コイルの発熱によって高温になった際の機械的強度を確保するとともに、コイルの放熱(冷却)を図る観点から、注型樹脂として、高いガラス転移温度、高い引張弾性率、小さい破断伸びを有する樹脂材料が用いられることが多かった。このような注型樹脂は、特に低温領域において、割れを生じやすい。これに対し、本リアクトル1においては、コイル10の放熱(冷却)性を維持しながら、ガラス転移温度が低く、引張弾性率が低く、破断伸びが大きい注型樹脂40を使用することで、特に低温での割れの発生を抑制している。
【0038】
上記のように、本リアクトル1においては、コイル10がケース30の底板31に一体的に固定されており、底板31を介してコイル10の放熱(冷却)が効果的に行われることから、注型樹脂40が高い熱伝導率を有する必要はない。しかし、注型樹脂40が0.3W/m・K以上の熱伝導率を有していれば、その熱伝導率に応じて、注型樹脂40を介したコイル10の放熱(冷却)が、底板31を介したコイル10の放熱(冷却)に加えて進行する。これにより、リアクトル1において、コイル10の放熱(冷却)性を一層高めることができる。注型樹脂40の熱伝導率は、レーザーフラッシュ法、熱線法、ホットディスク法等、公知の方法にて評価することができる。
【0039】
本リアクトル1の注型樹脂40においては、引張弾性率が所定の値以下に、破断伸びが所定の値以上に規定されている。上記でも述べたが、フィラーを注型樹脂40に添加すると、注型樹脂40の引張弾性率が上昇し、破断伸びが低下する傾向がある。しかし、フィラーは、注型樹脂40の熱伝導率を上昇させるのに高い効果を有する物質であり、少量であれば添加してもよい。一般に、樹脂成分にフィラーが混合されてなる樹脂材料において、フィラーは、樹脂成分よりも大きな比重を有する。本リアクトル1の注型樹脂40においては、おおむね、注型樹脂40全体の比重が1.7g/cm
3以下となる量を限度としてフィラーを添加すれば、引張弾性率および破断伸びを上記所定の範囲に維持できる可能性が高い。加えて、注型樹脂40の比重を1.7g/cm
3以下とすることで、リアクトル1全体の質量が大きくなりすぎることが防がれるという効果も奏される。これは、リアクトル1が搭載される車両の燃費低減にもつながる。注型樹脂40の比重は、例えばJIS K5400に準拠した方法等、公知の方法にて評価することができる。
【0040】
注型樹脂40を構成する樹脂成分の具体的な種類は、−30℃以下のガラス転移温度と、室温での測定値で10MPa以下の引張弾性率および20%以上の破断伸びが注型樹脂40において実現できるものであれば、特に制限されない。
【0041】
注型樹脂40を構成する樹脂成分としては、流動性の高い状態で、コイル10とケース30の側壁面32の間の空間や、コイルターン間の空間に、隙間なく浸透させて充填してから、固化させられる点において、硬化性樹脂を用いることが好ましい。硬化性樹脂としては、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂、湿気硬化性樹脂、二液反応硬化性樹脂等を挙げることができる。特に、ケース30中に充填した注型樹脂40を容易に固化させられる点において、熱硬化性樹脂を用いることが好ましい。また、樹脂種としては、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂(軟エポキシ樹脂および硬エポキシ樹脂)、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレア樹脂などを挙げることができる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。上記樹脂の中で、特に低い引張弾性率と大きい破断伸びを実現しやすいという点において、ウレタン樹脂またはエポキシ樹脂を用いることが好ましい。
【0042】
注型樹脂40は、樹脂成分に加え、フィラー以外にも、着色用顔料、粘度調整剤、老化防止剤、保存安定剤、分散剤などの添加剤を適宜添加されてもよい。なお、注型樹脂40にこれらの添加剤が添加される場合に、上記で規定されるガラス転移温度、引張弾性率、破断伸びをはじめとする注型樹脂40の諸物性値は、添加剤を添加した状態で得られる値である。
【実施例】
【0043】
以下に本発明の実施例、比較例を示す。なお、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。
【0044】
<試験試料の作製>
図1のような構造を有するリアクトルを作製した。そして、注型樹脂をケース内に注入し、硬化させて、実施例1〜3および比較例1〜3にかかるリアクトルとした。用いた注型樹脂の種類と諸物性を、下記表1にまとめて示す。
【0045】
注型樹脂の各物性値は、以下の方法によって測定したものである。
・ガラス転移温度:TMA法による変曲点を利用
・破断伸び:ASTM D638に準拠し、室温で測定
・引張弾性率:ASTM D638に準拠し、引張試験機を用いて、室温(RT)、−20℃、−40℃で測定
・熱伝導率:熱線法を用い、常法にて測定
・比重:JIS K5400に準拠し、室温で測定
【0046】
<試験方法>
[冷熱衝撃による割れの評価]
各リアクトルについて、−30℃と150℃にて、各1.5時間の通電を行うサイクルを500回繰り返した。その後、目視にて、注型樹脂に割れ(亀裂)が発生しているかどうかを確認した。割れの有無は、注型樹脂の表面および、切断面において確認した。表面にも切断面にも割れが発生していなかったものを合格「○」とし、表面または切断面のいずれか少なくとも一方に割れが発生していたものを不合格「×」とした。
【0047】
[出力特性]
リアクトルに通電を行い、通電に伴う昇温によって、出力特性が低下するかどうかを評価した。
【0048】
<試験結果>
各実施例および比較例にかかるリアクトルについて、注型樹脂の種類および物性と冷熱衝撃による割れの評価結果を表1に示す。出力特性の評価については、いずれのリアクトルにおいても、昇温に伴う出力特性の低下は認められず、十分な放熱が行われていることが確認された。
【0049】
【表1】
【0050】
試験結果によると、実施例1〜3にかかるリアクトルにおいては、冷熱衝撃によって、注型樹脂に割れが発生しなかった。この結果は、注型樹脂が、−30℃以下のガラス転移温度を有し、室温での測定値で10MPa以下の引張弾性率と20%以上の破断伸びを有することにより、注型樹脂が、とりわけ低温領域において、高い柔軟性を有し、コイルの振動に追随して変形しやすいことに起因して、注型樹脂の割れが防止されたと解釈される。この結果と、リアクトルの出力特性評価において、コイルの発熱による特性の低下が見られなかったという結果を合わせると、実施例1〜3にかかるリアクトルにおいては、低温における割れの防止とコイルの放熱性が両立されていることが分かる。
【0051】
一方、比較例1〜3においては、冷熱衝撃によって、注型樹脂に割れが形成されている。比較例1〜3で用いた注型樹脂は、−30℃以下のガラス転移温度、室温での測定値で10MPa以下の引張弾性率、20%以上の破断伸びのうち、少なくとも1つの条件を満たしていない。これにより、主に低温での柔軟性が不十分となり、割れが生じたものと解釈される。