(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6331633
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】ワイヤボンディング装置およびワイヤボンディング方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/60 20060101AFI20180521BHJP
B23K 20/10 20060101ALI20180521BHJP
【FI】
H01L21/60 301G
H01L21/60 301D
B23K20/10
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-85666(P2014-85666)
(22)【出願日】2014年4月17日
(65)【公開番号】特開2015-207592(P2015-207592A)
(43)【公開日】2015年11月19日
【審査請求日】2017年3月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161562
【弁理士】
【氏名又は名称】阪本 朗
(72)【発明者】
【氏名】百瀬 文彦
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 隆
(72)【発明者】
【氏名】木戸 和優
(72)【発明者】
【氏名】西村 芳孝
【審査官】
加藤 芳健
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−171964(JP,A)
【文献】
特開2007−335708(JP,A)
【文献】
特開平06−104306(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/60
B23K 20/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤボンディングによって電極とアルミニウム合金製のワイヤとを電気的に接続するワイヤボンディング装置において、
直径500μm以上600μm以下の前記ワイヤを供給するワイヤ供給装置と、
前記ワイヤを50℃以上75℃以下に加熱する加熱装置と、
前記電極に前記ワイヤを加圧する加圧装置と、
前記加圧装置で加圧された前記ワイヤに超音波振動を加える超音波発生装置と、
を備えることを特徴とするワイヤボンディング装置。
【請求項2】
請求項1に記載のワイヤボンディング装置において、
前記加熱装置は、前記ワイヤを通す貫通孔の内壁に設けられたヒータで前記ワイヤを加熱するワイヤヒータ、および、前記電極を介して前記ワイヤを加熱する平板ヒータであり、
前記ワイヤの温度を計測する温度センサと、
前記温度センサの計測値と設定温度とを比較して前記加熱装置の出力を制御する制御装置とを備え、
前記加圧装置は、前記超音波発生装置の超音波振動を伝達するホーンと、前記ホーンの端部に着脱可能に固定されたボンディングチップとを備え、かつ前記ホーンと接する部材をばねで付勢でき、ばねの長さを調節することで前記ボンディングチップが前記ワイヤを押さえる荷重を調節する機構を備える
ことを特徴とするワイヤボンディング装置。
【請求項3】
加熱処理、加圧処理および超音波処理を伴ったワイヤボンディングによって電極とアルミニウム合金製のワイヤとを電気的に接続するワイヤボンディング方法において、
前記ワイヤの温度を50℃以上75℃以下にする加熱工程と、
前記電極上に直径500μm以上600μm以下の前記ワイヤを載せ加圧する加圧工程と、
50℃以上75℃以下になった前記ワイヤを前記加圧工程中に、前記ワイヤへ超音波振動を加える超音波処理工程と、
を備えることを特徴とするワイヤボンディング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直径500μm以上600μm以下のワイヤを半導体素子上の電極へワイヤボンディングできる半導体装置の製造装置および半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ワイヤボンディングする際に、超音波処理、加圧処理および加熱処理を伴ってワイヤボンディングする装置に関する文献として、次の特許文献1〜3が知られている。
【0003】
特許文献1には、半導体チップ上に形成されたアルミニウム合金製の電極パッド上に、Pb、In、Snのいずれか1つを主要元素とする半田バンプを接着し、該半田バンプをその液相線温度以下に加熱した状態で基板の配線上に熱圧着して接合させる半導体チップの接続方法が記載されている。そして、その熱圧着手段が超音波併用の熱圧着であることが記載されている。
【0004】
特許文献2には、プリント基板に配設されたパッドにワイヤを拡散接合するよう超音波による加振、および、所定温度の加熱が行われるボンディングチップを備え、該ボンディングチップを垂直方向に昇降させ、該ワイヤを挟むように形成された先端部の凹部によって該ワイヤを押圧した時、必要に応じて、該ボンディングチップの中心を回転軸として該ボンディングチップが所定方向に回転されるように構成されたボンディング装置が記載されている。
【0005】
特許文献3の0021段落から0022段落には、銅製で幅0.35mmのリードに、スタッドバンプを形成した半導体チップを、超音波接合する半導体装置の製造方法が記載されている。そして、この超音波接合の条件は、加熱温度100℃、加圧0.5N、超音波出力70mWであることが記載されている。
【0006】
また、特許文献4には、超音波ワイヤボンダが、超音波振動ユニットから発生した超音波振動を、超音波ホーンを介してボンディングツールに印加することが記載されている。そして、超音波ワイヤボンダは、さらに、ワイヤ供給ユニットと、予熱ユニットと、加熱ヒータを備えることが記載されている。アルミワイヤを予熱ユニットで250℃から400℃程度に加熱して、ワイヤの薄肉部を形成することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平3−283542号公報
【特許文献2】特開平5−198930号公報
【特許文献3】特開2003−209213号公報
【特許文献4】特開2003−303845号公報
【特許文献5】特開2013−171964号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1は、ワイヤと半導体チップ上の電極パッドとを接合するために半田を用いているため、電極パッドに半田を配置させる工程が必要であるという問題があった。また、熱圧着時の温度が170℃であり、加熱に要するエネルギーが大きいという問題があった。
【0009】
特許文献2には、所定の温度でボンディングチップが加熱されることが記載されているが、具体的な加熱温度の値は記載されていない。
【0010】
特許文献3の0021段落から0022段落には、銅製のリードの幅が0.35mmであることが記載されている。特許文献3の方法では、本発明とは素材やリードの幅が異なり、本発明が対象としている直径500μm以上600μm以下のワイヤを接合できないという問題があった。
【0011】
特許文献4は、加熱されて加圧成形して形成された薄肉部は、電極と接合されるワイヤの接合部ではなく、ワイヤのループ部分であり、本発明の超音波振動を加える部位の温度は記載されていない。従って、本発明のようにワイヤボンディング時のワイヤボンディングされる部位の温度が、50℃以上100℃以下であることは記載されていない。
【0012】
特許文献5は、半導体素子上の第1電極と前記半導体素子の外部に配置された第2電極との双方に直径50μm超2mm以下のワイヤをウェッジ接合により接合して前記両電極を電気的に接続する超音波ワイヤボンディング装置であって、前記ワイヤに先端を係合させる接合ツールと、前記ワイヤを前記接合ツールに供給するワイヤフィード機構と、前記接合ツールに超音波振動を加える振動伝達機構と、前記接合ツールに荷重を加え、前記電極に接合される前記ワイヤの接合部位を加圧する加圧機構とを有し、前記ワイヤの前記接合部位を加熱する加熱機構を更に有することを特徴とする超音波ワイヤボンディング装置を開示している。特許文献5は銅ワイヤを対象としており、その加熱する温度範囲も広い。しかし、本発明は、アルミニウム合金製ワイヤを対象としており、アルミニウム合金製ワイヤ特有の課題があるため、本発明の課題を解決することができない。
【0013】
上記の課題を解決するべく、鋭意研究を行った結果、直径の太いワイヤを加熱と加圧を伴って超音波で接合させる際に、加熱温度が高すぎると接合領域内に未接合の領域が生じることを発見した。そこで、本発明は、直径500μm以上600μm以下のワイヤを半導体素子上の電極へワイヤボンディングできる半導体装置の製造装置および半導体装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、本発明のワイヤボンディング装置の実施例は、ワイヤボンディングによって電極とアルミニウム合金製のワイヤとを電気的に接続するものであって、直径500μm以上600μm以下の前記ワイヤを供給するワイヤ供給装置と、前記ワイヤを50℃以上
75℃以下に加熱する加熱装置と、前記電極に前記ワイヤを加圧する加圧装置と、前記加圧装置で加圧された前記ワイヤに超音波振動を加える超音波発生装置とを備える。この構成によれば、ワイヤボンディング時のワイヤ温度が、50℃以上
75℃以下に加熱されているため、ワイヤと電極の接合面積を増加でき、直径500μm以上600μm以下のワイヤを電極へワイヤボンディングできる。ワイヤ温度が50℃未満では、接合面積が不足するという問題がある。ワイヤ温度が100℃を超えると、ワイヤと電極との未接合面積が増加するという問題がある。
【0015】
上記のワイヤボンディング装置において、前記加熱装置は、
前記ワイヤを通す貫通孔の内壁に設けられたヒータで前記ワイヤを加熱するワイヤヒータ、
および、前記電極を介して前記ワイヤを加熱する平板ヒー
タであり、前記ワイヤの温度を計測する温度センサと、前記温度センサの計測値と設定温度とを比較して前記加熱装置の出力を制御する制御装置とを備え、前記加圧装置は、前記超音波発生装置の超音波振動を伝達するホーンと、前記ホーンの端部に着脱可能に固定されたボンディングチップとを備え
、かつ前記ホーンと接する部材をばねで付勢でき、ばねの長さを調節することで前記ボンディングチップが前記ワイヤを押さえる荷重を調節する機構を備えることが望ましい。
【0016】
この構成によれば、加熱装置の温度センサでワイヤ温度を50℃以上
75℃以下に自動で制御できる。そして、ワイヤを加熱する場合、ワイヤボンディングするワイヤボンディング装置全体を温度制御する場合に比べて、加熱する範囲が限定されるため、加熱に要する消費エネルギーを低減できる。電極を介してワイヤを加熱する場合、加熱装置と電極との伝熱面積を増やすことが容易になり、ワイヤボンディング装置の構造を単純化できる。
【0017】
また、本発明のワイヤボンディング方法の実施例は、加熱処理、加圧処理および超音波処理を伴ったワイヤボンディングによって電極とアルミニウム合金製のワイヤとを電気的に接続するワイヤボンディング方法において、前記ワイヤの温度を50℃以上
75℃以下にする加熱工程と、前記電極上に直径500μm以上600μm以下の前記ワイヤを載せ加圧する加圧工程と、50℃以上
75℃以下になった前記ワイヤを前記加圧工程中に、前記ワイヤへ超音波振動を加える超音波処理工程とを備える。
この構成によれば、ワイヤボンディング時のワイヤ温度が、50℃以上
75℃以下に加熱されているため、ワイヤと電極の接合面積を増加でき、直径500μm以上600μm以下のワイヤを半導体素子上の電極へワイヤボンディングできる。ワイヤ温度が50℃未満では、接合面積が不足するという問題がある。
75℃を超えると、加熱処理によるワイヤボンディングの接合強度のばらつきが生じやすく、さらに、ワイヤボンディングに要する加熱エネルギーが多くなるため、不経済であるという問題がある。ワイヤ温度が100℃を超えると、ワイヤと電極との未接合面積が増加するという問題がある。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、直径500μm以上600μm以下のワイヤを電極へワイヤボンディングできるワイヤボンディング装置およびワイヤボンディング方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施例に係るワイヤボンディング装置の概略構成図である。
【
図2】本発明の実施例に係るワイヤボンディング装置の加熱装置の温度調節に関する関連図である。
【
図3】本発明の実施例に係るワイヤボンディング方法の工程図である。
【
図4】加熱工程における加熱温度とワイヤと電極との接合面積の関係を示した図である。
【
図5】加熱工程における加熱温度とワイヤと電極との接合面内部における未接合面積の関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しながら本発明に係るワイヤボンディング装置の実施形態を説明する。同一の構成要素については、同一の符号を付け、重複する説明は省略する。なお、本発明は、下記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲内で適宜変形して実施することができるものである。
【0021】
(実施例)
図1は、本発明の実施例に係るワイヤボンディング装置の概略構成図である。
図1では、ワイヤボンディング装置100が、絶縁基板1と、絶縁基板1のおもて面に形成された第一電極2と、絶縁基板1の裏面に形成された裏面金属板3と、第一電極2上にはんだ4を介して接続された半導体素子5と、半導体素子5の上面に形成された第二電極7とを備えた構造体を被処理物とした事例を図示した。
図1のワイヤボンディング装置100は、直径500μm以上600μm以下のワイヤ6を供給するワイヤ供給装置10と、ワイヤ6を50℃以上100℃以下に加熱する加熱装置11と、電極2,7にワイヤ6を加圧する加圧装置12と、加圧装置12で加圧されたワイヤ6に超音波振動を加える超音波発生装置13とを備える。
ワイヤ供給装置10は、内部にリールに巻かれたワイヤ6を備えている。ワイヤ6は、図示しないローラーに挟まれ、このローラーが回転機で回転されることで、ワイヤ6がワイヤヒータ11bへ供給される。
【0022】
加熱装置11は、ワイヤ6を加熱するワイヤヒータ11bと、電極2,7を介してワイヤ6を加熱する平板ヒータ11aを備えている。なお、加熱装置は、ワイヤヒータ11bまたは平板ヒータ11aのどちらか一方だけ備える構成にしてもよい。ワイヤヒータ11bは、ワイヤ6を通る貫通孔を備えており、その貫通孔にワイヤ6が通されている。貫通孔の内壁にヒータが内蔵されている。平板ヒータ11aは、裏面金属板3の裏面を直接加熱している。ワイヤ6が第一電極2に接続される場合は、平板ヒータ11aの熱は、裏面金属板3、絶縁基板1、および第一電極2を介してワイヤ6を加熱する。ワイヤ6が第二電極7に接続される場合は、平板ヒータ11aの熱は、裏面金属板3、絶縁基板1、第一電極2、はんだ4、半導体素子5、および第二電極7を介してワイヤ6を加熱する。
図2は、本発明の実施例に係るワイヤボンディング装置の加熱装置の温度調節に関する関連図である。
図2に示すように、ワイヤボンディング装置100は、さらに、ワイヤ6の温度を計測する温度センサ11cと、温度センサ11cの計測値と設定温度とを比較して加熱装置11の出力を制御する制御装置11dとを備えている。
図1および
図2に図示されていないが、ワイヤボンディング装置100は、設定温度が入力される入力装置を備えている。
【0023】
図1に示すように、加圧装置12は、超音波発生装置13の超音波振動を伝達するホーン12aと、ホーン12aの端部に着脱可能に固定されたボンディングチップ12bとを備えている。ボンディングチップ12bの先端には、窪みが形成されており、この窪みにワイヤ6が配置される。ボンディングチップ12bは、ワイヤ6を上から押さえ、超音波発生装置からホーンを経由して伝達された超音波振動をワイヤ6に伝える。加圧装置12は、ホーン12aの一部を押圧する機構を備えており、ボンディングチップ12bがワイヤ6を上から押さえる荷重を調節できるように構成されている。押圧する機構は、特に限定されないが、例えば、ホーン12aと接する部材をばねで付勢して、ホーン12aを下に押し下げる構成にしてもよい。ばねの長さを調節することで、ボンディングチップ12bがワイヤ6を上から押さえる荷重を調節できる。
【0024】
次に、本発明のワイヤボンディング方法に関して説明する。
図3は、本発明の実施例に係るワイヤボンディング方法の工程図である。本発明のワイヤボンディング方法は、ワイヤの温度を50℃以上100℃以下にする加熱工程S1と、前記電極上に直径500μm以上600μm以下の前記ワイヤを載せ加圧する加圧工程S2と、50℃以上100℃以下になった前記ワイヤを前記加圧工程中に、前記ワイヤへ超音波振動を加える超音波処理工程S3とを備える。
【0025】
図4、
図5に、各加熱温度で超音波接合させた実験結果を示した。AlSi膜5μmの電極の上に、直径500μmのアルミニウムワイヤを接合させた。超音波接合条件は、130mW、荷重は、1400gf、超音波の印加時間は、200msで実験を行った。実験は、10回行い、最大値と最小値をエラーバーで示した。
図4は、加熱工程における加熱温度とワイヤと電極との接合面積の関係を示した図である。加熱温度の上昇と共に接合面積も増加していることが判る。
【0026】
図5は、加熱工程における加熱温度とワイヤと電極との接合面内部における未接合面積の関係を示した図である。加熱温度の上昇と共にワイヤの接合部の内部の未接合面積が増加していることが判る。
上記の結果を考慮すると、加熱工程S1におけるワイヤ温度は、50℃未満だと接合面積が十分でない場合があり、ワイヤボンディングの接合強度が不十分になるという問題がある。また、このワイヤ温度が、100℃を超えると、ワイヤ接合部の内部の未接合面積が増加するという問題がある。
【0027】
加熱工程S1におけるワイヤ温度は、50℃以上75℃以下の範囲内がより望ましい。75℃を超えると、加熱処理によるワイヤボンディングの接合強度のばらつきが生じやすく、さらに、ワイヤボンディングに要する加熱エネルギーが多くなるため、不経済であるという問題がある。
【0028】
以上のように、本発明の実施例によれば、直径500μm以上600μm以下のワイヤを電極へワイヤボンディングできるワイヤボンディング装置およびワイヤボンディング方法を提供できる。
【符号の説明】
【0029】
1 絶縁基板
2 第一電極
3 裏面金属板
4 はんだ
5 半導体素子
6 ワイヤ
7 第二電極
10 ワイヤ供給装置
11 加熱装置
11a 平板ヒータ
11b ワイヤヒータ
11c 温度センサ
11d 制御装置
12 加圧装置
12a ホーン
12b ボンディングチップ
13 超音波発生装置
100 ワイヤボンディング装置
S1 加熱工程
S2 加圧工程
S3 超音波処理工程