(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6331655
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】インバータ制御装置
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20180521BHJP
【FI】
H02M7/48 J
H02M7/48 M
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-92189(P2014-92189)
(22)【出願日】2014年4月28日
(65)【公開番号】特開2015-211559(P2015-211559A)
(43)【公開日】2015年11月24日
【審査請求日】2017年4月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091281
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 雄一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 芳信
【審査官】
木村 励
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−68292(JP,A)
【文献】
特開2006−280090(JP,A)
【文献】
特開2009−110529(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
H02P 27/04
H02P 25/06
G05B 19/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インバータを構成する電力変換器を運転して負荷に交流電力を供給するためのインバータ制御装置であって、外部からの運転指令に応じて前記電力変換器の半導体スイッチング素子を制御するインバータ制御装置において、
前記インバータ制御装置の固有プログラムにより、処理の起動、時間管理及びデータ管理を行うシステム部と、
前記固有プログラムにより、前記運転指令に応じて前記電力変換器からの情報の入力、前記電力変換器に対する制御信号の出力、及び、外部への運転情報の出力を行う入出力I/F部と、
前記固有プログラムにより、前記制御信号を定周期で演算するドライブ制御部と、
前記負荷に応じて外部から供給される用途別のアプリケーションプログラムが格納され、前記システム部からの起動指令により前記アプリケーションプログラムを実行するアプリケーション部と、
前記アプリケーションプログラムを実行するために、前記アプリケーション部との間でデータの読み書きを行うためのメモリI/F部と、
を備え、
前記アプリケーション部が前記システム部により定周期処理にて起動され、前記アプリケーションプログラムによる出力データを前記メモリI/F部を介して前記ドライブ制御部の入力データとして用いる場合に、
前記システム部は、
前記アプリケーション部を起動してから設定時間内に前記アプリケーション部の処理が終了した時には、今回の定周期処理による前記アプリケーション部の出力データを前記メモリI/F部に複製し、前記設定時間内に前記アプリケーション部の処理が終了しなかった時には前記アプリケーション部の処理を終了させ、前回の定周期処理により設定時間内に前記アプリケーション部の処理が終了して前記メモリI/F部に複製したデータを、今回の定周期処理における前記アプリケーション部の出力データとして前記ドライブ制御部に使用させ、前記制御信号を演算させることを特徴とするインバータ制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載したインバータ制御装置において、
前記アプリケーション部の処理時間が設定時間を超過した回数を記録する手段と、
前記回数が所定値以上になった時にアラームを出力する手段と、
を備えたことを特徴とするインバータ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外部からの運転指令に応じてインバータ内の電力変換器を運転するためのインバータ制御装置であって、用途別のアプリケーションプログラムによってインバータを制御するインバータ制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電動機を可変速駆動するインバータ制御装置を機械装置等に組み込んで使用する場合、インバータ制御装置の上位装置として、PLC(Programmable Logic Controller)を使用することが多い。このPLCは、必要な動作を実現するためにインバータの運転状態を監視しながら、インバータ制御装置に運転指令を与える機能を備えている。
【0003】
ここで、特許文献1には、上述したようなPLC機能により作成したアプリケーションプログラムにより電動機駆動用のインバータを制御するようにしたPLC機能内蔵型ドライブ制御装置が開示されている。
図4は、このPLC機能内蔵型ドライブ制御装置の全体的な構成図であり、その概要を以下に説明する。
【0004】
図4において、10はCPU、20はシステムプログラム及びデータが格納されたROM,RAM等のメモリ、30は制御スキャン部、40はPLC部、50は通信インターフェース、60はインバータ制御装置に相当するドライブ制御部、70は図示されていない電動機に接続されるドライブ主回路(インバータ主回路)である。
ここで、PLC部40及びドライブ制御部60は、CPU10が実行するソフトウェアにより構成されている。PLC部40は、ラダー演算部41、算術演算部42、入出力制御部43、及び通信制御部44と、ドライブ制御部60内の制御パラメータ61の読み出し/書き込みを行うドライブ制御演算部45と、を備えている。なお、インバータ制御パラメータ61は、制御に用いられるゲインやリミット値等である。
【0005】
上記構成において、ドライブ制御演算部45は、PLC部40が実行するアプリケーションプログラムによってドライブ制御部60の制御パラメータ61を直接取り扱うことにより、運転状況に応じたゲイン調整等のドライブ制御を可能にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−68292号公報(段落[0009]〜[0012]、
図1等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図4の従来技術では、PLC部40が実行するアプリケーションプログラムとドライブ制御部60が実行するアプリケーションプログラムとが互いに独立している。従って、PLC部40における演算結果をドライブ制御部60に反映させるために、制御スキャン同期部30によって両者の制御動作を同期させる必要がある。
このため、制御スキャン同期部30を制御するCPU10の処理が複雑になり、高性能なCPU10が必要になるという問題がある。
【0008】
また、インバータ制御装置により交流電動機を高精度かつ安定的に可変速駆動する場合には、インバータ制御装置の演算周期を短くして演算処理を高速化する必要がある。しかし、インバータ制御装置の演算周期内にPLCにおけるアプリケーションプログラムが終了しない場合には、アプリケーションプログラムの出力である運転指令が正しくなくなり、電動機の正常な運転が困難になるおそれがある。
【0009】
通常、PLCにおいてアプリケーションプログラムを定周期処理する場合には、タイマによってアプリケーションプログラムの処理時間を計測し、その最小処理時間、最大処理時間を計測している。PLCでは、アプリケーションプログラムの処理時間が設定時間(最大処理時間)を超えた場合でも演算を継続し、アプリケーションプログラムの処理が終了した時に出力が更新される。このため、入力に対して出力が遅れることになるが、動作を継続できるという特徴がある。
【0010】
ただし、このやり方をインバータ制御装置に適用した場合には、インバータに固有のプログラムであるドライブ制御部の処理を定周期内に完了することができず、PWM(Pulse Width Modulation)信号等の出力が更新されなくなって電動機を適切に制御できなくなる。
例えば、PLCがアプリケーションプログラムにより電動機の運転周波数指令を出力し、ドライブ制御部では電動機の運転周波数の位相に合わせたPWM信号を出力する場合を考えてみる。この場合、運転周波数指令が更新されずに前回値のままであっても、動作の継続は可能であるが、PWM信号は、電動機の運転周波数に応じて定周期で進むだけの位相に応じて出力され
ることが望ましい。仮に、運転周波数指令が更新されないことに起因してPWM信号が出力されない
状態が発生すると、電動機の運転を継続できなくなる。
【0011】
前述した特許文献1に記載された従来技術によると、PLC部40によるアプリケーションプログラムの処理時間が設定時間を経過した場合に、ドライブ制御部60から適正なPWM信号が出力されず、ドライブ主回路70による電動機の安定した運転が困難になるおそれがあった。
そこで、本発明の解決課題は、高性能なCPUを用いることなく、高速かつ一定周期内でアプリケーションプログラムの実行部分とドライブ制御部分とを連携させ、しかも、アプリケーションプログラムの処理が設定時間内に終了しなかった場合でも、
ドライブ制御部により演算されるPWM信号等の制御信号を欠落させずに支障のない範囲で負荷を
継続的に運転可能としたインバータ制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、請求項1に係る発明は、インバータを構成する電力変換器を運転して負荷に交流電力を供給するためのインバータ制御装置であって、外部からの運転指令に応じて前記電力変換器の半導体スイッチング素子を制御するインバータ制御装置において、
前記インバータ制御装置の固有プログラムにより、処理の起動、時間管理及びデータ管理を行うシステム部と、
前記固有プログラムにより、前記運転指令に応じて前記電力変換器からの情報の入力、前記電力変換器に対する制御信号の出力、及び、外部への運転情報の出力を行う入出力I/F部と、
前記固有プログラムにより、前記制御信号を定周期で演算するドライブ制御部と、
前記負荷に応じて外部から供給される用途別のアプリケーションプログラムが格納され、前記システム部からの起動指令により前記アプリケーションプログラムを実行するアプリケーション部と、
前記アプリケーションプログラムを実行するために、前記アプリケーション部との間でデータの読み書きを行うためのメモリI/F部と、
を備え、
前記アプリケーション部が前記システム部により定周期処理にて起動され、前記アプリケーションプログラムによる出力データを前記メモリI/F部を介して前記ドライブ制御部の入力データとして用いる場合に、
前記システム部は、
前記アプリケーション部を起動してから設定時間内に前記アプリケーション部の処理が終了した時には、今回の定周期処理による前記アプリケーション部の出力データを前記メモリI/F部に複製し、前記設定時間内に前記アプリケーション部の処理が終了しなかった時には前記アプリケーション部の処理を終了させ、前回の定周期処理により
設定時間内に前記アプリケーション部の処理が終了して前記メモリI/F部に複製したデータを、今回の定周期処理における前記アプリケーション部の出力データとして前記ドライブ制御部に使用させ
、前記制御信号を演算させることを特徴とする。
【0013】
また、請求項2に係る発明は、請求項1に記載したインバータ制御装置において、前記アプリケーション部の処理時間が設定時間を超過した回数を記録する手段と、前記回数が所定値以上になった時にアラームを出力する手段と、を備えたものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、システム部によりアプリケーション部を起動させ、メモリI/F部が、アプリケーション部との間でデータの読み書きを実行することにより、従来技術におけるPLC部とドライブ制御部のように両者の制御動作を同期させるための特別な仕組みが不要になる。
また、アプリケーション部の処理時間が設定時間を超過した場合には前回の定周期処理によるアプリケーション部の出力データを使用することにより、安定的に運転を継続すると共に、設定時間を超過した回数が所定値を超えた場合にはアラームを出力して必要な保護動作を行うことで、システムの信頼性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態を示すインバータ制御装置の構成図である。
【
図2】本発明の実施形態における、通常時の処理の流れを示すシーケンス図である。
【
図3】本発明の実施形態における、設定時間超過時の処理の流れを示すシーケンス図である。
【
図4】特許文献1に記載された従来技術の全体的な構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図に沿って本発明の実施形態について説明する。
図1は、本実施形態に係るインバータ制御装置1Aの構成を示している。このインバータ制御装置1Aは、電力変換器1Bと共にインバータ1を構成し、電力変換器1Bは、電源(交流電源)2に接続されて負荷としての交流電動機3を可変速駆動する。ここで、電力変換器1Bは、電源2の交流電圧を整流して直流電圧に変換し、この直流電圧をIGBT等の半導体スイッチング素子の動作により所定の大きさ、周波数の交流電圧に変換して交流電動機3に供給するものである。
【0017】
インバータ制御装置1Aは、CPU及びこのCPUが実行するプログラムを備えており、外部から入力される運転指令に基づいてプログラムを起動し、電力変換器1Bから得た情報を用いて所定の演算処理を行うことにより、電力変換器1Bのスイッチング素子に対する制御信号(オン・オフ信号)を生成する。
このインバータ制御装置1Aは、固有のプログラムとしてシステム部101、入出力I/F(インターフェース)部102、ドライブ制御部103及びメモリI/F部104を備えると共に、インバータ1の外部のPC4から通信機能等により供給されるアプリケーションプログラムを格納して実行するアプリケーション部105を備えている。
【0018】
システム部101は、インバータ制御装置1Aの起動処理を行うと共に、アプリケーション部105におけるプログラムの処理時間等の時間管理及びデータ管理を行う。入出力I/F部102は、外部からの運転指令や電力変換器1Bからの電圧・電流等の情報の入力、及び、電力変換器1Bへの制御信号の出力、インバータ1の運転状態の外部への出力等を行う。
【0019】
ドライブ制御部103は、定周期にてPWM信号等の演算やインバータ1としての運転情報の演算を行う。
メモリI/F部104は、インバータ制御装置1A内のプログラムとアプリケーション部105との間の入出力データ、及び、アプリケーション部105の内部記憶データの読み書きを行う。なお、実際にデータが記憶されるメモリについては図示を省略してある。
【0020】
アプリケーション部105は、前述したごとくPC4から、例えば紡績機用や印刷機用といった用途別の電動機駆動方法を演算するためのアプリケーションプログラムを受信し、このプログラムを、システム部101からの定周期の起動指令を受けて実行する。この時、システム部101は、アプリケーション部105におけるプログラムの処理時間を計測し、この処理時間が設定値を超えているか否かを判断する。アプリケーション部105は、出力データをメモリI/F部104に書き込むことにより、処理を終了する。
【0021】
次に、
図2,
図3を参照しつつ、インバータ制御装置1Aの動作を説明する。
図2は、アプリケーション部105による処理時間が設定時間未満である時(通常時)の処理の流れを示すシーケンス図である。
まず、システム部101が、入出力I/F部102を起動してディジタル入力(DI)信号、アナログ入力(AI)信号を電力変換器1Bから読み込む(処理S1)。次に、読み込んだディジタル入力信号、アナログ入力信号に基づき、アプリケーション部105が必要とするデータをメモリI/F部104に書き込む(処理S2)。
【0022】
次に、システム部101がアプリケーション部105を起動する(処理S3)。ここで、本実施形態では、システム部101の時間管理機能を用いてアプリケーション部105の処理時間を計測する(処理S4)。起動したアプリケーション部105は、メモリI/F部104からデータを読み込み、格納されているアプリケーションプログラムを実行する(処理S5)。
そして、アプリケーション部105からドライブ制御部103に実行結果を渡すために、メモリI/F部104にデータを書き込むことにより(処理S6)、アプリケーション部105の処理は終了する。この時、システム部101がアプリケーション部105の起動と同時に開始した処理時間の計測値が設定時間未満であれば、アプリケーション部105が今回使用したデータを出力データとしてメモリI/F部104に複製する(処理S7)。
【0023】
次に、システム部101はドライブ制御部103を起動する(処理S8)。ドライブ制御部103は、入出力I/F部102からディジタル入力信号やアナログ入力信号を読み込み、メモリI/F部104から、前述した処理S7によって複製したデータを読み込む(処理S9,S10)。
そして、ドライブ制御部103は、電力変換器1BへのPWM信号やインバータ1の運転情報を演算し、ディジタル出力(DO)信号やアナログ出力(AO)信号を生成して入出力I/F部102に書き込み、システム部101に通知する(処理S11)。
【0024】
最後に、システム部101は、ディジタル出力信号及びアナログ出力信号を入出力I/F部102から読み出し、電力変換器1Bの制御に用いると共に運転情報として外部に出力する。
上記の一連の処理を定周期で繰り返すことにより、インバータ1は交流電動機3を運転指令に従って駆動することができる。
【0025】
次いで、アプリケーション部105の処理時間が設定時間を超えた時の動作を、
図3に基づいて説明する。
図3において、
図2に示した通常時の動作との違いは以下のとおりである。
すなわち、システム部101が計測したアプリケーション部105の処理時間が設定時間以上となった場合には、システム部101からアプリケーション部105に指令を送り、アプリケーション部105の処理を強制的に終了させる(処理S13)。更に、前回の定周期処理によってメモリI/F部104に複製しておいたデータを、アプリケーション部105の出力データとして書き戻す処理を行う(処理S14)。
【0026】
上記の処理S13,S14を行うことにより、ドライブ制御部103は、定周期内でアプリケーション部105のデータをメモリI/F部104から読み込んで演算を行い、電力変換器1Bに対するPWM信号を出力することが可能となる。これにより、アプリケーション部105の処理時間が設定時間を超えた場合でも、電力変換器1Bにより交流電動機3を安定的かつ継続して駆動することができる。
なお、
図3において、
図2における処理S6(アプリケーション部105からメモリI/F部104にデータを書き込む処理)が欠落しているのは、アプリケーション部105の処理が途中で終了したことによるものである。
【0027】
この実施形態において、システム部101は、アプリケーション部105の処理時間が設定時間を超えた回数を計測する機能を備えることが望ましい。これにより、処理時間の超過が例えばノイズ等による一過性のものであって、超過回数が所定値未満である場合にはインバータ1の運転を継続し、超過回数が所定値以上になった場合(処理時間の超過が繰り返し発生する場合)には、アプリケーションプログラムの異常としてアラームをインバータ制御装置1Aの外部に出力し、インバータ1の運転を停止する。
このような保護機能を備えることにより、インバータ1や交流電動機3が運転指令通りに動作しないことによる各機器の損傷を防ぐことが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、交流電動機以外の交流負荷を駆動する各種用途のインバータ制御装置として利用することができる。
【符号の説明】
【0029】
1:インバータ
1A:インバータ制御装置
1B:電力変換器
101: システム部
102:入出力I/F部
103:ドライブ制御部
104:メモリI/F部
105:アプリケーション部
2:電源
3:交流電動機
4:PC