(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6331723
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】ICカード
(51)【国際特許分類】
G06K 19/077 20060101AFI20180521BHJP
B42D 25/305 20140101ALI20180521BHJP
【FI】
G06K19/077 144
G06K19/077 156
G06K19/077 188
G06K19/077 216
G06K19/077 244
G06K19/077 272
B42D15/10 307
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-116563(P2014-116563)
(22)【出願日】2014年6月5日
(65)【公開番号】特開2015-230592(P2015-230592A)
(43)【公開日】2015年12月21日
【審査請求日】2017年5月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(72)【発明者】
【氏名】塚田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】溝口 祥之介
(72)【発明者】
【氏名】畠山 エリ子
【審査官】
福田 正悟
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2013/073702(WO,A1)
【文献】
国際公開第99/026195(WO,A1)
【文献】
特開2007−199873(JP,A)
【文献】
特開平04−153896(JP,A)
【文献】
特開2003−099737(JP,A)
【文献】
特開昭61−157990(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06K 19/077
B42D 25/305
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モジュール基板にICチップを搭載して成るICモジュールと、カード本体とで構成されたICカードであって、カード本体に、モジュール基板を収容する基板用凹部と、この基板用凹部の底部に設けられてICチップを収容するチップ用凹部とが形成されて、これら基板用凹部とチップ用凹部のそれぞれにモジュール基板とICチップとが収容されているICカードにおいて、
前記カード本体が、電気配線を有するインレットシートを上下のカード基材で挟んで構成されており、前記基板用凹部がインレットシートに達しない深さを有していると共に、前記チップ用凹部がインレットシートを越える深さを有しており、
前記電気配線が送受信用アンテナコイルとトランス結合用コイル(カード側結合コイル)とを有しており、このカード側結合コイルが前記チップ用凹部を囲んで形成されており、他方、モジュール基板は前記ICチップを囲み、且つ、前記ICチップに電気的に接続されたトランス結合用コイル(モジュール側結合コイル)を有しており、カード側結合コイルとモジュール側結合コイルとが互いに対面しており、
インレットシートが前記チップ用凹部を囲む貫通孔を有しており、上下の前記カード基材がこの貫通孔に延設されて互いに接着しており、
前記モジュール基板の端部と前記貫通孔の端部とが、平面視で1.0mm以下の距離にあり、インレットシートの前記電気配線がインレット基材の表裏に設けられており、これら表裏の電気配線を接続する表裏接続ランドが、ICカードの短辺方向中央線に近いモジュール基板の端部を始点として、モジュール基板の1/4の距離にある領域を避けて設けられていることを特徴とするICカード。
【請求項2】
前記モジュール基板がリーダーライターと接触する外部接触端子を有することを特徴とする請求項1に記載のICカード。
【請求項3】
前記モジュール基板が横13.0mm×縦11.8mmの外形又はこれより小さい面積の外形を有することを特徴とする請求項1又は2に記載のICカード。
【請求項4】
インレット基材の表裏に設けられた前記電気配線がそれぞれコンデンサ電極を有しており、これらコンデンサ電極がインレット基材を挟んで対面する位置に配置されていることを特徴とする請求項1〜3に記載のICカード。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非接触でリーダーライターと通信できるICカードに関する。本発明に係るICカードは、非接触でリーダーライターと通信できる機能に加えて、接触状態でリーダーライターと通信できる機能を有するものであってもよい。
【背景技術】
【0002】
接触状態及び非接触状態の両者でリーダーライターと通信できる機能を有するICカードは、デュアルICカードの名前で知られている。このようなデュアルICカードは、モジュール基板にICチップを搭載して成るICモジュールを使用し、このICモジュールをカード本体に固定して構成されていることが通常である。リーダーライターの端子と接触する外部接触端子は一般にモジュール基板に設けられており、この外部接触端子はICチップの端子に配線されている。また、非接触でリーダーライターと通信するため、カード本体には送受信用アンテナコイルが設けられている。送受信用アンテナコイルとICチップとを電気配線によって接続したデュアルICカードも知られているが、カード本体とモジュール基板の両者に結合用コイルを設け、両結合用コイルを対面させることによりトランス結合(電磁結合)させ、このトランス結合を通じて通信するデュアルICカードも知られている。もちろん、このようなデュアルICカードにおいては、カード本体の結合用コイル(カード側結合コイル)は電気配線によって送受信用アンテナコイルに接続しており、モジュール基板の結合用コイル(モジュール側結合コイル)は電気配線によってICチップに接続している。このため、リーダーライターから送信された情報を送受信用アンテナコイルで受信し、トランス結合を通じてICチップに送ることができる。
【0003】
カード側結合コイルとモジュール側結合コイルとを有するデュアルICカードは、例えば、特許文献1〜3に記載されている。
図5はその断面構造を示す説明図であり、
図6(a)及び
図6(b)は、説明の便宜のため、カード本体1とICモジュール2とを分離して図示した断面説明図である。なお、
図6(a)はICモジュール2、
図6(b)はカード本体1を示している。
【0004】
これらの図から分かるように、カード本体1は、インレットシート11を上下のカード基材12で挟んで構成されている。インレットシート11は、インレット基材111の両面に電気配線を有しており、この電気配線のうち、インレット基材111の表面に配置された電気配線は、カード側結合コイル113、送受信用アンテナコイル112、コンデンサ電極114を直列に接続して構成されており、カード側結合コイル113の端部に表裏接続ランド115を有している。また、インレット基材11の裏面に配置された電気配線はコンデンサ電極116と、このコンデンサ電極116に接続した引き回し線117を有しており、コンデンサ電極114とコンデンサ電極116とは、インレット基材111を誘電体として、その両側に対面するように配置されており、これらコンデンサ電極114、コンデンサ電極116及びインレット基材111によってコンデンサを構成している。そして、前記表裏接続ランド115は、インレット基材111に設けられたスルーホール118によって、前記引き回し線117に接続されている。この説明から分かるように、インレットシート11に設けられた電気配線は、送受信用アンテナコイル112、カード側結合コイル113、及びコンデンサを直列配列した閉回路を構成している。
【0005】
次に、このカード本体1には、深さが2段階の凹部が設けられている。この凹部のうち、深さの浅い凹部(基板用凹部)1aはモジュール基板21を収容するもので、その深さはモジュール基板21の厚みとほぼ同一であり、インレットシート11に達しない深さである。他方、深さの深い凹部(チップ用凹部)1bは前記基板用凹部の底部に設けられてICチップ22を収容するもので、その深さはICチップ22の厚みとほぼ同一であり、インレットシート11を越える深さである。なお、前記カード側結合コイル113は、チップ用凹部22を囲むように配置されている。
【0006】
ICモジュール2は、前述のように、モジュール基板21にICチップ22を搭載して構成されている。モジュール基板21の表面にはリーダーライターと接触する外部接触端子212が設けられており、この外部接触端子212はICカード外面に露出している。また、モジュール基板21の裏面にはICチップ22を囲むようにモジュール側結合コイル211が設けられていて、カード側結合コイル113と対面している。そして、これら外部接触端子212及びモジュール側結合コイル211はいずれも、ICチップ22と電気的に接続されている。
【0007】
なお、外部接触端子212の位置はJIS X6320−2:2009(ISO/IEC7816:2007)に規定されており、この端子位置を充足するモジュール基板21として横13.0mm×縦11.8mmの外形を有するものが標準的に使用されている。そして、この外形を越える大面積のモジュール基板21はコストや設備の点から、通常存在していない。モジュール側結合コイル211の径はこのモジュール基板21の大きさによって制限されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第99/26195号
【特許文献2】国際公開第98/15916号
【特許文献3】国際公開第96/35190号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述のように、チップ用凹部1bはインレットシート11を越える深さを有している。このため、このチップ用凹部1bにはインレットシート11の端面11xが露出している。
【0010】
ところで、インレットシート11とカード基材12とはその材質が異なるため、例えば、ICカードに曲げ応力やねじり応力を加えた場合、チップ用凹部1bに露出した端面11xからインレットシート11とカード基材12とが剥離し易いという問題があった。
【0011】
そこで、本発明は、カード側結合コイル11bとモジュール側結合コイル2bとを使用して、両者のトランス結合を利用して非接触で通信を行うICカードにおいて、良好な通信状態を維持したまま、インレットシート11とカード基材12との剥離を防止することができるICカードを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、請求項1に記載の発明は、モジュール基板にICチップを搭載して成るICモジュールと、カード本体とで構成されたICカードであって、カード本体に、モジュール基板を収容する基板用凹部と、この基板用凹部の底部に設けられてICチップを収容するチップ用凹部とが形成されて、これら基板用凹部とチップ用凹部のそれぞれにモジュール基板とICチップとが収容されているICカードにおいて、
前記カード本体が、電気配線を有するインレットシートを上下のカード基材で挟んで構成されており、前記基板用凹部がインレットシートに達しない深さを有していると共に、前記チップ用凹部がインレットシートを越える深さを有しており、
前記電気配線が送受信用アンテナコイルとトランス結合用コイル(カード側結合コイル)とを有しており、このカード側結合コイルが前記チップ用凹部を囲んで形成されており、他方、モジュール基板は前記ICチップを囲み、且つ、前記ICチップに電気的に接続されたトランス結合用コイル(モジュール側結合コイル)を有しており、カード側結合コイルとモジュール側結合コイルとが互いに対面しており、
インレットシートが前記チップ用凹部を囲む貫通孔を有しており、上下の前記カード基材がこの貫通孔に延設されて互いに接着しており、
前記モジュール基板の端部と前記貫通孔の端部とが、平面視で1.0mm以下の距離にあ
り、インレットシートの前記電気配線がインレット基材の表裏に設けられており、これら表裏の電気配線を接続する表裏接続ランドが、ICカードの短辺方向中央線に近いモジュール基板の端部を始点として、モジュール基板の1/4の距離にある領域を避けて設けられていることを特徴とするICカードである。
【0013】
次に、請求項2に記載の発明は、前記モジュール基板がリーダーライターと接触する外部接触端子を有することを特徴とする請求項1に記載のICカードである。
【0014】
また、請求項3に記載の発明は、前記モジュール基板が横13.0mm×縦11.8mmの外形又はこれより小さい面積の外形を有することを特徴とする請求項1又は2に記載のICカードである。
【0016】
また、請求項
4に記載の発明は、インレット基材の表裏に設けられた前記電気配線がそれぞれコンデンサ電極を有しており、これらコンデンサ電極がインレット基材を挟んで対面する位置に配置されていることを特徴とする請求項
1〜3に記載のICカードある。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、インレットシートが前記チップ用凹部を囲む貫通孔を有しており、上下のカード基材がこの貫通孔に延設されて互いに接着しているから、インレットシートの端部は上下のカード基材の前記延設部分に保護されていて、貫通孔に露出していない。しかも、上下のカード基材は互いに相溶性に優れており、このため、前記延設部分で強固に接着されているから、外部応力が加えられた場合でも剥離し難いのである。
【0018】
しかも、モジュール基板の端部とインレットシートの前記貫通孔の端部とが平面視で1.0mm以下の距離にあり、モジュール側結合コイルはモジュール基板の端部の近傍まで配置でき、他方、カード側結合コイル11bはインレットシートの前記貫通孔の端部の近傍まで配置できるから、モジュール基板が標準の大きさである場合にも、洩れ磁束を最小限に抑えて両者の結合を大きくでき、したがって、良好な通信状態を実現できるのである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1(a)は本発明の実施形態に係るインレットシートの平面説明図、
図1(b)はその断面説明図である。
【
図2】本発明の実施形態に係るインレットシートを示し、モジュール基板と表裏接続ランドとの位置関係を説明するため平面説明図である。
【
図3】本発明の実施形態に係るICモジュールの断面説明図である。
【
図4】本発明の実施形態に係るICカードの断面説明図である。
【
図6】
図6(a)は従来のICモジュールの断面説明図、
図6(b)は従来のインレットシートの断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明に係るICカードはICモジュールと、カード本体とで構成されるものである。ICモジュールはモジュール基板にICチップを搭載して構成されており、他方、カード本体には、モジュール基板を収容する基板用凹部と、この基板用凹部の底部に設けられてICチップを収容するチップ用凹部とが形成されている。そして、基板用凹部にモジュール基板を収容すると共に、チップ用凹部にICチップを収容することにより、モジュール基板がICカード表面に露出するようにICモジュールをこれら凹部に収容して固定している。
【0021】
次に、説明の便宜のため、図面を参照してカード本体とICモジュールとをそれぞれ説明し、最後にICカードについて説明する。まず、図面の
図1はカード本体1を示すもので、
図1(a)はその平面説明図、
図1(b)は断面説明図である。なお、これらはいずれも説明用の図面であり、各図の相互関係を含めて、その縮尺は正確ではない。
【0022】
これらの図から分かるように、本発明に係るカード本体1はインレットシート11と、このインレットシート11を上下から挟んで一体化した2枚のカード基材12,12とで構成されている。カード本体1には、前述のように、基板用凹部1aとチップ用凹部1bとが形成されているが、説明の便宜のため、
図1(a)では基板用凹部1aの図示を省略している。そして、基板用凹部1aの深さはモジュール基板21の厚みとほぼ同一であり、インレットシート11に達しない深さを有している。また、その外形は、モジュール基板21の外形と同一であるか、せいぜいわずかな隙間を介してモジュール基板21を収容できる外形である。この例では、基板用凹部1aはモジュール基板21の外形と同一の外形を有しており、隙間なくモジュール基板21を収容することができる。
【0023】
他方、チップ用凹部1bの深さはICチップ22の厚みとほぼ同一であり、インレットシートを越える深さを有している。また、その外形は、ICチップ22の外形と同一であるか、せいぜいわずかな隙間を介してICチップ22を収容できる外形である。この例では、チップ用凹部1bはICチップ22の外形と同一の外形を有しており、隙間なくICチップ22を収容することができる。このため、
図1(a)では、チップ用凹部を表す符号を「1b(22)」と表示している。なお、ICチップ22が封止樹脂で保護されている場合には、チップ用凹部1bの深さは封止樹脂で保護されたICチップ22の厚みとほぼ同一であり、その外形は、保護されたICチップ22の外形と同一であるか、せいぜいわずかな隙間を介して保護されたICチップ22を収容できる外形である。
【0024】
次に、このインレットシート11は、インレット基材111の両面に電気配線を有しており、この電気配線は、カード側結合コイル113、送受信用アンテナコイル112、及びコンデンサ電極114,116を有している。そのうち、カード側結合コイル113、送受信用アンテナコイル112、及びコンデンサ電極114はインレット基材111の表面に設けられており、この順で直列接続されている。一方、コンデンサ電極116はインレット基材111の裏面に設けられており、コンデンサ電極114とコンデンサ電極116とは、インレット基材111を挟んで対面する位置に配置されている。このため、インレット基材111を誘電体として、コンデンサ電極114とコンデンサ電極116とでコンデンサを構成している。
【0025】
カード側結合コイル113の端部に表裏接続ランド115が設けられており、インレット基材111に設けられたスルーホール118によって、引き回し線117を介してコンデンサ電極11dに電気的に接続している。このため、インレットシート11に設けられた電気配線は、送受信用アンテナコイル112、カード側結合コイル113、及びコンデンサをこの順に直列接続した閉回路を構成している。
【0026】
なお、表裏接続ランド115は、その下にスルーホール118を有し、このスルーホール118には導電性の金属が設けられているため、屈曲などの応力によってこの表裏接続ランド115とインレット基材111の間で剥離を生じ易い部分である。なお、スルーホール118に代えて、インレット基材111をクリンピングして押し潰すことにより、表裏の電気配線112〜117を接続する表裏接続ランド115を構成することも可能であるが、この場合であっても、応力によって表裏接続ランド115とインレット基材111との間で剥離を生じ易い。
【0027】
そして、ICカードを屈曲した際に曲率が大きく(曲率半径が小さく)、従って高い応力がかかるのは、ICカードを短辺方向に屈曲した場合であり、しかも、ICカードの短辺方向の中央付近の曲率が大きく(曲率半径が小さく)、高い応力がかかる。このため、モジュール基板21を囲む4辺の端部のうち、この付近に前記表裏接続ランド115が配置された場合には、前記導電性金属とインレット基材111の間で剥離を生じ易い。そこで、この付近、すなわち、ICカードの短辺方向の中央付近を避けて表裏接続ランド115を配置することが望ましい。具体的には、モジュール基板21を囲む4辺の端部のうちICカードの短辺方向中央線に近い端部を始点として、モジュール基板21の1/4の距離にある領域21aを避ければよい。
図2においては、ICカードの短辺方向中央線を二点鎖線からなる補助線で表示し、前記領域21aを、一点鎖線で囲まれ、右上がりの斜線を施した領域で表示している。なお、この例ではモジュール基板21は横13.0mm×縦11.8mmの標準サイズであり、平面視では前記領域21aはこのモジュール基板21の内部に含まれる領域であって、モジュール基板21の端部から約縦3.0mmの距離にある領域である。
【0028】
次に、インレットシート11には、前記チップ用凹部1bを囲む貫通孔が設けられている。
図1(a)においては、この貫通孔の外周を破線で示している。符号11xはこの外周、すなわち、この貫通孔の端部を示すものである。図から分かるように、この例では、貫通孔は矩形である。
【0029】
そして、上下のカード基材12,12は、インレットシート11の貫通孔端部11xを越えて貫通孔の内部まで延設されており、この延設部分12aにおいて、インレットシート11を間に介することなく、直接、上下のカード基材12,12同士が互いに接着されている。上下のカード基材12,12は同種の材質から構成されることが通常であるから、この延設部分12aの接着強度を高めることができる。そして、前記チップ用凹部1bにはこの延設部分12aの端部が露出しているから、例えば屈曲やねじりなどの応力がICカードに加えられた場合でも、この露出端部から剥離することを防止することが可能である。
【0030】
ところで、貫通孔を大きくして延設部分12aの幅を大きくすれば、この延設部分12aによる接着強度が高まり、応力に対する耐性も増大する。しかし、カード側結合コイル113はこの貫通孔を囲んで配置されているから、カード側結合コイル113の内径は貫通孔の径より大きく必要がある。このため、貫通孔を大きくすれば、カード側結合コイル113と後述するモジュール側結合コイル211との間の洩れ磁束が多くなり、両結合コイル113,211の間のトランス結合(電磁結合)が弱まる結果となる。
【0031】
そこで、本発明のICカードにあっては、貫通孔をモジュール基板21の外形より小さいものとすると共に、貫通孔端部11xとモジュール基板21の端部21xとが、平面視で1.0mm以下の距離となるように配置した。前述のように、モジュール基板21は基板用凹部1aに収容されているから、その端部21xは基板用凹部1aの側壁1axに一致する。このため、貫通孔は、その端部11xが基板用凹部1aの側壁1axから1.0
mm以下の距離になるように設ければよい。モジュール基板21の端部21xと基板用凹部1aの側壁1axとの間に隙間がある場合には、この隙間を考慮して、貫通孔端部11xとモジュール基板21の端部21xとが1.0mm以下の距離になるように貫通孔を設ければよい。
【0032】
次に、ICモジュール2は、従来のICカードに使用されていたICモジュールと同様のものでよい。すなわち、
図3に示すように、ICモジュール2はモジュール基板21にICチップ22を搭載して構成されている。モジュール基板21の表面にはリーダーライターと接触する外部接触端子212が設けられており、この外部接触端子212はICカード外面に露出している。また、モジュール基板21の裏面にはICチップ22を囲むようにモジュール側結合コイル211が設けられている。そして、これら外部接触端子212及びモジュール側結合コイル211はいずれも、ICチップ22と電気的に接続されている。なお、前述のように、符号21xはモジュール基板21の端部を示すものである。
【0033】
そして、このICモジュール2を凹部1a,1bに収容して構成されたICカードの断面説明図を
図4に示す。すなわち、モジュール基板21は基板用凹部1aに収容され、一方、ICチップ22はチップ用凹部1bに収容され、接着剤により固定一体化されている。そして、ICチップ22を囲むモジュール側結合コイル211と、チップ用凹部1bを囲むカード側結合コイル113とは、互いに対面して、トランス結合(電磁結合)を構成している。
【0034】
インレットシート11には、チップ用凹部1bを囲む貫通孔が設けられており、上下のカード基材12はインレットシート11の貫通孔端部11xを越えて貫通孔の内部まで延設されており、この延設部分12aにおいて、直接接着されている。そして、この例では、モジュール基板21の端部21xと基板用凹部1aの側壁1axとは隙間なく一致しており、モジュール基板21の端部21xとインレットシート11の貫通孔端部11xとの間の距離dは平面視で1.0mm以下である。
【0035】
次に、本発明に係るICカードの製造方法を、その材料と共に説明する。
【0036】
まず、インレットシート11のインレット基材111としては、任意の電気絶縁性フィルムが使用できる。例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムやポリエチレンナフタレート(PEN)フィルムである。厚さは15〜50μmでよい。
【0037】
次に、インレットシート11の電気配線112〜117は、前記インレット基材111の表裏に金属箔を貼り合わせた後、フォトリソグラフィ法を利用してエッチングすることにより形成することができる。金属箔としては銅箔あるいはアルミニウム箔が使用できる。厚みは5〜50μmでよい。また、導電性インキを印刷することにより、表裏の電気配線112〜117を形成することも可能である。
【0038】
なお、スルーホール118は、前記インレット基材111の表裏に金属箔を貼り合わせた後、又は電気配線112〜117を形成した後、インレット基材111に孔を設けてその内面を導電性材料を施すことによって形成することができる。例えば、無電解メッキである。また、無電解メッキの後、電解メッキを施してもよい。あるいは、前記孔に導電性インキを充填することによって前記スルーホール118を形成することも可能である。また、スルーホール118に代えて、前記インレット基材111をクリンピングして押し潰し、表裏の電気配線112〜117を互いに接触させることにより、表裏接続ランド115を形成することも可能である。
【0039】
そして、電気配線112〜117を形成した前記インレット基材111の所定の位置に
貫通孔を設けることにより、本発明に係るインレットシート11を形成することができる。
【0040】
次に、カード基材12はICカードの物理的機械的支持体となるものである。このため、電気絶縁性と共に、ICカードに要求される強靭性と耐久性を兼ね備えたシート材料で構成することが望ましい。このような材料としては、例えば、ポリ塩化ビニル(PVC)シートやポリエイレンテレフタレート共重合体(PET−G)を例示することができる。そして、このカード基材12を2枚使用し、この2枚のカード基材12,12の間に前記インレットシート11を挟んで全体を積層一体化することで、3層構造の積層体を製造することができる。この積層一体化は、例えば、加熱加圧により、インレットシート11とカード基材12,12とを熱融着すると共に、前記貫通孔の内部でカード基材12,12同士を直接、すなわち、カード基材12を介することなく熱融着することによって可能である。なお、接着剤を利用して、これら2枚のカード基材12,12とインレットシート11とを積層一体化してもよい。
【0041】
次に、この3層構造の積層体の所定の位置に凹部1a,1bを形成することにより、本発明に係るカード基材を製造することができる。前述のように、チップ用凹部1bはインレットシート11を越える深さであり、前記貫通孔の内部に、しかも、このチップ用凹部1bにインレットシート11の端部11xが露出しない位置に設ける必要がる。また、基板用凹部1aはインレットシート11に達しない深さに達しない深さであり、この基板用凹部1aに収容されるモジュール基板21の端部21xとインレットシート11の端部11xとの距離が1.0mm以下の距離となる位置である。なお、これら凹部1a,1bは、ミリング加工(掘削加工)により形成することができる。
【0042】
次に、モジュール基板21は、絶縁基材の表裏にモジュール側結合コイル211及び外部接触端子212を含む電気配線を形成したものである。絶縁基材としてはガラスエポキシシートやPETシートを使用することができる。厚みは50〜200μmでよい。また、その外形は横13.0mm×縦11.8mmの標準サイズであることが望ましい。もっとも、これより小さい面積のモジュール基板21を使用することも可能である。
【0043】
モジュール側結合コイル211及び外部接触端子212を含む電気配線は、前記絶縁基材の表裏に銅箔を貼り合わせた後、フォトリソグラフィ法を利用してエッチングすることにより形成することができる。また、銅箔をエッチングして形成された外部接触端子212の銅箔表面にはニッケルメッキと金メッキとをこの順に施すことが望ましい。ニッケルメッキは0.5〜3μmの厚さでよく、金メッキは0.01〜0.3μmの厚さでよい。なお、絶縁基材の表裏に設けられた電気配線は、例えばスルーホール等を介して電気的に接続されていてもよい。
【0044】
なお、銅線を引き回すことによって前記モジュール側結合コイル211を構成することも可能である。また、絶縁基材に接合されたリードフレームで前記外部接触端子212を構成してもよい。
【0045】
そして、このモジュール基板21にICチップ22を搭載することによって本発明に係るICモジュール2を製造することができる。ICチップ22は、例えばダイアタッチ用接着剤によってモジュール基板21に接着することができる。あるいはリードフレームを介してモジュール基板21に接着してもよい。そして、ICチップ22の端子をワイヤーによって、前記モジュール側結合コイル211及び外部接触端子212に接続することによって搭載することができる。ワイヤーとしては、例えば、径10〜40μmの金ワイヤーや銅ワイヤーを使用することができる。
【0046】
そして、前記カード本体1の凹部1a,1bにこのICモジュール2を収容し、接着固定することによって、本発明に係るICカードを製造することができる。接着は、例えば、ホットメルトシートなどの接着剤によって可能である。
【符号の説明】
【0047】
1‥カード本体
1a‥基板用凹部
1ax‥基板用凹部側壁
1b‥チップ用凹部
11‥インレットシート
111‥インレット基材
112‥送受信用アンテナコイル
113‥カード側結合コイル
114‥コンデンサ電極
115‥表裏接続ランド
116‥コンデンサ電極
117‥引き回し線
118‥スルーホール
11x‥貫通孔端部
12‥カード基材
12a‥延設部分
2‥ICモジュール
21‥モジュール基板
211‥モジュール側結合コイル
212‥外部接触端子
21x‥モジュール基板端部
22‥ICチップ