(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、この発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、この実施形態のエンジンの制御装置を概念的に示す模式図である。
【0020】
この実施形態のエンジンEは自動車用ディーゼルエンジンである。エンジンEの構成は、
図1に示すように、ピストンPを収容した気筒内に吸気を送り込む吸気ポート、その吸気ポートに通じる吸気通路1、排気ポートから引き出された排気通路2、燃料噴射装置D等を備えている。吸気ポート及び排気ポートは、それぞれバルブ1a,2aによって開閉される。
【0021】
この実施形態では複数の気筒を備えた多気筒エンジンを想定し、
図1は、そのうち一つの気筒を示しているが、気筒の数に関わらずこの発明を適用可能である。
【0022】
吸気通路1には、吸気ポートから上流側に向かって、吸気ポートの流路面積を調節する高圧スロットルバルブ5、吸気通路1を流れる吸気を冷却する吸気冷却装置(インタークーラ)6、ターボチャージャのコンプレッサ17が、さらに上流側の吸気通路11には、流路面積を調節する低圧スロットルバルブ15、エアクリーナ16等が設けられる。
【0023】
排気通路2には、排気ポートから下流側に向かって、ターボチャージャのタービン7、排気中の未燃炭化水素(HC)等を除去する触媒等を備えた排気浄化部8、消音器(マフラ)12が設けられる。
【0024】
排気通路2のタービン7と排気ポートとの中途部分と、吸気通路1の吸気ポートと第一のスロットルバルブ5との中途部分は、高圧排気ガス再循環装置を構成する高圧排気還流通路3によって連通している。高圧排気還流通路3を介して、エンジンEから排出される排気ガスの一部が、還流ガスとして吸気通路1に還流する。高圧排気還流通路3には高圧排気還流弁4が設けられている。高圧排気還流弁4の開閉と第一のスロットルバルブ5の開閉に伴う吸気通路1内の圧力状態に応じて、還流ガスが吸気通路1内の吸気に合流する。
【0025】
また、排気通路2の排気浄化部8と消音器12との中途部分と、吸気通路11のコンプレッサ17と低圧スロットルバルブ15との中途部分は、低圧排気ガス再循環装置を構成する低圧排気還流通路13によって連通している。低圧排気還流通路13を介して、エンジンEから排出される排気ガスの一部が、還流ガスとして吸気通路11のターボチャージャのコンプレッサ17上流側に還流する。この低圧排気還流通路13には低圧排気還流弁14が設けられている。低圧排気還流弁14の開閉と低圧スロットルバルブ15の開閉に伴う吸気通路11内の圧力状態に応じて、還流ガスが吸気通路11内の吸気に合流する。図中の符号10は、低圧排気還流通路13の還流ガスを冷却する還流ガスクーラである。
【0026】
このエンジンEを搭載する車両は、エンジンを制御するための電子制御ユニット(Electronic Control Unit)20を備える。
【0027】
電子制御ユニット20は、エンジンの稼働状態に基づいて、燃料噴射装置Dによる燃料噴射を実行する燃料噴射実行手段25を備える。また、過給圧の制御、第一のスロットルバルブ5や低圧スロットルバルブ15の開度の制御、その他、エンジンの制御に必要な指令を行う制御手段26を備える。
【0028】
また、電子制御ユニット20は、エンジンEの出力に伴って駆動されるクランクシャフトC(回転軸)の角速度を検出する角速度検出手段21と、角速度検出手段21によって検出された角速度に基づいて角加速度を算出する角加速度算出手段22と、角加速度算出手段22によって算出される角加速度の変化に基づいて、気筒内における熱発生量が1サイクルの総熱発生量に対して所定範囲比率となる所定時期を算出する熱発生時期算出手段23とを備える。
この実施形態では、熱発生時期算出手段23によって算出される前記所定時期として、熱発生量が1サイクルの総熱発生量に対して50%になる時期である熱発生重心Gを採用している。以下、この実施形態では、前記所定時期を熱発生重心Gと称し、熱発生時期算出手段23を熱発生重心算出手段23と称する。
【0029】
さらに、電子制御ユニット20は、熱発生重心算出手段23によって算出される熱発生重心Gと、予め決められた熱発生重心基準値G
0との比較によって、気筒内の燃焼を制御する燃焼制御手段24を備える。燃焼制御手段24は、燃料噴射実行手段25に対して、必要な燃料噴射時期の補正を指令する。さらに燃焼制御手段24は、燃料噴射時期の補正を指令した状態で、必要な場合には、燃料噴射実行手段25に対して、燃料噴射量の補正を指令することもできる。
【0030】
角速度検出手段21は、
図1及び
図2に示すように、エンジンEに設けたクランク角センサ30及び気筒判別センサ33からの情報を取得する。
【0031】
クランク角センサ30は、エンジンのクランクシャフトCと一体に回転する回転部材31と、その回転部材31の周縁に形成された半径方向外側へ突出する複数のベーン31aを備える。ベーン31aは、回転部材31の周方向に沿って一定の間隔で設けられて、隣合うベーン31a間は、全て一定のクランクシャフトCの回転角度に対応する周方向長さとなっている。ベーン31aに対して対向して設けられた検出部32が、回転部材31の回動に伴うベーン31aの通過を、光学的あるいは電磁気的に検出して、その検出に基づいてパルスを出力するようになっている(
図3中の(b)と(d)(e)参照)。
【0032】
気筒判別センサ33は、シリンダヘッド内のカムシャフトに設けられている。クランクシャフトCが軸周り2回転してカムシャフトが軸周り1回転する間に、カムシャフトが1つの気筒に対応する特定の回転位置をとるごとに、所定のパルスを出力するようになっている(
図3中の(c)と(d)(e)参照)。
【0033】
角加速度の検出について説明すると、エンジンEの運転中に、電子制御ユニット20が、クランク角センサ30からのパルス出力と、気筒判別センサ33の検出信号とを取得し、演算を継続して繰り返し実行する。
【0034】
電子制御ユニット20は、クランク角センサ30から出力されたパルスが、気筒判別センサ33から出力された特定のパルス以降、何番目のパルスであるかを判別する。これにより、入力されたクランク角センサ30からのパルスが、各気筒の吸気・圧縮・膨張・排気のどの行程に対応するか、すなわち、何番の気筒の熱発生重心Gを算定するのに使える情報であるかを識別する。具体的には、そのパルス取得時点で、膨張行程(例えば、膨張行程の上死点前後)を実行中の気筒が、何番の気筒であるかを識別する。
【0035】
電子制御ユニット20は、クランク角センサ30からのパルスに対応して、上記識別された気筒(又は、上記識別された気筒を含み、その気筒と同一の工程で進行する一群の気筒グループ)のタイマをスタートさせる。
【0036】
タイマがスタートした後、クランク角センサ30から予め決められた所定数のパルスを取得すると、電子制御ユニット20は、タイマを停止させてタイマスタート後の経過時間を取得する。この計時結果は、上記識別された気筒のピストンPが圧縮上死点前後のある決められた領域において、クランクシャフトCが所定の回転角だけ回転するのに要する時間であり、この経過時間を、以下「所定角度経過時間」と称する。
【0037】
この実施形態では、
図3(b)に示すように、ベーン31aを6度毎の60歯(ただし、識別用の欠け歯4を含むので、56パルス)としており、この所定角度経過時間を、5つのベーン31aの通過に相当する角度、すなわち、
図3(a)に示すように、クランクシャフトCの回転角30度に要する時間としている。この角度は、30度以外でもよく、例えば、20度、15度等としてもよい。
【0038】
角速度検出手段21では、この所定角度経過時間に基づいて、その所定の回転角(30度)を通過する間における平均の角速度を算定する。
【0039】
算定式は、例えば、
(式1) 角速度ω
n=(π/6)÷(T
ca(n))
となる。
ここで、T
ca(n)とは、識別された気筒に対応して取得された所定の回転角(30度=π/6rad)毎の所定角度経過時間のうち、タイマスタートからn番目の時間であることを示す。
【0040】
角加速度算出手段22では、これらの角速度の情報に基づき、角加速度を算定する。角加速度は、時系列に沿って得られる二つの角速度に基づいて算出され、この実施形態では、時系列に沿って隣接する二つの角速度を用いている。
【0041】
算定式は、例えば、
(式2) 角加速度α
n−1〜n
=d
2θ/dt
2
=10
12×
[{(π/6)÷(T
ca(n))}−{(π/6)÷(T
ca(n−1))}]
/{(T
ca(n−1))+(T
ca(n))}/2
となる。
これは、タイマスタートからn−1番目に取得した所定角度経過時間T
ca(n−1)と、n番目に取得した所定角度経過時間T
ca(n)に基づいて算定された角加速度α
n−1〜nを示す。すなわち、α
n−1〜nは、所定の回転角(30度=π/6rad)の2倍の角度(60度)の範囲において、その計測始端から計測終端までの平均角加速度である。
【0042】
例えば、
図4は、上記識別された気筒のピストンPが圧縮上死点前後180度の領域にある期間おいて、30度毎の所定角度経過時間、角速度、角加速度を算定する場合の模式図である。
【0043】
ここでは、タイマスタートからタイマ停止までのクランク角180度の領域を、30度毎の6つの領域に区分している。タイマスタートから4番目の領域である領域4(上死点前18度から上死点後12度)を通過する時間T
4(T
ca(4))に基づく角速度ω
4と、領域5(上死点後12度から上死点後42度)を通過する時間T
5(T
ca(5))に基づく角速度ω
5によって算定された角加速度をα
45(α
4〜5)とし、領域5の角速度ω
5と、領域6(上死点後42度から上死点後72度)を通過する時間T
6(T
ca(6))に基づく角速度ω
6によって算定された角加速度をα
56(α
5〜6)としている。α
45は、対応する60度の範囲において、その計測始端sから計測終端uまでの平均角加速度である。α
56は、対応する60度の範囲において、その計測始端uから計測終端vまでの平均角加速度である。
【0044】
熱発生重心算出手段23は、角加速度算出手段22によって算出された角加速度の情報に基づいて、その角加速度の変化により、対応する気筒の熱発生重心Gを算出する。
【0045】
熱発生重心Gとは、一つの気筒の1サイクルにおける燃焼開始から燃焼終了までの発生エネルギ(熱)を100とした場合に、燃焼開始から発生した燃焼のエネルギ(熱)の積算値が半分の50に達した時期である。すなわち、熱発生量が、一つの気筒の1サイクルの総熱発生量の50%に達するクランク角θの位置を、熱発生重心Gとしている。
【0046】
熱発生量は、熱発生率(単位クランク角毎の熱発生量)を積算することにより求めることもできるが、この発明では、熱発生量を直接算出するのではなく、熱発生重心Gと、クランクシャフトCの回転の時系列に沿って得られる二つの角加速度α
n−1〜n、α
n〜n+1の値の差Δαとの間に線形的な相関関係があることに着目し、角加速度の変化とエンジンEのトルクの値に基づいて熱発生重心Gを求めている。なお、本実施例では熱発生重心Gに着目してこれを算出しているが,例えば総熱発生量の30〜80%の範囲に達する時期とΔαとの相関関係を予め取得しておき、角加速度の変化とエンジンEのトルクの値に基づいて当該範囲に達する時期を算出することでも本発明は実施可能である。
【0047】
例えば、
図5は、熱発生重心Gを算定するための相関関係を示す図表である。ここでは、横軸を熱発生重心Gのクランク角θ(deg.CA)、縦軸を角加速度変化、すなわち、二つの角加速度α
n−1〜n、α
n〜n+1の値の差Δαとしている。ここでは、n=5としており、Δα=α
5〜6−α
4〜5を、Δα=α
56−α
45と表記している。
【0048】
例えば、エンジンの発生トルクが120Nmの場合、
図5では、熱発生重心Gのクランク角θと、角加速度変化Δα=α
56−α
45との関係は、最も上方に位置する△印:aで示す分布となる。これらの情報は、同形式のマスターエンジン等を用いた実験により、予め取得しておくことができる。これらの情報の分布に基づき、最小二乗法等による近似式H
120が得られる。この近似式H
120により、発生トルクが120Nmの条件下で、角加速度変化Δα=α
56−α
45が判明すれば、熱発生重心Gのクランク角θを得ることができる。
【0049】
また、例えば、エンジンの発生トルクが80Nmの場合、
図5では、熱発生重心Gのクランク角θと、角加速度変化Δα=α
56−α
45との関係は、中央に位置する□印:bで示す分布となる。エンジンの発生トルクが20Nmの場合、熱発生重心Gのクランク角θと、角加速度変化Δα=α
56−α
45との関係は、中央に位置する○印:cで示す分布となる。
他のトルクの条件下、例えば、100Nm、60Nm、40Nm等でも、同様な近似式を得ておけば、そのトルクの条件下で、角加速度変化Δα=α
56−α
45が判明すれば、熱発生重心Gのクランク角θを得ることができる。データを取得するトルクのピッチは、10Nm毎、20Nm毎等、自由に設定できる。
【0050】
ただし、
図5は、エンジン回転数1500回転/分(min
−1)の条件下の熱発生重心Gのクランク角θと、角加速度変化Δα=α
n〜n+1−α
n−1〜nとの関係を示すものである。他のエンジン回転数、例えば、2000回転/分、2500回転/分、3500回転/分等においても、同様なマップ図を得ておけば、トルク条件、角加速度変化Δα=α
56−α
45が判明すれば、熱発生重心Gのクランク角θを得ることができる。データを取得するエンジン回転数のピッチは、500回転/分毎、100回転/分毎等、自由に設定できる。
【0051】
ここで、熱発生重心Gを算定するための基準となる二つの角加速度α
n−1〜n、α
n〜n+1(実施形態では、α
45とα
56)の値のうち時系列が前にある角加速度の値(実施形態では、α
45)は、膨張行程初期における上死点を跨ぐクランク角の範囲で検出されたものであることが望ましい。
【0052】
すなわち、熱発生重心Gを算定するための基準となる角加速度変化Δα=α
n〜n+1−α
n−1〜nは、膨張行程初期における上死点の通過時を挟む前後の一定の時間内における数値が、最も熱発生重心Gの位置との相関性が強いと考えられるからである。
【0053】
これが、例えば、膨張行程初期における上死点を完全に通過した後に取得を開始された角速度ω
nと、それ以降の角速度ω
n+1、ω
n+2・・・の情報のみに基づいて角加速度α
n〜n+1・・・を算定すると、既に、一部で燃焼が開始された後の情報のみによって、熱発生重心Gを算定することとなるからである。また、例えば、上死点を完全に通過する前に取得を終えた角速度ω
nと、それ以前の角速度ω
n−1、ω
n−2・・・の情報のみに基づいて角加速度α
n−1〜n・・・を算定すると、燃焼が開始されていない領域の情報が多く含まれてしまうからである。
【0054】
また、熱発生重心Gを算定するための基準となる角加速度変化Δα=α
n〜n+1−α
n−1〜nを算定するにあたって、時系列が前にある角加速度α
n−1〜nの値は、膨張行程初期における上死点を跨ぐクランク角の範囲で検出された角速度ω
n−1と、その上死点を跨ぐクランク角の範囲の後に続くクランク角の範囲で検出された角速度ω
nに基づいて算出されたものであることが、さらに望ましい。
【0055】
このように得られた熱発生重心Gの情報に基づいて、電子制御ユニット20の燃焼制御手段24は、熱発生重心算出手段23によって算出される熱発生重心Gと、予め決められた熱発生重心基準値G
0との比較によって、適正な燃料噴射時期、燃料噴射量の情報を算出する。そして、燃焼制御手段24は、燃料噴射実行手段25に対して、必要な燃料噴射時期の補正を指令する。さらに燃焼制御手段24は、燃料噴射時期の補正を指令した状態で発生トルクと目標トルクとを比較し、発生トルクが目標トルクと異なる場合には、発生トルクが目標トルクに一致するように燃料噴射実行手段25に対して、必要な燃料噴射量の補正を指令することもできる。
【0056】
ここで、熱発生重心基準値G
0とは、前述の熱発生重心Gが算定された条件、すなわち、トルク条件、角加速度変化の値、エンジン回転数の値の他、種々の運転条件の下において、失火等を生じない適正と判断される熱発生重心の位置である。これら熱発生重心基準値G
0の情報は、同形式のマスターエンジン等を用いた実験により、予め取得しておくことができる(例えば、後述の
図9参照)。また、目標トルクの情報についても、同様である。
【0057】
燃焼制御手段24は、熱発生重心算出手段23によって算出される熱発生重心Gを、熱発生重心基準値G
0に近づけるように制御する。この実施形態では、燃焼制御手段24による気筒内の燃焼の制御は、燃料噴射時期又は燃料噴射量の調整によって行われる。
【0058】
具体的には、熱発生重心Gが熱発生重心基準値G
0よりも遅い時期となっている場合は、熱発生重心Gを熱発生重心基準値G
0に近づけるように、燃料噴射時期を現状よりも進角させる。逆に、熱発生重心Gが熱発生重心基準値G
0よりも早い時期となっている場合は、熱発生重心Gを熱発生重心基準値G
0に近づけるように、燃料噴射時期を現状よりも遅角させる。なお、通常、燃料噴射量は、燃料噴射継続時間に比例する。
【0059】
この燃焼制御手段24による気筒内の燃焼状態の制御は、上記識別された気筒毎に別々に行うこともできるし、上記識別された気筒を含み、その気筒と同一の工程で進行する一群の気筒グループに対して一斉に同じ制御を行うこともできる。
【0060】
この手法による燃料噴射の補正を、エンジンの全ての気筒に対してそれぞれ行い、全ての気筒の燃焼の熱発生重心Gを熱発生重心基準値G
0に近づける。好ましくは、全ての気筒の燃焼の熱発生重心Gを熱発生重心基準値G
0に一致させる。これにより、エンジンの気筒間の燃焼変動のばらつきを効果的に低減することができる。
【0061】
このエンジンの制御装置の作用、及び、その制御方法を、
図6のフローチャート等に基づいて説明する。
【0062】
図6に示すステップS1は、その所定の回転角(30度)を通過する時間である所定角度経過時間T
4,T
5,T
6に基づいて、その所定の回転角(30度)を通過する間における角速度ω
4,ω
5,ω
6を算定し、その角速度ω
4,ω
5,ω
6に基づいて算定された角加速度α
45,α
56を算定する行程である。
【0063】
ステップS2は、そのステップS1で算定された角加速度α
45,α
56に基づいて、角加速度変化、すなわち、二つの角加速度α
56,α
45の差Δα=α
56−α
45を算定する行程である。
【0064】
ステップS3は、そのステップS2で算定された角加速度変化Δα=α
56−α
45と、トルク条件、エンジン回転数の条件に基づいて、熱発生重心Gを推定する行程である。ステップS4は、同じく、トルク条件、エンジン回転数の条件に基づいて、熱発生重心基準値G
0を推定する行程である。
【0065】
ステップS5は、そのステップS3、S4で算定された熱発生重心G、熱発生重心基準値G
0に基づいて、燃料噴射時期の補正量を算出する行程である。また、ステップS6は、その補正を指令する行程である。なお、ステップS6において、熱発生重心Gを熱発生重心基準値G
0に近づける、あるいは、一致させた状態で、各気筒の発生トルクと目標トルクとが異なる場合には、必要に応じて、その特定の気筒に対して燃料噴射量を増減させる制御を行うことも可能である。
【0066】
図7は、上段が、気筒の筒内圧とクランク角との関係、下段が、熱発生率とクランク角との関係を示すグラフ図である。
【0067】
上段図において、気筒内に導入される混合気に含まれる排気環流ガス量は、鎖線、破線、実線の順に増加している。燃料噴射時期は一定としている。排気環流ガス量の増加とともに、上死点後における筒内圧のピークの高さは徐々に低くなる傾向がある。また、そのピークの位置は、徐々に遅くなる傾向がある。さらに、排気環流ガス量を増加させると、最終的には失火に至ると考えられる。
【0068】
中段図において、気筒内に導入される混合気に含まれる排気環流ガス量は、同じく、鎖線、破線、実線の順に増加している。排気環流ガス量の増加とともに、上死点後における単位角度当たりの熱発生率(瞬時値)のピークの高さは徐々に低くなる傾向がある。また、そのピークの位置は、徐々に遅くなる傾向がある。また、排気環流ガス量の増加とともに、全体的に、熱発生率(瞬時値)は遅角側に移動する傾向にあり、熱発生重心Gの位置が遅くなっている傾向が理解できる。
【0069】
図8は、上段が、クランクシャフトが30度回転するのに要する時間とクランク角との関係、下段が、クランクシャフトの回転角加速度とクランク角との関係を示すグラフ図である。
【0070】
上段図において、気筒内に導入される混合気に含まれる排気環流ガス量は、同じく、鎖線、破線、実線の順に増加している。排気環流ガス量の増加とともに、上死点直前(領域3)と上死点付近(領域4)における所定角度経過時間T
3,T
4の低下が顕著である。逆に、上死点後(領域5,6)における所定角度経過時間T
5,T
6は微増している。
【0071】
下段図において、鎖線、破線、実線別の排気環流ガス量の変化は、前述の例での説明と同じである。排気環流ガス量の増加とともに、上死点直前の領域3と上死点付近の領域4との間における角加速度α
34は微増、逆に、上死点後の領域4と領域5との間における角加速度α
45は減少、同じく、領域5と領域6との間における角加速度α
56は減少している。
【0072】
このことから、排気環流ガス量の増加とともに、上死点の前後において、角加速度α
56,α
45の差Δα=α
56−α
45は、小さくなる傾向がある。また、上死点後における角速度の減少、角加速度の減少により、燃焼の進行速度が遅くなっており、熱発生重心Gは、遅角側へ移動していると考えられる。
【0073】
図9は、クランクシャフトCの回転角加速度αの変化と熱発生重心Gとの関係を示すグラフ図である。
【0074】
縦軸の角加速度α
56,α
45の差Δα=α
56−α
45の値に基づいて、その気筒におけるその1サイクルの熱発生重心Gを推定し、熱発生重心Gが熱発生重心基準値G
0よりも遅い時期となっている場合は、図中右側の矢印のように、熱発生重心Gを熱発生重心基準値G
0に近づけるように、燃料噴射時期を現状よりも進角させる制御を行う。
【0075】
逆に、熱発生重心Gが熱発生重心基準値G
0よりも早い時期となっている場合は、図中左側の矢印のように、熱発生重心Gを熱発生重心基準値G
0に近づけるように、燃料噴射時期を現状よりも遅角させる制御を行う。
【0076】
そのとき、必要な燃料噴射時期の遅角量、進角量は、電子制御ユニット20が保有するマップ図等に基づいて、燃焼制御手段24が算出することができる。
【0077】
図10(a)〜(c)は、それぞれエンジンEの発生トルクと熱発生重心、騒音と熱発生重心G、クランクシャフトCの回転角加速度変化と熱発生重心Gとの関係を示すグラフ図である。
図10(d)〜(f)は、それぞれエンジンEの発生トルクと熱発生重心G、騒音と熱発生重心G、クランクシャフトCの回転角加速度変化と熱発生重心Gとの関係を示すグラフ図である。
【0078】
図10(a)に矢印で示すように、排気環流ガス量を増加させて、空気過剰率を1.37から1.31、1.29へと徐々に減少させると、熱発生重心Gは遅角側へ移動していく。このとき、トルクも減少してしまう。
【0079】
しかし、空気過剰率を1.29のまま燃料噴射時期を、上死点後クランク角6.5degから、7.5deg、8.5deg、9.5deg、11.5degへと徐々に進角させると、熱発生重心Gも進角側へ移動しているのがわかる。このとき、トルクも増加し、排気環流ガス量を増加させる前のレベルに回復している。
【0080】
このとき、
図10(b)に示すように、エンジンからの騒音レベルは、熱発生重心Gの遅角側への移動とともに減少し、熱発生重心Gの進角側への移動とともに増加している。
また、
図10(c)に示すように、クランクシャフトCの角加速度変化は、熱発生重心Gの遅角側への移動とともに増加し、熱発生重心Gの進角側への移動とともに減少している。
【0081】
また、
図10(d)に矢印で示すように、過給圧を108kPaから103kPa、101kPaへと徐々に減少させると、空気量(酸素量)の減少とともに、熱発生重心Gは遅角側へ移動していく。このとき、トルクも減少してしまう。
【0082】
しかし、過給圧を101kPaのまま燃料噴射時期を、上死点後クランク角6.5degから、7.5deg、8.5deg、9.5deg、11.5degへと徐々に進角させると、熱発生重心Gも進角側へ移動しているのがわかる。このとき、トルクも増加し、過給圧を減少させる前のレベルに回復している。
【0083】
このとき、
図10(e)に示すように、エンジンからの騒音レベルは、熱発生重心Gの遅角側への移動とともに減少し、熱発生重心Gの進角側への移動とともに増加している。
また、
図10(f)に示すように、クランクシャフトCの角加速度変化は、熱発生重心Gの遅角側への移動とともに増加し、熱発生重心Gの進角側への移動とともに減少している。
【0084】
以上のように、この発明によれば、エンジンEの出力に伴って駆動されるクランクシャフトCの角速度ωに基づいて角加速度αを算出して、その角加速度αの変化からその気筒における熱発生重心Gを算出するので、その算出される熱発生重心Gと、基準となる熱発生重心基準値G
0との比較に基づいて、気筒内の燃焼状態を的確に制御することができる。特に、膨張行程初期における角加速度αの変化から熱発生重心Gを推定し、目標値である熱発生重心基準値G
0に追従する制御を行う点が有効である。
【0085】
上記の実施形態では、熱発生時期算出手段23として、角加速度算出手段22によって算出される角加速度の変化に基づいて気筒内における熱発生重心Gを算出する熱発生重心算出手段23を採用し、その熱発生重心算出手段23によって算出される熱発生重心Gを基準に制御を行ったが、熱発生時期算出手段23により算出する制御の元となる指標として、熱発生重心G以外を採用してもよい。
例えば、角加速度算出手段22によって算出される角加速度の変化に基づいて、気筒内における熱発生量が1サイクルの総熱発生量に対して30%、あるいは、40%といった所定範囲比率となる前記所定時期を、熱発生時期算出手段23によって算出してもよい。
このとき、熱発生時期算出手段23によって算出される前記所定時期と、予め決められた熱発生時期基準値との比較によって、燃焼制御手段24は、気筒内の燃焼を制御する。
前記所定時期が、そのサイクルの気筒内における熱発生量の積算値が、1サイクルの総熱発生量に対して30%である場合は、熱発生時期基準値もその30%の所定時期に対応する基準値とし、そのサイクルの気筒内における熱発生量の積算値が、1サイクルの総熱発生量に対して40%である場合は、熱発生時期基準値もその40%の所定時期に対応する基準値とする。
【0086】
上記の各実施形態では、圧縮自己着火式エンジンであるディーゼルエンジンを例に説明したが、この実施形態には限定されず、この発明は、例えば、2サイクルガソリンエンジンや4サイクルガソリンエンジンにも適用できる。また、自動車以外の各種輸送機器、産業機械に用いられるレシプロエンジンにも、この発明を適用することができる。
【0087】
ガソリンエンジンの場合、エンジンの構成は、
図1に示すシリンダの気筒上部に、燃焼室内の燃料に点火するための点火プラグが設けられる。点火プラグの点火時期は、電子制御ユニット20の制御手段26によって制御される。
【0088】
ガソリンエンジンの場合も、前述の実施形態と同様、例えば、クランクシャフトCの角加速度α
56,α
45の差Δα=α
56−α
45の値に基づいて、その気筒におけるその1サイクルの熱発生重心Gを推定する。熱発生重心Gが熱発生重心基準値G
0よりも遅い時期となっている場合は、熱発生重心Gを熱発生重心基準値G
0に近づけるように、燃料噴射時期や点火時期等を現状よりも進角させる制御を行う。
【0089】
逆に、熱発生重心Gが熱発生重心基準値G
0よりも早い時期となっている場合は、熱発生重心Gを熱発生重心基準値G
0に近づけるように、燃料噴射時期や点火時期等を現状よりも遅角させる制御を行う。
【0090】
必要な燃料噴射時期や点火時期の遅角量、進角量は、電子制御ユニット20が保有するマップ図等に基づいて、燃焼制御手段24が算出することができる。電子制御ユニット20が、熱発生重心基準値G
0や熱発生時期基準値、目標トルクに関する算定データを保有している点も同様である。