(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明を実施するための形態を説明する。なお、特に断らない限り、本明細書に記載された数値範囲「a〜b」は、下限aおよび上限bをその範囲に含む。そして、これらの上限値および下限値、ならびに実施例中に列記した数値も含めてそれらを任意に組み合わせることで数値範囲を構成し得る。さらに数値範囲内から任意に選択した数値を上限、下限の数値とすることができる。
【0015】
本発明の非水二次電池用電極(以下、「本発明の電極」ということがある。)の製造方法は、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、又はアクリル酸とメタクリル酸の共重合体を具備する電極本体を準備する工程、ホスファゼン含有液を準備する工程、前記電極本体を前記ホスファゼン含有液に接触させる接触工程、を含むことを特徴とする。
そして、本発明の非水二次電池は、本発明の電極を具備することを特徴とする。
【0016】
非水二次電池とは、電解液の溶媒として非水溶媒を用いた二次電池のことをいう。代表的な非水二次電池として、リチウムイオン二次電池を挙げることができる。本発明の電極は負極でもよいし正極でもよい。
【0017】
以下、本発明の非水二次電池用電極の製造方法に沿って、本発明を説明する。
まず、ポリ(メタ)アクリル酸を具備する電極本体を準備する工程について説明する。
ポリ(メタ)アクリル酸は電極中で結着剤として機能する。
ポリ(メタ)アクリル酸の分子量としては、数平均分子量又は重量平均分子量で1000〜300万が好ましく、10000〜200万がより好ましく、10万〜100万がさらに好ましい。
【0018】
電極本体は、集電体と、結着剤としてのポリ(メタ)アクリル酸及び活物質を含む活物質層と、を具備する。
【0019】
集電体は、二次電池の放電又は充電の間、電極に電流を流し続けるための化学的に不活性な電子高伝導体をいう。集電体としては、銀、銅、金、アルミニウム、マグネシウム、タングステン、コバルト、亜鉛、ニッケル、鉄、白金、錫、インジウム、チタン、ルテニウム、タンタル、クロム、モリブデンから選ばれる少なくとも一種、並びにステンレス鋼などの金属材料を例示することができる。集電体は公知の保護層で被覆されていても良い。
【0020】
集電体は箔、シート、フィルム、線状、棒状などの形態をとることができる。そのため、集電体として、例えば銅箔、ニッケル箔、アルミニウム箔、ステンレス箔などの金属箔を好適に用いることができる。集電体が箔、シート、フィルム形態の場合は、その厚みが10μm〜100μmの範囲内であることが好ましい。
【0021】
活物質としては、負極に用いられる負極活物質と正極に用いられる正極活物質がある。
【0022】
負極活物質としては、リチウム合金、リチウムを吸蔵及び放出可能な炭素系材料、リチウムと合金化可能な元素、リチウムと合金化可能な元素を有する化合物、あるいは高分子材料などを例示することができる。
【0023】
炭素系材料としては、難黒鉛化性炭素、天然黒鉛、人造黒鉛、コークス類、グラファイト類、ガラス状炭素類、有機高分子化合物焼成体、炭素繊維、活性炭あるいはカーボンブラック類が例示できる。ここで、有機高分子化合物焼成体とは、フェノール類やフラン類などの高分子材料を適当な温度で焼成して炭素化したものをいう。
【0024】
リチウムと合金化可能な元素としては、具体的にNa、K、Rb、Cs、Fr、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Ra、Ti、Ag、Zn、Cd、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Biが例示でき、特に、Si又はSnが好ましい。
【0025】
リチウムと合金化可能な元素を有する化合物としては、具体的にZnLiAl、AlSb、SiB
4、SiB
6、Mg
2Si、Mg
2Sn、Ni
2Si、TiSi
2、MoSi
2、 CoSi
2、NiSi
2、CaSi
2、CrSi
2、Cu
5Si、FeSi
2、MnSi
2、NbSi
2、TaSi
2、VSi
2、WSi
2、ZnSi
2、SiC、Si
3N
4、Si
2N
2O、SiO
v(0<v≦2)、SnO
w(0<w≦2)、SnSiO
3、LiSiO 、LiSnO、TiO
y、ZrO
y、VO
y、CrO
y、MnO
y、FeO
y、CoO
y、NiO
y、CuO
y、ZnO
y、LiTi
zO
y、LiV
zO
y(0<y≦3、0<Z≦1)などの遷移金属酸化物、Li
3N、LiCo
0.4N
0.6などの窒化リチウム化合物などを例示でき、特に、SiO
x(0.3≦x≦1.6)が好ましい。また、リチウムと合金化反応可能な元素を有する化合物として、スズ合金(Cu−Sn合金、Co−Sn合金等)などの錫化合物を例示できる。前述の材料は炭素源とともに加熱して、カーボンコート又は複合化したものを採用してもよい。
【0026】
高分子材料としては、具体的にポリアセチレン、ポリピロール、テレフタル酸を例示できる。
【0027】
また、CaSi
2を塩酸やフッ化水素酸などの酸で処理して得られる層状ポリシランを、300〜1000℃で加熱して得られるSi材料を負極活物質として採用しても良い。さらに、上記Si材料を炭素源とともに加熱して、カーボンコート又は複合化したものを負極活物質として採用してもよい。
【0028】
負極活物質としては、以上のものの一種以上を使用することができる。後述するように本発明の電極は活物質の膨張収縮に耐え得るとの利点を有する。この利点を生かすには、充放電時に膨張収縮の程度が大きく、かつ高容量のSi含有材料を負極活物質として採用するのが好ましい。
【0029】
正極活物質としては、層状化合物のLi
aNi
bCo
cMn
dD
eO
f(0.2≦a≦1.2、b+c+d+e=1、0≦e<1、DはLi、Fe、Cr、Cu、Zn、Ca、Mg、S、Si、Na、K、Al、Zr、Ti、P、Ga、Ge、V、Mo、Nb、W、Laから選ばれる少なくとも1の元素、1.7≦f≦2.1)、Li
2MnO
3を挙げることができる。また、正極活物質として、LiMn
2O
4、Li
2Mn
2O
4等のスピネル、及びスピネルと層状化合物の混合物で構成される固溶体、LiMPO
4、LiMVO
4又はLi
2MSiO
4(式中のMはCo、Ni、Mn、Feのうちの少なくとも一種から選択される)などで表されるポリアニオン系化合物を挙げることができる。さらに、正極活物質として、LiFePO
4FなどのLiMPO
4F(Mは遷移金属)で表されるタボライト系化合物、LiFeBO
3などのLiMBO
3(Mは遷移金属)で表されるボレート系化合物を挙げることができる。正極活物質として用いられるいずれの金属酸化物も上記の組成式を基本組成とすればよく、基本組成に含まれる金属元素を他の金属元素で置換したものも使用可能である。また、正極活物質として、充放電に寄与するリチウムイオンを含まない正極活物質材料、たとえば、硫黄単体(S)、硫黄と炭素を複合化した化合物、TiS
2などの金属硫化物、V
2O
5、MnO
2などの酸化物、ポリアニリン及びアントラキノン並びにこれら芳香族を化学構造に含む化合物、共役二酢酸系有機物などの共役系材料、その他公知の材料を用いることもできる。さらに、ニトロキシド、ニトロニルニトロキシド、ガルビノキシル、フェノキシルなどの安定なラジカルを有する化合物を正極活物質として採用してもよい。リチウムを含まない正極活物質材料を用いる場合には、正極および/または負極に、公知の方法により、予めイオンを添加させておく必要がある。ここで、当該イオンを添加するためには、金属または当該イオンを含む化合物を用いればよい。
【0030】
活物質層は活物質、結着剤としてのポリ(メタ)アクリル酸、さらに必要に応じて導電助剤を具備する。結着剤としては、ポリ(メタ)アクリル酸を必須とするが、他の結着剤を併用しても良い。
【0031】
活物質層中の結着剤の配合割合は、質量比で、活物質:結着剤=1:0.001〜1:0.3であるのが好ましく、1:0.005〜1:0.2であるのがより好ましく、1:0.01〜1:0.15であるのがさらに好ましい。結着剤が少なすぎると電極の成形性が低下し、また、結着剤が多すぎると電極のエネルギー密度が低くなるためである。
【0032】
導電助剤は、電極の導電性を高めるために添加される。そのため、導電助剤は、電極の導電性が不足する場合に任意に加えればよく、電極の導電性が十分に優れている場合には加えなくても良い。導電助剤としては化学的に不活性な電子高伝導体であれば良く、炭素質微粒子であるカーボンブラック、黒鉛、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)、気相法炭素繊維(Vapor Grown Carbon Fiber:VGCF)、および各種金属粒子などが例示される。これらの導電助剤を単独または二種以上組み合わせて活物質層に添加することができる。活物質層中の導電助剤の配合割合は、質量比で、活物質:導電助剤=1:0.005〜1:0.5であるのが好ましく、1:0.01〜1:0.2であるのがより好ましく、1:0.03〜1:0.1であるのがさらに好ましい。導電助剤が少なすぎると効率のよい導電パスを形成できず、また、導電助剤が多すぎると活物質層の成形性が悪くなるとともに電極のエネルギー密度が低くなるためである。
【0033】
活物質層は集電体の表面に形成され、その結果、電極本体を得ることができる。集電体の表面に活物質層を形成させ、電極本体を得るには、ロールコート法、ダイコート法、ディップコート法、ドクターブレード法、スプレーコート法、カーテンコート法などの従来から公知の方法を用いて、集電体の表面に活物質を塗布すればよい。具体的には、活物質、結着剤、及び必要に応じて導電助剤、並びに、溶剤を混合してスラリーを調製する。該スラリーを集電体の表面に塗布後、乾燥し、電極本体を得る。溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドン、メタノール、メチルイソブチルケトン、水を例示できる。電極密度を高めるべく、乾燥後のものを圧縮して、電極本体としても良い。
【0034】
以上のとおり、ポリ(メタ)アクリル酸を具備する電極本体を準備することができる。
【0035】
次に、ホスファゼン含有液を準備する工程について説明する。
ホスファゼンとは、基本骨格がPとNからなる化合物又はその塩を意味する。具体的なホスファゼンとしては、下記一般式(1)で表される環状ホスファゼンと、P=N構造を有する鎖状ホスファゼンを挙げることができる。ホスファゼン自体の取り扱い容易性、製造容易性などの観点から、下記一般式(1)で表される環状ホスファゼンが好ましい。
【0036】
【化1】
(R
1、R
2はそれぞれ独立に、水素、フッ素、塩素、臭素等のハロゲン、水酸基、ニトロ基、シアノ基、置換基で置換されていてもよいアルキル基、置換基で置換されていてもよいアルケニル基、置換基で置換されていてもよいアルキニル基、置換基で置換されていてもよいアリール基、置換基で置換されていてもよいアルコキシ基、置換基で置換されていてもよいアリールオキシ基、NR
3R
4、SR
5を表す。または、R
1及びR
2はこれらが結合するPと一緒に複素環を形成する。
R
3、R
4はそれぞれ独立に水素、置換基で置換されていてもよいアルキル基、置換基で置換されていてもよいアリール基を表す。または、R
3及びR
4はこれらが結合する窒素と一緒に複素環を形成する。
R
5は水素、置換基で置換されていてもよいアルキル基、置換基で置換されていてもよいアリール基を表す。
nは3以上の整数である。)
【0037】
上記一般式(1)において、「置換基」とは、ハロゲン、水酸基、ニトロ基、シアノ基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、NR
3R
4基、オキソ基などの1価又は2価の基を意味する。
【0038】
上記一般式(1)において、「置換基で置換されていてもよい」とは、無置換であるか、1つ以上の置換基で置換されていることを意味する。
【0039】
上記一般式(1)において、アルキル基、アルコキシ基の炭素数は1〜12が好ましく、1〜6がより好ましい。具体的なアルキル基及びアルコキシ基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、t−ブチル基、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、i−プロポキシ基、t−ブトキシ基を例示できる。
【0040】
上記一般式(1)において、アルケニル基、アルキニル基の炭素数は2〜12が好ましく、2〜6がより好ましい。具体的なアルケニル基及びアルキニル基としては、ビニル基、アリル基、エテニル基、プロパルギル基を例示できる。
【0041】
上記一般式(1)において、アリール基及びアリールオキシ基のアリール環としては、ベンゼン、ナフタレン、ピリジン、ピリミジン、ピラジン、ピリダジン、トリアジン、ピロール、イミダゾール、ピラゾール、トリアゾール、チオフェン、フラン、オキサゾール、イソオキサゾール、チアゾールを例示できる。
【0042】
上記一般式(1)において、R
1、R
2及びPで形成される複素環としては、B、O、S若しくはNを含んでいてもよい環を意味する。R
1、R
2及びPで形成される複素環は置換基で置換されていても良い。R
1、R
2及びPで形成される複素環としては、
ベンゾ−2−ホスファ(V)−1,3−イミダゾール、ベンゾ−2−ホスファ(V)−1,3−オキサゾール、ベンゾ−2−ホスファ(V)−1,3−ジオキソランを例示できる。
【0043】
上記一般式(1)において、R
3、R
4及び窒素で形成される複素環としては、ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン、モルホリン、スクシンイミド、マレイミド、フタルイミドを例示できる。
【0044】
上記一般式(1)において、nは3〜6の整数が好ましく、3又は4がより好ましい。
【0045】
ホスファゼンを得るには、市販のものを購入しても良いし、特開2012−169250号公報、特開2011−26513号公報、特開2007−115583号公報、特開2014−63704号公報、国際公開第2004/001882号などに記載されている製造方法に準じて製造してもよい。
【0046】
ホスファゼン含有液の溶媒としては、ホスファゼンの溶解性、分散性や安定性に応じて適宜選択すればよい。該溶媒として、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、テトラヒドロフラン、N−メチル−2−ピロリドン、ジエチルエーテル、ベンゼン、トルエン、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、アセトン、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、シクロヘキサノン等を挙げることができ、これらの溶媒を単独で又は複数で用いれば良い。
【0047】
ホスファゼン含有液を準備するには、ホスファゼンと上記溶媒を混合すればよい。ホスファゼン含有液は、ホスファゼンが溶媒に完全に溶解している溶液状態でもよいし、ホスファゼンが溶媒に一部溶解している懸濁状態でもよい。
【0048】
ホスファゼン含有液におけるホスファゼン濃度に特に限定は無いが、0.01質量%〜10質量%の範囲内が好ましく、0.05質量%〜5質量%の範囲内がより好ましく、0.1質量%〜3質量%の範囲内がさらに好ましく、0.2質量%〜2質量%の範囲内が特に好ましい。
【0049】
次に、電極本体をホスファゼン含有液に接触させる接触工程について説明する。
【0050】
電極本体をホスファゼン含有液に接触させるには、例えば、電極本体をホスファゼン含有液に浸ける方法、ホスファゼン含有液を電極本体に塗布する方法、ホスファゼン含有液をスプレー状態で電極本体に塗布する方法を挙げることができる。作業の簡便性の観点から、電極本体をホスファゼン含有液に浸ける方法が好ましい。該方法においては、ホスファゼン含有液は撹拌状態としてもよいし、また、常圧下、加圧下又は減圧下で実施してもよく、常温下、加熱条件下で実施してもよい。電極本体をホスファゼン含有液に浸ける時間は、ホスファゼン含有液の種類や濃度に因り、適宜選択すればよい。該時間として、5秒〜5分、好ましくは10秒〜2分を例示することができる。
【0051】
電極本体をホスファゼン含有液に接触させた時点で、ホスファゼンにおける複数のPは電極本体表層に存在するポリ(メタ)アクリル酸の複数のカルボン酸の酸素とイオン結合、配位結合又は共有結合すると推定される。当該結合により、本発明の電極の表面のポリ(メタ)アクリル酸分子は、他のポリ(メタ)アクリル酸分子と、強固なネットワークを構築できる。その結果、本発明の電極の表面の硬度が増加していると推定される。
【0052】
接触工程が終了した時点で、ポリ(メタ)アクリル酸を具備する電極本体の表面にはホスファゼン又はホスファゼン誘導体が付着している。そうすると、本発明の電極の一態様として、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、又はアクリル酸とメタクリル酸の共重合体を具備する電極本体と、前記電極本体の表面に形成されたホスファゼン部と、を有する非水二次電池用電極を把握することができる。ここで、ホスファゼン部とは、本発明の電極のうち、ホスファゼン由来の化学構造を有する箇所を意味する。ホスファゼン部には、P、P−N結合又はP=N結合などが存在し得るが、少なくともPが存在する。
【0053】
図1は、本発明の非水二次電池用電極の一態様を示す断面模式図である。集電体1は電子高伝導体からなる。そして、該集電体1の表面に活物質及び結着剤としてのポリ(メタ)アクリル酸を有する活物質層2が形成されている。電極本体3は集電体1及び活物質層2で構成される。電極本体3の表面にホスファゼン部4が形成されている。電極5は電極本体3及びホスファゼン部4で構成される。
【0054】
接触工程の後に、電極表面に付着したホスファゼン含有液の溶媒を除去するための乾燥工程を実施するのが好ましい。乾燥温度は200℃未満であり、150℃以下が好ましく、70〜140℃の範囲内がより好ましい。乾燥工程は減圧下で行うのが好ましい。乾燥時間は、ホスファゼン含有液の溶媒を除去するのに十分な時間を適宜設定すればよい。乾燥時間として、1〜5時間を例示できる。
【0055】
本発明の電極においては、ポリ(メタ)アクリル酸を具備する電極本体をホスファゼン含有液と接触させたことで電極表面が硬化する。当該硬化により、結着剤としてのポリ(メタ)アクリル酸の硬度不足を補うことができる。また、電極内部のポリ(メタ)アクリル酸については比較的低硬度であるものの柔軟性があるといえ、そして、該柔軟性を有するために、充放電に伴う活物質の膨張収縮による応力を緩衝できると推定される。また、硬化することにより、ホスファゼン部が電解液に溶出することがなく、電池の反応抵抗の悪化を抑制することもできると推定される。
【0056】
本発明の非水二次電池の代表例としてのリチウムイオン二次電池は、電池構成要素として、正極、負極、セパレータ及び電解液を含む。
【0057】
正極及び負極の両者が本発明の電極であってもよいが、正極又は負極のいずれかが本発明の電極であればよい。本発明の電極でない正極又は負極は、公知のものを適宜採用すれば良い。
【0058】
セパレータは、正極と負極とを隔離し、両極の接触による電流の短絡を防止しつつ、リチウムイオンを通過させるものである。セパレータとしては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリイミド、ポリアミド、ポリアラミド(Aromatic polyamide)、ポリエステル、ポリアクリロニトリル等の合成樹脂、セルロース、アミロース等の多糖類、フィブロイン、ケラチン、リグニン、スベリン等の天然高分子、セラミックスなどの電気絶縁性材料を1種若しくは複数用いた多孔体、不織布、織布などを挙げることができる。また、セパレータは多層構造としてもよい。
【0059】
電解液は、非水溶媒と非水溶媒に溶解した電解質とを含んでいる。
【0060】
非水溶媒としては、環状エステル類、鎖状エステル類、エーテル類等が使用できる。環状エステル類としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ガンマブチロラクトン、ビニレンカーボネート、2−メチル−ガンマブチロラクトン、アセチル−ガンマブチロラクトン、ガンマバレロラクトンを例示できる。鎖状エステル類としては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、メチルエチルカーボネート、プロピオン酸アルキルエステル、マロン酸ジアルキルエステル、酢酸アルキルエステル等を例示できる。エーテル類としては、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、1,2−ジブトキシエタンを例示できる。非水溶媒としては、上記具体的な溶媒の化学構造のうち一部又は全部の水素がフッ素に置換した化合物を採用しても良い。
【0061】
電解質としては、LiClO
4、LiAsF
6、LiPF
6、LiBF
4、LiCF
3SO
3、LiN(CF
3SO
2)
2等のリチウム塩を例示できる。
【0062】
電解液としては、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネートなどの非水溶媒に、LiClO
4、LiPF
6、LiBF
4、LiCF
3SO
3などのリチウム塩を0.5mol/lから1.7mol/l程度の濃度で溶解させた溶液を例示できる。
【0063】
本発明の非水二次電池の代表例としてのリチウムイオン二次電池の製造方法を以下に説明する。
【0064】
正極および負極でセパレータを挟持し電極体とする。電極体は、正極、セパレータ及び負極を重ねた積層型、又は、正極、セパレータ及び負極を捲いた捲回型のいずれの型にしても良い。正極の集電体および負極の集電体から外部に通ずる正極端子および負極端子までの間を、集電用リード等を用いて接続した後に、電極体に電解液を加えてリチウムイオン二次電池とするとよい。
【0065】
本発明の非水二次電池の形状は特に限定されるものでなく、円筒型、角型、コイン型、ラミネート型等、種々の形状を採用することができる。
【0066】
本発明の非水二次電池は、車両に搭載してもよい。車両は、その動力源の全部あるいは一部に非水二次電池による電気エネルギーを使用している車両であればよく、たとえば、電気車両、ハイブリッド車両などであるとよい。車両に非水二次電池を搭載する場合には、非水二次電池を複数直列に接続して組電池とするとよい。非水二次電池を搭載する機器としては、車両以外にも、パーソナルコンピュータ、携帯通信機器など、電池で駆動される各種の家電製品、オフィス機器、産業機器などが挙げられる。さらに、本発明の非水二次電池は、風力発電、太陽光発電、水力発電その他電力系統の蓄電装置及び電力平滑化装置、船舶等の動力及び/又は補機類の電力供給源、航空機、宇宙船等の動力及び/又は補機類の電力供給源、電気を動力源に用いない車両の補助用電源、移動式の家庭用ロボットの電源、システムバックアップ用電源、無停電電源装置の電源、電動車両用充電ステーションなどにおいて充電に必要な電力を一時蓄える蓄電装置に用いてもよい。
【0067】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
【実施例】
【0068】
以下に実施例を示し、本発明をより具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0069】
(製造例1)
負極活物質となるSi材料を以下のとおり製造した。
0℃で氷浴したフッ化水素1質量%含有濃塩酸20mLにCaSi
2を5g加え、1時間撹拌した。その後、水を加えてさらに5分撹拌し、反応液を濾過して黄色粉体を得た。黄色粉体を水及びエタノールで洗浄し、減圧乾燥を行って、層状ポリシラン5.5gを得た。該ポリシランをアルゴン雰囲気下で500℃に加熱して、ポリシランから水素が離脱したSi材料を得た。
【0070】
(実施例1)
本発明の電極を以下のとおり製造した。
【0071】
負極活物質として製造例1で得たSi材料を50質量部、さらに負極活物質として天然黒鉛を35質量部、導電助剤としてアセチレンブラックを5質量部、結着剤としてポリアクリル酸を10質量部混合し、さらにN−メチル−2−ピロリドンを加えてスラリーとした。
集電体として厚さ20μmの電解銅箔を準備した。該銅箔の表面に、ドクターブレードを用いて上記スラリーが膜状になるように塗布した。スラリーが塗布された銅箔を80℃で20分間乾燥することでN−メチル−2−ピロリドンを揮発により除去し、その結果、表面に負極活物質層が形成された銅箔を得た。該銅箔を負極活物質層の厚みが20μmとなるように、ロールプレス機で圧縮して接合物を得た。この接合物を実施例1の電極本体とした。
なお、用いたポリアクリル酸はアクアリックAS58(株式会社日本触媒)であり、その重量平均分子量は80万である。
【0072】
ホスファゼンとして、ヘキサフルオロシクロトリホスファゼン(東京化成工業株式会社)を採用した。ヘキサフルオロシクロトリホスファゼンは、一般式(1)においてR
1及びR
2がF、n=3の化合物に該当する。上記ホスファゼンをエタノールに溶解し、1.0質量%ホスファゼン含有液を準備した。
【0073】
常温で、上記ホスファゼン含有液に上記電極本体を1分間浸けた。浸漬後の電極を1時間、風乾した後、130℃で3時間、減圧乾燥を行った。このようにして得られた電極を実施例1の電極とした。
【0074】
実施例1の電極を用いて、以下のとおり、ハーフセルを製造した。
実施例1の電極を径11mmで裁断し、評価極とした。金属リチウム箔を径13mmで裁断し対極とした。セパレータとしてガラスフィルター(ヘキストセラニーズ社)及び単層ポリプロピレンであるcelgard2400(ポリポア株式会社)を準備した。また、エチレンカーボネート50容量部及びジエチルカーボネート50容量部を混合した溶媒にLiPF
6を1mol/Lで溶解した電解液を準備した。対極、ガラスフィルター、celgard2400、評価極の順に、2種のセパレータを対極と評価極で挟持し電極体とした。この電極体をコイン型電池ケースCR2032(宝泉株式会社)に収容し、さらに電解液を注入して、コイン型電池を得た。これを実施例1のリチウムイオン二次電池とした。
【0075】
(比較例1)
実施例1の電極本体を比較例1の電極とした以外は、実施例1と同様の方法で、比較例1のリチウムイオン二次電池を製造した。
【0076】
(評価例1)
各リチウムイオン二次電池につき、直流電流0.2mAで評価極の対極に対する電圧が0.01Vになるまで放電を行い、放電が終了してから10分後に、直流電流0.2mAで評価極の対極に対する電圧が1.0Vになるまで充電を行った。このときの放電容量を初期放電容量とし、充電容量を初期充電容量とした。(初期充電容量/初期放電容量)×100を初期効率(%)とした。
また、上記放電及び充電を1サイクルとして、各リチウムイオン二次電池に対して20サイクルの放電充電を行った。(20サイクル後の充電容量/初期充電容量)×100を容量維持率(%)とした。
なお、評価例1では、評価極にLiを吸蔵させることを放電といい、評価極からLiを放出させることを充電という。
結果を表1に示す。
【0077】
【表1】
【0078】
実施例1のリチウムイオン二次電池は比較例1のリチウムイオン二次電池よりも、初期効率および容量維持率が高かった。ホスファゼン含有液での電極処理によって電極表面が変化したことによる本発明の電極の好適な効果が確認できた。特に、リチウムの吸蔵及び放出に伴う膨張及び収縮の程度が大きいことが知られるSi含有材料を活物質とした本発明の電極において、有利な効果を確認できたことは、特筆に値する。
【0079】
(評価例2)
実施例1及び比較例1の電極に対し、以下の示差走査熱量測定(DSC測定)を行った。
実施例1のリチウムイオン二次電池につき、電池製造2時間後に、直流電流0.2mAで評価極の対極に対する電圧が0.01Vになるまで放電を行った。放電後、すなわち評価極にLiを吸蔵させた後のリチウムイオン二次電池を分解し、評価極を取り出した。評価極を径3mmの円盤状に切断した。円盤状の評価極をSUS製のDSC測定用容器に入れ、実施例1で用いた電解液を0.5μL加えた後、該容器を密閉し、実施例1の電極の測定サンプルとした。測定サンプルにつき、昇温速度10℃/min.にて、示差走査熱量測定を行い、発熱開始温度を観察した。比較例1のリチウムイオン二次電池についても同様の方法で示差走査熱量測定を行った。結果を表2に示す。
【0080】
【表2】
【0081】
実施例1の電極は、比較例1の電極と比較して、発熱開始温度が高かった。電極表面に形成されたホスファゼン部に因り、電極の発熱開始温度をより高くシフトできることが裏付けられた。本発明の非水二次電池用電極は発熱開始温度が高いため、容易に発熱を生じず、安全性に優れたものといえる。