(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
三次元網目状構造を有する金属多孔体は、各種フィルタ、触媒担体、電池用電極など多方面に用いられている。例えば三次元網目状構造を有するニッケル多孔体(以下「ニッケル多孔体」という)からなるセルメット(住友電気工業(株)製:登録商標)は、ニッケル水素電池やニッケルカドミウム電池等の電池の電極材料として使用されている。セルメットは連通気孔を有する金属多孔体であり、金属不織布など他の多孔体に比べて気孔率が高い(90%以上)という特徴がある。
【0003】
このようなニッケル多孔体は、発泡ウレタン等の連通気孔を有する多孔体樹脂の骨格表面にニッケル層を形成した後、熱処理して発泡樹脂成形体を分解し、さらにニッケルを還元処理することで得られる。ニッケル層の形成は、発泡樹脂成形体の骨格表面にカーボン粉末等を塗布して導電化処理した後、電気めっきによってニッケルを析出させることで行われる。
【0004】
また、ニッケルと同様にアルミニウムも導電性、耐腐食性、軽量などの優れた特徴があり、電池用途では例えば、リチウムイオン電池の正極として、アルミニウム箔の表面にコバルト酸リチウム等の活物質を塗布したものが使用されている。
このアルミニウムを用いた正極の容量を向上するためには、アルミニウムの表面積を大きくした三次元網目状構造を有するアルミニウム多孔体(以下「アルミニウム多孔体」という)を用い、アルミニウム多孔体の気孔部にも活物質を充填することが考えられる。アルミニウム多孔体を用いることで、電極を厚くしても活物質を保持でき、単位面積当たりの活物質利用率が向上するからである。
【0005】
アルミニウム多孔体の製造方法として、特許第3413662号公報(特許文献1)には、内部連通空間を有する三次元網状のプラスチック基体にアークイオンプレーティング法によりアルミニウムの蒸着処理を施して、2〜20μmの金属アルミニウム層を形成する方法が記載されている。
この方法によれば、2〜20μmの厚さのアルミニウム多孔体が得られるとされているが、気相法によるため大面積での製造は困難であり、基体の厚さや気孔率によっては内部まで均一な層の形成が難しい。またアルミニウム層の形成速度が遅い、設備が高価などにより製造コストが増大するなどの問題点がある。さらに、厚膜を形成する場合には、膜に亀裂が生じたりアルミニウムの脱落が生じたりするおそれがある。
【0006】
また、特開平08−170126号公報(特許文献2)には、三次元網目状構造を有する発泡樹脂成形体の骨格にアルミニウムの融点以下で共晶合金を形成する金属(銅等)による皮膜を形成した後、アルミニウムペーストを塗布し、非酸化性雰囲気下で550℃以上750℃以下の温度で熱処理をすることで有機成分(発泡樹脂)の消失及びアルミニウム粉末の焼結を行い、アルミニウム多孔体を得る方法が記載されている。
しかしながら、この方法によればアルミニウムと共晶合金を形成する層が出来てしまい、純度の高いアルミニウム層が形成できない。
【0007】
他の方法としては、三次元網目状構造を有する発泡樹脂成形体にアルミニウムめっきを施す方法があり、特開2012−007233号公報(特許文献3)には、このめっき法によって得られるアルミニウム多孔体を電極として用いるキャパシタについての発明が記載されている。特許文献3に記載の方法によれば、三次元網目構造を有する多孔質樹脂成形体に対して純度の高いアルミニウムを均一にめっきすることが可能であり、高品質のアルミニウム多孔体を製造することができる。
【0008】
ところで、前記のリチウムイオン電池やキャパシタのように非水電解質を利用する電気化学デバイスは水分を充分に除去した環境中で作製する必要があり、電極として使用する集電体も充分に乾燥させる必要がある。前記特許文献3に記載のキャパシタに用いられるアルミニウム多孔体は、骨格表面に比較的多くの水分を吸着しているため、上記のような電気化学デバイス用の電極として用いるためには、充分な乾燥工程を行う必要がある。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[本発明の実施形態の説明]
最初に本発明の実施態様を列記して説明する。
(1)本発明の一態様に係るアルミニウムめっき液は、三次元網目状構造を有する樹脂成形体の表面にカーボン塗料を塗布することによって導電化処理して導電化樹脂成形体を作製する工程と、前記導電化樹脂成形体の水分吸着量を100mg/m
2以下にして乾燥導電化樹脂成形体を作製する工程と、前記乾燥導電化樹脂成形体の表面に溶融塩電解めっきによってアルミニウム膜を形成する工程と、前記基材を除去する工程と、を有するアルミニウム多孔体の製造方法、である。
上記(1)に記載の発明のように、アルミニウム膜を形成する前の基材として水分吸着量が100mg/m
2以下の乾燥導電化樹脂成形体を用いることで、水分吸着量が少ないアルミニウム多孔体を製造することが可能となる。
【0014】
(2)上記(1)に記載のアルミニウム多孔体の製造方法は、前記乾燥導電化樹脂成形体を作製する工程において、前記導電化樹脂成形体を熱処理することによって前記導電化樹脂成形体の水分吸着量を100mg/m
2以下にすることが好ましい。
上記(2)に記載の発明のように、導電化樹脂成形体を熱処理することで導電化樹脂成形体の水分吸着量を効率よく減らすことができる。
【0015】
(3)上記(1)又は上記(2)に記載のアルミニウム多孔体の製造方法は、前記導電化樹脂成形体は導電層の目付け量が1g/m
2以上、20g/m
2以下であることが好ましい。
上記(3)に記載の発明のように、導電化樹脂成形体における導電層の目付け量を比較的少なくすることで、導電化樹脂成形体に含まれている水分量を減らすことができる。
【0016】
(4)上記(1)〜(3)のいずれか一項に記載のアルミニウム多孔体の製造方法は、前記カーボン塗料がバインダーとしてカルボキシメチルセルロースを含むことが好ましい。
カルボキシメチルセルロースをバインダーとして用いたカーボン塗料は、樹脂成形体の骨格表面の導電層を緻密にすることができるため、導電化樹脂成形体に含まれる水分量を少なくすることができる。
【0017】
[本発明の実施形態の詳細]
本発明の実施形態に係るアルミニウム多孔体の製造方法の具体例を、以下に、より詳細に説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0018】
<アルミニウム多孔体の製造方法>
本発明者等は、三次元網目状構造を有するアルミニウム多孔体がどのようにして水分を吸着するのかという点について検討したところ、従来の製造方法によって得られたアルミニウム多孔体は骨格の中空部の表面に微小な多孔質層(以下、微小多孔質層という)を有しており、この微小多孔質層が水分を吸着してしまうことを見出した。そこで、本発明者等は、アルミニウム多孔体の骨格の内側に形成される微小多孔質層の厚さを薄くすることによってアルミニウム多孔体が吸着する水分量を減らすことを検討した。その結果、アルミニウム膜を形成する前の基材として水分吸着量が100mg/m
2以下の乾燥導電化樹脂成形体を用いることで、骨格の内側に形成される微小多孔質層を薄くすることができることを見出した。
【0019】
このメカニズムは次のように考えられる。すなわち、樹脂成形体の表面の導電層に水分が多く含まれた状態でアルミニウムめっきを行うと、吸着した水とめっき液が反応して水酸化アルミニウムが生じ、それが後述の熱処理時にγ−アルミナに変化することで微小多孔質層が形成されると考えられる。このため導電層から水分を十分に除去しておくことで酸化アルミニウムが生成することを抑制でき、アルミニウム多孔体の骨格の内側に形成される微小多孔質層の厚さを薄くできるものと考えられる。
【0020】
以上のことから、本発明の実施形態に係るアルミニウム多孔体の製造方法は、前記導電化樹脂成形体の水分吸着量を100mg/m
2以下にして乾燥導電化樹脂成形体を作製する工程を有している。
以下、本発明の実施形態に係るアルミニウム多孔体の製造方法における各工程について詳細に説明する。
【0021】
(導電化樹脂成形体を作製する工程)
まず、三次元網目状構造を有し連通孔を有する樹脂成形体を準備する。樹脂成形体の素材は任意の樹脂を選択できる。ポリウレタン、メラミン、ポリプロピレン、ポリエチレン等の発泡樹脂成形体が素材として例示できる。
発泡ウレタン及び発泡メラミンは気孔率が高く、また気孔の連通性があるとともに熱分解性にも優れているため発泡樹脂成形体として好ましく使用できる。発泡ウレタンは気孔の均一性や入手の容易さ等の点、更に、孔径の小さなものが得られる点で好ましい。
【0022】
樹脂成形体には発泡体製造過程での製泡剤や未反応モノマーなどの残留物があることが多く、洗浄処理を行うことが後の工程のために好ましい。樹脂成形体が骨格として三次元的に網目を構成することで、全体として連続した気孔を構成している。発泡ウレタンの骨格はその延在方向に垂直な断面において略三角形状をなしている。
【0023】
発泡樹脂成形体の気孔率は80%〜98%、孔径は1μm〜3500μmとするのが好ましい。なお、発泡樹脂成形体の場合の孔径とはセル径をいうものとする。
気孔率は、次式で定義される。
気孔率=(1−(多孔質材の重量[g]/(多孔質材の体積[cm
3]×素材密度)))×100[%]
また、孔径は、樹脂成形体表面を顕微鏡写真等で拡大し、1インチ(25.4mm)あたりの気孔数をセル数として計数して、平均孔径=25.4mm/セル数として平均的な値を求める。
【0024】
前記樹脂成形体の表面にアルミニウムを電解めっきするためには、樹脂成形体の表面をあらかじめ導電化処理する必要がある。導電化処理は、導電性のカーボン粒子を含有したカーボン塗料を塗布して乾燥させることにより行うことができる。
前記カーボン塗料としての懸濁液は、好ましくは、カーボン粒子、粘結剤(バインダー)、分散剤および分散媒を含む。カーボン粒子の塗布を均一に行うには、懸濁液が均一な懸濁状態を維持している必要がある。このため、懸濁液は、20℃〜40℃に維持されていることが好ましい。懸濁液の温度が20℃以上であることにより均一な懸濁状態を保つことができ、樹脂多孔体の網目状構造をなす骨格の表面に良好なカーボン粒子の層を形成することができる。また、懸濁液の温度が40℃以下であることにより分散剤の蒸発量が多くなることを抑制し、懸濁液が濃縮されることを防止することができる。
【0025】
前記カーボン粒子の粒径は、0.01μm〜5μmであることが好ましく、より好ましくは0.01μm〜2μmである。粒径が大きいと樹脂成形体のセルを詰まらせたり、平滑なめっきを阻害したりする要因となり、また、小さすぎると十分な導電性を確保することが難しくなる。カーボン粒子の種類は特に限定されず導電性を付与することができるものであればよく、例えば、カーボンブラックを好ましく用いることができる。
【0026】
前記バインダーは特に限定されるものではなく、例えば、ポリオレフィンやカルボキシメチルセルロースを好ましく用いることができる。なお、ポリオレフィンは粒状のため懸濁液においても粒と粒との間に少ないながらも隙間が出来ており、この隙間部分にアルミニウムめっき液が侵食して電着し、アルミニウム多孔体の骨格の中空部の表面に微小多孔質層が形成される場合が考えられる。これに対し、カルボキシメチルセルロースは水溶性のため、ポリオレフィンを用いて導電層を形成した場合のような隙間が形成されないと考えられる。このためカルボキシメチルセルロースを用いて作製した緻密な導電層にはアルミニウムめっき液が侵食しにくいため、アルミニウム多孔体の骨格の中空部の表面に微小多孔質層が形成されにくくなると考えられる。
【0027】
樹脂成形体へのカーボン粒子の塗布は、上記懸濁液に対象となる樹脂成形体を浸漬し、絞りと乾燥を行うことで行うことができる。
上記のようにして作製した導電化樹脂成形体においては、導電層の目付け量が1g/m
2以上、20g/m
2以下であることが好ましい。導電層の目付け量が1g/m
2以上であることにより樹脂成形体の表面に十分な導電性を付与することができる。また、導電層の目付け量が20g/m
2以下であることにより、樹脂成形体の骨格の表面に付着している導電層の量が多くなり過ぎることを抑制し、導電化樹脂成形体の水分吸着量をより少なくすることができる。これらの観点から、前記導電化樹脂成形体における導電層の目付け量は2g/m
2以上、18g/m
2以下であることがより好ましく、3g/m
2以上、15g/m
2以下であることが更に好ましい。
なお、この場合の導電層の目付け量とは、基材の厚さが1mmで、気孔率が80%〜98%、1インチ当たりの気孔数(セル数)が42個〜50個の発泡ウレタンを基材として用いた場合の目付け量をいうものとする。
【0028】
(乾燥導電化樹脂成形体を作製する工程)
乾燥導電化樹脂成形体を作製する工程においては、上記のようにして作製した導電化樹脂成形体の水分吸着量が100mg/m
2以下となるようにする工程である。導電化樹脂成形体の水分吸着量を100mg/m
2以下とすることで、続くアルミニウム膜形成工程においてアルミニウムめっき液が導電層中に侵食しにくくすることができる。この乾燥導電化樹脂成形体を作製する工程においては、前記導電化樹脂成形体の水分吸着量を少なくすればするほど好ましく、例えば、70mg/m
2以下とすることがより好ましく、50mg/m
2以下とすることが更に好ましい。
【0029】
導電化樹脂成形体の水分吸着量を100mg/m
2以下とする方法は特に限定されるものではなく、例えば、熱処理、低露点下での処理、減圧処理などが挙げられる。
上記のなかでも、熱処理が、一番効率がよく好ましい。前記熱処理は、例えば、前記導電化樹脂成形体を100℃以上の温度下に1分以上曝せばよい。より好ましい熱処理条件は、120℃で、2分以上であり、120℃で、5分以上とすることが更に好ましい。
【0030】
前記導電化樹脂成形体を低露点下に置いて水分を除去する場合には、例えば、露点温度が0℃以下の雰囲気中に24時間以上静置すればよい。より好ましい条件は、露点温度が−10℃以下の雰囲気中に24時間以上置くことであり、露点温度が−30℃以下の雰囲気中に24時間以上置くことが更に好ましい。
また、前記導電化樹脂成形体を減圧処理する場合には、例えば、10
5Pa以下の雰囲気下に6時間以上静置すればよい。より好ましい条件は、10
4Pa以下の雰囲気中に6時間以上置くことであり、10
3Pa以下の雰囲気中に6時間以上置くことが更に好ましい。
【0031】
(アルミニウム膜を形成する工程)
上記のようにして得た乾燥導電化樹脂成形体の表面にアルミニウム膜を形成する方法としては、溶融塩浴を用いためっき法を採用する。
−アルミニウムめっき(溶融塩めっき)−
溶融塩中で電解めっきを行い、前記乾燥導電化樹脂成形体の表面にアルミニウム膜を形成する。
溶融塩浴中でアルミニウムのめっきを行うことにより、特に三次元網目状構造を有する樹脂成形体のように複雑な骨格構造を有する基材の場合であっても、骨格の表面に均一に厚いアルミニウム膜を形成することができる。前記乾燥導電化樹脂成形体を陰極とし、アルミニウムを陽極として溶融塩中で直流電流を印加する。
【0032】
前記溶融塩としては、有機系ハロゲン化物とアルミニウムハロゲン化物の共晶塩である有機溶融塩、アルカリ金属のハロゲン化物とアルミニウムハロゲン化物の共晶塩である無機溶融塩を使用することができる。比較的低温で溶融する有機溶融塩浴を使用すると、基材である樹脂成形体を分解することなく電解めっきすることができる。有機系ハロゲン化物としてはイミダゾリウム塩、ピリジニウム塩等が使用でき、具体的には1−エチル−3−メチルイミダゾリウムクロライド(EMIC)、ブチルピリジニウムクロライド(BPC)が好ましい。
溶融塩中に水分や酸素が混入すると溶融塩が劣化するため、めっきは窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で、かつ密閉した環境下で行うことが好ましい。
【0033】
溶融塩浴としては窒素を含有した溶融塩浴が好ましく、中でもイミダゾリウム塩浴が好ましく用いられる。溶融塩として高温で溶融する塩を使用した場合は、めっき膜の成長よりも樹脂が溶融塩中に溶解や分解する方が早くなり、乾燥導電化樹脂成形体の表面にめっき膜を形成することができない。イミダゾリウム塩浴は、比較的低温であっても樹脂に影響を与えず使用可能である。イミダゾリウム塩として、1,3位にアルキル基を持つイミダゾリウムカチオンを含む塩が好ましく用いられ、特に塩化アルミニウム−1−エチル−3−メチルイミダゾリウムクロライド(AlCl
3−EMIC)系溶融塩が、安定性が高く分解し難いことから最も好ましく用いられる。発泡ウレタン樹脂や発泡メラミン樹脂などへのめっきが可能であり、溶融塩浴の温度は10℃以上、100℃以下、好ましくは25℃以上、45℃以下である。低温になる程めっき可能な電流密度範囲が狭くなり、乾燥導電化樹脂成形体の表面全体へのめっきが難しくなる。100℃を超える高温では基材となる乾燥導電化樹脂成形体の形状が損なわれる不具合が生じやすい。
以上の工程により骨格の芯として乾燥導電化樹脂成形体を有するアルミニウム−樹脂構造体が得られる。
【0034】
(基材を除去する工程)
上記のようにして得られたアルミニウム−樹脂構造体から前記基材を除去する方法は特に限定されないが、例えば、窒素雰囲気下あるいは大気下等で370℃以上、アルミニウムの融点未満に加熱する熱処理を行うことにより行うことができる。これにより樹脂が焼失し、中空の骨格を有するアルミニウム多孔体が得られる。
【0035】
前述のように本発明者等は、アルミニウム多孔体の水分吸着量を更に少なくするために鋭意探求を重ねた結果、従来のめっき法により得られるアルミニウム多孔体の骨格の表面に微小多孔質層が形成される原因は、ベーマイトの脱水反応によってγ−アルミナが生成しているためであることを見出した。このγ−アルミナは吸湿剤等にも利用されるものであり、吸湿特性の検討もなされている(例えば、「川村和郎・遠藤晴巳、『ベーマイト及び無水アルミナの吸湿特性』、Journal of Ceramic Society of Japan 107[4] pp335-338 (1998)」、「李海洙・一色貞文、『γ−アルミナの変態について』、生産研究、第11巻、第2号、25−29頁、1959年」等)。
【0036】
そこで本発明者らは、アルミニウム多孔体の骨格の表面にγ−アルミナによる微細な凹凸が生じないようにする方法について更なる探求を重ねた。その結果、従来の、三次元網目状構造を有するアルミニウム多孔体をめっき法によって製造する方法(例えば、特開2012−007233号公報)に改良の余地があることを見出した。
すなわち、アルミニウム−樹脂構造体からウレタン除去する場合に加熱処理を行うと、通常は、ウレタンの除去温度が500℃〜660℃であるため、アルミニウム膜表面の酸化膜中に水分が含まれていると、脱水して表面にナノオーダーの微小多孔質層が形成されてしまう。このため、アルミニウム膜の表面にベーマイトが形成されないようにすればよい。
【0037】
ところで、溶融塩、例えば1−エチル−3−メチルイミダゾリウムクロリドと塩化アルミニウムからなるようなめっき液中には水も酸素も存在しないため、溶融塩電解めっきによって形成されたアルミニウム膜は酸化膜を有していないアルミニウムである。従って、めっき後の処理によって、表面状態を種々に変化させることができる。
例えば、アルミニウム膜が形成されたアルミニウム−樹脂構造体をめっき液から取り出した直後に純水で洗浄した場合には、めっき膜の最表面には水を含有する酸化アルミニウム膜が形成される。また、アルミニウム−樹脂構造体をめっき液から取り出した直後に低露点のドライエアを吹き付けることで、洗浄処理前にめっき膜表面に酸化膜を形成させることが可能である。また、アルミニウム−樹脂構造体をめっき液から取り出した直後に有機溶媒、例えばエタノールやキシレン等で洗浄し、ドライエアに暴露した場合には、めっき膜の表面には水をほとんど含まない酸化膜が形成される。
【0038】
以上のようなことから、骨格表面に微細な凹凸が形成されておらず、より水分吸着量の少ないアルミニウム多孔体を製造するためには、例えば、以下のようにすることが好ましい。
【0039】
− アルミニウム−樹脂構造体に付着しためっき液の処理 −
樹脂製の基材表面にアルミニウムを溶融塩電解めっきすることにより得られるアルミニウム−樹脂構造体は表面にめっき液が付着しているため、水洗処理を行ってめっき液を除去し、その後加熱処理が行われる。このとき、アルミニウム−樹脂構造体の表面に多量のめっき液が付着した状態で水洗処理を行うと、めっき液と水とが反応して熱が発生し、アルミニウム膜の表面においてアルミニウムと水が反応しベーマイトが形成される。そして、その後に樹脂を除去する際に500℃以上の高温に曝されることで、前記ベーマイトがγ−アルミナに変態し、骨格表面に微細な凹凸が形成されると考えられる。
【0040】
このため、アルミニウム−樹脂構造体を水洗処理する前において、前記アルミニウム膜に付着しためっき液の量が0.1mL/m
2以上、30mL/m
2以下となるように液切りを行うことが好ましい。上記の観点から前記アルミニウム膜に付着しためっき液の量は少ない方が好ましく、0.1mL/m
2以上、10mL/m
2以下であることがより好ましく、0.1mL/m
2以上、3mL/m
2以下であることが更に好ましい。
めっき液の液切りを行う手段は特に限定されず、例えば、窒素ガス、アルゴンガス、ドライエア(露点−50℃以上、−30℃以下程度)等を前記アルミニウム−樹脂構造体に吹き付けることによって行うことができる。
【0041】
− アルミニウム−樹脂構造体へのドライエアの吹き付け −
基材表面にアルミニウム膜が形成されたアルミニウム−樹脂構造体をめっき液から取り出した直後に低露点のドライエアを吹き付けることも有効である。これにより、水洗処理前にアルミニウム膜表面に酸化被膜を形成させて、γ−アルミナが形成されることを防止することができる。前記低露点のドライエアとしては、例えば、露点温度が−50℃〜−30℃程度の乾燥した大気等を利用することができる。
【0042】
また、アルミニウム−樹脂構造体を水洗処理する前において、前記アルミニウム膜に付着しためっき液を有機溶剤によって除去することも好ましい。これにより、アルミニウム膜と水とを反応させずに、めっき液を除去することができる。そして、その後にアルミニウム−樹脂構造体をドライエアに暴露することで、水を殆ど含まない酸化被膜をアルミニウム膜表面に形成させて、γ−アルミナが形成されないようにすることができる。前記有機溶剤としては、例えば、エタノール、キシレン、トルエンや2,3,3,4,4,5,5−ヘプタフルオロ−1−ペンテンなどのフッ化アルケン等を好ましく用いることができる。
【0043】
−樹脂製基材の除去−
前記のようにアルミニウム−樹脂構造体を370℃以上に加熱する熱処理を行うことで樹脂製基材を除去することができるが、この工程を、水分を多く含んだ露点の高い雰囲気下で行うと、アルミニウムと水とが反応してベーマイトが形成され、更にこれがγ−アルミナへと変態して骨格表面に微細な凹凸が形成されてしまう可能性がある。
このため、基材の除去は、露点温度が0℃以下の雰囲気下で、370℃以上、アルミニウムの融点未満に加熱して前記樹脂を焼失させることにより行うことが好ましい。雰囲気の露点温度は、−5℃以下であることがより好ましく、−10℃以下であることが更に好ましい。なお、前記基材を除去する際の露点温度は−30℃程度で充分に雰囲気中の水分とアルミニウムとの反応を抑制することができるため、前記露点温度は−30℃以上で行えばよい。また、加熱温度は、500℃以上、660℃以下がより好ましく、580℃以上、630℃以下が更に好ましい。
【0044】
<アルミニウム多孔体>
以上のようにして得られるアルミニウム多孔体は、骨格の内側の中空部の表面に微小多孔質層が殆ど形成されておらず、水分吸着量が非常に少ないアルミニウム多孔体である。
また、アルミニウム多孔体の骨格が三次元網目状構造を有することにより、例えば、アルミニウム多孔体を電気化学デバイスの電極に用いる場合に、活物質の保持量を多くして単位体積当たりの活物質の利用率を高くすることができ、容量の大きな電極を製造することが可能となる。
【0045】
そして前述のようにアルミニウム多孔体の水分吸着量が少ないため、例えば、前記アルミニウム多孔体を、非水電解質を用いた電池やキャパシタの電極のように水分を除去した環境下で使用する場合に、水分の乾燥除去工程の負担を軽減することができる。
このため前記アルミニウム多孔体の水分吸着量は少ないほど好ましく、80mg/m
2以下であることが好ましく、70mg/m
2以下であることがより好ましく、60mg/m
2以下であることが更に好ましく、50mg/m
2以下であることが最も好ましい。
なお、アルミニウム多孔体の前記水分吸着量とは、温度20℃、露点温度0℃の雰囲気に24時間暴露した後のアルミニウム多孔体の見かけの面積当たりの水分量のことをいう。
【0046】
前記非水電解質を用いた電気化学デバイスとしては、例えば、リチウム電池、キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ、溶融塩電池などが挙げられる。
【実施例】
【0047】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、これらの実施例は例示であって、本発明のアルミニウム多孔体の製造方法はこれらに限定されるものではない。本発明の範囲は特許請求の範囲の範囲によって示され、特許請求の範囲の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0048】
[実施例1]
−樹脂成形体の準備−
三次元網目状構造を有する樹脂成形体として、気孔率96%、セル数46個/インチ、気孔径約550μm、厚さ1.0mmのウレタン発泡体を準備し、これを100mm×100mm角に切断した。
−カーボン塗料1−
カーボンブラックを13.9質量%、カルボキシメチルセルロースを1.7質量%、水を83.0質量%、添加剤として分散剤を1.4質量%、となるようにして混合してカーボン塗料1を作製した。カーボンブラックは平均一次粒子径が20nmのものを使用した。また、カルボキシメチルセルロースとしてはアンモニウム系カルボキシメチルセルロースを用いた。
【0049】
−導電化樹脂成形体1−
前記カーボン塗料1中に前記ウレタン発泡体を浸漬し、引き上げた後に120℃で1分間乾燥を行い、導電化樹脂成形体1を作製した。導電化樹脂成形体1における導電層の目付量は8gであった。
【0050】
−乾燥導電化樹脂成形体1−
上記で作製した導電化樹脂成形体1を温度20℃、露点温度10℃の大気下において、120℃のホットプレート上で5分間加熱処理することにより乾燥導電化樹脂成形体1を作製した。
【0051】
(乾燥導電化樹脂成形体1の水分吸着量の評価)
上記のようにして作製した乾燥導電化樹脂成形体1を4000mm
2に切り出して試験片を作製し、150℃に加熱した水分気化装置を用いてカールフィッシャー電量滴定法にて水分量を測定した。滴定の終了条件は、検出水分量が「バックグラウンド値+0.1μg/sec」となった時点とした。
その結果、乾燥導電化樹脂成形体1の水分吸着量は38mg/m
2であった。
【0052】
−アルミニウムめっき−
前記乾燥導電化樹脂成形体1をワークとして、給電機能を備える治具にセットした後、アルゴン雰囲気かつ低水分(露点−30℃以下)としたグローブボックス内に入れ、温度40℃の溶融塩アルミニウムめっき浴(33mol%EMIC−67mol%AlCl
3)に浸漬した。ワークをセットした治具を整流器の陰極側に接続し、対極のアルミニウム板(純度99.99質量%)を陽極側に接続した。
電流密度6.5A/dm
2の直流電流を20分間印加してめっきすることにより、前記乾燥導電化樹脂成形体1の表面に140g/m
2の質量のアルミニウム膜が形成されたアルミニウム−樹脂構造体1を得た。撹拌はテフロン(登録商標)制の回転子を用いてスターラーにて行った。なお、電流密度はウレタン発砲体のみかけの面積で計算した値である。
【0053】
−樹脂の除去−
上記で得られたアルミニウム−樹脂構造体1をめっき浴から取り出し、めっき液の付着量が30mL/m
2となった状態で、液温が15℃の水を用いて水洗処理を行った。水洗処理後、アルミニウム−樹脂構造体を自然乾燥させ、露点温度−20℃の大気下にて、610℃で20分の熱処理を行った。これによりウレタン樹脂が焼失してアルミニウム多孔体1が得られた。
【0054】
(アルミニウム多孔体1の水分吸着量の評価)
上記のようにして作製したアルミニウム多孔体1を2500mm
2に切り出して試験片を作製し、温度20℃、露点温度0℃の雰囲気下にて24時間静置した。その後、試験片(アルミニウム多孔体1)を300℃に加熱した水分気化装置を用いてカールフィッシャー電量滴定法にて水分吸着量を測定した。滴定の終了条件は、検出水分量が「バックグラウンド値+0.1μg/sec」となった時点とした。
その結果、アルミニウム多孔体1の水分量は42mg/m
2と十分に少ない水分吸着量であった。
【0055】
[実施例2]
カーボン塗料として下記組成のカーボン塗料2を用いた以外は実施例1と同様にして乾燥導電化樹脂成形体2、アルミニウム多孔体2を作製した。
−カーボン塗料2−
カーボンブラックを12.6質量%、ポリオレフィンを3.1質量%、水を83.0質量%、添加剤として分散剤を1.3質量%、となるようにして混合してカーボン塗料1を作製した。カーボンブラックは平均一次粒子径が20nmのものを使用した。
【0056】
(乾燥導電化樹脂成形体2の水分吸着量の評価)
乾燥導電化樹脂成形体1と同様にして乾燥導電化樹脂成形体2の水分吸着量を測定したところ、乾燥導電化樹脂成形体2の水分吸着量は52mg/m
2であった。
(アルミニウム多孔体2の水吸着分量の評価)
アルミニウム多孔体1と同様にしてアルミニウム多孔体2の水分吸着量を測定したところ、アルミニウム多孔体2の水分吸着量は65mg/m
2であった。
【0057】
[比較例1]
導電化樹脂成形体1を乾燥処理(熱処理)せずに、温度20℃、露点温度10℃の一般雰囲気下で2日間静置してからアルミニウムめっきを行った以外は実施例1と同様にしてアルミニウム多孔体Aを作製した。
なお、温度20℃、露点温度10℃の一般雰囲気下で2日間静置した後の導電化樹脂成形体を導電化樹脂成形体Aとする。
【0058】
(導電化樹脂成形体Aの水分吸着量の評価)
乾燥導電化樹脂成形体1と同様にして導電化樹脂成形体Aの水分吸着量を測定したところ、導電化樹脂成形体Aの水分吸着量は135mg/m
2であった。
(アルミニウム多孔体Aの水分吸着量の評価)
アルミニウム多孔体1と同様にしてアルミニウム多孔体Aの水分吸着量を測定したところ、アルミニウム多孔体Aの水分吸着量は87mg/m
2であった。
【0059】
[比較例2]
導電化樹脂成形体2を乾燥処理せずに、温度20℃、露点温度10℃の一般雰囲気下で2日間静置してからアルミニウムめっきを行った以外は実施例2と同様にしてアルミニウム多孔体Bを作製した。
なお、温度20℃、露点温度10℃の一般雰囲気下で2日間静置した後の導電化樹脂成形体を導電化樹脂成形体Bとする。
【0060】
(導電化樹脂成形体Bの水分吸着量の評価)
乾燥導電化樹脂成形体1と同様にして乾燥導電化樹脂成形体Bの水分吸着量を測定したところ、導電化樹脂成形体Bの水分吸着量は162mg/m
2であった。
(アルミニウム多孔体Bの水分吸着量の評価)
アルミニウム多孔体1と同様にしてアルミニウム多孔体Bの水分吸着量を測定したところ、アルミニウム多孔体Bの水分吸着量は149mg/m
2であった。