特許第6331822号(P6331822)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6331822正極活物質、正極及びリチウムイオン二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6331822
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】正極活物質、正極及びリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/58 20100101AFI20180521BHJP
   C01B 33/32 20060101ALN20180521BHJP
【FI】
   H01M4/58
   !C01B33/32
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-149745(P2014-149745)
(22)【出願日】2014年7月23日
(65)【公開番号】特開2016-25032(P2016-25032A)
(43)【公開日】2016年2月8日
【審査請求日】2017年6月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(72)【発明者】
【氏名】加藤 友彦
(72)【発明者】
【氏名】佐野 篤史
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 孝
(72)【発明者】
【氏名】樋口 章二
【審査官】 小川 知宏
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/105039(WO,A1)
【文献】 特開2013−084521(JP,A)
【文献】 特開2013−069526(JP,A)
【文献】 特開2013−101919(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/58
C01B 33/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で表されるリチウム−バナジウム−シリケート系化合物であることを特徴とする正極活物質。
Li2−x1−yO(Si1−zGe)O (1)
(式中、Mは、Mo、Nb、Ta及びTiからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素であり、x、y及びzはそれぞれ、0≦x≦2、0.05≦y≦0.5及び0≦z≦0.3の範囲である。)
【請求項2】
前記リチウム−バナジウム−シリケート系化合物のX線回折法による(200)面の回折ピーク強度Aと(001)面の回折ピーク強度Bとのピーク強度比A/Bが0.87以上1.32以下であることを特徴とする請求項1記載の正極活物質。
【請求項3】
集電体と、請求項1又は2記載の正極活物質を含み前記集電体上に設けられた正極活物質層と、を備える正極。
【請求項4】
請求項3記載の正極を備えるリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極活物質、正極及びリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、リチウムイオン二次電池の正極活物質としてLiCoOやLiNi1/3Mn1/3Co1/3等の層状化合物やLiMn等のスピネル化合物が用いられてきた。近年では、LiFePOに代表されるオリビン型構造の化合物が注目されている。オリビン構造を有する正極材料は高温での熱安定性が高く、安全性が高いことが知られている。しかし、LiFePOを用いたリチウムイオン二次電池は、その平均放電電圧が3.5V程度と低く、エネルギー密度が低くなるという欠点を有する。そのため、高い充放電電圧を実現し得るリン酸系正極材料として、LiCoPOやLiNiPO等が提案されている。しかし、これらの正極材料を用いたリチウムイオン二次電池においても、十分な容量が得られていないのが現状である。
【0003】
更に、LiMPO型リン酸オリビンに類似する正極活物質として、単位格子中に2個のリチウム原子を有するLiCoSiO等の活物質が提案されている(例えば、特許文献1参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特願2006−167960号公報
【0005】
しかし、上記公報で提案された電池は、平均放電電圧3.5Vと2.5Vの間で自由に容量を設計できるとされるが、放電容量は未だ十分満足できるものではなく、さらに大きな放電容量を示す正極活物質の開発が望まれている。そのため本発明は、平均放電電圧が高く、かつ十分な容量が得られるリチウムイオン二次電池を提供することを課題とする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、平均放電電圧が高く、かつ十分な容量が得られる正極活物質、正極及びリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために本発明に係る正極活物質は、一般式Li2−x1−yO(Si1−zGe)O(式中、Mは、Mo、Nb、Ta及びTiからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素であり、x、y及びzはそれぞれ、0≦x≦2、0.05≦y≦0.5、0≦z≦0.3の範囲である)で表されるリチウム−バナジウム−シリケート系化合物であることを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、平均放電電圧が高く、かつ十分な容量が得られる正極活物質、正極及びリチウムイオン二次電池が実現することができる。この理由としては必ずしも明らかではないが、次のように考えられる。
【0009】
本発明に係る正極活物質は、V及び遷移金属(M)1モルに対し、2モルのLiを含有することが可能なことから容量の理論値は大きくなり、さらに4価、4配位のVのイオン半径(0.58Å)より大きいイオン半径を持つ、Mo(0.65Å)、Nb(0.68Å)、Ta(0.68Å)及びTi(0.61Å)からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素により部分的にVを置換することで、Liの挿入脱離に好適な格子間距離となり、平均放電電圧が高く、かつ十分な容量が得られると考えられる。同様に、4価、4配位のSiのイオン半径(0.26Å)より大きいイオン半径を持つGe(0.39Å)により部分的にSiを置換することにより、Liの挿入脱離に好適な格子間距離となり、平均放電電圧が高く、かつ十分な容量が得られると考えられる。
【0010】
xの範囲は0≦x≦2である。通常はx=2の化合物が合成され初期状態の組成となる。また、x=2の場合、二次電池の組み立て直後において、放電から開始できるので、充電が不要となる利点がある。さらにxの値を調整することにより遷移金属の価数を調整することも可能となる。
【0011】
yの範囲は0.05≦y≦0.5の範囲ある。放電容量の点から0.1≦y≦0.4がより好ましい。また、zの好ましい範囲は0≦z≦0.3である。
【0012】
また、CuKα線を使用したX線回折法による、2θ=28°付近における(200)面の回折ピーク強度Aと2θ=20°付近における(001)面の回折ピーク強度Bとのピーク強度比A/Bが0.87以上1.32以下の時には、充放電の際にLiが挿入脱離しても結晶構造が安定である程度に結晶性が高く、活物質の粉砕工程等によるダメージが抑えられる傾向となるため、平均放電電圧が高く、かつ十分な容量が得られると考えられる。
【0013】
また、本発明に係る正極は、集電体と上記正極活物質を含み、前記集電体上に設けられた正極活物質層とを備えることにより、平均放電電圧が高く、かつ十分な容量を得ることができる。
【0014】
また、本発明に係るリチウムイオン二次電池は、上記正極を備えることにより、平均放電電圧が高く、かつ十分な容量を得ることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、平均放電電圧が高く、かつ十分な容量が得られる正極活物質、正極及びリチウムイオン二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本実施形態に係るリチウムイオン二次電池の模式断面図である。
図2】実施例1の粉砕処理後の正極活物質と導電助剤との混合粉末のX線回折図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。また以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。さらに以下に記載した構成要素は、適宜組み合わせることができる。
【0018】
<リチウムイオン二次電池>
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池について図1を参照して簡単に説明する。
【0019】
リチウムイオン二次電池100は、主として、積層体30、積層体30を密閉した状態で収容するケース50、及び積層体30に接続された一対のリード60,62を備えている。
【0020】
積層体30は、正極10及び負極20がセパレータ18を挟んで対向配置されたものである。正極10は、正極集電体12上に正極活物質層14が設けられた物である。負極20は、負極集電体22上に負極活物質層24が設けられた物である。正極活物質層14及び負極活物質層24がセパレータ18の両側にそれぞれ接触している。正極集電体12及び負極集電体22の端部には、それぞれリード60,62が接続されており、リード60,62の端部はケース50の外部にまで延びている。
【0021】
<正極活物質>
続いて、本実施形態に係る正極活物質について説明する。
【0022】
本実施形態に係る正極活物質は、Li2−x1−yO(Si1−zGe)Oで表されるリチウム−バナジウム−シリケート系化合物であることを特徴とする。Mは、Mo、Nb、Ta及びTiからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素であり、4価、4配位のVのイオン半径より大きいイオン半径を持つ。同様に、4価、4配位のSiのイオン半径より大きいイオン半径を持つGeにより部分的にSiを置換してもよい。また、x、y及びzはそれぞれ、0≦x≦2、0.05≦y≦0.5、0≦z≦0.3の範囲が好ましい。以上のようなリチウム−バナジウム−シリケート系化合物を用いることにより、Liの挿入脱離に好適な格子間距離となり、平均放電電圧が高く、かつ十分な容量が得られると考えられる。
【0023】
また、X線回折法による2θ=28°付近における(200)面の回折ピーク強度Aと2θ=20°付近における(001)面の回折ピーク強度Bとのピーク強度比A/Bが0.87以上1.32以下であることがより好ましい。ピーク強度比A/Bが0.87以上1.32以下の時には、充放電の際にLiが挿入脱離しても結晶構造が安定である程度に結晶性が高く、かつ活物質の粉砕工程等によるダメージが抑えられる傾向となるため、平均放電電圧が高く、かつ十分な容量が得られると考えられる。
【0024】
<正極活物質の製造方法>
正極活物質の製造方法は特に限定されないが、固相反応合成法、水熱合成法、カーボサーマルリダクション法などにより合成することができる。以下に、本実施形態に係る固相反応合成法を用いた正極活物質の製造方法について説明する。固相反応合成法は、原料調製工程、焼成工程を備える。焼成工程後に必要に応じて粉砕工程及び分級工程を実施しても良い。
【0025】
原料調製工程では、リチウム源、遷移金属源、ケイ素源及びゲルマニウム源等の原料を秤量し、混合して調製する。混合は、例えば乳鉢、ボールミル、ビーズミル、振動ボールミル及び遊星ボールミル等を用いて行ってもよい。さらに、遷移金属源の価数を調整するために、カーボン等の還元剤を追加してもよい。
【0026】
焼成工程の加熱処理手法は任意であるが、例えば箱形炉、管状炉、トンネル炉及びロータリーキルン等を使用することができる。加熱処理は、通常、昇温・最高温度保持・降温の三部分に分けられ、更に、昇温・最高温度保持・降温の工程を2回又はそれ以上繰り返し行なってもよい。また、加熱処理と加熱処理との間に、二次粒子を破壊しない程度に凝集を解消することを意味する解砕工程を挟んで行なってもよい。
【0027】
焼成工程の雰囲気は特に限定されないが、アルゴン雰囲気中、酸素雰囲気中、窒素雰囲気中またはそれらの混合雰囲気中が好ましい。
【0028】
粉砕工程では、粉砕方法として例えば遊星ボールミルやジェットミル等を用いることができる。粉砕により、一次粒子または二次粒子が微小化する。また粉砕工程では、正極活物質と導電助剤との混合物を粉砕してもよい。なお、粉砕工程は、リチウムイオン二次電池の正極活物質層14を作製する時点、すなわち、活物質、導電助剤、バインダー及び溶媒等から調製したスラリーに対して粉砕処理を施し、正極集電体12上に塗布し、乾燥することにより正極活物質層14を形成しても良い。
【0029】
分級工程では、焼成工程で得た生成物あるいは粉砕工程で得られた生成物を分級することによって、粗大粒子や微小粒子を除去することができる。分級は、乾燥等が不要で、スケールアップが容易である等の利点を有することから湿式に比べ乾式が好ましい。乾式分級機としては、例えば、振動ふるい機、超音波振動ふるい機、サイクロン、ミクロン、セパレータ及び高精度気流分級機等が挙げられる。また、必要に応じて複数回、分級工程を繰り返してもよい。
【0030】
正極活物質の回折ピーク強度の算出方法はX線回折法により求めることが出来る。X線回折パターンより結晶構造を同定し、リチウム−バナジウム−シリケート系化合物の2θ=28°付近における(200)面の回折ピーク、及び2θ=20°付近における(100)面の回折ピークよりそれぞれピーク強度を求めることができる。
<正極>
続いて、本実施形態に係る正極10について説明する。
【0031】
正極10の正極集電体12としては、例えば、アルミニウム箔等を使用できる。正極活物質層14は、少なくとも上記本実施形態に係る正極活物質と導電助剤とを含有する。正極活物質層14は正極活物質及び導電助剤を結着するバインダーを含んでもよい。
【0032】
導電助剤としては、カーボンブラック類等の炭素材料、銅、ニッケル、ステンレス、鉄等の金属粉、炭素材料及び金属粉の混合物、ITOのような導電性酸化物が挙げられる。
【0033】
バインダーは、正極活物質と導電助剤とを正極集電体12に結着することができれば特に限定されず、公知の結着剤を使用できる。例えば、ポリフッ化ビニリデン(以下、PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ化ビニリデン―ヘキサフルオロプロピレン共重合体等のフッ素樹脂が挙げられる。
【0034】
正極活物質層14の正極活物質と導電助剤とバインダーの比率は特に限定されないが、正極活物質の比率が少ないと電極密度が小さくなる傾向にあり、正極活物質の比率は80重量%以上が好ましい。
【0035】
このような正極10は、公知の方法、例えば、正極活物質、導電助剤及びバインダーを、それらの種類に応じた溶媒、例えばPVDFの場合はN−メチル−2−ピロリドン(以下、Nメチルピロリドン)、N,N−ジメチルホルムアミド等の溶媒に添加したスラリーを、正極集電体12の表面に塗布し、乾燥させることにより製造できる。
【0036】
<負極>
負極集電体22としては、銅箔等を使用できる。また、負極活物質層24としては、負極活物質、導電助剤、及び、バインダーを含むものを使用できる。導電助剤としては特に限定されず、炭素材料、金属粉などが使用できる。負極に用いられるバインダーとしては、PVDF、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)等のフッ素樹脂が使用できる。
【0037】
負極活物質としては、黒鉛、難黒鉛化炭素等の炭素材料、Al、Si、Sn等のリチウムと化合することのできる金属、SiO、SnO等の酸化物を主体とする非晶質の化合物、チタン酸リチウム(LiTi12)等を含む粒子が挙げられる。
【0038】
負極20の製造方法は、正極10の製造方法と同様にスラリーを調整して負極集電体22に塗布すればよい。
【0039】
<電解液>
電解液としては、特に限定されず、例えば、本実施形態では、有機溶媒にリチウム塩を含む電解液を使用することができる。リチウム塩としては、例えば、LiPF、LiClO、LiBF等の塩が使用できる。なお、これらの塩は1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0040】
有機溶媒としては、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、及び、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート等が好ましく挙げられる。これらは単独で使用してもよく、2種以上を任意の割合で混合して使用してもよい。
【0041】
また、セパレータ18は、ポリエチレン、ポリプロピレン又はポリオレフィンからなるフィルムの単層体、積層体や上記樹脂の混合物の延伸膜、或いは、セルロース、ポリエステル及びポリプロピレンからなる群より選択される少なくとも1種の構成材料からなる繊維不織布が使用できる。
【0042】
ケース50は、その内部に積層体30及び電解液を密封するものである。ケース50は、電解液の外部への漏出や、外部からのリチウムイオン二次電池100内部への水分等の侵入等を抑止できる物であれば特に限定されず、例えば、金属ラミネートフィルムを利用できる。
【0043】
リード60,62は、アルミ等の導電材料から形成されている。
【0044】
本正極活物質は、リチウムイオン二次電池以外の電気化学素子の電極材料としても用いることができる。このような、電気化学素子としては、金属リチウム二次電池(正極に本発明の正極活物質粒子を含む電極を用い、負極に金属リチウムを用いたもの)等のリチウムイオン二次電池以外の二次電池や、リチウムキャパシタ等の電気化学キャパシタ等が挙げられる。
【0045】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0046】
(実施例1)
[正極活物質の作製]
VOを3.69g、TiOを0.89g、LiSiOを5.00g秤量し、乳鉢を用いて混合した。混合した粉末をアルミナるつぼに入れて電気炉を用いて800℃、12時間、アルゴン雰囲気にて熱処理を行った。冷却後に取り出したところ紫色の粉末が得られた。
【0047】
得られた正極活物質について、誘導結合プラズマ法(以下、ICP法)による組成分析を行った結果、組成はLi0.8Ti0.2SiOであることが確認された。
【0048】
得られた正極活物質と、導電助剤であるアセチレンブラックと、ケッチェンブラックとを、80:5:5の重量比で秤量し、容器に入れ、遊星型ボールミルによる粉砕処理を回転数500rpmにて10分間行った。
【0049】
粉砕処理後の正極活物質と導電助剤との混合粉末について、X線回折法により結晶構造の同定と回折ピーク強度を求めた。X線回折装置として株式会社リガク社製「UltimaIV」を用い、以下の測定条件にて行った。
測定条件
Filter: Ni
ターゲット:Cu Kα 1.54060Å
X線出力設定:40kV−40mA
スリット:発散1/2°、散乱1/2°、受光0.15mm
走査速度:2°/min
サンプリング幅:0.02°
測定結果を図2に示す。結晶構造は正方晶のLiVOSiOの回折パターンとほぼ一致していることを確認し、2θ=28°付近における(200)面の回折ピーク強度Aと2θ=20°付近における(001)面の回折ピーク強度Bとのピーク強度比A/Bを求めたところ1.16であった。
【0050】
[評価用セルの作製]
実施例1の粉砕処理後の正極活物質と導電助剤との混合粉末とバインダーであるPVDFとを重量比を90:10で混合したものを、溶媒であるNメチルピロリドン中に分散させてスラリーを調製した。このスラリーを集電体であるアルミニウム箔上に塗布し、乾燥させた後、圧延を行い、正極活物質層が形成された正極を作製した。
【0051】
次に、負極として人造黒鉛(BTR社製FSN)とPVdFのNメチルピロリドン5wt%溶液を人造黒鉛:PVDF=93:7の割合になるように混合し、スラリー状の塗料を作製した。塗料を集電体である銅箔に塗布し、乾燥、圧延することによって負極を作製した。
【0052】
正極と、負極とを、それらの間にポリエチレン微多孔膜からなるセパレータを挟んで積層し、積層体(素体)を得た。この積層体を、アルミラミネートパックに入れた。電解液はエチレンカーボネート、ジエチルカーボネートを体積比3:7で混合し、支持塩としてLiPFを1mol/Lになるよう溶解した。
【0053】
積層体を入れたアルミラミネートパックに、上記電解液を注入した後、真空シールし、実施例1の評価用セルを作製した。
【0054】
[電池特性の測定]
実施例1の評価用セルを、25℃で、電流値18mA/gで4.4Vまで定電流で充電した後、電流値18mA/gで2.5Vまで定電流放電した。このとき、実施例1の放電容量は168mAh/gであり、平均放電電圧は3.47Vであった。
【0055】
(実施例2〜6、比較例1、2)
実施例2〜6及び比較例1、2においては、表1に記載の活物質組成となるように原料を秤量した以外は、実施例1と同様の方法で正極活物質の合成及び正極活物質と導電助剤との混合粉末を作製し、X線回折法により結晶構造の同定と回折ピーク強度よりピーク強度比A/Bを求めた。さらに、実施例1と同様の方法で、評価用セルの作製及び電池特性評価を行った。結果を表1に示す。
【0056】
(実施例7〜9)
実施例6〜8においては、遊星型ボールミルによる粉砕処理の回転数をそれぞれ480rpm、530rpm及び550rpmとした以外は、実施例1と同様の方法で正極活物質の合成及び正極活物質と導電助剤との混合粉末を作製し、X線回折法により結晶構造の同定と回折ピーク強度よりピーク強度比A/Bを求めた。さらに、実施例1と同様の方法で、評価用セルの作製及び電池特性評価を行った。結果を表1に示す。
【0057】
(実施例10、11、比較例3)
実施例10、11及び比較例3においては、表1に記載の活物質組成となるようにVO、TiO、LiSiO及びLiGeOを秤量した以外は、実施例1と同様の方法で正極活物質の合成及び正極活物質と導電助剤との混合粉末を作製し、X線回折法により結晶構造の同定と回折ピーク強度よりピーク強度比A/Bを求めた。さらに、実施例1と同様の方法で、評価用セルの作製及び電池特性評価を行った。結果を表1に示す。
【0058】
【表1】
【0059】
表1から明らかなように、実施例1〜11の評価用セルの放電容量は160mAh/g以上であり、かつ平均放電電圧は3.41V以上であることが確認された。また、実施例1〜4、6、8、10及び11のピーク強度比A/Bは0.87以上1.32以下であり、放電容量は164mAh/g以上であることが確認された。
【0060】
(実施例12〜18、比較例4、5)
実施例12〜18及び比較例4、5においては、表2に記載の活物質組成となるようにVO、TiO、MoO、LiSiO及びLiGeOを秤量した以外は、実施例1と同様の方法で正極活物質の合成及び正極活物質と導電助剤との混合粉末を作製し、X線回折法により結晶構造の同定と回折ピーク強度よりピーク強度比A/Bを求めた。さらに、実施例1と同様の方法で、評価用セルの作製及び電池特性評価を行った。結果を表2に示す。
【0061】
【表2】
【0062】
表2から明らかなように、実施例12〜18の評価用セルの放電容量は160mAh/g以上であり、かつ平均放電電圧は3.42V以上であることが確認された。また、実施例12〜17のピーク強度比A/Bは1.01以上1.24以下であり、放電容量は164mAh/g以上であることが確認された。
【0063】
(実施例19〜31、比較例6〜8)
実施例19〜31及び比較例6〜8においては、表3に記載の活物質組成となるようにVO、TiO、MoO、Nb、Ta、LiSiO及びLiGeOを秤量し、さらにNb及びTaに対して50%molのアセチレンブラックを秤量した以外は、実施例1と同様の方法で正極活物質の合成及び正極活物質と導電助剤との混合粉末を作製し、X線回折法により結晶構造の同定と回折ピーク強度よりピーク強度比A/Bを求めた。さらに、実施例1と同様の方法で、評価用セルの作製及び電池特性評価を行った。結果を表3に示す。
【0064】
【表3】
【0065】
表3から明らかなように、実施例19〜31の評価用セルの放電容量は160mAh/g以上であり、かつ平均放電電圧は3.41V以上であることが確認された。また、実施例19〜29のピーク強度比A/Bは0.97以上1.19以下であり、放電容量は164mAh/g以上であることが確認された。
【符号の説明】
【0066】
10…正極、20…負極、12…正極集電体、14…正極活物質層、18…セパレータ、22…負極集電体、24…負極活物質層、30…積層体、50…ケース、60,62…リード、100…リチウムイオン二次電池。
図1
図2