特許第6331835号(P6331835)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6331835
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】トグル用の軸受ブッシュ
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/10 20060101AFI20180521BHJP
   F16C 17/02 20060101ALI20180521BHJP
   B29C 45/66 20060101ALI20180521BHJP
【FI】
   F16C33/10 D
   F16C17/02 Z
   B29C45/66
【請求項の数】20
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-152989(P2014-152989)
(22)【出願日】2014年7月28日
(65)【公開番号】特開2016-31089(P2016-31089A)
(43)【公開日】2016年3月7日
【審査請求日】2017年6月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000103644
【氏名又は名称】オイレス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098095
【弁理士】
【氏名又は名称】高田 武志
(72)【発明者】
【氏名】平山 真樹
(72)【発明者】
【氏名】渡壁 卓
【審査官】 増岡 亘
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−159851(JP,A)
【文献】 特開2007−253351(JP,A)
【文献】 特公平7−68974(JP,B2)
【文献】 米国特許第6896411(US,B2)
【文献】 実開昭55−112120(JP,U)
【文献】 実開昭57−159027(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/10
F16C 17/02
B29C 45/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一対のリンクとこの一対のリンク同士を相対的に回転自在に連結するピンとを具備したトグルリンク機構を備えたトグル式型締装置の当該一対のリンクとピンとの間に介在されるトグル用の軸受ブッシュであって、円筒状の金属母材と、この金属母材に埋め込まれた固体潤滑剤とを有しており、金属母材は、その円筒状内周面を、円周方向に三分割する一方、軸方向に二分割して生じた軸方向に互いに隣接する第一及び第二の半円筒状内周面のうちの少なくとも第一の半円筒状内周面に形成されていると共に当該第一の半円筒状内周面で露出した露出面を有した固体潤滑剤が埋め込まれた複数個の円孔を具備しており、複数個の円孔は、円筒状内周面を平面に展開した場合において、軸方向に直交す央ると共に円周方向に伸びた円周方向線に対して所与の第一の角度をもって一方の方向に傾斜し、且つ、互いに所与の第一の間隔をもって離間して平行に伸びる複数本の第一の仮想線分と、この第一の仮想線分と交叉するように円周方向線に対して該第一の角度をもって円周方向線に関して一方の方向と対称な逆の方向に傾斜すると共に互いに該第一の間隔をもって離間して平行に伸びる複数本の第二の仮想線分とによって形成される複数の仮想の菱形の夫々の各頂点に中心を有していると共に当該菱形の夫々の対角線のうちの軸方向の対角線の長さの1/4よりも大きい一方、当該菱形の夫々の辺の長さの1/2よりも小さい半径を有しているトグル用の軸受ブッシュ。
【請求項2】
円筒状内周面を平面に展開した場合において、複数本の第一の仮想線分のうちの一本の第一の仮想線分及び複数本の第二の仮想線分のうちの一本の第二の仮想線分の夫々は、円周方向線上における第一の半円筒状内周面の円周方向の中央点を通っている請求項1に記載のトグル用の軸受ブッシュ。
【請求項3】
複数個の円孔のうちで円周方向において互いに隣り合う円孔は、軸方向の重なり代をもって円周方向において部分的に重畳している請求項1又は2に記載のトグル用の軸受ブッシュ。
【請求項4】
金属母材は、第二の半円筒状内周面に形成されていると共に当該第二の半円筒状内周面で露出した露出面を有した固体潤滑剤が埋め込まれた複数個の円孔を更に具備しており、第一の半円筒状内周面の複数個の円孔と第二の半円筒状内周面の複数個の円孔とは、円筒状内周面を平面に展開した場合において、円周方向線に関して対称に又は円周方向線上における第一及び第二の半円筒状内周面の円周方向の中央点に関して点対称に配されている請求項1から3のいずれか一項に記載のトグル用の軸受ブッシュ。
【請求項5】
第二の半円筒状内周面に形成された複数個の円孔のうちで円周方向において互いに隣り合う円孔は、軸方向の重なり代をもって円周方向において部分的に重畳している請求項4に記載のトグル用の軸受ブッシュ。
【請求項6】
第一の角度は、20°から45°である請求項1から5のいずれか一項に記載のトグル用軸受ブッシュ。
【請求項7】
第一の角度は、25°から39°である請求項1から5のいずれか一項に記載のトグル用軸受ブッシュ。
【請求項8】
金属母材は、円周方向に第一及び第二の半円筒状内周面を間にしていると共に円筒状内周面が円周方向に三分割され、且つ、軸方向に二分割されて生じた第三から第六の半円筒状内周面のうちの少なくとも軸方向において隣接する一方の第三及び第四の半円筒状内周面のうちの少なくとも第三の半円筒状内周面に形成されていると共に当該第三の半円筒状内周面で露出した露出面を有した固体潤滑剤が埋め込まれた複数個の他の円孔を更に具備しており、複数個の他の円孔は、円筒状内周面を平面に展開した場合において、円周方向線に対して所与の第二の角度をもって一方の方向に傾斜し、且つ、互いに所与の第一の間隔の1.5倍から2倍の所与の第二の間隔をもって離間して平行に伸びる複数本の第三の仮想線分と、この第三の仮想線分と交叉するように円周方向線に対して該第二の角度をもって円周方向線に関して一方の方向と対称な逆の方向に傾斜すると共に互いに該第二の間隔をもって離間して平行に伸びる複数本の第四の仮想線分とによって形成される複数の仮想の第二の菱形の夫々の各頂点に中心を有していると共に当該第二の菱形の夫々の対角線のうちの軸方向の対角線の長さの1/4よりも大きい一方、当該第二の菱形の夫々の辺の長さの1/2よりも小さい半径を有している請求項1から7のいずれか一項に記載のトグル用の軸受ブッシュ。
【請求項9】
複数個の他の円孔のうちで円周方向において互いに隣り合う他の円孔は、軸方向の重なり代をもって円周方向において部分的に重畳している請求項8に記載のトグル用の軸受ブッシュ。
【請求項10】
金属母材は、第四の半円筒状内周面に形成されていると共に当該第四の半円筒状内周面で露出した露出面を有した固体潤滑剤が埋め込まれた複数個の他の円孔を更に具備しており、第三の半円筒状内周面の複数個の他の円孔と第四の半円筒状内周面の複数個の他の円孔とは、円筒状内周面を平面に展開した場合において、円周方向線に関して対称に又は円周方向線上における第三及び第四の半円筒状内周面の円周方向の中央点に関して点対称に配されている請求項8又は9に記載のトグル用の軸受ブッシュ。
【請求項11】
第四の半円筒状内周面に形成された複数個の他の円孔のうちで円周方向において互いに隣り合う他の円孔は、軸方向の重なり代をもって円周方向において部分的に重畳している請求項10に記載のトグル用の軸受ブッシュ。
【請求項12】
金属母材は、第三から第六の半円筒状内周面のうちの軸方向において隣接する他方の一対の第五及び第六の半円筒状内周面のうちの少なくとも第五の半円筒状内周面に形成されていると共に当該第五の半円筒状内周面で露出した露出面を有した固体潤滑剤が埋め込まれた複数個の更に他の円孔を更に具備しており、複数個の更に他の円孔は、円筒状内周面を平面に展開した場合において、円周方向線に対して所与の第二の角度をもって一方の方向に傾斜し、且つ、互いに所与の第一の間隔の1.5倍から2倍の所与の第二の間隔をもって離間して平行に伸びる複数本の第三の仮想線分と、この第三の仮想線分と交叉するように円周方向線に対して該第二の角度をもって円周方向線に関して一方の方向と対称な逆の方向に傾斜すると共に互いに該第二の間隔をもって離間して平行に伸びる複数本の第四の仮想線分とによって形成される複数の仮想の第二の菱形の夫々の各頂点に中心を有していると共に当該第二の菱形の夫々の対角線のうちの軸方向の対角線の長さの1/4よりも大きい一方、当該第二の菱形の夫々の辺の長さの1/2よりも小さい半径を有している請求項8から11のいずれか一項に記載のトグル用の軸受ブッシュ。
【請求項13】
複数個の更に他の円孔のうちで円周方向において互いに隣り合う更に他の円孔は、軸方向の重なり代をもって円周方向において部分的に重畳している請求項12に記載のトグル用の軸受ブッシュ。
【請求項14】
金属母材は、第六の半円筒状内周面に形成されていると共に当該第六の半円筒状内周面で露出した露出面を有した固体潤滑剤が埋め込まれた複数個の更に他の円孔を更に具備しており、第五の半円筒状内周面の複数個の更に他の円孔と第六の半円筒状内周面の複数個の更に他の円孔とは、円筒状内周面を平面に展開した場合において、円周方向線に関して対称に又は円周方向線上における第五及び第六の半円筒状内周面の円周方向の中央点に関して点対称に配されている請求項12又は13に記載のトグル用の軸受ブッシュ。
【請求項15】
第六の半円筒状内周面に形成された複数個の更に他の円孔のうちで円周方向において互いに隣り合う更に他の円孔は、軸方向の重なり代をもって円周方向において部分的に重畳している請求項14に記載のトグル用の軸受ブッシュ。
【請求項16】
第二の角度は、20°から45°である請求項8から15のいずれか一項に記載のトグル用の軸受ブッシュ。
【請求項17】
第二の角度は、25°から39°である請求項8から15のいずれか一項に記載のトグル用の軸受ブッシュ。
【請求項18】
固体潤滑剤は、多孔質黒鉛からなる請求項1から17のいずれか一項に記載のトグル用軸受ブッシュ。
【請求項19】
固体潤滑剤には、潤滑油が含浸されている請求項18に記載のトグル用軸受ブッシュ。
【請求項20】
金属母材は、その円筒状内周面に、当該円筒状内周面を円周方向に三分割するように、軸方向に伸びて形成された三個の軸方向溝と、この軸方向溝により三分割された円筒状内周面を軸方向に少なくとも二分割すると共に軸方向溝に連通するように、円周方向に伸びて形成された円周方向溝とを更に有しており、第一から第六の半円筒状内周面は、これら三個の軸方向溝及び円周方向溝により境界付けられている請求項1から19のいずれか一項に記載のトグル用軸受ブッシュ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形機の型締装置におけるトグル機構に組み込まれて好適なトグル用の軸受ブッシュに関する。
【背景技術】
【0002】
射出成形機は、型締装置により金型が閉じられ大きな型締力が金型に負荷されている状態で、射出装置から金型のキャビティへ高圧の樹脂を射出充填し、冷却固化後に大きく開かれた金型から樹脂成形品を取り出すことにより、所望の形状の樹脂成形品を生産することができようになっており、斯かる型締装置には、金型を短時間で開閉動作すると共に大きな型締力を金型に負荷する機能が要求され、そのような型締装置の一つとして特許文献1に示すトグルリンク機構をもったトグル式型締装置が広く用いられている。
【0003】
トグル式型締装置におけるトグルリンク機構には、固定プラテンと可動プラテンとの間に複数の関節部が設けられており、斯かる関節部に用いられる軸受ブッシュにおいては、その円筒状内周面の全周に等荷重が作用するとは限らず、可動プラテンの型閉じ当初、所謂、型開きから型閉じに向かう初期では可動プラテンの速度は速く、型閉力は小さいので大きな荷重は、軸受ブッシュの円筒状内周面には作用しないが、型閉め完了に近づくにつれて可動プラテンの速度が急激に減少する代わりに可動プラテンによる型閉力が著しく増大して大きな荷重が軸受ブッシュの円筒状内周面に作用するようになり、この大きな荷重が作用する円筒状内周面の範囲は、軸受ブッシュの内周面の全周のうちの三分の一程度である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平6−65429号公報
【特許文献2】特開平10−159851号公報
【特許文献3】特開2007−253351号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献2には、固体潤滑剤が埋め込まれた金属母材からなる滑り軸受が提案されているが、金属母材に埋め込まれた固体潤滑剤の摺動面での潤滑作用を利用する斯かる滑り軸受においては、高面圧が作用する部位の固体潤滑剤の埋め込み割合を他の部位よりも小さく又は零にすると、摺動面に固体潤滑剤の潤滑被膜が即座に形成されればともかく、当該潤滑被膜が形成されるにはかなりの回数の摺動(揺動)が必要とされるので、潤滑被膜が形成されるまでの間に高摩擦摺動に起因する焼付き等の不具合を生じる虞がある。
【0006】
特許文献3には、型締時にピンにより押圧作用を受ける部位(作動時受圧面)に固体潤滑剤を備え、型締時にピンにより押圧作用を受けない部位(作動時非受圧面)に固体潤滑剤を備えない軸受ブッシュと、当該ブッシュ及びピンの接触面にグリースを送るグリース供給手段とを備えたトグル式型締装置が提案されているが、型締時にピンにより押圧作用を受けない部位であっても、まったく摺動しないというのではなく、やはり摺動を伴うので潤滑剤としてグリースだけでは十分な潤滑とは言えず、また軸受ブッシュに固体潤滑剤を備えない部位を設けることは、軸受ブッシュ全体に歪みを生じる虞があり、軸受ブッシュの真円度に問題を生じる虞がある。
【0007】
本発明は上記諸点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、固体潤滑剤を埋め込んだトグル用の軸受ブッシュであって、型締時に型閉力が著しく増大してピンからの大きな荷重が作用する部位における微小回転運動においてもピンとの相対回転摺動面への潤滑被膜の形成能に優れ、焼付き等の不具合を生じさせることなく円滑な相対回転を行わせることができるトグル用の軸受ブッシュを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
少なくとも一対のリンクとこの一対のリンク同士を相対的に回転自在に連結するピンとを具備したトグルリンク機構を備えたトグル式型締装置の当該一対のリンクとピンとの間に介在される本発明のトグル用の軸受ブッシュは、円筒状の金属母材とこの金属母材に埋め込まれた固体潤滑剤とを有しており、金属母材は、その円筒状内周面を、円周方向に三分割する一方、軸方向に二分割して生じた軸方向に互いに隣接する第一及び第二の半円筒状内周面のうちの少なくとも第一の半円筒状内周面に形成されていると共に当該第一の半円筒状内周面で露出した露出面を有した固体潤滑剤が埋め込まれた複数個の円孔を具備しており、複数個の円孔は、円筒状内周面を平面に展開した場合において、軸方向に直交すると共に円周方向に伸びた円周方向線に対して所与の第一の角度をもって一方の方向に傾斜し、且つ、互いに所与の第一の間隔をもって離間して平行に伸びる複数本の第一の仮想線分と、この第一の仮想線分と交叉するように円周方向線に対して該第一の角度をもって円周方向線に関して一方の方向と対称な逆の方向に傾斜すると共に互いに該第一の間隔をもって離間して平行に伸びる複数本の第二の仮想線分とによって形成される複数の仮想の菱形の夫々の各頂点に中心を有していると共に当該菱形の夫々の対角線のうちの軸方向の対角線の長さの1/4よりも大きい一方、当該菱形の夫々の辺の長さの1/2よりも小さい半径を有している。
【0009】
本発明のトグル用の軸受ブッシュによれば、型締時の型閉力の増大で発生するピンからの著しく大きな荷重を第一の半円筒状内周面で受容するように、ピンに対して当該軸受ブッシュを配置すると、斯かる第一の半円筒状内周面では、当該第一の半円筒状内周面で露出した露出面を有した固体潤滑剤が埋め込まれた複数個の円孔の中心が複数の仮想の菱形の夫々の各頂点に中心を有していると共に当該複数個の円孔の半径が当該菱形の夫々の対角線のうちの軸方向の対角線の長さの1/4よりも大きい一方、当該菱形の夫々の辺の長さの1/2よりも小さい半径を有しているため、高荷重下でのピン(軸部材)との±5°程度の範囲の相対回転摺動において第一の半円筒状内周面に固体潤滑剤の潤滑被膜が容易に形成され、ピンへの軸受ブッシュの焼付き等の不具合を生じさせることがなく安定した型締動作を行わせることができる上に、円筒状内周面に軸方向溝及び円周方向溝を形成して斯かる軸方向溝及び円周方向溝をグリース等の潤滑油剤の溜り部とすることにより、固体潤滑剤による潤滑作用に加えて溜り部の潤滑油剤による潤滑作用を第一の半円筒状内周面で期待でき、而して、第一の半円筒状内周面でピンからの大きな荷重を円滑に支承することができる。
【0010】
本発明のトグル用の軸受ブッシュにおいて、円筒状内周面を平面に展開した場合において、複数本の第一の仮想線分のうちの一本の第一の仮想線分及び複数本の第二の仮想線分のうちの一本の第二の仮想線分の夫々は、円周方向線上における第一の半円筒状内周面の円周方向の中央点を通っていてもよく、このように第一及び第二の仮想線分の夫々の一本が中央点を通っていると、固体潤滑剤が埋め込まれた複数個の円孔の中心が中央点を通ると共に軸方向に伸びる線上に位置することになる結果、ピンからの最大荷重を円孔に埋め込まれた固体潤滑剤自体により受容できる上に、第一の半円筒状内周面での固体潤滑剤の潤滑被膜の容易且つ円周方向での均等な形成を達成できる。
【0011】
本発明において、好ましくは、複数個の円孔のうちで円周方向において互いに隣り合う円孔は、軸方向の重なり代をもって円周方向において部分的に重畳していてもよく、斯かる重畳により、ピンと円筒状内周面との±5°程度の相対回転摺動の範囲において第一の半円筒状内周面に円周方向に万遍なく固体潤滑剤の潤滑被膜を形成し得る。
【0012】
本発明における金属母材は、第二の半円筒状内周面に形成されていると共に当該第二の半円筒状内周面で露出した露出面を有した固体潤滑剤が埋め込まれた複数個の円孔を更に具備していてもよく、この場合、第一の半円筒状内周面の複数個の円孔と第二の半円筒状内周面の複数個の円孔とは、円筒状内周面を平面に展開した場合において、円周方向線に関して対称に配されていてもよく、これに代えて、円周方向上における第一及び第二の半円筒状内周面の円周方向の中央点に関して点対称に配されていてもよく、このように第二の半円筒状内周面にも、第一の半円筒状内周面と同様に、固体潤滑剤が埋め込まれた複数個の円孔を具備せしめることにより、ピンからの高荷重を潤滑被膜が形成された第一及び第二の半円筒状内周面で分担して受容できるために、更に安定した型締動作を行わせることができる。
【0013】
本発明において、好ましい例では、第二の半円筒状内周面に形成された複数個の円孔のうちで円周方向において互いに隣り合う円孔は、軸方向の重なり代をもって円周方向において部分的に重畳しており、斯かる重畳により、ピンと円筒状内周面との±5°程度の相対回転摺動の範囲において第二の半円筒状内周面にも円周方向に万遍なく固体潤滑剤の潤滑被膜を形成し得る。
【0014】
本発明では、金属母材は、円周方向に第一及び第二の半円筒状内周面を間にしていると共に円筒状内周面が円周方向に三分割され、且つ、軸方向に二分割されて生じた第三から第六の半円筒状内周面のうちの少なくとも軸方向において隣接する一方の第三及び第四の半円筒状内周面のうちの少なくとも第三の半円筒状内周面に形成されていると共に当該第三の半円筒状内周面で露出した露出面を有した固体潤滑剤が埋め込まれた複数個の他の円孔を更に具備していてもよく、この場合、複数個の他の円孔は、円筒状内周面を平面に展開した場合において、円周方向線に対して所与の第二の角度をもって一方の方向に傾斜し、且つ、互いに所与の第一の間隔の1.5倍から2倍の所与の第二の間隔をもって離間して平行に伸びる複数本の第三の仮想線分と、この第三の仮想線分と交叉するように円周方向線に対して該第二の角度をもって円周方向線に関して一方の方向と対称な逆の方向に傾斜すると共に互いに該第二の間隔をもって離間して平行に伸びる複数本の第四の仮想線分とによって形成される複数の仮想の第二の菱形の夫々の各頂点に中心を有していると共に当該第二の菱形の夫々の対角線のうちの軸方向の対角線の長さの1/4よりも大きい一方、当該第二の菱形の夫々の辺の長さの1/2よりも小さい半径を有しているとよく、また、金属母材は、第四の半円筒状内周面に形成されていると共に当該第四の半円筒状内周面で露出した露出面を有した固体潤滑剤が埋め込まれた複数個の他の円孔を更に具備していてもよく、この場合、第三の半円筒状内周面の複数個の他の円孔と第四の半円筒状内周面の複数個の他の円孔とは、円筒状内周面を平面に展開した場合において、円周方向線に関して対称に又は円周方向線上における第三及び第四の半円筒状内周面の円周方向の中央点に関して点対称に配されていてもよい。
【0015】
このように第三の半円筒状内周面及び第四の半円筒状内周面のうちの少なくとも一方で露出した露出面を有した固体潤滑剤が埋め込まれた複数個の他の円孔を金属母材が更に具備していると、第一の半円筒状内周面又は第一の半円筒状内周面と第二の半円筒状内周面とで型締時の型閉力の増大で発生するピンからの著しく大きな荷重を受容するようになっている場合、斯かる型締時にピンとの間で相対的回転摺動が第三の半円筒状内周面及び第四の半円筒状内周面のうちの少なくとも一方で生じた際でも、固体潤滑剤による潤滑作用が当該第三の半円筒状内周面及び第四の半円筒状内周面のうちの少なくとも一方で行われて、第三の半円筒状内周面及び第四の半円筒状内周面のうちの少なくとも一方とピンとの直接的な回転摺動を回避できて安全設計となる。
【0016】
斯かる複数個の他の円孔のうちで円周方向において互いに隣り合う他の円孔は、上記と同様に、軸方向の重なり代をもって円周方向において部分的に重畳しているとよい。
【0017】
本発明における金属母材は、第三から第六の半円筒状内周面のうちの軸方向において隣接する他方の一対の第五及び第六の半円筒状内周面のうちの少なくとも第五の半円筒状内周面に形成されていると共に当該第五の半円筒状内周面で露出した露出面を有した固体潤滑剤が埋め込まれた複数個の更に他の円孔を更に具備していてもよく、この場合にも、複数個の更に他の円孔は、円筒状内周面を平面に展開した場合において、円周方向線に対して所与の第二の角度をもって一方の方向に傾斜し、且つ、互いに所与の第一の間隔の1.5倍から2倍の所与の第二の間隔をもって離間して平行に伸びる複数本の第三の仮想線分と、この第三の仮想線分と交叉するように円周方向線に対して該第二の角度をもって円周方向線に関して一方の方向と対称な逆の方向に傾斜すると共に互いに該第二の間隔をもって離間して平行に伸びる複数本の第四の仮想線分とによって形成される複数の仮想の第二の菱形の夫々の各頂点に中心を有していると共に当該第二の菱形の夫々の対角線のうちの軸方向の対角線の長さの1/4よりも大きい一方、当該第二の菱形の夫々の辺の長さの1/2よりも小さい半径を有しているとよく、また、当該金属母材は、第六の半円筒状内周面に形成されていると共に当該第六の半円筒状内周面で露出した露出面を有した固体潤滑剤が埋め込まれた複数個の更に他の円孔を更に具備していてもよく、この場合、第五の半円筒状内周面の複数個の更に他の円孔と第六の半円筒状内周面の複数個の更に他の円孔とは、円筒状内周面を平面に展開した場合において、円周方向線に関して対称に又は円周方向線上における第五及び第六の半円筒状内周面の円周方向の中央点に関して点対称に配されていてもよく、斯かる第五及び第六の半円筒状内周面に形成された複数個の更に他の円孔のうちで円周方向において互いに隣り合う更に他の円孔は、軸方向の重なり代をもって円周方向において部分的に重畳しているとよく、斯かる金属母材を具備した軸受ブッシュでは、第三の半円筒状内周面及び第四の半円筒状内周面のうちの少なくとも一方で露出した露出面を有した固体潤滑剤が埋め込まれた複数個の他の円孔を備えた金属母材を具備した軸受ブッシュと同様に、第一の半円筒状内周面又は第一の半円筒状内周面と第二の半円筒状内周面とで型締時の型閉力の増大で発生するピンからの著しく大きな荷重を受容するようになっている場合、斯かる型締時にピンとの間で相対的回転摺動が第五の半円筒状内周面及び第六の半円筒状内周面のうちの少なくとも一方で生じた際でも、固体潤滑剤による潤滑作用が当該第五の半円筒状内周面及び第六の半円筒状内周面のうちの少なくとも一方で行われて、第五の半円筒状内周面及び第六の半円筒状内周面のうちの少なくとも一方とピンとの直接的な回転摺動を回避できて安全設計となる。
【0018】
本発明において、第一及び第二の角度は、ピンとの±5°程度の範囲の相対回転摺動において第一から第六の半円筒状内周面で固体潤滑剤の潤滑被膜が所望に形成される値であればよいのであるが、好ましくは、20°から45°であり、より好ましくは、25°から39°である。
【0019】
第一及び第二の角度が20°より小さいと、円周方向において相隣り合う埋め込まれた固体潤滑剤の距離が長くなり、±5°程度の範囲の微小相対回転運動に対して固体潤滑剤の十分な潤滑作用が期待できず、また、第一及び第二の角度が45°を超えると、固体潤滑剤が埋め込まれない部位が多くなり、固体潤滑剤の十分な潤滑作用が期待できず、焼付き等の不具合を生じる虞がある。
【0020】
本発明のトグル用の軸受ブッシュにおいて、固体潤滑剤は、好ましくは、多孔質黒鉛からなり、当該多孔質黒鉛からなる固体潤滑剤には、潤滑油が含浸されていてもよい。
【0021】
固体潤滑剤に潤滑油が含浸されていると、円筒状内周面では、固体潤滑剤による潤滑作用とグリース等の潤滑油剤及び潤滑油による潤滑作用とを併用できるので、ピンとのより一層の円滑な相対回転摺動を期待できる。
【0022】
上記のように第一から第六の半円筒状内周面に固体潤滑剤が埋め込まれた複数個の円孔を設けることにより、金属母材の真円度を維持できる。
【0023】
本発明の好ましい例では、金属母材は、その円筒状内周面に、当該円筒状内周面を円周方向に三分割するように、軸方向に伸びて形成された三個の軸方向溝と、この軸方向溝により三分割された円筒状内周面を軸方向に少なくとも二分割すると共に軸方向溝に連通するように、円周方向に伸びて形成された円周方向溝とを更に有しており、この場合、第一から第六の半円筒状内周面は、これら三個の軸方向溝及び円周方向溝により境界付けられていてもよく、斯かる軸方向溝と円周方向溝とを金属母材が有していると、この軸方向溝と円周方向溝とをグリース等の潤滑油剤の溜り部とすることにより、固体潤滑剤による潤滑作用に加えて溜り部の潤滑油剤による潤滑作用を期待でき、而して、ピンからの大きな荷重を更に円滑に支承することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、型締時に型閉力が著しく増大してピンからの大きな荷重が作用する部位における微小回転揺動運動においてもピンとの相対回転摺動面への潤滑被膜の形成能に優れ、焼付き等の不具合を生じさせることなく円滑な相対回転を行わせることができるトグル用の軸受ブッシュを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1は、本発明の好ましい実施の形態の例の断面平面説明図である。
図2図2は、図1の例におけるトグル用の軸受ブッシュの展開説明図である。
図3図3は、図1の例の図2に示すトグル用の軸受ブッシュの要部拡大平面説明図である。
図4図4は、図1の例の図2に示すトグル用の軸受ブッシュの要部拡大平面説明図である。
図5図5は、トグル式型締装置の側面説明図である。
図6図6は、図5に示すトグル式型締装置の平面説明図である。
図7図7は、図6に示すトグル式型締装置の要部拡大平面説明図である。
図8図8は、図7に示すVIII−VIII線矢視断面説明図である。
図9図9は、図8示すIX−IX線矢視断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
次に、本発明の実施の形態を詳細に説明する。なお、本発明はこれらの実施の形態に何等限定されないのである。
【0027】
図1から図4において、本例のトグル用の軸受ブッシュ1は、円筒状の金属母材2と金属母材2に埋め込まれた固体潤滑剤3とを有しており、金属母材2は、その円筒状内周面4を軸心Oを中心とした軸心回りの方向である円周方向Rにおいて等間隔(120°間隔)に三分割するように、円筒状内周面4に円周方向Rに対して直交する軸方向Xに伸びて夫々形成されていると共にグリース等の潤滑油剤の溜り部となる軸方向溝としての例えば幅6mm及び深さ1mmを有した行止まり溝5と、円筒状内周面4を軸方向Xにおいて等間隔に二分割すると共に行止まり溝5に連通するように、円筒状内周面4に円周方向Rに伸びて形成されていると共にグリース等の潤滑油剤の溜り部となる円周方向溝としての例えば幅6mm及び深さ1mmを有した環状溝6と、行止まり溝5によって円周方向Rに三分割されている一方、環状溝6によって軸方向Xに二分割された円筒状内周面4において、軸方向Xに互いに隣接する一対の半円筒状内周面4a及び4b並びに円周方向Rにおいて一対の半円筒状内周面4a及び4bを挟んでいると共に各対で軸方向Xに互いに離接する二対の半円筒状内周面4c及び4dの夫々に形成された貫通孔からなる円孔7a及び7b並びに7c及び7dと、円筒状内周面4の軸方向Xの両端部に形成された面取り部8とを具備しており、固体潤滑剤3は、円孔7a及び7b並びに7c及び7dの夫々に埋め込まれていると共に円筒状内周面4と面一になって当該円筒状内周面4で露出した露出面3aを有し、且つ、潤滑油が含浸された多孔質黒鉛からなる。
【0028】
図2及び図3に示すように円筒状内周面4を平面に展開した場合において、半円筒状内周面4a及び4bの夫々の円孔7a及び7bは、軸方向Xに直交すると共に環状溝6の軸方向Xの中央を通って円周方向Rに伸びた円周方向線Lに対して所与の角度θとして角度25°をもって一方の方向に傾斜し、且つ、互いに等間隔p1、例えば5mmをもって離間して平行に伸びる複数本の仮想線分R1と、仮想線分R1と交叉するように円周方向線Lに対して所与の角度θとして角度25°をもって一方の方向に対して対称な逆の方向に傾斜すると共に互いに等間隔p1をもって離間して平行に伸びる複数本の仮想線分R2とによって形成される複数の仮想の菱形9の夫々の各頂点に中心O1を有していると共に菱形9の対角線のうちの軸方向Xの対角線の長さの1/4よりも大きい一方、菱形9の辺の長さの1/2よりも小さい半径d1、例えば半径2mmを有しており、斯かる円孔7a及び7bは、その中心O1が円周方向線Lに対して直交すると共に円周方向Rにおける行止まり溝5間の中央点C1を通る一つの中央直交線D上に位置したものと、中央直交線Dを対称軸として円周方向Rに関して対称に位置したものとを含んでおり、半円筒状内周面4aの円孔7aは、半円筒状内周面4bの円孔7bに対して円周方向線Lを対称軸として軸方向Xにおいて対称に配されている。
【0029】
半円筒状内周面4c及び4dの円孔7c及び7dは夫々、図2及び図4に示すように円筒状内周面4を平面に展開した場合において、円周方向線Lに対して所与の角度θとして角度25°をもって一方の方向に傾斜し、且つ、互いに等間隔の間隔p2=1.5p1〜2×p1をもって離間して平行に伸びる複数本の仮想線分R3と、仮想線分R3と交叉するように円周方向線Lに対して所与の角度θとして角度25°をもって一方の方向に対して対称な逆の方向に傾斜すると共に互いに等間隔の間隔p2=1.5p1〜2×p1をもって離間して平行に伸びる複数本の仮想線分R4とよって形成される複数の仮想の菱形10の夫々の各頂点に中心O2を有していると共に菱形10の対角線のうちの軸方向Xの対角線の長さの1/4よりも大きい一方、菱形10の辺の長さの1/2よりも小さい半径d2、例えば半径3.5mmを有しており、斯かる円孔7c及び7dは、円周方向Rにおける行止まり溝5間の中央点C1を対称軸として軸対称に配されている。
【0030】
行止まり溝5及び環状溝6並びに面取り部8により境界付けられた半円筒状内周面4a及び4b並びに半円筒状内周面4c及び4dに形成された円孔7a及び7b並びに7c及び7dのうちで、円周方向Rにおいて互いに相隣り合う円孔7a及び7b並びに7c及び7dは、軸方向Xの重なり代δ1=0.1mmから2.0mm及びδ2=0.1mmから3.5mm、例えば夫々1mm及び2.7mmをもって円周方向Rにおいて部分的に重畳しており、而して、円孔7a及び7b並びに7c及び7dに埋め込まれた固体潤滑剤3もまた、その露出面3aで軸方向Xの重なり代δ1及びδ2をもって円周方向Rにおいて互いに部分的に重畳している。
【0031】
このような円筒状内周面4を有すると共に例えば内径45mm、外径55mm及び軸方向Xの長さ34mmを有する金属母材2を具備した軸受ブッシュ1は、図5から図9に示すトグル式型締装置50におけるトグルリンク機構51の関節部52に使用される。
【0032】
トグル式型締装置50において、リアプラテン53と固定プラテン54との間には、上下及び前後に互いに所定の間隔を保持して配されていると共に当該リアプラテン53と固定プラテン54とを連結する四本のタイバー55が架設されており、四本のタイバー55をガイドとして可動プラテン56がリアプラテン53に対して接近、離反するように移動可能に配置されており、固定プラテン54に固定側金型57が、可動プラテン56に可動側金型58が夫々取り付けられており、リアプラテン53には、型開閉駆動装置59が設けられており、型開閉駆動装置59により進退するクロスヘッド60及びリアプラテン53は、トグルリンク機構51で連結されており、クロスヘッド60をタイバー55と平行な方向に進退させることにより、クロスヘッドリンク61とトグルリンク機構51とを介して可動プラテン56を駆動し、固定側金型57に対する可動側金型58の開閉と型締とを行う。
【0033】
回転運動を直線運動に変換するための型開閉駆動装置59は、クロスヘッド60に組み込まれたボールナット62と、ボールナット62に螺合しているボールねじ軸63と、ボールねじ軸63を回転駆動させる電動モータ64と、電動モータ64の駆動力をボールねじ軸63に伝達するためのプーリ65と、プーリ65に架け渡されたベルト66とからなる。
【0034】
トグルリンク機構51は、リアプラテン53に一体的に形成された固定リンク67にピン68を介して連結された回動リンク69と、回動リンク69にピン70を介して連結された回動リンク71と、回動リンク71を可動プラテン56に一体的に形成された固定リンク72に連結するピン73と、回動リンク69の途中に連結されている固定リンク74と、固定リンク74に連結されたクロスヘッド60と、クロスヘッド60に組み込まれたボールナット62と、ボールナット62に螺合結合しているボールねじ軸63とからなる。
【0035】
固定リンク67と回動リンク69とを相対的に回転自在に連結すると共に第一関節部75を構成するピン68は、回動リンク69の一方の端部76の嵌合孔77において当該端部76に嵌合固定された軸受ブッシュ1に嵌挿されると共に固定リンク67に固定されており、回動リンク69と回動リンク71とを相対的に回転自在に連結すると共に第二関節部78を構成するピン70は、回動リンク71の一方の端部79の嵌合孔80に嵌合固定された軸受ブッシュ1に嵌挿されると共に回動リンク69の他方の端部81に固定されており、回動リンク71と固定リンク72とを相対的に回転自在に連結すると共に第三関節部82を構成するピン73は、回動リンク71の他方の端部83の嵌合孔84に嵌合固定された軸受ブッシュ1に嵌挿されると共に可動プラテン56に固定されている。第一、第二及び第三関節部75、78及び82からなる関節部52により、回動リンク69及び71は、揺動可能となり、所謂関節運動を行わせことができる。
【0036】
トグルリンク機構51において、ボールねじ軸63を回すと、ボールナット62がA方向に移動し、回動リンク69と回動リンク71とが互いに回転し、可動プラテン56がA方向に移動し、逆に、ボールねじ軸63を逆回転させてボールナット62をB方向へ移動させると、回動リンク69及び71とが互いに前記と逆に回転し、可動プラテン56はB方向に移動する。
【0037】
枢軸部である第一、第二及び第三関節部75、78及び82からなる関節部52において、軸受ブッシュ1の夫々は、ピン68、70及び73を摺動回転自在に支承する。円周方向Rに固体潤滑剤3の露出面3aが円周方向Rにおいて重なり代δ1をもって密に配されている半円筒状内周面4a及び4bで、型締時に型閉力が著しく増大することによって生じるピン68、70及び73の夫々からの大きな荷重を受容するように、軸受ブッシュ1の夫々が嵌合孔77、80及び84で端部76、79及び83の夫々で嵌合固定されていると、軸受ブッシュ1の夫々とピン68、70及び73との相対的な円周方向Rの回転摺動において、半円筒状内周面4a及び4bとピン68、70及び73の外周面との摺動面に固体潤滑剤3の潤滑被膜が容易に形成される結果、半円筒状内周面4a及び4bの行止まり溝5及び環状溝6に充填されたグリース等の潤滑油剤の摺動面での潤滑作用と相俟って、型締時に型閉力が著しく増大して大きな荷重をもった角度にして±5°程度の微小揺動運動を円滑に行わせることができ、摺動面に焼付き等の不具合を生じさせることはなく安定した型締動作を行わせることができる。
【0038】
軸受ブッシュ1の夫々は、型締時に大きな荷重が作用するピン68、70及び73の外周面以外の外周面に半円筒状内周面4c及び4dが対面するように、嵌合孔77、80及び84で端部76、79及び83の夫々に嵌合固定されているが、型締時にピン68、70及び73の夫々との間に回転摺動が生じた場合でも、円周方向Rにおいて重なり部δ2をもって重畳された固体潤滑剤3による潤滑作用及び半円筒状内周面3a及び3bの行止まり溝5及び環状溝6に充填されたグリース等の潤滑油剤の潤滑作用が発揮されるので安全設計となり、軸受ブッシュ1に荷重が作用しても焼付き等の不具合を生じさせることはなく安定した型締動作を行わせることができる。また、半円筒状内周面4c及び4dで円孔7c及び7dの夫々に埋め込まれた固体潤滑剤3に潤滑油が含浸されている場合には、斯かる固体潤滑剤3は、円筒状内周面3へ潤滑油を供給する潤滑油の溜り部としての役割も果たす結果、固体潤滑剤3及び行止まり溝5及び環状溝6の潤滑油剤の潤滑被膜による潤滑作用が発揮されるばかりでなく、固体潤滑剤3に含浸された潤滑油の潤滑被膜による潤滑作用も期待できる。
【0039】
以上のように、軸受ブッシュ1では、型締時の型閉力の増大で発生するピン68、70及び73の夫々からの著しく大きな荷重を半円筒状内周面4a及び4bで受容するように、ピン68、70及び73の夫々に対して金属母材2を配置すると、斯かる半円筒状内周面4a及び4bでは、半円筒状内周面4a及び4bで露出した露出面3aを有した固体潤滑剤3が埋め込まれた複数個の円孔7a及び7bの中心O1が複数の仮想の菱形9の夫々の各頂点に中心を有していると共に当該複数個の円孔7a及び7bが当該菱形9の夫々の対角線のうちの軸方向の対角線の長さの1/4よりも大きい一方、当該菱形9の夫々の辺の長さの1/2よりも小さい半径d1を有しているため、高荷重下でのピン68、70及び73の夫々との±5°程度の範囲の円周方向Rの相対回転摺動において半円筒状内周面4a及び4bに固体潤滑剤3の潤滑被膜が容易に形成され、ピン68、70及び73の夫々への金属母材2の焼付き等の不具合を生じさせることはなく安定した型締動作を行わせることができる上に、円筒状内周面4に形成された行止まり溝5及び環状溝6をグリース等の潤滑油剤の溜り部とすることにより、固体潤滑剤3による潤滑作用に加えて溜り部の潤滑油剤による潤滑作用を半円筒状内周面4a及び4bで期待でき、而して、半円筒状内周面4a及び4bでピン68、70及び73の夫々からの大きな荷重を円滑に支承することができ、固体潤滑剤3が埋め込まれた複数個の円孔7a及び7bの中心O1が中央点C1を通ると共に軸方向Xに伸びる線D上に位置することになる結果、ピン68、70及び73の夫々からの最大荷重を円孔7a及び7bに埋め込まれた固体潤滑剤3自体により受容できる上に、半円筒状内周面4a及び4bでの固体潤滑剤3の潤滑被膜の容易且つ円周方向Rでの均等な形成を達成できる。
【0040】
しかも、軸受ブッシュ1では、複数個の円孔7a及び7bのうちで円周方向Rにおいて互いに隣り合う円孔7a及び7bは、軸方向Xの重なり代δ1をもって円周方向Rにおいて部分的に重畳しているために、斯かる重畳により、ピン68、70及び73の夫々と円筒状内周面4との±5°程度の円周方向Rの相対回転摺動の範囲において半円筒状内周面4a及び4bに円周方向Rに万遍なく固体潤滑剤3の潤滑被膜を形成し得、加えて、半円筒状内周面4bにも、半円筒状内周面4aと同様に、固体潤滑剤3が埋め込まれた複数個の円孔7bが具備せしめられて、ピン68、70及び73の夫々からの高荷重を潤滑被膜が形成された半円筒状内周面4a及び4bで分担して受容できるために、更に安定した型締動作を行わせることができる。
【0041】
その上、軸受ブッシュ1では、半円筒状内周面4c及び4dで露出した露出面3aを有した固体潤滑剤3が埋め込まれた複数個の円孔7c及び7dを金属母材2が具備しているために、型締時にピン68、70及び73との間で円周方向Rの相対的回転摺動が半円筒状内周面4c及び4dのうちの少なくとも一つで生じた際でも、固体潤滑剤3による潤滑作用と、行止まり溝5及び環状溝6に充填されたグリース等の潤滑油剤による潤滑作用とが当該半円筒状内周面4c及び4dのうちの少なくとも一つで行われて、半円筒状内周面4c及び4dのうちの少なくとも一つとの直接的な相対的回転摺動を回避できて安全設計となる。
【0042】
更に、軸受ブッシュ1では、半円筒状内周面4a、4b、4c及び4dに固体潤滑剤3が埋め込まれた複数個の円孔7a及び7b並びに7c及び7dを均等に設けているために、不均等な円孔7a及び7b並びに7c及び7dの配置による金属母材2の歪を回避でき、金属母材2の真円度を維持できる。
【符号の説明】
【0043】
1 軸受ブッシュ
2 金属母材
3 固体潤滑剤
3a 露出面
4 円筒状内周面
4a、4b、4c、4d 半円筒状内周面
5 行止まり溝
6 環状溝
7a、7b、7c、7d 円孔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9