特許第6331884号(P6331884)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東芝ライテック株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6331884-放電ランプおよび車両用灯具 図000003
  • 特許6331884-放電ランプおよび車両用灯具 図000004
  • 特許6331884-放電ランプおよび車両用灯具 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6331884
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】放電ランプおよび車両用灯具
(51)【国際特許分類】
   H01J 61/88 20060101AFI20180521BHJP
   F21S 41/00 20180101ALI20180521BHJP
   F21S 43/00 20180101ALI20180521BHJP
   F21S 45/00 20180101ALI20180521BHJP
   F21W 103/00 20180101ALN20180521BHJP
   F21W 104/00 20180101ALN20180521BHJP
   F21W 105/00 20180101ALN20180521BHJP
   F21W 102/00 20180101ALN20180521BHJP
   F21Y 101/00 20160101ALN20180521BHJP
【FI】
   H01J61/88 U
   F21S8/10 150
   F21S8/10 160
   F21W101:10
   F21Y101:00 300
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-174516(P2014-174516)
(22)【出願日】2014年8月28日
(65)【公開番号】特開2015-135801(P2015-135801A)
(43)【公開日】2015年7月27日
【審査請求日】2017年3月15日
(31)【優先権主張番号】特願2013-264143(P2013-264143)
(32)【優先日】2013年12月20日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003757
【氏名又は名称】東芝ライテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108062
【弁理士】
【氏名又は名称】日向寺 雅彦
(74)【代理人】
【識別番号】100168332
【弁理士】
【氏名又は名称】小崎 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100146592
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 浩
(72)【発明者】
【氏名】中里 圭佑
【審査官】 杉田 翠
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−110096(JP,A)
【文献】 特開2012−038612(JP,A)
【文献】 特開2004−172056(JP,A)
【文献】 特開2006−185897(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0033106(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0045184(US,A1)
【文献】 特開2009−135075(JP,A)
【文献】 特開2007−172959(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J61/00−65/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属ハロゲン化物と、ガスと、が封入された放電空間を内部に有する発光部と;
前記放電空間の内部に突出し、所定の距離を置いて対向配置させた一対の電極と;
を具備し、
前記一対の電極の先端同士の間の距離は3.7mm以上、4.4mm以下であり、
安定点灯時における消費電力が、20W以上30W以下であり、
前記放電空間に封入されたガスの常温(25℃)における圧力をX(atm)とし、
前記電極の中心軸と、前記金属ハロゲン化物の表面と、の間の距離をm(mm)とした場合に以下の式を満足する放電ランプ。
0.085≦m/X≦0.12
【請求項2】
以下の式を満足する請求項1記載の放電ランプ。
0.10≦m/X≦0.12
【請求項3】
前記放電空間に封入されたガスは、キセノンガス、または、キセノンガスを主成分とする混合ガスである請求項1または2に記載の放電ランプ。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1つに記載の放電ランプと;
前記放電ランプに電気的に接続された点灯回路と;
を具備した車両用灯具。
【請求項5】
前記放電ランプに設けられた一対の電極が水平となるように前記放電ランプが取り付けられた請求項4記載の車両用灯具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、放電ランプおよび車両用灯具に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境面から、水銀を用いず、且つ、消費電力が低い放電ランプが求められている。しかしながら、水銀を用いず、且つ、低消費電力とすると、放電が不安定となったり、明るさが足りなくなったりするおそれがある。
この場合、放電ランプの発光部の放電空間に封入される不活性ガスの圧力を高くすれば、放電ランプの明るさを明るくすることができる。
また、発光部のサイズを小さくすれば、放電ランプの明るさを明るくすることができる。
ところが、発光部の放電空間に封入される不活性ガスの圧力を高くすると、必要な明るさを確保することできるが、機械的な振動により弧状の放電が上下に振れやすくなるという新たな問題が生じる。
機械的な振動により弧状の放電が上下に振れやすくなると、配光にちらつきが発生したり、放電空間に封入されている金属ハロゲン化物が巻き上げられて発光色が変化したりするおそれがある。
また、発光部のサイズを小さくすれば、下方に振れた弧状の放電と、金属ハロゲン化物との間の距離が短くなるので、発光色がより変化しやすくなる。
そこで、低消費電力(例えば、安定点灯時における消費電力が20W以上30W以下)であっても、必要な明るさを確保することができ、且つ、放電の振れを抑制することができる放電ランプの開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−172056号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、低消費電力であっても、必要な明るさを確保することができ、且つ、放電の振れを抑制することができる放電ランプおよび車両用灯具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態に係る放電ランプは、金属ハロゲン化物と、ガスと、が封入された放電空間を内部に有する発光部と;前記放電空間の内部に突出し、所定の距離を置いて対向配置させた一対の電極と;を具備している。
前記一対の電極の先端同士の間の距離は3.7mm以上、4.4mm以下である。
安定点灯時における消費電力が、20W以上30W以下である。
前記放電空間に封入されたガスの常温(25℃)における圧力をX(atm)とし、前記電極の中心軸と、前記金属ハロゲン化物の表面と、の間の距離をm(mm)とした場合に以下の式を満足する。
0.085≦m/X≦0.12
【発明の効果】
【0006】
本発明の実施形態によれば、低消費電力であっても、必要な明るさを確保することができ、且つ、放電の振れを抑制することができる放電ランプおよび車両用灯具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本実施形態に係る放電ランプ100を例示するための模式図である。
図2】車両用灯具200の構成を例示するための模式図である。
図3】車両用灯具200の回路を例示するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
実施形態に係る発明は、金属ハロゲン化物と、ガスと、が封入された放電空間を内部に有する発光部と;前記放電空間の内部に突出し、所定の距離を置いて対向配置させた一対の電極と;を具備した放電ランプである。
前記一対の電極の先端同士の間の距離は3.7mm以上、4.4mm以下である。
安定点灯時における消費電力は、20W以上30W以下である。
前記放電空間に封入されたガスの常温(25℃)における圧力をX(atm)とし、前記電極の中心軸と、前記金属ハロゲン化物の表面と、の間の距離をm(mm)とした場合に以下の式を満足する。
0.085≦m/X≦0.12
この放電ランプによれば、低消費電力であっても、必要な明るさを確保することができ、且つ、放電の振れを抑制することができる。
また、この放電ランプは、0.10≦m/X≦0.12となるようにすることもできる。
この様にすれば、放電の振れをさらに抑制することができる。
また、前記放電空間に封入されたガスは、キセノンガス、または、キセノンガスを主成分とする混合ガスとすることができる。
【0009】
また、他の実施形態に係る発明は、上記の放電ランプと;前記放電ランプに電気的に接続された点灯回路と;を具備した車両用灯具である。
この車両用灯具によれば、自動車の走行に伴う機械的な振動が放電ランプに加えられたとしても、配光にちらつきが発生したり、発光色が変化したりするのを抑制することができる。
また、点灯直後から必要な明るさを得ることができる。
この場合、前記放電ランプに設けられた一対の電極が水平となるように前記放電ランプを取り付けることができる。
【0010】
以下、図面を参照しつつ、実施の形態について例示をする。なお、各図面中、同様の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
本発明の実施形態に係る放電ランプは、例えば、自動車の前照灯に用いられるHID(High Intensity Discharge)ランプとすることができる。また、自動車の前照灯に用いられるHIDランプとする場合には、いわゆる水平点灯を行うものとすることができる。 なお、本発明の実施形態に係る放電ランプの用途は、自動車の前照灯に限定されるわけではないが、ここでは一例として、放電ランプが自動車の前照灯に用いられるHIDランプである場合を例に挙げて説明する。
【0011】
図1は、本実施形態に係る放電ランプ100を例示するための模式図である。
なお、図1においては、放電ランプ100を自動車に取り付けた場合に、前方となる方向を前端側、その反対方向を後端側、上方となる方向を上端側、下方となる方向を下端側としている。
図1に示すように、放電ランプ100には、バーナー101、ソケット102が設けられている。
【0012】
バーナー101には、内管1、外管5、電極マウント3、サポートワイヤ35、スリーブ4、金属バンド71が設けられている。
内管1は、発光部11、封止部12、境界部13、および円筒部14を有する。
内管1は、透光性と耐熱性を有した材料から形成されている。内管1は、例えば、石英ガラスなどから形成することができる。
発光部11は、断面形状が楕円形を呈し、内管1の中央付近に設けられている。発光部11の内部には、中央部分が円柱状で、両端がテーパ状にすぼまっている放電空間111が設けられている。
放電空間111には、放電媒体が封入されている。放電媒体は、水銀を含まない金属ハロゲン化物2と、所定の不活性ガスとを含む。
すなわち、発光部11は、水銀を含まない金属ハロゲン化物2と、所定の不活性ガスとが封入された放電空間111を内部に有する。
【0013】
金属ハロゲン化物2は、ナトリウム、スカンジウム、亜鉛、インジウムなどのハロゲン化物を含む。ハロゲンとしては、例えば、ヨウ素を例示することができる。ただし、ヨウ素の代わりに臭素や塩素などを用いることもできる。
なお、環境面から、金属ハロゲン化物2には水銀を含めないようにしている。
【0014】
放電空間111に封入されるガスは、例えば、キセノンを含むガスである。
キセノンを含むガスは、キセノンガス単体、または、キセノンガスを主成分とする混合ガスである。キセノンガスを主成分とする混合ガスは、例えば、キセノンガスを70vol%以上含む混合ガスである。キセノンガスに混合するガスは、例えば、アルゴンガスである。
なお、放電空間111に封入されるガスの圧力Xに関する詳細は後述する。
また、本明細書において、放電空間111に封入されるガスの圧力X(atm)は、常温(25℃)における圧力である。
【0015】
封止部12は、板状を呈し、発光部11の両端に設けられている。封止部12は、例えば、ピンチシール法を用いて形成することができる。なお、封止部12は、シュリンクシール法により形成され、円柱状を呈したものであってもよい。
封止部12の発光部11側とは反対側の端部には、境界部13を介して円筒部14が連続的に形成されている。
【0016】
外管5は、内管1の外側に内管1と同芯に設けられている。すなわち、二重管構造となっている。
外管5と内管1との接続は、内管1の円筒部14付近に外管5を溶着することにより行うことができる。内管1と外管5との間に形成された閉空間には、ガスが封入されている。封入されるガスは、誘電体バリア放電可能なガス、例えば、ネオンガス、アルゴンガス、キセノンガス、窒素ガスから選択された一種類のガス、またはこれらの混合ガスとすることができる。ガスの封入圧力は、例えば、常温(25℃)で0.3atm以下とすることが好ましく、0.1atm以下とすることがより好ましい。
【0017】
外管5は、内管1の材料の熱膨張係数に近く、かつ紫外線遮断性を有する材料から形成することが好ましい。外管5は、例えば、チタン、セリウム、アルミニウム等の酸化物を添加した石英ガラスから形成することができる。
【0018】
電極マウント3は、封止部12の内部に設けられている。
電極マウント3には、金属箔31、電極32、コイル33、リード線34が設けられている。
金属箔31は、薄板状を呈し、例えば、モリブデンから形成されている。
【0019】
電極32は、円柱状を呈し、例えば、タングステンに酸化トリウムをドープした、いわゆるトリエーテッドタングステンから形成されている。なお、電極32の材料は、純タングステン、ドープタングステン、レニウムタングステンなどであってもよい。
【0020】
電極32の一端は、金属箔31の発光部11側の端部に溶接されている。電極32の他端は、放電空間111内に突出している。電極32は、先端同士が所定の距離を保って互い対向するように配置されている。
すなわち、一対の電極32は、放電空間111の内部に突出し、所定の距離を置いて対向配置されている。
【0021】
電極32の先端同士の間の距離は、例えば、3.7mm以上、4.4mm以下とすることができる。
電極32の中心軸32aと、発光部11の内壁との間の距離は、0.9mm以上、1.2mm以下とすることができる。
電極32の中心軸32aと、金属ハロゲン化物2の表面(上面)との間の距離m(mm)は、電極32の中心軸32aと発光部11の内壁との間の距離から金属ハロゲン化物2の厚みを引いた距離である。
金属ハロゲン化物2の厚みは、後述する放電の振れの抑制や、光学的・電気的特性の観点から調整され、1.0μm以上、100μm以下とすることができる。また、金属ハロゲン化物2の厚みは、例えば、水平に配置した放電ランプ100の発光部11をX線写真で撮影することにより測定することができる。
なお、電極32の中心軸32aと、金属ハロゲン化物2の表面(上面)との間の距離m(mm)に関する詳細は後述する。
【0022】
また、電極32の形状は、径が管軸方向に一定の円柱状でなくてもよい。例えば、電極32の形状は、先端部の径を基端部の径よりも大きくした非円柱状であってもよいし、先端が球体であってもよいし、直流点灯タイプのように一方の電極径と他方の電極径が異なる形状であってもよい。
【0023】
コイル33は、例えば、ドープタングステンからなる金属線から形成することができる。コイル33は、封止部12の内部に設けられた電極32の外側に巻きつけられている。この場合、例えば、コイル33の線径は30μm以上100μm以下、コイルピッチは600%以下とすることができる。
【0024】
リード線34は、例えば、モリブデンからなる金属線とすることができる。リード線34の一端は、金属箔31の発光部11側とは反対側の端部に載置されている。リード線34の他端は、内管1の外部にまで延びている。
【0025】
サポートワイヤ35は、L字状を呈し、放電ランプ100の前端側から出ているリード線34の端部に接続されている。サポートワイヤ35とリード線34との接続は、レーザ溶接により行うことができる。サポートワイヤ35は、例えば、ニッケルから形成することができる。
スリーブ4は、サポートワイヤ35の内管1と平行に延びる部分を覆っている。スリーブ4は、例えば、円筒状を呈し、セラミックから形成されたものとすることができる。
金属バンド71は、外管5の後端側の外周面に固定されている。
【0026】
ソケット102には、本体部6、取り付け金具72、底部端子81、側部端子82が設けられている。
本体部6は、樹脂などの絶縁性材料から形成されている。本体部6の内部には、リード線34、サポートワイヤ35、およびスリーブ4の後端側が設けられている。
【0027】
取り付け金具72は、本体部6の前端側の端部に設けられている。取り付け金具72は、本体部6から突出しており、金属バンド71を保持する。取り付け金具72により金属バンド71を保持することで、バーナー101がソケット102に保持される。
【0028】
底部端子81は、本体部6の後端部側の内部に設けられている。底部端子81は、導電性材料から形成され、リード線34と電気的に接続されている。
側部端子82は、本体部6の後端部側の側壁に設けられている。側部端子82は、導電性材料から形成され、サポートワイヤ35と電気的に接続されている。
【0029】
そして、底部端子81が高圧側、側部端子82が低圧側になるように点灯回路205(図3を参照)と接続される。自動車の前照灯の場合には、放電ランプ100は、放電ランプ100の中心軸がほぼ水平の状態で、かつサポートワイヤ35がほぼ下端側(下方)に位置するように取り付けられる。そして、この様な方向に取り付けられた放電ランプ100を点灯することを水平点灯という。
【0030】
ここで、例えば、自動車用の前照灯に用いる放電ランプ100は、安全上の観点から、点灯直後から明るくなることが要求される。
従来は、金属ハロゲン化物2に水銀が含まれていたため、点灯直後から明るくすることができた。
しかしながら、近年においては、環境面から金属ハロゲン化物2に水銀を含めないようにしている。
【0031】
そのため、点灯直後から明るくなるようにすることが難しくなってきている。
また、近年においては、環境面から放電ランプ100の低消費電力化が図られている。 例えば、従来、安定点灯時における消費電力が35W程度であったものを20W以上30W以下に低減させるようになってきている。
そのため、放電が不安定となったり、明るさが足りなくなったりするおそれがある。
【0032】
本発明者の得た知見によれば、発光部11の放電空間111に封入されるガスの圧力Xを高くすれば、放電ランプ100の明るさを明るくすることができる。
【0033】
ところが、封入されるガスの圧力Xを高くすると、放電ランプ100が設けられた自動車の走行に伴う機械的な振動により弧状の放電が上下に振れやすくなるという新たな問題が生じる。
機械的な振動により弧状の放電が上下に振れやすくなると、配光にちらつきが発生したり、放電空間111に封入されている金属ハロゲン化物2が巻き上げられて発光色が変化したりするおそれがある。発光色が変化し易くなると、放電ランプ100の商品性が著しく低くなる。
【0034】
また、発光部11のサイズを小さくすれば、放電ランプの明るさを明るくすることができる。
しかしながら、発光部11のサイズを小さくすれば、電極32の中心軸32aと、金属ハロゲン化物2の表面との間の距離mが短くなる。
そのため、弧状の放電が下方に振れると、弧状の放電と金属ハロゲン化物2が接触しやすくなる。その結果、放電空間111に封入されている金属ハロゲン化物2が、さらに巻き上げられ易くなる。
【0035】
本発明者は、更なる検討の結果、水銀を用いず、且つ、低消費電力であっても必要な明るさを確保することができ、且つ、放電の振れを抑制することができる放電ランプを開発した。
以下、本発明者が得た知見について説明する。
【0036】
前述したように、明るさ及び放電の振れ易さは、放電空間111に封入されるガスの圧力Xの影響を受ける。
すなわち、封入されるガスの圧力Xを低くすれば放電の振れを抑制することができる。しかしながら、封入されるガスの圧力Xを低くすれば明るさが不足することになる。
一方、封入されるガスの圧力Xを高くすれば、必要な明るさを確保することができる。しかしながら、封入されるガスの圧力Xを高くすれば、放電の振れが大きくなる。
【0037】
また、電極32の中心軸32aと、金属ハロゲン化物2の表面との間の距離mを短くすると、金属ハロゲン化物2が巻き上げられやすくなる。そのため、発光色が変化し易くなる。
一方、電極32の中心軸32aと、金属ハロゲン化物2の表面との間の距離mを長くすると、発光部11の強度が低くなりすぎるおそれがある。
【0038】
また、明るさ及び放電の振れ易さは、放電空間111に封入されるガスの種類や混合比の影響を受けるとも思われる。
しかしながら、封入されるガスは、キセノンガスなどの不活性ガスに限られている。また、混合ガスを用いる場合にも、キセノンガスとアルゴンガスなどのように、不活性ガス同士の組み合わせに限られる。
そのため、放電空間111に封入されるガスの種類や混合比などの影響は小さなものとなる。
例えば、キセノンガス単体と、キセノンガスを主成分とする混合ガス(例えば、キセノンガスを70vol%以上含むキセノンガスとアルゴンガスの混合ガス)とでは、明るさ及び放電の振れ易さは同程度のものとなる。
【0039】
また、放電の振れ易さは、電極32の先端同士の間の距離の影響を受けるとも思われる。
しかしながら、電極32の先端同士の間の距離には規格があるので、電極32の先端同士の間の距離は限られたものとなる。
そのため、電極32の先端同士の間の距離の影響は小さなものとなる。
【0040】
また、明るさは、金属ハロゲン化物2の成分比の影響を受けるとも思われる。
しかしながら、明るさに最も影響を与える水銀が含まれていない場合には、金属ハロゲン化物2の成分比の影響は小さなものとなる。
【0041】
本発明者の得た知見によれば、ガスの圧力Xに対する電極32の中心軸32aと金属ハロゲン化物2の表面との間の距離mの比(m/X)を所定の範囲内とすれば、水銀を用いず、且つ、低消費電力であっても必要な明るさを確保することができ、且つ、放電の振れを抑制することができる。
【0042】
表1は、本発明者が行った実験の結果を示す表である。
実験は、以下の条件で行った。
消費電力は25Wとした。
この場合、点灯開始時に60W、安定点灯時に25Wとなるように、安定器(electrical ballast)を用いて制御した。
放電空間111に封入するガスは、キセノンガス単体とした。
電極32の先端同士の間の距離は、3.7mm程度とした。
【0043】
金属ハロゲン化物2は、ヨウ化スカンジウムを含み、水銀を含まないものとした。
発光色の変化は、目視観察によるものとした。
点灯直後の光束は、点灯開始後4秒における光束を測定し、光束が1000lm以上となるか否かで良否を判断することにした。
【0044】
【表1】
【0045】
表1から分かるように、圧力Xに対する距離mの比(m/X)を大きくしすぎると、発光色の変化がなくても、必要な光束を確保することができない。
すなわち、圧力Xに対する距離mの比(m/X)を大きくしすぎると、放電の振れを抑制することができても、必要な明るさを確保することができない。
また、圧力Xに対する距離mの比(m/X)を小さくしすぎると、必要な光束を確保することができても、発光色の変化が生じてしまう。
すなわち、圧力Xに対する距離mの比(m/X)を小さくしすぎると、必要な明るさを確保することができても、放電の振れが大きくなってしまう。
【0046】
この場合、表1から分かるように、0.085≦m/X≦0.12とすれば、水銀を用いず、且つ、低消費電力であっても必要な明るさを確保することができ、且つ、放電の振れを抑制することができる。
また、表1から分かるように、0.10≦m/X≦0.12とすれば、放電の振れをさらに抑制することができる。
【0047】
次に、本実施の形態に係る放電ランプ100を備えた車両用灯具200について例示する。
図2は、車両用灯具200の構成を例示するための模式図である。
なお、図2中の「前方」は放電ランプ100を取り付けた自動車の前方、「後方」は放電ランプ100を取り付けた自動車の後方、「上方」は放電ランプ100を取り付けた自動車の上方、「下方」は放電ランプ100を取り付けた自動車の下方である。
図2は、放電ランプ100に設けられた一対の電極32が水平となるように放電ランプ100を取り付けた場合である。つまり、水平点灯をさせる放電ランプ100の場合を例示するものである。
図3は、車両用灯具200の回路を例示するための模式図である。
【0048】
図2に示すように、車両用灯具200には、放電ランプ100、リフレクタ202、遮光制御板203、レンズ204、点灯回路205が設けられている。
リフレクタ202は、放電ランプ100から照射された光を前方側に反射させる。リフレクタ202は、例えば、反射率の高い金属などから形成されている。リフレクタ202の内部には空間が設けられ、内面が放物線形状を有している。
【0049】
リフレクタ202の前方側と後方側の端部は開口している。
放電ランプ100のソケット102は、リフレクタ202の後方側の開口付近に取り付けられている。放電ランプ100のバーナー101は、リフレクタ202の内部の空間に位置している。
【0050】
遮光制御板203は、リフレクタ202の内部であって、バーナー101の前方側、かつ、バーナー101の下方側に設けられている。
遮光制御板203は、金属などの遮光性材料から形成されている。遮光制御板203は、カットラインと呼ばれる配光を形成するために設けられている。遮光制御板203は、可動式とされており、遮光制御板203を下方側に倒すことで、ロービームからハイビームへの切り替えが可能となっている。
【0051】
レンズ204は、リフレクタ202の前方側の開口を塞ぐようにして設けられている。レンズ204は、凸レンズとすることができる。レンズ204は、放電ランプ100から直接入射した光、リフレクタ202により反射され入射した光を集光させて所望の配光を形成する。
【0052】
点灯回路205は、放電ランプ100の始動および点灯の維持を行うための回路である。
図3に示すように、点灯回路205は、例えば、イグナイタ回路205aとバラスト回路205bとを備えたものとすることができる。
点灯回路205の入力側には、バッテリーなどの直流電源DSとスイッチSWとが電気的に接続されている。点灯回路205の出力側には、放電ランプ100が電気的に接続されている。
【0053】
イグナイタ回路205aは、例えば、トランス、コンデンサ、ギャップ、抵抗などから構成されている。イグナイタ回路205aは、30kV程度の高圧パルスを生成し、放電ランプ100に印加する。30kV程度の高圧パルスを放電ランプ100に印加することで、一対の電極32間において絶縁破壊が生じ、放電が生じる。すなわち、イグナイタ回路205aにより放電ランプ100が始動する。
【0054】
バラスト回路205bは、例えば、DC/DC変換回路、DC/AC変換回路、電流・電圧検出回路および制御回路などから構成されている。バラスト回路205bは、イグナイタ回路205aにより、始動した放電ランプ100の点灯を維持する。
【0055】
以上、本発明のいくつかの実施形態を例示したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更などを行うことができる。これら実施形態やその変形例は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。また、前述の各実施形態は、相互に組み合わせて実施することができる。
【符号の説明】
【0056】
1 内管、3 電極マウント、4 スリーブ、5 外管、11 発光部、11a 内壁、12 封止部、32 電極、32a 中心軸、34 リード線、35 サポートワイヤ、71 金属バンド、100 放電ランプ、101 バーナー、102 ソケット、111 放電空間、200 車両用灯具、202 リフレクタ、203 遮光制御板、204 レンズ、205 点灯回路、205a イグナイタ回路、205b バラスト回路
図1
図2
図3