(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して、本願の開示するマトリクスコンバータ、発電システムおよび電力変換方法の実施形態を詳細に説明する。なお、以下に示す実施形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0011】
[1.マトリクスコンバータの構成]
図1は、実施形態に係るマトリクスコンバータの構成例を示す図である。
図1に示すように、実施形態に係るマトリクスコンバータ1は、3相交流電源2(以下、交流電源2と記載する)のR相、S相およびT相(複数の入力相の一例)と交流装置3のU相、V相およびW相(複数の出力相の一例)との間に設けられる。交流電源2は、例えば、電力系統であり、交流装置3は、例えば、交流電動機や交流発電機などの回転電機である。
【0012】
例えば、交流電源2が電力系統であり、かつ、交流装置3が交流発電機(発電装置の一例)である場合、マトリクスコンバータ1は、交流装置3によって発電された電力を交流電源2へ出力する。この場合、マトリクスコンバータ1および交流装置3によって発電システムが構成される。また、例えば、交流電源2が電力系統であり、かつ、交流装置3が交流電動機である場合、マトリクスコンバータ1は、交流電源2から供給される電力に基づいて交流装置3を制御する。
【0013】
マトリクスコンバータ1は、入力端子Tr、Ts、Ttと、出力端子Tu、Tv、Twと、電力変換部10と、LCフィルタ11と、入力電圧検出部12と、出力電流検出部13と、制御部20(制御装置の一例)とを備える。マトリクスコンバータ1は、交流電源2から入力端子Tr、Ts、Ttを介して供給される3相交流電圧を任意の電圧および周波数に変換して出力端子Tu、Tv、Twから交流装置3へ出力する。
【0014】
電力変換部10は、交流電源2の各相と交流装置3の各相とを接続する複数の双方向スイッチSw1〜Sw9(以下、双方向スイッチSwと総称する場合がある)を備える。双方向スイッチSw1〜Sw3は、交流電源2のR相、S相、T相と交流装置3のU相とをそれぞれ接続する。双方向スイッチSw4〜Sw6は、交流電源2のR相、S相、T相と交流装置3のV相とをそれぞれ接続する。双方向スイッチSw7〜Sw9は、交流電源2のR相、S相、T相と交流装置3のW相とをそれぞれ接続する。
【0015】
図2は、双方向スイッチSwの構成例を示す図である。
図2に示すように、双方向スイッチSwは、スイッチング素子SwaとダイオードDaの直列接続回路と、スイッチング素子SwbとダイオードDbとの直列接続回路とを有し、これらの直列接続回路は逆並列接続される。
図2においては、入力相電圧をViと表記し、出力相電圧をVoと表記している。
【0016】
なお、双方向スイッチSwは、複数のスイッチング素子を有して導通方向を制御可能な構成であればよく、
図2に示す構成に限定されない。例えば、
図2に示す例では、ダイオードDa、Dbのカソード同士が接続されているが、双方向スイッチSwは、ダイオードDa、Dbのカソード同士が接続されない構成でもよい。
【0017】
また、スイッチング素子Swa、Swbは、例えば、MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)やIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)などの半導体スイッチング素子である。また、スイッチング素子Swa、Swbは、次世代半導体スイッチング素子のSiC、GaNであってもよい。なお、スイッチング素子Swa、Swbが逆素子IGBTの場合、ダイオードDa、Dbを設けなくてもよい。
【0018】
図1に戻って、マトリクスコンバータ1の説明を続ける。LCフィルタ11は、交流電源2のR相、S相およびT相と電力変換部10との間に設けられる。このLCフィルタ11は、3つのリアクトルLr、Ls、Ltと3つのコンデンサCrs、Cst、Ctrを含み、双方向スイッチSwのスイッチングに起因する高周波成分を除去する。
【0019】
入力電圧検出部12は、交流電源2のR相、S相、T相の各相電圧を検出する。例えば、入力電圧検出部12は、交流電源2のR相、S相、T相の各相電圧の瞬時値Er、Es、Et(以下、入力相電圧Er、Es、Etと記載する)を検出する。
【0020】
出力電流検出部13は、電力変換部10と交流装置3との間に流れる電流を検出する。例えば、出力電流検出部13は、電力変換部10と交流装置3のU相、V相、W相のそれぞれとの間に流れる電流の瞬時値Iu、Iv、Iw(以下、出力相電流Iu、Iv、Iwと記載する)を検出する。なお、以下、出力相電流Iu、Iv、Iwを総称して出力相電流Ioと記載する場合がある。
【0021】
制御部20は、入力相電圧Er、Es、Etおよび出力相電流Iu、Iv、Iwなどに基づいて、駆動信号S1a〜S9a、S1b〜S9b(以下、駆動信号Sgと総称する場合がある)を生成し、電力変換部10の双方向スイッチSw1〜Sw9を制御する。
【0022】
例えば、双方向スイッチSw1〜Sw9のスイッチング素子Swaは、駆動信号S1a〜S9aによって駆動され、双方向スイッチSw1〜Sw9のスイッチング素子Swbは、駆動信号S1b〜S9bによって駆動される。
【0023】
[2.制御部20の構成]
図3は、制御部20の構成例を示す図である。
図3に示すように、制御部20は、指令出力部21と、PWM演算部22と、転流制御部23(駆動制御部の一例)とを備える。
【0024】
制御部20は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、入出力ポートなどを有するマイクロコンピュータや各種の回路を含む。マイクロコンピュータのCPUは、ROMに記憶されたプログラムを読み出して実行することにより、指令出力部21、PWM演算部22および転流制御部23として機能する。なお、制御部20は、プログラムを用いずにハードウェアのみで構成されることがある。
【0025】
指令出力部21は、所定の制御周期で、出力相毎の出力電圧指令Vu
*、Vv
*、Vw
*(出力相電圧指令の一例)を生成して出力する。かかる指令出力部21は、電流指令生成部31と、電流制御部32とを備える。
【0026】
電流指令生成部31は、例えば、周波数指令f
*に基づき、出力電流指令Iu
*、Iv
*、Iw
*を生成する。なお、電流指令生成部31は出力電流指令Iu
*、Iv
*、Iw
*の生成を、周波数指令f
*に代えて、例えば、トルク指令T
*に基づいて行うこともできる。
【0027】
電流制御部32は、出力電流指令Iu
*、Iv
*、Iw
*と出力相電流Iu、Iv、Iwに基づき、所定の制御周期で、出力相毎の出力電圧指令Vu
*、Vv
*、Vw
*を生成して出力する。例えば、電流制御部32は、U相に関し、出力電流指令Iu
*と出力相電流Iuとの差がゼロになるように比例積分(PI)制御を行うことにより、出力電圧指令Vu
*を生成する。電流制御部32は、V相やW相も同様に、例えば、PI制御によって出力電圧指令Vv
*、Vw
*を生成する。
【0028】
PWM演算部22は、入力相電圧Er、Es、Et、出力電圧指令Vu
*、Vv
*、Vw
*および入力電流指令Ir
*、Is
*、It
*などに基づき、キャリア波Scの半周期毎に空間ベクトル法を用いて、PWM(Pulse Width Modulation)制御のデューティ比を規定する出力ベクトルの比率を演算する。なお、空間ベクトル法を用いた演算は、例えば、国際公開第2006/118026号に記載されている公知の技術を用いることができる。
【0029】
PWM演算部22は、演算した出力ベクトルの比率に基づいてPWM制御指令Vu1
*、Vv1
*、Vw1
*(制御指令の一例。以下、PWM制御指令Vo1
*と総称する場合がある)を生成し、転流制御部23へ出力する。かかるPWM演算部22の構成について、後で詳述する。
【0030】
転流制御部23は、PWM制御指令Vo1
*に基づき、駆動信号Sgを生成する。また、転流制御部23は、PWM制御指令Vo1
*が変化した場合に、複数のステップを有する所定の転流法によって転流制御処理を行って駆動信号Sgを生成する。これにより、双方向スイッチを構成するスイッチング素子が所定の順序で個別にオン/オフ制御され、交流電源2の線間短絡やマトリクスコンバータ1の出力開放などを抑制することができる。なお、転流法には、例えば、4ステップ電流転流法や4ステップ電圧転流法などがあり、例えば、特開2004−7929号公報や特開2007−82286号公報などに開示されている技術を用いることができる。
【0031】
[3.PWM演算部22の構成]
図4は、PWM演算部22の構成例を示す図である。
図4に示すように、PWM演算部22は、大小関係判定部40と、ベクトル演算部41と、基準電圧判定部42と、電流分配率演算部43と、制御指令生成部44とを備え、空間ベクトル法を用いて、例えば、2相変調法によりPWM制御指令Vo1
*を生成する。
【0032】
2相変調法は、U相、V相およびW相のうち1つの出力相は基準電圧E
baseに固定し、残りの2つの出力相は入力相電圧Ep、Em、Enを切り替えて出力させる変調方式である。なお、入力相電圧Er、Es、Etの大きさが大きい順に入力相電圧Ep、Em、Enとする。
【0033】
ここで、空間ベクトル法について説明する。交流電源2のR相、S相およびT相について、最大電圧相をP、最小電圧相をN、中間電圧相をMとした場合、出力電圧の空間ベクトルは
図5のように表すことができる。
図5は、出力電圧の空間ベクトルの一例を示す図である。最大電圧相Pは、入力相電圧Er、Es、Etのうち最大電圧(入力相電圧Ep)に対応する入力相であり、中間電圧相Mは、入力相電圧Er、Es、Etのうち中間電圧(入力相電圧Em)に対応する入力相である。また、最小電圧相Nは、入力相電圧Er、Es、Etのうち最小電圧(入力相電圧En)に対応する入力相である。
【0034】
図5において、U相、V相およびW相の出力相のうちいずれか1つが最大電圧相Pに接続され、残りが最小電圧相Nに接続されている状態を、ベクトル表現を用いて「aベクトル」と表記する。また、出力相のうちいずれか1つが最小電圧相Nに接続され、残りが最大電圧相Pに接続されている状態を、ベクトル表現を用いて「bベクトル」と表記する。例えば、U相が最大電圧相Pに接続され、V相およびW相が最小電圧相Nに接続されている場合、「PNN」と表記し、「aベクトル」である。同様に、「NPN」、「NNP」は「aベクトル」である。また、「PPN」、「PNP」、「NPP」は「bベクトル」である。
【0035】
また、出力相のうち一部が中間電圧相Mに接続されている状態を、ベクトル表現を用いて「apベクトル」、「anベクトル」、「bpベクトル」、「bnベクトル」で表記する。例えば、「apベクトル」は、出力相のうちいずれか1つが最大電圧相P、残りが中間電圧相Mに接続されている状態を示すベクトルである。「anベクトル」は、出力相のうちいずれか1つが中間電圧相Mに、残りが最小電圧相Nに接続された状態を示すベクトルである。「bpベクトル」は、出力相のうちいずれか2つが最大電圧相P、残りが中間電圧相Mに接続されている状態を示すベクトルである。また、「bnベクトル」は、出力相のうちいずれか2つが中間電圧相M、残りが最小電圧相Nに接続されている状態を示すベクトルである。
【0036】
また、U相、V相およびW相がそれぞれ異なる入力相に接続されている状態を、ベクトル表現を用いて「cmベクトル」で表記する。また、U相、V相およびW相がすべて同一の入力相に接続されている状態を、「onベクトル」、「omベクトル」または「opベクトル」で表記する。「onベクトル」は、出力相の全てが最小電圧相Nに接続された状態を示すベクトルである。「omベクトル」は、出力相の全てが中間電圧相Mに接続された状態を示すベクトルである。「opベクトル」は、出力相の全てが最大電圧相Pに接続された状態を示すベクトルである。なお、「onベクトル」、「omベクトル」または「opベクトル」がゼロベクトルであり、それ以外が有効ベクトルである。
【0037】
図6は、出力電圧指令Vo
*と空間ベクトルとの対応例を示す図である。PWM演算部22は、
図6に示されるように、出力電圧指令Vo
*の「aベクトル成分Va」と「bベクトル成分Vb」を、複数の出力ベクトルの組み合わせによるスイッチングパターンによってPWM制御指令Vu1
*、Vv1
*、Vw1
*を生成して出力する。かかる組み合わせは、「aベクトル」、「apベクトル」、「anベクトル」、「bベクトル」、「bpベクトル」、「bnベクトル」、「cmベクトル」、「opベクトル」、「omベクトル」および「onベクトル」の中から行われる。
【0038】
大小関係判定部40は、入力相電圧Ep、Em、Enを判定する。かかる大小関係判定部40は、入力相電圧Er、Es、Etの大きさが大きい順に入力相電圧Ep、Em、Enとする。
【0039】
ベクトル演算部41は、出力電圧指令Vu
*、Vv
*、Vw
*のうち最大値をVmax、中間値をVmid、最小値をVminとし、aベクトル成分Vaおよびbベクトル成分Vbを、例えば、以下の式(1)、(2)に基づいて求める。
|Va|=Vmax−Vmid ・・・(1)
|Vb|=Vmid−Vmin ・・・(2)
【0040】
また、基準電圧判定部42は、入力相電圧Er、Es、Etのうち絶対値が最も大きな入力相電圧Viを基準電圧E
baseとする。電流分配率演算部43は、基準電圧E
baseがEpの場合、例えば、下記式(3)に基づいて電流分配率αを求め、例えば、基準電圧E
baseがEnの場合、下記式(4)に基づいて電流分配率αを求める。下記式(3)、(4)においては、入力電流指令Ir
*、Is
*、It
*のうち、入力相電圧Ep、Em、Enに対応する相の電流指令値をそれぞれIp、Im、Inとしている。
α=Im/In ・・・(3)
α=Im/Ip ・・・(4)
【0041】
入力電流指令Ir
*、Is
*、It
*は、制御部20の入力電力制御器(図示せず)において、例えば、正相分電圧および逆相分電圧と、設定された力率指令とに基づいて生成される。かかる入力電流指令Ir
*、Is
*、It
*により、アンバランス電圧の影響が相殺され、かつ、入力電流の力率が任意の値に制御される。
【0042】
制御指令生成部44は、複数のスイッチングパターンから1つのスイッチングパターンを選択する。下記表1にスイッチングパターンの一例を示す。制御指令生成部44は、基準電圧E
baseが入力相電圧Ep、Enのいずれであるか、および、入力相電圧Viの位相状態が|Vb|−α|Va|≧0を満たすか否かに基づき、例えば、下記表1に示すスイッチングパターンの中から一つのスイッチングパターンを選択する。制御指令生成部44は、選択したスイッチングパターンを構成する各出力ベクトルの比率を出力電圧指令Vu
*、Vv
*、Vw
*に基づいて求める。
【表1】
【0043】
図7〜
図10は、2相変調法におけるキャリア波Sc、PWM制御指令Vu1
*、Vv1
*、Vw1
*および入力相電圧Ep、Em、Enの対応関係を示す図であり、Vu1
*>Vv1
*>Vw1
*の関係にある場合の例である。
図7〜
図10は、表1に示すスイッチングパターンのパターン番号1〜4にそれぞれ対応する。なお、
図7〜
図10に示すタイミングt10〜t20は、出力ベクトル間の区切りを示すための便宜上の記載であり、タイミングt10、t15、t20を除き、
図7〜
図10の間ではタイミングが異なる場合もある。後述するその他の図も同様である。
【0044】
各PWM制御指令Vu1
*、Vv1
*、Vw1
*は、各出力相に対して各タイミングで入力相電圧Ep、Em、Enのいずれに接続するかを示す情報または信号である。
図7〜
図10に示す例では、理解を容易にするために、PWM制御指令Vu1
*、Vv1
*、Vw1
*と入力相電圧Ep、Em、Enとの関係を波形で示している。
【0045】
制御指令生成部44は、基準電圧E
baseが入力相電圧Ep、Enのいずれであるかにより、例えば、
図7に示すスイッチングパターンと
図9に示すスイッチングパターンとを切り替える。また、制御指令生成部44は、例えば、入力相電圧Viの位相状態に基づき、
図7に示すスイッチングパターンと
図8に示すスイッチングパターンとを切り替える。
【0046】
[4.制御指令生成部44の構成]
図11に示すように、制御指令生成部44は、切替部51と、比率演算部52と、追加部53と、比率調整部54と、制御指令出力部55とを備える。
図11は、制御指令生成部44の構成例を示す図である。
【0047】
切替部51は、基準電圧E
baseが入力相電圧Ep、Enのいずれであるか、および、|Vb|−α|Va|≧0を満たすか否かに基づき、パターン番号1〜4のスイッチングパターンの中から一つのスイッチングパターンを選択する。切替部51は、選択したスイッチングパターンの情報を比率演算部52に通知する。また、切替部51は、基準電圧E
baseが切り替わる場合に基準電圧E
baseが切り替わることを示す情報を追加部53へ通知する。
【0048】
比率演算部52は、入力相電圧Ep、En、電流分配率α、ベクトル成分Va,Vb、基準電圧E
baseなどに基づき、切替部51から通知されたパターン番号のスイッチングパターンの各出力ベクトルの比率(出力相に対する入力相の接続比率の一例)を演算する。
【0049】
追加部53は、切替部51が基準電圧E
baseに基づいてスイッチングパターンを切り替える場合に、切り替え後のスイッチングパターンの先頭または切り替え前のスイッチングパターンの最後に中間電圧相Mを含む出力ベクトルの比率を追加する。
【0050】
比率調整部54は、比率演算部52から通知される各出力ベクトルの比率を取得し、中間電圧相Mを含む出力ベクトルの比率(中間電圧相Mの接続比率の一例)が下限値T
minより小さい場合、かかる出力ベクトルの比率を下限値T
minに設定し、残りの出力ベクトルの比率(残りの接続比率の一例)の一部または全部を調整する。これにより、出力電圧指令Vu
*、Vv
*、Vw
*に応じた出力電圧を精度良く出力することができる。
【0051】
また、比率調整部54は、追加部53によって中間電圧相Mを含む出力ベクトルの比率がスイッチングパターンに追加された場合、比率演算部52から各出力ベクトルの比率の一部または全部を調整する。これにより、出力電圧指令Vu
*、Vv
*、Vw
*に応じた出力電圧を精度良く出力することができる。
【0052】
制御指令出力部55は、比率演算部52によって演算されたスイッチングパターンの各出力ベクトルの比率、または、比率調整部54によって調整された後のスイッチングパターンの各出力ベクトルの比率に基づいて、PWM制御指令Vu1
*、Vv1
*、Vw1
*を生成する。
【0053】
ここで、制御指令生成部44は、出力相に接続される最大電圧相Pと最小電圧相Nとの間で切り替わることを抑制する。このように、最大電圧相Pと最小電圧相Nとの間で切り替わりを抑制することで、サージ電圧(例えば、交流装置3が電動機の場合、モータサージ電圧)を抑制して出力特性の精度を向上させることができる。制御指令生成部44は、出力相に接続される最大電圧相Pと最小電圧相Nとの間で切り替わることを抑制するために、例えば、以下(a)〜(c)の機能を実行する。以下、それぞれの機能について詳細に説明する。
(a)中間電圧相Mを出力するベクトル比率に下限値T
minを設ける。
(b)スイッチングパターンに中間電圧相Mを出力する出力ベクトルを加える。
(c)ゼロベクトル出力中のみ出力電圧の領域変化を許可する。
【0054】
[4.1.下限値の設定]
制御指令生成部44は、中間電圧相Mを出力するための出力ベクトルの比率が下限値T
minよりも小さくならないように出力ベクトルの比率を演算することができる。
【0055】
入力相電圧Er、Es、Etのゼロクロス点では、電流分配率αはゼロになる。電流分配率αがゼロである場合、出力ベクトルの下限値T
minを設けない場合、
図12に示すように、中間電圧相Mが用いられない状態になる。
図12は、入力相電圧Er、Es、Etがゼロクロス点にあり、かつ、出力ベクトルの下限値T
minを設けない場合のPWM制御指令Vo1
*および入力相電圧Ep、Em、Enの対応関係を示す図であり、Vu1
*>Vv1
*>Vw1
*の関係にある場合の例である。
【0056】
入力相電圧Er、Es、Etのゼロクロス点近傍も電流分配率αがゼロ近傍になる。電流分配率αがゼロ近傍になる場合、例えば、スイッチング素子のデッドタイムなどにより、中間電圧相Mが出力されない状態になることがある。このように、入力相電圧Er、Es、Etのゼロクロス点およびその近傍である場合、中間電圧相Mが出力されない状態になることがある。
【0057】
そこで、制御指令生成部44は、中間電圧相Mを出力するための出力ベクトルの比率が下限値T
minよりも小さくならないように制限する。かかる下限値T
minは、電力変換部10から出力相に対して中間電圧相Mを出力することができる比率に設定される。例えば、下限値T
minは、転流制御の開始タイミングから出力相の電圧が切り替えられるまでの時間やスイッチング素子のターンオフ時間に基づいて設定される。例えば、転流制御部23に用いられる転流法が4ステップの電流転流法である場合、2ステップ分の転流時間、スイッチング素子Swabのターンオフ時間および中間相電圧Emidの最小出力時間を加算した時間を下限値T
minとすることができる。
【0058】
制御指令生成部44は、例えば、パターン番号1のスイッチングパターンの場合、制御指令生成部44は、「bpベクトル」の比率T
bpおよび「cmベクトル」の比率T
cmが下限値T
minよりも小さくならないように、「bpベクトル」の比率T
bpおよび「cmベクトル」の比率T
cmを制限する。
【0059】
また、制御指令生成部44は、パターン番号2のスイッチングパターンの場合、例えば、「apベクトル」の比率T
apが下限値T
minよりも小さくならないように、「apベクトル」の比率T
apを制限する。なお、「apベクトル」に隣接する「bpベクトル」および「cmベクトル」も中間電圧相Mを出力する出力ベクトルであるが、「bpベクトル」および「cmベクトル」のいずれも中間電圧相Mを出力する出力相が「apベクトル」と重複する。そのため、「apベクトル」の比率T
apが下限値T
minよりも小さくならないようにすることで、「bpベクトル」および「cmベクトル」の比率がゼロであっても、入力相電圧Er、Es、Etのゼロクロス点およびその近傍である場合に、中間電圧相Mを出力することができる。
【0060】
制御指令生成部44は、パターン番号3のスイッチングパターンの場合、「cmベクトル」の比率T
cmおよび「anベクトル」の比率T
anが下限値T
minよりも小さくならないように、「cmベクトル」の比率T
cmおよび「anベクトル」の比率T
anを制限する。
【0061】
また、制御指令生成部44は、パターン番号4のスイッチングパターンの場合、例えば、「bnベクトル」の比率T
bnが下限値T
minよりも小さくならないように、「bnベクトル」の比率T
bnを制限する。なお、「bnベクトル」に隣接する「cmベクトル」および「anベクトル」も中間電圧相Mを出力する出力ベクトルであるが、「cmベクトル」および「anベクトル」のいずれも中間電圧相Mを出力する出力相が「bnベクトル」と重複する。そのため、パターン番号2のスイッチングパターンの場合と同様に、中間電圧相Mを出力することができる。
【0062】
図13は、入力相電圧Er、Es、Etのいずれかがゼロクロス点にあり、かつ、パターン番号1のスイッチングパターンの場合に、下限値T
minを設けた場合のPWM制御指令Vo1
*および入力相電圧Ep、Em、Enの対応関係を示す図であり、Vu1
*>Vv1
*>Vw1
*の関係にある場合の例である。
【0063】
図13に示すように、中間電圧相Mを出力するための出力ベクトルの比率に下限値T
minを設けることにより、中間電圧相Mを含む3レベルの電圧を2つの出力相へ出力することができる。
【0064】
なお、制御指令生成部44は、中間電圧相Mを出力するための出力ベクトルの比率が下限値T
minよりも小さくならないように演算する処理は、上述したように、比率演算部52および比率調整部54によって行われるが、かかる構成に限定されない。すなわち、結果的に、中間電圧相Mを出力するための出力ベクトルの比率が下限値T
minよりも小さくなることを抑制しつつ、スイッチングパターンの各出力ベクトルの比率を演算することができる構成であればよい。
【0065】
[4.2.中間電圧相Mを出力する出力ベクトルの追加]
制御指令生成部44は、基準電圧E
baseの切り替わり時にパターン番号1〜4のスイッチングパターンに中間電圧相Mが用いられる出力ベクトルを追加することができる。これにより、基準電圧E
baseの切り替わり時に、出力相に接続される最大電圧相Pと最小電圧相Nとの間で切り替わることを抑制して、段階的に3レベルで変化させることができる。
【0066】
ここで、制御指令生成部44がキャリア波Scの山のタイミング(例えば、
図7に示すタイミングt15)でスイッチングパターンのパターン番号を1から3へ切り替えたとする。この場合のPWM制御指令Vo1
*および入力相電圧Ep、Em、Enの対応関係を
図14に示す。
【0067】
図14に示すように、キャリア波Scの山のタイミングt15で、PWM制御指令Vu1
*が最大相電圧Epへの接続を示す状態から最小相電圧Enへの接続を示す状態へ切り替わる。そのため、出力相電圧Vuは最大相電圧Epから最大相電圧Enへ切り替わり、中間相電圧Emは出力されない。かかる現象は、パターン番号1〜4のうちいずれのスイッチングパターンを切り替える場合にも発生する。
【0068】
そこで、制御指令生成部44は、例えば、表2に示すように、基準電圧E
baseの切り替わり時にパターン番号1〜4のスイッチングパターンに中間電圧相Mが用いられる出力ベクトルを追加する。
【表2】
【0069】
表2に示すように、制御指令生成部44は、基準電圧E
baseが最大相電圧Epおよび最小相電圧Enのいずれへ切り替わるか、および、切替タイミングがキャリア波Scの山か谷かに基づいて、スイッチングパターンに追加する出力ベクトルを選択する。なお、キャリア波Scの谷は、例えば、
図7に示すタイミングt10、t20であり、キャリア波Scの山は、例えば、
図7に示すタイミングt15である。
【0070】
例えば、制御指令生成部44は、パターン番号1のスイッチングパターンを用いてPWM制御指令Vo1
*が生成されている場合に、キャリア波Scが山のタイミングで基準電圧E
baseを最大相電圧Epから最小相電圧Enへ切り替えるとする。この場合、制御指令生成部44は、パターン番号3のスイッチングパターンにおいて、その先頭に「anベクトル」を追加する。これにより、制御指令生成部44は、「anベクトル」、「onベクトル」、「anベクトル」、「aベクトル」、「cmベクトル」、「bベクトル」の順に出力ベクトルが出力されるスイッチングパターンによってPWM制御指令Vo1
*を生成する。
【0071】
また、制御指令生成部44は、例えば、パターン番号1のスイッチングパターンを用いてPWM制御指令Vo1
*が生成されている場合に、キャリア波Scが谷のタイミングで基準電圧E
baseが最大相電圧Epから最小相電圧Enへ切り替えるとする。この場合、制御指令生成部44は、パターン番号3のスイッチングパターンにおいて、その先頭に「bpベクトル」を追加したスイッチングパターンによってPWM制御指令Vo1
*を生成する。
【0072】
図15は、キャリア波Scの山のタイミングでスイッチングパターンのパターン番号を1から3へ切り替えた場合の、PWM制御指令Vo1
*および入力相電圧Ep、Em、Enの対応関係を示す図である。
図15に示すように、スイッチングパターンの切り替わりの際のタイミングt15、t16の間、中間相電圧Emが出力される。すなわち、PWM制御指令Vu1
*が最大相電圧Epを示す状態から中間相電圧Emを示す状態になった後、最小相電圧Enを示す状態へ切り替わる。
【0073】
このように、制御指令生成部44は、基準電圧E
baseの切り替わり時に中間電圧相Mが用いられる出力ベクトルをスイッチングパターンに追加することにより、出力相に接続される最大電圧相Pと最小電圧相Nとの間で切り替わることを抑制することができる。
【0074】
なお、制御指令生成部44は、基準電圧E
baseの切り替わり時に中間電圧相Mが用いられる出力ベクトルをスイッチングパターンに追加する処理は、比率演算部52、追加部53および比率調整部54によって行われるが、上述した処理に限定されるものではない。すなわち、スイッチングパターンを切り替える場合に、スイッチングパターンの先頭または最後に中間電圧相Mを含む出力ベクトルの比率を追加し、その他の出力ベクトルの比率を調整する構成であればよい。
【0075】
[4.3.出力電圧の領域変化の許可制限]
制御指令生成部44は、ゼロベクトル出力中のみ出力電圧の領域変化を許可することができる。かかる処理は、例えば、制御指令生成部44の切替部51によって行われる。これにより、出力相に接続される最大電圧相Pと最小電圧相Nとの間で切り替わることを抑制して、段階的に3レベルで変化させることができる。なお、ゼロベクトルは、上述した「onベクトル」、「omベクトル」または「opベクトル」であり、U相、V相およびW相がすべて同一の入力相に接続されている状態を示す。
【0076】
ここで、出力電圧の領域は、出力相電圧Vu、Vv、Vwの大小関係が維持される状態であり、例えば、切替部51は、出力電圧指令Vu
*、Vv
*、Vw
*に基づいて出力相電圧Vu、Vv、Vwの大小関係を判定する。出力電圧の領域は、例えば、以下の表3に示すように、6つの領域A〜領域F(
図5参照)に分かれる。なお、下記表3では、出力電圧指令Vu
*、Vv
*、Vw
*のうち、電圧が高い順にP1、P2、P3として表している。
【表3】
【0077】
切替部51は、例えば、Vu
*>Vv
*>Vw
*の状態である場合、A領域にあると判定し、判定結果を比率演算部52へ通知する。比率演算部52は、切替部51から通知される領域に基づいて、各出力相に対する出力ベクトルの比率(以下、ベクトル比率と記載する場合がある)を演算する。例えば、切替部51が出力電圧の領域がA領域であると判定したとする。この場合、比率演算部52は、例えば、パターン番号1のスイッチングパターンにより
図7に示すようなPWM制御指令Vo1
*を生成する。また、比率演算部52は、例えば、パターン番号2のスイッチングパターンにより、
図7におけるVu
*とVv
*とが入れ替わったようなPWM制御指令Vo1
*を生成する。
【0078】
ここで、例えば、基準電圧E
baseがEpの状態であり、キャリア波Scの山の直前で、出力電圧指令Vu
*、Vv
*、Vw
*の大小関係が、Vu
*>Vv
*>Vw
*の状態からVv
*>Vu
*>Vw
*の状態に切り替わるとする。
図16は、キャリア波Scの山の直前で、Vu
*>Vv
*>Vw
*の状態からVv
*>Vu
*>Vw
*の状態に切り替わる際に、スイッチングパターンをそのまま切り替えた場合のPWM制御指令Vu1
*、Vv1
*、Vw1
*と入力相電圧Ep、Em、Enとの対応関係を示す図である。
【0079】
この場合、空間ベクトルにおけるA領域からB領域へ切り替えると、
図16に示すように、キャリア波Scの山のタイミングt15において、PWM制御指令Vu1
*は、最大相電圧Epから最小相電圧Enへの接続を示す状態へ切り替わり、また、PWM制御指令Vv1
*が最小相電圧Enから最大相電圧Epへの接続を示す状態へ切り替わる。そのため、出力相電圧Vu、Vvは最大相電圧Epと最小相電圧Enとの間で切り替わり、中間相電圧Emは出力されない。
【0080】
そこで、切替部51は、ゼロベクトル出力中のみ出力電圧の領域変化を許可することにより、出力相に接続される最大電圧相Pと最小電圧相Nとの間での切り替わることを抑制して、段階的に3レベルで変化させることができる。
【0081】
例えば、切替部51は、パターン番号1、2のスイッチングパターンであれば、比率演算部52に対しキャリア波Scの谷のタイミングで領域の切り替わりを通知し、キャリア波Scの山のタイミングでは領域の切り替わりを通知しない。また、切替部51は、パターン番号3、4のスイッチングパターンであれば、比率演算部52に対しキャリア波Scの山のタイミングで領域の切り替わりを通知し、キャリア波Scの谷のタイミングでは領域の切り替わりを通知しない。
【0082】
図17は、出力電圧指令Vu
*、Vv
*、Vw
*の大小関係が変化する際に、ゼロベクトル出力中のみ出力電圧の領域変化を許可する場合のPWM制御指令Vu1
*、Vv1
*、Vw1
*と入力相電圧Ep、Em、Enとの対応関係を示す図である。
図17は、基準電圧E
baseがEpの状態であり、キャリア波Scの山のタイミングt15の直前で、Vu
*>Vv
*>Vw
*の状態からVv
*>Vu
*>Vw
*の状態へ切り替わる場合の例を示す。キャリア波Scの山のタイミングt15における出力ベクトルは、「aベクトル」であり、ゼロベクトルではないため、
図17に示すように、切替部51は、空間ベクトルのA領域からB領域への切り替えを行わない。
【0083】
このように、制御指令生成部44は、タイミングt15で、出力電圧指令Vu
*、Vv
*、Vw
*の大小関係がVv
*>Vu
*>Vw
*の状態ではなく、Vu
*>Vv
*>Vw
*の状態であるものとして、PWM制御指令Vu1
*、Vv1
*、Vw1
*を生成して出力する。これにより、出力相に接続される最大電圧相Pと最小電圧相Nとの間で切り替わることを抑制することができる。
【0084】
なお、上述においては、切替部51がゼロベクトル出力中のみ出力電圧の領域変化を許可するものとして説明したが、かかる切替部51は、例えば、比率演算部52に設けてもよく、
図11に示す構成に限定されるものではない。
【0085】
[4.4.ベクトル比率の演算]
制御指令生成部44は、上述したような下限値T
minの設定や出力ベクトルの追加の際に、各出力ベクトルの比率を調整することができ、これにより、出力電圧の精度を向上させることができる。以下、スイッチングパターンにおける出力ベクトルの比率調整について説明する。
【0086】
比率演算部52は、パターン番号1のスイッチングパターンの場合、例えば、下記式(5)〜(9)の演算式を用いて、キャリア波Scの谷から山までのキャリア半周期におけるベクトル比率T
op、T
bp、T
b、T
cm、T
aを求める。ベクトル比率T
op、T
bp、T
b、T
cm、T
aは、それぞれ、「opベクトル」、「bpベクトル」、「bベクトル」、「cmベクトル」および「aベクトル」の比率である。
T
a=|Va|/(dE
max+dE
mid×α) ・・・(5)
T
bp=α(|Va|+|Vb|)/(dE
max+dE
mid×α)・・・(6)
T
b=(|Va|−α|Vb|)/(dE
max+dE
mid×α) ・・・(7)
T
cm=α|Va|/(dE
max+dE
mid×α) ・・・(8)
T
op=1−(T
bp+T
b+T
cm+T
a) ・・・(9)
【0087】
なお、dE
max、dE
midおよびdE
minは、以下の式(10)〜(14)により求められる。なお、基準電圧E
baseがEpの場合、例えば、下記式(11)、(13)に基づいてdE
midおよびdE
minを求め、例えば、基準電圧E
baseがEnの場合、下記式(12)、(14)に基づいてdE
midおよびdE
minを求める。
dE
max=Ep−En ・・・(10)
dE
mid=Ep−Em ・・・(11)
dE
mid=Em−En ・・・(12)
dE
min=Em−En ・・・(13)
dE
min=Ep−Em ・・・(14)
【0088】
比率演算部52によってベクトル比率T
op、T
bp、T
b、T
cm、T
aが算出された後、比率調整部54は、ベクトル比率の調整処理を行う。例えば、比率調整部54は、比率演算部52から通知されたベクトル比率T
bp、T
cmが下限値T
minよりも小さい場合、ベクトル比率T
bp、T
cmを下限値T
minに再設定する。下限値T
minに再設定したベクトル比率T
bp、T
cmを以下においてベクトル比率T
bp’、T
cm’と記載する。
【0089】
ベクトル比率T
bp、T
cmを下限値T
minに再設定すると、「bpベクトル」と「cmベクトル」が増加することになるため、出力電圧指令Vo
*で規定する電圧よりも出力電圧Voが大きくなるおそれがある。
【0090】
そこで、比率調整部54は、例えば、下記式(15)〜(17)の演算式を用いて、ベクトル比率T
a、T
b、T
opを調整する。なお、下記式(15)〜(17)では、調整後のベクトル比率T
a、T
b、T
opをベクトル比率T
a’、T
b’、T
op’で表している。また、ベクトル比率T
cm’のベクトル比率T
cmからの増加分をΔT
cmとし、ベクトル比率T
bp’のベクトル比率T
bpからの増加分をΔT
bpとしている。
T
a’=T
a−dE
mid×ΔT
cm/dE
max ・・・(15)
T
b’=T
b−(dE
mid×ΔT
bp+dE
min×ΔT
cm)/dE
max ・・・(16)
T
op’=1−(T
bp’+T
b’+T
cm’+T
a’) ・・・(17)
【0091】
このように、ベクトル比率T
a、T
b、T
opを調整することにより、ベクトル比率T
bp、T
cmを下限値T
minに再設定したことによる影響を抑え、出力電圧を精度良く出力することができる。制御指令出力部55は、ベクトル比率T
a’、T
bp’、T
b’、T
cm’、T
op’に基づいて、PWM制御指令Vo1
*を生成する。例えば、入力相電圧Ep、Em、Enとの対応関係が
図7に示すようなPWM制御指令Vu1
*、Vv1
*、Vw1
*を生成して出力する。
【0092】
また、比率演算部52は、パターン番号2のスイッチングパターンの場合、例えば、下記式(18)〜(22)の演算式を用いて、ベクトル比率T
op、T
bp、T
ap、T
cm、T
aを求める。
T
a=|Va|/(dE
max+dE
mid×α) ・・・ (18)
T
bp=(1+α)|Vb|/(dE
max+dE
mid×α) ・・・(19)
T
ap=(α|Va|−|Vb|)/(dE
max+dE
mid×α)・・・(20)
T
cm=|Vb|/(dE
max+dE
mid×α) ・・・(21)
T
op=1−(T
bp+T
ap+T
cm+T
a) ・・・(22)
【0093】
比率演算部52によってベクトル比率T
op、T
bp、T
ap、T
cm、T
aが算出された後、比率調整部54は、比率演算部52から通知されるベクトル比率T
apが下限値T
minよりも小さい場合、ベクトル比率T
apを下限値T
minに再設定する。下限値T
minに再設定したベクトル比率T
apを以下においてベクトル比率T
ap’と記載する。
【0094】
ベクトル比率T
apを下限値T
minに再設定すると、「apベクトル」が増加することになるため、出力電圧指令Vo
*で規定する電圧よりも出力電圧Voが大きくなるおそれがある。
【0095】
そこで、比率調整部54は、例えば、下記式(23)、(24)の演算式を用いて、ベクトル比率T
a、T
opを調整する。なお、下記式(23)、(24)では、調整後のベクトル比率T
a、T
opをベクトル比率T
a’、T
op’で表している。また、ベクトル比率T
ap’のベクトル比率T
apからの増加分をΔT
apとしている。
T
a’=T
a−dE
mid×ΔT
ap/dE
max ・・・(23)
T
op’=1−(T
bp+T
ap’+T
cm+T
a’) ・・・(24)
【0096】
このように、ベクトル比率T
a、T
opを調整することにより、ベクトル比率T
apを下限値T
minに再設定したことによる影響を抑えることができる。なお、制御指令出力部55は、ベクトル比率T
op’、T
bp、T
ap’、T
cm、T
a’に基づいて、PWM制御指令Vo1
*を生成する。なお、パターン番号3、4に関する出力ベクトルの比率調整についても、パターン番号1、2に関する出力ベクトルの比率調整と同様に、出力ベクトル間での比率調整によって行うことができる。
【0097】
また、比率調整部54は、上述したような出力ベクトルの追加の際にも、各出力ベクトルの比率を調整することができ、これにより、出力電圧の精度を向上させることができる。
【0098】
例えば、比率調整部54は、パターン番号1のスイッチングパターンに「anベクトル」を追加する場合、比率演算部52によって算出されたベクトル比率T
b、T
cm、T
a、T
an、T
onの一部または全部のベクトル比率を調整する。比率調整部54は、追加する「anベクトル」の比率T
anを例えば下限値T
minに設定する。この場合、比率調整部54は、例えば、下記式(25)、(26)の演算式を用いて、ベクトル比率T
a、T
opを調整する。なお、下記式(25)、(26)では、調整後のベクトル比率T
a、T
b、T
opをベクトル比率T
a’、T
op’で表している。
T
a’=T
a−dE
mid×T
an/dE
max ・・・(25)
T
op’=1−(T
an+T
bp+T
b+T
cm+T
a’) ・・・(26)
【0099】
このように、ベクトル比率T
a、T
opを調整することにより、ベクトル比率T
anを追加したことによる影響を抑え、出力電圧を精度良く出力することができる。制御指令出力部55は、ベクトル比率T
an、T
a’、T
bp、T
b、T
cm、T
op’に基づいて、PWM制御指令Vo1
*を生成する。なお、制御指令生成部44は、パターン番号1のスイッチングパターンに「bpベクトル」を追加する場合も、同様にベクトル比率を調整することで、出力電圧を精度良く出力することができる。
【0100】
また、制御指令生成部44は、パターン番号2〜4のスイッチングパターンに「anベクトル」を追加する場合やパターン番号1〜4のスイッチングパターンに「bnベクトル」を追加する場合も、同様に、パターン番号1に関する出力ベクトルの比率調整と同様に、出力ベクトル間での比率調整によって行うことができる。
【0101】
[5.処理フロー]
ここで、PWM演算部22により実行される処理の一例について
図18を参照して具体的に説明する。
図18は、PWM演算部22により実行されるパルス幅演算処理の一例を示すフローチャートである。
【0102】
図18に示すように、PWM演算部22は、出力電圧の領域(表3参照)の切替契機か否かを判定する(ステップS1)。領域の切替契機と判定すると(ステップS1:Yes)、PWM演算部22は、ゼロベクトル出力中であるか否かを判定する(ステップS2)。
【0103】
PWM演算部22は、ゼロベクトル出力中であると判定すると(ステップS2;Yes)、出力電圧の領域を切り替えて(ステップS3)、ステップS4へ移行する。一方、PWM演算部22は、ゼロベクトル出力中ではないと判定した場合(ステップS2;No)、出力電圧の領域を切り替えずにステップS4へ移行する。
【0104】
ステップS4において、PWM演算部22は、基準電圧E
baseが切り替わるか否かを判定する。基準電圧E
baseが切り替わると判定した場合(ステップS4;Yes)、中間電圧相Mに対応する出力ベクトルをスイッチングパターンに追加する(ステップS5)。基準電圧E
baseが切り替わらないと判定した場合(ステップS4;No)、または、ステップS5の処理が終了した場合、PWM演算部22は、出力ベクトルの比率を演算する(ステップS6)。
【0105】
また、PWM演算部22は、出力ベクトルの比率調整が必要か否かを判定する(ステップS7)。例えば、PWM演算部22は、中間電圧相Mに対応する出力ベクトルがスイッチングパターンに追加された場合や、中間電圧相Mに対応する出力ベクトルの比率が下限値T
minよりも小さい場合に、出力ベクトルの比率調整が必要であると判定する。出力ベクトルの比率調整が必要であると判定した場合(ステップS7;Yes)、PWM演算部22は、スイッチングパターンの出力ベクトルの全部または一部の比率を調整する(ステップS8)。
【0106】
出力ベクトルの比率調整が必要ではないと判定した場合(ステップS7;No)、または、ステップS8の処理が終了した場合、PWM演算部22は、出力ベクトルの比率に応じたPWM制御信号Vo1
*を生成する(ステップS9)。転流制御部23は、PWM制御信号Vo1
*に基づき、駆動信号Sgを生成して電力変換部10を制御する(ステップS10)。なお、転流制御部23は、PWM制御指令Vo1
*が変化した場合に、複数のステップを有する所定の転流法によって転流制御処理を行って駆動信号Sgを生成する。
【0107】
以上のように、実施形態に係るマトリクスコンバータ1は、中間電圧の入力相を接続する期間に下限を設けることから、出力相に接続される最大電圧相Pと最小電圧相Nとの間で切り替わることを抑制して、段階的に3レベルで変化させることができる。
【0108】
なお、上述においては、PWM演算部22は、空間ベクトル法により各出力ベクトルの比率を演算したが、キャリア比較法によって各出力ベクトルの比率を演算することもできる。
【0109】
さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。このため、本発明のより広範な態様は、以上のように表しかつ記述した特定の詳細および代表的な実施形態に限定されるものではない。したがって、添付の特許請求の範囲およびその均等物によって定義される総括的な発明の概念の精神または範囲から逸脱することなく、様々な変更が可能である。