(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6331930
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】有機化合物製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 7/148 20060101AFI20180521BHJP
C07C 7/10 20060101ALI20180521BHJP
C07C 9/00 20060101ALI20180521BHJP
C07C 51/487 20060101ALI20180521BHJP
C07C 53/00 20060101ALI20180521BHJP
C11C 1/04 20060101ALI20180521BHJP
【FI】
C07C7/148
C07C7/10
C07C9/00
C07C51/487
C07C53/00
C11C1/04
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-197884(P2014-197884)
(22)【出願日】2014年9月29日
(65)【公開番号】特開2016-69300(P2016-69300A)
(43)【公開日】2016年5月9日
【審査請求日】2017年7月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】特許業務法人青海特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金子 典充
(72)【発明者】
【氏名】松澤 克明
(72)【発明者】
【氏名】田中 浩
(72)【発明者】
【氏名】武藤 潤
【審査官】
福山 則明
(56)【参考文献】
【文献】
特公昭47−025325(JP,B1)
【文献】
特表2013−540847(JP,A)
【文献】
特表2002−522627(JP,A)
【文献】
特開2004−143150(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 1/00−409/44
C12P 1/00− 41/00
C11B 1/00− 15/00
C11C 1/00− 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素および脂肪酸を少なくとも含有する藻類から、炭化水素を分離して炭化水素含有分離物を製造する有機化合物製造方法であって、
前記藻類にアルカリおよびアルコールを添加して前記脂肪酸を中和するアルカリ処理を遂行し、
前記アルカリ処理を遂行することで得られたアルカリ処理後溶液を加熱してアルコールを除去するアルコール除去処理を遂行し、
前記アルコール除去処理を遂行することで得られたアルコール除去後溶液を水相と油相とに分離する分離処理を遂行することを特徴とする有機化合物製造方法。
【請求項2】
前記藻類には、グリセリドが含有されており、
前記グリセリドは、前記アルカリ処理において鹸化されることを特徴とする請求項1に記載の有機化合物製造方法。
【請求項3】
前記アルコール除去処理を遂行した後であって、前記分離処理を遂行する前に、前記アルコール除去後溶液に疎水性溶媒を添加して、該アルコール除去後溶液中の炭化水素を該疎水性溶媒に溶解させて抽出する溶媒抽出処理を遂行し、
前記分離処理では、前記溶媒抽出処理で得られた抽出溶液を水相と油相とに分離することを特徴とする請求項1または2に記載の有機化合物製造方法。
【請求項4】
前記アルカリ処理において添加されるアルコールは、前記分離処理で分離された水相から得られるグリセリンであることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の有機化合物製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化水素および脂肪酸を少なくとも含有する原料から、炭化水素を抽出して炭化水素含有分離物を製造する、または、脂肪酸を抽出して脂肪酸含有分離物を製造する有機化合物製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、炭化水素およびグリセリドを含む原料から炭化水素を分離する技術として、原料にアルカリとアルコールとを含む水溶液を添加して鹸化し、鹸化溶液を得る鹸化処理、鹸化溶液に水と疎水性溶媒とを添加して、炭化水素(不鹸化物)を油相(疎水性溶媒の相)に溶解させ、脂肪酸塩を水相(水溶液の相)に溶解させる溶媒抽出処理、油相と水相とに分離する分離処理を遂行する技術が開示されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2013−508495号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した特許文献1の技術では、溶媒抽出処理において、鹸化処理で添加したアルコールによってエマルションが生じ、油相および水相が形成されなくなってしまうおそれがあった。
【0005】
そこで本発明は、このような課題に鑑み、アルコールを添加して鹸化処理を遂行する場合であっても、水相と油相とを安定して形成させることができる有機化合物製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の有機化合物製造方法は、炭化水素および脂肪酸を少なくとも含有する
藻類から、炭化水素を分離して炭化水素含有分離物を製造す
る有機化合物製造方法であって、前記
藻類にアルカリおよびアルコールを添加して前記脂肪酸を中和するアルカリ処理を遂行し、前記アルカリ処理を遂行することで得られたアルカリ処理後溶液を加熱してアルコールを除去するアルコール除去処理を遂行し、前記アルコール除去処理を遂行することで得られたアルコール除去後溶液を水相と油相とに分離する分離処理を遂行することを特徴とする。
【0007】
また、前記
藻類には、グリセリドが含有されており、前記グリセリドは、前記アルカリ処理において鹸化されるとしてもよい。
【0008】
また、前記アルコール除去処理を遂行した後であって、前記分離処理を遂行する前に、前記アルコール除去後溶液に疎水性溶媒を添加して、該アルコール除去後溶液中の炭化水素を該疎水性溶媒に溶解させて抽出する溶媒抽出処理を遂行し、前記分離処理では、前記溶媒抽出処理で得られた抽出溶液を水相と油相とに分離するとしてもよい。
【0009】
また、前記アルカリ処理において添加されるアルコールは、前記分離処理で分離された水相から得られるグリセリンであるとしてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、アルコールを添加して鹸化処理を遂行する場合であっても、水相と油相とを安定して形成させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】有機化合物製造方法の処理の流れを説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0013】
本実施形態では、炭化水素、脂肪酸、グリセリドを産生する藻類から炭化水素を分離して炭化水素含有分離物を製造する有機化合物製造方法を例に挙げて説明する。ここで、炭化水素、脂肪酸、グリセリドを産生する藻類は、例えば、ボツリオコッカス属に属する藻類(例えば、Botryococcus braunii)である。
【0014】
図1は、有機化合物製造方法の処理の流れを説明するためのフローチャートである。
図1に示すように、本実施形態にかかる有機化合物製造方法は、アルカリ処理S110、アルコール除去処理S120、溶媒抽出処理S130、分離処理S140を含む。以下、有機化合物製造方法の各処理について詳述する。
【0015】
(アルカリ処理S110)
アルカリ処理S110では、炭化水素、脂肪酸、および、グリセリドを含有する原料に、アルカリおよびアルコールを添加する。具体的に説明すると、アルカリ処理S110では、アルコールまたはアルコールの水溶液に、アルカリを添加し、攪拌して混合する。そして、アルコールとアルカリの混合物を、例えば60℃〜100℃に予熱された原料に混合し、60℃〜100℃の温度環境下で30分〜8時間攪拌する。
【0016】
アルカリ処理S110を遂行することにより、アルカリによってグリセリドが鹸化されて脂肪酸塩とグリセリンが生成されるとともに、アルカリによって脂肪酸が中和されて脂肪酸塩が生成されることとなる。
【0017】
かかるアルカリ処理S110においては、アルコールを添加することにより、アルカリと原料とを効率よく混合することができる。
【0018】
ここで、アルカリは、例えば、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)、水酸化カルシウム(Ca(OH)
2)の群から選択される1または複数であり、好ましくは、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムのいずれか一方または両方である。水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムのいずれか一方または両方は、溶解性に優れているため、これらを用いることにより、グリセリドを効率よく鹸化したり、脂肪酸を効率よく中和したりすることができる。
【0019】
また、アルコールは、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、ブタノール、グリセリンの群から選択される1または複数であり、好ましくは、エタノールおよび2−プロパノールのいずれか一方または両方である。エタノールおよび2−プロパノールのいずれか一方または両方は、反応性および分離性に優れているため、これらを用いることにより、アルカリと原料とを効率よく混合することができる。
【0020】
なお、エステル化が進行し、生じたエステルが鹸化される条件(例えば、アルコールとしてメタノールを添加して温度を50℃〜100℃に維持する)でアルカリ処理S110を遂行してもよい。
【0021】
(アルコール除去処理S120)
アルコール除去処理S120では、アルカリ処理S110を遂行することで得られたアルカリ処理後溶液(炭化水素、脂肪酸塩、グリセリン、水、アルコールを含有)を加熱してアルコールを除去する。
【0022】
具体的に説明すると、アルコール除去処理S120では、アルカリ処理S110で添加したアルコールの沸点または沸点近傍までアルカリ処理後溶液を加熱する。加熱温度は、例えば、40℃〜150℃であり、好ましくは、60℃〜120℃である。また、アルコール除去処理S120を666Pa〜101.3kPa、好ましくは、2.7kPa〜101.3kPaの圧力環境下で遂行してもよい。
【0023】
(溶媒抽出処理S130)
溶媒抽出処理S130では、アルコール除去処理S120を遂行することで得られたアルコール除去後溶液(炭化水素、脂肪酸塩、グリセリン、水を含有)に疎水性溶媒を添加して、アルコール除去後溶液中の炭化水素を疎水性溶媒に溶解させて抽出する。つまり、油相(疎水性溶媒の相)に炭化水素を溶解させ、水相(水溶液の相)に脂肪酸塩およびグリセリンを溶解させる。具体的に説明すると、溶媒抽出処理S130では、アルコール除去後溶液に、疎水性溶媒を添加し、例えば、30℃〜100℃、好ましくは、60℃〜100℃に維持して、攪拌、混合する。これにより、エマルションが発生した場合にエマルションを不安定化し、油相へ溶解した炭化水素、水相へ溶解した脂肪酸塩およびグリセリンの分離を効率よく遂行させることができる。
【0024】
ここで、疎水性溶媒は、例えば、n−ヘキサン、ベンゼン、トルエン、ジエチルエーテル、アセトン、酢酸エチルの群から選択される1または複数であり、好ましくは、n−ヘキサンである。疎水性溶媒として、n−ヘキサンを用いることにより、不純物の溶解量(抽出量)を削減し、効率よく炭化水素を溶解させることができる。
【0025】
(分離処理S140)
分離処理S140では、溶媒抽出処理S130で得られた抽出溶液を水相と油相とに分離する。なお、水相と油相との分離は、油水分離によって為されても、蒸留によって為されてもよい。
【0026】
こうして、油相は、脂肪酸塩とグリセリンを含まない(脂肪酸とグリセリドを含まない)炭化水素を含有する炭化水素含有分離物となり、水相は、炭化水素を含まない脂肪酸塩とグリセリンとを含む抽出物となる。
【0027】
以上説明したように、本実施形態にかかる有機化合物製造方法によれば、分離処理S140を遂行する前に、アルコール除去処理S120を遂行することにより、分離処理S140においてエマルションが生じる事態を回避することができ、水相と油相とを安定して形成させることが可能となる。これにより、炭化水素含有分離物の製造効率を向上させることができる。
【0028】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0029】
例えば、上記実施形態において、藻類から炭化水素を分離して炭化水素含有分離物を製造する有機化合物製造方法を例に挙げて説明した。しかし、原料は、藻類もしくは藻類由来物に限らず、少なくとも炭化水素および脂肪酸が含有されていればよい。また、原料に含まれる炭化水素は、脂肪族炭化水素であってもよいし、芳香族炭化水素であってもよい。
【0030】
また、上記実施形態において、原料から炭化水素含有分離物を製造する場合を例に挙げて説明した。しかし、原料から脂肪酸含有分離物を製造することもできる。この場合、分離処理S140で得られた水相に、カルボン酸(脂肪酸)より強酸の塩を添加して脂肪酸を遊離させ、油相(脂肪酸含有分離物)と、水相とを分離することで、脂肪酸含有分離物を製造することができる。かかる構成によっても、分離処理S140を遂行する前に、アルコール除去処理S120を遂行することにより、分離処理S140においてエマルションが生じる事態を回避することができ、脂肪酸含有分離物の製造効率を向上させることが可能となる。なお、水相と油相との分離は、油水分離によって為されても、蒸留によって為されてもよい。
【0031】
また、上記実施形態において、炭化水素および脂肪酸に加えて、グリセリドを含有する原料から炭化水素を分離して炭化水素含有分離物を製造する有機化合物製造方法を例に挙げて説明した。しかし、原料に必ずしもグリセリドが含有されている必要はなく、原料には、少なくとも炭化水素および脂肪酸が含有されていればよい。この場合、アルカリ処理S110では、鹸化は進行されず、中和のみが進行することとなる。
【0032】
また、上記実施形態において、原料には、炭化水素および脂肪酸以外の疎水性溶媒が含有されていない場合を例に挙げて説明した。しかし、炭化水素および脂肪酸以外の疎水性溶媒が原料に含有されている場合、溶媒抽出処理S130を省略することもできる。この場合、分離処理S140では、アルコール除去処理S120を遂行することで得られたアルコール除去後溶液(炭化水素、脂肪酸塩、グリセリン、水、疎水性溶媒を含有)を水相と油相とに分離することとなる。
【0033】
また、上記実施形態のアルカリ処理S110において、分離処理S140で分離された水相から得られるグリセリンをアルコールとして添加してもよい。これにより、アルカリ処理S110において添加するアルコールのコストを低減することが可能となる。
【0034】
また、上記実施形態の分離処理S140においてエマルションが生じた場合、ナトリウム、カリウム、カルシウムの硫酸塩、ナトリウム、カリウム、カルシウムの塩化物といった塩を添加したり、加熱したりしてもよい。こうして、水相と油相とを安定して形成させることができる。
【0035】
なお、本明細書の有機化合物製造方法の各処理は、必ずしもフローチャートとして記載された順序に沿って時系列に処理する必要はない。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、炭化水素および脂肪酸を少なくとも含有する原料から、炭化水素を抽出して炭化水素含有分離物を製造する、または、脂肪酸を抽出して脂肪酸含有分離物を製造する有機化合物製造方法に利用することができる。
【符号の説明】
【0037】
S110 アルカリ処理
S120 アルコール除去処理
S130 溶媒抽出処理
S140 分離処理