特許第6331982号(P6331982)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6331982磁石用成形体、磁性部材、磁石用成形体の製造方法、及び磁性部材の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6331982
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】磁石用成形体、磁性部材、磁石用成形体の製造方法、及び磁性部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/059 20060101AFI20180521BHJP
   C22C 33/02 20060101ALI20180521BHJP
   B22F 1/00 20060101ALI20180521BHJP
   B22F 3/00 20060101ALI20180521BHJP
   B22F 3/11 20060101ALI20180521BHJP
   B22F 9/00 20060101ALI20180521BHJP
   B22F 9/04 20060101ALI20180521BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20180521BHJP
   C22C 1/08 20060101ALI20180521BHJP
   C23C 8/28 20060101ALI20180521BHJP
   C23C 8/26 20060101ALI20180521BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20180521BHJP
【FI】
   H01F1/059 160
   C22C33/02 H
   B22F1/00 D
   B22F3/00 C
   B22F3/11 A
   B22F9/00 C
   B22F9/04 C
   C22C38/00 303D
   C22C1/08 Z
   C23C8/28
   C23C8/26
   H01F41/02 G
【請求項の数】11
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-229352(P2014-229352)
(22)【出願日】2014年11月11日
(65)【公開番号】特開2016-92378(P2016-92378A)
(43)【公開日】2016年5月23日
【審査請求日】2017年6月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 宏
(72)【発明者】
【氏名】嶋内 一誠
(72)【発明者】
【氏名】前田 徹
(72)【発明者】
【氏名】永沢 基
【審査官】 五貫 昭一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平6−20813(JP,A)
【文献】 特開2005−268718(JP,A)
【文献】 特開2006−59994(JP,A)
【文献】 特開2006−60049(JP,A)
【文献】 特開2009−88121(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/057742(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/059
B22F 1/00
B22F 3/00
B22F 3/11
B22F 9/00
B22F 9/04
C22C 1/08
C22C 33/02
C22C 38/00
C23C 8/26
C23C 8/28
H01F 41/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類元素と鉄とを含む希土類−鉄系合金の粒子を複数有する希土類−鉄系合金粉末が圧縮成形された磁石用成形体であって、
前記希土類−鉄系合金は、以下の構成(a)〜(c)を満たし、
5体積%以上20体積%以下の空隙が形成されている磁石用成形体。
(a)10質量%以上30質量%以下のSmと10質量%以下のMnとを含み、残部がFe及び不可避的不純物からなる組織を有する
(b)組成がSmMnFe17−x(x=0.1以上2.5以下)
(c)平均結晶粒径が700nm以下
【請求項2】
前記希土類−鉄系合金の酸素濃度が質量割合で2500ppm以下である請求項1に記載の磁石用成形体。
【請求項3】
前記磁石用成形体の厚みが1mm以上である請求項1又は請求項2に記載の磁石用成形体。
【請求項4】
希土類元素と鉄と窒素とを含む希土類−鉄−窒素系合金の粒子を複数有する希土類−鉄−窒素系合金粉末が圧縮成形された磁性部材であって、
前記希土類−鉄−窒素系合金は、以下の構成(a)〜(c)を満たし、
5体積%以上20体積%以下の空隙が形成されている磁性部材。
(a)10質量%以上30質量%以下のSmと10質量%以下のMnと2質量%以上7質量%以下の窒素とを含み、残部がFe及び不可避的不純物からなる組織を有する
(b)組成がSmMnFe17−x(x=0.1以上2.5以下、y=1.9以上6.8以下)
(c)平均結晶粒径が700nm以下
【請求項5】
保磁力が635kA/m以上である請求項4に記載の磁性部材。
【請求項6】
希土類元素と鉄とを含む希土類−鉄系合金薄片を準備する準備工程と、
前記希土類−鉄系合金薄片を酸素濃度が1体積%以下の雰囲気中で機械的に粉砕して希土類−鉄系合金粉末を作製する粉砕工程と、
前記希土類−鉄系合金粉末を水素を含む雰囲気中で不均化温度以上の温度で水素化処理して水素化粉末を作製する水素化工程と、
前記水素化粉末を490MPa以上の加圧力で圧縮成形して粉末成形体を作製する成形工程と、
前記粉末成形体を不活性雰囲気中又は減圧雰囲気中で再結合温度以上の温度で脱水素処理して磁石用成形体を作製する脱水素工程とを備え、
前記希土類−鉄系合金は、10質量%以上30質量%以下のSmと10質量%以下のMnとを含み、残部がFe及び不可避的不純物からなる組織を有し、かつ組成がSmMnFe17−x(x=0.1以上2.5以下)である磁石用成形体の製造方法。
【請求項7】
前記水素化粉末は、
Smの水素化合物の相と、Mn及びFeを含む鉄含有物の相とが隣接して存在しており、
前記Smの水素化合物の相はSmHを含み、その相の形状が粒状であり、
前記鉄含有物の相を介して隣り合う前記Smの水素化合物の相間の間隔が3μm以下である請求項6に記載の磁石用成形体の製造方法。
【請求項8】
前記希土類−鉄系合金粉末のD50粒径が50μm以上350μm以下である請求項6又は請求項7に記載の磁石用成形体の製造方法。
【請求項9】
請求項6〜請求項8のいずれか1項に記載の磁石用成形体の製造方法により製造された磁石用成形体を、窒素含有雰囲気中で窒化温度以上の温度で窒化処理する窒化工程を備える磁性部材の製造方法。
【請求項10】
前記窒素含有雰囲気は、NHガス雰囲気、NHガスとHガスとの混合ガス雰囲気、Nガス雰囲気、及びNガスとHガスとの混合ガス雰囲気のいずれかの雰囲気である請求項9に記載の磁性部材の製造方法。
【請求項11】
前記窒化処理は、
温度を300℃以上550℃以下とし、
保持時間を10min以上2000min以下とする請求項9又は請求項10に記載の磁性部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、永久磁石などに利用される希土類磁石の素材である磁石用成形体、磁石用成形体に窒化処理して得られる磁性部材、磁石用成形体の製造方法、及び磁性部材の製造方法に関する。特に、保磁力に優れる磁性部材が得られる磁石用成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
モータや発電機などの用途に、希土類元素とFeとを含有する希土類−鉄系合金を用いた希土類磁石が広く利用されている。希土類磁石としては、Nd−Fe−B系合金を用いたNd−Fe−B系磁石(ネオジム磁石)が代表的である。ネオジム磁石は、主に希土類−鉄系合金の粉末を焼結した焼結磁石や、合金粉末をバインダ樹脂で固化したボンド磁石として使用されている。ネオジム磁石以外では、Sm−Fe系合金を原料とし、これを窒化したSm−Fe−N系合金を用いたSm−Fe−N系磁石(サマリウム鉄窒素磁石)が実用化されている。サマリウム鉄窒素磁石は、一般にボンド磁石として使用されている。
【0003】
最近では、焼結磁石やボンド磁石以外の希土類磁石として、粉末を圧縮成形した圧粉磁石が開発されている(特許文献1)。この特許文献1では、準備工程→造粒工程→成形工程→脱水素工程→窒化工程、を経て磁性部材を製造し、この磁性部材を希土類磁石の素材に用いている。準備工程では、原料粉末としてナノ鉄粉と多相粉末とを用意する。この多相粉末は、希土類−鉄系合金粉末を不均化温度以上で水素化(HD:Hydrogenation−Disproportionation)処理して得られる。造粒工程では、原料粉末とバインダとを混合して造粒粉を形成する。成形工程では、造粒粉を加圧成形して第一成形体を形成する。脱水素工程では、第一成形体を再結合温度以上で脱水素(DR:Desorption−Recombination)処理して第二成形体を形成する。窒化工程では、第二成形体に、窒素元素を含む雰囲気中で窒化温度以上の温度で窒化処理して複合磁性材を形成する。この特許文献1では、上記希土類−鉄系合金粉末として、平均粒径が30μmのSm(MnFe11)を用いている(明細書0152)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−253247号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
更なる保磁力の向上が望まれている。
【0006】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、その目的の一つは、保磁力の高い磁性部材が得られる磁石用成形体を提供することにある。
【0007】
本発明の別の目的は、保磁力の高い磁性部材を提供することにある。
【0008】
本発明の他の目的は、上記磁石用成形体が得られる磁石用成形体の製造方法を提供することにある。
【0009】
本発明の更に別の目的は、上記磁性部材が得られる磁性部材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様に係る磁石用成形体は、希土類元素と鉄とを含む希土類−鉄系合金の粒子を複数有する希土類−鉄系合金粉末が圧縮成形された磁石用成形体であって、希土類−鉄系合金は、以下の構成(a)〜(c)を満たし、5体積%以上20体積%以下の空隙が形成されている。
(a)10質量%以上30質量%以下のSmと10質量%以下のMnとを含み、残部がFe及び不可避的不純物からなる組織を有する
(b)組成がSmMnFe17−x(x=0.1以上2.5以下)
(c)平均結晶粒径が700nm以下
【0011】
本発明の一態様に係る磁性部材は、希土類元素と鉄と窒素とを含む希土類−鉄−窒素系合金の粒子を複数有する希土類−鉄−窒素系合金粉末が圧縮成形された磁性部材であって、希土類−鉄−窒素系合金は、以下の構成(a)〜(c)を満たし、5体積%以上20体積%以下の空隙が形成されている。
(a)10質量%以上30質量%以下のSmと10質量%以下のMnと2質量%以上7質量%以下の窒素とを含み、残部がFe及び不可避的不純物からなる組織を有する
(b)組成がSmMnFe17−x(x=0.1以上2.5以下、y=1.9以上6.8以下)
(c)平均結晶粒径が700nm以下
【0012】
本発明の一態様に係る磁石用成形体の製造方法は、準備工程と粉砕工程と水素化工程と成形工程と脱水素工程とを備える。準備工程は、希土類元素と鉄とを含む希土類−鉄系合金薄片を準備する。粉砕工程は、希土類−鉄系合金薄片を酸素濃度が1体積%以下の雰囲気中で機械的に粉砕して希土類−鉄系合金粉末を作製する。水素化工程は、希土類−鉄系合金粉末を水素を含む雰囲気中で不均化温度以上の温度で水素化処理して水素化粉末を作製する。成形工程は、水素化粉末を490MPa以上の加圧力で圧縮成形して粉末成形体を作製する。脱水素工程は、粉末成形体を不活性雰囲気中又は減圧雰囲気中で再結合温度以上の温度で脱水素処理して磁石用成形体を作製する。そして、希土類−鉄系合金は、10質量%以上30質量%以下のSmと10質量%以下のMnとを含み、残部がFe及び不可避的不純物からなる組織を有し、かつその組成がSmMnFe17−x(x=0.1以上2.5以下)である。
【0013】
本発明の一態様に係る磁性部材の製造法は、上記磁石用成形体の製造方法により製造された磁石用成形体を、窒素含有雰囲気中で窒化温度以上の温度で窒化処理する窒化工程を備える。
【発明の効果】
【0014】
上記磁石用成形体は、保磁力の高い磁性部材が得られる。
【0015】
上記磁性部材は、保磁力が高い。
【0016】
上記磁石用成形体の製造方法は、保磁力の高い磁性部材が得られる磁石用成形体を製造できる。
【0017】
上記磁性部材の製造方法は、保磁力の高い磁性部材を製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
《本発明の実施形態の説明》
本発明者らは、保磁力の更なる向上のため、SmとFeとを含む希土類−鉄系合金に着目し、その組成や組織を鋭意検討した。その結果、特定の元素を特定の含有量で、かつ特定の組成比を満たし、更に特定サイズの結晶組織を有する希土類−鉄系合金が、保磁力の向上に寄与するとの知見を得た。この希土類−鉄系合金の粉末を用いた磁石用成形体について更なる検討を続けた結果、保磁力の向上には、特定の相対密度とすることが特に効果的であるとの知見も得た。本発明は、これらの知見に基づくものである。最初に本発明の実施態様を列記して説明する。
【0019】
(1)本発明の一態様に係る磁石用成形体は、希土類元素と鉄とを含む希土類−鉄系合金の粒子を複数有する希土類−鉄系合金粉末が圧縮成形された磁石用成形体であって、希土類−鉄系合金は以下の構成(a)〜(c)を満たし、5体積%以上20体積%以下の空隙が形成されている。
(a)10質量%以上30質量%以下のSmと10質量%以下のMnとを含み、残部がFe及び不可避的不純物からなる組織を有する
(b)組成がSmMnFe17−x(x=0.1以上2.5以下)
(c)平均結晶粒径が700nm以下
【0020】
上記の構成によれば、この成形体を窒化処理することで、保磁力に優れる磁性部材が得られる。この理由は、以下の点が挙げられる。
【0021】
上記構成(a)及び(b)のように、希土類−鉄系合金が所定の量のMnを含むことで、保磁力向上効果が得られるからである。特に、Sm、Mn、及びFeが特定の組成比の希土類−鉄系合金とすることで、その保磁力の向上効果をより一層高め易い。
【0022】
上記構成(c)のように、希土類−鉄系合金の平均結晶粒径を700nm以下とすることで、微細結晶に起因する保磁力の向上効果が期待できるからである。
【0023】
空隙を5体積%以上とすることで、磁石用成形体に窒化処理を施した際、理想的な化学量論組成の希土類−鉄−窒素系合金(SmMnFe17-x:x=0.1以上2.5以下、y=1.9以上6.8以下)粒子を備える磁性部材を得易いからである。窒素の流通経路を確保し易いため、この磁石用成形体に窒化処理を施した際、磁石用成形体を構成する各希土類−鉄系合金(SmMnFe17−x:x=0.1以上2.5以下)粒子を磁石用成形体の表面部のみならず内部に至るまで窒化し易い。
【0024】
空隙を20体積%以下とすることで、磁石用成形体の相対密度が低くなり過ぎず、密度低下による磁気特性の低下を抑制し易いからである。
【0025】
(2)上記磁石用成形体の一形態として、希土類−鉄系合金の酸素濃度が質量割合で2500ppm以下であることが挙げられる。
【0026】
上記の構成によれば、保磁力の高い磁性部材を得易い。酸素含有量が2500ppm以下であれば、Smの酸化物の生成が少ないので余剰Feが少ない。そのため、窒化処理した際、α−Feの生成を抑制すると共に、各希土類−鉄系合金粒子を窒化して理想的な化学量論組成の希土類−鉄−窒素系合金粒子を備える磁性部材を作製し易いからである。
【0027】
(3)上記磁石用成形体の一形態として、磁石用成形体の厚みが1mm以上であることが挙げられる。
【0028】
上記の構成によれば、窒化処理した際、各希土類−鉄系合金粒子を窒化して理想的な化学量論組成の希土類−鉄−窒素系合金粒子を備える磁性部材を作製し易い。厚み1mm以上の磁石用成形体であっても、空隙率が上述の所定の範囲であることで、磁石用成形体の内部亘って窒素を浸透させ易いからである。
【0029】
(4)本発明の一態様に係る磁性部材は、希土類元素と鉄と窒素とを含む希土類−鉄−窒素系合金の粒子を複数有する希土類−鉄−窒素系合金粉末が圧縮成形された磁性部材であって、希土類−鉄−窒素系合金は、以下の構成(a)〜(c)を満たし、5体積%以上20体積%以下の空隙が形成されている。
(a)10質量%以上30質量%以下のSmと10質量%以下のMnと2質量%以上7質量%以下の窒素とを含み、残部がFe及び不可避的不純物からなる組織を有する
(b)組成がSmMnFe17−x(x=0.1以上2.5以下、y=1.9以上6.8以下)
(c)平均結晶粒径が700nm以下
【0030】
上記の構成によれば、上述のように保磁力の向上効果を高め易い磁石用成形体に窒化処理して得られるため、保磁力に優れる。
【0031】
(5)上記磁性部材の一形態として、保磁力が635kA/m以上であることが挙げられる。
【0032】
上記の構成によれば、保磁力が高く、希土類磁石に好適に利用できる。
【0033】
(6)本発明の一態様に係る磁石用成形体の製造方法は、準備工程と粉砕工程と水素化工程と成形工程と脱水素工程とを備える。準備工程は、希土類元素と鉄とを含む希土類−鉄系合金薄片を準備する。粉砕工程は、希土類−鉄系合金薄片を酸素濃度が1体積%以下の雰囲気中で機械的に粉砕して希土類−鉄系合金粉末を作製する。水素化工程は、希土類−鉄系合金粉末を水素を含む雰囲気中で不均化温度以上の温度で水素化処理して水素化粉末を作製する。成形工程は、水素化粉末を490MPa以上の加圧力で圧縮成形して粉末成形体を作製する。脱水素工程は、粉末成形体を不活性雰囲気中又は減圧雰囲気中で再結合温度以上の温度で脱水素処理して磁石用成形体を作製する。そして、希土類−鉄系合金は、10質量%以上30質量%以下のSmと10質量%以下のMnとを含み、残部がFe及び不可避的不純物からなる組織を有し、かつ組成がSmMnFe17−x(x=0.1以上2.5以下)である。
【0034】
上記の構成によれば、準備工程で、特定の元素を特定の含有量で、かつ特定の組成比を満たす希土類−鉄合金の薄片を準備し、成形工程を特定の加圧力で行うことで、保磁力に優れる磁性部材が得られる磁石用成形体を製造できる。
【0035】
(7)上記磁石用成形体の製造方法の一形態として、水素化粉末は、以下の構成(a)〜(c)を備えることが挙げられる。
(a)Smの水素化合物の相と、Mn及びFeを含む鉄含有物の相とが隣接して存在している。
(b)Smの水素化合物の相はSmHを含み、その相の形状が粒状である。
(c)鉄含有物の相を介して隣り合うSmの水素化合物の相間の間隔が3μm以下である。
【0036】
上記構成(a)及び構成(c)を備えることで、鉄含有物の相が希土類元素の水素化合物の相間に存在し、両相が上記した特定の間隔で存在する組織は、両相が均一的に存在する組織である。そのため、水素化粉末を圧縮成形すると、粒子が均一的に変形するので、成形性を高められる。なお、「希土類元素の水素化合物の相間の間隔」とは、断面において、隣り合う希土類元素の水素化合物の相同士の中心間距離のことである。上記構成(b)を備えることで、希土類元素の水素化合物の相と鉄含有物の相とが積層構造となっている層状形態よりも成形性を高められる。
【0037】
(8)上記磁石用成形体の製造方法の一形態として、希土類−鉄系合金粉末のD50粒径が50μm以上350μm以下であることが挙げられる。
【0038】
上記の構成によれば、圧縮成形に適した粒径で成形性に優れるため、空隙率が上記所定の範囲の磁石用成形体を作製し易い。また、酸化し難いサイズであるため酸素含有量が上記所定の範囲の磁石用成形体を作製し易い。
【0039】
(9)本発明の一態様に係る磁性部材の製造方法は、上記(6)〜(8)のいずれか一つの磁石用成形体の製造方法により製造された磁石用成形体を、窒素含有雰囲気中で窒化温度以上の温度で窒化処理する窒化工程を備える。
【0040】
上記の構成によれば、保磁力の高い磁性部材を製造できる。窒化処理を施す磁石用成形体が、上述したように所定の組成及び所定の平均結晶粒径の希土類−鉄系合金を有し、かつ所定の空隙率が形成されているからである。そのため、SmMnFe17−x(x=0.1以上2.5以下)を窒化して、SmMnFe17−x(x=0.1以上2.5以下、y=1.9以上6.8以下)を形成し易い。
【0041】
(10)上記磁性部材の製造方法の一形態として、窒素含有雰囲気は、NHガス雰囲気、NHガスとHガスとの混合ガス雰囲気、Nガス雰囲気、及びNガスとHガスとの混合ガス雰囲気のいずれかの雰囲気であることが挙げられる。
【0042】
上記の構成によれば、SmMnFe17−x(x=0.1以上2.5以下、y=1.9以上6.8以下)を形成し易い。
【0043】
(11)上記磁性部材の製造方法の一形態として、窒化処理は、温度を300℃以上550℃以下とし、保持時間を10min以上2000min以下とすることが挙げられる。
【0044】
上記の構成によれば、窒化処理を促進し易く、SmMnFe17−x(x=0.1以上2.5以下、y=1.9以上6.8以下)を形成し易い。
【0045】
《本発明の実施形態の詳細》
本発明の実施形態の詳細を説明する。なお、本発明は、これらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0046】
〔実施形態1〕
[磁石用成形体]
実施形態1に係る磁石用成形体は、希土類元素と鉄とを含む希土類−鉄系合金の粒子を複数有する希土類−鉄系合金粉末が圧縮成形されたものである。この磁石用成形体の主たる特徴とするところは、希土類−鉄系合金が特定の元素を含有すると共に、特定の組成比を満たし、更に特定サイズの結晶組織を有する点にある。そうすれば、保磁力に優れる磁性部材が得られる。以下、詳細に説明する。
【0047】
(組成)
希土類−鉄系合金は、サマリウム(Sm)と、残部がマンガン(Mn)及び鉄(Fe)を含む鉄含有元素とからなる希土類−鉄系化合物を有する。Mnは、Feの一部に置換されて存在する。この希土類−鉄系合金は、不可避的不純物の含有を許容する。希土類−鉄系化合物におけるSmの含有量は10質量%以上30質量%以下、更には24質量%以上26.5質量%以下であることが好ましい。希土類−鉄系化合物におけるMnの含有量は10質量%以下が挙げられる。Mnの含有量は1質量%以上が挙げられ、2質量%以上8質量%以下が好ましい。希土類−鉄系化合物におけるFeの含有量はその残りである。この希土類−鉄系化合物の具体的な組成は、SmMnFe17−x(x=0.1以上2.5以下)が挙げられる。
【0048】
(平均結晶粒径)
希土類−鉄系合金の平均結晶粒径は、700nm以下が挙げられる。平均結晶粒径が700nm以下と微細であることで、微細結晶組織に起因する磁気特性(特に保磁力)の向上効果が期待できる。上記平均結晶粒径は、小さいほど単磁区粒子臨界径に近くなり磁気特性に優れる。上記平均結晶粒径は、500nm以下、更に300nm以下が好ましい。平均結晶粒径は、以下のように測定する。希土類−鉄系合金の表面又は断面(観察面)について走査型電子顕微鏡(SEM)観察を行い、観察像から各結晶粒の面積をそれぞれ調べ、各面積の円相当径の平均を平均結晶粒径とする。観察像を用いて算出する際、市販の画像処理ソフトを用いると容易に算出できる。
【0049】
(酸素含有量)
希土類−鉄系合金の酸素含有量は、少ないことが好ましい。酸素含有量が少ないほど、磁石用成形体に窒化処理(後述)を施した際、理想的な化学量論組成の希土類−鉄−窒素系合金(SmMnFe17-x、x=0.1以上2.5以下、y=1.9以上6.8以下)粒子を備える磁性部材を作製し易いからである。この酸素含有量は、質量割合で2500ppm以下が好ましい。酸素含有量が2500ppm以下と微量であることで、保磁力向上効果を高め易い。酸素含有量は質量割合で2000ppm以下が好ましく、1700ppm以下、更には1400ppm以下が好ましく、特に1000ppm以下が好ましい。酸素含有量は、不活性ガス溶融−非分散型赤外線吸収法(NDIR)により求められる。
【0050】
(平均粒径)
希土類−鉄系合金粒子の平均粒径は、50μm以上350μm以下が好ましい。この平均粒径を上記範囲とすることで、所定の空隙率にし易い。また、酸化による磁気特性の劣化を抑制し易い。この平均粒径は、75μm以上250μm以下が特に好ましい。この平均粒径の測定は、SEMで断面の画像を取得し、市販の画像解析ソフトを用いて解析することで行える。その際、円相当径を合金粒子の粒径とする。円相当径とは、粒子の輪郭を特定し、その輪郭で囲まれる面積Sと同一の面積を有する円の径とする。つまり、円相当径=2×{上記輪郭内の面積S/π}1/2で表される。この平均粒径は、後述する粉砕工程で作製した希土類−鉄系合金粉末の平均粒径D50が維持されたものである。
【0051】
(空隙率)
磁石用成形体の空隙率は、5体積%以上20体積%以下が挙げられる。空隙率を5体積%以上とすることで、この磁石用成形体に窒化処理(後述)を施して理想的な化学量論組成の希土類−鉄−窒素系合金(SmMnFe17-x、x=0.1以上2.5以下、y=1.9以上6.8以下)粒子を備える磁性部材を作製し易い。窒素の流通経路を磁石用成形体の内部にまで確保し易いため、この磁石用成形体に窒化処理(後述)を施して磁性部材を作製する際、磁石用成形体を構成する各希土類−鉄系合金(SmMnFe17−x、x=0.1以上2.5以下)粒子を窒化し易いからである。空隙率を20体積%以下とすることで、磁石用成形体の相対密度が低くなり過ぎず、密度低下による磁気特性の低下を抑制し易い。空隙率は、「100−[磁石用成形体の相対密度]」で求められる。相対密度は、真密度に対する実際の密度([磁石用成形体の見かけ密度/磁石用成形体の真密度]の百分率)のことである。
【0052】
(サイズ)
磁石用成形体の厚みは、磁性部材の所望の厚みに応じて適宜選択できる。磁石用成形体の厚みは、例えば、1mm以上とすることができる。磁石用成形体は、厚みが1mm以上であっても窒化処理により理想的な化学量論組成の希土類−鉄−窒素系合金(SmMnFe17-x、x=0.1以上2.5以下、y=1.9以上6.8以下)粒子を備える磁性部材を作製し易い。これは、上述したように所定の空隙率を有することで、窒素の流通経路を確保し易いからである。磁石用成形体の厚みは、0.5mm以上、更には1mm以上、特に5mm以上とすることができ、実用上、凡そ100mm以下とすることが挙げられ、更には70mm以下、特に50mm以下とすることが挙げられる。
【0053】
[磁石用成形体の製造方法]
磁石用成形体の製造は、準備工程と、粉砕工程と、水素化工程と、成形工程と、脱水素工程とを経ることで行える。以下、各工程の詳細を順に説明する。
【0054】
(準備工程)
準備工程では、希土類−鉄系合金薄片を準備する。希土類−鉄系合金は、上述と同様の希土類−鉄系化合物を有する。即ち、希土類−鉄系合金の組成が、10質量%以上30質量%以下のSmと10質量%以下のMnとを含有し残部がFe及び不可避的不純物からなる組織を有し、かつSmMnFe17−x(x=0.1以上2.5)である。
【0055】
希土類−鉄系合金薄片の厚さは1mm以下で、最大長さは100μm以上50mm以下であることが好ましい。厚さが1mm以下で最大長さが100μm以上であることで、後工程の粉砕工程おいて所定の粒径に粉砕し易く、圧縮成形に適した粒径(50μm以上350μm以下)の磁石用粉末を製造し易い。最大長さが50mm以下であることで、後工程の粉砕工程に要する時間を短縮できる。なお、「最大長さ」とは、1つの希土類−鉄系合金薄片を厚さ方向から平面視したとき、希土類−鉄系合金薄片の最も長い部分の長さのことである。
【0056】
希土類−鉄系合金薄片の製造方法は特に問わず、例えば、急冷凝固法などにより製造できる。希土類−鉄系合金を急冷凝固法の一種であるストリップキャスト法により製造すると、上記したサイズの合金薄片が製造し易く好ましい。
【0057】
(粉砕工程)
粉砕工程は、希土類−鉄系合金薄片を機械的に粉砕して希土類−鉄系合金粉末を作製する。この粉砕により希土類−鉄系合金粉末の粒径を目的とする粒径に制御する。粉砕工程では、機械的に粉砕するため、希土類−鉄系合金粉末の粒子の粒径を均一に制御し易い。具体的には、希土類−鉄系合金薄片を所定の粒径に粉砕し、圧縮成形に適した粒径(D50が50μm以上350μm以下)の希土類−鉄系合金粉末を製造することが挙げられる。D50を上記範囲とすることで、所定の空隙率の粉末成形体を作製し易い。また、酸化を抑制し易く、磁気特性の劣化を抑制し易い。D50(50体積%粒径)とは、レーザ回折式粒度分布測定装置により測定した場合において、体積基準の粒度分布の小径側から累積が50%となる粒径値のことである。
【0058】
希土類−鉄系合金薄片を粉砕する装置は、例えば摩砕型粉砕機又は衝突型粉砕機が挙げられる。摩砕型粉砕機は、代表的にはブラウンミルなどが挙げられ、衝突型粉砕機は、代表的にはピンミルなどが挙げられる。これら装置は、希土類−鉄系合金薄片を所定の粒径に粉砕するのに適しており、粒径の制御も容易である。
【0059】
粉砕する際の雰囲気は、希土類−鉄系合金薄片(希土類−鉄系合金粉末)の酸化を抑制するため、酸素濃度が体積割合で1%以下とすることが好ましい。そうすれば、Smの酸化を抑制し易い。そのため、その後の脱水素処理(後述)を施した際、Feが余ることによるα−Feの生成を抑制し易い。Sm酸化物が生成すると、Sm酸化物はその後に残存するため、Feと結合するSmの量が減るからである。そのため、Sm酸化物やα−Feの生成を抑制し易いため、その後の窒化処理(後述)を施した際、窒素の拡散が促進され、保磁力の低下を抑制し易い。この雰囲気を制御することで、後述する水素化粉末の酸素含有量を質量割合で2000ppm以下とすることができ、磁石用成形体の希土類−鉄系合金の酸素含有量を上述したように質量割合で2500ppm以下とすることができる。より好ましい雰囲気中の酸素濃度は体積割合で0.5%以下である。このような雰囲気としては、不活性雰囲気(Ar雰囲気又は窒素雰囲気)又は減圧雰囲気(10Pa以下の真空雰囲気)が挙げられる。
【0060】
(水素化工程)
水素化工程は、希土類−鉄系合金粉末を水素を含む雰囲気中で不均化温度以上の温度で熱処理して水素化処理した水素化粉末を作製する。
【0061】
水素化粉末は、希土類−鉄系化合物が希土類元素の水素化合物の相と、鉄を含有する鉄含有物の相とに相分解した組織を有する。希土類元素の水素化合物は、SmHが挙げられる。鉄含有物の相は、Mn−FeなどFeの一部がMnで置換された鉄化合物の相のみの場合や、その鉄化合物の相と純鉄(Fe)の相との双方を含む場合、その鉄化合物の相と純鉄(Fe)の相と純マンガン(Mn)の相との混相の場合が挙げられる。水素化粉末は、相分解前の希土類−鉄系化合物や希土類元素の水素化合物の相に比較して柔らかい軟質部分である純鉄(Fe)や鉄化合物(Mn−Fe)が存在することから、圧縮成形したときに変形して成形性を高められる。
【0062】
希土類元素の水素化合物の相と鉄含有物の相との存在形態は、鉄含有物の相中に粒状の希土類元素の水素化合物の相が分散して存在する分散形態が挙げられる。分散形態は、希土類元素の水素化合物の相の周囲に鉄含有物の相が均一的に存在することで成形性を高め易い。そのため、円弧状、円筒状、円柱状、ポット形状といった複雑形状の粉末成形体が得られ易い。この存在形態は、後述する水素化処理の際の熱処理条件(主に温度)により制御できる。
【0063】
水素化粉末の各粒子は、10体積%以上40体積%未満の希土類元素の水素化合物の相と、残部がMn及び鉄を含有する鉄含有物の相とからなる組織を有することが好ましい。希土類元素の水素化合物の相を除く残部が実質的に鉄含有物の相であり、鉄含有物の相を主成分(60体積%以上90体積%以下)とすれば、磁石用粉末の成形性を高め易い。希土類元素の水素化合物の相と鉄含有物の相とは隣接して存在しており、かつ鉄含有物の相を介して隣り合う希土類元素の水素化合物の相の間隔は3μm以下が好ましい。鉄含有物の相が希土類元素の水素化合物の相間に存在し、両相が上記した特定の間隔で存在する組織は、両相が均一的に存在する組織であるため、圧縮成形したときに均一的に変形する。
【0064】
上記した間隔の測定は、例えば、断面をエッチングして鉄含有物の相を除去して希土類元素の水素化合物の相を抽出したり、又は溶液の種類によっては希土類元素の水素化合物の相を除去して鉄含有物の相を抽出したり、若しくは断面をEDX(エネルギー分散型X線分光法)により組成分析することで測定できる。上記間隔が3μm以下であると、後で脱水素処理により、希土類元素の水素化合物の相と鉄含有物の相とが元の希土類−鉄系化合物に再結合する際に、過度なエネルギーを投入しなくて済む上に、希土類−鉄系化合物の結晶粒の粗大化による特性の低下を抑制できる。希土類元素の水素化合物の相間に鉄含有物の相が十分に存在するためには、上記間隔は0.5μm以上3μm以下、更に1μm以上3μm以下が好ましい。上記間隔は、例えば、原料に用いる希土類−鉄系合金の組成を調整したり、水素化処理の条件、特に熱処理温度を調整することで制御できる。例えば、希土類−鉄系合金において鉄の比率(原子比)を多くしたり、上記した温度範囲で熱処理温度を高くしたりすると、上記間隔が大きくなる傾向がある。
【0065】
水素化粉末の酸素含有量は、少ないことが好ましい。酸素含有量が少ないほど、磁石用成形体の希土類−鉄系合金の酸素含有量を上述したように質量割合で2500ppm以下とすることができて、保磁力の高い磁性部材を得易い。この酸素含有量は、質量割合で2000ppm以下が好ましく、1700ppm以下がより好ましく、更には1400ppm以下が好ましく、特に1000ppm以下が好ましい。酸素含有量は、不活性ガス溶融−非分散型赤外線吸収法(NDIR)により求められる。
【0066】
水素化処理の条件は、例えば、雰囲気:Hガス雰囲気、又はHガスとArやNなどの不活性ガスとの混合ガス雰囲気、温度:用意した合金の水素不均化温度以上(材質にもよるが、例えば、600℃以上1000℃以下)、保持時間:30分以上300分以下が挙げられる。熱処理の温度を不均化温度+100℃以上といった高めに設定すると、上記両相の存在形態は上記分散形態となる。
【0067】
(成形工程)
成形工程は、水素化粉末を圧縮成形して粉末成形体を作製する。成形には、所望の形状の金型を利用するとよい。
【0068】
水素化粉末への成形圧力は、490MPa以上が挙げられる。成形圧力を490MPa以上とすることで、粉末成形体の相対密度を高められる。この成形圧力は、1500MPa以下が挙げられる。成形圧力を1500MPa以下とすることで、粉末成形体の相対密度が高くなり過ぎず、空隙率が小さくなり過ぎない。即ち、作製した磁石用成形体を窒化処理して磁性部材を作製する際、窒素の流通経路を確保し易く、粉末成形体を構成する各粒子を窒化し易い。そのため、理想的な化学量論組成の希土類−鉄−窒素系合金(SmMnFe17-x、x=0.1以上2.5以下、y=1.9以上6.8以下)粒子を備える磁性部材を作製し易い。この成形圧力は600MPa以上1400MPa以下が好ましく、700MPa以上1300MPa以下が特に好ましい。
【0069】
圧縮成形する際の雰囲気は、水素化粉末(粉末成形体)の酸化を抑制するため、低酸素雰囲気とすることが好ましい。例えば、粉砕工程と同様、酸素濃度が体積割合で1%以下、更には0.5%以下の不活性雰囲気(Ar雰囲気又は窒素雰囲気)又は減圧雰囲気(10Pa以下の真空雰囲気)が好ましい。
【0070】
(脱水素工程)
脱水素工程は、粉末成形体を活性雰囲気中又は減圧雰囲気中で再結合温度以上の温度で熱処理して脱水素処理して磁石用成形体を作製する。粉末成形体を構成する水素化粉末は、水素化処理により希土類元素の水素化合物の相と鉄含有物の相に相分解した状態であり、脱水素処理することで、元の希土類−鉄系化合物に再結合する。
【0071】
脱水素処理の条件は、例えば、雰囲気:非水素雰囲気(ArやNといった不活性ガス雰囲気、又は減圧雰囲気(例えば、標準の大気圧よりも圧力が低い真空雰囲気))、温度:水素化合金の再結合温度以上(材質にもよるが、例えば600℃以上1000℃以下)、保持時間:10分以上600分以下が挙げられる。特に、減圧雰囲気(例えば、真空度は100Pa以下、最終真空度は10Pa以下、更に1Pa以下)は、希土類元素の水素化合物が残存し難くて好ましい。上記温度とすることで、再結合合金の結晶の成長を抑制して微細な結晶組織(例えば、平均結晶粒径が700nm以下)が得られる。
【0072】
[磁性部材]
磁性部材は、上記磁石用成形体や、上述の磁石用成形体の製造方法で得られる磁石用成形体に窒化処理を施して、磁石用成形体を構成する希土類−鉄系合金を希土類−鉄−窒素系合金に変化させたものである。希土類−鉄−窒素系合金におけるSm及びMnの含有量は、上述の磁石用成形体の含有量が実質的に維持される。希土類−鉄−窒素系合金における窒素の含有量は2質量%以上7質量%以下である。窒素の含有量は、2.5質量%以上6.5質量%以下が好ましい。希土類−鉄−窒素系合金におけるFeの含有量は、その残りである。この希土類−鉄−窒素系合金の組成は、SmMnFe17−x(x=0.1以上2.5以下、y=1.9以上6.8以下)が挙げられる。希土類−鉄−窒素系合金の平均結晶粒径は、上述の磁石用成形体における希土類−鉄系合金の平均結晶粒径が実質的に維持され、700nm以下である。磁性部材の空隙率は、上述の磁石用成形体の空隙率が実質的に維持され、5体積%以上20体積%以下が挙げられる。
【0073】
磁性部材の保磁力は、635kA/m以上であることが好ましい。そうすれば、希土類磁石に好適に利用できる。この保磁力は、650kA/m以上が好ましく、更には700kA/m以上、770kA/m以上、850kA/m以上、930kA/m以上、特に1000kA/m以上であることが好ましい。この磁性部材を着磁すれば、希土類磁石が得られる。
【0074】
[磁性部材の製造方法]
磁性部材の製造は、上述の磁石用成形体や、上述の磁石用成形体の製造方法で得られる磁石用成形体に対し、窒化工程を施すことで行える。
【0075】
(窒化工程)
窒化工程は、磁石用成形体に窒素含有雰囲気中で窒化温度以上の温度で熱処理して窒化処理して磁性部材を作製する。窒素含有雰囲気とは、窒素元素を含む雰囲気であって、例えば後述するように窒素(N)及びアンモニア(NH)の少なくとも一方を含む雰囲気を言う。窒化処理により、磁石用成形体を構成するSm−Fe系合金(SmMnFe17−x:x=0.1以上2.5以下)の粒子をSm−Fe−N系合金(SmMnFe17−x:x=0.1以上2.5以下、y=1.9以上6.8以下)の粒子にすることができる。
【0076】
窒化処理の条件は、例えば、窒素含有雰囲気:NHガス雰囲気、NHガスとHガスとの混合ガス雰囲気、Nガス雰囲気、又はNガスとHガスとの混合ガス雰囲気、温度:300℃以上550℃以下、好ましくは320℃以上450℃以下、保持時間:10分以上2000分以下、好ましくは30分以上2000分以下、特に60分以上1800分以下が挙げられる。
【0077】
窒化処理は、磁場を印加した状態で行える。磁場印加により、結晶格子を一方向に引き伸ばし易く、引き伸ばされた鉄原子−鉄原子間に窒素原子を優先的に侵入させて、理想的な化学量論組成の希土類−鉄−窒素系合金(例、SmMnFe17-x、x=0.1以上2.5以下、y=1.9以上6.8以下)粒子を備える磁性部材を得易い。印加する磁場の大きさは、3T以上が挙げられる。
【0078】
〔作用効果〕
上述した実施形態によれば、以下の効果を奏することができる。
(1)磁石用成形体は、窒化処理することで保磁力の高い磁性部材が得られる。
(2)磁石用成形体は、窒化した際、保磁力の高い値を取り得る希土類−鉄−窒素系合金における窒素の含有量(組成比)の範囲が広い。そのため、仮に磁石用成形体を構成する各合金粒子の窒化に斑が生じたとしても、保磁力の高い磁性部材を製造し易いので、保磁力のばらつきを抑え易い。
(3)磁石用成形体の製造方法は、Mnを特定の量含むと共に、特定の組成比のSm−Mn−Fe合金の薄片を準備し、この薄片を粉砕した後、特定の成形圧力で圧縮成形するため、保磁力の高い磁性部材が得られる磁石用成形体を製造できる。
(4)磁性部材は、保磁力が高いため、希土類磁石に好適利用できる。
(5)磁性部材の製造方法は、保磁力の高い磁性部材を製造できる。
【0079】
〔試験例1〕
磁石用成形体の試料No.1−1〜1−13を作製した後、各試料を用いて磁性部材を作製し、各試料の磁気特性を評価した。
【0080】
[試料No.1−1〜1−13]
磁石用成形体の試料No.1−1〜1−7は、準備工程→粉砕工程→水素化工程→成形工程→脱水素工程の手順で作製した。
【0081】
まず、原料として、厚みが1mm以下で、組成a〜dのSm−Fe系合金薄片を準備した。
a:24.3質量%Sm−残部がFe及び不可避的不純物
b:24.3質量%Sm−3.7質量%Mn−残部がFe及び不可避的不純物
c:24.3質量%Sm−7.5質量%Mn−残部がFe及び不可避的不純物
d:24.3質量%Sm−11質量%Mn−残部がFe及び不可避的不純物
【0082】
各合金薄片における各元素の含有量は、ICP(Inductively Coupled Plasma)発光分光分析法により測定した。測定した各元素の含有量から組成比を算出したところ、SmMnFe17-xとなることがわかった。このMnの比xの値を表1に示す。
【0083】
次に、Sm−Fe系合金薄片を粉砕してSm−Fe系合金粉末を作製した。この粉砕は、酸素濃度を調整したグローブボックス内にて、超硬合金製の乳鉢を用いて行った。各試料におけるグローブボックス内の体積割合における酸素濃度(ppm)を表1に示す。得られた水素化粉末について、レーザ回折式粒度分布測定装置により体積粒度分布を測定したところ、D50が100μmであった。
【0084】
次に、Sm−Fe系合金粉末に水素化処理を施して水素化粉末を作製した。水素化処理は、真空熱処理炉を用いて、条件を、水素雰囲気中、850℃×3時間として行った。この水素化粉末の質量割合における酸素含有量(ppm)を、不活性ガス溶融−非分散型赤外線吸収法(NDIR)により測定した。その結果を表1に示す。
【0085】
水素化粉末の組織をEDXにより調べた。その結果、上記組成b及び組成cのSm−Fe系合金薄片を用いて得られた水素化粉末は、以下の点が確認された。
(a)10体積%以上40体積%未満のSmの水素化合物の相と、残部がMn及び鉄を含有する鉄含有物の相とからなる組織を有している。
(b)Smの水素化合物の相は粒状であり、その存在形態は鉄含有物の相中に分散している。
(c)このSmの水素化合物の相と鉄含有物の相とは隣接して存在しており、かつ鉄含有物の相を介して隣り合う希土類元素の水素化合物の相の間隔は3μm以下である。
【0086】
次に、水素化粉末を金型に充填し、圧縮成形して、直径約10mmで高さ約10mmの円柱状の粉末成形体を作製した。圧縮成形は、雰囲気を真空とし、表1に示す成形圧力で行った。
【0087】
次に、粉末成形体に脱水素処理を施して磁石用成形体を作製した。脱水素処理は、真空熱処理炉内の雰囲気を水素雰囲気から真空雰囲気に切り換えて、条件を、真空雰囲気中、800℃×3時間として行った。真空雰囲気の真空度は0.5Pa未満に設定した。
【0088】
[相対密度の測定]
各試料の磁石用成形体の密度と空隙率を測定した。磁石用成形体の見かけ密度は、サイズと質量から算出した。空隙率は、「100−相対密度」から算出した。相対密度は、「磁石用成形体の見かけ密度/磁石用成形体の真密度」の百分率から求めた。各試料の密度と空隙率を表1に示す。
【0089】
[平均結晶粒径の測定]
磁石用成形体を構成するSm−Fe系合金の平均結晶粒径を以下のようにして測定した。磁石用成形体の表面又は断面(観察面)について走査型電子顕微鏡(SEM)観察を行い、市販の画像処理ソフトを用いて観察像から各結晶粒の面積をそれぞれ調べ、各面積の円相当径の平均を平均結晶粒径とした。その結果を表1に示す。
【0090】
[酸素含有量の測定]
磁石用成形体の質量割合における酸素含有量(ppm)を、不活性ガス融解−非分散型赤外線吸収法(NDIR)により測定した。その結果を表1に示す。
【0091】
[磁気特性の評価]
磁石用成形体に窒化処理を施して磁性部材を作製し、磁性部材を3.5Tのパルス磁界で着磁して、磁気特性を調べた。窒化処理は、NH:H=1:3の混合ガス雰囲気中、400℃×10時間として行った。この磁性部材の窒素含有量(質量%)を、不活性ガス融解−熱伝導度法(TCD)により測定した。測定した結果から組成比を算出したところ、SmMnFe17−xとなることがわかった。このNの比yを表1に示す。Mnの比xは上述した準備工程で算出した値と同様である。この磁性部材の磁気特性は、BHトレーサ(理研電子株式会社製DCBHトレーサ)を用いて、保磁力(kA/m)を調べた。その結果を表1に示す。
【0092】
【表1】
【0093】
Mnを0質量%超10質量%以下含有して組成がSmMnFe17−x(x=0.1以上2.5以下)を満たすと共に、平均結晶粒径が700nm以下の組織を有し、空隙率が5体積%以上20体積%以下の試料No.1−5〜1−7、1−12,1−13は、保磁力が635kA/m以上であり、保磁力が高いことがわかる。中でも、試料No.1−5と1−7とを比較すると、Mnの含有量が少なくMnの比xの小さい試料No.1−5は、更に保磁力が高いことがわかる。試料No.1−5、及び試料1−12,1−13を比較すると、平均結晶粒径が小さくなるほど、保磁力が高くなることがわかる。酸素含有量が2000ppm以下の水素化粉末を用いた試料No.1−5と試料No.1−6は保磁力が高く、試料No.1−5、1−6を比較すると、特に、酸素含有量がより少ない試料No.1−6は、更に保磁力が高いことがわかる。試料No.1−5〜1−7、及び試料No.1−12、1−13の磁石用成形体は、各粒子の質量割合における酸素含有量(ppm)が2500pm以下であった。
【0094】
試料No.1−5〜1−7、及び試料No.1−12、1−13の磁性部材の空隙率は、上述の磁石用成形体の空隙率の測定と同様にして測定したところ、それぞれの磁石用成形体の空隙率が実質的に維持されていた。それらの磁性部材を構成するSm−Fe−N系合金の組成は、SmMnFe17−x(x=0.1以上2.5以下、y=1.9以上6.8以下)であった。そのSm−Fe−N系合金の平均結晶粒径は、上述のSm−Fe系合金の平均結晶粒径の測定と同様にして測定したところ、それぞれの磁石用成形体における平均結晶粒径が実施的に維持されていた。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明の磁石用成形体、及びその磁石用成形体を用いて得られる磁性部材は、永久磁石、例えば、各種のモータ、特に、ハイブリッド自動車やハードディスクドライブなどに具備される高速モータに用いられる永久磁石の素材に好適に利用できる。本発明の磁石用成形体の製造方法、及び磁性部材の製造方法は、永久磁石などに利用される希土類磁石の素材の製造に好適に利用できる。