特許第6332024号(P6332024)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6332024-紡績糸および織編物 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6332024
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】紡績糸および織編物
(51)【国際特許分類】
   D02G 3/04 20060101AFI20180521BHJP
   D03D 15/00 20060101ALI20180521BHJP
   D01F 6/62 20060101ALN20180521BHJP
【FI】
   D02G3/04
   D03D15/00 D
   D03D15/00 B
   D03D15/00 E
   !D01F6/62 303F
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-515736(P2014-515736)
(86)(22)【出願日】2014年2月27日
(86)【国際出願番号】JP2014054800
(87)【国際公開番号】WO2014156451
(87)【国際公開日】20141002
【審査請求日】2017年2月2日
(31)【優先権主張番号】特願2013-65489(P2013-65489)
(32)【優先日】2013年3月27日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2013-192735(P2013-192735)
(32)【優先日】2013年9月18日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷野宮 政浩
(72)【発明者】
【氏名】笠原 輝彦
(72)【発明者】
【氏名】千葉 道明
(72)【発明者】
【氏名】宮内 俊馬
【審査官】 春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−188792(JP,A)
【文献】 特開2004−019046(JP,A)
【文献】 特開平04−073213(JP,A)
【文献】 特開平03−019908(JP,A)
【文献】 特開平04−240246(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D02G1/00−3/48
D01F1/00−6/96
D03D15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
扁平多葉断面ポリエステル系繊維20〜80質量%とセルロース系繊維20〜80質量%からなる紡績糸であって、前記扁平多葉断面ポリエステル系繊維の単繊維繊度が2.0dtex以下であり、前記扁平多葉断面ポリエステル系繊維の横断面形状が円周上に6個以上の凸部を有する扁平形状であり、前記扁平多葉断面ポリエステル系繊維の横断面の最大長さをA、前記扁平多葉断面ポリエステル系繊維の横断面の最大幅をB、最大凹凸部において隣り合う凸部の頂点間を結ぶ線の長さをC、前記最大凹凸部において隣り合う凸部の頂点間を結ぶ線から凹部の底点に下ろした垂線の長さをDとするとき、下記式(1)で定義される扁平度および下記式(2)で定義される異形度を満足することを特徴とする紡績糸。
・扁平度(A/B)=2.0〜3.0 ・・・ (1)
・異形度(C/D)=1.0〜5.0 ・・・ (2)
【請求項2】
異形度が2.0〜5.0であることを特徴とする請求項1記載の紡績糸。
【請求項3】
最大長さAを対称軸とし、対向する両凸部頂点間線分のうち、横断面最大幅Bを除いて最長となる長さをEとするとき、下記式(3)で定義される凸部比を満足することを特徴とする請求項1または2記載の紡績糸。
・凸部比(E/B)=0.6〜0.9 ・・・ (3)
【請求項4】
扁平多葉断面ポリエステル系繊維が無機粒子を含有しており、その含有率が0.2〜2.5質量%である請求項1〜のいずれか1項に記載の紡績糸。
【請求項5】
請求項1〜のいずれか1項に記載の紡績糸からなる織編物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、良好な吸水性、速乾性、防透け性およびソフトな風合を有する紡績糸に関するものであり、特に衣料用途、例えばインナーシャツ、パンツおよびスポーツシャツ等の用途に好適な織編物に得ることが可能となる紡績糸およびそれを用いてなる織編物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、インナーシャツ、パンツおよびスポーツシャツ等の衣料用途向けにポリエステル素材を用いた吸水・速乾、ソフト風合いおよび防透け等の検討が行われており、異形断面ポリエステル繊維を用いた紡績糸および織編物が提案されている。
【0003】
例えば、ポリエステル系異形断面短繊維3〜4種類を15〜20重量%以上となる混率にして得られた紡績糸などが提案されている(特許文献1参照。)。しかしながら、この提案においては、紡績糸は合成繊維のみで構成されているため、吸水性およびソフト風合いの面においては十分でないという課題があった。
【0004】
また、断面形状として3個以上の突起物を有し、異形度が1.8以上の異形断面ポリエステル短繊維と天然繊維およびセルロース系繊維からなる混紡糸が提案されている(特許文献2参照。)。しかしながら、この提案においては、異形断面ポリエステル繊維と天然繊維およびセルロース系繊維からなる混紡糸が用いられているものの、吸水性およびソフト風合い面においては、なお十分ではないという課題があった。
【0005】
さらに、多葉断面型や多角形型の異形断面ポリエステル系繊維とセルロース系繊維との混綿糸を用いることによりソフト風合いとなり、さらに高チタン含有繊維との混紡により防スケ性を向上させる紡績糸が提案されている(特許文献3参照。)。しかしながら、この提案も特許文献2の提案と同様に、吸水性とソフト風合いの面においては必ずしも十分ではなく、防スケ性においても十分ではないという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−59838号公報
【特許文献2】特開2008−133584号公報
【特許文献3】特開2012−188792号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明の目的は、前記従来技術ではなし得なかったポリエステル系繊維を使用しつつもソフトな風合いを有し、更に天然繊維およびセルロース系繊維のみではなし得なかった高い吸水性、速乾性および防スケ性の機能をも兼ね備えた紡績糸を提供することにある。
【0008】
また、本発明の他の目的は、特に衣料用途、例えばインナーシャツ、パンツ、スポーツシャツ、白衣、セーターおよび民族衣装等の用途に適する織編物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、繊維間の空隙に着目した。先行技術文献の特許文献2においては、使用される異形断面ポリエステル繊維では単糸間で形成される空隙が少ないために、吸水性およびソフト風合い面において十分ではないのではないかと推考した。また、先行技術文献の特許文献3においても同様であり、さらに防スケ性においても繊維表面形状による光の乱反射が十分ではないとのではないかと考えた。また、吸水性が一方的に高いだけでなく、速乾性との両立が重要であると推考した。
【0010】
そして本発明者らは、上記の課題を解決するため、特定の扁平多葉断面ポリエステル系繊維とセルロース系繊維を併用することにより、ソフト風合いを実現しつつ、かつ紡績糸や織編物にした際、高い吸水性と速乾性を有し、高チタン含有糸と混紡しなくても、高い防スケ性を有することを見出し、本発明をなすに至った。
【0011】
すなわち、本発明の紡績糸は、扁平多葉断面ポリエステル系繊維20〜80質量%とセルロース系繊維20〜80質量%を混綿してなる紡績糸であって、前記扁平多葉断面ポリエステル系繊維の横断面形状が6個以上の凸部を有する扁平形状であり、前記扁平多葉断面ポリエステル系繊維の横断面の最大長さをA、前記扁平多葉断面ポリエステル系繊維の横断面の最大幅をB、最大凹凸部において隣り合う凸部の頂点間を結ぶ線の長さをC、前記凸部の頂点間を結ぶ線から凹部の底点に下ろした推薦の長さをDとするとき、下記式(1)で定義される扁平度と下記式(2)で定義される異形度を満足する紡績糸である。
・扁平度(A/B)=2.0〜3.0 ・・・ (1)
・異形度(C/D)=1.0〜5.0 ・・・ (2)
本発明の紡績糸の好ましい態様によれば、前記の異形度は、2.0〜5.0である。
【0012】
本発明の紡績糸の好ましい態様によれば、前記の最大長さAを対称軸とし、対向する両凸部頂点間線分のうち、横断面最大幅Bを除いて最長となる長さをEとするとき、下記式(3)で定義される凸部比を満足することである。
・凸部比(E/B)=0.6〜0.9 ・・・ (3)
本発明の紡績糸の好ましい態様によれば、前記の扁平多葉断面ポリエステル系繊維の単繊維繊度は2.0dtex以下である。
【0013】
本発明の紡績糸の好ましい態様によれば、前記の扁平多葉断面ポリエステル系繊維は無機粒子を含有しており、その含有率は0.2〜2.5質量%である。
【0014】
本発明の前記の紡績糸は、衣料用途、例えばインナーシャツやスポーツシャツ用の織編物に好適に用いられる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、扁平形状で且つ外周部に凹凸を有すること、さらに外周部の凹凸高さを一様としないことにより繊維間に大小様々な空隙を有することが可能となり、優れた吸水性と速乾性能とソフトな風合いとを兼ね備えた紡績糸およびそれを用いてなる織編物を得ることができる。さらには、本発明によれば、高い防スケ性の機能を併せ持つ紡績糸および織編物が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、繊維断面の円周上に複数(8個)の凸部を有する本発明の紡績糸が備える扁平多葉断面ポリエステル系繊維の横断面形状を例示説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明の紡績糸について詳細に説明する。
【0018】
本発明の紡績糸は、扁平多葉断面ポリエステル系繊維20〜80質量%とセルロース系繊維20〜80質量%を混綿してなる紡績糸である。
【0019】
本発明で用いられるセルロース系繊維は、麻、コットンおよびシルク等の天然繊維、ビスコースレーヨン、キュプラおよび溶剤紡糸セルロースなどの再生繊維、またアセテート等の半合成繊維のうち、少なくとも1種類のセルロース系繊維から選択して選ばれる。それらの中でも、ビスコースレーヨンや溶剤紡糸セルロースなどの再生繊維が、取り扱い性、汎用性および機能性の観点から好ましく用いられる。
【0020】
本発明で用いられるセルロース系繊維は、任意の横断面形状が円周上に凹凸を有した扁平形状であることが好ましい。円周上の凹凸を有することにより、吸水性が高く、更に毛細管作用により均一に液を拡散するので、速乾性を有し、ドライ感および清涼感を保持し易いという効果がある。
【0021】
上記の円周上の凸部の数は6〜14個が好ましく、より好ましくは8〜12個である。横断面形状の円周上に存在する凸部の個数が6個未満では、空隙が少なくなり、吸水性、保液性および拡散性が乏しくなり、また、光の乱反射率が低下して、防スケ性も低下する。さらに、肌に触れた際の接地点が減少することにより、ざらついた風合いとなる。また、凸部の個数が14個を超える場合は、セルロース系繊維はポリエステル系繊維と比べて剛性が低く、摩耗され易く糸強度が低下する。さらに、吸水性が高くなりすぎて、含侵した液体を繊維内に保持してしまい、液体を速やかに蒸発させることができず、速乾性に乏しくなる。また、凸部の形状は、肌触り性の観点から丸みを帯びた形状であることが好ましい。
【0022】
また、セルロース系繊維の単繊維繊度は1.0〜5.0dtexであることが好ましい。単繊維繊度は、さらに好ましくは1.2〜2.2dtexである。単繊維繊度が1.0dtex未満になると、カードのシリンダーに巻き付き易くなる傾向があり、工程通過性が著しく低下することがある。その結果として、紡績糸の欠点が発生し易くなる傾向がある。また、単繊維繊度が5.0dtexを超えると、人肌に触れた際の風合いが硬く、ソフト風合いの面において使用上好ましくない傾向を示す。また、単繊維繊度が太くなることにより繊維間の空隙が大きくなり過ぎるため、吸水性が著しく低下する傾向がある。
【0023】
セルロース系繊維の繊維長は、混綿されるポリエステル系繊維等の他の構成繊維との交絡性が高く、カード工程通過性を向上させることができるという観点からは、30〜64mmであることが好ましい。繊維長は、更に好ましくは35〜51mmである。セルロース系繊維の市販品としては、ダイワボウレーヨン社製のレーヨン(商品名“コロナ”)等が挙げられる。
【0024】
本発明の紡績糸において、前記のセルロース系繊維の含有率は20〜80質量%である。セルロース系繊維の混合率(含有率)が20質量%より少なくなると、液体を含浸させる吸水性が弱くなるため拡散性が低下し、本発明の紡績糸においてドライ感や清涼感が低下する。また、本発明の紡績糸において、セルロース系繊維特有のソフトな風合いも損なわれるため、使用時の肌触り間が劣位となる。また、セルロース系繊維の混合率が80質量%を超えると、吸水性が強くなりすぎ、含浸した液体を繊維内に保持してしまい、液体を速やかに蒸発させることができない。すなわち、速乾性に乏しくなる。
【0025】
本発明で用いられるポリエステル系繊維を構成するポリエステルは、テレフタル酸とエチレングリコール、トリメチレングリコールあるいはブチレングリコール等の縮合反応によって生成される高分子重合体、およびセバシン酸、アジピン酸、トリメリット酸、イソフタル酸およびパラキシ安息臭酸などとエチレングリコール等との縮合体、ならびに他のポリエステル類を含むポリエステル重合体などを意味する。
【0026】
本発明で用いられる扁平多葉断面ポリエステル系繊維は、その横断面形状が6個以上の凸部を有する扁平形状のポリエステル系繊維である。横断面形状の円周上に存在する凸部の個数が6個未満では、隣接する繊維間で形成する空隙が少なくなり、吸水性、保液性および拡散性が乏しくなり、また、光の乱反射率が低下し、防スケ性も低下する。凸部の個数が12個を超える場合は、ポリエステル系繊維の製造方法の特徴から、異形度が極端に低下する方向となり、隣接する繊維間で形成する空隙が少なくなり、上記同様に吸水性、保液性および拡散性が乏しくなる。横断面形状は扁平形状であることにより、繊維間に空隙を形成することが可能となり、吸水性、保液性および拡散性が良好となる。また、光の乱反射率が増加し、防スケ性が良好となる。更に、単繊維あたりの毛倒れ性が良くなることから、ソフトな風合いを得ることができる。
【0027】
図1に、本発明で用いられる扁平多葉断面ポリエステル系繊維の単繊維横断面形状の一例を示す。図1では、繊維断面の円周上に複数(8個)の凸部を有する本発明の紡績糸が備える扁平多葉断面ポリエステル系繊維の横断形状が例示されている。
【0028】
図1において、Aは、上記の扁平多葉断面ポリエステル系繊維の横断面の最大長さである。Bは、扁平多葉断面ポリエステル系繊維の横断面の最大幅であって、前記の最大長さAに垂直に交わる凸部の頂点間を結ぶ最大幅の線分の長さをいう。またCは、最大凹凸部において隣り合う凸部の頂点間を結ぶ線の長さをいう。そしてDは、最大凹凸部において隣り合う凸部の頂点間を結ぶ線から凹部の底点に下ろした垂線の長さをいう。Eは、最大長さAを対称軸とし、対向する両凸部頂点間線分のうち、最大幅Bを除いて最長となる長さをいう。
【0029】
本発明では、その横断面形状において、6個以上の凸部を有する扁平形状のポリエステル系繊維が用いられるが、好ましくは7〜13個であり、より好ましくは8〜12個である。また、凸部の形状は、肌触り性の観点から丸みを帯びた形状であることが好ましい。
【0030】
本発明で用いられる扁平多葉断面ポリエステル系繊維は、その単繊維横断面における扁平多葉断面形状が、下記式(1)で定義される扁平度と下記式(2)で定義される異形度を満足することが重要である。さらには、下記式(3)で定義される凸部比を満足することが好ましい態様である。
・扁平度(A/B)=2.0〜3.0 ・・・ (1)
・異形度(C/D)=1.0〜5.0 ・・・ (2)
・凸部比(E/B)=0.6〜0.9 ・・・ (3)
本発明の紡績糸において、扁平度(A/B)は2.0〜3.0である。扁平度(A/B)が2.0未満では、繊維の毛倒れ性が悪くなり、ソフトな風合いが得られなくなる。一方、扁平度(A/B)が3.0を超えると、ハリコシ感が小さく、へたり易くなり、また、製糸性の悪化や異形度が悪化する。扁平度(A/B)は、より好ましくは2.0〜2.7であり、更に好ましくは2.0〜2.5である。
【0031】
また、異形度(C/D)は、前記の扁平多葉形において、凸部と凸部の間にある凹部の大きさを表しており、その値が大きいと凹部が小さく、その値が小さいと凹部は大きいことを意味している。異形度(C/D)が大きくなると凹部は浅く、繊維間で形成する空隙も小さくなるため、吸水性と拡散性が低下する傾向がある。更に、光の乱反射率も低下し、防スケ性も低下する傾向にある。従って、異形度(C/D)は5.0以下である。
【0032】
一方、異形度(C/D)があまりに小さい場合、繊維断面の凹部が折れ曲がり易くなり、扁平形状を保つことができなくなり、更には、擦過により繊維損傷を受け易くなるため、肌と摩擦した場合に肌が傷付く恐れがある。これらのことから、異形度(C/D)は1.0以上である。異形度(C/D)は、前述の観点から1.0〜5.0である。更に、異形度(C/D)は、吸水性と拡散性の点から、1.0〜4.0がより好ましく、さらには、扁平形状の保持性と吸水性と拡散性バランスの観点から2.0〜4.0がより好ましい態様である。
【0033】
また、凸部比(E/B)は、前記扁平多葉形において、最大長さAを対称軸とし、最大幅Bとそれを除く最大凸部頂点間長さEとの長さ比を示しており、このことは、最大幅BおよびE、最大長さAの各凸部頂点を結ぶ線を描いた際に得られる略楕円形状の歪度合いを測る指標としての意味を持つ。凸部比があまりに小さい場合、凹部深さが減少するとともに、その横断面形状は限りなく扁平十字形に近似した形状となる。そのため、毛細管現象効果が減少し、吸水性と拡散性が低下する。また、肌に触れた際、扁平十字形状に近しくなるために接触する凸部数が減少し、肌触り感とソフト性が低下する。従って、凸部比は0.6以上であることが好ましい。一方、凸部比があまりにも大きい場合、繊維同士の凹凸が嵌合した際に、凹部が完全に閉塞する部分が多くなることにより、空隙が減少してしまい、吸水性と拡散性が低下する。また、肌に触れた際、その形状は扁平六角形に近しい形状となることにより、接触する凸部数が減少し、肌触り感・ソフト性が低下する。これらのことから、凸部比(E/B)は0.9以下であることが好ましい。凸部比(E/B)は、前述の観点から0.6〜0.9であることが好ましい。さらに、そのバランスから、凸部比(E/B)は、好ましくは0.6〜0.8であり、より好ましくは0.7〜0.8である。
【0034】
本発明で用いられる扁平多葉断面ポリエステル系繊維の紡績糸における含有率は、20〜80質量%である。扁平多葉断面ポリエステル系繊維の混合率(含有率)が20質量%未満になると、紡績糸の疎水性が低下するため、吸収した水分を蒸発し難い傾向となり、速乾性に乏しく、肌触り感も悪くなる。また、扁平多葉断面ポリエステル系繊維の混合率(含有率)が80質量%を超えると、毛細管現象効果が弱くなり、液体の拡散性が低下することにより肌に触れた際のドライ感、清涼感が損なわれる。上記より、好ましいバランスとして扁平多葉断面ポリエステル系繊維の紡績糸における含有率は30〜70質量%であり、より好ましくは40〜60質量%である。
【0035】
本発明で用いられる扁平多葉断面ポリエステル系繊維の単繊維繊度は、2.0dtex以下であることが好ましい。単繊維繊度は、より好ましくは1.0〜2.0dtexであり、更に好ましくは1.2〜1.8dtexである。単繊維繊度が2.0dtexを超えると、ポリエステル系繊維特有の剛性が強くなるため、肌触り感の刺激も強くなり、ソフト風合いも損なわれることがある。更に、繊維間で形成する空隙が大きくなり過ぎるため、毛細管現象効果が弱くなり、液体の拡散性が低下することにより、肌に触れた際のドライ感や清涼感が損なわれる傾向がある。また、単繊維繊度が1.0dtexより細くなると、カード工程での工程通過性が悪くなり、生産性が低下する傾向がある。
【0036】
本発明で用いられる扁平多葉断面ポリエステル系繊維には、防スケ性とソフト性向上を目的に無機粒子を含有させることができる。
【0037】
無機粒子の含有率は、0.2〜2.5質量%であることが好ましく、より好ましくは0.2〜2.2質量%であり、さらに好ましくは0.3〜2.0質量%である。無機粒子の含有率が0.2質量%未満である場合、セルロース系繊維との摩擦が増加し、ソフト風合いが損なわれる傾向があり、さらに光の乱反射が不十分となり、防スケ性能が低下する傾向がある。また、無機粒子の含有率が2.5質量%を超えた場合、紡績工程通過性が低下して、ガイド摩耗が発生する傾向があり、また扁平多葉断面ポリエステル系繊維の紡出時に異形度が低下する傾向がある。更に、艶消し効果が強く作用するため、白度に劣り発色性を失う傾向がある。
【0038】
また、扁平多葉断面ポリエステル系繊維の繊維長は、紡績での工程通過性の観点から30〜64mmであることが好ましく、更に好ましくは35〜51mmである。
【0039】
次に、本発明の紡績糸とその製造方法について説明する。
【0040】
本発明の紡績糸のヨリ係数は、3.0〜4.5の範囲であることが好ましい。ヨリ係数が3.0未満では、十分な糸強力が得られない傾向があり、紡績時の糸切れや織編物にした際の強度低下を招く傾向がある。また、ヨリ係数が4.5を超えると、ヨリ戻りによるビリが発生する傾向があるほか、織編物にした際に粗硬感がある傾向がある。
【0041】
本発明の紡績糸は、扁平多葉断面ポリエステル系繊維とセルロース系繊維とを用いて通常の紡績方法により製造することができ、リング精紡機(結束・渦流方式含む)や空気精紡機等を用いて、製造することができる。
【0042】
また、混紡方法も、扁平多葉断面ポリエステル系繊維とセルロース系繊維の2種類の混紡や、本発明の混紡率範囲内で他繊維と混紡することも可能である。紡績糸の番手は、特にインナー素材やシャツ素材に使用する場合においては、30〜53番手であることが好ましく、40番手であることがより好ましい態様である。
【0043】
本発明の紡績糸からなる織編物は、本発明の紡績糸を100%用いた織編物とすることもできるが、本発明の紡績糸を少なくとも40質量%含有されていることが好ましい態様である。本発明の紡績糸の割合が、40質量%未満では本発明の扁平多様断面ポリエステル系繊維とセルロース系繊維の組合せによる吸水性効果が得られにくい傾向がある。また、本発明の織編物では、本発明の紡績糸を60質量%未満の範囲で用い、本発明の紡績糸の他に、他の紡績糸やフィラメント等を交織交編することが可能である。
【0044】

本発明の紡績糸およびそれをもってなる織編物は、吸水性、速乾性および防スケ性とソフトな風合いとを兼ね備えているため、インナーシャツ、パンツ、スポーツシャツ、白衣、セーターおよび民族衣装等として好適に用いることができる。
【実施例】
【0045】
次に、実施例によって本発明の紡績糸について詳しく説明するが、本発明は実施例のみに限定されるものではない。実施例中における各物性値は、次の方法により測定した。
【0046】
<吸水性評価>
JIS L1907(2010年版、バイレック法)に準じて評価した。評価内容は次のとおりであり、本発明では「○」と「◎」を合格とした。
【0047】
◎:80mm以上
○:70〜79mm
△:50〜69mm
×:49mm以下。
【0048】
<速乾性評価>
室温25℃、湿度40%RH雰囲気下にて24時間放置した試験片を、10cm角に切り出して、質量(A)を測定する。その試験片をイオン交換水の中に30秒間浸し、その後、試験片の一角をピンセットでつまんで液から取り出す。取り出した試験片を同様に室温25℃、湿度40%RH雰囲気下に1時間放置し、自然乾燥させ、質量(B)を測定する。残存水分率(C)は、下記式で算出する。
・C(%)=(B−A)/A×100
評価内容は次のとおりであり、本発明では「○」と「◎」を合格とした。
◎:30%以下
○:31〜40%
△:41〜50%
×:51%以上。
【0049】
<防透け性>
分光光度計(ミノルタM−3600d)を用い、標準白板と標準黒板を試料生地の背景として各L値(反射率)を測定し、防透け度(%)として次式で求めた。
・防透け度(%)=100−(Lfw−Lfb)/(Lw−Lb)×100
Lw :試料生地がない状態での標準白板のL値
Lb :試料生地がない状態での標準黒板のL値
Lfw:試料生地を標準白板上に置いた時のL値
Lfb:試料生地を標準黒板上に置いた時のL値
評価内容は次のとおりであり、本発明では「○」と「◎」を合格とした。
◎:70%以上
○:60〜69%
△:50〜59%
×:49以下。
【0050】
<ソフト風合い>
試験片を10cm角に切り出して、5名の被験者に切り出した試験片を握ってもらい、次の基準に従って点数評価を行った後に平均点を算出し、本発明では「○」と「◎」を合格とした。
3点:風合いが柔らか
2点:風合いがやや硬い
1点:風合いが硬い
◎:2.8点以上
○:2.4〜2.7点
△:1.9〜2.3点
×:1.8点以下。
【0051】
[実施例1]
単繊維繊度1.7dtex、酸化チタン含有率0.3質量%、扁平度2.1、異形度2.7、凸部比0.8で、横断面形状が8個の凸部を有する扁平多葉断面ポリエステル系繊維(繊維長51mm)20質量%と、単繊維繊度1.7dtexのレーヨン繊維(繊維長51mm)80質量%を混紡し、ヨリ係数K=3.5として英国式綿番手40sの紡績糸を得た。この紡績糸を経と緯に使い、エアジェット織機を用いて、タテ密度110本/2.54cm、ヨコ密度76本/2.54cmの平織物を得た。紡績糸の繊維構成を表1に、評価結果を表2に示す。
【0052】
[実施例2]
単繊維繊度1.7dtex、酸化チタン含有率0.3質量%、扁平度2.1、異形度2.7、凸部比0.8で、横断面形状が8個の凸部を有する扁平多葉断面ポリエステル系繊維(繊維長51mm)50質量%と、単繊維繊度1.7dtexのレーヨン繊維(繊維長51mm)50質量%を混紡し、ヨリ係数K=3.5として英国式綿番手40sの紡績糸を得た。この紡績糸を経と緯に使い、エアジェット織機を用いて、タテ密度110本/2.54cm、ヨコ密度76本/2.54cmの平織物を得た。紡績糸の繊維構成を表1に、評価結果を表2に示す。
【0053】
[実施例3]
繊度1.7dtex、酸化チタン含有率0.3質量%、扁平度2.1、異形度2.7、凸部比0.8で、横断面形状が8個の凸部を有する扁平多葉断面ポリエステル系繊維(繊維長51mm)80質量%と、単繊維繊度1.7dtexのレーヨン繊維(繊維長51mm)20質量%を混紡し、ヨリ係数K=3.5として英国式綿番手40sの紡績糸を得た。この紡績糸を経と緯に使い、エアジェット織機を用いて、タテ密度110本/2.54cm、ヨコ密度76本/2.54cmの平織物を得た。紡績糸の繊維構成を表1に、評価結果を表2に示す。
【0054】
[実施例4]
単繊維繊度1.7dtex、酸化チタン含有率0.1質量%、扁平度2.0、異形度2.5、凸部比0.7で、横断面形状が8個の凸部を有する扁平多葉断面ポリエステル系繊維(繊維長51mm)80質量%と、単繊維繊度1.7dtexのレーヨン繊維(繊維長51mm)20質量%を混紡し、ヨリ係数K=3.5として英国式綿番手40sの紡績糸を得た。この紡績糸を経と緯に使い、エアジェット織機を用いて、タテ密度110本/2.54cm、ヨコ密度76本/2.54cmの平織物を得た。紡績糸の繊維構成を表1に、評価結果を表2に示す。
【0055】
[比較例1]
単繊維繊度1.7dtex、酸化チタン含有率0.3質量%、扁平度2.1、異形度2.7、凸部比0.8で、横断面形状が8個の凸部を有する扁平多葉断面ポリエステル系繊維(繊維長51mm)85質量%と、単繊維繊度1.7dtexのレーヨン繊維(繊維長51mm)15質量%を混紡し、ヨリ係数K=3.5として英国式綿番手40sの紡績糸を得た。この紡績糸を経と緯に使い、エアジェット織機を用いて、タテ密度110本/2.54cm、ヨコ密度76本/2.54cmの平織物を得た。紡績糸の繊維構成を表1に、評価結果を表2に示す。
【0056】
[比較例2]
単繊維繊度1.7dtex、酸化チタン含有率0.3質量%、扁平度2.1、異形度2.7、凸部比0.8で、横断面形状が8個の凸部を有する扁平多葉断面ポリエステル系繊維(繊維長51mm)15質量%と、単繊維繊度1.7dtexのレーヨン繊維(繊維長51mm)85質量%を混紡し、ヨリ係数K=3.5として英国式綿番手40sの紡績糸を得た。この紡績糸を経と緯に使い、エアジェット織機を用いて、タテ密度110本/2.54cm、ヨコ密度76本/2.54cmの平織物を得た。紡績糸の繊維構成を表1に、評価結果を表2に示す。
【0057】
[比較例3]
単繊維繊度1.7dtex、酸化チタン含有率0.3質量%、扁平度1.0、異形度6.7、凸部比0.9で、横断面形状が3個の凸部を有する三葉断面(Y型)ポリエステル系繊維(繊維長51mm)80質量%と、単繊維繊度1.7dtexのレーヨン繊維(繊維長51mm)20質量%を混紡し、ヨリ係数K=3.5として英国式綿番手40sの紡績糸を得た。この紡績糸を経と緯に使い、エアジェット織機を用いて、タテ密度110本/2.54cm、ヨコ密度76本/2.54cmの平織物を得た。紡績糸の繊維構成を表1に、評価結果を表2に示す。
【0058】
[比較例4]
単繊維繊度1.7dtex、酸化チタン含有率0.3質量%で、横断面形状が丸型断面ポリエステル系繊維(繊維長51mm)80質量%と、単繊維繊度1.7dtexのレーヨン繊維(繊維長51mm)20質量%を混紡し、ヨリ係数K=3.5として英国式綿番手40sの紡績糸を得た。この紡績糸を経と緯に使い、エアジェット織機を用いて、タテ密度110本/2.54cm、ヨコ密度76本/2.54cmの平織物を得た。紡績糸の繊維構成を表1に、評価結果を表2に示す。
【0059】
【表1】
【0060】
【表2】
【符号の説明】
【0061】
A:扁平多葉断面ポリエステル系繊維の横断面の最大長さ
B:扁平多葉断面ポリエステル系繊維の横断面の最大幅
C:最大凹凸部において隣り合う凸部の頂点間を結ぶ線の長さ
D:最大凹凸部において隣り合う凸部の頂点間を結ぶ線から凹部の底点に下ろした垂線の長さ
E:Aを対称軸とし、対向する両凸部頂点間線分のうち、Bを除いて最長となる長さ
図1