(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
絶縁層と、この絶縁層の一方の面に形成された回路層と、前記絶縁層の他方の面に形成された金属層と、この金属層の前記絶縁層とは反対側の面に配置されたヒートシンクと、を備えたヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法であって、
前記金属層のうち前記ヒートシンクとの接合面、及び、前記ヒートシンクのうち前記金属層との接合面は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム材料で構成されており、
前記金属層の接合面を構成するアルミニウム材料及び前記ヒートシンクの接合面を構成するアルミニウム材料のうちいずれか一方がアルミニウムの純度の高い高純度アルミニウム材料とされ、他方がアルミニウムの純度の低い低純度アルミニウム材料とされており、
前記高純度アルミニウム材料と前記低純度アルミニウム材料とのAl以外の含有元素の濃度差を1原子%以上とし、
前記金属層と前記ヒートシンクとを、固相拡散接合することを特徴とするヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法。
前記高純度アルミニウム材料と前記低純度アルミニウム材料は、Al以外の含有元素として、Si,Cu,Mn,Fe,Mg,Zn,Ti及びCrから選択される1種又は2種以上の元素を含有し、これらの元素の合計量の差が1原子%以上とされていることを特徴とする請求項1に記載のヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法。
前記低純度アルミニウム材料は、Si,Cu,Mn,Fe,Mg,Zn,Ti及びCrから選択される1種又は2種以上の元素を合計で1原子%以上含有するとともに、Siの含有量が15原子%以下、Cuの含有量が10原子%以下、Mnの含有量が2原子%以下、Feの含有量が1原子%以下、Mgの含有量が5原子%以下、Znの含有量が10原子%以下、Tiの含有量が1原子%以下及びCrの含有量が1原子%以下、とされていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法。
前記金属層と前記ヒートシンクとを積層し、積層方向に0.3MPa以上3.0MPa以下の荷重を負荷した状態で、前記低純度アルミニウム材料の固相線温度(K)の90%以上、前記低純度アルミニウム材料の固相線温度未満の保持温度で1時間以上保持することにより、前記金属層と前記ヒートシンクとを固相拡散接合することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、最近では、パワー半導体素子等の高出力化が進められており、これを搭載するヒートシンク付パワーモジュール用基板に対して厳しいヒートサイクルが負荷されることになり、従来にも増して、ヒートサイクルに対する接合信頼性に優れたヒートシンク付パワーモジュール用基板が要求されている。
【0008】
ここで、特許文献1に記載されたヒートシンク付パワーモジュール用基板において、金属層とヒートシンクとをはんだ付けした場合には、ヒートサイクル負荷時に、はんだにクラックが生じて接合率が低下するといった問題があった。
また、金属層とヒートシンクとをろう付けした場合には、ヒートサイクル負荷時に、セラミックス基板に割れが生じるおそれがあった。
さらに、内部に冷却媒体の流路等が形成された複雑な構造のヒートシンクにおいては、比較的固相線温度が低いアルミニウム鋳物合金によって製造されることがあるが、このようなヒートシンクにおいては、ろう材を用いて接合することは困難であった。
【0009】
また、特許文献2に記載されたヒートシンク付パワーモジュール用基板においては、金属層と銅板、銅板とヒートシンクがそれぞれはんだ付けされているので、やはり、ヒートサイクル負荷時に、はんだにクラックが生じて接合率が低下するといった問題があった。
【0010】
さらに、特許文献3に示すヒートシンク付パワーモジュール用基板においては、金属層とヒートシンクとの間に、銅又は銅合金で構成された接合材を介在させ、金属層と接合材及び接合材とヒートシンクとをそれぞれ固相拡散接合しており、金属層とヒートシンクとの接合界面に金属間化合物が形成される。この金属間化合物は、硬く脆いため、ヒートサイクル負荷時に亀裂等が発生するおそれがあった。
【0011】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、ヒートサイクルが負荷された場合であっても接合界面においてクラック等が生じることを抑制できるヒートシンク付パワーモジュール用基板を製造可能なヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
このような課題を解決して、前記目的を達成するために、本発明のヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法は、絶縁層と、この絶縁層の一方の面に形成された回路層と、前記絶縁層の他方の面に形成された金属層と、この金属層の前記絶縁層とは反対側の面に配置されたヒートシンクと、を備えたヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法であって、前記金属層のうち前記ヒートシンクとの接合面、及び、前記ヒートシンクのうち前記金属層との接合面は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム材料で構成されており、前記金属層の接合面を構成するアルミニウム材料及び前記ヒートシンクの接合面を構成するアルミニウム材料のうちいずれか一方がアルミニウムの純度の高い高純度アルミニウム材料とされ、他方がアルミニウムの純度の低い低純度アルミニウム材料とされており、前記高純度アルミニウム材料と前記低純度アルミニウム材料とのAl以外の含有元素の濃度差を1原子%以上とし、前記金属層と前記ヒートシンクとを、固相拡散接合することを特徴としている。
【0013】
この構成のヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法においては、前記金属層のうち前記ヒートシンクとの接合面、及び、前記ヒートシンクのうち前記金属層との接合面は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム材料で構成されており、これら金属層とヒートシンクとを固相拡散接合している。通常、アルミニウム材料同士を固相拡散させる場合、アルミニウムの自己拡散速度が遅いため、強固な固相拡散接合を得るには長い時間を要することになり、工業的には実現できなかった。
【0014】
ここで、本発明においては、前記金属層の接合面を構成するアルミニウム材料及び前記ヒートシンクの接合面を構成するアルミニウム材料のうちいずれか一方がアルミニウムの純度の高い高純度アルミニウム材料とされ、他方がアルミニウムの純度の低い低純度アルミニウム材料とされており、前記高純度アルミニウム材料と前記低純度アルミニウム材料とのAl以外の含有元素の濃度差を1原子%以上としているので、Al以外の含有元素が前記低純度アルミニウム材料側から前記高純度アルミニウム材料側へと拡散することにより、アルミニウムの自己拡散が促進され、比較的短時間で金属層とヒートシンクとを確実に固相拡散接合することが可能となる。
【0015】
そして、このようにヒートシンクと金属層とが固相拡散接合されているので、ヒートサイクルを負荷した場合であっても、接合界面に亀裂等が生じるおそれがなく、ヒートサイクルに対する接合信頼性に優れたヒートシンク付パワーモジュール用基板を得ることができる。
【0016】
本発明のヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法においては、前記高純度アルミニウム材料と前記低純度アルミニウム材料は、Al以外の含有元素として、Si,Cu,Mn,Fe,Mg,Zn,Ti及びCrから選択される1種又は2種以上の元素を含有し、これらの元素の合計量の差が1原子%以上とされていることが好ましい。
この場合、Si,Cu,Mn,Fe,Mg,Zn,Ti及びCrといった元素は、アルミニウムの自己拡散を促進させる作用効果に優れていることから、ともにアルミニウム材料で構成された金属層とヒートシンクとを短時間で確実に固相拡散接合することが可能となる。
【0017】
また、本発明のヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法においては、前記低純度アルミニウム材料は、Si,Cu,Mn,Fe,Mg,Zn,Ti及びCrから選択される1種又は2種以上の元素を合計で1原子%以上含有するとともに、Siの含有量が15原子%以下、Cuの含有量が10原子%以下、Mnの含有量が2原子%以下、Feの含有量が1原子%以下、Mgの含有量が5原子%以下、Znの含有量が10原子%以下、Tiの含有量が1原子%以下及びCrの含有量が1原子%以下、とされていることが好ましい。
【0018】
この場合、純度の低い低純度アルミニウム材料が、Si,Cu,Mn,Fe,Mg,Zn,Ti及びCrから選択される1種又は2種以上の元素を合計で1原子%以上含有しているので、これらの元素を高純度アルミニウム材料側へ拡散させることで、アルミニウムの自己拡散を促進させ、比較的短時間で金属層とヒートシンクとを確実に固相拡散接合することが可能となる。
一方、Siの含有量が15原子%以下、Cuの含有量が10原子%以下、Mnの含有量が2原子%以下、Feの含有量が1原子%以下、Mgの含有量が5原子%以下、Znの含有量が10原子%以下、Tiの含有量が1原子%以下及びCrの含有量が1原子%以下に制限されているので、これらの元素によって接合界面が必要以上に硬くなることを抑制でき、ヒートサイクルに対する接合信頼性に優れたヒートシンク付パワーモジュール用基板を確実に製造することができる。
【0019】
さらに、本発明のヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法においては、前記金属層と前記ヒートシンクとを積層し、積層方向に0.3MPa以上3.0MPa以下の荷重を負荷した状態で、低純度アルミニウム材料の固相線温度(K)の90%以上、低純度アルミニウム材料の固相線温度未満の保持温度で1時間以上保持することにより、前記金属層と前記ヒートシンクとを固相拡散接合する構成とすることが好ましい。
この場合、積層方向に0.3MPa以上3.0MPa以下の荷重を負荷した状態で、低純度アルミニウム材料の固相線温度(K)の90%以上、低純度アルミニウム材料の固相線温度未満の保持温度で1時間以上保持するとした固相拡散接合条件を採用しているので、アルミニウムの拡散移動を促進することができ、前記金属層と前記ヒートシンクとを確実に接合することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、ヒートサイクルが負荷された場合であっても接合界面においてクラック等が生じることを抑制できるヒートシンク付パワーモジュール用基板を製造可能なヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明の実施形態について、添付した図面を参照して説明する。
図1に、本発明の一実施形態であるヒートシンク付パワーモジュール用基板30及びパワーモジュール1を示す。
【0023】
このパワーモジュール1は、ヒートシンク付パワーモジュール用基板30と、このヒートシンク付パワーモジュール用基板30の一方の面(
図1において上面)にはんだ層2を介して接合された半導体素子3と、を備えている。
ここで、はんだ層2は、例えばSn−Ag系、Sn−In系、若しくはSn−Ag−Cu系のはんだ材とされている。
また、本実施形態であるヒートシンク付パワーモジュール用基板30は、パワーモジュール用基板10と、パワーモジュール用基板10に接合されたヒートシンク31と、を備えている。
【0024】
パワーモジュール用基板10は、セラミックス基板11と、このセラミックス基板11の一方の面(
図1において上面)に配設された回路層12と、セラミックス基板11の他方の面(
図1において下面)に配設された金属層13とを備えている。
セラミックス基板11は、回路層12と金属層13との間の電気的接続を防止するものであって、本実施形態では、絶縁性の高いAlN(窒化アルミ)で構成されている。ここで、セラミックス基板11の厚さは、0.2mm以上1.5mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では、0.635mmに設定されている。
【0025】
回路層12は、
図4に示すように、セラミックス基板11の一方の面にアルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム板22が接合されることにより形成されている。本実施形態においては、回路層12を構成するアルミニウム板22として、純度99mass%以上の2Nアルミニウムの圧延板が用いられている。この回路層12には、回路パターンが形成されており、その一方の面(
図1において上面)が、半導体素子3が搭載される搭載面とされている。ここで、回路層12(アルミニウム板22)の厚さは0.1mm以上1.0mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では0.6mmに設定されている。
【0026】
金属層13は、
図4に示すように、セラミックス基板11の他方の面にアルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム板23が接合されることにより形成されている。本実施形態においては、金属層13を構成するアルミニウム板23として、純度99.99mass%以上の4Nアルミニウムの圧延板が用いられている。ここで、金属層13(アルミニウム板23)の厚さは0.1mm以上6.0mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では2.0mmに設定されている。
【0027】
ヒートシンク31は、パワーモジュール用基板10側の熱を放散するためのものであり、本実施形態では、
図1に示すように、冷却媒体が流通する流路32が設けられている。 このヒートシンク31は、金属層13を構成するアルミニウム(本実施形態では純度99.99mass%以上の4Nアルミニウム)とヒートシンク31構成するアルミニウム合金のAl以外の含有元素の濃度差が1原子%以上となるような材料で構成される。
より好ましくは、Al以外の含有元素として、Si,Cu,Mn,Fe,Mg,Zn,Ti及びCrから選択される1種又は2種以上の元素とされているとよい。
さらに好ましくは、Al以外の含有元素として、Si,Cu,Mn,Fe,Mg,Zn,Ti及びCrから選択される1種又は2種以上の元素を合計で1原子%以上含有するとともに、Siの含有量が15原子%以下、Cuの含有量が10原子%以下、Mnの含有量が2原子%以下、Feの含有量が1原子%以下、Mgの含有量が5原子%以下、Znの含有量が10原子%以下、Tiの含有量が1原子%以下及びCrの含有量が1原子%以下とするとよい。
本実施形態においては、JIS H 2118:2006で規定されたダイカスト用アルミニウム合金であるADC12で構成されている。なお、このADC12は、Cuを1.5mass%以上3.5mass%以下、Siを9.6mass%以上12.0mass%以下の範囲で含むアルミニウム合金である。
【0028】
そして、本実施形態であるヒートシンク付パワーモジュール用基板30においては、金属層13とヒートシンク31とが固相拡散接合によって接合されている。すなわち、本実施形態においては、金属層13が純度99.99mass%以上の4Nアルミニウムで構成されるとともに、ヒートシンク31がダイカスト用アルミニウム合金であるADC12で構成されていることから、これら金属層13とヒートシンク31とでアルミニウムの純度が異なり、金属層13が高純度アルミニウム材料で構成され、ヒートシンク31が低純度アルミニウム材料で構成されていることになる。
【0029】
ここで、
図2に示すように、金属層13とヒートシンク31との接合界面を観察した結果、ヒートシンク31に含まれる添加元素(Cu,Si)が金属層13側に拡散していることが確認される。なお、接合界面から金属層13側への拡散深さは、Cuが25μm以上、Siが45μm以上とされている。
【0030】
次に、上述した本実施形態であるヒートシンク付パワーモジュール用基板30の製造方法について、
図3及び
図4を参照して説明する。
【0031】
(アルミニウム板接合工程S01)
まず、
図4に示すように、回路層12となるアルミニウム板22及び金属層13となるアルミニウム板23と、セラミックス基板11とを接合する。本実施形態では、2Nアルミニウムの圧延板からなるアルミニウム板22及び4Nアルミニウムの圧延板からなるアルミニウム板23とAlNからなるセラミックス基板11とを、それぞれAl−Si系ろう材24によって接合する。
【0032】
このアルミニウム板接合工程S01においては、まず、セラミックス基板11の一方の面及び他方の面に、それぞれAl−Si系ろう材24を介してアルミニウム板22、アルミニウム板23を積層する(アルミニウム板積層工程S11)。
次に、積層したセラミックス基板11、アルミニウム板22、アルミニウム板23を積層方向に0.1MPa以上3.5MPa以下の荷重を負荷した状態で、真空またはアルゴン雰囲気の加熱炉内に装入して、600℃以上650℃以下、0.5時間以上3時間以下保持することにより、セラミックス基板11とアルミニウム板22,アルミニウム板23との間に溶融金属領域を形成する(加熱工程S12)。
その後、冷却することによって溶融金属領域を凝固させる(凝固工程S13)。このようにして、アルミニウム板22とセラミックス基板11とアルミニウム板23とを接合し、回路層12及び金属層13を形成する。これにより、本実施形態におけるパワーモジュール用基板10が製造される。
【0033】
(ヒートシンク接合工程S02)
次に、パワーモジュール用基板10の金属層13の他方の面(セラミックス基板11との接合面とは反対側の面)にヒートシンク31を接合する。
このヒートシンク接合工程S02においては、まず、
図4に示すように、パワーモジュール用基板10の他方の面側にヒートシンク31を積層する(ヒートシンク積層工程S21)。
【0034】
そして、このパワーモジュール用基板10とヒートシンク31の積層体を、積層方向に
0.3Pa以上3.0MPa以下の荷重を負荷した状態で、真空加熱炉の中に装入する。そして、低純度アルミニウム材料の固相線温度(K)の90%以上、低純度アルミニウム材料の固相線温度未満の温度で、1時間以上保持して固相拡散接合を行う(固相拡散接合工程S22)。なお、低純度アルミニウム材料の固相線温度(K)の90%とは、低純度アルミニウム材料の固相線温度を絶対温度で表した時の90%の温度のことである。本実施形態では、ADC12が低純度アルミニウム材料とされ、その固相線温度は788K(515℃)である。よって、加熱温度は固相線温度の90%、すなわち、709.2K(436.2℃)以上、固相線温度未満、すなわち、788K(515℃)未満とされる。
【0035】
本実施形態においては、金属層13とヒートシンク31の接合面は、予め当該面の傷が除去されて平滑にされた後に、固相拡散接合されている。なお、このときの金属層13及びヒートシンク31のそれぞれの接合面における表面粗さは、算術平均粗さRa(JIS B 0601(1994))で0.5μm以下の範囲内に設定されている。
【0036】
このようにして、本実施形態であるヒートシンク付パワーモジュール用基板30が製造される。
【0037】
(半導体素子接合工程S03)
次に、パワーモジュール用基板10の回路層12の一方の面に、半導体素子3をはんだ付けにより接合する。
以上の工程により、
図1に示すパワーモジュール1が製出される。
【0038】
以上のような構成とされた本実施形態に係るヒートシンク付パワーモジュール用基板30の製造方法によれば、金属層13を構成するアルミニウム材料が純度99.99mass%以上の4Nアルミニウムとされ、ヒートシンク31を構成するアルミニウム材料がADC12(Cu:1.5mass%以上3.5mass%以下、Si:9.6mass%以上12.0mass%以下)で構成されているので、固相拡散接合時において、ヒートシンク31のCu及びSiが金属層13側へと拡散し、アルミニウムの自己拡散が促進されることになる。これにより、比較的短時間で金属層とヒートシンクとを確実に固相拡散接合することが可能となる。
【0039】
そして、本実施形態においては、ともにアルミニウム材料で構成された金属層13とヒートシンク31とが固相拡散接合されているので、
図2に示すように、ヒートシンク31と金属層13との接合界面には、異相が形成されていない。
よって、ヒートサイクルを負荷した場合であっても、接合界面に亀裂等が生じるおそれがなく、ヒートサイクルに対する接合信頼性に優れたヒートシンク付パワーモジュール用基板30を製造することができる。
【0040】
また、本実施形態においては、ヒートシンク31を構成するアルミニウム材料がADC12(Cu:1.5mass%以上3.5mass%以下、Si:9.6mass%以上12.0mass%以下)で構成されており、これらCu及びSiは、アルミニウムの自己拡散を促進させる作用効果に優れていることから、ともにアルミニウム材料で構成された金属層13とヒートシンク31とを、短時間で確実に固相拡散接合することが可能となる。
【0041】
さらに、ヒートシンク31を構成するアルミニウム材料において、Siの含有量が12.0mass%以下(11.6原子%以下)、Cuの含有量が3.5mass%以下(1.5原子%以下)とされているので、これらの元素によって接合界面が必要以上に硬くなることを抑制でき、ヒートサイクルに対する接合信頼性に優れたヒートシンク付パワーモジュール用基板を確実に製造することができる。
【0042】
また、金属層13とヒートシンク31とを積層し、積層方向に0.3MPa以上3.0MPa以下の荷重を負荷した状態で、低純度アルミニウム材料の固相線温度(K)の90%以上低純度アルミニウム材料の固相線温度未満の保持温度で1時間以上保持することにより、金属層13とヒートシンク31とを固相拡散接合しているので、アルミニウムの拡散移動を促進することができ、金属層13とヒートシンク31とを確実に接合することができる。
荷重が0.3MPa以上の場合、接合初期の接触面積が十分に確保されることで金属層13とヒートシンク31とを良好に接合することができる。また、荷重が3.0MPa以下の場合、金属層13やヒートシンク31に変形が生じることを抑制できる。
保持温度が低純度アルミニウム材料の固相線温度(K)の90%以上の場合、十分な拡散速度を確保でき、金属層13とヒートシンク31とを良好に接合することができる。保持温度が低純度アルミニウム材料の固相線温度未満の場合、液相が発生することが無く、また、金属層13やヒートシンク31に変形が生じることを抑制できるため、金属層13とヒートシンク31とを確実に固相拡散接合することができる。
保持時間が1時間以上の場合、固相拡散を十分に進行させることができ、金属層13とヒートシンク31とを良好に接合することができる。
【0043】
さらに、本実施形態においては、接合前の金属層13及びヒートシンク31の接合面の傷を除去するとともに、その表面粗さを、算術平均粗さRa(JIS B 0601(1994))で0.5μm以下の範囲内に設定しているので、金属層13とヒートシンク31とを確実に接触させて、アルミニウム原子、及び、ヒートシンク31の添加元素(Cu,Si)の拡散移動を促進させることができ、金属層13とヒートシンク31とを確実に接合することができる。
【0044】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、金属層及びヒートシンクの材質は、本実施形態に限定されることはなく、金属層の接合面を構成するアルミニウム材料及びヒートシンクの接合面を構成するアルミニウム材料のうちいずれか一方がアルミニウムの純度の高い高純度アルミニウム材料とされ、他方がアルミニウムの純度の低い低純度アルミニウム材料とされ、高純度アルミニウム材料と低純度アルミニウム材料とのAl以外の含有元素の濃度差を1原子%以上とされていればよい。
【0045】
具体的には、本実施形態では、金属層を純度99.99mass%の4Nアルミニウムで構成されたものとして説明したが、これに限定されることはなく、他の純アルミニウム又はアルミニウム合金で構成されたものであってもよい。例えば、A1050やA1085等の純度99mass%以上の2Nアルミニウムを用いてもよい。この場合、金属層の初期の不純物濃度が高いことから、接合温度における結晶粒成長が抑制され、粒界拡散が期待できるため、ヒートシンク側からの含有元素の拡散移動を促進することが可能となる。
【0046】
さらに、本実施形態では、ヒートシンクをADC12で構成したものとして説明したが、これに限定されることはなく、他の純アルミニウム又はA3003やA6063等のアルミニウム合金で構成されたものであってもよい。
また、ヒートシンク側が高純度アルミニウム材料とされ、金属層側が低純度アルミニウム材料で構成されていてもよい。
【0047】
また、本実施形態では、金属層全体がアルミニウム又はアルミニウム合金で構成されたものとして説明したが、これに限定されることはなく、例えば
図5に示すように、金属層のうちヒートシンクとの接合面がアルミニウム又はアルミニウム合金で構成されていればよい。この
図5に示すヒートシンク付パワーモジュール用基板130及びパワーモジュール101においては、金属層113が、銅層113Aとアルミニウム層113Bとが積層された構造とされており、セラミックス基板11と銅層113Aとが接合され、アルミニウム層113Bとヒートシンク131とが固相拡散接合されている。なお、
図5においては、回路層112も銅層112Aとアルミニウム層112Bとが積層された構造とされており、アルミニウム層112Bに半導体素子3がはんだ層2を介して接合されている。
【0048】
同様に、本実施形態では、ヒートシンク全体がアルミニウム又はアルミニウム合金で構成されたものとして説明したが、これに限定されることはなく、例えば
図6に示すように、ヒートシンクのうち金属層との接合面がアルミニウム又はアルミニウム合金で構成されていればよい。この
図6に示すヒートシンク付パワーモジュール用基板230及びパワーモジュール201においては、ヒートシンク231が、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム層231Bと銅又は銅合金からなるヒートシンク本体231Aとが積層された構造とされており、金属層213とアルミニウム層231B(ヒートシンク231)とが固相拡散接合されている。
【0049】
また、本実施形態では、回路層を構成するアルミニウム板を、純度が99mass%以上の2Nアルミニウムで構成されたものとして説明したが、これに限定されることはなく、純度99.99mass%以上の純アルミニウムや、他の純アルミニウム又はアルミニウム合金で構成されたものであってもよい。
さらに、本発明においては回路層の構造に限定はなく、適宜設計変更することができる。例えば、銅又は銅合金で構成されていてもよいし、
図5に示すヒートシンク付パワーモジュール用基板130及びパワーモジュール101のように、回路層112が銅層112Aとアルミニウム層112Bとの積層構造とされていてもよい。
【0050】
さらに、本実施形態においては、回路層及び金属層となるアルミニウム板とセラミックス基板とを、Al−Si系ろう材を用いて接合するものとして説明したが、これに限定されることはなく、過渡液相接合法(Transient Liquid Phase Bonding)、鋳造法、金属ペースト法等を用いて接合してもよい。
【0051】
また、本実施形態においては、絶縁層をAlNからなるセラミックス基板で構成したものとして説明したが、これに限定されることはなく、Si
3N
4やAl
2O
3等の他のセラミックス基板を用いてもよい。
さらに、絶縁層、回路層、金属層、ヒートシンクの厚さは、本実施形態に限定されることはなく、適宜設計変更してもよい。
【実施例】
【0052】
本発明の有効性を確認するために行った確認実験について説明する。
図5のフロー図に記載した手順に従って、本発明例及び比較例のヒートシンク付パワーモジュール用基板を作製した。
なお、セラミックス基板は、AlNで構成され、40mm×40mm、厚さ0.635mmのものを使用した。
【0053】
回路層は、純度99mass%以上の2Nアルミニウムの圧延板(37mm×37mm、厚さ0.6mm)をAl−7.5mass%Siろう材を用いてセラミックス基板に接合することによって形成した。
金属層は、表1に示すアルミニウム材料からなる圧延板(37mm×37mm、厚さ0.6mm)をAl−7.5mass%Siろう材を用いてセラミックス基板に接合することによって形成した。
ヒートシンクは、表2記載の材質で構成され、50mm×50mm、厚さ5mmのものを使用した。
金属層とヒートシンクとの固相拡散接合は、表3に示す条件で実施した。
【0054】
また、従来例1から3として次のヒートシンク付パワーモジュール用基板を作製した。
回路層となる2Nアルミニウムの圧延板(37mm×37mm、厚さ0.6mm)とAlNで構成されたセラミックス基板(40mm×40mm、厚さ0.635mm)と金属層となる4Nアルミニウムの圧延板(37mm×37mm、厚さ0.6mm)とを、Al−7.5mass%Siろう材を介して積層し、積層方向に5kgf/cm
2で加圧した状態で、真空加熱炉内に装入し、650℃で30分加熱することによって接合し、パワーモジュール用基板を作製した。
【0055】
そして、従来例1では、パワーモジュール用基板とNiめっきを施したヒートシンク(A6063の圧延板、50mm×50mm、厚さ5mm)とをSn−Ag−Cuはんだを介して接合した。
従来例2では、パワーモジュール用基板とヒートシンク(A6063の圧延板、50mm×50mm、厚さ5mm)とをAl−10mass%Siろう材を介して接合した。
従来例3では、パワーモジュール用基板とヒートシンク(A6063の圧延板、50mm×50mm、厚さ5mm)とをCu箔(厚さ:200μm)を介して固相拡散接合した。
【0056】
(含有元素の拡散距離)
得られた本発明例のヒートシンクと金属層との接合界面近傍の断面観察を行い、低純度アルミニウム材料側から高純度アルミニウム材料側へのAl以外の含有元素の拡散距離を測定した。評価結果を表4に示す。
含有元素の拡散距離は、低純度アルミニウム材料と高純度アルミニウム材料の接合界面から高純度アルミニウム材料側に向かってEPMA(日本電子株式会社社製JXA−8530F)によるライン分析を行い、距離と含有元素濃度を測定し、含有元素濃度が半分となる距離を拡散距離とした。
【0057】
(ヒートサイクル試験)
ヒートサイクル試験は、冷熱衝撃試験機エスペック社製TSB−51を使用し、試験片(ヒートシンク付パワーモジュール)に対して、液相(フロリナート)で、−40℃×5分←→150℃×5分のヒートサイクルを4000回実施した。
そして、ヒートサイクル試験前後の接合率を以下のようにして評価した。また、ヒートサイクル試験後のセラミックス割れの有無を目視で評価した。評価結果を表4に示す。
【0058】
(接合率)
金属層とヒートシンクとの接合率は、超音波探傷装置(日立パワーソリューションズ社製FineSAT200)を用いて以下の式を用いて求めた。ここで、初期接合面積とは、接合前における接合すべき面積(37mm角)とした。超音波探傷像を二値化処理した画像において剥離は接合部内の白色部で示されることから、この白色部の面積を剥離面積とした。
(接合率)={(初期接合面積)−(剥離面積)}/(初期接合面積)
【0059】
【表1】
【0060】
【表2】
【0061】
【表3】
【0062】
【表4】
【0063】
従来例1では、ヒートサイクル試験後に接合率が大きく低下した。ヒートサイクルによってはんだ層にクラックが発生したためと推測される。
従来例2では、ヒートサイクル試験後に接合率が低下し、セラミックス基板に割れが確認された。
また、金属層とヒートシンクとを同じ純度のアルミニウム材料で構成した比較例1−3においては、上述の固相拡散条件では、金属層とヒートシンクとを接合することができなかった。
【0064】
これに対して、本発明例によれば、いずれもヒートサイクル後に接合率が大きく上昇しておらず、また、セラミックス割れも確認されておらず、接合信頼性に優れている。
以上のことから、本発明によれば、ヒートサイクルが負荷された場合であっても接合界面においてクラック等が生じることを抑制できるヒートシンク付パワーモジュール用基板を製造可能であることが確認された。