特許第6332154号(P6332154)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 横河電機株式会社の特許一覧

特許6332154プラント運転支援装置、プラント運転支援方法、及びプログラム
<>
  • 特許6332154-プラント運転支援装置、プラント運転支援方法、及びプログラム 図000002
  • 特許6332154-プラント運転支援装置、プラント運転支援方法、及びプログラム 図000003
  • 特許6332154-プラント運転支援装置、プラント運転支援方法、及びプログラム 図000004
  • 特許6332154-プラント運転支援装置、プラント運転支援方法、及びプログラム 図000005
  • 特許6332154-プラント運転支援装置、プラント運転支援方法、及びプログラム 図000006
  • 特許6332154-プラント運転支援装置、プラント運転支援方法、及びプログラム 図000007
  • 特許6332154-プラント運転支援装置、プラント運転支援方法、及びプログラム 図000008
  • 特許6332154-プラント運転支援装置、プラント運転支援方法、及びプログラム 図000009
  • 特許6332154-プラント運転支援装置、プラント運転支援方法、及びプログラム 図000010
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6332154
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】プラント運転支援装置、プラント運転支援方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G05B 23/02 20060101AFI20180521BHJP
【FI】
   G05B23/02 H
【請求項の数】9
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2015-117988(P2015-117988)
(22)【出願日】2015年6月11日
(65)【公開番号】特開2017-4278(P2017-4278A)
(43)【公開日】2017年1月5日
【審査請求日】2016年8月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100146835
【弁理士】
【氏名又は名称】佐伯 義文
(74)【代理人】
【識別番号】100167553
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 久典
(74)【代理人】
【識別番号】100181124
【弁理士】
【氏名又は名称】沖田 壮男
(72)【発明者】
【氏名】柏 良輔
(72)【発明者】
【氏名】竹中 梓
(72)【発明者】
【氏名】尾又 俊彰
(72)【発明者】
【氏名】石丸 新
(72)【発明者】
【氏名】仲矢 実
【審査官】 影山 直洋
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−009301(JP,A)
【文献】 特開2007−115176(JP,A)
【文献】 特開2002−268734(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラントから得られる情報に基づいて、前記プラントで生成される製品の品質を決める成分の濃度をシミュレーションにより予測するプラント運転支援装置であって、
前記プラントを限界運転させる際の運転条件及び当該運転条件を適用する複数のタイミングを予め設定する運転条件設定部と、
前記運転条件設定部により予め設定された前記運転条件を前記複数のタイミングで適用した場合の、前記プラントの特定の時点から将来にわたる過渡的な動作状態を前記シミュレーションにより予測し、この動作状態における前記濃度を予測した結果を時系列にグラフ化したトレンドグラフを生成する過渡状態予測部と
前記過渡状態予測部で生成された前記トレンドグラフを、前記製品の製品仕様の限界値とともに同一画面内に表示する表示部と、
を備えるプラント運転支援装置。
【請求項2】
前記運転条件設定部は、
前記複数のタイミングで適用する前記プラントの複数の運転条件を設定可能であり、
前記過渡状態予測部は、
前記運転条件設定部により複数の運転条件が設定された場合、当該複数の運転条件を前記複数のタイミングで適用した場合の、前記過渡的な動作状態を予測する、
請求項1に記載のプラント運転支援装置。
【請求項3】
前記過渡的な動作状態を予測する時間の範囲を設定する予測範囲設定部、を備え、
前記過渡状態予測部は、
予測範囲設定部により設定された時間範囲について、前記過渡的な動作状態を予測する、
請求項1または請求項2に記載のプラント運転支援装置。
【請求項4】
前記運転条件設定部は、
前記運転条件及び当該運転条件を適用するタイミングの入力を、複数のケース毎に設定し、
前記過渡状態予測部は、
前記ケース毎に、前記過渡的な動作状態を予測する、
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のプラント運転支援装置。
【請求項5】
前記過渡状態予測部は、
前記ケース毎の前記過渡的な動作状態の予測結果から、前記ケース毎に分けたトレンドグラフを生成する、
を備える請求項4に記載のプラント運転支援装置。
【請求項6】
前記過渡状態予測部は、
前記ケース毎の前記過渡的な動作状態の予測結果から、ひとつにまとめたトレンドグラフを生成する、
を備える請求項4に記載のプラント運転支援装置。
【請求項7】
前記プラントに対する操作を示すシナリオであって、前記プラント内の制御対象を示す所定のタグが登録された複数のシナリオが予め設定されており、
前記運転条件設定部は、
前記複数のシナリオから選択されたシナリオに登録されている所定のタグの運転条件及び当該運転条件を適用するタイミングを、ユーザの操作入力に応じて設定し、
前記過渡状態予測部は、
前記選択されたシナリオに登録されている所定のタグの運転条件を前記タイミングで適用した場合の、前記過渡的な動作状態を予測する、
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載のプラント運転支援装置。
【請求項8】
プラントから得られる情報に基づいて、前記プラントで生成される製品の品質を決める成分の濃度をシミュレーションにより予測するプラント運転支援装置におけるプラント運転支援方法であって、
前記プラントを限界運転させる際の運転条件及び当該運転条件を適用する複数のタイミングを予め設定するステップと、
予め設定した前記運転条件を前記複数のタイミングで適用した場合の、前記プラントの特定の時点から将来にわたる過渡的な動作状態を前記シミュレーションにより予測し、この動作状態における前記濃度を予測した結果を時系列にグラフ化したトレンドグラフを生成するステップと、
生成した前記トレンドグラフを、前記製品の製品仕様の限界値とともに同一画面内に表示するステップと、
を含むプラント運転支援方法。
【請求項9】
コンピュータに、
製品を生成するプラントを限界運転させる際の運転条件及び当該運転条件を適用する複数のタイミングを予め設定するステップと、
予め設定された前記運転条件を前記複数のタイミングで適用した場合の、前記プラントの特定の時点から将来にわたる過渡的な動作状態シミュレーションにより予測し、この動作状態における、前記製品の品質を決める成分の濃度を予測した結果を時系列にグラフ化したトレンドグラフを生成するステップと、
生成された前記トレンドグラフを、前記製品の製品仕様の限界値とともに同一画面内に表示するステップと、
を実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラント運転支援装置、プラント運転支援方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
プラントの内部に設けられた各種計測機器や調整機器等のフィールド機器から収集されるプラントの実測データに基づいて、プラントの動作をシミュレーションする技術がある。例えば、プラントの運転条件を変更してシミュレーションする技術として、定常シミュレータによる予測方法がある。定常シミュレータは、運転条件を変更した際のプラントの動作状態の最終的な落ち着き先(定常状態)を予測するものである。
【0003】
ところで、プラントのランニングコストの削減のためには、製品仕様の限界付近での運転(以下、「限界運転」ともいう)が必要になる。しかし、定常シミュレータでは、最終的な動作状態の予測は可能であるが、過渡状態において、プラントの動作が一時的に製品仕様を外れて限界を越えてしまう場合があっても、それを予測することができない。マージンを大きく取った運転条件では過渡状態での変化を考慮する必要性は小さかったが、限界運転の条件でプラントオペレーションを行うためには過渡状態も含めた予測が必要になる。例えば、特許文献1には、将来の予測値を時系列データでグラフ化したトレンドグラフによりシミュレーション結果を表示する技術が開示されている。そして、特許文献2には、プラントの操作を実際に行うことなく、当該操作の内容に応じたプラントの運転状況の予測値を提供する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014−167706号公報
【特許文献2】特開2007−115176号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2に記載の技術では、仮想操作を行い、過渡状態の予測を行うことはできるが、過渡状態で一時的に限界を越えてしまった場合には、結局マージンを大きく取った運転条件とするか、或いは、過渡状態においても限界を越えないように、小刻みに運転条件を変更して繰り返しシミュレーションを行なわなければならなかった。また、特許文献1においても同様に、過渡状態で一時的に限界を越えてしまった場合に、それを解決する効果的な方法は示されていない。
【0006】
本発明は、上記した事情に鑑みてなされたもので、プラントを限界運転させる際の運転条件を効率よくシミュレーションすることができるプラント運転支援装置、プラント運転支援方法、及びプログラムを提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の一態様は、プラントから得られる情報に基づいて、前記プラントの動作をシミュレーションするプラント運転支援装置であって、前記プラントの運転条件及び当該運転条件を適用するタイミングを設定する運転条件設定部と、前記運転条件設定部により設定された前記プラントの運転条件を前記タイミングで適用した場合の、前記プラントの特定の時点から将来にわたる過渡的な動作状態を予測する過渡状態予測部と、を備えるプラント運転支援装置である。
【0008】
また、本発明の一態様は、上記プラント運転支援装置において、前記運転条件設定部は、異なるタイミングで適用する前記プラントの複数の運転条件を設定可能であり、前記過渡状態予測部は、前記運転条件設定部により複数の運転条件が設定された場合、当該複数の運転条件をそれぞれの前記タイミングで適用した場合の、前記過渡的な動作状態を予測する。
【0009】
また、本発明の一態様は、上記プラント運転支援装置は、前記過渡的な動作状態を予測する時間の範囲を設定する予測範囲設定部、を備え、前記過渡状態予測部は、予測範囲設定部により設定された時間範囲について、前記過渡的な動作状態を予測する。
【0010】
また、本発明の一態様は、上記プラント運転支援装置において、前記運転条件設定部は、前記プラントの運転条件及び当該運転条件を適用するタイミングの入力を、複数のケース毎に設定し、前記過渡状態予測部は、前記ケース毎に、前記過渡的な動作状態を予測する。
【0011】
また、本発明の一態様は、上記プラント運転支援装置において、前記過渡状態予測部は、前記ケース毎の前記過渡的な動作状態の予測結果のそれぞれを、前記ケース毎に分けたグラフ情報として生成する。
【0012】
また、本発明の一態様は、上記プラント運転支援装置において、前記過渡状態予測部は、前記ケース毎の前記過渡的な動作状態の予測結果のそれぞれを、ひとつにまとめたグラフ情報として生成する。
【0013】
また、本発明の一態様は、上記プラント運転支援装置において、前記プラントに対する操作を示すシナリオであって、前記プラント内の制御対象を示す所定のタグが登録された複数のシナリオが予め設定されており、前記運転条件設定部は、前記複数のシナリオから選択されたシナリオに登録されている所定のタグの運転条件及び当該運転条件を適用するタイミングを、ユーザの操作入力に応じて設定し、前記過渡状態予測部は、前記選択されたシナリオに登録されている所定のタグの運転条件を前記タイミングで適用した場合の、前記過渡的な動作状態を予測する。
【0014】
また、本発明の一態様は、プラントから得られる情報に基づいて、前記プラントの動作をシミュレーションするプラント運転支援装置におけるプラント運転支援方法であって、前記プラントの運転条件及び当該運転条件を適用するタイミングを設定するステップと、設定した前記プラントの運転条件を前記タイミングで適用した場合の、前記プラントの特定の時点から将来にわたる過渡的な動作状態を予測するステップと、を含むプラント運転支援方法である。
【0015】
また、本発明の一態様は、プラントから得られる情報に基づいて、コンピュータに、プラントの運転条件及び当該運転条件を適用するタイミングを設定するステップと、設定された前記プラントの運転条件を前記タイミングで適用した場合の、前記プラントの特定の時点から将来にわたる過渡的な動作状態を予測するステップと、を実行させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、プラントを限界運転させる際の運転条件を効率よくシミュレーションすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】プラント制御システムの一例を示すシステム図である。
図2】プラント運転支援装置の概略構成の一例を示すブロック図である。
図3】解析モデルの過渡状態予測に関する構成の一例を示す図である。
図4】過渡状態予測処理の一例を示すフローチャートである。
図5】シナリオ選択画面の表示例を示す図である。
図6】条件設定画面が含まれる操作表示画面の表示例を示す図である。
図7】予測中の操作表示画面の一例を示す図である。
図8】予測結果表示画面が表示される操作表示画面の一例を示す図である。
図9】過渡状態予測の途中で運転条件を変更する場合の操作表示画面の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
[プラント制御システム1の全体構成]
図1は、本実施形態によるプラント運転支援装置300が用いられるプラント制御システム1の一例を示すシステム図である。プラント制御システム1は、プラント100(実プラント)の監視、動作状態のシミュレーション、制御等を行う制御システムである。
【0019】
プラント100としては、例えば、化学等の工業プラントの他、ガス田や油田等の井戸元やその周辺を管理制御するプラント、水力・火力・原子力等の発電を管理制御するプラント、太陽光や風力等の環境発電を管理制御するプラント、上下水やダム等を管理制御するプラント等がある。
【0020】
プラント制御システム1は、プラント操作監視装置200と、FCS210と、プラント運転支援装置300と、制御バス11と、通信バス12と、ゲートウェイ15とを含んで構成される。
【0021】
プラント操作監視装置200は、プラント100の操作及び監視を行うHIS(Human Interface Station)としてのコンピュータ装置であり、オペレータが操作を行う操作部と、プラント100の各部の操作及び監視状態等を表示する表示部とを含んで構成されている。
【0022】
FCS210(FCS:Field Control Station)は、プラント制御を行うコントローラであり、プラント100内のフィールド機器(不図示)からデータ(情報)を収集するとともに、プラント操作監視装置200からの指示に応じてプラント100が備える機器や装置を制御する。
【0023】
フィールド機器とは、例えば、流量計や温度センサ等のセンサ機器、流量制御弁や開閉弁等のバルブ機器、ファンやモータ等のアクチュエータ機器、プラント内の状況や対象物を撮影するカメラやビデオ等の撮像機器、プラント内の異音等を収集したり警報音等を発したりするマイクやスピーカ等の音響機器、各機器の位置情報を出力する位置検出機器、その他の機器である。
【0024】
制御バス11は、プラント操作監視装置200とFCS210との間をつなぐ制御用のバスである。通信バス12は、プラント操作監視装置200と、プラント運転支援装置300との間をつなぐ通信用のバスである。ゲートウェイ15は、制御バス11で伝送されるデータを通信バス12へ流すためのプロトコル変換を行う。
【0025】
FCS210が収集したプラント100内の各フィールド機器のデータは、制御バス11を介してプラント操作監視装置200に伝送されるとともに、制御バス11、ゲートウェイ15、及び通信バス12を介してプラント運転支援装置300に伝送される。
【0026】
プラント運転支援装置300は、プラント100から得られる情報に基づいて、プラント100の動作をシミュレーションするコンピュータ装置である。例えば、プラント運転支援装置300は、FCS210が収集したプラント100内の各フィールド機器のデータに基づいて、プラント100の動作をシミュレーションする。プラント運転支援装置300に対する操作や、プラント運転支援装置300によるシミュレーション結果の表示は、通信バス12を介して接続されるプラント操作監視装置200で行われる。
【0027】
[プラント運転支援装置300の構成]
図2は、プラント運転支援装置300の概略構成の一例を示すブロック図である。プラント運転支援装置300は、ミラーモデル310と、同定モデル320と、解析モデル330とを含んで構成されている。このミラーモデル310と、同定モデル320と、解析モデル330とのそれぞれは、それぞれの機能を実現するための制御プログラムがプラント運転支援装置300において実行されることにより実現される機能構成である。
【0028】
プラント運転支援装置300は、プラント100からFCS210を介してデータ(測定データ等)を取り込む。ミラーモデル310は、プラント100と同期して並行に動作し、プラント100からデータを取得しながらシミュレーションすることにより、プラント100の挙動を模擬し、同時にプラント100内で計測されていない状態量を推定し、プラント100内部を可視化する。
【0029】
同定モデル320は、ミラーモデル310をプラント100の実測データに合わせこむために、プラント100から取得するデータに基づいて定期的に機器の性能パラメータの推定を行う。
【0030】
解析モデル330は、ミラーモデル310が模擬するプラント100の挙動に基づいて、プラント100の将来の動作状態の予測などを行う。例えば、解析モデル330は、定常状態予測、過渡状態予測、及び予防診断(異常診断)等を行う。
【0031】
定常状態予測は、プラント100の運転条件(設定値)を変更した場合の無限時間経過後の動作状態の予測、即ち、動作状態の最終的な落ち着き先である定常状態の予測である。解析モデル330は、現在のプラント100の挙動を表す状態を初期状態として、設定値を変更した場合での定常状態の予測を行う。例えば、定常状態予測をプラント100の蒸留塔に適用したとすると、解析モデル330は、蒸留塔のフィード流量を初期状態に対して30%低下させ、且つ還流比及び塔底の温度設定値を初期状態と同じとした場合、定常状態に至った場合での塔頂で観測される製品の品質を決める不純物成分の濃度の定常状態を予測することができる。
【0032】
過渡状態予測は、プラント100の現在の運転条件(設定値)を維持した場合、または現在の運転条件(設定値)から変更した場合の現在から将来にわたる過渡的な動作状態の予測、即ち、プラント100の過渡状態の予測である。例えば、解析モデル330は、現在のプラント100の挙動を表す状態を初期状態として、設定値を変更した場合での過渡状態の予測を行う。具体的には、解析モデル330は、ミラーモデル310からそのプラント100の動作状態の初期状態を取得して解析モデル上で予測計算を行い、予測結果を時系列にグラフ化したトレンドグラフを生成する。
【0033】
[過渡状態予測の詳細]
以下、過渡状態予測部333が実行する過渡状態予測に関して詳しく説明する。
図3は、解析モデル330の過渡状態予測に関する構成の一例を示す図である。解析モデル330は、運転条件設定部331と、予測範囲設定部332と、過渡状態予測部333と、出力部334と、入力部335と、を備えている。
【0034】
運転条件設定部331は、過渡状態予測に用いるプラント100の運転条件を設定する。また、運転条件設定部331は、プラント100の運転条件と、その運転条件を適用するタイミングを設定することもできる。つまり、運転条件設定部331は、過渡状態予測の途中の任意のタイミングで変更する運転条件を、予め設定しておくことができる。また、運転条件設定部331は、複数の運転条件を異なるタイミングで適用するように設定することも可能である。
【0035】
予測範囲設定部332は、プラント100の過渡状態を予測する時間の範囲(以下、「予測範囲」ともいう)を設定する。例えば、予測範囲設定部332は、現在時刻から開始した過渡状態予測を終了するまでの時間を予測範囲として設定する。
【0036】
過渡状態予測部333は、運転条件設定部331により設定された運転条件に基づいて、予測範囲設定部332により設定された予測範囲についてのプラント100の過渡状態を予測する。例えば、運転条件設定部331により、運転条件と、その運転条件を適用するタイミングが設定された場合、過渡状態予測部333は、設定された運転条件を、その運転条件を適用するタイミングで適用した場合の、プラント100の過渡状態を予測する。つまり、過渡状態予測部333は、過渡状態予測の途中の任意のタイミングで運転条件を変更して予測を継続することができる。また、運転条件設定部331により複数の運転条件が設定された場合、過渡状態予測部333は、複数の運転条件をそれぞれのタイミングで適用した場合の、プラント100の過渡状態を予測する。
そして、過渡状態予測部333は、上記のように予測した過渡状態の予測結果(シミュレーション結果)を時系列にグラフ化したトレンドグラフを生成する。
【0037】
出力部334は、運転条件設定部331が設定する運転条件の入力や、予測範囲設定部332が設定する予測範囲の入力等が可能な画面(以下、「条件設定画面」ともいう)、及び過渡状態予測部333が予測した予測結果(シミュレーション結果)が表示される画面(以下、「予測結果表示画面」ともいう)等を、通信バス12を介してプラント操作監視装置200に出力する。出力された条件設定画面、及び予測結果表示画面等は、プラント操作監視装置200の表示部に表示される。
【0038】
また、プラント操作監視装置200の表示部に表示された条件設定画面及び予測結果表示画面等に対する操作内容は、通信バス12を介してプラント操作監視装置200からプラント運転支援装置300に送信される。
【0039】
入力部335は、プラント操作監視装置200から送信される操作内容を取得する。例えば、運転条件設定部331は、条件設定画面に対する操作内容に基づいて、運転条件及びその運転条件を適用するタイミングを設定する。また、予測範囲設定部332は、条件設定画面に対する操作内容に基づいて、予測範囲を設定する。
【0040】
(過渡状態予測処理の具体例)
次に、図4図9を参照して、解析モデル330が実行する過渡状態予測処理の具体例を説明する。図4は、本実施形態に係る過渡状態予測処理の一例を示すフローチャートである。また、図5図9は、過渡状態予測処理の中で表示される表示画面例を示す図である。
【0041】
過渡状態予測は、シナリオ別に行うことができる。シナリオとは、ユーザの操作目的による分類を示す。例えば、シナリオには、銘柄を切り換えるシナリオや、生産量を変更するシナリオなどがある。過渡状態予測処理では、まず、解析モデル330は、シナリオ選択画面を表示させる(図4のステップS100)。
【0042】
図5は、シナリオ選択画面の表示例を示す図である。図示するシナリオ選択画面G10には、過渡状態予測を行う事例(ケーススタディ)として選択可能な複数のシナリオが表示されている。ユーザは、その中から目的とするシナリオを選択することができる。
【0043】
シナリオ選択画面G10においてシナリオが選択されると、解析モデル330は、選択されたシナリオの条件設定画面を表示させる。ここで、各シナリオには、各シナリオで運転条件の変更が可能なタグのみが登録されている。タグとは、プラント10内の制御対象を示す情報である。このタグは、無数に存在するためにその中からタグを選び出し設定するには大きな労力を必要とする。本実施形態では、運転条件の変更が可能なタグが予め定義されたシナリオを用いることで、ユーザの操作の煩雑性を排除し、操作性が向上している。
【0044】
例えば、各シナリオと各シナリオで運転条件の変更が可能なタグとの組み合わせは、解析モデル330において定義データとして予め登録されている。解析モデル330は、この定義データを参照して、選択されたシナリオで変更が可能なタグの運転条件の設定が可能な条件設定画面が含まれる操作表示画面を生成して表示させる(図4のステップS102)。
【0045】
図6は、条件設定画面が含まれる操作表示画面の表示例を示す図である。図示する操作表示画面G11において、画面下段の符号f20が示す領域に、過渡状態予測を行う運転条件を設定する条件設定画面が表示される。一方、画面上段の符号f10が示す領域には、条件設定画面において設定された運転条件の設定内容が表示される設定内容画面が表示される。
【0046】
なお、符号f20が示す領域では、条件設定画面の表示と予測結果表示画面の表示とが、タブ(TAB20〜TAB24)で切り替え可能である。タブTAB20は、条件設定画面を表示させるタブである。本実施形態では、条件設定画面において、最大3つのケース(ケース1、2、3)について運転条件を設定することができる。
【0047】
一方、タブTAB21〜タブTAB24は、条件設定画面において設定された運転条件で過渡状態予測を行った予測結果が表示される予測結果表示画面を表示させるタブである。予測結果表示画面はケース毎に表示可能である。タブTAB21、タブTAB22、及びタブTAB23のそれぞれは、ケース1、ケース2、及びケース3のそれぞれの予測結果表示画面を表示させるタブである。また、タブTAB24は、ケース1、2、3の3つの予測結果を比較可能にまとめて表示可能な予測結果表示画面を表示させるタブである。
【0048】
ここでは、条件設定画面が表示されるタブTAB20(予測条件設定)が選択されている。また、タグリストP20には、定義データに予め登録されているシナリオとタグとの組み合わせに基づいて、選択されたシナリオで運転条件の変更が可能なタグが選択可能に表示される。
【0049】
条件設定画面では、ケース毎に、基準時刻、予測範囲、及び運転条件の設定がユーザの操作により行われる。例えば、図6に示す例では、ケース1、2、3の3つのケースを設定することができ、基準時刻、予測範囲、及び運転条件は、ケース毎に任意に設定可能である。これにより、運転条件を変更して予測した3回分の過渡状態の予測結果を比較することができる。
【0050】
まず、図6のプルダウンメニューP21に対するユーザの操作により、ケース1、2、3のうちいずれかのケースが選択される。ここでは、ケース1が選択されており、解析モデル330は、ケース1の運転条件の設定を行う(図4のステップS104)。
【0051】
次に、図6のラジオボタンP22に対するユーザの操作により、過渡状態予測を行う際の基準時刻として、現在時刻と前回時刻とのいずれかが選択される。現在時刻は、現在のプラント100の動作状態を初期状態とする場合に選択される。一方、前回時刻は、前回の基準時刻の動作状態を初期状態とする場合に選択される。なお、1回目の設定では、現在時刻のみが選択可能であるが、過渡状態予測を1回行えば、2回目以降は、前回時刻も選択可能となる。
【0052】
例えば、現在時刻が選択されている状態で、図6の読込ボタンP23が押下されると、解析モデル330は、読込ボタンP23が押下されたタイミングの動作状態をミラーモデル310から読み込み初期状態とする(図4のステップS106)。一方、前回時刻が選択されている状態で、図6の読込ボタンP23が押下されると、解析モデル330は、前回(直前)の過渡状態予測で用いた初期状態を読み込む(図4のステップS108)。
また、読込ボタンP23が押下されると、操作表示画面G11の下部のステータスバーP28には「読込中」と表示され、初期状態を取得すると「基準値読込完了」と表示される。
【0053】
解析モデル330は、基準時刻の動作状態を読み込むと、条件設定画面の基準時刻値に読み込み値を反映する(図4のステップS110)。例えば、図6に示す例では、タグリストP20の中から選択されたタグのSV(Set Value)の読み込み値が基準時刻値として表示される(符号P24が示す箇所)。ここでは、タグリストP20の中から「FC502」のタグが選択されている。例えば「FC502」はフィード流量を変更するためのタグである。
【0054】
次に、図6のプルダウンメニューP25に対するユーザの操作により、予測範囲の時間が設定される。解析モデル330は、ユーザにより設定された予測範囲(ここでは、1時間00分)を、過渡状態予測を行う予測範囲として設定する(図4のステップS112)。
【0055】
続いて、ユーザは、選択されたタグのSVの設定値、即ち、過渡状態予測を行う運転条件を、入力ボックスP26に入力する。解析モデル330は、ユーザにより入力されたSVの設定値を、過渡状態予測で用いる条件として設定する(図4のステップS114)。
【0056】
なお、条件設定画面において、ここまでに設定された各項目は、画面上で設定された状態であり、図6の適用ボタンP27が押下されることで、ひとつのケースの運転条件の設定として登録される。例えば、すべての条件の設定がされて適用ボタンP27が押下されると、選択されたケース(ここでは、ケース1)の運転条件の設定として、解析モデル330は、基準時刻の初期状態(ここでは、現在時刻の動作状態)、予測範囲(ここでは、1時間00分)、及びSVの設定値を登録する。これにより、設定された条件が予測条件として適用される(図4のステップS116)。
【0057】
また、適用ボタンP27が押下されることで、選択されたケース(ここでは、ケース1)の運転条件の設定が登録されると、その登録された設定内容が、図6の符号f10の領域の設定内容画面に表示される。この設定内容画面では、ケース1、2、3の各設定内容の表示をタブ(TAB11〜TAB13)で切り替え可能である。
【0058】
なお、登録した内容を変更したい場合には、設定内容画面で変更したい設定内容を選択すると、選択された設定内容が条件設定画面に再表示され、設定の変更が可能になる。設定を変更した場合には再び適用ボタンP27を押下することで、変更した設定が登録される。また、登録された設定内容を消去したい場合には、設定内容画面で消去したい設定内容を選択し、操作マウスの右クリックメニューから削除を選択すること等で消去することができる。
【0059】
また、登録された設定内容が設定内容画面に表示されると、設定内容画面内の予測開始ボタンP10が有効になり予測開始ボタンP10への操作が可能になる。なお、設定内容画面へ登録内容がひとつでも反映されると、予測開始ボタンP10が有効になる。予測開始ボタンP10が押下されると、解析モデル330は、その登録された設定内容の予測条件(ここでは、ケース1で設定された条件)を用いて、過渡状態予測を実行する(図4のステップS118)。
【0060】
次に、解析モデル330は、過渡状態予測を実行すると、予測の実行中においては、図7に示す操作表示画面G12を表示する(図4のステップS120)。図7は、予測中の操作表示画面G12の一例を示す図である。予測中の操作表示画面G12では、画面の下段の符号f20の領域には、予測中の途中結果を随時更新しながら表示する予測結果表示画面が表示される。ここでは、タブTAB21が選択され、ケース1の予測結果表示画面が表示されている。また、予測中の操作表示画面G12の下部のステータスバーP28には、「ケース1の予測中」と表示され、予測が完了すると、「ケース1予測完了」と表示される。
【0061】
符号f20の領域に表示される予測結果表示画面内の符号f21の領域には、過渡状態の予測結果を時系列にグラフ化したトレンドグラフが表示される。このトレンドグラフにおいて横軸tは時間軸(年月日及び時刻)であり、縦軸dはデータ値軸である。また、横軸tの左端が基準時刻である。このトレンドグラフの予測値K1は、ケース1による予測結果のトレンドを表しており、基準時刻からしばらくの間は限界値Kthを下回っているが、途中から限界値Kthを越えている。即ち、このトレンドグラフから、予測値K1となる運転条件は、好ましくない条件であることがわかる。
【0062】
また、トレンドグラフの下側の符号f22の領域には、トレンドグラフに表示する仮想アイテムを選択できる仮想アイテム選択画面が表示される。仮想アイテムとは、プラント運転支援装置300で扱うタグに対応する。チェックボックスで選択された一または複数の仮想アイテムをトレンドグラフに表示できる。
【0063】
また、過渡状態予測の実行中は、予測開始ボタンP10が無効になり、予測中止ボタンP11が有効になる。予測中止ボタンP11が押下されると、解析モデル330は、実行中の過渡状態予測を中止する(図4のステップS122)。そして、解析モデル330は、図7に示す操作表示画面G12において、中止されるまでの途中の予測結果を表示させる(図4のステップS126)。このとき、予測中止ボタンP11が無効になり、予測開始ボタンP10が有効になる。
【0064】
一方、図4のステップS120で実行中であった過渡状態予測が、設定された予測範囲の終わりまで完了すると(図4のステップS124)、解析モデル330は、図7に示す操作表示画面G12において、最後まで完了した予測結果表示画面を表示する(図4のステップS126)。
【0065】
次に、解析モデル330は、ユーザの操作により、過渡状態予測が終了されたか否かを判定する(図4のステップS128)。過渡状態予測が終了された場合(YES)、解析モデル330は、過渡状態予測処理を終了する。一方、過渡状態予測が終了されずに、引き続き次のケースの予測が行われる場合には(NO)、図4のステップS104の処理に戻る。そして、解析モデル330は、条件設定画面が表示される操作表示画面G11(図6参照)において、プルダウンメニューP21に対するユーザの操作により、選択されたケースの運転条件の設定を行う。
【0066】
このようにして、解析モデル330は、最大で3つのケースまで、過渡状態予測を行うことができる。なお、本実施形態では3つのケースとしているが、3つのケースに限定されるものではない。
【0067】
ここで、図8を参照して、予測結果表示画面の他の例について説明する。図8に示す操作表示画面G13は、タブTAB24が選択されたときの予測結果表示画面が表示される例である。図示する予測結果表示画面では、仮想アイテム毎に、ケース1、2、3の予測結果を比較可能にまとめて表示可能である。例えば、このときトレンドグラフに表示できるのはひとつの仮想アイテムについての予測結果である。トレンドグラフの下側の符号f22の領域に表示される仮想アイテム選択画面において、図7ではチェックボックスにより複数の仮想アイテムの選択が可能であったが、この図8ではラジオボタンとなり、一つの仮想アイテムのみの選択が可能となる。また、トレンドグラフの上部のプルダウンメニューP29は、ケースの選択が可能であり、選択されたケースの予測値のトレンドが強調表示される。また、3つのケースで予測範囲は任意に変えることができるため、3つのケースで予測範囲が異なる場合には、横軸tの開始点(基準時刻)は3つのケースのうち最も過去の基準時刻(予測開始時刻)から始まり、終了点は3つのケースのうち予測完了時刻が最も遅い時刻となる。
【0068】
図8に示す予測結果表示画面の例では、選択された仮想アイテムについて、ケース1による予測結果のトレンドを表す予測値K1と、ケース2による予測結果のトレンドを表す予測値K2と、ケース3による予測結果のトレンドを表す予測値K3とのそれぞれがトレンドグラフに表示されている。ケース1による予測値K1は、例えば1回目の予測で、予測範囲の途中の過渡状態で限界値Kthを越えている例である。ケース2による予測値K2は、1回目の予測結果に基づいて予測値K1よりはデータ値が下がるように運転条件を設定したが、途中で限界値Kthをぎりぎり越えてしまったために、予測範囲の途中で予測が中止された例である。
【0069】
ここで、ケース1及びケース2は、図6に示す操作表示画面G11において設定された運転条件で、基準時刻からプラント100を運転した場合の過渡状態の予測であるが、本実施形態では、過渡状態予測の途中の任意のタイミングで運転条件を変更して予測を継続することができる。即ち、過渡状態予測の途中で運転条件を変更することで、過渡状態及び定常状態のいずれも限界を超えることなく且つ限界ぎりぎりを狙った限界運転が可能な運転条件をシミュレーションすることができる。
【0070】
ケース3による予測値K3は、過渡状態予測の途中で運転条件を変更した場合の予測結果の一例である。図示する例では、一定時間後に還流比を変更するタグ「CSOP01」について、基準時刻の120分後に、再設定値4.94に変更される条件で過渡状態予測が行われたものである。この予測値K3は、予測範囲内で限界値Kthを越えておらず、且つ定常状態でも限界値Kth越えずに落ち着いており、この中では、最も好ましい運転条件であるといえる。
【0071】
(過渡状態予測の途中で運転条件を変更する場合の条件設定方法)
次に、過渡状態予測の途中で運転条件を変更して予測を行う場合の条件設定方法を説明する。図9は、過渡状態予測の途中で運転条件を変更する場合の操作表示画面の一例を示す図である。この図9に示す操作表示画面G14において、符号f20の領域に表示されている条件設定画面では、タグリストP20の中から、過渡状態予測の途中で運転条件を変更するためのタグが選択されている。この途中で運転条件を変更するためのタグは、運転条件と、その運転条件を適用するタイミングとを設定することができるタグである。
【0072】
図示する例では、タグリストP20の中から「CSOP01」のタグが選択されている。上述したように「CSOP01」は、一定時間後に還流比を変更するタグである。入力ボックスP30には、過渡状態予測の途中で変更する設定値(再設定値)が入力され、入力ボックスP31には、その設定値を適用するタイミング(再設定時間)が入力される。
【0073】
なお、タグリストP20のうち「CSOP01」〜「CSOP06」は、過渡状態予測の途中で運転条件を変更するためのタグである。「CSOP01」〜「CSOP06」のそれぞれを選択し、それぞれのタグについて再設定値と再設定時間とを入力することも可能である。即ち、異なるタイミングで提供する複数の運転条件を設定することも可能である。
【0074】
例えば、図4に示す過渡状態予測処理のステップS114において、入力ボックスP30と入力ボックスP31とのそれぞれに再設定値と再設定時間とが入力されると、解析モデル330は、ユーザにより入力された再設定値と再設定時間とを、過渡状態予測で用いる条件として設定する。
【0075】
その後、適用ボタンP27が押下されると、解析モデル330は、入力された再設定値と再設定時間とを、ケース2の予測条件として登録する(図4のステップS116)。続いて、予測開始ボタンP10が押下されると、解析モデル330は、その登録された設定内容の条件(ここでは、ケース2で設定された条件)を用いて、過渡状態予測を実行する(図4のステップS118)。
【0076】
このように、本実施形態に係るプラント運転支援装置300は、運転条件設定部311と、過渡状態予測部333とを備えている。運転条件設定部311は、プラント100の運転条件及び当該運転条件を適用するタイミングを設定する。過渡状態予測部333は、運転条件設定部331により設定されたプラント100の運転条件を上記タイミングで適用した場合の、プラント100の特定の時点(例えば、基準時刻)から将来にわたる過渡状態(過渡的な動作状態)を予測する。
【0077】
これにより、プラント運転支援装置300は、過渡状態予測の途中で運転条件を変更して予測を継続することができるため、プラント100を限界運転させる際の運転条件を効率よくシミュレーションできる。
【0078】
また、運転条件設定部331は、異なるタイミングで適用するプラント100の複数の運転条件を設定可能である。そして、過渡状態予測部333は、運転条件設定部331により複数の運転条件が設定された場合、当該複数の運転条件をそれぞれの上記タイミングで適用した場合の、プラント100の過渡状態(過渡的な動作状態)を予測する。
【0079】
これにより、プラント運転支援装置300は、過渡状態予測の途中でよりきめ細かく運転条件を変更した予測を容易に行うことができる。
【0080】
また、プラント運転支援装置300は、過渡的な動作状態を予測する時間の範囲(予測範囲)を設定する予測範囲設定部332を備えている。そして、過渡状態予測部333は、予測範囲設定部332により設定された予測範囲について、プラント100の過渡状態(過渡的な動作状態)を予測する。
【0081】
これにより、プラント運転支援装置300は、プラント100の制御対象のパラメータの性質に応じて、適した時間の範囲で過渡状態の予測を行うことができる。例えば、運転条件の変更後、条件に応じて注目するプロセス変数は様々な時定数を有するため、予測を行うにあたってはその予測に必要な時間が異なる。そのため、プラント運転支援装置300は、予測する時間の範囲をユーザが容易に設定できるようにしたことで、ケース毎に適した時間の範囲で過渡状態の予測を行うことができる。
【0082】
また、限界運転を行うためには複数回に及ぶケースでの検討を行った上で、意志決定する必要がある。そのため、ケース毎の詳細なデータを見ることができることや、ケース間の詳細な比較が行えることが必要である。
そこで、プラント運転支援装置300において、運転条件設定部331は、プラント100の運転条件及び当該運転条件を適用するタイミングの入力を、複数のケース毎に設定する。そして、過渡状態予測部333は、ケース毎に、プラント100の過渡状態(過渡的な動作状態)を予測する。これにより、プラント運転支援装置300は、複数の運転条件で予測した過渡状態を比較することができる。よって、ユーザは、複数回に及ぶケースでの検討を行った上で、限界運転を行うための運転条件を決定することができる。
【0083】
そして、過渡状態予測部333は、ケース毎の過渡状態(過渡的な動作状態)の予測結果のそれぞれを、ケース毎に分けたグラフ情報として生成する。また、過渡状態予測部333は、ケース毎の過渡状態(過渡的な動作状態)の予測結果のそれぞれを、ひとつにまとめたグラフ情報として生成する。これにより、プラント運転支援装置300は、ケース毎の詳細なデータを見ることや、ケース間の詳細な比較を行うことが可能である。よって、過渡状態予測部333は、運転条件を決定する際に、ケース毎の詳細表示とケース間の比較表示とのいずれのユーザのニーズにも対応することができる。
【0084】
また、本実施形態では、プラント100に対する操作を示すシナリオであって、プラント内の制御対象を示す所定のタグが登録された複数のシナリオが予め設定されている。そして、運転条件設定部311は、複数のシナリオから選択されたシナリオに登録されている所定のタグの運転条件及び当該運転条件を適用するタイミングを、ユーザの操作入力に応じて設定する。例えば、本実施形態のプラント運転支援装置300は、過渡状態予測を行う事例(ケーススタディ)として選択可能な複数のシナリオが表示されるシナリオ選択画面G10(図5参照)を表示させる。そして、運転条件設定部311は、図9に示す操作表示画面G14に対するユーザの操作入力(再設定値及び再設定時間への入力)に応じて、選択されたシナリオに登録されている所定のタグの運転条件及び当該運転条件を適用するタイミングを設定する。また、過渡状態予測部333は、選択されたシナリオに登録されている所定のタグの運転条件を上記タイミングで適用した場合の過渡状態(過渡的な動作状態)を予測する。
【0085】
これにより、プラント運転支援装置300は、ユーザがシナリオ選択画面G10に表示されているシナリオのリストの中から目的とするシナリオを選択することで、そのシナリオに関するタグの条件変更を行うことができ、過渡状態の予測結果を表示させることができる。このように、プラント運転支援装置300は、無数にあるタグの中からタグを選び出して設定するといった大きな労力を必要とせずに、目的に応じたシナリオを用いてタグの運転条件の設定が可能であるため、ユーザの操作の煩雑性を排除し、操作性が向上している。
【0086】
なお、上述のプラント運転支援装置300の機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することによって上述の機能を実現してもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、プラント運転支援装置300に内蔵されたコンピュータシステムであってOSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。
【0087】
また、「コンピュータシステム」は、WWWシステムを利用している場合であれば、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)も含むものとする。
また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含んでもよい。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよく、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよい。
【0088】
また、上述した実施形態におけるプラント運転支援装置300の一部、または全部を、LSI(Large Scale Integration)等の集積回路として実現してもよい。プラント運転支援装置300の各機能ブロックは個別にプロセッサ化してもよいし、一部、または全部を集積してプロセッサ化してもよい。また、集積回路化の手法はLSIに限らず専用回路、または汎用プロセッサで実現してもよい。また、半導体技術の進歩によりLSIに代替する集積回路化の技術が出現した場合、当該技術による集積回路を用いてもよい。
【0089】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成は上述の実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。例えば、上述の実施形態において説明した各機能は、任意に組み合わせることができる。
【0090】
なお、図7及び図8に示す過渡状態の予測結果のトレンドグラフの表示態様は、一例であって、これに限られるものではない。例えば、図7及び図8では、限界値Kthの境界を破線で表しているが、限界値Kthを越えない領域と超えた領域との色や明暗等を変えることで、限界値Kthの境界を表してもよい。また、予測中と予測完了後(予測中止後も含む)で予測値(例えば、予測値K1、K2、K3)の表示態様を異ならせてもよい。例えば、予測中は破線で表し予測完了後は実線で表してもよいし、予測中は点滅表示で表し予測完了後は常時表示で表してもよい。
【0091】
また、上記実施形態では、プラント運転支援装置300に対する操作や、プラント運転支援装置300によるミュレーション結果の表示が、通信バス12を介して接続されるプラント操作監視装置200で行われる構成例を説明したが、これに限られるものではない。例えば、プラント運転支援装置300に対する操作や、プラント運転支援装置300によるミュレーション結果の表示は、プラント運転支援装置300で行われてもよい。また、プラント運転支援装置300に対する操作や、プラント運転支援装置300によるミュレーション結果の表示は、通信バス12を介して接続される携帯型の情報端末装置で行われてもよい。
【符号の説明】
【0092】
1 プラント制御システム、11 制御バス、12 通信バス、15 ゲートウェイ、100 プラント、200 プラント操作監視装置、300 プラント運転支援装置、310 ミラーモデル、320 同定モデル、330 解析モデル、331 運転条件設定部、332 予測範囲設定部、333 過渡状態予測部、334 出力部、335 入力部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9