(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6332348
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】固体電解質積層体、固体電解質積層体の製造方法及び燃料電池
(51)【国際特許分類】
H01M 8/1213 20160101AFI20180521BHJP
H01M 8/124 20160101ALI20180521BHJP
H01M 8/12 20160101ALI20180521BHJP
H01M 4/86 20060101ALI20180521BHJP
H01M 4/88 20060101ALI20180521BHJP
H01M 8/10 20160101ALI20180521BHJP
【FI】
H01M8/1213
H01M8/124
H01M8/12 101
H01M4/86 U
H01M4/88 T
H01M8/10
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-139027(P2016-139027)
(22)【出願日】2016年7月14日
(62)【分割の表示】特願2012-111150(P2012-111150)の分割
【原出願日】2012年5月15日
(65)【公開番号】特開2016-181526(P2016-181526A)
(43)【公開日】2016年10月13日
【審査請求日】2016年7月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116366
【弁理士】
【氏名又は名称】二島 英明
(74)【代理人】
【識別番号】100121016
【弁理士】
【氏名又は名称】小村 修
(74)【代理人】
【識別番号】100149191
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 成利
(74)【代理人】
【識別番号】100151699
【弁理士】
【氏名又は名称】後 利彦
(74)【代理人】
【識別番号】100157761
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 大介
(72)【発明者】
【氏名】平岩 千尋
(72)【発明者】
【氏名】真嶋 正利
(72)【発明者】
【氏名】山口 篤
(72)【発明者】
【氏名】水原 奈保
【審査官】
小森 重樹
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−059257(JP,A)
【文献】
特開2010−123297(JP,A)
【文献】
特開2005−203257(JP,A)
【文献】
特開2012−016693(JP,A)
【文献】
特開2011−255285(JP,A)
【文献】
特開2011−204416(JP,A)
【文献】
国際公開第2007/069404(WO,A1)
【文献】
特開2007−044675(JP,A)
【文献】
特開2003−151585(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/1213
H01M 4/86
H01M 4/88
H01M 8/10
H01M 8/12
H01M 8/124
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体電解質層と、この固体電解質層の一側に積層して設けられた第1の電極層と、他側に積層して設けられた第2の電極層とを備える固体電解質積層体であって、
少なくとも燃料極を構成する上記第1の電極層は、上記固体電解質層に接合された細孔を備える接合層と、上記接合層に一体的に積層形成されるとともに連続気孔を有する多孔質層とを備え、
上記接合層と上記多孔質層とが金属又は金属合金から形成され、
上記多孔質層は、外殻と、中空又は/及び導電性を有する芯部とからなる骨格を備え、上記骨格が一体的に連続する3次元網目構造を構成しており、
上記外殻がメッキ層又はコーティング層から形成され、
上記多孔質層の気孔率が90%以上であり、
上記接合層の気孔率が10%以上、40%以下である、固体電解質積層体。
【請求項2】
上記固体電解質層が、プロトン導電性の固体電解質から形成されているとともに、
上記第1の電極層がアノード電極として機能する、請求項1に記載の固体電解質積層体。
【請求項3】
上記接合層の厚みが100μm以上、1000μm以下である、請求項1又は請求項2に記載の固体電解質積層体。
【請求項4】
上記接合層が、Ni−Fe合金から形成されているとともに、
上記多孔質層は、Ni多孔質体又はNi−Fe合金多孔質体から形成されている、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の固体電解質積層体。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の固体電解質積層体の製造方法であって、
固体電解質層と、この固体電解質層の一側に積層して設けられた上記接合層と、他側に積層して設けられた第2の電極層とを備える積層体を製造する工程と、
上記接合層に、上記多孔質層を積層形成する多孔質層形成工程とを含む、固体電解質積層体の製造方法。
【請求項6】
上記多孔質層形成工程は、金属多孔質体を上記接合層に還元接合することにより行われる、請求項5に記載の固体電解質積層体の製造方法。
【請求項7】
上記多孔質層形成工程は、金属多孔質体を上記接合層に拡散接合することにより行われる、請求項5に記載の固体電解質積層体の製造方法。
【請求項8】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載された複数の固体電解質積層体を、インターコネクタを介して積層して構成される、燃料電池。
【請求項9】
請求項8に記載の燃料電池において、上記多孔質層が燃料ガス流動路を構成している、燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、固体電解質積層体、固体電解質積層体の製造方法及び燃料電池に関する。
詳しくは、燃料極内における燃料ガスの流動抵抗が低く、大量の燃料ガスを燃料極に作用させることができる固体電解質積層体及び固体電解質積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体酸化物燃料電池(以下、「SOFC」という)は、効率が高く、白金等の高価な触媒を必要としない。一方、作動温度が800℃〜1000℃の高温であるため、インターコネクタ等の構造材料が劣化しやすいという問題がある。
【0003】
上記問題を解決するため、作動温度を600℃以下に低下させた中温作動型のSOFCが期待されている。ところが、作動温度が低いと効率が低下し、所要の発電性能を確保できないという問題がある。このため、低い作動温度でも効率が高く、所要の発電性能を確保できる固体電解質が求められている。
【0004】
固体電解質として、酸素イオン導電性あるいはプロトン導電性を有するものが採用される。酸素イオン導電性を有する固体電解質を採用した場合、燃料極において、酸素イオンが水素と結びついて水が生成され、この水が燃料を希釈して効率を低下させるという問題がある。
【0005】
一方、イットリウム添加ジルコン酸バリウム(以下、「BZY」という)等のプロトン導電性を有する固体電解質は、電荷輸送のための活性エネルギが低いため低温で高いプロトン伝導率を実現でき、上記酸素イオン導電性を有する固体電解質に代わる固体電解質材料として期待されている。また、プロトン導電性の固体電解質を採用した場合には、酸素イオン導電性の固体電解質における上記の問題が生じることもない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3733030号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記中温作動型のSOFCにおいて、発電効率を高めるには燃料極にできるだけ多くの燃料ガスを供給して作用させる必要がある。上記燃料極におけるガスの作用効率を高めるため、燃料極に多孔質体を採用して、燃料ガスの作用面積を大きくすることが考えられる。
【0008】
一方、燃料極は固体電解質層との接合強度を確保する必要があるため、ある程度の密度が必要である。また、燃料極を構成する部材を固体電解質層を形成する際の基材として利用することも多く、燃料極自体を気孔率の大きな多孔質体から形成するのは困難である。
【0009】
また、燃料電池の寸法を削減するとともに固体電解質積層体の効率を高めるには、固体電解質積層体の厚みをできるだけ小さくするのが好ましい。ところが、固体電解質積層体の厚みを小さくすると、機械的強度が小さくなって破損しやすくなる。
【0010】
本願発明は、上述の課題を解決するために案出されたものであって、燃料極に大量のガスを供給することができるとともに、固体電解質積層体の強度を高めることができる固体電解質積層体及び固体電解質積層体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願の請求項1に記載した発明は、固体電解質層と、この固体電解質層の一側に積層して設けられた第1の電極層と、他側に積層して設けられた第2の電極層とを備える固体電解質積層体であって、少なくとも燃料極を構成する上記第1の電極層が、上記固体電解質層に接合された接合層と、上記接合層に一体的に積層形成されるとともに連続気孔を有する多孔質層とを備えて構成されている。
【0012】
本願発明では、少なくとも燃料極を構成する第1の電極層を、上記接合層と上記多孔質層とを備えて構成している。上記接合層は、上記多孔質層に比べて密度が高く、上記固体電解質層との接合強度を確保できるように構成されている。
【0013】
一方、上記多孔質層は、連続気孔を備えて構成されており、燃料ガスが容易に流動しうる気孔率に設定されている。このため、上記多孔質層内に燃料ガスを流動させて、第1の電極層(燃料極)に大量の燃料ガスを作用させることが可能となる。
【0014】
しかも、上記接合層の厚みを従来の燃料極の厚みに比べて小さく設定しても、上記多孔質層が補強層として機能し、充分な強度を確保することができる。このため、固体電解質積層体の強度を高めることも可能となる。
【0015】
上記接合層と多孔質層とを、金属材料から形成するのが好ましい。これら部位を金属材料から形成することにより一体的に接合するのが容易になる。また、多孔質層を金属材料から形成した場合、変形能を有する電極を構成できる。このため、機械的衝撃のみならず、熱的衝撃や外部からの衝撃を緩和する保護層として機能させることも可能となる。さらに、燃料電池では、故障時にアノード側に酸素が流れ込み、アノード電極が酸化されることにより体積変化が生じて、固体電解質積層体が破損してしまう場合がある。たとえば、Ni−Feメタルアノードを採用した場合、Feがすぐに酸化されて表面に緻密層が形成されるため、内部のNiの酸化が阻止されて、体積変化が生じにくくなる。
【0016】
600℃以下の中温度領域において、効率よく作動する燃料電池を構成するには、上記固体電解質層に、プロトン導電性の固体電解質を採用するのが好ましい。プロトン導電性の固体電解質のアノード電極における反応においては水が生成されないため、アノード電極を多孔質化しても水の排出経路となることがない。したがって、酸素イオン導電性の固体電解質を採用した場合に比べて、燃料ガスを効率よく供給できる。たとえば、イットリウム添加ジルコン酸バリウム(BZY)、イットリウム添加バリウムセレイト(BCY)、BaZr
xCe
1−x−yY
yO
3−δ(BZCY)等の材料から形成されたプロトン導電性の固体電解質を採用できる。
【0017】
なお、本願発明を、YSZ、GDC,LSGM、SSZ等の酸素イオン導電性の固体電解質に適用することもできる。たとえば、上記酸素イオン導電性の固体電解質と、Ni−Feから形成されたアノード電極を組み合わせることができる。
【0018】
上記第2の電極層(カソード電極)として、たとえば、ランタンストロンチウムコバルト複合酸化物(LSC)又はランタンストロンチウム鉄コバルト複合酸化物(LSCF)、バリウムストロンチウムコバルト鉄複合酸化物(BSCF)、ランタンストロンチウムマンガン複合酸化物(LSM)等を採用できる。
【0019】
上記第1の電極層の接合層として、たとえば、NiやFe−Ni、Ni−Co、Ni−Cu、Fe−Co、Fe−Cu、Cu−Co等を採用できる。また、上記接合層を、上記材料から形成された多孔質層から構成できる。この場合、気孔率を、10〜40%に設定するのが好ましい。接合層の気孔率が10%以下であると、ガスを固体電解質層に十分に供給することができない。一方、気孔率が40%以上になるとクラックが生じやすくなる。
【0020】
上記第1の電極層の多孔質層として、たとえば、Ni多孔質体、Ni−Fe多孔質体、Ni−Cr多孔質体、Ni−Sn多孔質体等を採用することができる。上記接合層と上記多孔質層とを、成分が共通する金属材料で形成することにより、接合層と多孔質層とを容易に一体化することができる。上記多孔質層の気孔率は、90%以上に設定するのが好ましい。上記気孔率に設定することにより、燃料ガスの流動性及び積層体の強度を確保することができる。
【0021】
上記多孔質層として、たとえば、外殻と、中空又は/及び導電性を有する芯部とからなる骨格を備え、上記骨格が一体的に連続する3次元網目構造を構成するNi又はNi−Fe多孔質体を採用するのが好ましい。
【0022】
多孔質層に3次元網目構造を備えるものを採用することにより、気孔率を大きく設定することが可能となる。このため、ガスの流動抵抗が小さくなり、気孔内で大量の燃料ガスを流動させて第1の電極層に作用させることが可能となる。また、3次元網目構造を備えるため機械的強度が高く、各部の強度も均一となる。このため、積層体の補強層として機能させることができる。
【0023】
上記骨格を形成する手法は特に限定されることはない。たとえば、上記骨格を、3次元網目状樹脂の表面にメッキ層又は金属コーティング層を設けるとともに、上記樹脂を消失させることにより形成することができる。上記骨格の外殻を金属メッキ層又はコーティング層から形成することにより、骨格の厚みを非常に薄くかつ均一に設定することが可能となる。これにより、大きな気孔率を備え、燃料ガスの流動抵抗が小さな多孔質層を形成することができる。
【0024】
本願発明に係る上記多孔質層は、少なくとも燃料極を構成する第1の電極層に形成されるが、空気極として機能する第2の電極層を第1の電極層と同様に構成することもできる。
【0025】
上述した固体電解質積層体は、上記固体電解質層と、この固体電解質層の一側に積層して設けられた上記接合層と、他側に積層して設けられた第2の電極層を備える積層体を製造する工程と、上記接合層に、上記多孔質層を積層形成する多孔質層形成工程とを含んで製造することができる。
【0026】
上記固体電解質層と上記第2の電極層と上記接合層を備える積層体を形成する手法は特に限定されることはない。たとえば、上記固体電解質層を構成する成形体を形成し、この固体電解質層を支持部材として、その上に上記第2の電極層及び接合層を形成することができる。また、接合層を構成する積層体を形成し、この成形体を支持部材として、この上に固体電解質層及び第2の電極層を積層形成することもできる。
【0027】
上記多孔質層形成工程を行う手法は特に限定されることはない。たとえば、板状の金属多孔質体を上記接合層に還元接合することにより行うことができる。たとえば、600℃〜700℃の温度で還元接合するのが好ましい。上記温度より低い温度で還元接合した場合、粒成長が十分に起こらず気孔率が大きくなって機械的強度が低くなり、クラックが生じやすい。一方、上記温度より高温で還元接合した場合、収縮率が大きくなって固体電解質が剥離しやすくなる。また、上記金属多孔質体を上記接合層に拡散接合することにより行うことができる。さらに、Ni粉を含むペースト等を用いて焼結接合することもできる
【0028】
本願発明に係る固体電解質積層体を、インターコネクタを介して複数積層することにより燃料電池を構成できる。本願発明に係る固体電解質積層体では、アノード電極を構成する第1の電極層が多孔質層を備えて構成されているため、燃料電池において燃料ガスが流動させられる流路を、上記多孔質層から構成することができる。このため、燃料の作用面積が非常に大きなアノード電極を構成することが可能となり、燃料電池の出力を高めることが可能となる。
【0029】
本願発明に係る固体電解質は、600℃以下の温度範囲で使用される種々の形式の燃料電池に好適であるが、600℃以上の温度で使用される燃料電池にも利用することができる。
【発明の効果】
【0030】
燃料極に多量の燃料ガスを作用させて、600℃以下の中温域において、高い発電効率を発揮しうる固体電解質積層体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本願発明に係る固体電解質積層体の一例を示す全体斜視図である。
【
図2】
図1に示す固定電解質積層体の要部の拡大断面図である。
【
図3】本願発明に係る固体電解質積層体を用いた燃料電池の一例を示す要部の拡大断面図である。
【
図4】固体電解質積層体の他の実施形態を示す要部の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本願発明に係る実施形態を図に基づいて説明する。
【0033】
燃料電池を構成する固体電解質積層体1は、固体電解質層2と、この固体電解質層の一側に積層形成された第1の電極層3と、他側に形成された第2の電極層4とを備えて構成される。
【0034】
本実施形態に係る固体電解質層2には、プロトン導電性を有するイットリウム添加ジルコン酸バリウム(以下、BZY)からなる固体電解質2aが採用されている。なお、上記固体電解質層2を構成する材料は特に限定されることはない。また、酸素イオン導電性を有する固体電解質層を備える固体電解質積層体にも適用することができる。
【0035】
上記固体電解質層2の厚みも特に限定されることはなく、10μm〜500μmの厚みで形成することができる。
【0036】
上記第1の電極層3は、上記固体電解質層2に接合された接合層3aと、連続気孔を有する多孔質層3bとを備え、燃料極(アノード)として機能するように構成されている。
【0037】
上記接合層3aは、Ni及びFe粉体からなる電極材料を焼結成形して構成されており、燃料ガスが流入しうる細孔を備えて構成されている。一方、上記固体電解質層2との接合強度を確保するため、気孔率が、10%〜40%に設定されている。このため、上記接合層3aに大量の燃料ガスを作用させることは困難である。
【0038】
上記不都合を解消するため、本願発明では、上記接合層3aに一体的に積層形成された多孔質層3bを設けている。上記多孔質層3bは、連続気孔5を備えるとともに高い気孔率に設定されており、燃料ガスが容易に流動できるように構成されている。たとえば、燃料ガスの流動抵抗を低減できるとともに、アノード反応を確保するため、上記多孔質層3bの気孔率を90%以上に設定するのが好ましい。
【0039】
本実施形態では、上記多孔質層3bは、Ni又はNi−Fe合金から形成された多孔質体が採用されている。上記多孔質層3bを、上記接合層3aと共通する材料から形成することにより、上記接合層3aと上記多孔質層3bとを一体接合することが容易となり、アノード電極として一体的に機能する第1の電極層3を形成することができる。
【0040】
また、金属材料から形成された多孔質層3bは、機械的強度や熱的強度が高い。このため、上記多孔質層3bを、補強層として機能させることができる。しかも、上記多孔質層3bを補強層として機能させることにより、上記接合層3aの厚みを従来の燃料極の厚みに比べて小さく設定しても、固体電解質積層体の強度が低下することもない。
【0041】
また、金属材料から形成された多孔質層3bは、外部からの衝撃に対する変形能が大きい。このため、組み立て工程や、ハンドリングする際の保護層として機能させることもできる。
【0042】
上記多孔質層3bの形態も特に限定されることはない。たとえば、外殻と、中空又は/及び導電性を有する芯部とからなる骨格を備え、上記骨格が一体的に連続する3次元網目構造を構成するNi又はNi−Fe合金製の多孔質体を採用するのが好ましい。
【0043】
多孔質層3bに3次元網目構造を備えるものを採用することにより、気孔率を大きく設定することが可能となる。このため、ガスの流動抵抗が小さくなり、上記気孔内で大量の燃料ガスを流動させて第1の電極層に作用させることが可能となる。また、3次元網目構造を備えるため、機械的強度が高い。さらに、各部の強度も均一となり、積層体の補強層及び保護層として機能させることができる。
【0044】
上記骨格を形成する手法は特に限定されることはない。たとえば、上記骨格を、3次元網目状樹脂の表面にNi又はNi−Feからなるメッキ層又は金属コーティング層を設けるとともに、上記樹脂を消失させることにより形成することができる。上記骨格の外殻を金属メッキ層又はコーティング層から形成することにより、骨格の厚みを非常に薄くかつ均一に設定することが可能となる。これにより、大きな気孔率を備え、燃料ガスの流動抵抗が小さな多孔質層を形成することができる。
【0045】
本実施形態に係る上記第2の電極層4を構成する材料も特に限定されることはない。たとえば、固体電解質層2としてプロトン導電性の固体電解質2aを採用する場合、ランタンストロンチウムコバルト複合酸化物(LSC)又はランタンストロンチウム鉄コバルト複合酸化物(LSCF)、バリウムストロンチウムコバルト鉄複合酸化物(BSCF)、ランタンストロンチウムマンガン複合酸化物(LSM)等を採用できる。
【0046】
以下、固体電解質積層体1の製造方法の一例について説明する。
【0047】
本実施形態では、固相反応法によって上記固体電解質を形成する。まず、BZYからなる固体電解質層2を形成するため、原材料として、BaCO
3を62wt%と、ZrO
3を31wt%と、Y
2O
3を7wt%とを混合して、ボールミリングによる第1の粉砕工程を行い、これら原料を均一に混合する。その後、1000℃で約10時間熱処理して第1の熱処理工程を行い、さらに、上記第1の熱処理工程を施した粉体材料をボールミリングすることにより第2の粉砕工程を行う。上記粉砕工程における材料の粉砕程度は特に限定されることはないが、粉砕された粉体の平均粒度が、355μm以下となるように粉砕するのが好ましい。
【0048】
次に、第2の粉砕工程を終えた混合粉体を所定形状に成形する圧縮成形工程が行われる。上記圧縮成形工程を行う手法は特に限定されることはなく、たとえば、1軸圧縮成形することにより、円板状の圧縮成形体を形成することができる。
【0049】
上記圧縮成形体を、約1300℃で約10時間熱処理することにより、各成分粉体を固溶させて上記各成分を均一に分散させる第2の熱処理工程が行われる。本願発明に係る固体電解質2aにおいては、低温作動を可能とするため、上記各成分が均一に分散固溶された均一な組織を形成する必要がある。このため、上記第2の熱処理工程を終えた成形体を粉砕する第3の粉砕工程が行われる。さらに、必要に応じて、上記圧縮成形工程−上記第2の熱処理工程−上記第3の粉砕工程を繰り返し行うことにより、各成分がより均一に分散固溶した材料を形成することができる。上記各成分粉体が均一に分散固溶されたかどうかは、X線回折装置(XRD)による成分分析データのピーク位置が、BZYのみとなったことにより判断することができる。
【0050】
上記第3の粉砕工程を終え、各成分が均一に分散固溶された粉砕材料を所要の固体電解質の形態に成形する第2の圧縮成形工程が行われる。上記第2の圧縮成形工程を行う手法は特に限定されることはない。たとえば、圧縮プレスすることにより、上記第2の圧縮成形工程を行うことができる。上記第2の圧縮成形工程によって、100〜500μmの厚みの板状成形体が形成される。
【0051】
次に、上記板状の成形体を、酸素雰囲気下、1400℃〜1600℃の温度で、少なくとも20時間熱処理する焼結工程を行うことにより焼結させ、燃料電池の固体電解質層2を構成する板状の焼結成形体が得られる。
【0052】
上記手法により、BZYからなる固体電解質層を製造した場合、200℃〜500℃の温度領域において、格子定数が特異な変化を示す。また、上記格子定数の特異な変化に起因して、熱膨張率も変化する。このため、上述した工程において製造された固体電解質に電極層3,4を積層形成して焼結すると、上記熱膨張率の変化によって、固体電解質層2と電極層3,4との間で大きな剪断応力が発生し、固体電解質層2にクラックが発生したり、電極層3,4と固体電解質層2とが剥離するといった問題が発生する。
【0053】
上記問題を解消するため、本実施形態では第3の熱処理工程を行う。上記第3の熱処理工程は、焼結成形された上記板状の固体電解質を、400℃〜1000℃の温度で、5〜30時間保持することにより行うことができる。
【0054】
上記第3の熱処理工程を行うことにより、400℃近傍の温度領域において、格子定数が特異的に変化することがなくなり、100℃〜1000℃における格子定数の温度変化に対する増加率をほぼ一定にすることができる。
【0055】
また、上述した手法により形成された固体電解質を電子顕微鏡観察によって観察したところ、上記第3の熱処理工程を行った固体電解質における結晶粒の平均径は、1μmであった。上記大きさの結晶粒が得られることから、粒界面密度が大きくなることもなく、高いプロトン伝導度を確保できる。本実施形態では、400℃〜800℃における、プロトン伝導度が1mS/cm〜60mS/cmに設定される。
【0056】
また、上記固体電解質2aの室温での格子定数は、4.218Å〜4.233Åであった。室温における上記格子定数を計測することにより、イットリウムの添加量や400℃近傍における格子定数を推測して熱膨張率等を予測することが可能となる。このため、不良品の発生を未然に防止することができる。
【0057】
また、上記固体電解質の100℃〜1000℃における格子定数の温度変化に対する増加率が、3.3×10
−5Å/℃〜4.3×10
−5Å/℃の範囲に設定するのが好ましい。
これにより、100℃〜1000℃における平均熱膨張率を5×10
−61/K〜9.8×10
−61/Kに設定することが可能となる。
【0058】
なお、上記第3の熱処理工程は、上記焼結工程と別途に行うこともできるし、上記焼結工程に連続して行うこともできる。
【0059】
第3の熱処理工程を終えた上記板状の固体電解質の一方の側面に第1の電極層を構成する接合層3aが形成され、他方の側面に第2の電極層4が形成される。
【0060】
本実施形態では、上記接合層3aとして、Ni−BZY(ニッケルを添加したイットリウム添加ジルコン酸バリウム)が採用される。上記Niの配合量は、30%〜70%に設定することができる。なお、上記BZYは、第3の熱処理を施した本実施形態に係る上記固体電解質の粉体を採用するのが好ましい。
【0061】
一方、第2の電極材料として、LSC又はLSCFからなる電極材料が採用される。
たとえば、上記LSCとして、La
0.6Sr
0.4CoO
xで表わされる市販品を採用できる。また、上記LSCFとして、La
0.6Sr
0.4Co
0.2Fe
0.8O
xで表される既知の材料を採用することができる。
【0062】
上記電極材料を、上述した製造方法によって形成された板状の固体電解質の表裏に所定の厚みでそれぞれ積層し、所要の温度に加熱して焼結させることにより、積層体を形成することができる。上記電極の厚みは特に限定されることはないが、たとえば、上記接合層3aを10μm〜50μmで積層形成し、第2の電極層4を10μm〜50μmで積層形成することができる。その後、上記電極層を構成する材料の焼結温度に加熱して所定時間保持することにより、上記固体電解質層2の両側に、接合層3aと第2の電極層4とを備える積層体を形成することができる。なお、上記接合層3aを焼結する電極層焼結工程と第2の電極層4を焼結する電極層焼結工程とを、一度に行うこともできるし、それぞれ別途に行うこともできる。
【0063】
上記接合層3a及び第2の電極層4を焼結するのに必要な温度は、約1000℃である。本実施形態では、上記固体電解質に第3の熱処理が施されているため、100℃〜1000℃の温度範囲において、格子定数の温度変化に対する増加率が一定である。また、格子定数に対応して熱膨張率も一定となっている。このため、接合層3a及び第2の電極層4を焼結形成する際に、固体電解質層2と、接合層3b又は第2の電極層4との境界面に、上記熱膨張率の相異に起因する大きな剪断応力や歪が生じることはない。このため、固体電解質層や電極層にクラックが生じたり、電極層が剥離することはない。また、内部応力等の発生も抑制されるため、耐久性の高い固体電解質積層体を形成することができる。
【0064】
上述した実施形態では、固体電解質層2を形成した後に、上記接合層3a及び第2の電極層4を形成したが、接合層3aを先に形成した後に、固体電解質層2及び第2の電極層4を形成することもできる。この場合、接合層3aの厚みを100μm〜1000μmに設定して、強度を確保するのが望ましい。一方、上記固体電解質層2は、固体電解質を構成する粉体材料を、スクリーン印刷法等によって上記接合層3a上に積層して焼結させることにより形成することができる。また、同様にして第2の電極層4が形成される。
【0065】
次に、上記接合層3aに、多孔質層3bを積層形成する多孔質層積層工程が行われる。
【0066】
本実施形態では、還元接合法によって、Ni又はNi−Fe合金から形成された板状の多孔質体を接合する。上記還元接合法は、たとえば、上記材料を積層した後、水素やNH
3等の還元雰囲気中で、850℃で3時間熱処理することにより行うことができる。なお、上記多孔質層形成工程は、拡散接合法等他の手法によって行うこともできる。
【0067】
上記多孔質層3bを構成する多孔質体は、少なくとも連続気孔を有するとともに、気孔率が90%以上に設定されたものを採用するのが好ましい。また、上記多孔質体を形成する手法も特に限定されることはない。たとえば、上記多孔質体として、外殻と、中空又は/及び導電性を有する芯部とからなる骨格を備え、上記骨格が一体的に連続する3次元網目構造を構成するNi又はNi−Fe多孔質体を採用するのが好ましい。
【0068】
多孔質層に3次元網目構造を備えるものを採用することにより、気孔率を大きく設定することが可能となる。このため、ガスの流動抵抗が小さくなり、気孔内で大量の燃料ガスを流動させて第1の電極層に作用させることが可能となる。また、3次元網目構造を備えるため機械的強度が高く、各部の強度も均一となる。このため、積層体の補強層及び保護層として機能させることができる。
【0069】
上記骨格を形成する手法は特に限定されることはない。たとえば、上記骨格を、3次元網目状樹脂の表面に、Niメッキ層又はNiコーティング層を設けるとともに、上記樹脂を消失させることにより形成することができる。上記骨格の外殻を金属メッキ層又はコーティング層から形成することにより、骨格の厚みを非常に薄くかつ均一に設定することが可能となる。これにより、大きな気孔率を備え、燃料ガスの流動抵抗が小さな多孔質層を形成することができる。
【0070】
上記工程によって、第1の電極層(アノード電極)が接合層3aと多孔質層3bから形成された固体電解質積層体1を得ることができる。
【0071】
上記手法によって形成された固体電解質積層体を用いて構成される燃料電池の要部の断面を
図3に示す。
図3に示す実施形態では、固体電解質積層体1の両側に、燃料ガスH
2及び酸素O
2を供給するとともに、各固体電解質積層体を間仕切るインターコネクタ10,11が設けられている。なお、
図3に示す実施形態では、一つの固体電解質積層体1を備えて構成される燃料電池を示しているが、実際は複数の固体電解質積層体が、インターコネクタ10,11を介して厚み方向に積層された形態を備える。
【0072】
第2の電極層4側には、空気流動空間16を介して上記インターコネクタ10が配置されている。上記インターコネクタ10には空気流路12が設けられており、上記空気流動空間16に空気を供給できるように構成されている。一方、第1の電極層3側は、上記多孔質層3bに積層するようにして、上記インターコネクタ11が設けられている。上記インターコネクタ11には、燃料ガス流路14が設けられており、吐出口15から上記多孔質層3bに、燃料ガスH
2を吐出するように構成されている。
【0073】
上記構成の燃料電池100では、燃料ガスH
2が、第1の電極層3を構成する多孔質層3bに直接供給されて、多孔質層内を流動させられる。このため、燃料ガスH
2を効率よく第1の電極層3に作用させることができる。しかも、上記多孔質層3bは、大きな気孔率を備えるため、燃料ガスの流動が妨げられることもなく、大量の燃料ガスを第1の電極層3に作用させることができる。
【0074】
また、多孔質層3bが、インターコネクタ11の内面に接触した状態で保持されている。このため、固体電解質積層体1とインターコネクタ11との間に、隙間を確保するスペーサ等を設ける必要がない。しかも、上記多孔質層3bは変形能を有するこめ、インターコネクタ11と固体電解質積層体1との間に熱膨張による寸法変化が生じても、上記多孔質層3bによって吸収することができる。このため、固体電解質積層体1に熱応力が発生することもなく、耐久性の高い燃料電池を構成することが可能となる。
【0075】
なお、
図3に示す実施形態では、第1の電極層3側にのみ多孔質層を設けたが、第2の電極層4側に、多孔質体を接合して多孔質層を設けることもできる。
【0076】
図4に、固体電解質積層体の第2の実施形態を示す。この実施形態では、接合層23aと多孔質層23bとの間の接合面積を大きくするため、上記接合層23aの表面に凹凸26を設け、この凹凸26に積層するようにして上記多孔質層23bが接合されたものである。
【0077】
上記構成を採用することにより、上記接合層23aと上記多孔質層23bとの接合強度が高まるばかりでなく、上記多孔質層23bから上記接合層23aに移行する面積を大きく設定することができる。このため、上記多孔質層23bから上記接合層23aに移動するプロトンの透過性も大きくなり、燃料電池の効率を高めることが可能となる。
【0078】
本願発明の範囲は、上述の実施形態に限定されることはない。今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって、制限的なものでないと考えられるべきである。本願発明の範囲は、上述した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0079】
大量の燃料ガスを供給して電極に作用させることにより、中温域における燃料電池の効率を高めることができる。
【符号の説明】
【0080】
1 固体電解質積層体
2 固体電解質層
3 第1の電極層(アノード電極層)
3a 接合層
3b 多孔質層
4 第2の電極層(カソード電極層)