特許第6332446号(P6332446)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6332446
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】半導体装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/739 20060101AFI20180521BHJP
   H01L 29/78 20060101ALI20180521BHJP
   H01L 21/336 20060101ALI20180521BHJP
   H01L 21/265 20060101ALI20180521BHJP
【FI】
   H01L29/78 655B
   H01L29/78 658A
   H01L29/78 653A
   H01L21/265 F
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-527877(P2016-527877)
(86)(22)【出願日】2015年6月11日
(86)【国際出願番号】JP2015066950
(87)【国際公開番号】WO2015190579
(87)【国際公開日】20151217
【審査請求日】2016年6月6日
(31)【優先権主張番号】特願2014-121425(P2014-121425)
(32)【優先日】2014年6月12日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104190
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 昭徳
(72)【発明者】
【氏名】小野澤 勇一
【審査官】 早川 朋一
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2008/0054369(US,A1)
【文献】 特開2008−091853(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/157772(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/089256(WO,A1)
【文献】 特開2009−176892(JP,A)
【文献】 特開2013−138172(JP,A)
【文献】 特表2010−541266(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/78
H01L 21/336
H01L 29/739
H01L 21/331
H01L 21/265
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1導電型半導体基板からなる第1導電型ドリフト層と、
前記第1導電型半導体基板の一方の主面の表面層に選択的に形成され、前記第1導電型ドリフト層よりも高ドーピング濃度の第2導電型ベース層と、
前記第2導電型ベース層の前記一方の主面の表面層に選択的に形成され、前記第2導電型ベース層よりも高ドーピング濃度の第1導電型エミッタ層と、
前記第1導電型ドリフト層、前記第2導電型ベース層、および前記第1導電型エミッタ層と、絶縁膜を挟んで対向するように形成されたゲート電極と、
前記第1導電型半導体基板の他方の主面の表面層に形成され、前記第1導電型ドリフト層よりも高ドーピング濃度の第2導電型コレクタ層と、
前記第2導電型コレクタ層と前記第1導電型ドリフト層との間に形成され、前記第1導電型ドリフト層よりも高ドーピング濃度であり、ドーピング濃度が前記第2導電型コレクタ層から前記一方の主面側に離れた箇所で最大であり、ドーパントが水素誘起ドナーからなる第1導電型第1フィールドストップ層と、
前記第2導電型コレクタ層と前記第1導電型ドリフト層との間に形成され、前記第1導電型ドリフト層よりも高ドーピング濃度であり、前記第2導電型コレクタ層に隣接する箇所でドーピング濃度が最大であるとともに前記一方の主面に向かってドーピング濃度が減少し、ドーパントがセレンか硫黄である第1導電型第2フィールドストップ層と、
を有し、
前記第1導電型第1フィールドストップ層は、前記第1導電型第2フィールドストップ層の内部に形成され、
前記第1導電型第1フィールドストップ層と前記第2導電型コレクタ層との間に、前記第1導電型第2フィールドストップ層が存在し、
前記第1導電型第1フィールドストップ層の最大ドーピング濃度Npは、前記第1導電型第2フィールドストップ層のセレンまたは硫黄の最大ドーピング濃度よりも高いことを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
前記第1導電型第1フィールドストップ層のドーピング濃度分布は、最大ドーピング濃度Npの半値である0.5Npよりも低いドーピング濃度を示す箇所で、前記第1導電型第2フィールドストップ層のセレンのドーピング濃度と交差することを特徴とする請求項に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記第2導電型コレクタ層の最大ドーピング濃度と、前記第2導電型コレクタ層および前記第1導電型第2フィールドストップ層とのpn接合位置におけるセレンのドーピング濃度との濃度比が10倍以上であることを特徴とする請求項に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記第1導電型第2フィールドストップ層の最大ドーピング濃度は、前記第1導電型ドリフト層のドーピング濃度の10倍より低いことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、FS(フィールドストップ)層を有するダイオードおよびIGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)などの半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電力用の半導体装置として、400V、600V、1200V、1700V、3300Vあるいはそれ以上の耐圧を有するダイオードやIGBT等がある。これらはコンバータやインバータ等の電力変換装置に用いられている。電力用の半導体装置は、低損失、高効率および高破壊耐量という良好な電気的特性および低コストが求められている。特に、半導体基板を200μm以下といった厚さに薄くする研削技術により、より良好な電気的特性が得られ、チップ単価の低減が図られるようになった。
【0003】
図5は、従来の半導体装置の断面構造を示す断面図である。図5においては、一般的なトレンチIGBTの断面図を示している。図5において、nドリフト層51となるn型半導体基板の主面にはpベース層54となるp型層が形成され、対面にはp型コレクタ層53となるp型層が形成されている。
【0004】
n型半導体基板において、p型コレクタ層53よりも主面側には、n型フィールドストップ層81が形成されている。そして、pベース層54の外周位置に、電界緩和のための終端領域71となるp型ガードリング層72とフィールドプレート73とが複数個形成されている。また、ゲート電極61aを集約し、ゲートランナー65に接続し、ゲートランナー65を図示しないゲートパッドに接続している。
【0005】
このうちn型フィールドストップ層81は、空乏層がp型コレクタ層53にリーチスルーすることを防止するために必要な濃度と深さが要求される。リーチスルーとは、例えばn型ドリフト層51を広がる空乏層が、n型ドリフト層51に隣接する層(p型コレクタ層53など)に到達する現象のことである。
【0006】
従来、n型フィールドストップ層81を形成する方法として、例えば、リンや砒素等のn型不純物をウェハーの裏面の研削面から照射し、適切な温度でアニールを行うことが挙げられるが、この方法では基板内部の深い位置にn型フィールドストップ層81を形成することが困難であった。
【0007】
セレンや硫黄等のn型不純物は、拡散係数がリンや砒素よりも高いため、900℃程度の温度で約30μm拡散する。このため、リンや砒素に代えてセレンや硫黄等のn型不純物を用いることにより、比較的低温で深いn型フィールドストップ層81を形成することができる。
【0008】
また、従来、n型フィールドストップ層81を、水素関連ドナーによって形成する方法も知られていた。水素関連ドナーとは、酸素が含まれるシリコン基板に水素(プロトン、デュトロン、トリトン等)を注入し、500℃よりも低い温度で熱アニールを行うことで、空孔(V)、酸素(O)、水素(H)を結合させてVOH欠陥を形成させ、このVOH欠陥をドナーとして作用させるものである。注入した水素を電気的に活性化させて水素関連ドナーを得るプロセスは、400℃程度の比較的低温のアニールで実現できる。そのため、薄型のダイオードやIGBTの製造において、ウェハーを薄くした後の工程数を著しく短縮することが可能である。
【0009】
また、従来、プロトンを複数回打ち込むことで複数のn型フィールドストップ層を形成し、これらの複数のn型フィールドストップ層を等価的に1つのブロードなn型フィールドストップ層として作用させる方法もあった。
【0010】
特許文献1には、プロトンを4MeV以上の加速エネルギーで照射し、n型フィールドストップ層を形成したIGBT等が記載されている。
【0011】
特許文献2の図4等には、第1のn型フィールドストップ層としてセレンを拡散させ、さらに第1のn型フィールドストップ層の内部にプロトンを照射して第2のn型フィールドストップ層を形成したIGBTが記載されている。
【0012】
特許文献3の図1等には、第1のn型フィールドストップ層としてセレンを拡散させ、さらに第1のn型フィールドストップ層とp型コレクタ層の間に挟まれるようにリンを注入して第2のn型フィールドストップ層を形成したIGBTが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2013−138172号公報
【特許文献2】米国特許出願公開第2008/0054369号明細書
【特許文献3】国際公開第2012/157772号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、前述のセレンは、格子間型の拡散をするために拡散係数がリンや砒素よりも大きい。そのため、リンや砒素と比べて、拡散温度や時間を変えてもn型層のドーピング濃度分布を調整することが難しい。例えば、セレンの拡散深さを30μmよりも浅くする、あるいは深くすることについては、拡散温度や時間ではうまく調整ができない。このため、上述した従来の技術では、素子の要求特性に応じたn型フィールドストップ層の制御が困難であるという問題があった。
【0015】
また、プロトンを複数回注入して等価的にブロードなn型フィールドストップ層を形成する上述した従来の技術では、1〜10MeVオーダーの加速エネルギーで、複数回の注入が必要であるため、加速器の大型化や放射線対策などにより、コストアップの要因となるという問題があった。
【0016】
また、発明者による鋭意研究の結果、特許文献1に記載のように加速エネルギーの高いプロトンを照射すると、以下の問題が生じることがわかった。すなわち加速エネルギーの高いプロトンがシリコンに与えるダメージ(いわゆるディスオーダー)が大きいため、照射部分のキャリアのライフタイムが低下する他、キャリアの移動度も低下する。ライフタイムあるいは移動度の低下は、電気的損失の増加につながる。
【0017】
この対策として、加速エネルギーの高いプロトンを照射することによる結晶性に与えるダメージを、電気炉によるアニール(以下、炉アニールと呼ぶ)のアニール温度を高くして低減しようとする場合、所定の温度を超えるとドナーが消失するようになる。そのため、水素関連ドナーのドナー化率を高くすることと、ライフタイムあるいはキャリアの移動度を高くすることの両立が難しいという問題があった。
【0018】
この発明の目的は、前記の課題を解決して、IGBTのターンオフ振動やダイオードの逆回復時の振動、また漏れ電流の増大を抑制することが可能となり、電気的損失を低減できる半導体装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上述した課題を解決し、目的を達成するため、この発明にかかる半導体装置は、第1導電型半導体基板からなる第1導電型ドリフト層を有する。また、この発明にかかる半導体装置は、前記第1導電型半導体基板の一方の主面の表面層に選択的に形成され、前記第1導電型ドリフト層よりも高ドーピング濃度の第2導電型ベース層と、前記第2導電型ベース層の前記一方の主面の表面層に選択的に形成され、前記第2導電型ベース層よりも高ドーピング濃度の第1導電型エミッタ層と、を有する。さらに、この発明にかかる半導体装置は、前記第1導電型ドリフト層、前記第2導電型ベース層、および前記第1導電型エミッタ層と、絶縁膜を挟んで対向するように形成されたゲート電極を有する。また、この発明にかかる半導体装置は、前記第1導電型半導体基板の他方の主面の表面層に形成され、前記第1導電型ドリフト層よりも高ドーピング濃度の第2導電型コレクタ層を有する。そして、この発明にかかる半導体装置は、前記第2導電型コレクタ層と前記第1導電型ドリフト層との間に形成され、前記第1導電型ドリフト層よりも高ドーピング濃度であり、ドーピング濃度が前記第2導電型コレクタ層から前記一方の主面側に離れた箇所で最大であり、ドーパントが水素誘起ドナーからなる第1導電型第1フィールドストップ層と、前記第2導電型コレクタ層と前記第1導電型ドリフト層との間に形成され、前記第1導電型ドリフト層よりも高ドーピング濃度であり、前記第2導電型コレクタ層に隣接する箇所でドーピング濃度が最大であるとともに前記一方の主面に向かってドーピング濃度が減少し、ドーパントがセレンか硫黄である第1導電型第2フィールドストップ層と、を有することを特徴とする。
【0020】
また、この発明にかかる半導体装置は、上記の発明において、前記第1導電型第1フィールドストップ層が前記一方の主面側に向かって前記第1導電型第2フィールドストップ層と離間していてもよい。
【0021】
また、この発明にかかる半導体装置は、上記の発明において、前記第1導電型第1フィールドストップ層が、前記第2導電型コレクタ層と前記第1導電型第2フィールドストップ層との間に形成されていてもよい。
【発明の効果】
【0022】
この発明にかかる半導体装置によれば、IGBTのターンオフ振動やダイオードの逆回復時の振動、また漏れ電流の増大を抑制することが可能となり、電気的損失を低減できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、本発明の実施の形態1にかかる半導体装置の断面構造を示す断面図である。
図2図2は、図1のA1−A2線上でのドーピング濃度分布を示す特性図である。
図3図3は、本発明の実施の形態2にかかる半導体装置の断面構造を示す断面図である。
図4図4は、図3のA1−A2線上でのドーピング濃度分布を示す特性図である。
図5図5は、従来の半導体装置の断面構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に添付図面を参照して、この発明にかかる半導体装置および半導体装置の製造方法の好適な実施の形態を詳細に説明する。本明細書および添付図面においては、nまたはpを冠記した層や領域では、それぞれ電子または正孔が多数キャリアであることを意味する。また、nやpに付す+および−は、それぞれそれが付されていない層や領域よりも高不純物濃度および低不純物濃度であることを意味する。なお、以下の実施の形態の説明および添付図面において、同様の構成には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。以下の説明における「濃度」とは、特に断らない場合はn型あるいはp型の導電性を示すドーパントの濃度、すなわちドーピング濃度のことを示す。また、半導体基板としてシリコンを中心に説明するが、シリコンに限るものではなく、セレン、水素等がドナーとなる半導体であれば構わない。例えばシリコンカーバイド(SiC)、窒化ガリウム(GaN)等である。
【0025】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1にかかる半導体装置の断面構造を示す断面図である。図1において、本発明の実施の形態1にかかる半導体装置は、この発明にかかる第1導電型半導体基板を実現する基体100を備えている。基体100は、この発明にかかる実施の形態1の半導体基板を実現する。基体100は、例えば、シリコン半導体基板によって実現することができる。基体100は、n型ドリフト層1を備えている。n型ドリフト層1は、この発明にかかる実施の形態1の第1導電型ドリフト層を実現する。
【0026】
基体100をなすシリコン半導体基板は、例えばCZ(チョクラルスキー法)、MCZ(磁場を印加したチョクラルスキー法)、FZ(フロートゾーン法)等で形成されたシリコンインゴットからの切り出しウェハーを用いる。ウェハーの比抵抗は、例えば10Ωcmよりも高い。
【0027】
基体100において、n型ドリフト層1の一方の主面(おもて面)の表面層には、n型ドリフト層1よりも高不純物濃度(高ドーピング濃度)のp型ベース層4とp型浮遊層30とが形成されている。p型ベース層4は、この発明にかかる実施の形態1の第2導電型ベース層を実現する。p型ベース層4とp型浮遊層30とは、拡散深さおよびドーピング濃度が同じであってもよい。
【0028】
p型ベース層4のおもて面側の表面層には、p型ベース層4よりも高不純物濃度(高ドーピング濃度)のn型エミッタ層5が選択的に形成されている。n型エミッタ層5は、この発明にかかる実施の形態1の第1導電型エミッタ層を実現する。さらに、n型ドリフト層1のおもて面側には、p型ベース層4とn型エミッタ層5に接するようにエミッタ電極12が形成されている。
【0029】
また、n型ドリフト層1のおもて面には、トレンチ7が形成されている。トレンチ7は、n型エミッタ層5とp型ベース層4に接し、さらにn型ドリフト層1に達するように、n型ドリフト層1のおもて面側から形成されている。トレンチ7には、ゲート絶縁膜6を挟んでゲート電極11が埋め込まれている。これにより、MOSゲート構造が備えられる。
【0030】
基体100のおもて面側の表面層には、ゲート電極11とエミッタ電極12とを絶縁するために、層間絶縁膜9が形成されている。層間絶縁膜9は、この発明にかかる実施の形態1の絶縁膜を実現する。この層間絶縁膜9により、p型浮遊層30とエミッタ電極12も絶縁されている。ゲート電極11は、n型ドリフト層1、p型ベース層4、およびn型エミッタ層5と、ゲート絶縁膜6を挟んで対向するように形成されている。すなわち、ゲート電極11の周囲には、ゲート絶縁膜6を介して、n型ドリフト層1、p型ベース層4、およびn型エミッタ層5が配設されている。
【0031】
基体100の他方の主面(裏面)の表面層には、p型コレクタ層3が形成されている。p型コレクタ層3は、この発明にかかる実施の形態1の第2導電型コレクタ層を実現する。また、基体100の裏面側には、p型コレクタ層3に接するように、コレクタ電極13が形成されている。
【0032】
基体100において、p型コレクタ層3よりもおもて面側には、p型コレクタ層3から基体100におけるおもて面側に向かって、n型セレン・ドープフィールドストップ層21が形成されている。n型セレン・ドープフィールドストップ層21は、基体100に、セレンあるいは硫黄をドーパントとしてドーピングすることによって形成することができる。具体的に、例えば、基体100の裏面側から、セレンをドーピングすることによって形成することができる。
【0033】
n型セレン・ドープフィールドストップ層21は、p型コレクタ層3とn型ドリフト層1との間に形成されている。n型セレン・ドープフィールドストップ層21は、n型ドリフト層1の不純物濃度よりも高い不純物濃度(高ドーピング濃度)である。n型セレン・ドープフィールドストップ層21は、p型コレクタ層3に隣接する箇所でドーピング濃度が最大であるとともに、p型コレクタ層3からおもて面に向かってドーピング濃度が減少している。
【0034】
基体100において、n型セレン・ドープフィールドストップ層21よりもおもて面側には、n型セレン・ドープフィールドストップ層21から基体100におけるおもて面に向かって、n型プロトン・ドープフィールドストップ層20が形成されている。n型プロトン・ドープフィールドストップ層20は、基体100に、水素誘起ドナーからなるドーパントをドーピングすることによって形成されている。具体的に、n型プロトン・ドープフィールドストップ層20は、例えば、基体100の裏面側から、プロトンをドーピングすることによって形成することができる。
【0035】
n型プロトン・ドープフィールドストップ層20は、p型コレクタ層3とn型ドリフト層1との間に形成されている。n型プロトン・ドープフィールドストップ層20は、n型ドリフト層1の不純物濃度よりも高い不純物濃度(高ドーピング濃度)である。n型プロトン・ドープフィールドストップ層20は、p型コレクタ層3よりも基体100のおもて面側であって、p型コレクタ層3から離れた箇所において不純物濃度(ドーピング濃度)が最大となるように形成されている。
【0036】
n型プロトン・ドープフィールドストップ層20は、n型セレン・ドープフィールドストップ層21とは離れて設けられている。すなわち、n型プロトン・ドープフィールドストップ層20とn型セレン・ドープフィールドストップ層21とは、基体100の表裏方向において離間している。n型プロトン・ドープフィールドストップ層20は、この発明にかかる実施の形態1の第1導電型第1フィールドストップ層を実現する。
【0037】
図2は、図1のA1−A2線上でのドーピング濃度分布を示す特性図である。図2において、p型コレクタ層3は、基体100の裏面の表面層から基体100の内部にアクセプターを拡散させることによって形成されている。アクセプターは、例えばボロンである。p型コレクタ層3の拡散深さは、例えば0.5μmである。p型コレクタ層3の最大ドーピング濃度は、例えば1×1018/cm3である。
【0038】
n型セレン・ドープフィールドストップ層21においては、基体100の裏面の表面層から基体100におけるおもて面側に向かってドーパントが拡散している。n型セレン・ドープフィールドストップ層21のドーパントは、セレンや硫黄等の拡散係数が大きい元素であり、例えばセレンである。
【0039】
セレンや硫黄のようなn型不純物は、拡散係数がリンや砒素よりも高く、900℃程度の温度で約30μm拡散する。このため、セレンや硫黄のようなn型不純物を用いる場合、リンや砒素を用いる場合と比較して、比較的低温で深い(広い)n型セレン・ドープフィールドストップ層21を形成することができる。
【0040】
n型セレン・ドープフィールドストップ層21は、p型コレクタ層3との境界領域ではドーピング濃度が補償されている。そのため、n型セレン・ドープフィールドストップ層21の最大ドーピング濃度の位置はp型コレクタ層3よりも基体100におけるおもて面側に深い位置となり、最大ドーピング濃度は例えば5×1014/cm3程度である。図2において、拡散したセレンがn型ドリフト層1のドーピング濃度よりも低くなる深さの位置を符号Pで示している。
【0041】
基体100において、深さPの位置よりもおもて面側の領域は、n型ドリフト層1である。基体100において、この深さPの位置よりもさらにおもて面側には、n型プロトン・ドープフィールドストップ層20が形成されている。このn型プロトン・ドープフィールドストップ層20は、n型セレン・ドープフィールドストップ層21とは離間していることが重要である。
【0042】
この実施の形態1においては、深さPの位置よりもおもて面側であって、n型プロトン・ドープフィールドストップ層20とn型セレン・ドープフィールドストップ層21との間にn型ドリフト層1が存在することにより、n型プロトン・ドープフィールドストップ層20とn型セレン・ドープフィールドストップ層21とが、距離Lだけ離間している。これは、n型プロトン・ドープフィールドストップ層20が、空乏層の広がりを、n型セレン・ドープフィールドストップ層21の手前で妨げる効果を有するためである。
【0043】
従来のセレンによるフィールドストップ層では、空乏層の広がりを抑制する効果は、p型コレクタ層3の手前でドーピング濃度が最大となるところでないと得られない。このため、蓄積されたキャリアは空乏層の広がりで全て掃き出されてしまい、キャリアが枯渇する。この枯渇が、ターンオフ振動を発生させる。また、特許文献2のようにセレンによるフィールドストップ層の内部にプロトンによるフィールドストップ層を形成しても、空乏層が十分広がりきることに変わりなく、キャリアの枯渇を防ぐ効果は十分ではない。
【0044】
これに対して、本発明のように、n型プロトン・ドープフィールドストップ層20を、n型セレン・ドープフィールドストップ層21とは離して、n型セレン・ドープフィールドストップ層21よりもおもて面側に形成することで、n型プロトン・ドープフィールドストップ層20よりも裏面側の蓄積キャリアがターンオフ時に枯渇することを防ぐことができる。
【0045】
n型セレン・ドープフィールドストップ層21の最大ドーピング濃度は、n型ドリフト層1の濃度よりも高く、n型ドリフト層1の10倍の濃度よりは低い。従来では、n型セレン・ドープフィールドストップ層21の濃度は、n型ドリフト層1の濃度に対して10倍以上の濃度比(以下、FS層濃度比とする)を有するようにし、p型コレクタ層3に空乏層がリーチスルーしないようにしていた。以下、n型ドリフト層1の濃度に対するn型セレン・ドープフィールドストップ層21の濃度の比を、適宜、FS層濃度比として説明する。
【0046】
これに対し、本実施の形態1の半導体装置では、n型プロトン・ドープフィールドストップ層20において空乏層のp型コレクタ層3側への広がりを抑える。これにより、FS層濃度比を10倍以上とする必要が無く、それ以下とすることができる。その結果、n型セレン・ドープフィールドストップ層21のためのセレンイオン注入量(ドーズ量)を減らすことができ、拡散温度と拡散温度もそれぞれ小さくすることができる。
【0047】
また、p型コレクタ層3の最大ドーピング濃度は、n型セレン・ドープフィールドストップ層21の最大ドーピング濃度の10倍以上であることが好ましい。以下、p型コレクタ層3の最大濃度とn型セレン・ドープフィールドストップ層21との最大濃度の比を、コレクタ層濃度比とする。
【0048】
p型コレクタ層3に隣接するn型セレン・ドープフィールドストップ層21の濃度が高いと、コレクタ層濃度比が小さくなる。コレクタ層濃度比が小さいと、p型コレクタ層3からの正孔の注入効率が小さくなる。そのため、p型コレクタ層3の濃度バラつき、あるいはn型セレン・ドープフィールドストップ層21の濃度バラつきが正孔の注入効率を変化させる。その結果、オン電圧のバラつきにつながる。
【0049】
これに対し、本実施の形態1の半導体装置では、n型プロトン・ドープフィールドストップ層20が、n型セレン・ドープフィールドストップ層21よりも距離Lだけ離間しているので、空乏層の広がりをn型セレン・ドープフィールドストップ層21の手前で防ぐことができる。これにより、p型コレクタ層3に隣接するn型セレン・ドープフィールドストップ層21の濃度を前述のように低くすることができる。その結果、コレクタ層濃度比を大きくすることができ、注入効率の変化(バラつき)を抑えることができる。これにより、IGBTのターンオフ振動やダイオードの逆回復時の振動、また漏れ電流の増大を抑制することが可能となり、電気的損失を低減できる半導体装置を提供することができる。
【0050】
(実施の形態2)
図3は、本発明の実施の形態2にかかる半導体装置の断面構造を示す断面図である。実施の形態2にかかる本発明の、実施の形態1に対する主な相違点は、n型セレン・ドープフィールドストップ層21とp型コレクタ層3との間に、n型プロトン・ドープフィールドストップ層20を形成したことである。実施の形態2においては、上述した実施の形態1と同一部分は同一符号で示し、説明を省略する。
【0051】
図3に示すように、本発明の実施の形態2にかかる半導体装置は、実施の形態1と同様に、基体100からなるn型ドリフト層1の一方の主面(おもて面)の表面層に、トレンチ型MOSゲート構造を備えている。基体100の表面層には、ゲート電極11とエミッタ電極12とを絶縁するための層間絶縁膜9が形成されている。この層間絶縁膜9により、p型浮遊層30とエミッタ電極12も絶縁されている。
【0052】
基体100の他方の主面(裏面)の表面層には、p型コレクタ層3が形成されている。また、基体100の裏面側には、p型コレクタ層3に接するように、コレクタ電極13が形成されている。一方、基体100において、p型コレクタ層3よりもおもて面側には、p型コレクタ層3から基体100におけるおもて面側に向かって、n型プロトン・ドープフィールドストップ層20が形成されている。n型プロトン・ドープフィールドストップ層20は、基体100におけるp型コレクタ層3よりもおもて面側において、p型コレクタ層3に続いて当該p型コレクタ層3に接するように形成されている。
【0053】
さらに基体100において、n型プロトン・ドープフィールドストップ層20よりもおもて面側には、n型プロトン・ドープフィールドストップ層20に接するように、n型セレン・ドープフィールドストップ層21が形成されている。このn型セレン・ドープフィールドストップ層21の濃度分布、拡散深さは、実施の形態1と同様であることが好ましい。
【0054】
図4は、図3のA1−A2線上でのドーピング濃度分布を示す特性図である。図4において、p型コレクタ層3は、実施の形態1と同様の構成であって、基体100の裏面の表面層から基体100の内部にアクセプター(例えば、ボロン)を拡散させることによって形成されている。
【0055】
基体100において、p型コレクタ層3よりもおもて面側に形成されたn型プロトン・ドープフィールドストップ層20に隣接して形成されたn型セレン・ドープフィールドストップ層21は、おもて面側に向かってドーピング濃度が減少し、深さPで示す位置において、n型ドリフト層1のドーピング濃度と同じドーピング濃度となる。
【0056】
実施の形態2における各層のドーピング濃度と配置関係は、以下の特徴を有する。n型プロトン・ドープフィールドストップ層20の最大ドーピング濃度をNpとする。n型プロトン・ドープフィールドストップ層20のドーピング濃度は、この最大ドーピング濃度Npの位置から基体100の裏面側(p型コレクタ層3側)に向かって減少する。
【0057】
n型プロトン・ドープフィールドストップ層20のドーピング濃度分布は、最大ドーピング濃度Npの半値である0.5Npよりも低いドーピング濃度を示す箇所(例えば、図4における位置Q)で、n型セレン・ドープフィールドストップ層21のセレンのドーピング濃度(図4における符号400で示す破線を参照)と交差するように調整する。
【0058】
これにより、n型プロトン・ドープフィールドストップ層20とp型コレクタ層3とが離間するようになる。すなわち、n型プロトン・ドープフィールドストップ層20とp型コレクタ層3との間に、n型セレン・ドープフィールドストップ層21の一部が存在することにより、n型プロトン・ドープフィールドストップ層20とp型コレクタ層3とが離間する。そのため、p型コレクタ層3の最大ドーピング濃度と、p型コレクタ層3およびn型セレン・ドープフィールドストップ層21とのpn接合位置(図4における符号Rを参照)におけるセレンのドーピング濃度との濃度比(コレクタ層濃度比)が10倍以上となる。
【0059】
仮に、n型プロトン・ドープフィールドストップ層20が、0.5Npよりも高い濃度を示す箇所でセレンのドーピング濃度と交差するように調整した場合、n型プロトン・ドープフィールドストップ層20とp型コレクタ層3とが直接、接するようになる。そのため、コレクタ層濃度比が10倍以下となり、正孔の注入効率の変化の影響がオン電圧に現れるようになる。
【0060】
また、IGBTが短絡する時に、裏面のp型コレクタ層とn型フィールドストップ層でアバランシェを起こし、素子が破壊するモード(破壊現象)が存在する。以下、この破壊現象を裏面アバランシェ降伏と呼ぶ。この裏面アバランシェ降伏による素子の破壊現象を防ぐために、n型フィールドストップ層の濃度を下げて空乏層を伸びやすくし、p型コレクタ層側からのホール注入を増やすことでp型コレクタ層側の電界を下げる方法がある。しかしながら、この方法では、空乏層を伸びやすくすることで、ゲートをオフした状態でのブロッキングモードにおける漏れ電流が増加してしまう。
【0061】
これに対し、本発明の実施の形態2の構成とすることで、p型コレクタ層3からの正孔注入効率を低下させることなく、IGBTの短絡時に正孔を注入させることができ、裏面アバランシェ降伏を抑えることができる。さらに、本発明の実施の形態2の構成とすることで、n型プロトン・ドープフィールドストップ層20があるため、ブロッキングモードにおける漏れ電流も、確実に抑えることができる。
【0062】
なお、特許文献2に記載の構成でも、裏面アバランシェ降伏を抑える効果とブロッキングモードでの漏れ電流の低減効果は得られる。しかしながら、本発明の実施の形態2の構成によれば、p型コレクタ層3とn型プロトン・ドープフィールドストップ層20との間の電界強度を、リンによるフィールドストップ層よりも十分小さくすることができるため、特許文献2に記載の構成と比較した場合にも、裏面アバランシェ降伏をより一層抑えることが可能である。
【0063】
上述した実施の形態1および実施の形態2においては、基体100を構成するシリコン半導体基板に対して不純物をドーピングすることによって、p型ベース層4やp型浮遊層30を形成する例について説明したが、p型ベース層4やp型浮遊層30の形成方法はこれに限るものではない。p型ベース層4やp型浮遊層30は、例えば、基板となる結晶(シリコン製の基板など)の上にエピタキシャル成長をおこなうことによって形成されたものであってもよい。この場合、基板となる結晶(シリコン製の基板など)、および、エピタキシャル成長によって形成されたp型ベース層4およびp型浮遊層30によって基体100を実現することができる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
以上のように、この発明にかかる半導体装置は、半導体装置に有用であり、特に、FS層を有するダイオードおよびIGBTなどの半導体装置に適している。
【符号の説明】
【0065】
1 n型ドリフト層
3 p型コレクタ層
4 p型ベース層
5 n型エミッタ層
6 ゲート絶縁膜
7 トレンチ
9 層間絶縁膜
11 ゲート電極
12 エミッタ電極
13 コレクタ電極
20 n型プロトン・ドープフィールドストップ層
21 n型セレン・ドープフィールドストップ層
30 p型浮遊層
100 基体
図1
図2
図3
図4
図5