特許第6332479号(P6332479)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6332479希土類永久磁石および希土類永久磁石の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6332479
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】希土類永久磁石および希土類永久磁石の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/057 20060101AFI20180521BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20180521BHJP
   B22F 1/00 20060101ALI20180521BHJP
   B22F 3/00 20060101ALI20180521BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20180521BHJP
【FI】
   H01F1/057 170
   H01F41/02 G
   B22F1/00 Y
   B22F3/00 F
   C22C38/00 303D
【請求項の数】6
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2016-575597(P2016-575597)
(86)(22)【出願日】2016年4月28日
(86)【国際出願番号】JP2016063515
(87)【国際公開番号】WO2016175332
(87)【国際公開日】20161103
【審査請求日】2016年12月26日
(31)【優先権主張番号】特願2015-92885(P2015-92885)
(32)【優先日】2015年4月30日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2015-92887(P2015-92887)
(32)【優先日】2015年4月30日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100093861
【弁理士】
【氏名又は名称】大賀 眞司
(74)【代理人】
【識別番号】100129218
【弁理士】
【氏名又は名称】百本 宏之
(72)【発明者】
【氏名】伴野 秀和
(72)【発明者】
【氏名】江口 晴樹
(72)【発明者】
【氏名】米山 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】中野渡 功
(72)【発明者】
【氏名】長尾 佳祐
(72)【発明者】
【氏名】高橋 寛郎
【審査官】 岩間 直純
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/020183(WO,A1)
【文献】 特開2009−242936(JP,A)
【文献】 特開2013−080738(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/041338(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/057
H01F 41/02
B22F 1/00
B22F 3/00
C22C 38/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
NdとPrとからなる群から、Nb、又は、Nb及びPrが選択される元素Rと、
CoとBeとLiとAlとSiとからなる群から一種以上選択される元素Lと、
TbとSmとGdとHoとErとからなる群から一種以上選択される元素Aと、
Feと、
Bと、
を含有する主相を備える希土類永久磁石であって
この主相はP42/mnmに属する結晶を形成し、当該結晶において、前記元素Lが、前記結晶の4fサイトのB原子の一部を置換し、そして、前記結晶の4fサイトのNd原子と、前記結晶の4cサイトのFe原子と、前記結晶の8jサイトのFe原子とからなる群から二種以上選択される原子の一部を置換し、
前記主相と主相間に形成される粒界相と、前記主相と前記粒界相との境界である界面と、をさらに備え、前記粒界相成分であるCuの含有量は、前記希土類永久磁石の総重量に対して、0.01〜0.1重量%であり、前記界面のCu濃度が前記粒界相のCu濃度と比較して高い、
希土類永久磁石。
【請求項2】
主相間に形成される粒界相が、NbとZrとTiとGaとからなる群から一種以上選択される元素をさらに含有する、
請求項1に記載される希土類永久磁石。
【請求項3】
前記希土類永久磁石の総重量に対する前記元素Rの含有量が20〜35重量%であり、
Bの含有量が0.80〜0.99重量%であり、
CoとBeとLiとAlとSiとからなる群から一種以上選択される元素、及び、CuとNbとZrとTiとGaとからなる群から、少なくともCuを含めた二種以上が選択される元素の含有量の合計が、0.8〜2.0重量%であり、
TbとSmとGdとHoとErとからなる群から一種以上選択される前記元素Aの含有量の合計が2.0〜10.0重量%である、
請求項2に記載される希土類永久磁石。
【請求項4】
粉末粒径のD50が2〜18μmである合金粒子を用いて製造された、
請求項1乃至3の何れか1項に記載される希土類永久磁石。
【請求項5】
焼結密度が、6〜8g/cm3である、
請求項1乃至4の何れか1項に記載される希土類永久磁石。
【請求項6】
NdとPrとからなる群から、Nb、又は、Nb及びPrが選択される元素Rと、
CoとBeとLiとAlとSiとからなる群から一種以上選択される元素Lと、
CuとNbとZrとTiとGaとからなる群から、少なくともCuを含めた二種以上が選択される元素と、
TbとSmとGdとHoとErとからなる群から一種以上選択される元素Aと、
Feと、
Bと、
を含有する原料合金を、
第一の処理温度で保持し、前記第一の処理温度の保持時間経過後、処理温度を第二の処理温度まで低下させ、前記第二の処理温度で保持して、希土類永久磁石を製造する方法であって、
前記希土類永久磁石の主相P42/mnmに属する結晶を形成し、当該結晶において、前記元素Lが、前記結晶の4fサイトのB原子の一部を置換し、そして、前記結晶の4fサイトのNd原子と、前記結晶の4cサイトのFe原子と、前記結晶の8jサイトのFe原子とからなる群から二種以上選択される原子の一部を置換するようにし、
前記主相と主相間に粒界相を形成し、
前記主相と前記粒界相との境界に界面を形成し、
前記粒界相成分であるCuの含有量を、前記希土類永久磁石の総重量に対して、0.01〜0.1重量%にし、
前記界面のCu濃度が前記粒界相のCu濃度と比較して高くなるようにした、
希土類永久磁石の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ネオジム、鉄、ホウ素を含有する希土類永久磁石に関する。
【背景技術】
【0002】
ネオジム(Nd)、鉄(Fe)、ホウ素(B)を含有する希土類永久磁石の磁気特性を向上させる技術として、Feをコバルト(Co)で置換させた磁石がある(特許文献1)。特許文献1は、Feを他原子で置換させた永久磁石の保磁力Hc、残留磁束密度Br、最大エネルギー積BHmax等が網羅的に測定され、上記永久磁石の磁気特性の向上を示す。
【0003】
また特許文献2は、重量%で、R(RはYを含む希土類元素の少なくとも1種であり、Rに占めるNdが50原子%以上である):25〜35%、B:0.8〜1.5%、必要によりM(Ti、Cr、Ga、Mn、Co、Ni、Cu、Zn、Nb、Alから選ばれる少なくとも1種):8%以下、及び残部T(FeまたはFe及びCo)を含有する希土類焼結磁石を開示する。
【0004】
希土類永久磁石の磁気特性を向上させる他の提案として、Nd、Fe、Bからなるナノ粒子の硬磁性相をコアとし、所定のナノ粒子の軟磁性相をシェルとする2相複合構造を備えるナノコンポジット磁石がある。上記のナノコンポジット磁石は、特に軟磁性体の粒径を5nm以下の極微細粒からなる粒界で覆ってシェルとする場合に、コア/シェルの硬軟磁性相間に良好な交換相互作用が起き、飽和磁化を向上させることができる。
【0005】
特許文献3は、Nd2Fe14B化合物粒子をコアとし、Fe粒子をシェルとするナノコンポジット磁石を開示する。シェル成分として高飽和磁化を備えるFeCo合金ナノ粒子を用いることにより、ナノコンポジット磁石の飽和磁化は更に向上する。特許文献4は、NdFeB硬磁性相のコアにFeCo軟磁性相のシェルを被覆させたナノコンポジット磁石を開示する。
【0006】
特許文献5は、原子百分率にて規定される磁気的にハードな相の組成がRxT100-x-yMy(式中、Rは、希土類、イットリウム、スカンジウム、またはこれらの組み合わせ物から選択され;Tは1種以上の遷移金属から選択され;Mは、第IIIA族元素、第IVA族元素、第VA族元素、またはこれらの組み合わせ物から選択され;xは、対応する希土類遷移金属化合物におけるRの化学量論量より大きく;yは0〜約25である)であり、少なくとも1種の磁気的にソフトな相が、Fe、Co、またはNiを含有する少なくとも1種の軟磁性材料を含む、異方性バルクナノコンポジット希土類永久磁石を開示する。
【0007】
しかし特許文献5に開示されるナノコンポジット希土類永久磁石は、冶金学的な手法でソフトな相が形成される。そのため該ソフトな相を形成する粒子の粒径が大きく、交換相互作用を十分に得られない可能性がある。また合金ナノ粒子は、還元力が弱いと単層ナノ粒子の単なる集合体になりやすく、所望のナノコンポジット構造を得られない。したがって上記のナノコンポジット希土類永久磁石の磁気特性は、効果的な向上が見られない場合があると推察される。
【0008】
非特許文献1は、高温でFeCoナノ粒子を作製する方法を開示する。しかし高温で作製された該Nd2Fe14B粒子の保磁力Hcjは、良好でない。
【0009】
また従来、希土類永久磁石に炭素Cを含有させ、BをCで置換させたものが知られている。しかし非特許文献2ないし非特許文献5によれば、BをCで置換させた希土類永久磁石は、キュリー温度が低下することや、飽和磁化、残留磁束密度Brが著しく低下することが知られる。また、第一原理計算による解析では、C原子やN原子をB原子の置換原子として導入すると、C原子やN原子は、それらの周囲に存在する原子と共有結合を形成する。そのような希土類永久磁石は、磁性体に不可欠な不対電子が顕著に減少するため、磁気特性、特に残留磁束密度Brが低い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許5645651号公報
【特許文献2】特開2003-217918号公報
【特許文献3】特開2008-117855号公報
【特許文献4】特開2010-74062号公報
【特許文献5】特表2008-505500号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】G. S. Chaubey, J. P. Liu et al., J. Am. Chem. Soc. 129, 7214 (2007)
【非特許文献2】F. Leccabue, J. L. Sanchez, L. Pareti, F. Bolzoni and R. Panizzieri, Phys Status Solidi A 91 (1985) K63
【非特許文献3】F. Bolzoni, F. Leccabue, L. Pareti, and J. L. Sanchez, J. Phys (Paris), 46 (1985) C6-305
【非特許文献4】M. Sagawa, S. Hirosawa, H. Yamamoto, S. Fujimura and Y. Matsuura, Jpn. J. Appl. Phys. 26(1987)785
【非特許文献5】X. C. Kou, X. K. Sun, Chuang R. Groessinger and H. R. Kirchmayr, J. Magn Magn Mater., 80 (1989) 31
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本開示の課題は、Nd、Fe、Bを含有する主相を備える希土類永久磁石の磁気特性を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本開示の一態様は、NdとPrとからなる群から一種以上選択される元素Rと、CoとBeとLiとAlとSiとからなる群から一種以上選択される元素Lと、TbとSmとGdとHoとErとからなる群から一種以上選択される元素Aと、Feと、Bとを含有する主相を備え、主相を形成する結晶がP42/mnmに属し、結晶の4fサイトを占有するB原子の一部が元素Lの原子と置換されてなる希土類永久磁石である。
【発明の効果】
【0014】
本開示は、Nd、Fe、Bを含有する主相を備える希土類永久磁石の磁気特性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本開示の一形態の主相の結晶構造モデルを例示する図である。
図2】本開示の一形態の微細組織の模式図である。
図3】本開示の実施例の原料合金の組成を示す表である。
図4】本開示の実施例の磁気特性の測定結果を示す図である。
図5】本開示の実施例の磁気特性の測定結果を示す図である。
図6】本開示の実施例の結晶構造のリートベルト解析の結果である。
図7】本開示の実施例の結晶構造のリートベルト解析に用いたデータである。
図8】本開示の実施例の結晶構造のリートベルト解析に用いたデータである。
図9】本開示の実施例の結晶構造のリートベルト解析の結果である。
図10】本開示の実施例の原料合金の組成を示す表である。
図11】本開示の実施例の結晶構造の3DAPによる解析結果である。
図12】本開示の実施例の結晶構造の3DAPによる解析結果である。
図13】本開示の実施例の結晶構造の3DAPによる解析結果である。
図14】本開示の実施例の結晶構造の3DAPによる解析結果である。
図15】本開示の実施例の結晶構造のSpatial Distribution functionによる測定結果である。
図16】本開示の実施例の結晶構造のSpatial Distribution functionによる測定結果である。
図17】本開示の実施例の磁気特性の測定結果を示す図である。
図18】本開示の実施例の磁気特性の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本開示の一態様は、NdとPrとからなる群から一種以上選択される元素Rと、CoとBeとLiとAlとSiとからなる群から一種以上選択される元素Lと、TbとSmとGdとHoとErとからなる群から一種以上選択される元素Aと、Feと、Bとを含有する主相を備え、主相を形成する結晶がP42/mnmに属し、結晶の4fサイトを占有するB原子の一部が元素Lの原子と置換されてなる。本態様は、所定のB原子の一部が元素Lの原子で置換されることにより、残留磁束密度Brを向上できる。
【0017】
また本開示のいくつかの態様においては、4fサイトを占有するB原子だけでなく、P42/mnmに属する上記結晶の4fサイトを占有するNd原子と、4cサイトを占有するFe原子と、8jサイトを占有するFe原子とからなる群から一種以上選択される原子の一部が、元素Lの原子で置換されていてもよい。そのような態様においても、希土類永久磁石の残留磁束密度Brを向上させることができる。
【0018】
本開示のいくつかの態様の、所定の原子の一部が元素Lの原子と置換されているか否かは、リートベルト解析により判定され得る。すなわち当該置換の有無は、解析により特定された主相を形成する結晶の空間群と、その空間群に存在する各サイトにおける各元素の占有率に基づき判定される。ただし本開示は、希土類永久磁石の結晶構造における所定の置換の有無について、リートベルト解析と異なる方法によって判定することを排除しない。
【0019】
上記の元素Lの原子による置換の判定について、P42/mnmの4fサイトを占有するB原子が元素Lの原子で置換された態様を例として説明する。4fサイトを占有するNd原子と、4cサイトを占有するFe原子と、8jサイトを占有するFe原子が置換される場合においても、同様に判定できる。
【0020】
本開示の主相を形成する結晶はP42/mnmに属する。該空間群の、B原子が占有する4fサイトにおける元素Lの原子の占有率を、nと定義する。n>0.000であるとき、4fサイトを占有するB原子の一部が元素Lの原子と置換されたと判定できる。なお元素Lの原子と共に4fサイトを占有するB原子の占有率は、1.000-nと定義できる。
【0021】
主相の結晶構造が維持される限り、元素Lの原子の占有率nの値の上限は制限されない。4fサイトを占有するB原子と置換する元素Lに関しては、nは、0.030≦n≦0.100の範囲内で算出される傾向がある。なお、占有率を百分率で表す場合、(n×100)%になる。解析結果の信頼性の観点から、s値は、1.3以下であり、1に近いほど好ましい。最も好ましくは1である。s値は、信頼性因子RのR-weighted pattern(Rwp)をR-expected(Re)で除して得られる値である。
【0022】
本開示の一態様は、NdとPrとからなる群から一種以上選択される元素Rと、CoとBeとLiとAlとSiとからなる群から一種以上選択される元素Lと、TbとSmとGdとHoとErとからなる群から一種以上選択される元素Aと、Feと、Bとを含有する主相を備える。本開示のいくつかの態様はSm(サマリウム)、Gd(ガドリニウム)を含有させることで、特に残留磁束密度Brの向上が顕著である。またTb(テルビウム)、Ho(ホルミウム)、Er(エルビウム)を含有させることで、保磁力Hcjを向上できる。したがってBを所定の元素Lで置換させ、かつ元素Aを含有させることで、残留磁束密度Brと保磁力Hcjとをいずれも向上させることができる。
【0023】
上記結晶は、NdとPrとからなる群から一種以上選択される元素RとFeとBとを含むR-Fe-B層と、Fe層とを周期的に有し、B原子の一部が、前記元素Lの原子で置換され、R-Fe-B層が前記元素Aの原子を含む場合がある。
【0024】
当該主相の結晶の空間群P42/mnmには、2つの16kと、2つの8jと、1つの4gと、2つの4fと、1つの4eと、1つの4cとのサイトが存在する。以下の説明においては、16kのようにサイトが複数存在する場合、第一の16k、第二の16k、のように記載する場合がある。ただし、第一、第二、等の表現は、サイトを区別するために付するものであり、本明細書で説明する場合を除き、各サイトを特徴づけるものではない。
【0025】
上記の周期的層構造において、第一の4fサイトと、4gサイトとを占有する元素Rの原子と、4cサイトを占有するFe原子と、第二の4fサイトを占有するB原子とは、R-Fe-B層を形成する。2つの16kサイトと、2つの8jサイトと、4eサイトとを占有するFe原子は、Fe層を形成する。
【0026】
図1は、上記の態様に対応する本開示の一形態の希土類永久磁石の主相の結晶構造モデルの例である。図1において100は主相の単位格子、101はFe層、102はR-Fe-B層である。Fe層101とR-Fe-B層102とはc軸方向に沿って交互に存在する。Fe層101を挟んで隣り合う2つのR-Fe-B層102の層間距離は、0.59〜0.62nmである。本形態は、図1に示される結晶構造モデルを基本骨格とする。
【0027】
また本形態は、基本骨格を構成するB原子の一部が元素L(図1ではCo)で置換される。これにより残留磁束密度Brを向上できる。また図1に例示されるように元素Lの原子は、Fe原子とも置換しうる。また図示しないが、元素Lの原子は、Nd原子とも置換しうる。本形態において主相の単位格子を構成する原子数は、希土類永久磁石の粒子の原子数の90〜98at%を示す。なお本形態は、その作用効果を得られる範囲内で主相に不純物を含みうる。
【0028】
本形態は、Bの含有量を低減することで元素Rの磁気モーメントの減少を抑制できる。またBの含有量の低減により上記の基本骨格が不安定化し、他の元素が基本骨格や基本骨格内の空隙に入り込みやすくなる。他の元素としてCを含有する希土類永久磁石においては、基本骨格が不安定になるとBがCと置換しやすい。
【0029】
しかし本形態は、そのような希土類永久磁石と異なり、Cを含有しない、またはCの含有量が極めて微量である。その結果、Bは元素Lと置換され、Cとは置換しない。またCとの置換が認められる場合でも、Cと置換される部分は、元素Lと置換される部分と比較して少ない。
【0030】
本形態においては、Bを元素Lで置換させる結晶構造を得るため、本形態はBの含有量を抑制し、またCが主相の結晶構造に入り込まないようにCの量を制御する。例えば製造工程で、C源となる紙、プラスチック、油などと、原料合金との接触を極力排除することで、本形態の所定の結晶構造を得られる。
【0031】
上記に例示する方法でCの量の制御した場合の本形態の原料合金を元素分析した例として、原料合金中Bが0.94%、Cが0.03%であり、この原料合金を焼結させて得られる本形態の希土類永久磁石中、Bが0.94%、Cが0.074%である場合がある。他の例として、原料合金中、Bが0.86%、Cが0.009%であり、この原料合金を焼結させて得られる本形態の希土類永久磁石中、Bが0.86%、Cが0.059%である場合がある。なお上記の元素分析では、島津製作所製ICP発光分析装置(ICP Emission Spectroscopy) ICPS-8100を用いた。上記の単位(%)は、重量%を意味する。
【0032】
また、上記に例示する2つの希土類永久磁石の粒界部分を除き、粒内中央すなわち主相部分を3次元アトムプローブ(3DAP)により分析した。分析には、AMETEK社製LEAP3000XSi を用い、測定条件をレーザパルスモード(レーザ波長=532nm)、レーザパワー=0.5nJ、試料温度=50Kとした。2つの例はいずれも、主相におけるCの含有量は検出限界値の0.02%以下であった。これにより、本形態においてはCが含有される場合であっても、Cの大部分は粒界相に存在し、主相には不可避の不純物程度の量しか含有されないと確認できる。上記の例ではCについて分析したが、NやOについてもCと同じ態様になりうる。
【0033】
元素RはNdであり、Ndの一部をPrで置換させてもよい。NdとPrとの原子数比は、80:20〜70:30である。低コスト化の観点からは、Prの割合が大きくNdの割合が小さいほど好ましい。しかしNdの割合が上記の原子数比で70より小さくなると、残留磁束密度Brが低下する可能性が高くなる。なお本形態においては、元素Lは、NdやFeとも置換しうる。
【0034】
本形態は、Bの一部をCoとBeとLiとAlとSiとからなる群から一種以上選択される元素Lで置換させる。これにより本形態は、希土類永久磁石の残留磁束密度Brを向上させることができる。元素LはCoであることが好ましい。なお上記に例示した元素の他、その波動関数が格子間隙に適合するものや、Bの原子半径より小さい原子半径を有するものもBと置換させ得る。
【0035】
Bと元素Lとの原子数比(B:元素L)は、(1-x):xで表され、xは0.01≦x≦0.25を満たし、0.03≦x≦0.25が好ましい。x<0.01の場合、磁気モーメントが低下する。x>0.25の場合、所定の結晶構造を維持できない。
【0036】
本形態は、Bを所定の元素で置換させることで、Nd原子からB原子への電子供与を低減できる。その結果、Ndの不対電子数の減少が抑制され、Nd原子の磁気モーメントを向上させることができる。なお本形態においては、元素LはNdやFeとも置換しうる。
【0037】
本形態の主相を構成するNd原子は、その磁気モーメントが、Nd2Fe14B結晶中のNd原子の磁気モーメントより大きい。該磁気モーメントは少なくとも2.70μBより大きく、好ましくは3.75〜3.85μBであり、より好ましくは3.80〜3.85μBである。
【0038】
その他、本形態は、R-Fe-B層102にTbとSmとGdとHoとErとからなる群から一種以上選択される元素Aを含む。SmやGdを含有させることで、残留磁束密度Brを向上できる。またTbや、Hoや、Erを含有させることで、保磁力Hcjを向上できる。上記の各元素を併用することで、保磁力Hcjと残留磁束密度Brとをいずれも向上させることができる。なお本形態においては、元素AはFeとも置換しうる。
【0039】
本形態は、元素RとFeとBとのいずれとも置換しなかった未置換の元素Lや元素A、加えて原料合金に含有される他の元素が、Nd-Fe-B層のいずれかのサイトに存在する態様を包含する。他の元素の例としては、希土類永久磁石の磁気特性を向上させる公知の元素が挙げられる。また、Cu、Nb、Zr、Ti、Ga等の粒界相を形成する元素やO等の副相を形成する元素が主相の結晶構造のいずれかのサイトに入り込む場合もある。
【0040】
本形態はNd原子の磁性が発現するため、Fe原子とNd原子とに由来する磁性により良好な磁気特性を備える。本形態の磁気特性は、保磁力Hcjや残留磁束密度Brにより評価できる。本形態の磁気特性は、従来のNd2Fe14B結晶からなる希土類永久磁石と比較し、不対電子数の増加により40〜50%程度向上する。とくに元素Aを添加することで良好な残留磁束密度Brを備える。
【0041】
本形態の希土類永久磁石は、主相と主相間に形成される粒界相とを備え、希土類永久磁石の総重量に対する元素Rの含有量は20〜35重量%であり、好ましくは22〜33重量%である。元素RとしてNdとPrとを用いる場合は、Ndが15〜40重量%、Prが5〜20重量%であることが好ましい。Bの含有量は0.80〜0.99重量%であり、好ましくは0.82〜0.98重量%である。CoとBeとLiとAlとSiとCuとNbとZrとTiとGaとからなる群から一種以上選択される元素の含有量の合計が、0.8〜2.0重量%であり、好ましくは、0.8〜1.5重量%である。TbとSmとGdとHoとErとからなる群から一種以上選択される元素Aの含有量の合計は2.0〜10.0重量%であり、好ましくは2.6〜5.4重量%である。残部は鉄である。各成分が上記の含有量を備えることで、本形態は上記に記載した所定の結晶構造となる。これにより、良好な残留磁束密度Brと保磁力Hcjとを得られる。
【0042】
本形態は、上記の主相を有する他、該主相間に粒界相を備えることが好ましい。主相間に形成される粒界相が、AlとCuとNbとZrとTiとGaとからなる群から一種以上選択される元素を含有することが好ましい。
【0043】
図2は、本開示の一形態の微細組織の例を示す模式図である。図2において200は主相であり、300は粒界相であり、400は副相である。図2に例示される微細組織を備える希土類永久磁石に磁場をかけると、粒界相成分のスピン電子が主相成分のスピン電子をピン止めし、主相成分のスピンの反転が抑制される。すなわち粒界相が主相の磁気交換結合を切断する。その結果、保磁力Hcjを向上させることができる。
【0044】
本形態の粒界相成分がAlとCuとである場合、希土類永久磁石の総重量に占めるAlの含有量は0.1〜0.4重量%が好ましく、0.2〜0.3重量%がより好ましい。Cuの含有量は0.01〜0.1重量%が好ましく、0.02〜0.09重量%がより好ましい。Zrを添加する場合、Zrの含有量は、0.004〜0.04重量%が好ましく、0.01〜0.04重量%がより好ましい。
【0045】
本形態は、高い残留磁束密度Brと高い保磁力Hcjと大きな最大エネルギー積BHmaxとを兼ね備える。また主相を含む焼結粒子の焼結粒径を微細化することで、磁気特性をさらに向上させることができる。また元素AとしてHo等を含有する場合、耐熱性にも優れる。
【0046】
本形態の希土類永久磁石は、希土類永久磁石の原料合金の粉末を熱処理して得られる焼結粒子を用いて製造できる。そのような原料合金は、元素Rと、CoとBeとLiとAlとSiとCuとNbとZrとTiとGaとからなる群から一種以上選択される元素と、元素Aと、Feと、Bとを含み、粉末粒径のD50が2〜18μmであり、好ましくは2〜13μmであり、より好ましくは2〜9μmである。上記の好ましい範囲を外れる場合、好ましい焼結粒径を備える希土類永久磁石を得難くなる。
【0047】
本形態において粉末粒径とは、熱処理工程前の粉末状または粒子状の原料合金の粒径を意味する。粉末粒径は、レーザ回折式粒子径分布測定装置を用いて公知の方法で測定できる。また焼結粒径とは、熱処理工程後の上記の粉末状または粒子状の原料合金の粒径を意味する。本形態においてD50とは、体積基準での合金微粒子群の累積分布におけるメディアン径である。
【0048】
本形態の希土類永久磁石の焼結粒径のD50は、2.2〜20μmが好ましく、2.2〜15μmがより好ましく、2.2〜10μmがさらに好ましい。焼結粒径のD50が20μmを超える場合、保磁力の低下が著しくなる。
【0049】
上記の原料合金を熱処理することで得られる焼結粒径は、粉末粒径の110〜300%であり、より詳細には110〜180%である。したがって、原料合金を、ボールミル、ジェットミル等公知の手段を用いて粉末粒径を所定の値の範囲内になるまで調節し、成型、着磁、脱脂、熱処理等した結果、上記の好ましい範囲の焼結粒径を備える焼結粒子を得られる。
【0050】
本形態の希土類永久磁石は、焼結密度が、6.0〜8.0g/cm3であることが好ましい。本形態は、焼結密度が高いほど残留磁束密度Brが大きくなる。そのため焼結密度は、6.0g/cm3以上で大きいほど好ましい。ただし本形態の焼結密度は、原料合金の粉末粒径や、後に説明する熱処理工程での処理温度、焼結温度や時効温度により決定される。
【0051】
したがって、準備しうる原料合金や熱処理工程の条件から、当該焼結密度は6.0〜8.0g/cm3になり、より好ましくは7.0〜7.9g/cm3になり、さらに好ましくは7.2〜7.7g/cm3になる。焼結密度が6.0g/cm3より小さい場合、焼結体中に空隙が多くなり残留磁束密度Br、さらには保磁力Hcjの低下がみられ、本形態の所定の磁気特性を備える希土類永久磁石にならない。
【0052】
[希土類永久磁石の製造方法]
本形態の希土類永久磁石の製造方法は、本形態の作用効果を得られる限り、特に制限されない。好ましい本形態の製造方法としては、微粒子化工程、着磁工程、脱脂工程、熱処理工程とを含む製造方法が挙げられる。上記の各工程により得られた生成物を冷却工程で室温になるまで冷却させて、本形態の希土類永久磁石を製造できる。
【0053】
[微粒子化工程]
微粒子化工程では、NdとPrとからなる群から一種以上選択される元素Rと、CoとBeとLiとAlとSiとCuとNbとZrとTiとGaとからなる群から一種以上選択される元素と、TbとSmとGdとHoとErとからなる群から一種以上選択される元素Aと、Feと、Bとを上記に説明する化学量論比で溶解させ、原料合金を得る。
【0054】
原料合金に配合される化学量論比は、最終生成物である本形態の主相となる化合物における組成とほぼ変わらない。したがって、所望の化合物の組成に応じて原材料を配合させればよい。なおDy等、上記に例示した元素と異なる元素を含有させる場合も、上記の原材料と共に配合させる。なお、この原料合金はアモルファス合金ではないことが好ましい。
【0055】
得られた原料合金はボールミル、ジェットミル等を用いて粗粉砕する。粉末粒径のD50は2〜25μmが好ましく、他の好ましい粉末粒径のD50としては、2〜18μmが挙げられる。粉末粒径のD50は、2〜15μmまたは2〜13μmがさらに好ましい。さらに粗粉砕した原料合金微粒子をボールミル、ジェットミル等を用いて微細化させることも好ましい。
【0056】
粗粉砕した原料合金粒子を有機溶媒に分散させ、還元剤を添加する。例えば、粉末粒径のD50が2〜18μmの原料合金を用いて製造する場合のTbとSmとGdとHoとErとの含有量の合計を100%として、TbとSmとGdとHoとErとの含有量を20〜30%低減させた場合でも、100%の場合と同等の磁気特性を備える。
【0057】
[着磁工程]
着磁工程においては、得られた原料合金微粒子を配向磁場下で圧縮成型する。さらに熱処理工程で、得られた成形体を真空下で焼結後、焼結物を室温まで急冷する。続いて不活性ガス雰囲気中で時効処理し、室温まで冷却する。
【0058】
本形態は、熱処理工程の前に脱脂工程を設けることも好ましい。脱脂工程を行うことで、原料合金が微量のCを含有する場合でも、CがBと置換することを抑制しうる。
【0059】
[熱処理工程]
熱処理工程においては、所定の温度管理と時間管理とにより主相や粒界相が形成される。熱処理条件は、含有成分の融点に基づいて決定される。すなわち処理温度を主相形成温度まで昇温させて保持することで全ての含有成分を溶解させる。その後、主相形成温度から粒界相形成温度まで温度を低下させる過程で主相成分が固相となり、粒界相成分が固相表面に析出し始める。粒界相形成温度で保持することにより粒界相を形成できる。
【0060】
本形態は、NdとPrとからなる群から一種以上選択される元素Rと、CoとBeとLiとAlとSiとCuとNbとZrとTiとGaとからなる群から一種以上選択される元素と、TbとSmとGdとHoとErとからなる群から一種以上選択される元素Aと、Feと、Bとを含有する原料合金を、第一の処理温度で保持する熱処理工程を含み、前記元素Rと、CoとBeとLiとAlとSiとからなる群から一種以上選択される元素Lと、前記元素Aと、Feと、Bとを含有する主相を備え、主相を形成する結晶がP42/mnmに属し、前記結晶の4fサイトを占有するB原子の一部が元素Lの原子と置換されてなる希土類永久磁石の製造方法である。
【0061】
本形態は、別言すれば、NdとPrとからなる群から一種以上選択される元素Rと、CoとBeとLiとAlとSiとCuとNbとZrとTiとGaとからなる群から一種以上選択される元素と、TbとSmとGdとHoとErとからなる群から一種以上選択される元素Aと、Feと、Bとを含有する原料合金を、第一の処理温度で保持する熱処理工程を含み、前記元素RとFeとBとを含むR-Fe-B層と、Fe層とを周期的に有し、Bの一部が、CoとBeとLiとAlとSiとからなる群から一種以上選択される元素Lで置換され、R-Fe-B層が前記元素Aを含む主相を形成する希土類永久磁石の製造方法である。
【0062】
本形態の希土類永久磁石の製造方法は、第一の処理温度の保持時間経過後、処理温度を第二の処理温度まで低下させ、第二の処理温度で保持する熱処理工程を含み、主相間に粒界相を形成させることも好ましい。すなわち本形態の熱処理工程は、焼結工程を含み、時効工程を含みうる。
【0063】
熱処理工程では、まず原料合金粒子を第一の処理温度まで昇温させて、全ての含有成分を溶解するまで当該温度で保持する。熱処理工程におけるこの段階は本形態の焼結工程であり、第一の処理温度は、焼結温度と言い換えてもよい。第一の処理温度は、原料合金粒子に含有される元素RとFeとBと元素Lと元素Mと元素Aとの融点を勘案して設定する。
【0064】
第一の処理温度の例としては、1000〜1200℃が好ましく、1010〜1090℃がより好ましい。より詳細な例として、元素RとしてNdとPrを、元素LとしてCoを、元素AとしてTbとSmとを選択する場合、第一の処理温度を、1030〜1080℃に設定できる。元素RとしてNdとPrを、元素LとしてCoを、元素AとしてTbとHoとを選択する場合、第一の処理温度を、1030〜1060℃に設定できる。
【0065】
焼結工程後、該熱処理工程は時効工程に移行する。時効工程では、第一の処理温度から第二の処理温度まで温度を低下させる過程で、少なくとも元素RとFeとBと元素Lと元素Aとを含む主相成分が固相を形成し、粒界相成分が固相表面に析出し始める。本形態においてAlとCuとNbとZrとTiとからなる群から選択されるいずれか一種以上の元素は、一部が他の主相成分と共に固相を形成し、他の一部は固相表面に析出して粒界相を形成する。第二の処理温度で保持することにより、粒界相と粒界相成分と共通する元素を含有する主相とを形成できる。
【0066】
第二の処理温度は、粒界相形成温度に基づいて設定する。時効工程では、温度管理が一段階以上で行われる。したがってn段階の温度管理を行う場合、第二の処理温度は、第一の時効温度から第nの時効温度までで段階的に温度を変化させて保持する。
【0067】
上記の各工程を経ることにより、本形態の希土類永久磁石を製造できる。当該希土類永久磁石は、NdとPrとからなる群から一種以上選択される元素Rと、CoとBeとLiとAlとSiとからなる群から一種以上選択される元素Lと、TbとSmとGdとHoとErとからなる群から一種以上選択される元素Aと、Feと、Bとを含有する主相を備え、主相を形成する結晶がP42/mnmに属し、少なくとも前記結晶の4fサイトを占有するB原子の一部が元素Lの原子と置換されてなる。また、原材料と処理温度とに応じて、P42/mnmに属する前記結晶の4fサイトを占有するNd原子と、4cサイトを占有するFe原子と、8jサイトを占有するFe原子とからなる群から一種以上選択される原子の一部が、元素Lの原子と置換されうる。
【0068】
上記の各工程により得られる希土類永久磁石は、元素RとFeとBとを含むR-Fe-B層とFe層とを周期的に有し、Bの一部が元素Lで置換され、元素RとFeとBとのうちいずれか一種以上の元素にTbと、Smと、Gdと、Hoと、Erとからなる群から一種以上選択される元素Aを含む主相を形成し、主相間に粒界相を備える。
【0069】
また、熱処理工程により得られた希土類永久磁石の結晶の焼結粒径は、熱処理工程前の原料合金微粒子の粉末粒径の110〜300%になり、110〜180%になり得る。したがって、焼結粒径のD50は、2.2〜20μmが好ましく、2.2〜15μmがより好ましく、2.2〜10μmがさらに好ましい。
【0070】
上記の各工程により得られる本形態の希土類永久磁石は、焼結密度が6.0〜8.0g/cm3になり、より好ましくは7.2〜7.9g/cm3になる。
【実施例】
【0071】
以下に実施例を挙げて本形態をさらに説明する。ただし本形態は下記の実施例に限定されない。
【0072】
[実施例1、実施例2、比較例1]
図3に示す組成で各元素を含有する原料合金をボールミルで粗粉砕し、合金粒子を得た。その後合金粒子を溶媒に分散させた。分散溶液に、添加剤を導入して撹拌して還元反応を行い、合金粒子を微粒子化した。
【0073】
微粒子化した原料合金を、それぞれ成型キャビティに充填し、成型圧力2 t/cm2、19kOeの磁場をかけて圧縮成型と着磁と脱脂とを行った。得られた成形体を2×101Torrの真空条件で、図4に示す熱処理条件で熱処理工程を行った。熱処理工程終了後、室温まで冷却してキャビティから取り出し、実施例1と実施例2との希土類永久磁石を得た。実施例1と実施例2とは、主相が形成されたが、粒界相が完全には形成されていない状態の磁石である。
【0074】
[比較例1]
図3に示す組成で各元素を含有する原料合金から、急冷凝固装置により、比較例1の合金を得た。表1は、比較例1の合金のICP発光分光分析による中点の分析値である。
【0075】
【表1】
【0076】
その後、合金を溶媒に分散させ、分散溶液に添加剤を導入し撹拌して還元反応を行い、合金を微粒子化した。得られた合金微粉末の粉末粒径のD50は、3〜11μmであった。粉末粒径は、島津製作所製 レーザ回折式粒子径分布測定装置 SALD-2300相当品で測定した。
【0077】
微粒子化した原料合金を、成型キャビティに充填し、成型圧力2 t/cm2、19kOeの磁場をかけて圧縮成型と着磁を行った。得られた成形体を2×101TorrのArガス雰囲気中、図4に示す熱処理条件で熱処理工程を行った。熱処理工程終了後、室温まで冷却しキャビティから取り出し、比較例1の希土類永久磁石を得た。比較例1は、主相と粒界相とが形成された状態の磁石である。
【0078】
実施例1と実施例2と比較例1との希土類永久磁石の磁気特性を、東英工業株式会社製試料温度可変装置付TPM-2-08Sパルス励磁型磁石測定装置相当品を使用して測定した。測定結果を図4図5とに示す。なお図5では、図4に示す残留磁束密度Brの単位[kG]を[T]に換算した。また保磁力Hcjの単位[kOe]を[MA/m]に換算した。
【0079】
実施例2の結晶構造を精密に解析するため、X線回折実験とリートベルト解析とを行った。解析に際し、結晶中に顕著にみられる、Nd2Fe14B相と副相成分の一つであるNdOとの存在を仮定した。実施例2に含有されるSm、Tb等他の成分は、本解析においては考慮しなかった。解析に用いた分析装置と分析条件を以下に記載する。解析ソフトは、RIETAN-FPを用いた。
【0080】
分析装置:(株)リガク製 水平型X線回折装置 SmartLab
分析条件:
ターゲット:Cu
単色化:入射側に対称Johansson 型Ge 結晶を使用(CuKα1)
ターゲット出力:45kV-200mA
検出器:1次元検出器(HyPix3000)
(通常測定):θ/2θ走査
スリット入射系:発散1/2°
スリット受光系:20mm
走査速度:1°/min
サンプリング幅:0.01°
測定角度(2θ):10°〜110°
【0081】
解析の結果、得られた実施例2の格子定数を図6(a)に示す。図6(b)は、参照したICSDおよび文献値である。図6に示す解析結果から、本形態の主相の結晶が、P42/mnmに属すると特定できた。
【0082】
続いて、実施例2のX線回折パターンとモデルパターンとのフィッティングを行った。モデルパターンとは、NdO結晶と任意のNd2Fe14B結晶とのX線回折パターンの計算結果を組み合わせたパターンである。任意のNd2Fe14B結晶とは、公知のNd2Fe14B結晶の任意の結晶パラメータを変更して、空間群に存在する任意の一つのサイトを占有する原子を元素L(実施例2では、Co)の原子に置換させるシミュレーションにより得られる結晶を意味する。フィッティングの指標はs値とし、s値が1に近い値になるように解析を進めた。s値は、s=Rwp/Reと定義される。
【0083】
図7(a)は、実施例2のX線回折パターンである。図7(b)は、Nd2Fe14Bのモデルパターンの例である。図7(c)は、NdOのモデルパターンの例である。図8は、図7(a)と図7(b)と図7(c)とのフィッティング結果を示す。図8に示す比較におけるR因子、s値は、それぞれRwp=1.747、Re=1.486、s=1.1757であった。
【0084】
図7(b)および図7(c)のモデルパターンよりも図7(a)にフィットするモデル、すなわちs値が小さいモデルを得るため、任意の一つのサイトの原子を元素Lの原子に置換させたNd2Fe14B結晶を用いて複数のモデルパターンを解析した。図9は、上記の複数のモデルパターンのうち、よくフィットしたものによる解析結果で、各モデルパターンにおけるs値と原子の占有率を示す。図9の「判定」において、"○"は、当該サイトを占有する原子が、元素Lの原子(図9ではCo原子)により置換されたことを意味し、"×"は、当該サイトを占有する原子が、元素Lの原子(図9ではCo原子)により置換されなかったことを意味する。
【0085】
図9に示すように、Co原子の各サイトにおける占有率は、B原子が占有する4fサイトにおいて、0.055であり、Nd原子が占有する4fサイトにおいて、0.029であり、Fe原子が占有する4cサイトにおいて、1.000であり、Fe原子が占有する8jサイトにおいて、0.124である。すなわち上記の各サイトにおけるCo原子の占有率は0を超える。
【0086】
すなわち、実施例2の結晶は、P42/mnmに属するNd2Fe14B結晶であって、Bが占有する第一の4fサイトと、Ndが占有する第二の4fサイトと、Feがそれぞれ占有する4cサイトと第一の8jサイトとにそれぞれCo原子が存在する。すなわち第一の4fサイトのB原子の一部と、第二の4fサイトのNdの一部と、4cサイトのFe原子の一部と、第一の8jサイトのFe原子の一部とが、Co原子で置換されていると確認できた。一方、Ndが占有する4gサイト、Feが占有する第一および第二の16kサイト、Feが占有する第二の8jサイト、Feが占有する4eサイトではCo原子の占有率が0以下であるため、当該サイトに存在する原子は、Co原子により置換されていないと確認できた。
【0087】
[実施例3ないし実施例5、および比較例2]
図10に示す組成で各元素を含有する原料合金をボールミルで粗粉砕し、合金粒子を得た。その後合金粒子を溶媒に分散させた。分散溶液に、添加剤を導入して撹拌して還元反応を行い、合金粒子を微粒子化した。
【0088】
微粒子化した原料合金を、それぞれ成型キャビティに充填し、成型圧力2 t/cm2、19kOeの磁場をかけて圧縮成型と着磁と脱脂とを行った。得られた成形体を2×101Torrの真空条件で、図17に示す熱処理条件で熱処理工程を行った。熱処理工程終了後、室温まで冷却してキャビティから取り出し、実施例3ないし実施例5の希土類永久磁石を得た。実施例3ないし実施例5は、主相が形成されたが、粒界相が完全には形成されていない状態の磁石である。
【0089】
[3DAPによる結晶構造解析]
実施例3と実施例5との希土類永久磁石の主相の結晶構造を観察するため、サンプル用に3DAP解析に用いる針状物を、下記の方法により加工した。まず実施例のサンプルは、集束イオンビーム加工観察装置(Forcused Ion Beam、FIB)にセットされた後、磁化容易方向を含む面を観察するための溝が加工された。溝を加工することで現れたサンプルの磁化容易方向を含む面に、電子線を照射した。照射により試料から放射される反射電子線をSEMで観察することで、主相(粒内)を特定した。特定された主相を、3DAPにより解析するため針状に加工した。
【0090】
3DAPによる結晶構造解析の条件は、下記のとおりである。
装置名 : LEAP3000XSi (AMETEK社製)
測定条件: レーザパルスモード(レーザ波長=532nm)
レーザパワー=0.5nJ、試料温度=50K
【0091】
各針状物を3DAPにより解析すると、いずれもNd[100]の格子面が検出された。層間距離は0.59〜0.62nmであった。図11図12とに、3DAPにより得られた3D原子像とその組成比を示す。図11は、実施例5の針状物の解析結果である。図12は、実施例3の針状物の解析結果である。図11図12に示されるように、本形態では、主相における炭素の含有量が著しく少ないことがわかる。
【0092】
さらに実施例5については、3DAPにより粒界相プロファイルも解析した。図13は、実施例5の粒界相を含む3D原子像と、粒界相プロファイルとの解析結果である。図13に示されるように、実施例5の主相では、Nd2Fe14B相が認められ、さらに元素AとしてのTbやHo、および元素LとしてのCoやAlが認められた。粒界相はNdリッチ相であった。また、主相と粒界相との界面にはCuが析出していた。
【0093】
また実施例3と実施例5について、Nd-Fe-B層におけるB、Fe、Co、Al、Ho、Tbの分布を分析した。図14は、実施例3の解析結果である。図14中の各図は、それぞれ特定の元素だけを表示させた図であり、いずれの元素を表示したかは、各図の下部に表示した。各図において、白丸(○)は、Ndを示す。Ndと組み合わせて表示させた元素(B、Fe、Co、Al、Ho、Tbのうち図の下部の表示に対応するいずれかの元素)は、それぞれ白丸(○)でない凡例で示した。例えば、NdおよびBとを表示させた図では、Ndを白丸(○)で、BをNdの凡例と同程度の直径の黒丸(●)で示した。実施例5も同様の解析結果である。
【0094】
また、実施例3と実施例5との主相を含む結晶のc軸方向の原子層におけるNd、Ho、B、Tbの分布を、それぞれSpatial Distribution functionを用いて測定した。測定は、Brian P. Geiser, Thomas F. Kelly, David J. Larson, Jason Schneir and Jay P. Roberts, “Spatial Distribution Maps for Atom Probe Tomography”,Microscopy and Microanalysis, 13(2007)pp 437-447を参照して行った。実施例5の測定結果を図15に、実施例3の測定結果を図16に示す。
【0095】
図15図16とにそれぞれ示されるように、実施例3と実施例5とにおいては、Nd、Ho、B、Tbはいずれも0.6nmの倍数位置にピークがある。図15図16とのいずれにおいても、Bの測定結果は他の元素と比較して測定値に乱れがあるため、本形態はBについて元素Lとの置換が発生していると推察できる。
【0096】
[比較例2]
図10に示す組成で各元素を含有する原料合金から、急冷凝固装置により、比較例2を得た。表2は、比較例2の合金のICP発光分光分析による分析値である。
【0097】
【表2】
【0098】
その後、合金を溶媒に分散させ,分散溶液に添加剤を導入し撹拌して還元反応を行い、合金を微粒子化した。得られた合金微粉末の粉末粒径のD50は、3〜11μmであった。粒径は、島津製作所製 レーザ回折式粒子径分布測定装置 SALD-2300相当品で測定した。
【0099】
微粒子化した原料合金を、成型キャビティに充填し、成型圧力2 t/cm2、19kOeの磁場をかけて圧縮成型と着磁を行った。得られた成形体を2×101TorrのArガス雰囲気中、図17に示す熱処理条件で熱処理工程を行った。熱処理工程終了後、室温まで冷却しキャビティから取り出し、比較例2の希土類永久磁石を得た。比較例2は、主相と粒界相とが形成された状態の磁石である。
【0100】
実施例3ないし実施例5と比較例2との希土類永久磁石の磁気特性を、東英工業株式会社製試料温度可変装置付TPM-2-08Sパルス励磁型磁石測定装置相当品を使用して測定した。測定結果を図17図18とに示す。なお図18では、図17に示す残留磁束密度Brの単位[kG]を[T]に換算した。また保磁力Hcjの単位[kOe]を[MA/m]に換算した。
【0101】
[参考例1、参考例2]
本形態は、Bの含有量を抑制しCoで置換させることで残留磁束密度Brを向上できる。残留磁束密度Brは飽和磁化と比例するため、本形態の飽和磁化を測定し、その測定結果から本形態の残留磁束密度Brの向上効果を確認した。
【0102】
実験では、まず、表3に示すようにBの含有量を異ならせた2種類の原料合金を準備した。本形態所定の製造方法に基づくことにより、原料合金から希土類磁石を得ることができる。参考例2は、参考例1よりBの含有量を減少させており、その結果Co置換量が増加する。
【0103】
Lake Shore Cryotronics 7400 Series VSMを用いて、参考例1と参考例2との磁場―磁化曲線の測定を行った。表3に示すように、参考例1の飽和磁化は40.1557(emu/g)であった。参考例2の飽和磁化は41.0184(emu/g)であった。すなわち、参考例1よりCo置換量が多い参考例2の方が、飽和磁化が大きく残留磁束密度Brが大きいことが示される。
【0104】
【表3】
【0105】
上記の残留磁束密度Brの向上効果は、本形態のように元素Aを含有する場合であっても損なわれない。すなわち本形態は、Bを元素Lで置換し、かつR-Fe-B層に元素Aを含有させる主相を備えることで、残留磁束密度Brと保磁力Hcjとをいずれも向上できる。その磁気特性の向上は、図17図18に例示したとおりである。
【0106】
本形態の希土類永久磁石は、磁気モーメントが高く、良好な磁気特性を備える。希土類永久磁石は、電動機、海上風力発電機、産業用モータ等の小型化、軽量化、低コスト化に寄与する。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本開示のいくつかの態様によれば、Nd、Fe、Bを含有する主相を備える希土類永久磁石の磁気特性を向上できる。
【符号の説明】
【0108】
100 単位格子の結晶構造
101 Fe層
102 R-Fe-B層
200 主相
300 粒界相
400 副相
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