(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1キー部は、前記第1軸および前記第2軸によって区画される4つの領域のいずれかに設けられ、かつ、2つ以上の前記第1キー部は、同じ前記領域に設けられていない、
請求項1から3のいずれか1項に記載のスクロール圧縮機。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1(特表2011−510209号公報)に開示されるようなオルダム継手の場合、キー部の側面の一つのみが、可動スクロールの外周面と摺動する。そのため、オルダム継手と可動スクロールとの間の摺動部に供給された潤滑油が漏れ出して、摺動部に潤滑油が十分に供給されていない状態になりやすい。これにより、オルダム継手および可動スクロールの摺動面が焼き付いて、圧縮機の信頼性が低下するおそれがある。
【0005】
本発明の目的は、オルダム継手および可動スクロールの摺動面の焼き付きを抑制して、高い信頼性を有するスクロール圧縮機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1観点に係るスクロール圧縮機は、可動スクロールと、静止部材と、オルダム継手とを備える。可動スクロールは、第1キー溝を有する。静止部材は、第2キー溝を有する。オルダム継手は、可動スクロールと静止部材との間に設けられる。オルダム継手は、第1軸に沿って静止部材に対して相対的に移動可能であり、第2軸に沿って可動スクロールに対して相対的に移動可能である。オルダム継手は、環状本体部と、2対の第1キー部と、第2キー部とを有する。環状本体部は、互いに対向する第1水平面および第2水平面を有する。第1キー部は、第1水平面から突出し、第1キー溝に嵌め込まれる。第1キー部は、第2軸に沿って可動スクロールと摺動可能である。第2キー部は、第2水平面から突出し、第2キー溝に嵌め込まれる。第2キー部は、第1軸に沿って静止部材と摺動可能である。第1キー部の外周面と、第1キー溝の内周面との間には、キー隙間が形成される。キー隙間は、第1隙間と、第2隙間とを有する。第1隙間は、オルダム継手の重心側において第2軸に沿って形成される。第2隙間は、オルダム継手の重心側の反対側において第2軸に沿って形成される。第2隙間は、第1隙間よりも広い。
【0007】
このスクロール圧縮機では、オルダム継手の第1キー部は、オルダム継手の径方向内側の側面である摺動面と、径方向外側の側面であるガイド面とを有する。第1キー部の摺動面は、可動スクロールと摺動する面であり、可動スクロールの第1キー溝の内周面との間に第1隙間を形成する。第1キー部のガイド面は、可動スクロールの第1キー溝の内周面との間に第2隙間を形成する。第2隙間は、第1隙間よりも広いので、第1キー溝に供給された潤滑油を第1隙間よりも保持しやすい。これにより、第2隙間に保持されている潤滑油の一部が第1隙間に供給され、第1キー部の摺動面の焼き付きが抑制される。従って、このスクロール圧縮機は、オルダム継手および可動スクロールの摺動面の焼き付きを抑制することで、高い信頼性を有する。
【0008】
本発明の第2観点に係るスクロール圧縮機は、第1観点に係るスクロール圧縮機であって、第1隙間は、15μm〜50μmである。
【0009】
このスクロール圧縮機では、第1キー部の摺動面と、第1キー溝の内周面との間の第1隙間は、摺動しているオルダム継手のがたつきが十分に抑制される程度に狭く、かつ、摺動面の焼き付きが十分に抑制される量の潤滑油が保持される程度に広い。そのため、第1隙間に潤滑油が十分に供給されないことによる摺動面の焼き付きの発生が抑制される。
【0010】
本発明の第3観点に係るスクロール圧縮機は、第1観点または第2観点に係るスクロール圧縮機であって、第2隙間は、200μm〜1000μmである。
【0011】
このスクロール圧縮機では、第1キー部のガイド面と、第1キー溝の内周面との間の第2隙間は、第1隙間よりも多量の潤滑油を保持することができる。これにより、第2隙間に保持されている潤滑油の一部は、第1キー部の外周面と第1キー溝の内周面との間の隙間を介して、第1隙間に供給される。そのため、第1隙間に潤滑油が十分に供給されないことによる摺動面の焼き付きの発生が抑制される。
【0012】
本発明の第4観点に係るスクロール圧縮機は、第1乃至第3観点のいずれか1つに係るスクロール圧縮機であって、第1キー部は、第1軸および第2軸によって区画される4つの領域のそれぞれに、1つずつ設けられる。
【0013】
このスクロール圧縮機では、オルダム継手を上面視した場合に、4つの第1キー部は、できるだけ互いに離れるように配置されている。そのため、第1キー部の摺動面にかかる面圧は、4つの第1キー部の間で均等に分散される。従って、一部の第1キー部の摺動面のみに焼き付きが発生することが抑制される。
【0014】
本発明の第5観点に係るスクロール圧縮機は、第4観点に係るスクロール圧縮機であって、オルダム継手は、1対の第2キー部を有する。第2キー部は、第2軸を挟んで、第1軸の上に設けられる。
【0015】
このスクロール圧縮機では、オルダム継手を上面視した場合に、2つの第2キー部は、できるだけ互いに離れるように配置されている。そのため、第2キー部の摺動面にかかる面圧は、2つの第2キー部の間で均等に分散される。従って、一部の第2キー部の摺動面のみに焼き付きが発生することが抑制される。
【0016】
本発明の第6観点に係るスクロール圧縮機は、可動スクロールと、静止部材と、オルダム継手とを備える。可動スクロールは、第1キー溝を有する。静止部材は、第2キー溝を有する。オルダム継手は、可動スクロールと静止部材との間に設けられる。オルダム継手は、第1軸
が延びる方向に沿って静止部材に対して相対的に移動可能であり、第2軸
が延びる方向に沿って可動スクロールに対して相対的に移動可能である。
第2軸は、第1軸と直交し、かつ、オルダム継手の重心を通る。オルダム継手は、環状本体部と、少なくとも2つの第1キー部と、第2キー部とを有する。環状本体部は、互いに対向する第1水平面および第2水平面を有する。第1キー部は、第1水平面から突出し、第1キー溝に嵌め込まれる。第1キー部は、第2軸
が延びる方向に沿って可動スクロールと摺動可能であ
り、第2軸から離間している。第2キー部は、第2水平面から突出し、第2キー溝に嵌め込まれる。第2キー部は、第1軸
が延びる方向に沿って静止部材と摺動可能である。第1キー部の外周面と、第1キー溝の内周面との間には、キー隙間が形成される。キー隙間は、第1隙間と、第2隙間とを有する。第1隙間は、オルダム継手の重心側において第2軸
が延びる方向に沿って形成される。第2隙間は、オルダム継手の重心側の反対側において第2軸
が延びる方向に沿って形成される。第2隙間は、第1隙間よりも広い。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るスクロール圧縮機は、オルダム継手および可動スクロールの摺動面の焼き付きを抑制して、高い信頼性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施形態に係るスクロール圧縮機101について、図面を参照しながら説明する。スクロール圧縮機101は、空気調和装置等の冷凍装置に用いられる。スクロール圧縮機101は、冷凍装置の冷媒回路を循環する冷媒ガスを圧縮する。
【0020】
(1)スクロール圧縮機の構成
スクロール圧縮機101は、高低圧ドーム型のスクロール圧縮機である。スクロール圧縮機101は、互いに噛み合う渦巻き形状のラップを有する2つのスクロール部材を用いて冷媒を圧縮する。
【0021】
図1は、スクロール圧縮機101の縦断面図である。
図1において、矢印Uは、鉛直方向に沿って上方を指す。スクロール圧縮機101は、主として、ケーシング10と、圧縮機構15と、ハウジング23と、オルダム継手39と、駆動モータ16と、下部軸受60と、クランクシャフト17と、吸入管19と、吐出管20とから構成される。次に、スクロール圧縮機101の各構成要素について説明する。
【0022】
(1−1)ケーシング
ケーシング10は、円筒状の胴部ケーシング部11と、椀状の上壁部12と、椀状の底壁部13とから構成される。上壁部12は、胴部ケーシング部11の上端部に気密状に溶接される。底壁部13は、胴部ケーシング部11の下端部に気密状に溶接される。
【0023】
ケーシング10は、ケーシング10の内部および外部において圧力や温度が変化した場合に、変形および破損が起こりにくい剛性部材で成型されている。ケーシング10は、胴部ケーシング部11の円筒形状の軸方向が鉛直方向に沿うように設置される。
【0024】
ケーシング10の内部には、主として、圧縮機構15と、ハウジング23と、オルダム継手39と、駆動モータ16と、下部軸受60と、クランクシャフト17とが収容されている。ケーシング10の壁部には、吸入管19および吐出管20が気密状に溶接されている。
【0025】
ケーシング10の底部には、潤滑油が貯留される油溜まり空間10aが形成されている。潤滑油は、スクロール圧縮機101の運転中において、圧縮機構15等の摺動部の潤滑性を良好に保つために使用される冷凍機油である。
【0026】
(1−2)圧縮機構
圧縮機構15は、ケーシング10の内部に収容される。圧縮機構15は、低温低圧の冷媒ガスを吸引して圧縮し、高温高圧の冷媒ガス(以下、「圧縮冷媒」という。)を吐出する。圧縮機構15は、主として、固定スクロール24と、可動スクロール26とから構成される。固定スクロール24は、ケーシング10に対して固定されている。可動スクロール26は、固定スクロール24に対して公転運動を行う。
図2は、鉛直方向に沿って視た固定スクロール24の下面図である。
図3は、鉛直方向に沿って視た可動スクロール26の上面図である。
【0027】
(1−2−1)固定スクロール
固定スクロール24は、第1鏡板24aと、第1鏡板24aに直立して形成される渦巻き形状の第1ラップ24bとを有する。第1鏡板24aには、主吸入孔24cが形成されている。主吸入孔24cは、吸入管19と、後述する圧縮室40とを接続する空間である。主吸入孔24cは、低温低圧の冷媒ガスを吸入管19から圧縮室40に導入するための吸入空間を形成する。第1鏡板24aの中央部には、吐出孔41が形成され、第1鏡板24aの上面には、吐出孔41と連通する拡大凹部42が形成されている。拡大凹部42は、第1鏡板24aの上面に凹設された空間である。固定スクロール24の上面には、拡大凹部42を塞ぐように蓋体44がボルト44aによって固定されている。固定スクロール24および蓋体44は、ガスケット(図示せず)を介してシールされている。拡大凹部42に蓋体44が覆い被せられることにより、圧縮機構15の運転音を消音させるマフラー空間45が形成されている。固定スクロール24には、マフラー空間45と連通し、固定スクロール24の下面に開口する第1圧縮冷媒流路46が形成されている。第1鏡板24aの下面には、
図2に示されるように、C字形状の油溝24eが形成されている。
【0028】
(1−2−2)可動スクロール
可動スクロール26は、円盤形状の第2鏡板26aと、第2鏡板26aに直立して形成される渦巻き形状の第2ラップ26bとを有する。第2鏡板26aの下面中央部には、上端軸受26cが形成されている。可動スクロール26には、給油細孔63が形成されている。給油細孔63は、第2鏡板26aの上面外周部と、上端軸受26cの内側の空間とを連通している。
【0029】
固定スクロール24および可動スクロール26は、第1ラップ24bと第2ラップ26bとが噛み合うことにより、第1鏡板24aと、第1ラップ24bと、第2鏡板26aと、第2ラップ26bとによって囲まれる空間である圧縮室40を形成する。圧縮室40の容積は、可動スクロール26の公転運動によって徐々に減少する。可動スクロール26の公転中に、固定スクロール24の第1鏡板24aおよび第1ラップ24bの下面は、可動スクロール26の第2鏡板26aおよび第2ラップ26bの上面と摺動する。以下、可動スクロール26と摺動する第1鏡板24aの表面を、スラスト摺動面24dと呼ぶ。
図4は、可動スクロール26の第2ラップ26bおよび圧縮室40が示された固定スクロール24の下面図である。
図4において、ハッチングされた領域は、スラスト摺動面24dを表す。
図4において、スラスト摺動面24dの外縁は、公転する可動スクロール26の第2鏡板26aの外縁の軌跡を表す。
図4に示されるように、固定スクロール24の油溝24eは、スラスト摺動面24dに納まるように第1鏡板24aの下面に形成されている。
【0030】
第2鏡板26aの下面には、2対の第1キー溝26dが形成されている。
図3には、第1キー溝26dの位置が点線で示されている。可動スクロール26を鉛直方向に沿って視た場合、各第1キー溝26dは、第2鏡板26aの中心から同じ距離だけ離れた位置に形成されている。第1キー溝26dは、オルダム継手39の第1キー部39bが嵌め込まれる溝である。
【0031】
(1−3)ハウジング
ハウジング23は、圧縮機構15の下方に配置されている。ハウジング23の外周面は、胴部ケーシング部11の内周面に気密状に接合されている。これにより、ケーシング10の内部空間は、ハウジング23の下方の高圧空間S1と、ハウジング23の上方の空間である上部空間S2とに区画されている。ハウジング23は、固定スクロール24を載置し、固定スクロール24と共に可動スクロール26を挟み込んでいる。ハウジング23の外周部には、第2圧縮冷媒流路48が鉛直方向に貫通して形成されている。第2圧縮冷媒流路48は、ハウジング23の上面において第1圧縮冷媒流路46と連通し、ハウジング23の下面において高圧空間S1と連通する。
【0032】
ハウジング23の上面には、クランク室S3が凹設されている。ハウジング23には、ハウジング貫通孔31が形成されている。ハウジング貫通孔31は、クランク室S3の底面中央部から、ハウジング23の下面中央部まで、ハウジング23を鉛直方向に貫通している。以下、ハウジング23の一部であり、かつ、ハウジング貫通孔31が形成されている部分を、上部軸受32という。ハウジング23には、ケーシング10の内周面近傍の高圧空間S1とクランク室S3とを連通する油戻し通路23aが形成されている。
【0033】
ハウジング23の上面には、1対の第2キー溝23dが形成されている。ハウジング23を鉛直方向に沿って視た場合、各第2キー溝23dは、ハウジング貫通孔31の中心から同じ距離だけ離れた位置に形成されている。第2キー溝23dは、オルダム継手39の第2キー部39cが嵌め込まれる溝である。
【0034】
(1−4)オルダム継手
オルダム継手39は、公転している可動スクロール26の自転を防止するための部材である。
図5は、
図1のオルダム継手39の近傍の拡大図である。
図6は、
図5の線分VI−VIにおける断面図である。
図5,6に示されるように、オルダム継手39は、可動スクロール26とハウジング23との間に設置される。
図7は、オルダム継手39の斜視図である。
図8は、オルダム継手39の上面図である。
【0035】
オルダム継手39は、主として、環状本体部39aと、2対の第1キー部39bと、1対の第2キー部39cとを有する環状部材である。
【0036】
環状本体部39aは、互いに対向する第1水平面39d1および第2水平面39d2を有する。第1水平面39d1および第2水平面39d2は、水平面に平行な面である。第1水平面39d1は、第2水平面39d2よりも上方に位置している。
図7,8において、第2水平面39d2は、第1水平面39d1の裏側の面である。第1水平面39d1には、複数の摺動凸部39eが形成されている。摺動凸部39eの上面は、第1水平面39d1と平行である。オルダム継手39を鉛直方向に沿って視た場合、環状本体部39aの内周面は、円弧形状を有している。
【0037】
第1キー部39bは、第1水平面39d1から上方に向かって突出する凸部である。第1キー部39bは、可動スクロール26の第1キー溝26dに嵌め込まれる。
【0038】
第2キー部39cは、第2水平面39d2から下方に向かって突出する凸部である。第2キー部39cは、ハウジング23の第2キー溝23dに嵌め込まれる。
図8には、第2キー部39cの位置が点線で示されている。
【0039】
図8には、水平面に平行な第1軸A1および第2軸A2が示されている。第1軸A1および第2軸A2は、オルダム継手39の重心Oを通り、かつ、互いに直交する。4つの第1キー部39bは、第1軸A1および第2軸A2によって区画される4つの領域のそれぞれに、1つずつ形成されている。2つの第2キー部は、第2軸A2によって区画される2つの領域のそれぞれに、1つずつ形成されている。以下、必要に応じて、
図7,8に示されるように、4つの第1キー部39bを、第1キー部39b1の対と、第1キー部39b2の対とに区別して説明する。
【0040】
1対の第1キー部39b1は、第1軸A1を挟んで対称となる位置に形成されている。1対の第1キー部39b2は、第1軸A1を挟んで対称となる位置に形成されている。第1キー部39b1の対、および、第1キー部39b2の対は、第2軸A2を挟んで対称となる位置に形成されている。
【0041】
1対の第2キー部39cは、第2軸A2を挟んで対称となる位置に形成されている。各第2キー部39cは、第1軸A1の上において、第1軸A1に対して対称となる位置に形成されている。
【0042】
第1キー部39bは、第1摺動面39hおよび第1ガイド面39jを有する。第1摺動面39hおよび第1ガイド面39jは、第1キー部39bの側面であり、第2軸A2に平行な面である。第1摺動面39hおよび第1ガイド面39jのうち、第1摺動面39hは、オルダム継手39の重心Oに近い方の面であり、第1ガイド面39jは、オルダム継手39の重心Oから遠い方の面である。第1摺動面39hは、第2軸A2に沿って第1キー溝26dの内周面と摺動する面である。第1摺動面39hは、可動スクロール26から面圧を受ける面である。
【0043】
第2キー部39cは、第1軸A1に平行な側面である第2摺動面39iを有する。第2摺動面39iは、第2キー部39cの一対の側面であり、第1軸A1に平行な面である。第2摺動面39iは、第1軸A1に沿って第2キー溝23dの内周面と摺動する面である。第2摺動面39iは、ハウジング23から面圧を受ける面である。
【0044】
オルダム継手39は、第1軸A1に沿ってハウジング23に対して相対的に移動可能であり、かつ、第2軸A2に沿って可動スクロール23に対して相対的に移動可能である。オルダム継手39が可動スクロール23に対して相対的に移動している間、オルダム継手39の摺動凸部39eの上面は、可動スクロール26の第2鏡板26aの下面と摺動する。
【0045】
図9は、
図3に示される左上の第1キー溝26dに嵌め込まれた第1キー部39bを表す上面図である。
図10は、
図9の線分X−Xにおける断面図である。第1キー部39bの第1摺動面39hは、第1キー溝26dの第1キー溝内側面26d1と対向する面である。第1キー部39bの第1ガイド面39jは、第1キー溝26dの第1キー溝外側面26d2と対向する面である。第1キー溝内側面26d1および第1キー溝外側面26d2は、第2軸A2に平行な面である。
【0046】
図10に示されるように、第1キー部39bは、第1上端面39kを有する。第1上端面39kは、第1キー溝26dの第1キー溝底面26d3と対向する面である。第1キー溝底面26d3は、第1キー溝26dの底面に相当する。しかし、第1キー溝26dは、ハウジング23の下面に形成される溝であるので、
図10に示されるように、第1キー溝底面26d3は、第1キー溝内側面26d1および第1キー溝外側面26d2の上端と接続している。
【0047】
図9および
図10に示されるように、第1キー部39bの外周面と、第1キー溝26dの内周面との間には、キー隙間70と呼ばれる空間が存在する。キー隙間70は、主として、第1隙間71と、第2隙間72と、第3隙間73とを有する。第1隙間71は、第1キー部39bの第1摺動面39hと、第1キー溝26dの第1キー溝内側面26d1との間の隙間である。第2隙間72は、第1キー部39bの第1ガイド面39jと、第1キー溝26dの第1キー溝外側面26d2との間の隙間である。第3隙間73は、第1キー部39bの第1上端面39kと、第1キー溝26dの第1キー溝底面26d3との間の隙間である。
【0048】
第1隙間71の寸法D1は、15μm〜50μmである。第2隙間72の寸法D2は、200μm〜1000μmである。第3隙間73の寸法D3は、200μm〜1000μmである。第1隙間71の寸法D1は、第1軸A1に平行な方向における、第1摺動面39hと第1キー溝内側面26d1との間の距離である。第2隙間72の寸法D2は、第1軸A1に平行な方向における、第1ガイド面39jと第1キー溝外側面26d2との間の距離である。第3隙間73の寸法D3は、鉛直方向における、第1上端面39kと第1キー溝底面26d3との間の距離である。第2隙間72は、第1隙間71よりも広い。すなわち、第2隙間72の寸法D2は、第1隙間71の寸法D1よりも大きい。
【0049】
(1−5)駆動モータ
駆動モータ16は、ハウジング23の下方に配置されるブラシレスDCモータである。駆動モータ16は、主として、ステータ51と、ロータ52とを有する。ステータ51は、ケーシング10の内周面に固定される円筒形状の部材である。ロータ52は、ステータ51の内側に配置される円柱形状の部材である。ステータ51の内周面と、ロータ52の外周面との間には、エアギャップが形成されている。
【0050】
ステータ51の外周面には、複数のコアカットが形成されている。コアカットは、ステータ51の上端面から下端面に亘って鉛直方向に形成される溝である。コアカットは、ステータ51の周方向に沿って所定の間隔で形成されている。コアカットは、胴部ケーシング部11とステータ51との間を鉛直方向に延びるモータ冷却通路55を形成する。
【0051】
ロータ52は、クランクシャフト17に連結されている。クランクシャフト17は、ロータ52の回転中心を鉛直方向に貫通する。ロータ52は、クランクシャフト17を介して、圧縮機構15に接続されている。
【0052】
(1−6)下部軸受
下部軸受60は、駆動モータ16の下方に配置される。下部軸受60の外周面は、ケーシング10の内周面に気密状に接合されている。下部軸受60は、クランクシャフト17を支持する。下部軸受60には、油分離板73が取り付けられている。油分離板73は、ケーシング10の内部に収容される平板状の部材である。油分離板73は、下部軸受60の上端面に固定されている。
【0053】
(1−7)クランクシャフト
クランクシャフト17は、ケーシング10の内部に収容される。クランクシャフト17は、その軸方向が鉛直方向に沿うように配置されている。クランクシャフト17の上端部の軸心は、上端部を除く部分の軸心に対してわずかに偏心している。クランクシャフト17は、バランスウェイト18を有する。バランスウェイト18は、ハウジング23の下方かつ駆動モータ16の上方の高さ位置において、クランクシャフト17に密着して固定されている。
【0054】
クランクシャフト17は、ロータ52の回転中心を鉛直方向に貫通してロータ52に連結されている。クランクシャフト17の上端部が上端軸受26cに嵌入されることで、クランクシャフト17は、可動スクロール26に接続されている。クランクシャフト17は、上部軸受32および下部軸受60によって支持されている。
【0055】
クランクシャフト17は、その軸方向に延びている主給油路61を内部に有している。主給油路61の上端は、クランクシャフト17の上端面と第2鏡板26aの下面とによって形成される油室83と連通している。油室83は、第2鏡板26aの給油細孔63を介して、スラスト摺動面24dおよび油溝24eに連通し、圧縮室40を介して最終的に低圧空間S2に連通する。主給油路61の下端は、油溜まり空間10aの潤滑油中に浸漬している。
【0056】
クランクシャフト17は、主給油路61から分岐する第1副給油路61a、第2副給油路61bおよび第3副給油路61cを有している。第1副給油路61a、第2副給油路61bおよび第3副給油路61cは、水平方向に延びている。第1副給油路61aは、クランクシャフト17と可動スクロール26の上端軸受26cとの摺動面に開口している。第2副給油路61bは、クランクシャフト17とハウジング23の上部軸受32との摺動面に開口している。第3副給油路61cは、クランクシャフト17と下部軸受60との摺動面に開口している。
【0057】
(1−8)吸入管
吸入管19は、ケーシング10の外部から圧縮機構15へ、冷媒回路の冷媒を導入するための管である。吸入管19は、ケーシング10の上壁部12に気密状に嵌入されている。吸入管19は、上部空間S2を鉛直方向に貫通するとともに、内端部が固定スクロール24の主吸入孔24cに嵌入されている。
【0058】
(1−9)吐出管
吐出管20は、高圧空間S1からケーシング10の外部へ、圧縮冷媒を吐出するための管である。吐出管20は、ケーシング10の胴部ケーシング部11に気密状に嵌入されている。吐出管20は、高圧空間S1を水平方向に貫通する。ケーシング10内において、吐出管20の開口部20aは、ハウジング23の近傍に位置している。
【0059】
(2)スクロール圧縮機の動作
スクロール圧縮機101の動作について説明する。最初に、スクロール圧縮機101を備える冷媒回路を循環する冷媒の流れについて説明する。次に、スクロール圧縮機101内部における潤滑油の流れについて説明する。
【0060】
(2−1)冷媒の流れ
駆動モータ16の駆動が開始すると、ロータ52が回転し始め、ロータ52に固定されているクランクシャフト17が軸回転を始める。クランクシャフト17の軸回転運動は、上端軸受26cを介して可動スクロール26に伝達される。クランクシャフト17の上端部の軸心は、クランクシャフト17の軸回転運動の軸心に対して偏心している。
【0061】
可動スクロール26は、オルダム継手39を介してハウジング23に係合されている。クランクシャフト17が回転すると、オルダム継手39の第1キー部39bは、可動スクロール26の第1キー溝26d内を第2軸A2に沿って摺動し、オルダム継手39の第2キー部39cは、ハウジング23の第2キー溝23d内を第1軸A1に沿って摺動する。これにより、可動スクロール26は、自転することなく、固定スクロール24に対して公転運動を行う。
【0062】
圧縮される前の低温低圧の冷媒は、吸入管19から主吸入孔24cを経由して、圧縮機構15の圧縮室40に供給される。可動スクロール26の公転運動により、圧縮室40は容積を徐々に減少させながら固定スクロール24の外周部から中心部に向かって移動する。その結果、圧縮室40の冷媒は圧縮されて圧縮冷媒となる。圧縮冷媒は、吐出孔41からマフラー空間45へ吐出された後、第1圧縮冷媒流路46および第2圧縮冷媒流路48を経由して、高圧空間S1へ吐出される。その後、圧縮冷媒は、モータ冷却通路55を下降して、駆動モータ16の下方の高圧空間S1に到達する。その後、圧縮冷媒は、流れの向きを反転させて、他のモータ冷却通路55および駆動モータ16のエアギャップを上昇する。最終的に、圧縮冷媒は、吐出管20からスクロール圧縮機101の外部に吐出される。
【0063】
(2−2)潤滑油の流れ
駆動モータ16の駆動が開始すると、ロータ52が回転し始め、ロータ52に固定されているクランクシャフト17が軸回転を始める。クランクシャフト17の軸回転によって圧縮機構15が駆動し、高圧空間S1に圧縮冷媒が吐出されると、高圧空間S1内の圧力が上昇する。主給油路61の下端は、高圧空間S1内の油溜まり空間10aに連通している。主給油路61の上端は、油室83および給油細孔63を介して低圧空間S2に連通している。これにより、主給油路61の上端と下端との間に差圧が発生する。その結果、油溜まり空間10aに貯留されている潤滑油は、差圧によって、主給油路61の下端から吸引され、主給油路61内を油室83に向かって上昇する。
【0064】
主給油路61を上昇する潤滑油のほとんどは、順に、第3副給油路61c、第2副給油路61bおよび第1副給油路61aに分流する。第3副給油路61cを流れる潤滑油は、クランクシャフト17と下部軸受60との摺動面を潤滑した後、高圧空間S1に流入して油溜まり空間10aに戻る。第2副給油路61bを流れる潤滑油は、クランクシャフト17とハウジング23の上部軸受32との摺動面を潤滑した後、高圧空間S1およびクランク室S3に流入する。高圧空間S1に流入した潤滑油は、油溜まり空間10aに戻る。クランク室S3に流入した潤滑油は、ハウジング23の油戻し通路23aを経由して高圧空間S1に流入し、油溜まり空間10aに戻る。第1副給油路61aを流れる潤滑油は、クランクシャフト17と可動スクロール26の上端軸受26cとの摺動面を潤滑した後、クランク室S3に流入し、高圧空間S1を経由して、油溜まり空間10aに戻る。
【0065】
主給油路61内を上端まで上昇して油室83に到達した潤滑油は、差圧によって、給油細孔63を流れて油溝24eに供給される。油溝24eに供給された潤滑油の一部は、スラスト摺動面24dをシールしながら、低圧空間S2および圧縮室40に漏れ出す。このとき、漏れ出した高温の潤滑油は、低圧空間S2および圧縮室40に存在する低温の冷媒ガスを加熱する。また、圧縮室40に漏れ出した潤滑油は、微小な油滴の状態で圧縮冷媒に混入される。圧縮冷媒に混入された潤滑油は、圧縮冷媒と同じ経路を通って、圧縮室40から高圧空間S1へ吐出される。その後、潤滑油は、圧縮冷媒と共にモータ冷却通路55を下降した後に、油分離板73に衝突する。油分離板73に付着した潤滑油は、高圧空間S1を落下して油溜まり空間10aに戻る。
【0066】
(3)スクロール圧縮機の特徴
(3−1)
スクロール圧縮機101では、オルダム継手39は、可動スクロール26と摺動する第1キー部39bと、ハウジング23と摺動する第2キー部39cとを有する。第1キー部39bは、第2軸A2に沿って移動する第1摺動面39hおよび第1ガイド面39jを有する。第1摺動面39hは、第1ガイド面39jよりも、オルダム継手39の重心Oに近い面である。第1摺動面39hは、可動スクロール26の第1キー溝26dの第1キー溝内側面26d1と摺動する面である。
【0067】
第1キー部39bの第1摺動面39hと、第1キー溝26dの第1キー溝内側面26d1との間には、第1隙間71が形成されている。第1キー部39bの第1ガイド面39jと、第1キー溝26dの第1キー溝外側面26d2との間には、第2隙間72が形成されている。第1隙間71および第2隙間72は、第1キー溝26dに供給された潤滑油が保持される空間である。潤滑油は、互いに摺動する第1摺動面39hと第1キー溝内側面26d1との間の焼き付きを抑制する。
【0068】
第2隙間72は、第1隙間71よりも広いので、第1キー溝26dに供給された潤滑油を第1隙間71よりも保持しやすい。これにより、第2隙間72に保持されている潤滑油の一部が、第1キー部39bの外周面と第1キー溝26dの内周面との間のキー隙間70を介して、第1隙間71に供給される。そのため、第1隙間71に存在する潤滑油が不足しても、第2隙間72に存在する潤滑油の一部が第1隙間71に供給されるので、第1キー部39bの第1摺動面39hの焼き付きが抑制される。従って、スクロール圧縮機101は、オルダム継手39および可動スクロール26の摺動面の焼き付きを抑制することで、高い信頼性を有する。
【0069】
(3−2)
スクロール圧縮機101では、第1隙間71の寸法D1は、15μm〜50μmである。第1隙間71の寸法D1は、摺動しているオルダム継手39のがたつきが十分に抑制される程度に狭く、かつ、第1摺動面39hの焼き付きが十分に抑制される量の潤滑油が保持される程度に広い。第1隙間71の寸法D1が広すぎると、第2軸A2に沿って摺動しているオルダム継手39が第1軸A1の方向に振動して、オルダム継手39ががたつくことがある。また、第1隙間71の寸法D1が狭すぎると、第1隙間71に潤滑油が十分に保持されず、第1摺動面39hの焼き付きが発生するおそれがある。従って、第1隙間71の寸法D1を適切な範囲に設定することで、オルダム継手39の振動が抑制され、かつ、第1隙間71に潤滑油が十分に供給されないことによる、第1キー部39bの第1摺動面39hの焼き付きの発生が抑制される。
【0070】
(3−3)
スクロール圧縮機101では、第2隙間72の寸法D2は、200μm〜1000μmである。第2隙間72の寸法D2は、第1隙間71の寸法D1よりも大きいので、第2隙間72は、第1隙間71よりも多量の潤滑油を保持することができる。これにより、第2隙間72に保持されている潤滑油の一部は、第1キー部39bの外周面と第1キー溝26dの内周面との間のキー隙間70を介して、第1隙間71に供給される。従って、第2隙間72の寸法D2を適切な範囲に設定することで、第1隙間71に潤滑油が十分に供給されないことによる、第1キー部39bの第1摺動面39hの焼き付きの発生が抑制される。
【0071】
(3−4)
スクロール圧縮機101では、2対の第1キー部39bは、第1軸A1および第2軸A2によって区画される4つの領域のそれぞれに、1つずつ設けられる。すなわち、オルダム継手39を上面視した場合に、4つの第1キー部39bは、できるだけ互いに離れるように配置されている。そのため、第1キー部39bの第1摺動面39hにかかる面圧は、4つの第1キー部39bの間で均等に分散される。従って、一部の第1キー部39bの第1摺動面39hのみに焼き付きが発生することが抑制される。
【0072】
(3−5)
スクロール圧縮機101では、1対の第2キー部39cは、第2軸A2を挟んで、第1軸A1の上に設けられる。すなわち、オルダム継手39を上面視した場合に、2つの第2キー部39cは、できるだけ互いに離れるように配置されている。そのため、第2キー部39cの摺動面にかかる面圧は、2つの第2キー部39cの間で均等に分散される。従って、一部の第2キー部39cの摺動面のみに焼き付きが発生することが抑制される。
【0073】
(4)変形例
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の具体的構成は、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で変更可能である。以下、本発明の実施形態に適用可能な変形例について説明する。
【0074】
(4−1)変形例A
実施形態では、
図8に示されるように、オルダム継手39は、主として、環状本体部39aと、2対の第1キー部39bと、1対の第2キー部39cとを有する。2対の第1キー部39bは、1対の第1キー部39b1と、1対の第1キー部39b2とからなる。1対の第1キー部39b1は、第1軸A1を挟んで対称となる位置に形成されている。1対の第1キー部39b2は、第1軸A1を挟んで対称となる位置に形成されている。第1キー部39b1の対、および、第1キー部39b2の対は、第2軸A2を挟んで対称となる位置に形成されている。
【0075】
しかし、オルダム継手39は、2対の第1キー部39bを有する代わりに、1対の第1キー部39b1の一方のみ、および、1対の第1キー部39b2の一方のみを有してもよい。すなわち、オルダム継手39の第1キー部39bは、1つの第1キー部39b1、および、1つの第1キー部39b2のみから構成されてもよい。
【0076】
例として、
図11および
図12は、本変形例のオルダム継手39の上面図である。
図11および
図12では、オルダム継手39は、1つの第1キー部39b1、および、1つの第1キー部39b2を有する。
図11に示されるオルダム継手39では、2つの第1キー部39b1,39b2は、オルダム継手39の重心Oに対して対称となる位置に形成されている。
図12に示されるオルダム継手39では、2つの第1キー部39b1,39b2は、第2軸A2を挟んで対称となる位置に形成されている。また、2つの第1キー部39b1,39b2は、
図11および
図12に示される位置と、第1軸A1を挟んで対称となる位置に形成されてもよい。
【0077】
本変形例においても、実施形態と同じ理由により、第1キー部39b1,39b2の第1摺動面39hの焼き付きが抑制される。従って、スクロール圧縮機101は、オルダム継手39および可動スクロール26の摺動面の焼き付きを抑制することで、高い信頼性を有する。
【0078】
また、本変形例において、オルダム継手39は、
図8に示される4つの第1キー部39bのうち、少なくとも2つの第1キー部39bを有していればよい。すなわち、オルダム継手39は、2つまたは3つの第1キー部39bを有してもよい。この場合、第1キー部39bは、第1軸A1および第2軸A2によって区画される4つの領域のいずれかに設けられ、かつ、2つ以上の第1キー部39bは、同じ当該領域に設けられていない。
【0079】
(4−2)変形例B
実施形態では、オルダム継手39を鉛直方向に沿って視た場合、環状本体部39aの内周面は、円弧形状を有している。しかし、環状本体部39aの内周面は、任意の形状を有してもよい。
【0080】
例として、
図13および
図14は、本変形例のオルダム継手39の上面図である。
図13では、一対の第1キー部39b1の間、および、一対の第1キー部39b2の間において、環状本体部39aの内周面の形状は、第2軸A2に平行な直線の部分IEを含んでいる。
図14では、一対の第1キー部39b1の間、および、一対の第1キー部39b2の間において、環状本体部39aの内周面の形状は、第2軸A2に平行でない直線の部分IEを含んでいる。
【0081】
なお、本変形例において、オルダム継手39の第1キー部39bは、変形例Aのように、1つの第1キー部39b1、および、1つの第1キー部39b2のみから構成されてもよい。