(54)【発明の名称】2−フェニル−4,4’−ジアミノジフェニルエーテル類を用いた末端変性イミドオリゴマーとオキシジフタル酸類を用いた芳香族熱可塑性ポリイミドにより作製されたポリイミド樹脂組成物、およびワニス、および耐熱性や機械的特性に優れたポリイミド樹脂組成物成形体、およびプリプレグ、およびその繊維強化複合材料
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法で得られたワニスを支持体上に塗工し、前記ワニスに含まれる有機溶剤を除去することを特徴とする、フィルム状の形態を有するイミド樹脂組成物成形体の製造方法。
請求項6に記載の製造方法で得られた粉末状イミド樹脂組成物を溶融させた状態でさらに加熱することにより、末端変性イミドオリゴマー成分を高分子量化することを特徴とするイミド樹脂組成物成形体の製造方法。
請求項7に記載の製造方法で得られたフィルム状の形態を有するイミド樹脂組成物成形体を溶融させた状態でさらに加熱することにより、末端変性イミドオリゴマー成分を高分子量化することを特徴とするイミド樹脂組成物成形体の製造方法。
請求項7に記載の製造方法で得られたフィルム状の形態を有するイミド樹脂組成物成形体を繊維強化複合材料同士の間または繊維強化複合材料と異種材料との間に挿入し、加熱溶融して一体化することを特徴とする繊維強化複合材料構造体の製造方法。
請求項15に記載の製造方法で得られたイミドプリプレグを繊維強化複合材料同士の間または繊維強化複合材料と異種材料との間に挿入し、加熱溶融して一体化することを特徴とする繊維強化複合材料構造体の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、上記、加熱硬化前の末端変性イミドオリゴマーは低分子量であるため、分子鎖間における絡み合いが少なく、一般的に粉末形状として得られ、自己支持性のある柔軟なフィルム形状として得ることは困難である。また、加熱により溶融し冷却させた場合においても、非常に脆いイミド樹脂として得られる。
【0013】
この末端変性イミドオリゴマーの硬化物を母材とする炭素繊維複合材料を作製する方法として、一般的に末端変性イミドオリゴマーを高濃度で溶解させたイミドオリゴマー溶液を炭素繊維に含浸させ、一部溶剤を含んだ半乾燥状態のイミドウエットプリプレグを中間体として作製し、該プリプレグを複数積層した後に加熱硬化する手段が知られている。イミドウエットプリプレグを作製するのは、イミドオリゴマー溶液を炭素繊維表面に均一に付着させるためである。プリプレグ中の溶剤量が極めて少ない場合や完全に溶剤を除去した場合、プリプレグの保管時、取り扱い時、成形時などに、炭素繊維表面から析出した末端変性イミドオリゴマー粉末が容易にプリプレグから剥離または落下し、続いて作製する繊維強化複合材料に含まれる樹脂量を適切に調整することが難しいことが知られている。
【0014】
また、イミドウエットプリプレグを30枚以上積層する炭素繊維複合材料の作製においては、一般的にオートクレーブ等を用いた加熱硬化成形時にプリプレグ中の溶剤を完全に除去することが難しく、炭素繊維複合材料の耐熱性、機械的特性の低下を引き起こしやすいことが知られている。
【0015】
上記の問題を解決すべく熱可塑性の芳香族ポリイミドもしくは半芳香族ポリイミドを使用したドライプリプレグが開発されている。このようなドライプリプレグでは、炭素繊維複合材料を作製する際の成形時において高温での溶融流動性を確保するために、エーテル結合や不飽和結合などの柔軟な分子構造を分子中に適用している。その結果、作製した炭素繊維複合材料は250℃以下の中程度の耐熱性を示すものであったり、高温での実使用において耐酸化性が低かったり、一次結合の解離エネルギーが低いために高温で分解や酸化架橋反応を起こして脆化しやすいことが知られている。
【0016】
一方、これまでに例えば熱硬化性ポリイミドの硬化物の機械的特性を改善するために、芳香族ポリイミドを添加したイミド樹脂組成物を作製する試みがなされている。しかしそれらのほとんどは、熱硬化性ポリイミドおよび芳香族ポリイミドの両者もしくはどちらか一方が溶剤に不溶であるために乾式にてブレンドされた結果、イミド樹脂組成物中で両者が均一混合された状態に無かったり、またどちらかが相構造を形成したりすることから、耐熱性や機械的特性の向上を図ることが難しいことが知られている。
【0017】
これらの問題を解決するために、溶剤に可溶な前駆体であるポリアミド酸の状態の両者を溶剤中で混合し、熱処理することによって、均一化したイミド樹脂組成物を作製することが試みられている。しかし、混合中に両者間でアミド酸交換が起こりやすいため、加熱溶融による成形性が低下したり、物性の制御が難しかったりすることが知られている。
【0018】
また、一般的に繊維強化複合材料は、実際の用途によって、副資材(ハニカム形状の金属材料やスポンジ形状のコア材料等)と接着剤を介して一体化させて用いられる場合がある。一体化させる際の成形の方法として、あらかじめ炭素繊維複合材料または副資材の表面に、ペースト状、フィルム状、繊維中に含浸させたプリプレグ状などの形態の接着剤を塗布または配置して積層し、加熱する方法が一般的に知られている。この両者を接着させる接着剤は、上記一体化成形の際の優れた熱可塑性、接着後の高い靭性、実際に複合材料構造体を高温にて使用する際における、高温耐熱性、耐酸化安定性などが必要であるが、現在までにこれらの形態と物性とを兼ね備えた耐熱性接着剤の報告例は無い。
【0019】
本発明の目的は、末端変性イミドオリゴマーと芳香族熱可塑性ポリイミドとを含むイミド樹脂組成物およびワニス、ならびに、これらから作製された耐熱性、弾性率、引張強度および伸びなどの熱的特性や機械的特性の高いイミド樹脂組成物成形体、イミドプリプレグおよび繊維強化複合材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、目的に叶うイミド樹脂組成物を見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、下記一般式(1)で表される末端変性イミドオリゴマーと、下記一般式(2)で表される、オキシジフタル酸類に由来するオキシビスフタルイミド骨格を有する芳香族熱可塑性ポリイミドと、を含むイミド樹脂組成物を提供する。
【0021】
【化2】
【0022】
(式(1)中、R
1およびR
2は水素原子又はフェニル基であっていずれか一方がフェニル基を表す。R
3およびR
4は同一または異なって2価の芳香族ジアミン残基を表し、R
5およびR
6は同一または異なって4価の芳香族テトラカルボン酸残基を表す。mおよびnは、m≧1、n≧0、1≦m+n≦20および0.05≦m/(m+n)≦1の関係を満たす。繰り返し単位の配列はブロック的、ランダム的のいずれであってもよい。)
【0023】
【化3】
【0024】
(式(2)中、R’
1およびR’
2は同一または異なって2価の芳香族ジアミン残基を表す。R’
3は4価の芳香族テトラカルボン酸残基を表す。m’およびn’は、m’≧1、n’≧0の関係を満たす。繰り返し単位の配列はブロック的、ランダム的のいずれであってもよい。)
【0025】
なお、上記一般式(1)および一般式(2)中の芳香族ジアミン残基とは、芳香族ジアミン類中の2個のアミノ基がとれた2価の芳香族系有機基をいう。また、芳香族テトラカルボン酸残基とは、芳香族テトラカルボン酸類中の4個のカルボキシル基がとれた4価の芳香族系有機基をいう。ここで芳香族系有機基とは芳香環を有する有機基である。芳香族系有機基は、炭素数4〜40の有機基であることが好ましく、炭素数4〜30の有機基であることがより好ましく、炭素数4〜20の有機基であることがさらに好ましい。
【0026】
上記一般式(1)中のR
5およびR
6で表される4価の芳香族テトラカルボン酸残基を構成する芳香族テトラカルボン酸類としては、1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸類、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸類、またはビス(3,4−カルボキシフェニル)エーテル類が好ましく、中でも1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物がより好ましい。
【0027】
本発明のイミド樹脂組成物では、R
5およびR
6で示される4価の芳香族テトラカルボン酸残基が1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸類の4価残基であり、末端変性イミドオリゴマーが下記一般式(3)で表される化合物であることが好ましい。
【0028】
【化4】
【0029】
(式(3)中、R
1およびR
2は水素原子又はフェニル基であっていずれか一方がフェニル基を表す。R
3およびR
4は同一または異なって2価の芳香族ジアミン類の残基を表す。mおよびnは、m≧1、n≧0、1≦m+n≦20および0.05≦m/(m+n)≦1の関係を満たし、繰り返し単位の配列はブロック的、ランダム的のいずれであってもよい。)
【0030】
また本発明のイミド樹脂組成物では、R
5およびR
6で示される4価の芳香族テトラカルボン酸残基が3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸類の4価残基であり、末端変性イミドオリゴマーが下記一般式(4)で表される化合物であることが好ましい。
【0031】
【化5】
【0032】
(式(4)中、R
1およびR
2は水素原子又はフェニル基であっていずれか一方がフェニル基を表す。R
3およびR
4は同一または異なって2価の芳香族ジアミン類の残基を表す。mおよびnは、m≧1、n≧0、1≦m+n≦20および0.05≦m/(m+n)≦1の関係を満たし、繰り返し単位の配列はブロック的、ランダム的のいずれであってもよい。)
【0033】
また本発明のイミド樹脂組成物では、末端変性イミドオリゴマーが、一般式(1)におけるm個のR
5とn個のR
6のうち、一部が1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸類の4価残基を表し、残部が3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸類の4価残基を表す化合物であることが好ましい。
【0034】
末端変性イミドオリゴマーは、溶液中でその合成をより簡便に行うために、合成時に用いる例えばN−メチル−2−ピロリドン等の溶剤に対し、室温で固形分濃度10重量%以上溶解可能な末端変性イミドオリゴマーであることが好ましい。
【0035】
また、本発明は、前記イミド樹脂組成物を有機溶剤に溶解してなるワニスを提供する。該ワニスにおいて、前記イミド樹脂組成物をほぼ完全にかつほぼ均一に有機溶剤に溶解させたものがさらに好ましい。
さらに、本発明は、前記のワニスを加熱硬化してなるイミド樹脂組成物成形体を提供する。また、本発明は、このイミド樹脂組成物成形体をさらに加熱することにより、末端変性イミドオリゴマー成分を高分子量化したイミド樹脂組成物成形体を提供する。
【0036】
さらに、本発明は、前記のワニス中に含まれる有機溶剤を除去してなる粉末状イミド樹脂組成物を提供する。また、本発明は、この粉末状イミド樹脂組成物を溶融させた状態でさらに加熱することにより、末端変性イミドオリゴマー成分を高分子量化したイミド樹脂組成物成形体を提供する。
【0037】
さらに、本発明は、前記のワニスを支持体上に塗工し、該ワニスに含まれる有機溶剤を除去してなり、フィルム状の形態を有するイミド樹脂組成物成形体を提供する。さらに、本発明は、このフィルム状イミド樹脂組成物成形体を溶融させた状態でさらに加熱することにより、末端変性イミドオリゴマー成分を高分子量化したイミド樹脂組成物成形体を提供する。
【0038】
前記の各イミド樹脂組成物成形体は、有色透明であることが好ましい。また、前記の各イミド樹脂組成物成形体のガラス転移温度(Tg)が250℃以上であることが望ましく、270℃以上であることがさらに望ましく、引張破断伸びは10%以上であることが望ましい。
【0039】
さらに、本発明は、前記のワニスを繊維に含浸させて、乾燥させてなるイミドプリプレグを提供する。本発明では、溶剤を含んだイミドウエットプリプレグおよび溶剤をほぼ完全に除去したイミドドライプリプレグの両者を提供する。
【0040】
さらに、本発明は、前記のフィルム状の形態を有するイミド樹脂組成物成形体または前記のプリプレグを繊維強化複合材料同士の間、または繊維強化複合材料と異種材料との間に挿入し、加熱硬化して一体化してなる繊維強化複合材料構造体を提供する。
【0041】
さらに、本発明は、前記のイミドプリプレグを積層し、加熱硬化してなる繊維強化複合材料を提供する。この繊維強化複合材料のTgは250℃以上であることが望ましく、270℃以上であることがさらに望ましい。
【発明の効果】
【0042】
本発明により、末端変性イミドオリゴマーと芳香族熱可塑性ポリイミドとを含むイミド樹脂組成物、ワニス、および、それらより作製された耐熱性、弾性率、引張強度および伸び等の熱的、機械的特性に優れたフィルム形状のイミド樹脂組成物を提供できる。さらに、それらを加熱することにより末端変性イミドオリゴマー成分を高分子量化させ、さらに熱的、機械的特性に優れたイミド樹脂組成物を提供することが出来る。さらに、このイミド混合樹脂組成物を繊維に含浸させて乾燥させることにより、強化繊維との密着性に優れ、保存時、成形時などにおいて簡便な取り扱いを可能とするイミドプリプレグを提供できる。また、イミドプリプレグを積層し加熱することにより、耐熱性、靭性等の熱的、機械的特性および信頼性に優れた繊維強化複合材料を提供できる。また、上述のフィルム状イミド樹脂組成物ならびにイミドプリプレグを、繊維強化複合材料同士または繊維強化複合材料と異種材料とを接着させる際に両者の間に挿入することより、接着性に優れた繊維強化複合材料の構造体を得ることが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0043】
本発明のイミド樹脂組成物は、一般式(1)で表され、2−フェニル−4,4’−ジアミノジフェニルエーテル骨格を有する末端変性イミドオリゴマーと、下記一般式(2)で表わされ、オキシビスフタルイミド骨格を有する芳香族熱可塑性ポリイミドと、を含む。
【0045】
(式(1)中、R
1およびR
2は水素原子又はフェニル基であっていずれか一方がフェニル基を表す。R
3およびR
4は同一または異なって2価の芳香族ジアミン類の残基を表し、R
5およびR
6は同一または異なって4価の芳香族テトラカルボン酸類残基を表す。mおよびnは、m≧1、n≧0、1≦m+n≦20および0.05≦m/(m+n)≦1の関係を満たし、繰り返し単位の配列はブロック的、ランダム的のいずれであってもよい。)
【0046】
上記一般式(1)において、m+nが1未満では、硬化樹脂の靭性が著しく低下するおそれがあり、m+nが20を超えると、溶剤溶解性の低下や高温状態において優れた溶融流動性が発現されないおそれがある。また、m/(m+n)が0.05未満でも、溶剤溶解性の低下や高温状態において優れた溶融流動性が発現されないおそれがある。
【0048】
(式(2)中、R’
1およびR’
2は同一または異なって2価の芳香族ジアミン残基を表す。R’
3は4価の芳香族テトラカルボン酸類残基を表す。m’およびn’は、m’≧1、n’≧0の関係を満たし、繰り返し単位の配列はブロック的、ランダム的のいずれであってもよい。)
上記一般式(2)において、m’が1未満では、溶剤溶解性の低下や高温状態において優れた溶融流動性が発現されないおそれがある。
【0049】
末端変性イミドオリゴマーの中でも、高いガラス転移温度(Tg)、長期熱安定性、高温での耐酸化安定性を発現可能である等の観点から、R
5およびR
6で示される4価の芳香族テトラカルボン酸類残基が、1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸類の4価残基、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸類の4価残基、または、ビス(3,4−カルボキシフェニル)エーテル類の4価残基である末端変性イミドオリゴマーが好ましく、R
5およびR
6で示される4価の芳香族テトラカルボン酸類残基が、1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸類の4価残基または3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸類の4価残基である末端変性イミドオリゴマーがさらに好ましい。
【0050】
R
5およびR
6が1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸類の4価残基である末端変性イミドオリゴマーとしては、例えば、下記一般式(3)で表される化合物等が挙げられる。また、R
5およびR
6が3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸類の4価残基である末端変性イミドオリゴマーとしては、例えば、下記一般式(4)で表される化合物等が挙げられる。
【0052】
(式(3)中、R
1、R
2、R
3、R
4、m及びnは、式(1)における定義と同じである。繰り返し単位の配列はブロック的、ランダム的のいずれであってもよい。)
【0054】
(式(4)中、R
1、R
2、R
3、R
4、mおよびnは式(1)における定義と同じである。繰り返し単位の配列はブロック的、ランダム的のいずれであってもよい。)
【0055】
さらに、上記以外の好ましい末端変性イミドオリゴマーとして、例えば、一般式(1)におけるm個のR
5およびn個のR
6のうち、一部が1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸類の4価残基であり、残部が3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸類の4価残基である化合物;一部が1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸類の4価残基であり、残部が1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸類および3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸類以外の芳香族テトラカルボン酸類の4価残基である化合物;一部が3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸類の4価残基であり、残部が1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸類および3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸類以外の芳香族テトラカルボン酸類の4価残基である化合物;等が挙げられる。
【0056】
上記のように、一般式(1)で表される末端変性イミドオリゴマーは、主鎖にイミド結合を有し、末端(好適には両末端)に4−(2−フェニルエチニル)無水フタル酸に由来する熱付加重合可能な不飽和末端基を有しているが、さらに常温(23℃)で固体(粉末状)であることが好ましい。また、一般式(1)で表される末端変性イミドオリゴマーは、溶液中での合成をより簡便に行うために、合成時に用いる例えばN−メチル−2−ピロリドン等の溶剤に対し、室温で固形分濃度10重量%以上溶解可能であることが好ましい。
【0057】
本発明のイミド樹脂組成物において、一般式(1)で表される末端変性イミドオリゴマーの含有量は特に限定されないが、好ましくは該組成物全量の10〜90重量%、さらに好ましくは該組成物全量の30〜60重量%である。末端変性イミドオリゴマーの含有量が10重量%未満では、熱処理後の高いガラス転移温度が発現されないおそれがある。また、末端変性イミドオリゴマーの含有量が90重量%を超えると、熱処理後のフィルムの靭性が著しく低下するおそれがある。なお、末端変性イミドオリゴマーは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0058】
一般式(1)で表される末端変性イミドオリゴマーは、例えば、所定の芳香族テトラカルボン酸類と、所定の芳香族ジアミン類と、イミドオリゴマーに不飽和末端基を導入するための4−(2−フェニルエチニル)無水フタル酸(以下、「PEPA」とすることがある。)とを、後述する所定の条件で反応させることにより得ることができる。
【0059】
ここで、芳香族テトラカルボン酸類としては、1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸類および3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸類から選ばれる1種又は2種以上を使用する。1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸類としては、1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸、1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物(PMDA)、1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸のエステルや塩などの誘導体が挙げられ、1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物が特に好ましい。3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸類としては、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s−BPDA)、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸のエステルや塩など誘導体が挙げられ、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物が特に好ましい。
【0060】
本発明では、1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸類、又は、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸類を、それぞれ単独で使用するか又は併用することが基本ではあるが、本発明の効果を奏する限り、1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸類および/または3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸類の一部を他の芳香族テトラカルボン酸類で置換しても良い。
【0061】
他の芳香族テトラカルボン酸類としては、例えば、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(a−BPDA)、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(i−BPDA)、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−カルボキシフェニル)エーテル二無水物、1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物などが挙げられる。他の芳香族テトラカルボン酸類は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0062】
芳香族ジアミン類としては、2−フェニル−4,4’−ジアミノジフェニルエーテル類、より好ましくは2−フェニル−4,4’−ジアミノジフェニルエーテルを使用する。これにより、末端変性イミドオリゴマー(1)は、その分子中に2−フェニル−4,4’−ジアミノジフェニルエーテル類に由来する骨格を有している。本発明では、2−フェニル−4,4’−ジアミノジフェニルエーテル類の一部を他の芳香族ジアミン類で置き換えても良い。
【0063】
他の芳香族ジアミン類としては、例えば、1,4−ジアミノベンゼン、1,3−ジアミノベンゼン、1,2−ジアミノベンゼン、2,6−ジエチル−1,3−ジアミノベンゼン、4,6−ジエチル−2−メチル−1,3−ジアミノベンゼン、3,5−ジエチルトルエン−2,6−ジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(4,4’−ODA)、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル(3,4’−ODA)、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、ビス(2,6−ジエチル−4−アミノフェニル)メタン、4,4’−メチレン−ビス(2,6−ジエチルアニリン)、ビス(2−エチル−6−メチル−4−アミノフェニル)メタン、4,4’−メチレン−ビス(2−エチル−6−メチルアニリン)、2,2−ビス(3−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、ベンジジン、3,3’−ジメチルベンジジン、2,2−ビス(4−アミノフェノキシ)プロパン、2,2−ビス(3−アミノフェノキシ)プロパン、2,2−ビス[4’−(4’’−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)フルオレンなどが挙げられる。他の芳香族ジアミン類は1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。
【0064】
本発明においては、末端変性(エンドキャップ)用の不飽和酸無水物として4−(2−フェニルエチニル)無水フタル酸(以下、「PEPA」とすることがある。)を使用することが好ましい。前記の4−(2−フェニルエチニル)無水フタル酸は、芳香族テトラカルボン酸類の合計量に対して5〜200モル%、特に5〜150モル%の範囲内の割合で使用することが好ましい。
【0065】
上記した所定の芳香族テトラカルボン酸類と、上記した所定の芳香族ジアミン類と、4−(2−フェニルエチニル)無水フタル酸との反応は、芳香族テトラカルボン酸類および4−(2−フェニルエチニル)無水フタル酸の酸無水物基と、芳香族ジアミン類のアミノ基とがほぼ等モル量となるようにこれらを使用し、溶媒の存在下または非存在下で行なわれる。なお、芳香族テトラカルボン酸類の隣接する2個(2モル)のカルボキシル基を、1モルの酸無水物基とみなす。
【0066】
より具体的には、一般式(1)で表される末端変性イミドオリゴマーは、例えば、特許文献4に記載の方法により製造できる。すなわち、上記した所定の芳香族テトラカルボン酸類、上記した所定の芳香族ジアミン類、および4−(2−フェニルエチニル)無水フタル酸を、全成分の酸無水基(隣接する2モルのカルボキシル基を1モルの酸無水基とみなす)の全量とアミノ基の全量とがほぼ等量になるように使用して、各成分を、溶剤中で、約100℃以下、特に80℃以下の反応温度で重合させて、「アミド−酸結合を有するオリゴマー」であるアミド酸オリゴマー(アミック酸オリゴマーともいう)を生成し、次いで、そのアミド酸オリゴマーを脱水・環化させて、末端に4−(2−フェニルエチニル)無水フタル酸残基を有するイミドオリゴマー、すなわち末端変性イミドオリゴマーを得ることができる。アミド酸オリゴマーの脱水・環化方法としては、例えば、約0〜140℃の温度でイミド化剤を添加する方法、140〜275℃の温度に加熱する方法などが挙げられる。
【0067】
一般式(1)で表される末端変性イミドオリゴマーの特に好ましい製造方法としては、例えば、アミド酸オリゴマー合成工程と、末端変性工程と、イミド化工程とを含む方法が挙げられる。
アミド酸オリゴマー合成工程では、上記した所定の芳香族ジアミン類を溶剤中に均一に溶解した溶液に、上記した所定の芳香族テトラカルボン酸類を加えて均一に溶解後、約5〜60℃の反応温度で1〜180分程度攪拌し、アミド酸オリゴマーを含む反応溶液を得る。
【0068】
末端変性工程では、前工程で得られた、アミド酸オリゴマーを含む反応溶液に、4−(2−フェニルエチニル)無水フタル酸を加えて均一に溶解後、約5〜60℃の反応温度で1〜180分程度攪拌しながら反応させて、末端に4−(2−フェニルエチニル)無水フタル酸残基を有するアミド酸オリゴマー(以下、「末端変性アミド酸オリゴマー」とする。)を生成させる。
【0069】
イミド化工程では、末端変性アミド酸オリゴマーを含む反応溶液を、140〜275℃で5分〜24時間攪拌して該アミド酸オリゴマーをイミド化反応させることにより、末端変性イミドオリゴマーを生成させ、必要ならば、反応溶液を室温付近まで冷却することにより本発明の末端変性イミドオリゴマーを得ることができる。
前記の反応において、全反応工程あるいは一部の反応工程を窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性のガスの雰囲気あるいは真空中で行うことが好適である。
【0070】
前記の溶剤としては原料化合物および末端変性イミドオリゴマーを溶解し得るものが好ましく、例えば、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N−ジエチルアセトアミド、N−メチルカプロラクタム、γ−ブチロラクトン(GBL)、シクロヘキサノンなどが挙げられる。これらの溶剤は1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの溶剤の選択に関しては可溶性ポリイミドについての公知技術を適用することができる。なお、本発明の末端変性イミドオリゴマーは、分子量の異なるものを混合したものでもよい。
【0071】
本発明の末端変性イミドオリゴマーは、前記の有機溶剤、特にNMPに室温で固形分30重量%以上溶解可能であることが合成上好ましい。
【0072】
本発明の末端変性イミドオリゴマーは、加水分解の恐れがほとんどないため、アミド酸オリゴマーに比べ粘度低下等を起こさずに長期間安定にワニス中および樹脂単体で保存できる。
【0073】
本発明のイミド樹脂組成物において、一般式(1)で表される末端変性イミドオリゴマーと共に用いられる、一般式(2)で表される芳香族熱可塑性ポリイミドは、オキシジフタル酸類に由来するオキシビスフタルイミド骨格を有することを特徴とする。芳香族熱可塑性ポリイミドの固有粘度は本発明の効果を奏する限り特に限定されるものではないが、好ましくは0.2dL/g以上であり、より好ましくは0.3dL/g以上であり、さらに好ましくは0.5dL/g以上である。尚、固有粘度の測定は後述の方法による。
【0074】
本発明のイミド樹脂組成物における一般式(2)で表される芳香族熱可塑性ポリイミドの含有量は特に限定されず、広い範囲から適宜選択可能であるが、好ましくは該組成物全量の10〜90重量%、さらに好ましくは該組成物全量の40〜70重量%である。芳香族熱可塑性ポリイミドの含有量が10重量%未満では、熱処理後のフィルムの靭性が著しく低下するおそれがある。一方、芳香族熱可塑性ポリイミドの含有量が90重量%を超えると、相対的に末端変性イミドオリゴマーの含有量が少なくなって、熱処理後の高いガラス転移温度が発現されないおそれがある。芳香族熱可塑性ポリイミドは1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。
【0075】
一般式(2)で表される芳香族熱可塑性ポリイミドは、好ましくは、オキシジフタル酸類を含む芳香族テトラカルボン酸類(特に酸二無水物が好ましい)および芳香族ジアミン類を、芳香族テトラカルボン酸類の酸無水物基(隣接する2モルのカルボキシル基は1モルの酸無水物基とみなす。)の全量と芳香族ジアミン類のアミノ基の全量とがほぼ等モル量となるように仕込み、溶剤の存在下または非存在下で反応させ、一般的なポリアミド酸を経由した重合およびイミド化法(熱イミド化、化学イミド化法)により得られる。ここで、溶剤としては、末端変性イミドオリゴマーの製造に用いるのと同じ溶剤を使用できる。
【0076】
オキシジフタル酸類としては、3,3’−オキシジフタル酸、3,4’−オキシジフタル酸、4,4’−オキシジフタル酸、3,3’−オキシジフタル酸無水物、3,4’−オキシジフタル酸無水物、4,4’−オキシジフタル酸無水物、3,3’−オキシジフタル酸のエステルや塩などの誘導体、3,4’−オキシジフタル酸のエステルや塩などの誘導体、4,4’−オキシジフタル酸のエステルや塩などの誘導体などが挙げられる。これらの中でも、酸無水物が好ましい。オキシジフタル酸類は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。
【0077】
本発明では、オキシジフタル酸類を単独で、あるいは本発明の効果を奏する限り、オキシジフタル酸類の一部を他の芳香族テトラカルボン酸類に置換して使用される。他の芳香族テトラカルボン酸類としては、例えば、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(a−BPDA)、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(i−BPDA)、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−カルボキシフェニル)エーテル二無水物、1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物などが挙げられる。他の芳香族テトラカルボン酸類は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。
【0078】
また、芳香族ジアミン類としては特に制限されないが、例えば、1,4−ジアミノベンゼン、1,3−ジアミノベンゼン、1,2−ジアミノベンゼン、2,6−ジエチル−1,3−ジアミノベンゼン、4,6−ジエチル−2−メチル−1,3−ジアミノベンゼン、3,5−ジエチルトルエン−2,6−ジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(4,4’−ODA)、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル(3,4’−ODA)、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、ビス(2,6−ジエチル−4−アミノフェニル)メタン、4,4’−メチレン−ビス(2,6−ジエチルアニリン)、ビス(2−エチル−6−メチル−4−アミノフェニル)メタン、4,4’−メチレン−ビス(2−エチル−6−メチルアニリン)、2,2−ビス(3−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、ベンジジン、3,3’−ジメチルベンジジン、2,2−ビス(4−アミノフェノキシ)プロパン、2,2−ビス(3−アミノフェノキシ)プロパン、2,2−ビス[4’−(4’’−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)フルオレンなどが挙げられる。芳香族ジアミン類は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。
【0079】
本発明のイミド樹脂組成物は、例えば、一般式(1)で表される末端変性イミドオリゴマーと一般式(2)で表される芳香族熱可塑性ポリイミドとを混合することにより調製できるが、さらに、ワニス、粉末、フィルムなどの各種形態にすることができる。
【0080】
本発明のワニス状イミド樹脂組成物は、例えば、前述の合成後の末端変性イミドオリゴマーの反応溶液中に、フィルム形状や粉末形状などの芳香族熱可塑性ポリイミドを、本発明の効果を奏する限り任意の割合で添加して完全に溶解させることにより得ることができる。また、末端変性イミドオリゴマーおよび芳香族熱可塑性ポリイミドのどちらか、または両方が前駆体のアミド酸基を含む状態で溶解されていても良い。また、末端変性イミドオリゴマーの反応溶液を水中などに注ぎ込んで、粉末状の生成物として単離したのちに、芳香族熱可塑性ポリイミドと任意の割合で、再度溶媒に溶解させてワニスを作製しても良い。
【0081】
本発明の粉末状イミド樹脂組成物は、例えば、末端変性イミドオリゴマーと芳香族熱可塑性ポリイミドとを溶解させたワニスを水などの貧溶媒に注ぎ込んで再沈殿させて単離することなどにより得られる。また得られた粉末状イミド樹脂組成物は、両者が均一に混合されていることが望ましい。得られた粉末状イミド樹脂組成物を、例えば200〜280℃の温度で溶融させた状態で、280〜500℃で10分〜40時間程度加熱硬化される方法により、該組成物中の末端変性イミドオリゴマーが高分子量化したイミド樹脂を作製できる。このイミド樹脂のTgは250℃以上であることが好ましく、引張破断伸びは10%以上であることが好ましい。尚、これらの測定は後述の方法による。
【0082】
本発明のフィルム状の形態を有するイミド樹脂組成物成形体(以下、「フィルム状イミド樹脂組成物」と言うことがある。)は、末端変性イミドオリゴマーと芳香族熱可塑性ポリイミドとを溶解させたワニスを支持体に塗布し、例えば200〜280℃の温度で溶剤を除去することにより作製される。得られたフィルム状イミド樹脂組成物は、基材からの剥離後に単独でフィルム形状を維持できるものが望ましく、フィルムの膜厚は1〜1000μmが好ましく、より好ましくは5〜500μmであり、さらに好ましくは5〜300μmである。フィルム状イミド樹脂組成物は、優れた溶融流動性、成形性を発現するために、構成する末端変性イミドオリゴマーがフィルム状イミド樹脂組成物中に均一に分散し、さらに両末端の熱反応性置換基が高分子量化反応を起こしていないことが望ましい。
【0083】
さらに、このフィルム状イミド樹脂組成物を280〜500℃で10分〜40時間程度加熱することにより、末端変性イミドオリゴマー成分の一部もしくはすべてが高分子量化したイミド樹脂組成物成形体を作製できる。
【0084】
また、支持体に塗布したワニスを280〜500℃で10分〜40時間程度で加熱する方法によって末端変性イミドオリゴマー成分が高分子量化したイミド樹脂組成物成形体を一段階で作製しても良い。
本発明のイミド樹脂組成物成形体は、有色透明であることが好ましい。また、本発明のイミド樹脂組成物成形体は、Tgが250℃以上であることが好ましく、引張破断伸びは10%以上であることが好ましい。尚、これらの測定は後述の方法による。
【0085】
本発明に適用するイミドプリプレグは、上記ワニスを例えば平面状に一方向に引き揃えた繊維あるいは繊維織物などに含浸し、20〜180℃の乾燥機中で1分〜20時間乾燥させて溶媒の一部あるいはすべてを完全に除去することにより作製される。イミドプリプレグ中には、イミド樹脂組成物を好ましくは10〜90重量%、より好ましくは20〜80重量%、さらに好ましくは30〜50重量%含むものが望ましい
【0086】
本発明の繊維強化複合材料は、このプリプレグを所定枚数重ねて、オートクレーブまたはホットプレス等を用いて、280〜500℃の温度かつ1〜1000kg/cm
2の圧力で10分から40時間程度加熱して作製することが出来る。
また、上記のようにして得られた本発明の繊維強化積層板は、Tgが250℃以上であることが好ましい。尚、この測定は後述の方法による。
【0087】
本発明に適用する繊維としては、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、金属繊維、セラミック繊維などの無機繊維、ポリアミド繊維、ポリエステル系繊維、ポリオレフィン系繊維、ノボロイド繊維などの有機合成繊維などが挙げられる。これらの繊維は1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。特に、優れた機械的特性を発現するためには、炭素繊維が望ましい。炭素繊維としては、炭素の含有率が85〜100重量%の範囲にあり、少なくとも部分的にグラファイト構造を有する連続した繊維形状を有する材料であれば特に限定されないが、例えば、ポリアクリロニトリル(PAN)系、レーヨン系、リグニン系、ピッチ系などが挙げられる。これらの中でも、汎用的かつ安価であり、高い強度を備えていることから、PAN系、ピッチ系などの炭素繊維が好ましい。一般的に、前記炭素繊維には、サイジング処理が施されているが、そのまま用いても良く、必要に応じて有機溶剤等にて除去することが出来る。また、あらかじめ繊維束をエアーやローラーなどを用いて開繊し、該炭素繊維の単糸間に樹脂あるいは樹脂溶液を含浸させるように施すことが好ましい。
【0088】
また、イミドプリプレグあるいは繊維強化複合材料を構成する繊維材料の形態は、UD、織り(平織り、朱子織など)、編み等による連続した繊維形状の構造体であり、特に限定されるものでなく、その目的に応じ適宜選択すれば良く、これらを単独あるいは組み合わせて用いることができる。
【0089】
さらに、フィルム状イミド樹脂組成物成形体またはイミドプリプレグを繊維強化複合材料同士の間または繊維強化複合材料と異種材料との間に挿入し、加熱溶融して一体化することにより、繊維強化複合材料構造体を得ることができる。ここで、異種材料としては特に限定されず、この分野で常用されるものをいずれも使用できるが、例えば、ハニカム形状などの金属材料、スポンジ形状などのコア材料などが挙げられる。
【実施例】
【0090】
以下に本発明を説明するためにいくつかの実施例を示すが、これによって本発明を限定するものではない。また、各特性の測定条件は、次のとおりとした。
【0091】
<試験方法>
(1)5%重量減少温度測定
熱重量分析装置(TGA、型式:SDT−2960型、TAインスツルメント社製)を用い、窒素気流下、5℃/分の昇温速度により測定した。
【0092】
(2)ガラス転移温度測定
示差走査熱量計(DSC、型式:DSC−2010型、TAインスツルメント社製)を用い、窒素気流下、5℃/分の昇温速度により測定した。また、フィルム形状のものは、動的粘弾性測定装置(DMA、型式:RSA−II、Rheometric社製)を用い、昇温速度10℃/分、周波数1Hzにて測定を行い、貯蔵弾性率曲線が低下する前後における2つの接線の交点をガラス転移温度とした。繊維強化複合材料は、動的粘弾性測定装置(DMA、型式:DMA−Q−800型、TAインスツルメント社製)を用い、片持ち梁方式、0.1%のひずみ、1Hzの周波数、窒素気流下、3℃/分の昇温速度により測定した。貯蔵弾性率曲線が低下する前後における2つの接線の交点をガラス転移温度とした。
【0093】
(3)最低溶融粘度測定
レオメーター(型式:AR2000型、TAインスツルメント社製)を用い、25mmパラレルプレートで4℃/分の昇温速度により測定した。
【0094】
(4)弾性率測定試験、破断強度測定試験、破断伸び測定試験
テンシロン万能材料試験機(商品名:TENSILON/UTM−II−20、(株)オリエンテック製)を用い、室温にて、引張速度3mm/分で行った。試験片形状は、長さ20mm、幅3mm、厚さ80〜120μmのフィルムとした。
【0095】
(5)固有粘度測定
ウベローデ型粘度測定装置を用い、NMP中、30℃にて、種々の樹脂濃度溶液が上下の標線間を通過する時間を測定し、溶媒のみの場合で測定した落下時間とから各濃度における還元粘度を算出した。種々の樹脂溶液濃度に対して、それぞれの還元粘度をそのときの樹脂濃度で割った値をグラフにプロットし、最小二乗法によって作成した近似直線の外装における切片から算出した値を固有粘度値とした。
【0096】
(6)実体顕微鏡観察
実体顕微鏡(オリンパス(株)製、SZ−PT型)を用い、室温にて18倍から110倍の拡大倍率にてフィルム表面および内部の観察を行った。
【0097】
(7)赤外吸収スペクトル測定
日本分光(株)製、FT/IR−230S型分光計を用いて、室温にて、400cm
−1〜4000cm
−1の測定範囲にて積算回数32回の条件にて赤外吸収スペクトル測定を行なった。
【0098】
(実施例1)
温度計、攪拌子、窒素導入管を備えた3つ口の2000mLセパラブルフラスコに、2−フェニル−4,4’−ジアミノジフェニルエーテル248.52g(0.90mol)、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン34.84g(0.10mol)とN−メチル−2−ピロリドン700mLを加え、溶解後、1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物174.50g(0.8mol)とN−メチル−2−ピロリドン300mLを入れ、窒素気流下、室温で2.5時間、60℃で1.5時間、さらに室温で1時間重合反応させアミド酸オリゴマーを生成した。この反応溶液に4−(2−フェニルエチニル)無水フタル酸99.29g(0.4mol)を入れ、窒素気流下、室温で12時間反応させ末端変性し、続けて195℃で5時間攪拌しイミド結合させた。
【0099】
冷却後、反応液の一部を900mLのイオン交換水に投入し、析出した粉末を濾別した。80mLのメタノールで30分洗浄し、濾別して得られた粉末を150℃で1日間減圧乾燥し、生成物を得た。得られた末端変性イミドオリゴマーは、下記一般式(3)において、R
1およびR
2は水素原子又はフェニル基であっていずれか一方がフェニル基を表し、R
3が2−フェニル−4,4’−ジアミノジフェニルエーテル残基または9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン残基で、R
4が9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン残基で表され、平均としてm=3.6、n=0.4である。
【0100】
【化10】
【0101】
上記で得られた末端変性イミドオリゴマーの未硬化粉末は、NMP溶媒に室温で30%以上可溶であり、NMP溶液は数ヵ月間の保存後においてゲル化や沈殿の析出はみられなかった。硬化前の末端変性イミドオリゴマーのTgは、DSC測定結果より、221℃、最低溶融粘度は1280Pa・s(340℃)であった。この末端変性イミドオリゴマーの粉末をホットプレスを用いて370℃で1時間加熱して得られたフィルム状の硬化物(厚さ111μm)は、DSC測定により求めたTgは371℃、5%重量減少温度は538℃であった。また、このフィルム形状の硬化物の引張試験による力学的性質は、弾性率が2.97GPa、破断強度が119MPa、破断伸びが13%であった。
【0102】
(実施例2)
実施例1で得られた末端変性イミドオリゴマー粉末(5.0g)と芳香族熱可塑性ポリイミド粉末(開発品名:YS−20A、上海合成樹脂研究所製)5.0gをNMP40g中で攪拌させることにより完全に溶解させたワニス(ワニス中に含まれる総イミド樹脂含有率は20wt%)を調製した。
なお、前記芳香族熱可塑性ポリイミド(YS−20A)は、3,4’−オキシジフタル酸無水物と4,4’−オキシジアニリンとの組み合わせからなる組成を有し、DSCより求めたTgは270℃、5%重量減少は529℃、固有粘度は0.47dL/gで与えられ、下記一般式(5)において、R’
1および、R’
2が4,4’−オキシジアニリン残基、R’
3が3,4’−オキシジフタル酸無水物残基であり、m’およびn’は、m’≧1、n’=0の関係を満たしていた。
【0103】
【化11】
【0104】
(実施例3)
実施例2で作製したワニスの一部を水中に再沈殿した後に、吸引ろ過で回収し、水およびメタノールで洗浄後に、真空オーブン中にて240℃、3時間乾燥を行い、粉末状のイミド樹脂組成物を得た。得られた粉末状のイミド樹脂組成物のDSC測定よりTgは253℃に単一で観測され、また、430℃付近を頂点とする発熱ピークが観測された。最低溶融粘度は2800Pa・s(360℃)であった。
【0105】
(実施例4)
実施例3で得られた粉末状のイミド樹脂組成物の一部を表面平滑性に優れたポリイミドフィルム(商品名:UPILEX−75S、厚さ:75μm、サイズ:15cm角、宇部興産株式会社製)2枚の間に挿入し、370℃で1時間加圧し、冷却後に剥離することにより、赤褐色の透明であるフィルム状イミド樹脂組成物を得た。このフィルム状イミド樹脂組成物の一部を使用したIRスペクトル測定より、末端変性イミドオリゴマーの末端基PEPAに含まれる三重結合の伸縮振動に由来する2210cm
−1付近の吸収が消失していたことから、本加圧加熱成形によってフィルム状イミド樹脂組成物中で末端変性イミドオリゴマー成分が熱付加反応により高分子量化していることが示された。DSC測定よりTgは296℃に単一で観測され、また、430℃付近を頂点とする発熱ピークが観測された。DMA測定ではTgは294℃に単一で観測され、5%重量減少温度は517℃に観測され、引張試験より求めた破断伸びは12%であった。顕微鏡観察の結果ではフィルム表面および内部には相構造が観測されず、均一に相溶されていた。
【0106】
(実施例5)
実施例2で作製したワニスの一部を平板上ガラス支持体の上でコーターを用いて流延、塗工し、空気循環式オーブン内にて、250℃、30分乾燥を行った。その後、ガラス基板上の製膜フィルムを剥離して、充分な自己支持性を有しかつ柔軟な薄黄色の透明であるフィルム状イミド樹脂組成物を得た。フィルム状イミド樹脂組成物の膜厚は約50μmであり、DSC測定より求めたTgは253℃に単一で観測された。顕微鏡観察の結果ではフィルム表面および内部には相構造が観測されず、均一に相溶されていた。
【0107】
(実施例6)
実施例5で得られた作製したフィルム状イミド樹脂組成物を表面平滑性に優れたポリイミドフィルム(商品名:UPILEX−75S、宇部興産株式会社製)2枚の間に挿入し、370℃で1時間加圧し、冷却後に剥離することにより、充分な自己支持性を有しかつ柔軟な薄黄色の透明であるフィルム状イミド樹脂組成物を得た。このフィルム状イミド樹脂組成物の一部を使用したIRスペクトル測定より、末端変性イミドオリゴマーの末端基PEPAに含まれる三重結合の伸縮振動に由来する2210cm
−1付近の吸収が消失していたことから、本加圧加熱成形によってフィルム状イミド樹脂組成物中で末端変性イミドオリゴマー成分が熱付加反応により高分子量化していることが示された。DSC測定よりTgは296℃に単一で観測され、DMA測定ではTgは294℃に単一で観測され、5%重量減少温度は517℃に観測され、引張試験より求めた破断伸びは8.5%であった。顕微鏡観察の結果ではフィルム表面および内部には相構造が観測されず、均一に相溶されていた。
【0108】
(実施例7)
実施例2で作製したワニスの一部をUPILEX−75Sフィルムの上でコーターを用いて流延、塗工し、空気循環式オーブン内にて、250℃、30分乾燥を行った。その後、連続して370℃、1時間、真空中で加熱を行った。その後、UPILEX−75Sフィルム上から剥離することにより、充分な自己支持性を有しかつ柔軟な赤褐色の透明であるフィルム状イミド樹脂組成物を得た。このフィルム状イミド樹脂組成物の一部を使用したIRスペクトル測定より、末端変性イミドオリゴマーの末端基PEPAに含まれる三重結合の伸縮振動に由来する2210cm
−1付近の吸収が消失していたことから、本加圧加熱成形によってフィルム状イミド樹脂組成物中で末端変性イミドオリゴマー成分が熱付加反応により高分子量化していることが示された。DSC測定よりTgは296℃に単一で観測され、DMA測定ではTgは294℃に単一で観測され、5%重量減少温度は517℃に観測され、引張試験より求めた破断伸びは8.7%であった。顕微鏡観察の結果ではフィルム表面および内部には相構造が観測されず、均一に相溶されていた。
【0109】
(実施例8)
実施例2と同じ方法によって作製したイミド樹脂組成物のワニス400gの一部を、あらかじめアセトンにて脱サイジング処理した30cm×30cmの平織材(商品名:べスファイトIM−600 6K、繊維目付195g/m
2、密度:1.80g/cm
3、東邦テナックス(株)製)に含浸させた。これを乾燥機中、100℃で10分乾燥させてイミドプリプレグを得た。得られたプリプレグ中の樹脂含有割合は38wt%、溶媒含有量は17wt%であった。
【0110】
(実施例9)
30cm×30cmのステンレス板上に、剥離フィルムとしてポリイミドフィルムを置き、その上に実施例9で作製したプリプレグを12枚積層した。さらにポリイミドフィルムとステンレス板を重ね、ホットプレス上、真空条件下、昇温速度5℃/分で260℃まで加熱した。260℃で2時間加熱後、1.3MPaで昇温速度3℃/分で370℃まで昇温し、そのまま370℃で1時間加熱加圧させた。外観や超音波探傷試験、断面観察試験から判断して大きなボイドのない良好な積層板が得られた。得られた積層板のガラス転移温度は、296℃に観測され、繊維体積含有率(Vf)は0.6であり、樹脂含有量は35wt%であった。
【0111】
(実施例10)
実施例9で作製した2枚のポリイミド炭素複合材料の間に、実施例6で作製したフィルム状イミド樹脂組成物を挿入し、プレス機を用いて、280℃、30分、1MPaの条件で加熱、加圧した後に、370℃、1時間、加熱、加圧を行うことで、2枚のポリイミド炭素複合材料が強固に一体化した複合材料構造体を得た。
【0112】
(実施例11)
実施例2と同じ方法によって作製したイミド樹脂組成物のワニス400gの一部を希釈し、あらかじめアセトンにて脱サイジング処理した30cm×30cmの平織材(商品名:べスファイトIM−600 6K、繊維目付195g/m
2、密度:1.80g/cm
3、東邦テナックス(株)製)に含浸させた。これを乾燥機中、250℃で30分乾燥させてイミドドライプリプレグを得た。得られたプリプレグ中の樹脂含有割合は35wt%であった。
【0113】
(実施例12)
30cm×30cmのステンレス板上に、剥離フィルムとしてポリイミドフィルムを置き、その上に実施例12で作製したプリプレグを12枚積層した。さらにポリイミドフィルムとステンレス板を重ね、ホットプレス上、真空条件下、昇温速度5℃/分で260℃まで加熱した。260℃で2時間加熱後、1.3MPaで昇温速度3℃/分で370℃まで昇温し、そのまま370℃で1時間加熱加圧させた。外観や超音波探傷試験、断面観察試験から判断して大きなボイドのない良好な積層板が得られた。得られた積層板のガラス転移温度は、296℃に観測され、繊維体積含有率(Vf)は0.6であり、樹脂含有量は33wt%であった。
【0114】
(実施例13)
実施例9で作製した2枚のポリイミド炭素複合材料の間に、実施例12で作製したドライプリプレグを挿入し、プレス機を用いて、280℃、30分、1MPaの条件で加熱、加圧した後に、370℃、1時間、加熱、加圧を行うことで、2枚のポリイミド炭素複合材料が強固に一体化した複合材料構造体を得た。
【0115】
(実施例14)
実施例1で得られた末端変性イミドオリゴマー粉末2.0gと芳香族熱可塑性ポリイミド粉末(YS−20A、DSCより求めたTgは270℃、5%重量減少は529℃、固有粘度は0.47dL/g)8.0gとをNMP40g中で攪拌させることにより完全に溶解させたワニス(ワニス中に含まれる総イミド樹脂含有率は20wt%)を調製した。
【0116】
(実施例15)
実施例2で作製したワニスの一部を水中に再沈殿した後に、吸引ろ過で回収し、水およびメタノールで洗浄後に、真空オーブン中にて240℃、3時間乾燥を行い、粉末状のイミド樹脂組成物を得た。DSC測定よりTgは240℃に単一で観測され、また、430℃付近を頂点とする発熱ピークが観測された。
【0117】
(実施例16)
実施例15で得られた粉末状のイミド樹脂組成物の一部を表面平滑性に優れたポリイミドフィルム(宇部興産株式会社製、商品名:UPILEX−75S、厚さ:75μm、サイズ:15cm角)2枚の間に挿入し、370℃で1時間加圧し、冷却後に剥離することにより、十分な自己支持性を有しかつ柔軟な赤褐色の透明であるフィルム状イミド樹脂組成物を得た。このフィルム状イミド樹脂組成物の一部を使用したIRスペクトル測定より、末端変性イミドオリゴマーの末端基PEPAに含まれる三重結合の伸縮振動に由来する2210cm
−1付近の吸収が消失していたことから、本加圧加熱成形によってフィルム状イミド樹脂組成物中で末端変性イミドオリゴマー成分が熱付加反応により高分子量化していることが示された。DSC測定よりTgは280℃に単一で観測され、また、430℃付近を頂点とする発熱ピークが観測された。DMA測定ではTgは277℃に単一で観測され、5%重量減少温度は535℃に観測され、引張試験より求めた破断伸びは11.3%であった。顕微鏡観察の結果ではフィルム表面および内部には相構造が観測されず、均一に相溶されていた。
【0118】
(実施例17)
実施例14で作製したワニスの一部を平板上ガラス支持体の上でコーターを用いて流延、塗工し、空気循環式オーブン内にて、250℃、30分乾燥を行った。その後、ガラス基板上の製膜フィルムを剥離して、充分な自己支持性を有しかつ柔軟な薄黄色の透明であるフィルム状イミド樹脂組成物を得た。フィルム状イミド樹脂組成物の膜厚は約50μmであり、DSC測定よりTgは240℃に単一で観測され、また、430℃付近を頂点とする発熱ピークが観測された。DMA測定ではTgは231℃に単一で観測された。顕微鏡観察の結果ではフィルム表面および内部には相構造が観測されず、均一に相溶されていた。
【0119】
(実施例18)
実施例17で作製したフィルム状イミド樹脂組成物を表面平滑性に優れたポリイミドフィルム(宇部興産株式会社製、商品名:UPILEX−75S)2枚の間に挿入し、370℃で1時間加圧し、冷却後に剥離することにより、充分な自己支持性を有しかつ柔軟な赤褐色の透明であるフィルム状イミド樹脂組成物を得た。このフィルム状イミド樹脂組成物の一部を使用したIRスペクトル測定より、末端変性イミドオリゴマーの末端基PEPAに含まれる三重結合の伸縮振動に由来する2210cm
−1付近の吸収が消失していたことから、本加圧加熱成形によってフィルム状イミド樹脂組成物中で末端変性イミドオリゴマー成分が熱付加反応により高分子量化していることが示された。DSC測定よりTgは280℃に単一で観測され、DMA測定ではTgは277℃に単一で観測され、5%重量減少温度は535℃に観測され、引張試験より求めた破断伸びは11.5%であった。顕微鏡観察の結果ではフィルム表面および内部には相構造が観測されず、均一に相溶されていた。
【0120】
(比較例1)
温度計、攪拌子、窒素導入管を備えた3つ口の100mLフラスコに、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル2.0024g(10mmol)とN−メチル−2−ピロリドン9.3mLを加え、溶解後、1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物1.7450g(8mmol)を入れ、窒素気流下、室温で2.5時間、60℃で1.5時間、さらに室温で1時間重合反応させアミド酸オリゴマーを生成した。この反応溶液に4−(2−フェニルエチニル)無水フタル酸0.9929g(4mmol)を入れ、窒素気流下、室温で12時間反応させ末端変性し、続けて195℃で5時間攪拌しイミド結合させた。イミド化反応中にイミドオリゴマーの析出が見られた。
冷却後、反応液を900mLのイオン交換水に投入し、析出した粉末を濾別した。80mLのメタノールで30分洗浄し、濾別して得られた粉末を130℃で1日間減圧乾燥し、生成物を得た。
得られた末端変性イミドオリゴマーは、下記一般式(6)において、R
1およびR
2が4,4’−オキシジアニリン残基であり、平均としてm=4、n=0である。
【0121】
【化12】
【0122】
上記で得られた末端変性イミドオリゴマーの未硬化物は、NMP溶媒に不溶であった。この末端変性イミドオリゴマーは300℃以上においても溶融流動性を示さなかった。
【0125】
(実施例19)
温度計、攪拌子、窒素導入管を備えた3つ口の100mLフラスコに、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル4.0048g(20mmol)とNMP70mLを加え、溶解後、4,4’−オキシジフタル酸無水物6.2044g(20mmol)を加えて窒素気流下、室温で6時間重合反応させ、沈殿物の無いポリアミド
酸の溶液(溶液中のポリアミド酸の重量含有率:12.5wt%)を作製した。
【0126】
このポリアミド酸溶液12g中に、実施例
1で作製した末端変性イミドオリゴマー粉末を1.5g添加し、攪拌させることにより均一に溶解した溶液を得た(溶液中のポリアミド酸と末端変性イミドオリゴマーの重量含有率はそれぞれ11.1%)。この溶液を平板上ガラス支持体の上でコーターを用いて流延、塗工し、空気循環式オーブン内にて、250℃、30分乾燥を行った。その後、ガラス基板上の製膜フィルムを剥離して、充分な自己支持性を有しかつ柔軟な薄黄色の透明であるフィルム状イミド樹脂組成物を得た。フィルム状イミド樹脂組成物の膜厚は約50μmであり、DSC測定よりTgは240℃に単一で観測された。引張試験により求めた破断伸びは11.5%であった。顕微鏡観察の結果ではフィルム表面および内部には相構造が観測されず、均一に相溶されていた。
【0127】
(実施例20)
実施例19で作製したフィルム状イミド樹脂組成物をオーブン中で、真空下、300℃で30分、 350℃で30分、 370℃で30分ずつ連続的に熱処理を行い、充分な自己支持性を有しかつ柔軟なフィルム状イミド樹脂組成物を得た。このフィルム状イミド樹脂組成物の一部を使用したIRスペクトル測定より、末端変性イミドオリゴマーの末端基PEPAに含まれる三重結合の伸縮振動に由来する2210cm
−1付近の吸収が消失していたことから、本熱処理によってフィルム状イミド樹脂組成物中で末端変性イミドオリゴマー成分が熱付加反応により高分子量化していることが示された。DSC測定よりTgは310℃に単一で観測され、DMA測定ではTgは305℃に単一で観測され、5%重量減少温度は535℃に観測され、引張試験より求めた破断伸びは10%であった。
【0128】
(比較例3)
温度計、攪拌子、窒素導入管を備えた3つ口の100mLフラスコに、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル2.0024g(10mmol)とN−メチル−2−ピロリドン16.2mlを加え、溶解後、1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物2.1813g(10mmol)を入れ、窒素気流下、室温で2.5時間、60℃で1.5時間、さらに室温で1時間重合反応させ、沈殿物の無いポリアミド酸オリゴマーの溶液(溶液中のポリアミド酸の重量含有率:20.0wt%)を作製した。
【0129】
このポリアミド酸溶液12g中に、実施例2で作製した末端変性イミドオリゴマー粉末2.4gを添加し、攪拌させることにより均一に溶解した溶液を得た(溶液中のポリアミド酸と末端変性イミドオリゴマーの重量含有率はそれぞれ16.7%)。この溶液を平板上ガラス支持体の上でコーターを用いて流延、塗工し、空気循環式オーブン内にて、250℃、30分乾燥を行った。その後、ガラス基板上の製膜フィルムを剥離したところ、充分な自己支持性を有さず、非常に脆い不透明なイミド樹脂組成物が得られた。イミド樹脂組成物を300℃以上の高温で加熱しても溶融が見られず、フィルム成形が困難であった。