特許第6332550号(P6332550)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6332550
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】超臨界流体装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/02 20060101AFI20180521BHJP
【FI】
   G01N30/02 N
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-505974(P2017-505974)
(86)(22)【出願日】2015年3月19日
(86)【国際出願番号】JP2015058243
(87)【国際公開番号】WO2016147379
(87)【国際公開日】20160922
【審査請求日】2017年6月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100205981
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 大輔
(72)【発明者】
【氏名】後藤 洋臣
(72)【発明者】
【氏名】梶山 理沙
(72)【発明者】
【氏名】森 隆弘
【審査官】 土岐 和雅
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/083639(WO,A1)
【文献】 特開2002−071534(JP,A)
【文献】 特開2009−544042(JP,A)
【文献】 特開2011−118880(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N30/00〜30/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料成分を分離又は抽出する分離・抽出部を備えた分析流路、ポンプを備えて前記分離・抽出部の上流側の分析流路に超臨界流体となる移動相を供給する送液部、及び移動相の流れに対して前記分離・抽出部の下流側に配置され、前記分離・抽出部における移動相を超臨界流体状態に保つ加圧状態とする背圧調整器を備えた超臨界流体分析部と、
一端が前記背圧調整器の出口側に接続され、他端が大気に解放された配管と、
前記配管に沿って互いに異なる部分に配置され、電気的に互いに独立した複数個のヒータを備えた加熱部と、
前記ヒータに接続され、前記複数個のヒータのうちの選択された1又は複数個のヒータに加熱用の電源を供給し、他のヒータには加熱用の電源を供給しないように構成された通電制御部と、
を備えた超臨界流体装置。
【請求項2】
前記ヒータは実質的に前記配管の全長にわたって配置されている請求項1に記載の超臨界流体装置。
【請求項3】
前記ヒータは前記配管に巻きつけられたフィルムヒータである請求項1又は2に記載の超臨界流体装置。
【請求項4】
前記通電制御部は前記ヒータごとの通電を設定するスイッチ及び制御回路を備えている請求項1から3のいずれか一項に記載の超臨界流体装置。
【請求項5】
前記スイッチ及び制御回路は電流値を設定するように構成されている請求項4に記載の超臨界流体装置。
【請求項6】
前記通電制御部は、前記ヒータごとの通電に関する情報を入力する入力部と、
前記入力部からの入力情報に基づいて前記ヒータごとの通電を設定する制御部と、を備えている請求項1から3のいずれか一項に記載の超臨界流体装置。
【請求項7】
前記通電制御部は、前記配管の内径及び移動相中の液化二酸化炭素の流量を含む前記超臨界流体分析部の複数のパラメータに対して前記配管の凍結箇所を示す位置情報を保持した位置情報保持部と、
この超臨界流体装置の動作時のパラメータを入力する入力部と、
前記入力部から入力されたパラメータと前記位置情報保持部に保持されている位置情報に基づいて前記ヒータのうち前記配管の凍結を防止するためのヒータを選択的に通電させる制御部と、を備えている請求項1から3のいずれか一項に記載の超臨界流体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超臨界流体クロマトグラフ(SFC)及び超臨界流体抽出装置(SFE)を含む超臨界流体装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
超臨界流体クロマトグラフィでは、移動相である10MPa以上の超臨界流体、例えば液化二酸化炭素(CO2)又はそれにモディファイヤとして有機溶媒を添加したもの、が背圧調整器(BPR)通過後に大気圧に減圧されて気化する際に断熱膨張や気化熱により温度が急激に低下する。その際、二酸化炭素がドライアイス化して配管の凍結やつまりの原因となる。これを防止するため背圧調整器又は移動相の流れに対して背圧調整器より下流の配管を加熱することが行われている。
【0003】
背圧調整器の出口流路開口部がドライアイスで閉塞されたり破壊されたりするのを防止するために、背圧調整器自体をヒータで加熱しているものがある(特許文献1参照)。特許文献1には、背圧調整器の出口側の配管を加熱することに関する記述はない。
【0004】
背圧調整器の出口流路に接続された配管をカートリッジヒータが設けられた熱交換ブロックに巻きつけて、配管内を流通する気化流体を加温することにより配管の凍結を防止したものもある(特許文献2参照)。そこでは、熱交換ブロックに巻きつけられた配管全体が常に加熱される。
【0005】
背圧調整器とフラクションコレクタへの移送管との間にカートリッジヒータとトリムヒータを設け、放出流体の液化二酸化炭素部分を完全に蒸発させて移送管の外側への結氷を防止しているものもある(特許文献3参照)。この例でもカートリッジヒータとトリムヒータにより加熱される箇所は固定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第5224510号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2011/0094604号明細書
【特許文献3】特開2002−71534号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
超臨界流体クロマトグラフ装置においても超臨界流体抽出装置においても、分離又は抽出された試料成分を検出器で検出したり容器に採取したりする場合は、背圧調整器の出口から移動相を直接放出するのではなく、配管を経由して放出されることが多い。
【0008】
その配管内では移動相に配管抵抗による残存圧力がかかるので、移動相中の液化二酸化炭素は背圧調整器を通過した後に直ちに気化するわけではなく、配管出ロからの圧損が5MPa程度を下回ったところで気化する。つまり配管内で液化二酸化炭素が気化する位置は使用する配管の内径、流量、モディファイヤ混合率(二酸化炭素送液量に対応する)といったパラメータによって変化する。このことは、上述の先行文献のような固定箇所の加熱ではパラメータによっては適切でなかったり、全体加熱では熱効率が悪くなったりすることを意味している。
【0009】
例えば、背圧調整器に付属の加熱機構又は背圧調整器の下流の固定位置に配置された加熱機構からさらに下流の箇所で気化が発生する条件の場合は、その箇所の凍結を防止するためには、二酸化炭素の断熱膨張と気化熱による低下温度を補償するための熱量をその凍結が起こりうる箇所よりも上流側で液化二酸化炭素を含む移動相に付与しなければならない。このことは、加熱機構の位置の移動相を著しく温度上昇させることになる。例えば分取超臨界流体クロマトグラフィでは、注入する試料には熱で分解するものが多数存在するので、過度の温度上昇は試料を消失または変性してしまう問題を生じる。
【0010】
逆に、例えば、背圧調整器の下流の固定位置に配置された加熱機構よりも上流の箇所で液化二酸化炭素の気化が発生する場合は、その位置の加熱機構で移動相にいくら熱量を付与しても配管の凍結を防止することができない。
このような事情は、分取超臨界流体クロマトグラフに限らず、分離成分を検出する超臨界流体クロマトグラフや超臨界流体抽出装置においても同様に存在する。
【0011】
本発明は、背圧調整器の下流の配管の凍結やつまりを効率的に防止することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は特定の箇所を常に加熱するのではなく、配管内径及び液化二酸化炭素流量などのパラメータに応じた適当な箇所を加熱できるようにするものである。
【0013】
本発明が対象とする超臨界流体装置は、試料成分を分離又は抽出する分離・抽出部を備えた分析流路、ポンプを備えて前記分離・抽出部の上流側の分析流路に超臨界流体となる移動相を供給する送液部、及び移動相の流れに対して前記分離・抽出部の下流側に配置され、前記分離・抽出部における移動相を超臨界流体状態に保つ加圧状態とする背圧調整器を備えた超臨界流体分析部を備えている。
【0014】
本発明の超臨界流体装置は、その超臨界流体分析部の背圧調整器の出口側に一端が接続され他端が大気に解放された配管と、前記配管に沿って互いに異なる部分に配置され、電気的に互いに独立した複数個のヒータを備えた加熱部と、前記ヒータに接続され、前記複数個のヒータのうちの選択された1又は複数個のヒータに加熱用の電源を供給し、他のヒータには加熱用の電源を供給しないように構成された通電制御部と、を備えている。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、背圧調整器の出口側に接続された配管の任意の箇所を選択的に加熱することができるので、配管の凍結を防止するのに最も適した箇所の1又は複数個のヒータにより配管を加熱することができる。その結果、配管の凍結箇所の上流にて移動相に過度の熱量を与えないようにしてサンプルの分解や消失を防止したり、配管の凍結箇所の下流を加熱して凍結を防止できなかったりするといった不都合をなくすことができる。
【0016】
また、必要な箇所を効率的に加熱できるため、熱容量を伝えるためだけの不要な流路を削減でき、デッドボリュームが小さくなるため、カラムで分離したピークの広がりを抑止できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】一実施例の分取超臨界流体クロマトグラフを示すブロック図である。
図2】一実施例における配管とそれに巻かれたフィルムヒータを示す概略斜視図である。
図3】移動相としての二酸化炭素の流量を変化させた場合の配管の凍結の様子を示す画像である。
図4】一実施例の超臨界流体クロマトグラフにおける配管での凍結状態(A)と凍結解消状態(B)を示す画像である。
図5】一実施例の超臨界流体クロマトグラフにおける50cmの加熱機能付き配管の全てのヒータに通電を行って加熱した場合の結果を示す画像である。
図6】配管に設けられ複数のセグメントに分割されたヒータを個別に通電制御する第1の実施例を示すブロック図である。
図7】配管に設けられ複数のセグメントに分割されたヒータを個別に通電制御する第2の実施例を示すブロック図である。
図8】配管に設けられ複数のセグメントに分割されたヒータを個別に通電制御する第3の実施例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
背圧調整器の出口側に配管が接続されたとき、その内径はわかるが、凍結が発生する位置は内径だけでは決まらず、移動相流量やモディファイヤ混合率などの分析条件により変化するので、配管のどの位置であっても凍結の発生を防止できるようになっているのが好ましい。そのため、一実施形態では、ヒータは実質的に配管の全長にわたって配置されている。配管の端部には他の部品などが接続されてヒータを配置することができないことがありうるので、「実質的に全長」とはそのような端部などヒータを配置できない個所を除いて配管の全長にわたってヒータを配置することを意味する。
【0019】
ヒータの種類は特に限定されるものではないが、配管に沿った複数個所に配置するのに適したものとして、フィルムヒータが好ましい。その場合、セグメントに分けられた複数のフィルムヒータを配管に巻きつけて使用する。フィルムヒータは、カートリッジヒータと熱交換ブロックからなる加熱機構のように複数の加熱コンポーネントを設ける必要がないため、ヒータ部分を小型にできる。
【0020】
セグメントに分けられた複数のヒータは全てが同時に通電して加熱のために使用されるのではなく、凍結を防止するのに必要な位置の1又は複数個のヒータが選択的に使用される。そのため、一実施形態では、通電制御部はヒータごとの通電を設定するスイッチ及び制御回路を備えている。配管の凍結箇所は、配管の内径、流量、モディファイヤ混合率などのパラメータにより決まる。そこで、まず、いずれのヒータにも通電しない状態で超臨界流体装置を動作時のパラメータのもとで作動させ、実際に凍結が生じる箇所を求める。その後、動作時には、その凍結箇所のヒータ又はその前後を含む複数のヒータに通電を行うように作業者がスイッチを操作すればよい。
【0021】
さらに、複数のヒータへ通電する場合でも通電する全てのヒータへの通電量を一定にしなければならないものではなく、最も凍結が発生しやすい箇所のヒータへの通電量を大きくし、その前後のヒータへの通電量をそれよりも小さくするというように、使用するヒータへの通電量を個別に調節できるようになっていることが好ましい。そのため、一実施形態では、スイッチ及び制御回路は配管の温度が所定の温度になるようにヒータへの通電量をフィードバック制御するように構成されている。フィードバック制御にはヒータごとに温度センサを設け、その温度センサの検出温度が所定の温度になるようにフィードバック制御することができる。また、ヒータとしてフィルムヒータを使用する場合は、温度センサを設けなくてもフィルムヒータの抵抗値によって温度を検知できるので、そのヒータの抵抗値が所定の抵抗値になるようにフィードバック制御することもできる。
【0022】
作業者がスイッチを操作するのに代えて、どのヒータを使用するかというヒータごとの通電に関する情報を入力する入力部と、その入力部からの入力情報に基づいてヒータごとの通電を設定する制御部を備えるようにしてもよい。
【0023】
超臨界流体装置の配管内径及び分析条件を含むパラメータと、配管の凍結箇所との関係を予め実験によって求めることができるので、そのような予め求めた関係を保持しておくことができる。そこで、一実施形態では、通電制御部は、配管内径及び移動相中の液化二酸化炭素流量を含む超臨界流体分析部の複数のパラメータに対して配管の凍結箇所を示す位置情報を保持した位置情報保持部と、この超臨界流体装置の動作時のパラメータを入力する入力部と、その入力部から入力されたパラメータと位置情報保持部に保持されている位置情報に基づいて配管の凍結箇所にあるヒータを選択的に通電させる制御部と、を備えている。
【0024】
次に、一実施例の超臨界流体装置として、分取超臨界流体クロマトグラフの一実施例の構成について図1を用いて説明する。
【0025】
超臨界流体クロマトグラフでは、一般に、比較的低温度、低圧力で超臨界状態が得られる液化二酸化炭素を用い、測定しようとする試料の溶解性を高めるためのモディファイヤとして有機溶媒を液化二酸化炭素に混入させる。モディファイヤの一例はメタノールである。液化二酸化炭素にモディファイヤを混入させたものが移動相となる。このため二酸化炭素ボンベ1から得られる液化二酸化炭素を二酸化炭素ポンプ3にて送液し、モディファイヤ2をモディファイヤポンプ4にて送液し、それらをミキサ一5にて混合して移動相とする。
【0026】
オートサンプラ6によって試料が注入された移動相は力ラムオーブン7内に設置された力ラム8を通り、試料が時間的に分離される。時間的に分離された試料は検出器9によって検出される。検出器9は、例えば紫外線(UV)検出器である。
【0027】
ポンプ3、4より下流の流路内の移動相の圧力は背圧調整器10としての圧力制御バルブによって10MPa程度以上に一定に保たれている。背圧調整器10の出口側は配管20を経てフラクションコレクタ12が接続されており、分離された試料成分がフラクションコレクタ12に捕集される。移動相は背圧調整器10を通過後に大気圧まで減圧され、移動相中の液化二酸化炭素は二酸化炭素気化の閾値である約5MPaまで圧力が低下したところで気体となる。
【0028】
この気化熱により配管20の流路が凍結して詰まるのを避けるため、圧力制御バルブ10の出口側の配管20には実施例の加熱部11が設けられている。
【0029】
分取超臨界流体クロマトグラフではフラクションコレクタ12の前段に気液分離器が設置される場合があるが、ここではフラクションコレクタ12はそのような気液分離器を含むものとして説明する。
【0030】
加熱部11について説明する。分取超臨界流体クロマトグラフなど、大流量(10〜150ml/分程度)の移動相を用いる装置では、前述のようにユーザごとに又は分取条件ごとに配管内径及び液化二酸化炭素流量を含むパラメータが異なることがあるので、それらのパラメータに依存して液化二酸化炭素の気化ポイントが変化する。加熱部11のヒータが特定の位置にのみ設けられている場合は、その位置よりも下流で凍結を起こすこともある。そのような場合には、加熱部llのヒータは凍結箇所で加熱するよりも多くの熱量を移動相に与える必要があるため、過度の移動相温度上昇によるサンプルの分解や変性が問題となる。
【0031】
この実施例では、その問題を解決するため、背圧調整器10からフラクションコレクタ12までの配管20のほぼ全体にわたって加熱部11が設けられている。加熱部11は、図2に示されるように、配管20に複数個のセグメントに分けられたフィルムヒータ22−1〜22−nが巻き付けられたものであり、配管20は加熱機能付き配管となっている。フィルムヒータ22−1〜22−nは配管20に沿って配管20のほぼ全長にわたって巻かれ、互いに配管20の異なる部分に配置されている。フィルムヒータ22−1〜22−nのそれぞれは互いに電気的に独立したものであり、つまり、それぞれを互いに独立して通電できるように電源に接続されている。
【0032】
分取超臨界流体クロマトグラフでは背圧調整器の出口側には内径0.5〜1.0mm程度の配管が接続されることが一般的である。この実施例では、配管20は内径1.0mm、外形(1/16)インチのステンレス管であり、長さは30cm〜2mである。フィルムヒータ22−1〜22−nは例えば市販品のポリイミドヒータである。セグメントに分けられたフィルムヒータ22−1〜22−nは、それぞれが1〜10cmの幅、例えば約5cmの幅をもち、互いに1mm〜1cmの間隔をもって配置されている。
【0033】
分取超臨界流体クロマトグラフの動作中は配管20のどこにも0℃以下となる部分が存在しないように、フィルムヒータ22−1〜22−nのうちの必要なセグメントへ通電を行う。フィルムヒータ22−1〜22−nのうちの通電を行う部分の配管20の温度は0℃以下にならない温度であればよいが、10〜30℃程度になるように通電を制御するのが適当である。フィルムヒータ22−1〜22−nへの通電は温度計測に基づいてフィードバック制御することができる。例えば、フィルムヒータ22−1〜22−nごとに配管20にサーミスタ等の温度センサを設置し、各センサによる検出温度が所定の温度になるようにフィードバック制御を行ってもよく、又は、各フィルムヒータ22−1〜22−nの抵抗値を読み取り、それを計測温度に換算した値に基づいてフィードバック制御を行ってもよい。
【0034】
配管20のうち、凍結が発生する位置は配管20の内径及び移動相違流量を含むパラメータにより変化する。具体的な例を図3に示す。図3は、超臨界流体クロマトグラフにおいて背圧調整器の直後に配管を接続し、その配管にヒータを設けない場合に、液化二酸化炭素のみを移動相とし、その移動相の流量を変化させたときの配管の凍結の様子を示したものである。(A)から(D)の各図において、下側が背圧調整器側であり、上側が配管出ロ側である。配管は内径が0.8mm、長さが2mであり、それを直径40mmの円筒ブロック(材質はアルミニウム)に巻きつけてある。流量が20ml/分(A)では、配管は背圧調整器直後の第1周目の途中まで、つまりほぼ0〜10cmの間が凍結している。凍結位置は、流量が大きくなるにつれ、50ml/分(B)ではほぼ0〜1mの間、l00ml/分(C)ではほぼ0.5〜2mの間、l50ml/分(D)ではほぼl〜2mの間というように凍結箇所が配管出口寄りに移動している。これは、流量が大きくなるほど配管抵抗が大きくなるため、配管出ロからの圧損が二酸化炭素気化の閾値である約5MPaを下回る箇所(気化ポイント)が配管出ロに近くなっていることを意味している。
【0035】
図3の例では、内径が0.8mmの配管を用いているが、気化ポイントは配管内径によって異なり、例えば内径が1.0mmの配管では液化二酸化炭素は図3の結果よりも上流側で気化し、内径が0.5mmの配管では気化ポイントは図3の結果よりも下流側となる。
【0036】
このように、配管の内径と液化二酸化炭素流量などのパラメータが決まれば気化ポイント、すなわち凍結する位置が求まるので、そのようなパラメータと凍結位置の関係を予め実験により求めておけば、本発明の実施形態により複数個のヒータを配管に沿って配置したとき、凍結位置を含む1又は複数のヒータを通電発熱させるように作動させることができる。通電発熱させるヒータは、後述の図6から図8の実施例で述べるように、手動で設定するようにしてもよく、データを入力することにより自動で設定するようにしてもよい。
【0037】
図4に、一実施例の超臨界流体クロマトグラフにおける配管での凍結状態と凍結解消状態を示す。配管は内径が0.8mm、長さが50cmの加熱機能付き配管である。配管にはフィルムヒータを巻き付け、さらに火傷防止のためポリテトラフルオロエチレンで外周を力バーした。この配管を背圧調整器の出口側に取り付け、移動相として液化二酸化炭素を150ml/分の流量で送液して実験を行った。150ml/分という液化二酸化炭素流量は一般的な分取超臨界流体クロマトグラフの最大送液量である。(A)は何れの部分のヒータにも通電を行わなかった場合である。写真は50cmの配管のうちの凍結箇所を示している。次に、その凍結箇所にあるヒータに通電を行って加熱することにより、(B)に示されるように凍結が消えた。このように、配管を部分的に加熱することにより凍結防止可能であることがわかる。
【0038】
図5は、その50cmの加熱機能付き配管の全てのヒータに通電を行って加熱し、配管全体を一様に加熱制御した場合の結果を示す。この時の加熱条件によれば、液化二酸化炭素は配管入り口付近で気化しているために、加熱により配管出口付近の凍結が融け、むしろ熱くなっていたのに対し、配管入口付近では加熱は不十分となって凍結している。全体のヒータへの通電量を大きくすれば配管全体の凍結はなくなるが、配管出口付近の温度がさらに上昇する。
【0039】
この結果からも、加熱制御は配管全体を一様に加熱するのではなく、ヒータは配管長手方向に対して複数のセグメントに分割して独立制御することが望ましいことがわかる。
【0040】
背圧調整器10の出口側に接続された配管20を加熱するために、配管20に設けられ複数のセグメントに分割されたヒータ22−1〜22−nを個別に選択して通電制御する実施例を図6から図8に示す。選択されたヒータ22−1〜22−nに電源装置29から加熱用の電源が供給される。
【0041】
図6の実施例では、通電制御部24Aはヒータ22−1〜22−nごとの通電を設定するスイッチ及び制御回路26−1〜26−nを備えている。ヒータ22−1〜22−nのうち通電を行うヒータはスイッチ及び制御回路26−1〜26−nにより選択する。その選択はスイッチ及び制御回路26−1〜26−nのスイッチを手動で操作することができる。
【0042】
さらに、スイッチ及び制御回路26−1〜26−nは通電を行うヒータ22−1〜22−nの電流値を設定するように構成されている。そのため、一例としてはヒータ22−1〜22−nが設けられている配管部分にサーミスタなどの温度センサ28−1〜28−nが設けられ、スイッチ及び制御回路26−1〜26−nは通電を行うヒータに対応する温度センサからの検出信号に基づいてヒータへの通電をフィードバック制御する。ヒータはフィルムヒータに限定されないが、フィルムヒータである場合にはその抵抗値により温度を検知できるので、ヒータへの通電をフィルムヒータの抵抗値に基づいてフィードバック制御してもよい。
【0043】
図7の実施例は、ヒータ22−1〜22−nのうち通電を行うヒータを入力部から設定するものである。そのため、この実施例では、通電制御部24Bは、ヒータ22−1〜22−nのうちの通電を行うヒータはどれであるかを指定するためのヒータ22−1〜22−nごとの通電に関する情報を入力する入力部30と、入力部30からの入力情報に基づいてヒータ22−1〜22−nごとの通電を設定する制御部32とを備えている。ヒータ22−1〜22−nごとの通電の設定は通電を行うのか行わないのかの設定と、通電を行うヒータについてはその電流値を図6の実施例に関して説明したようにフィードバック制御する。
【0044】
図8の実施例は、配管20の内径及び移動相中の液化二酸化炭素流量を含むパラメータを入力することにより、そのパラメータに応じたヒータへの通電を自動的に設定できるようにしたものである。そのため、この実施例では、通電制御部24Cは、配管内径及び移動相中の液化二酸化炭素流量を含む複数のパラメータに対して配管の凍結箇所を示す位置情報を保持した位置情報保持部34と、超臨界流体分析部を作動させるパラメータを入力する入力部36と、入力部36から入力されたパラメータと位置情報保持部34に保持されている位置情報に基づいてヒータ22−1〜22−nのうち配管20の凍結を防止するためのヒータを選択的に通電させる制御部38とを備えている。
【0045】
位置情報保持部34に保持されている複数のパラメータとは、配管20の内径及び移動相中の液化二酸化炭素流量を含むパラメータを組にして、複数組のパラメータを意味する。位置情報とは、それらの複数組のパラメータに対し、ヒータ22−1〜22−nのうち1又は複数個のどのヒータに通電すれば配管の凍結を効率的に防止できるかを示すものである。入力部36から入力されるパラメータも配管20の内径及び移動相中の液化二酸化炭素流量を含むパラメータの組である。
【0046】
その入力されたパラメータの組に一致するものが位置情報保持部34に保持されていれば、制御部38はそのパラメータの組に対応する位置情報により指定されたヒータを選択的に通電させる。その入力されたパラメータの組に一致するものが位置情報保持部34に保持されていないときは、制御部38は、位置情報保持部34に保持されているパラメータの組のうち、入力されたパラメータの組に最も近いパラメータの組に対応する位置情報により指定されたヒータを選択的に通電させる。
【0047】
制御部32、38はマイクロコンピュータなど専用のコンピュータでもよく、又はこのヒータ22−1〜22−nが設けられる超臨界流体装置の制御又はデータ処理のためのコンピュータにより実現してもよい。
本発明は、超臨界流体抽出装置や分取超臨界流体クロマトグラフに限らず、SFC−MSのように液化二酸化炭素が背圧調整器を通過して気化した後にさらにMS(質量分析計)などの検出器が接続される超臨界流体装置においても、温度により変性しやすいサンプルを変性しない温度で検出器に導くような場合にも有効である。
【符号の説明】
【0048】
3 二酸化炭素ポンプ
4 モディファイヤポンプ
6 オートサンプラ
8 力ラム
9 検出器
10 背圧調整器
11 加熱部
12 フラクションコレクタ
20 配管
22−1〜22−n フィルムヒータ
26−1〜26−n スイッチ及び制御回路
28−1〜28−n 温度センサ
24A、24B、24C 通電制御部
30 入力部
32、38 制御部
34 位置情報保持部
30、36 入力部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8