(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記移動能力評価装置は、前記通信部により取得された前記前後加速度、前記左右加速度および前記上下加速度、ならびに前記制御部における評価結果を記憶するように構成された記憶装置をさらに含み、
前記加速度センサは、
前記信号処理回路により取得された前記センサ部の測定値を前記通信部に向けて送信するように構成された送信部と、
前記信号処理回路により取得された前記センサ部の測定値を保存するように構成された記憶部とを含み、
前記信号処理回路は、前記移動能力評価装置からの信号に応じて、前記記憶装置および前記記憶部のいずれか一方を選択して前記センサ部の測定値を保存する、請求項12に記載の移動能力評価システム。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[本開示が解決しようとする課題]
特許文献1に開示される技術では、被験者の歩行能力として、異なる複数の歩行形態による歩行を行なったときの歩行速度、歩幅、歩調などを検出し、これらの検出値から被験者の転倒リスクを判定する。
【0013】
一方、高齢者等の転倒は、通常、筋力低下、バランス能力低下、関節可動域制限、柔軟性低下、および姿勢変化などの運動機能の低下に密接に関係している。これらの運動機能が低下することによって、歩行時にバランスを保つことが困難になる、あるいは、体重移動を上手く行なうことができなくなるため、移動中の転倒を招きやすくなる。
【0014】
しかしながら、特許文献1の技術においては、歩行速度、歩幅および歩調などから被験者の歩行能力を推定するものの、バランス能力および体重移動能力などについては的確に評価することが困難である。その結果、被験者の転倒リスクを精度良く判定することができないという問題がある。
【0015】
また、特許文献2に開示される技術は、被験者の体軸の加速度を計測するものの、その計測値を用いて人の行動を精度良く識別することで行動に対応したカロリーを正確に計算することを課題としており、上述したような身体機能の低下を評価することについて全く言及されていない。
【0016】
また、特許文献3に開示される技術は、歩行動作または運動動作が行なわれた一定時間に生じた加速度を平均化することで、加速度に関連する統計量を算出するため、算出された統計量からは、当該一定時間における被験者のバランス能力および体重移動能力などを的確に評価することが難しいという問題がある。
【0017】
本発明の一態様の目的は、被験者の移動能力を的確に評価することができる移動能力評価装置、移動能力評価システム、移動能力評価プログラムおよび移動能力評価方法を提供することである。
[本開示の効果]
上記によれば、被験者の移動能力を的確に評価することができる。
【0018】
[本発明の実施形態の説明]
最初に本発明の実施態様を列記して説明する。
【0019】
(1)本発明の一態様に係る移動能力評価装置は、被験者の移動能力を評価する移動能力評価装置であって、通信部と、制御部とを備える。通信部は、被験者の腰部に装着された加速度センサにより測定された、被験者の移動中における前後加速度、左右加速度および上下加速度を取得するように構成される。制御部は、通信部により取得された前後加速度、左右加速度および上下加速度の時間的変化に基づいて、移動能力を評価するように構成される。移動能力は、被験者の移動時における前後バランス、左右バランスおよび体重移動の少なくとも1つを含む。
【0020】
上記によれば、被験者の移動能力を評価するための指標として、移動時における被験者の前後バランス、左右バランスおよび体重移動の少なくとも1つを用いることにより、被験者の移動能力を的確に評価することができる。これにより、被験者の転倒リスクを精度良く判定することが可能となる。
【0021】
(2)上記(1)に記載の移動能力評価装置において好ましくは、制御部は、前後加速度の時間波形に基づいて、前後バランスを示す指標を算出する。
【0022】
上記によれば、前後加速度の時間波形から、被験者の移動中の体重心の前後方向の変化を定量的に評価することができる。よって、被験者の移動時における前後バランスを評価することができる。
【0023】
好ましくは、制御部は、少なくとも1歩行周期における前後加速度の時間波形における、前方加速度および後方加速度の分布状況に基づいて、前後バランスを示す指標を算出する。このようにすると、被験者の移動時における前後バランスを定量的に評価することができる。
【0024】
(3)上記(1)に記載の移動能力評価装置において好ましくは、制御部は、1歩行周期における前後加速度の時間波形において、被験者の一方の足の踵接地時刻および立脚中期時刻を探索する。制御部は、踵接地時刻から立脚中期時刻までの時間における上下加速度の時間波形に基づいて、該一方の足における体重移動を示す指標を算出する。
【0025】
上記によれば、踵接地時刻から立脚中期時刻までの時間における上下加速度の時間波形から、踵の接地後の被験者の体重心の上下方向の変化を定量的に評価することができる。これにより、立脚となる足裏における体重移動を評価することができる。
【0026】
好ましくは、制御部は、踵接地時刻から立脚中期時刻までの時間における上下加速度の時間波形において、踵接地直後の踏込動作時刻、および拇指球接地直後の踏込動作時刻を探索する。制御部は、踵接地直後の踏込動作時刻および拇指球接地直後の踏込動作時刻付近の上下加速度の時間波形に基づいて、体重移動を示す指標を算出する。このようにすると、踵接地直後および拇指球接地直後の踏込動作による被験者の体重心の上下方向の変化を定量的に評価することができる。
【0027】
より好ましくは、制御部は、踵接地時刻から拇指球接地直後の踏込動作時刻までの時間における上方加速度を時間積分した積分値と、拇指球接地直後の踏込動作時刻から立脚中期時刻までの時間における上方加速度を時間積分した積分値との比に基づいて、体重移動を示す指標を算出する。このようにすると、立脚となる足裏における体重移動を定量的に評価することができる。
【0028】
(4)上記(1)に記載の移動能力評価装置において好ましくは、制御部は、1歩行周期における前後加速度の時間波形において、被験者の右踵接地時刻、右立脚中期時刻、左踵接地時刻、および左立脚中期時刻を探索する。制御部は、右踵接地時刻から右立脚中期時刻までの時間における左方加速度の時間波形、および左踵接地時刻から左立脚中期時刻までの右方加速度の時間波形に基づいて、左右バランスを示す指標を算出する。
【0029】
上記によれば、踵接地時刻から立脚中期時刻までの時間における左右加速度の時間波形から、踵の接地後の被験者の体重心の左右方向の変化を定量的に評価することができる。これにより、被験者の移動時における左右バランスを評価することができる。
【0030】
好ましくは、制御部は、右踵接地時刻から右立脚中期時刻までの時間における左方加速度を時間積分した積分値と、左踵接地時刻から左立脚中期時刻までの時間における右方加速度を時間積分した積分値との比に基づいて、左右バランスを示す指標を算出する。このようにすると、右踵接地時刻から右立脚中期時刻までの時間における左方加速度の時間波形から、右踵の接地による被験者の体重心の左方向の変化を定量的に算出することができる。また、左踵接地時刻から左立脚中期時刻までの時間における右方加速度の時間波形から、左踵の接地による被験者の体重心の右方向の変化を定量的に算出することができる。したがって、被験者の移動時における左右バランスを定量的に評価することができる。
【0031】
(5)上記(1)に記載の移動能力評価装置において好ましくは、制御部は、前後加速度の自己相関関数に基づいて、前後バランスを示す指標を算出する。
【0032】
上記によれば、前後加速度の自己相関関数を用いて移動時における前後加速度の時間的変化の周期性を捉えることで、被験者の移動時における前後バランスを評価することができる。これによれば、前後加速度の時間波形から被験者が特定の動作を行なっている時刻を探索して前後バランスを評価する構成に比べて、制御部における演算処理を減らすことができる。これにより、高速演算を実現することができる。言い換えれば、高速演算を実現しながら、安価なコンピュータの使用を可能とするため、装置構成を簡素化することができる。
【0033】
好ましくは、制御部は、前後加速度の自己相関関数の原点と第1番目のピーク位置との間に位置する谷部分と、当該谷部分を2次曲線近似して得られた近似曲線との間の偏差に基づいて、前後バランスを示す指標を算出する。このようにすると、偏差の大きさから、被験者の移動時における前後バランスを定量的に評価することができる。
【0034】
(6)上記(1)に記載の移動能力評価装置において好ましくは、制御部は、上下加速度の自己相関関数に基づいて、体重移動を示す指標を算出する。
【0035】
上記によれば、上下加速度の自己相関関数を用いて移動時における上下加速度の時間的変化の周期性を捉えることで、被験者の移動時における体重移動を評価することができる。これによれば、上下加速度の時間波形から被験者が特定の動作を行なっている時刻を探索して体重移動を評価する構成に比べて、制御部における演算処理を減らすことができる。
【0036】
好ましくは、制御部は、上下加速度の自己相関関数の原点での値と、第1番目のピーク位置での値との比に基づいて、体重移動を示す指標を算出する。このようにすると、上下加速度の自己相関関数から、踵接地直後および拇指球接地直後の踏込動作による体重心の位置の変化を捉えることができるため、被験者の移動時における体重移動を評価することができる。
【0037】
(7)上記(1)に記載の移動能力評価装置において好ましくは、制御部は、前後加速度の自己相関関数および左右加速度の自己相関関数に基づいて、左右バランスを示す指標を算出する。
【0038】
上記によれば、前後加速度の自己相関関数および左右加速度の自己相関関数を用いて、移動時における左右加速度の時間的変化の周期性を捉えることができるため、被験者の移動時における左右バランスを評価することができる。これによれば、前後加速度の時間波形から被験者が特定の動作を行なっている時刻を探索し、探索した動作の時刻で特定される時間における左右バランスの時間波形に基づいて左右バランスを評価する構成に比べて、制御部における演算処理を減らすことができる。
【0039】
好ましくは、制御部は、前後加速度の自己相関関数の第1番目のピーク位置および第2番目のピーク位置を探索する。制御部は、左右加速度の自己相関関数において、第1番目のピーク位置に対応するピーク位置での第1の値と、第2番目のピーク位置に対応するピーク位置での第2の値とを探索する。制御部は、第1の値と第2の値との比に基づいて、左右加速度を示す指標を算出する。このようにすると、前後加速度の自己相関関数に現れる2つのピーク位置にそれぞれ対応する、左右加速度の自己相関関数の2つの値を比較することにより、被験者の移動時における体重移動を評価することができる。
【0040】
(8)上記(1)から(7)に記載の移動能力評価装置において好ましくは、制御部は、移動能力を示す指標に基づいて、被験者に応じた運動アドバイスを判別する。
【0041】
上記によれば、被験者の移動能力を的確に評価することができるため、被験者の移動能力を改善するのに効果的な運動アドバイスを提供することができる。運動アドバイスに従って被験者がリハビリ等を行なうことで、被験者の今後の転倒リスクの軽減に繋がる。
【0042】
(9)上記(8)に記載の移動能力評価装置において好ましくは、制御部による評価結果および運動アドバイスの少なくとも一方を表示するように構成された表示部をさらに備える。
【0043】
上記によれば、ユーザまたは被験者は、被験者の移動能力および運動アドバイスを容易に確認することができる。
【0044】
(10)本発明の一態様に係る移動能力評価システムは、被験者の腰部に装着された加速度センサと、加速度センサが出力する信号に基づいて、被験者の移動能力を評価するように構成された移動能力評価装置とを備える。移動能力評価装置は、通信部および制御部を含む。通信部は、加速度センサにより測定された、被験者の移動中における前後加速度、左右加速度および上下加速度を取得するように構成される。制御部は、通信部により取得された前後加速度、左右加速度および上下加速度の時間的変化に基づいて、移動能力を評価するように構成される。移動能力は、被験者の移動時における前後バランス、体重移動および左右バランスの少なくとも1つを含む。
【0045】
上記によれば、被験者の移動能力を評価するための指標として、移動時における被験者の前後バランス、左右バランスおよび体重移動の少なくとも1つを用いることにより、被験者の移動能力を的確に評価することができる。これにより、被験者の転倒リスクを精度良く判定することが可能となる。
【0046】
(11)上記(10)に記載の移動能力評価システムにおいて好ましくは、加速度センサは、センサ部と、信号処理回路とを含む。センサ部は、被験者の腰部に生じる前後加速度、左右加速度および上下加速度を測定するように構成される。信号処理回路は、被験者が静止した状態であるときのセンサ部の測定値を、前後加速度、左右加速度および前後加速度の零点に補正する。信号処理回路は、さらに、被験者の移動中において、1ms以上200ms以下の周期でセンサ部の測定値を取得するように構成される。
【0047】
上記によれば、被験者が静止した状態であるときにセンサ部に対して零点補正を行なうことで、被験者の移動時に生じる前後加速度、左右加速度および上下加速度を精度良く測定することができる。これにより、センサ部の測定値に基づいて、被験者の移動能力を的確に評価することが可能になる。
【0048】
(12)上記(10)に記載の移動能力評価システムにおいて好ましくは、移動能力評価装置は、通信部により取得された前後加速度、左右加速度および上下加速度、ならびに制御部における評価結果を記憶するように構成された記憶装置をさらに含む。加速度センサは、送信部と、記憶部とを含む。送信部は、信号処理回路により取得されたセンサ部の測定値を通信部に向けて送信するように構成される。記憶部は、信号処理回路により取得されたセンサ部の測定値を保存するように構成される。信号処理回路は、移動能力評価装置からの信号に応じて、記憶装置および記憶部のいずれか一方を選択してセンサ部の測定値を保存するように構成される。
【0049】
上記によれば、センサ部の測定値を移動能力評価装置へ送信し、移動能力評価装置内部の記憶装置に保存することにより、測定値を用いてリアルタイムで移動能力を評価することができる。あるいは、センサ部の測定値を加速度センサ内部の記憶部に蓄積しておくことで、後日、該記憶部に蓄えられた測定値を用いて、移動能力を評価することができる。あるいは、数時間(または数日間)に亘って加速度を測定し、その測定値を該記憶部に蓄えておくことで、測定値を用いて、被験者の移動能力とともに、被験者の運動の習性などを評価することができる。
【0050】
(13)本発明の一態様に係る移動能力評価プログラムは、コンピュータに、被験者の移動能力を評価する処理を実行させるためのプログラムである。移動能力は、被験者の移動時における前後バランス、体重移動および左右バランスの少なくとも1つを含む。移動能力評価プログラムは、被験者の腰部に装着された加速度センサにより測定された、被験者の移動中における前後加速度、左右加速度および上下加速度を取得するステップと、取得された前後加速度、左右加速度および上下加速度の時間的変化に基づいて、移動能力を評価するステップとをコンピュータに実行させる。
【0051】
上記によれば、被験者の移動能力を評価するための指標として、移動時における被験者の前後バランス、左右バランスおよび体重移動の少なくとも1つを用いることにより、被験者の移動能力を的確に評価することができる。これにより、被験者の転倒リスクを精度良く判定することが可能となる。
【0052】
なお、移動能力評価プログラムを記憶する記憶媒体としては、USB(Universak Serial Bus)メモリ、フレキシブルディスク、CD(Compact Disc)、DVD、Blu−ray Disc(登録商標)、MO(Magneto−Optical disc)、SDカード、メモリースティック(登録商標)、その他、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、半導体メモリ、磁気テープ等のコンピュータ読取可能な記憶媒体を使用することができる。また、HDD(Hard Disc Drive)やSSD(Solid State Drive)等、通常、システムまたは装置に固定して使用する記憶媒体を使用することもできる。
【0053】
(14)本発明の一態様に係る移動能力評価方法は、被験者の移動能力を評価する移動能力評価方法であって、被験者の腰部に装着された加速度センサにより測定された、被験者の移動中における前後加速度、左右加速度および上下加速度を取得するステップと、取得された前後加速度、左右加速度および上下加速度の時間的変化に基づいて、移動能力を評価するステップとを備える。移動能力は、被験者の移動時における前後バランス、体重移動および左右バランスの少なくとも1つを含む。
【0054】
上記によれば、被験者の移動能力を的確に評価することができるため、被験者の転倒リスクを精度良く判定することが可能となる。
【0055】
[本発明の実施形態の詳細]
<実施の形態1>
(移動能力評価システム100の構成)
図1は、実施の形態1に係る移動能力評価システム100の構成を概略的に示す図である。実施の形態1に係る移動能力評価システム100は、被験者Mの移動能力を評価するためのシステムである。本願明細書において、被験者Mの「移動能力」とは、移動(歩行または走行)における被験者Mの運動能力であり、少なくともバランス能力(前後バランス、左右バランス)および体重移動能力を含む。また、本願明細書において、「前後バランス」とは、移動に伴う体重心の前後方向のバランスをいう。「左右バランス」とは、移動に伴う体重心の左右方向のバランスをいう。「体重移動」とは、移動に伴う足裏の体重移動をいう。
【0056】
図1に示すように、移動能力評価システム100は、加速度センサ1と、移動能力評価装置2とを備える。加速度センサ1および移動能力評価装置2は、互いに無線通信する。具体的には、加速度センサ1は、移動能力評価装置2と、Bluetooth(登録商標)、無線LAN(Local Area Network)規格等の近距離無線通信の規格に従って接続され、移動能力評価装置2との間でデータを送受信する。
【0057】
加速度センサ1は、携行可能な小型の筐体を有しており、被験者Mの腰部に装着される。好ましくは、加速度センサ1は、被験者Mの体重心がある、正中線上の第3腰椎付近に装着される。例えば、加速度センサ1の筐体にはクリップ(図示せず)が設けられており、被験者Mが着用するベルトの腰背部中央付近に当該クリップを挟むことによって、加速度センサ1が装着される。
【0058】
加速度センサ1は、MEMS(Micro Electro Mechancal Systems)センサ等の3軸加速度センサである。加速度センサ1は、被験者Mの移動中における左右方向、上下方向および前後方向の加速度を測定する。以下の説明では、左右方向の加速度を「左右加速度」と称し、上下方向の加速度を「上下加速度」と称し、前後方向の加速度を「前後加速度」とも称する。また、被験者Mにとって左右方向をX軸、上下方向をY軸、前後方向をZ軸とする。
【0059】
加速度センサ1は、測定した3軸の加速度を測定データとして移動能力評価装置2へ出力する。なお、加速度センサ1は、被験者Mの移動中における3軸の加速度の変化を測定可能な装置であれば、どのような装置であってもよい。移動中における3軸の加速度の変化を正確に測定するため、被験者Mは裸足の状態で移動することが好ましい。
【0060】
移動能力評価装置2は、無線通信機能を有する電子機器であって、専用に構成された装置の他、例えば、パソコン、タブレット端末、スマートフォンなどを適用することができる。移動能力評価装置2は、加速度センサ1が出力する測定データにより、被験者Mの移動中における前後加速度、左右加速度および上下加速度を取得する。移動能力評価装置2は、取得された前後加速度、左右加速度および上下加速度の時間的変化に基づいて、被験者Mの移動能力を評価する。
【0061】
(移動能力評価システムのハードウェア構成)
図2は、実施の形態1に係る移動能力評価システム100のハードウェア構成を概略的に示す図である。
【0062】
図2に示すように、加速度センサ1は、センサ部10と、CPU(Central Processing Unit)12と、記憶部14と、通信部16と、回路基板18と、電源20とを含む。
【0063】
センサ部10は、3軸加速度センサであり、被験者Mの腰部に生じる前後加速度、左右加速度および上下加速度を測定する。センサ部10は、測定した加速度を示す電気信号をCPU12へ出力する。
【0064】
CPU12は、予め記憶されているプログラムを読み込んで、プログラムに含まれる命令を実行することにより、加速度センサ1の動作を制御する。CPU12は、センサ部10から出力された電気信号を処理することにより、センサ部10によって測定された加速度から測定データを生成する。
【0065】
記憶部14は、たとえばRAM(Random Access Memory)等により構成され、加速度センサ1の各種機能を設定するための設定データ、および測定データなどを記憶する。
【0066】
通信部16は、加速度センサ1が移動能力評価装置2と無線通信するため、図示しないアンテナ等を介して信号を送受信するための変復調処理などを行なう。具体的には、通信部16は、チューナ、受信強度算出回路、巡回冗長検査回路、高周波回路などを含む通信モジュールである。通信部16は、加速度センサ1が送受信する無線信号の変復調および周波数変換を行ない、受信信号をCPU12へ与える。
【0067】
回路基板18は、加速度センサ1の筐体内部に収容されており、センサ部10、CPU12、記憶部14および通信部16の各々を構成する回路部品を搭載する。
【0068】
電源20は、リチウムイオン電池等を含む蓄電装置である。ユーザ等により図示しない電源スイッチがオンされると、回路基板18上に搭載される複数の回路部品に対する電力供給を開始する。
【0069】
移動能力評価装置2は、通信部40と、CPU42と、回路基板44と、電源46と、表示部48と、操作受付部50とを含む。
【0070】
通信部40は、移動能力評価装置2が加速度センサ1を含む他の無線機器と通信するため、アンテナ等を介して信号を送受信するための変復調処理などを行なう。通信部40は、チューナ、受信強度算出回路、巡回冗長検査回路、高周波回路などを含む通信モジュールである。通信部40は、移動能力評価装置2が送受信する無線信号の変復調および周波数変換を行ない、受信信号をCPU42へ与える。
【0071】
CPU42は、記憶装置68(
図4参照)に記憶されているプログラムを読み込んで、該プログラムに含まれる命令を実行することにより、移動能力評価装置2の動作を制御する。プログラムは移動能力評価プログラムを含む。CPU42は、移動能力評価プログラムを実行することにより、通信部40から送信される測定データに基づいて、被験者Mの移動能力を評価する。CPU42は、さらに、移動能力の評価結果に基づいて、被験者Mに応じた運動アドバイスを判別する。CPU42の詳細については後述する。
【0072】
操作受付部50は、ユーザの入力操作を受け付ける。操作受付部50は、ユーザの操作に応じて、操作内容を示す信号をCPU42へ出力する。操作受付部50は、表示部48上に設けられたタッチパネルであってもよいし、キーボード等その他の物理操作キーであってもよい。
【0073】
表示部48は、CPU42の制御に応じて、画像、テキスト、音声など五感に作用するデータを表示する。表示部48は、たとえばLCD(Liquid Crystal Display)や有機EL(Electro−Luminescence)ディスプレイによって構成される。CPU42は、移動能力評価プログラムの実行により、通信部40から送信される測定データ、移動能力の評価結果を示すデータ、および、運動アドバイスを示すデータを表示部48に表示させることができる。また、CPU42は、これらのデータを内部の記憶装置68に蓄積することができる。
【0074】
(加速度センサ1の機能的構成)
図3は、実施の形態1に係る加速度センサ1の機能的構成を概略的に示す図である。
図3に示すように、加速度センサ1は、記憶部22および信号処理回路24を含む。記憶部22は、RAM等の記憶装置から構成されており、プログラムおよび測定データ等を記憶する。
【0075】
信号処理回路24は、加速度センサ1の各部を制御する。信号処理回路24は、記憶部22に記憶されているプログラムに従って動作し、後述する移動能力評価を含む種々の動作を実行する。
【0076】
具体的には、信号処理回路24は、ノイズ除去用のフィルタおよびA/D(Analog/Digital)コンバータを含み、センサ部10から出力された電気信号からノイズを除去することにより、
図5に示すような加速度を示す加速度信号を生成する。また、信号処理回路24は、生成した加速度信号を所定周期でサンプリングすることにより、測定データを生成する。
【0077】
信号処理回路24におけるサンプリング周期は、1ms以上200ms以下とすることが好ましい。サンプリング周期が1msより短くなると、信号処理回路24における演算の負荷が増大するとともに、測定データを記憶するために大容量の記憶部22が必要になるためである。また、サンプリング周期が200msより長くなると、移動に伴う被験者の体重心の位置の変化を正確に捉えることが難しくなるためである。より好ましくは、信号処理回路24におけるサンプリング周期は5ms程度である。信号処理回路24は、生成した測定データを通信部16に出力する。サンプリング周期の下限は2ms以上であることが好ましく、5ms以上であることがより好ましい。サンプリング周期の上限は100ms以下であることが好ましく、50ms以下であることがより好ましく、20ms以下であることがさらに好ましい。
【0078】
通信部16は、無線信号受信部26と、無線信号送信部28と、ファイル出力部30とを含む。無線信号受信部26は、移動能力評価装置2から操作指示を受信し、受信した操作指示を信号処理回路24に与える。操作指示には、信号処理回路24により生成された測定データの保存先を指定するための指示が含まれている。
【0079】
無線信号送信部28は、信号処理回路24により生成された測定データを移動能力評価装置2へ送信する。移動能力評価装置2は、無線信号送信部28から送信されてきた測定データを受信すると、測定データを装置内部の記憶装置68(
図4参照)に記憶させる。
【0080】
信号処理回路24は、また、生成した測定データを記憶部14に格納する。信号処理回路24は、移動能力評価装置2からの操作指示に応じて(あるいは、予め定められた設定に基づいて)、加速度センサ1内部の記憶部14および加速度センサ1外部の記憶装置(移動能力評価装置2内部の記憶装置68)のいずれか一方を選択して、測定データを保存するように構成されている。
【0081】
このようにすると、加速度センサ1を用いて移動能力評価を行なう場合、信号処理回路24は、センサ部10による測定データを、無線信号送信部28を介してリアルタイムで移動能力評価装置2へ送信することができる。したがって、移動能力評価装置2は、受信した測定データに基づいて、リアルタイムで被験者Mの移動能力を評価することができる。
【0082】
あるいは、信号処理回路24は、測定データを記憶部14に蓄積しておくことができる。ファイル出力部30は、記憶部14に蓄積されている測定データを外部の記憶媒体3に送信することができる。外部の記憶媒体3は、例えば、USBメモリおよびメモリースティック(登録商標)などを用いることができる。
【0083】
これによると、加速度センサ1と移動能力評価装置2とが無線通信することが難しい状況であっても、加速度センサ1が測定データを記憶部14に蓄えておくことで、後日、記憶部14に蓄えられた測定データを、記憶媒体3を経由して読み出すことにより、移動能力を評価することができる。または、数時間(または数日間)に亘って被験者Mの腰部に生じる加速度を測定し、その測定データを記憶部14に蓄えておくことで、記憶媒体3から読み出した測定データに基づいて、被験者Mの移動能力に加えて、被験者Mの運動の習性などを評価することができる。なお、加速度センサ1は、記憶媒体3を経由することに代えて、USB等の有線のデータ伝送手段を経由して測定データを読み出せるように構成されていてもよい。
【0084】
(移動能力評価装置2の機能的構成)
図4は、実施の形態1に係る移動能力評価装置2の機能的構成を概略的に示す図である。
【0085】
図4に示すように、移動能力評価装置2において、通信部40は、無線信号受信部60および無線信号送信部62を含む。無線信号受信部60は、加速度センサ1から測定データを受信すると、受信した測定データをCPU42に送信する。
【0086】
CPU42は、制御部64および記憶装置68を含む。記憶装置68は、例えば、ROM(Read Only Memory)およびRAMを含む。ROMは、移動能力評価装置2を制御するためのプログラムを記憶する。該プログラムは、移動能力評価プログラムを含む。RAMは、移動能力評価装置2の各種機能を設定するためのデータ、測定データ、移動能力の評価結果を示すデータ、および、運動アドバイスを示すデータなどを記憶する。
【0087】
制御部64は、プロセッサから構成される。制御部64は、記憶装置68に記憶されるプログラムに従って動作することにより、移動能力評価装置2の動作を制御する。制御部64は、移動能力評価プログラムに従って動作することにより、評価部70および判別部72としての機能を発揮する。
【0088】
評価部70は、無線信号受信部60により取得された測定データに基づいて、被験者Mの移動能力を評価する。または、評価部70は、記憶媒体3から読み出した測定データに基づいて、被験者Mの移動能力を評価する。上述したように、移動能力は、少なくとも前後バランス、左右バランスおよび体重移動を含む。本実施の形態では、これら3つの項目に対して筋力、歩行速度およびリズムを加えた、合計6項目を評価する。なお、これらの項目は必須ではなく、これらの項目以外の項目を含んでもよい。
【0089】
評価部70は、測定データに基づいて、被験者Mの移動能力を示す指標を算出する。評価部70は、算出した指標を、例えば理想値を10点(満点)としてスコア化する。このようにして、各指標をスコア化することによって被験者Mの移動能力を定量的に評価する。これにより、ユーザは、上記6項目のうちのどの項目が劣っているのかを定量的に把握することができる。
【0090】
判別部72は、評価部70からの評価結果を取得するとともに、操作受付部50から、ユーザによって入力された外部データを受け付ける。外部データには、被験者Mを識別する情報である被験者識別情報、およびデータ閾値リストが含まれる。被験者識別情報は、被験者Mの氏名、性別、年齢、身長、体重などの情報を含む。データ閾値リストは、運動アドバイスを判別する際に用いられる閾値のデータである。判別部72は、データ閾値リストを参照することにより、被験者Mの移動能力の評価結果に基づいて、被験者Mに応じた運動アドバイスを判別する。
【0091】
制御部64は、測定データ、評価部70による評価結果、および判別部72による運動アドバイスを示すデータを表示部48に表示させる。また制御部64は、これらのデータを記憶装置68に記憶する。
【0092】
(移動能力評価システム100の動作)
次に、実施の形態1に係る移動能力評価システム100の動作について詳しく説明する。
【0093】
図5は、人間の歩行周期と、歩行中の前後加速度、上下加速度および左右加速度との関係を示している。
図5に示すように、人間の歩行周期は、一方の足(
図6では右脚)の踵が接地してから次にこの足(右脚)の踵が接地するまでの時間をいう。地面に接して体重を支持している足を「立脚」といい、地面から離れて前に振り出される足を「遊脚」という。歩行周期は、地面に足が着いた状態である「立脚相」と、地面から足が離れた状態である「遊脚相」とから構成される。
【0094】
立脚相は、まず遊脚となった足の踵が地面に接する状態(踵接地)で開始し、拇指球も地面に接することで足裏全体が地面に接する状態(拇指球接地)、立脚のみで体重を支持し、身体が直立した状態(立脚中期)、足裏が地面に接した状態から踵が地面から離れる状態(踵離地)を経て、拇指球が地面から離れることにより、足が地面から離れる状態(拇指球離地)で終了する。すなわち、左右の各足において、踵接地から拇指球離地までの時間が立脚相となり、拇指球離地から踵接地までの時間が遊脚相となる。
【0095】
人間の歩行中、人間の体重心は前後方向、左右方向および上下方向に移動する。
図5には、人間が平地を歩行しているときの1歩行周期における前後加速度、上下加速度および左右加速度の時間波形の一例が示される。
図5に示されるように、歩行時には左右の足が交互に立脚となることで、前後方向、左右方向および上下方向の各加速度の時間波形には周期性が現われる。なお、
図5以降に示す加速度の時間波形では、前方向、上方向および右方向の各々を正方向としているが、後方向、下方向および左方向の各々を正方向としてもよい。
【0096】
本実施の形態では、左右の各足について、立脚相のうちの主に踵接地から立脚中期までの時間における加速度の時間波形に基づいて、被験者Mの移動能力を示す指標を算出する。これは、高齢や運動障害等により運動機能が低下すると、踵接地から立脚中期までの時間において、前後方向、左右方向および上下方向の少なくとも一方向において体重心の移動に偏りが生じることに着目したものである。
【0097】
移動能力評価システム100によって移動能力を評価する場合、最初に、被験者Mの腰部に加速度センサ1を装着した状態で加速度センサ1および移動能力評価装置2の各々の電源スイッチをオンすることにより、加速度センサ1および移動能力評価装置2を起動する。
【0098】
移動能力評価装置2は、操作受付部50によって評価開始の指示を示す入力操作を受け付けると、通信部40を介して、加速度センサ1へ測定開始を指示する。加速度センサ1は、被験者Mが静止した状態であるときのセンサ部10の測定値を、前後加速度、左右加速度および上下加速度の零点に補正する。これにより、被験者の移動時に生じる前後加速度、左右加速度および上下加速度を精度良く測定することができる。
【0099】
被験者Mは、裸足の状態で、前方へ真っ直ぐ、所定の距離を移動する。本実施の形態では、被験者Mは、時速0.5km以上5km以下の速度で移動する場合を想定する。加速度センサ1は、被験者Mが移動を開始したと判断すると、被験者Mの移動中における前後加速度、左右加速度および上下加速度を測定し、測定データを通信部16を介して移動能力評価装置2へ出力する。移動能力評価装置2は、加速度センサ1が出力する信号により測定データを取得する。
【0100】
図6は、実施の形態1に係る移動能力評価システム100により実行される移動能力評価を説明するためのフローチャートである。移動能力評価装置2は、移動能力評価プログラムを実行することにより、加速度センサ1と無線通信して
図6に示す処理を実行する。
図6に示すフローチャートの処理は、たとえば一定の周期で実行される。
【0101】
図2〜
図4および
図6を参照して、加速度センサ1においては、ステップS01により、被験者Mの腰部に装着された状態で電源20が投入されて加速度センサ1が起動すると、ステップS02において、信号処理回路24は、センサ部10の出力信号に基づいて、被験者Mが静止状態であるか否かを判定する。具体的には、前後加速度、左右加速度および上下加速度の各々に有意な変化が見られない場合(例えば、各加速度の変動幅が閾値未満である場合)、信号処理回路24は、被験者Mが静止状態であると判定する。
【0102】
被験者Mが静止状態であると判定されると(S02のYES判定時)、信号処理回路24は、ステップS03に進み、被験者Mが静止状態であるときのセンサ部10の測定値を、左右加速度、上下加速度および前後加速度の零点に補正する。一方、被験者Mが静止状態でない場合(S02のNO判定時)、すなわち被験者Mが移動している場合、処理は終了する。
【0103】
ステップS04において、信号処理回路24は、センサ部10の出力信号に基づいて、被験者Mが移動を開始したか否かを判定する。前後加速度、左右加速度および上下加速度の少なくとも1つに変化が見られる場合(例えば、少なくとも1つの加速度の変動幅が閾値より大きい場合)、信号処理回路24は、被験者Mが移動を開始したと判定する。
【0104】
被験者Mが移動を開始すると(S04のYES判定時)、ステップS05において、信号処理回路24は、被験者Mの腰部に生じる上下加速度、左右加速度および前後加速度を測定する。信号処理回路24は、センサ部10が出力する加速度信号を測定データに変換する。一方、被験者Mが移動を開始していない場合(S04のNO判定時)、処理は終了する。
【0105】
信号処理回路24は、ステップS06において、測定データの保存先として、移動能力評価装置2の記憶装置68および加速度センサ1の記憶部14のいずれが指定されているかを判定する。測定データの保存先が記憶装置68である場合、信号処理回路24は、ステップS07に進み、通信部16(無線信号送信部28)を介して、測定データを移動能力評価装置2へ送信する。
【0106】
一方、測定データの保存先が記憶部14である場合、信号処理回路24は、ステップS08に進み、測定データを記憶部14に記憶する。
【0107】
移動能力評価装置2においては、ステップS11において電源46が投入されて起動すると、ステップS12において、制御部64は、移動能力評価装置2に登録された被験者に対して既に発行したID数が、同一のアカウントに対して設定された最大許容数Nを超えているか否かを判定する。発行ID数が最大許容数Nを超えている場合(S12のYES判定時)、制御部64は、ステップS13に進み、最大許容数を変更(増加)するための更新処理を促す警告を発生する。警告は、例えば、表示部48に更新処理を促すメッセージを表示する、あるいは、上記メッセージを音声で読上げることによって行なわれる。
【0108】
ステップS14においては、制御部64は、現時点が、ID数の最大許容数の更新期間内であるか否かを判定する。現時点が更新期間内であると判定されると(S14のYES判定時)、制御部64は、被験者Mの移動能力評価処理の実行を許可する。現時点が更新期間内でないと判定されると(S14のNO判定時)、処理は終了する。
【0109】
ステップS15においては、制御部64は、操作受付部50によって測定開始の指示を示す入力操作を受け付けたか否かを判定する。測定開始の指示を示す入力操作を受け付けると(S15のYES判定時)、ステップS16において、通信部40は、加速度センサ1の測定データを受信する。受信された測定データは制御部64に送られる。
【0110】
ステップS17において、通信部40は、さらに、外部データを受信する。外部データには、被験者Mを識別する情報である被験者識別情報、およびデータ閾値リストが含まれる。被験者識別情報は、被験者Mの氏名、性別、年齢、身長、体重などの情報を含む。データ閾値リストは、後述するように、移動能力の評価結果に応じて被験者Mに応じた運動アドバイスを判別するときに用いられる。
【0111】
ステップS18において、制御部64は、加速度センサ1から送信される測定データに基づいて、被験者Mの移動能力を評価する。具体的には、制御部64は、被験者Mの移動中に測定された加速度の時間波形に基づいて、被験者Mの移動能力を示す指標を算出する。
【0112】
ステップS19において、制御部64は、移動能力の評価結果を表示部48に表示する。表示部48における評価結果の表示例は、後に詳細に説明する。
【0113】
ステップS20において、制御部64は、データ閾値リストを参照することにより、評価結果に基づいて、被験者Mに応じた運動アドバイスを判別する。データ閾値リストには、指標ごとに、年齢別、性別などで分類された複数の閾値が登録されている。制御部64は、データ閾値リストを参照して、被験者識別情報を基に、被験者Mにとって適当な閾値を設定する。
【0114】
続いて、制御部64は、ステップS18にて算出した指標のスコアと、設定した閾値とを比較することにより、被験者Mの移動能力が低下しているか否かを判定する。例えば、前後バランスを示す指標が閾値よりも低い場合、制御部64は、前後バランス能力が低下していると判定する。制御部64はさらに、指標と閾値との差に基づいて前後バランス能力の低下の程度を判定する。
【0115】
そして、制御部64は、前後バランス能力の低下の程度に応じて、被験者Mの前後バランス能力を改善するための運動アドバイスを判別する。
【0116】
ステップS21において、制御部64は、判別した運動アドバイスを表示部48に表示する。表示部48における運動アドバイスの表示例は、後に詳細に説明する。
【0117】
なお、ステップS18における評価結果、およびステップS20における運動アドバイスは、表示部48を通じてユーザに報知されるとともに、被験者Mの測定データと関連付けて、移動能力評価装置2の記憶装置68に記憶される。
【0118】
(移動能力評価)
次に、測定データに基づいて被験者Mの移動能力を評価する処理について詳細に説明する。
【0119】
図7は、
図6のステップS18に示す移動能力の評価の処理手順を説明するためのフローチャートである。
図7に示すように、制御部64は、ステップS31において、測定データから移動能力を示す指標を算出するための事前処理を実行する。次に、制御部64は、測定データである3軸の加速度の時間波形(
図6参照)において、特定の動作が行なわれた時刻を探索する。制御部64は、立脚中期時刻の探索(S32)、踵接地時刻の探索(S33)、踵接地直後の踏込動作時刻の探索(S34)、および拇指球接地直後の踏込動作時刻の探索(S35)を実行する。続いて、ステップS36において、制御部64は、探索した時刻によって特定される時間における加速度の時間波形に基づいて、被験者Mの移動能力を示す指標を算出する。
【0120】
以降、
図7に示されるS31〜S36の各々について詳細な動作を説明する。
(S31:事前処理)
ステップS31においては、制御部64は、前後加速度、左右加速度および上下加速度の時間波形に対してスムージング処理を施す。これにより、加速度の時間波形に含まれる高周波成分を減衰させる。さらに、制御部64は、スムージング処理が施された加速度の時間波形を1次微分することにより、加速度の1次微分波形を生成する。
【0121】
(S32:立脚中期時刻の探索)
次に、制御部64は、事前処理が施された加速度の時間波形から、左右の各足について、立脚中期が行なわれる時刻(立脚中期時刻)Msを探索する。探索にあたっては、最初に、立脚中期時刻Msを探索するための探索範囲を設定する。探索範囲の設定には前後加速度の時間波形および1次微分波形を用いる。
【0122】
図8(A)は、被験者Mの移動時に測定された前後加速度の時間波形の一例を示している。
図8(B)は、
図8(A)に示す前後加速度の1次微分波形を示している。
図8Bを参照して、前後加速度の1次微分波形には複数の深い溝(以下、トラフと称する)Trが現われている。複数のトラフTrの各々は、前後加速度が前方向から後方向に転じる変曲点に対応している。
【0123】
ステップS32においては、まず、前後加速度の1次微分波形において、トラフTrを見つけると、次に、このトラフTrの位置に最も近い左隣りのピークPfを見つける。すなわち、トラフTrの直前のピークPfを見つける。そして、任意の1つのトラフTrの位置から、このトラフTrの次のトラフTrの直前のピークPfの位置までの時間範囲を、立脚中期時刻Msの探索範囲に設定する。
【0124】
次に、設定された探索範囲内で立脚中期時刻Msを探索する。具体的には、
図8Aを参照して、探索範囲内で前後加速度の絶対値が最小となる時刻を探索する。
図8Aの例では、前後加速度の絶対値が最小となる時刻は、前後加速度が零となる時刻(ゼロクロス時刻)に相当する。
【0125】
(S33:踵接地時刻の探索)
ステップS33においては、制御部64は、加速度の時間波形から、左右の各足について、踵接地が行なわれる時刻(踵接地時刻)HCを探索する。探索にあたっては、踵接地時刻HCを探索するための探索範囲を設定する。探索範囲の設定には前後加速度の時間波形および1次微分波形を用いる。
【0126】
図8(B)を参照して、前後加速度の1次微分波形において、トラフTrと、このトラフTrの位置に最も近い左隣りのピークPf(すなわち、このトラフTrの直前のピーク)とを見つける。そして、任意の1つのトラフTrの位置から、このトラフTrの直前のピークPfの位置までの時間範囲を、踵接地時刻の探索範囲に設定する。
【0127】
次に、制御部64は、設定された探索範囲内で踵接地時刻HCを探索する。歩行中、踵の接地によって体重心が後方向に減速するため、前後加速度は前方向から後方向への変曲点を示す。そこで、
図8(A)に示す前後加速度の時間波形において、探索範囲内で前方向から後方向への変曲点となる時刻、すなわち前後加速度が最大となる時刻を探索する。
【0128】
(S34:踵接地直後の踏込動作時刻の探索)
ステップS34においては、制御部64は、加速度の時間波形から、左右の各足について、踵の接地直後に踏込動作が行なわれる時刻(踵接地直後の踏込動作時刻)T1を探索する。探索にあたっては、踵接地直後の踏込動作時刻T1を探索するための探索範囲を設定する。探索範囲の設定には上下加速度の時間波形、および前後加速度の1次微分波形を用いる。
【0129】
図9(A)は、被験者Mの移動時に測定された上下加速度の時間波形の一例を示している。
図9(B)は、被験者Mの移動時に測定された前後加速度の時間波形の一例を示している。
図9(C)は、
図9(B)に示す前後加速度の1次微分波形を示している。ステップS34では、前後加速度の1次微分波形において、トラフTrの位置に最も近い右隣りのピークPbを見つける。すなわち、トラフTrの直後のピークPbを見つける。なお、ピークPbは、踵接地によって後方向に減速する体重心を受け止める(すなわち、体重心を前方向に引き戻す)ことに対応している。任意の1つのトラフTrの位置から、このトラフTrの直後のピークPbの位置までの時間範囲を、踵接地直後の踏込動作時刻T1の探索範囲に設定する。
【0130】
次に、制御部64は、設定された探索範囲内で踵接地直後の踏込動作時刻T1を探索する。歩行時の体重心は、踵の接地直後に踏み込むことによって上昇するため、上下加速度は踵接地時刻HC直後に上方向から下方向への変曲点を示す。そこで、
図9(A)に示す上下加速度の時間波形において、探索期間内で上方向から下方向への変曲点となる時刻、すなわち、上下加速度が最大となる時刻を探索する。
【0131】
(S35:拇指球接地直後の踏込動作時刻の探索)
ステップS35においては、制御部64は、加速度の時間波形から、左右の各足について、拇指球の接地直後に踏込動作が行なわれる時刻(拇指球接地直後の踏込動作時刻)T2を探索する。探索にあたっては、拇指球接地直後の踏込動作時刻T2を探索するための探索範囲を設定する。探索範囲の設定には上下加速度の時間波形および上下加速度の1次微分波形を用いる。
【0132】
図10(A)は、被験者Mの移動時に測定された上下加速度の時間波形の一例を示している。
図10(B)は、
図10(A)に示す上下加速度の1次微分波形を示している。
図10(C)は、被験者Mの移動時に測定された前後加速度の時間波形の一例を示している。ステップS35では、上下加速度の1次微分波形において、踵接地直後の踏込動作時刻T1から立脚中期時刻Msまでの時間範囲において、ピークPを見つける。なお、ピークPは、歩行時の体重心が、拇指球で踏み出すことで上昇することに対応している。踵接地直後の踏込時刻T1からピークPの位置までの時間範囲を、拇指球接地直後の踏込動作時刻T2の探索範囲に設定する。
【0133】
次に、制御部64は、設定された探索範囲内で拇指球接地直後の踏込動作時刻T2を探索する。歩行時の体重心は、踵で地面を踏み込むことによって上昇した後、拇指球の接地によって下降し、拇指球で地面を踏み込むことによって再び上昇する。そのため、上下加速度は踵接地直後の踏込動作時刻T1直後に下方向から上方向への変曲点を示す。そこで、
図10(A)に示す上下加速度の時間波形において、探索期間内で下方向から上方向への変曲点となる時刻、すなわち、上下加速度が最小となる時刻を探索する。
【0134】
(S36:指標の算出)
ステップS36においては、制御部64は、探索した踵接地時刻HCから立脚中期時刻Msまでの時間における加速度の時間波形に基づいて、被験者Mの移動能力を示す指標を算出する。
【0135】
以下、前後バランス、体重移動および左右バランスの各々を示す指標を算出する方法について説明する。
【0136】
(1)前後バランス
図11は、被験者Mの移動時に測定された前後加速度の時間波形の一例を示している。制御部64は、少なくとも1歩行周期における前後加速度の時間波形における、前方加速度および後方加速度の分布状況に基づいて、前後バランスを示す指標を算出する。
【0137】
図11には、前後加速度の時間波形に基づいて生成された、複数の歩行周期における前後加速度のヒストグラムが示される。このヒストグラムにおいて、横軸(図中垂直方向に延びる軸)は前後加速度を示し、縦軸(図面水平方向に延びる軸)は度数を示す。
【0138】
被験者Mが正しい姿勢で移動している場合、ヒストグラムは前方加速度と後方加速度とで分布がほぼ同等となる。なお、分布が同等とは、前方加速度の分布と後方加速度の分布とが線対称の関係にあることをいう。
【0139】
これに対して、被験者Mの姿勢が前傾している場合、体重心が前方に寄っているため、ヒストグラムでは、前方加速度の度数が後方加速度の度数よりも大きくなる傾向にある。一方、被験者Mの姿勢が後傾している場合、体重心が後方に寄っているため、ヒストグラムでは、後方加速度の度数が前方加速度の度数よりも大きくなる傾向にある。
【0140】
制御部64は、ヒストグラムについて、前方加速度の度数を足し合わせた合計値ΣAFと、後方加速度の度数を足し合わせた合計値ΣABとを算出する。
【0141】
被験者Mが正しい姿勢で移動している場合、合計値ΣAFと合計値ΣABとは等しくなるため、比ΣAF/ΣABが1に近くなる。なお、本明細書中において、2つの値が等しいとは、2つの値が一致する場合と、2つの値が完全に同一ではないがその差が十分に小さい場合との両方を包含する概念として定義される。
【0142】
これに対して、姿勢が前傾している場合は、合計値ΣAFが大きくなるため、比ΣAF/ΣABが1より大きい値となる。一方、姿勢が後傾している場合は、合計値ΣABが大きくなるため、比ΣAF/ΣABが1より小さい値となる。制御部64は、ΣAF/ΣAB=1を理想値(10点)として、算出した比ΣAF/ΣABをスコア化する。
【0143】
(2)体重移動
図12(A)〜(C)は、被験者Mの移動時に測定された上下加速度、前後加速度および左右加速度の時間波形の一例を示している。制御部64は、一方の足について、踵接地時刻HCから立脚中期時刻Msまでの時間における上下加速度の時間波形に基づいて、該一方の足裏の体重移動を示す指標を算出する。
【0144】
図12(A)に示すように、踵接地時刻HCから立脚中期時刻Msまでの時間において、上下加速度の時間波形には2つのピークが現れる。1つ目のピークは、踵接地直後の踏込動作時刻T1に現れる。2つ目のピークは、拇指球接地直後の踏込動作時刻T2の直後に現れる。これは、踵の接地後に踵で地面を踏み込むことによって体重心が上昇し、続いて、拇指球の接地により体重心が下降し、拇指球で地面を踏み込むことによって体重心が再び上昇するためである。
【0145】
しかしながら、筋力などの運動機能が低下すると、拇指球で地面を踏み込む動作が難しくなる場合がある。その結果、上下加速度の時間波形においては、2つ目のピークの高さが低くなる、もしくは、2つ目のピークが全く現れなくなる。
【0146】
制御部64は、踵接地時刻HCから拇指球接地直後の踏込動作時刻T2までの時間における上方加速度を時間積分した積分値S1を算出する。制御部64は、さらに、拇指球接地直後の踏込動作時刻T2から立脚中期時刻Msまでの時間における上方加速度を時間積分した積分値S2を算出する。そして、制御部64は、積分値S1と積分値S2との比(S2/S1)に基づいて、体重移動を示す指標を算出する。
【0147】
運動機能が正常であるときには、積分値S1と積分値S2とが等しいため、比S2/S1は1に近い値となる。しかしながら、運動機能が低下すると、上述したように2つ目のピークが低くなる、もしくは無くなるため、積分値S2の値が小さくなる。その結果、比S2/S1は、正常時の値よりも小さい値となる。制御部64は、比S2/S1=1を理想値(10点)として、算出した比S2/S1をスコア化する。
【0148】
(3)左右バランス
図12(C)に示すように、左右加速度の時間波形には、踵接地時刻HCの直後に、ピークが現れる。これは、歩行時の体重心は、右踵の接地によって左方向に移動し、左踵の接地によって右方向に移動するためである。すなわち、右踵が接地した時刻HC(以下、右踵接地時刻という)直後には左方向にピークが現れ、左踵が接地した時刻HC(以下、左踵接地時刻という)直後には右方向にピークが現れる。
【0149】
正しい姿勢で移動している場合、左方向のピークと右方向のピークとは等しい高さとなる。一方、身体機能が低下することで姿勢が崩れると、体重心が左右方向のいずれかに偏ってしまうため、左右方向の一方のピークが他方のピークに比べて低くなる。すなわち、ピークが左右で不均等になる。
【0150】
制御部64は、右踵接地時刻HCから右立脚中期時刻Msまでの時間における左方加速度の時間波形、および左踵接地時刻HCから左立脚中期時刻Msまでの右方加速度の時間波形に基づいて、左右バランスを示す指標を算出する。具体的には、制御部64は、右踵接地時刻HCから右立脚中期時刻Msまでの時間における左方加速度を時間積分した積分値Srを算出する。制御部64は、また、左踵接地時刻HCから左立脚中期時刻Msまでの時間における右方加速度を時間積分した積分値Slを算出する。そして、制御部64は、積分値Srと積分値Slとの比(Sr/Sl)に基づいて、左右バランスを示す指標を算出する。
【0151】
正しい姿勢で移動している場合、積分値Srと積分値Slとは等しいため、比Sr/Slは1に近い値を示す。一方、体重心が左寄りに傾いていると、右踵の接地時に体重心が左方向に移動し、積分値Srが大きくなるため、比Sr/Slは1より大きい値となる。また、体重心が右寄りに傾いていると、左踵の接地時に体重心が右方向に移動し、積分値Slが大きくなるため、比Sr/Slは1より小さい値となる。制御部64は、比Sr/Sl=1を理想値(10点)として、算出した比Sr/Slをスコア化する。
【0152】
(表示部48の表示例)
次に、移動能力評価装置2における表示部48の表示例を説明する。
【0153】
図13は、制御部64が被験者Mの移動能力を評価した結果を表示部48に表示する画面の例を示す図である。
【0154】
図13に示すように、表示部48の画面には、移動能力評価装置2にログインしている被験者Mの識別情報が表示される。例えば、被験者Mの氏名「XXX」が表示される。
【0155】
表示部48には、さらに、被験者Mの移動能力の評価結果が表示される。
図13の例では、被験者Mの移動能力の評価結果がレーダーチャート形式のグラフで表示されている。グラフには、移動能力の項目として、筋力、左右、前後、足裏、リズム、速度の6項目が表示されている。なお、「左右」は左右バランスを示し、「前後」は前後バランスを示し、「足裏」は体重移動を示す。「筋力」は少なくとも下肢筋力を含む動作の大きさや状態を示し、「リズム」は歩調を示し、「速度」は歩行速度を示す。
【0156】
グラフには、項目ごとに、理想値を10点としたときのスコアが表示されている。このようにすると、ユーザまたは被験者Mは、表示部48の画面を見ることで、どの項目がどの程度劣っているのかを定量的に知ることができる。
【0157】
なお、表示部48に表示されるグラフの形式は、項目ごとのスコアが直感的に分かるようなものであることが好ましい。例えば、項目ごとのスコアを表す棒グラフなどであってもよい。
【0158】
さらに、図示は省略するが、
図13のグラフに対して、過去の評価結果を示すグラフを併せて表示してもよい。このようすると、過去の評価からどの項目がどの程度低下したか、どの項目がどの程度改善したかを定量的に知ることができる。あるいは、
図13のグラフに対して、被験者Mの年代での目標値または平均値を併せて表示してもよい。その他、外部データ(年齢、性別など)の少なくとも一部について共通の特徴を持つ母集団の目標値または平均値を併せて表示してもよい。このようにすると、目標値または平均値に対して、どの項目がどの程度劣っているのかを定量的に知ることができる。このような表示がなされることで、被験者Mの移動能力向上への意欲を喚起させることに繋がる。
【0159】
図14は、制御部64が評価結果に基づいて判別した運動アドバイスを表示部48に表示する画面の例を示す図である。
【0160】
図14に示すように、表示部48の画面には、移動能力評価装置2にログインしている被験者Mの識別情報(例えば、被験者Mの氏名)とともに、被験者Mに応じた運動アドバイスが表示される。
【0161】
表示部48には、評価された移動能力に応じた運動アドバイスが表示されている。
図14の例は、
図13に示す評価結果に基づいて判別された運動アドバイスを示している。
図14では、運動アドバイスとして、項目ごとに、普段の歩行での注意事項が文章で表示されている。該注意事項を絵を用いて説明するようにしてもよい。これにより、正しい姿勢および正しい体重移動で移動できるように被験者Mに注意を促すことができる。
【0162】
実施の形態1によれば、被験者の移動能力を評価するための指標として、移動時における被験者の前後バランス、左右バランスおよび体重移動の少なくとも1つを用いることにより、被験者の移動能力を的確に評価することができる。これにより、被験者の転倒リスクを精度良く判定することが可能となる。
【0163】
<実施の形態2>
実施の形態1では、加速度センサ1によって測定された加速度の時間波形において、立脚中期、踵接地および拇指球接地などの特定の動作を行なっている時刻を探索し、その探索した時刻によって特定される時間における加速度の時間波形に基づいて、被験者Mの移動能力を示す指標を算出する構成について説明した。しかしながら、特定の動作の時刻の探索を行なわずに指標を算出することも可能である。
【0164】
実施の形態2では、その一例として、加速度の自己相関関数に基づいて、被験者Mの移動能力を示す指標を算出する構成について説明する。なお、実施の形態2に係る移動能力評価システムの構成は、
図1〜
図4に示す実施の形態1に係る移動能力評価システム100の構成と同一であるので、説明を省略する。以下、実施の形態2に係る移動能力評価装置2の動作について説明する。
【0165】
(移動能力評価システム100の動作)
実施の形態2に係る移動能力評価システム100は、基本的に
図6に示した移動能力評価処理を実行する。実施の形態2に従う移動能力評価処理は、実施の形態1に従う移動能力評価処理と比較して、ステップS18に示す移動能力の評価の処理手順が異なる。
【0166】
図15は、
図6のステップS18に示す移動能力の評価の処理手順を説明するためのフローチャートである。
【0167】
図15を参照して、ステップS41において、移動能力評価装置2の制御部64は、左右加速度、上下加速度および前後加速度の各々について、自己相関関数を算出する。以下の説明では、左右加速度の自己相関関数をACF_Xと表記し、上下加速度の自己相関関数をACF_Yと表記し、前後加速度の自己相関関数をACF_Zと表記する。
【0168】
ステップS42において、制御部64は、自己相関関数ACF_X,ACF_Y,ACF_Zの各々について、特徴となるピーク位置を探索する。
【0169】
ステップS43において、制御部64は、探索したピーク位置を用いて、被験者Mの移動能力を示す指標を算出する。
【0170】
以下、加速度の自己相関関数に基づいて、前後バランス、体重移動および左右バランスの各々を示す指標を算出する方法について説明する。
【0171】
(1)前後バランス
図16(A)は、被験者Mの移動時に測定された前後加速度の時間波形の一例を示している。
図16(B)は、
図16(A)に示す前後加速度の自己相関関数ACF_Z(τ)を示している。τは遅れ時間を表す変数である。
【0172】
図16(B)に示すように、自己相関関数ACF_Zには、原点(τ=0)を起点として周期的にピークが現われる。隣り合う2つのピークの間隔は、前後加速度の時間的変化の周期性を反映している。
【0173】
図5で説明した歩行周期において、立脚中期の前後は、人間は立脚となる足のみで前方に進んでいる。そのため、立脚中期の前後における前後加速度の時間波形には、片足で体重心を支持している状態でのバランスの不安定さが反映される。
【0174】
詳細には、片足状態でスムーズに体重移動ができていれば、立脚中期の前後における前後加速度の時間波形が滑らかになる。この場合、自己相関関数ACF_Zにおいて、原点(τ=0)と第1番目のピーク位置との間に位置する谷部分は、2次曲線(図中の破線k1)で近似することができる。
【0175】
一方、片足状態で体重心がふらつき、スムーズに体重移動ができない場合には、立脚中期の前後における前後加速度の時間波形が乱れてしまう。この場合、自己相関関数ACF_Zにおいて、原点と第1番目のピーク位置との間に位置する谷部分は、その底が平坦に近づく。その結果、谷部分と2次曲線k1との間にずれが生じる。
【0176】
このような事象に基づき、制御部64は、前後加速度の自己相関関数ACF_Zに基づいて、前後バランスを示す指標を算出する。具体的には、制御部64は、自己相関関数ACF_Zの原点と第1番目のピーク位置との間に位置する谷部分と、当該谷部分を2次曲線近似して得られた近似曲線k1との間の偏差に基づいて、前後バランスを示す指標を算出する。例えば、制御部64は、谷部分での極小値および近似曲線k1の極小値を抽出し、2つの極小値の差が所定値となるときを理想値(10点)として、該差をスコア化する。
【0177】
(2)体重移動
図17(A)は、被験者Mの移動時に測定された上下加速度の時間波形の一例を示している。
図17(B)は、
図17(A)に示す上下加速度の自己相関関数ACF_Yを示している。
【0178】
図12で説明したように、運動機能が正常であるとき、踵接地時刻から立脚中期時刻までの時間において、上下加速度の時間波形には2つのピークが現れる(図中の黒三角印に相当)。1つ目のピークは、踵接地直後の踏込動作時刻に現れる。2つ目のピークは、拇指球接地直後の踏込動作時刻の直後に現れる。
【0179】
上下加速度の自己相関関数ACF_Yにおいては、上記2つのピークに起因して、歩行周期よりも十分に短い遅れ時間(τ=t)において第1番目のピークが現われる。原点(τ=0)での自己相関関数ACF_Yの値をH0とし、第1番目のピーク位置での自己相関関数ACF_Yの値をH1とする。
【0180】
一方、運動機能が低下すると、上下加速度の時間波形において2つ目のピークの高さが低くなる、もしくは、2つ目のピークが全く現れなくなる。これにより、自己相関関数ACF_Yでは、第1番目のピークの高さが低くなる、または、第1番目のピークが現われなくなる。
【0181】
このような事象に基づき、制御部64は、上下加速度の自己相関関数ACF_Yに基づいて、体重移動を示す指標を算出する。具体的には、制御部64は、自己相関関数ACF_Yの原点での値H0と、第1番目のピーク位置での値H1との比(H1/H0)に基づいて、体重移動を示す指標を算出する。運動機能が低下すると、H1が小さくなるため、比H1/H0も小さくなる。制御部64は、運動機能が正常であるときの比H1/H02を理想値(10点)として、比H1/H0をスコア化する。
【0182】
(3)左右バランス
図18(A)は、被験者Mの移動時に測定された左右加速度の時間波形の一例を示している。
図18(B)は、
図16(A)に示す前後加速度の自己相関関数ACF_Zを示している。
図18(C)は、
図18(A)に示す左右加速度の自己相関関数ACF_Xを示している。
【0183】
図16で説明したように、前後加速度の自己相関関数ACF_Zには、前後加速度の時間的変化の周期性を反映して、複数のピークが周期的に現われる。
【0184】
図18(A)に示すように、左右加速度の時間波形には、左右の足が交互に立脚となることによって、歩行周期の半周期ごとに、右方向のピークおよび左方向のピークが交互に現われる。なお、正しい姿勢で移動していれば、右方向のピークと左方向のピークとは等しい高さとなる。
【0185】
図18(C)に示すように、左右加速度の自己相関関数ACF_Xには、正方向のピークおよび負方向のピークが交互に現われる。正しい姿勢で移動している場合、自己相関関数ACF_Xには、自己相関関数ACF_Zのピーク位置と等しい位置に、正方向のピークおよび負方向のピークが交互に現われる。正方向のピークの値をHpとし、負方向のピークの値をHnとする。
【0186】
このような事象に基づき、制御部64は、前後加速度の自己相関関数ACF_Zおよび左右加速度の自己相関関数ACF_Xに基づいて、左右バランスを示す指標を算出する。具体的には、制御部64は、最初に、自己相関関数ACF_Zの第1番目のピーク位置および第2番目のピーク位置を探索する。次に、制御部64は、自己相関関数ACF_Xにおいて、自己相関関数ACF_Zの第1番目のピーク位置に対応するピーク位置での値Hnを探索する。制御部64は、また、自己相関関数ACF_Xにおいて、自己相関関数ACF_Zの第2番目のピーク位置に対応するピーク位置での値Hpを探索する。制御部64は、探索した値Hnおよび値Hpの絶対値の比(|Hp|/|Hn|)に基づいて、左右バランスを示す指標を算出する。
【0187】
正しい姿勢で移動している場合、値Hnと値Hpとは絶対値が等しいため、比|Hp|/|Hn|は1に近い値を示す。一方、体重心が左寄りに傾いていると、値Hnが大きくなるため、比|Hp|/|Hn|は1より小さい値となる。また、体重心が右寄りに傾いていると、値Hpが大きくなるため、比|Hp|/|Hn|が1より大きい値となる。制御部64は、比|Hp|/|Hn|=1を理想値(10点)として、算出した比|Hp|/|Hn|をスコア化する。
【0188】
実施の形態2によれば、実施の形態1と同様に、被験者Mの移動能力を評価するための指標として、移動時における被験者の前後バランス、左右バランスおよび体重移動の少なくとも1つを用いることにより、被験者の移動能力を的確に評価することができる。これにより、被験者の転倒リスクを精度良く判定することが可能となる。
【0189】
実施の形態2では、さらに、加速度の自己相関関数から移動時における加速度の時間的変化の周期性を捉えることで、被験者の移動能力を評価することができる。これによれば、実施の形態1で説明した、加速度の時間波形から被験者が特定の動作を行なっている時刻を探索して移動能力を評価する構成に比べて、移動能力評価装置の制御部が実行する演算処理を減らすことができる。これにより、高速演算を実現することができる。言い換えれば、高速演算を実現しながら、安価なコンピュータの使用を可能とするため、装置構成を簡素化することができる。
【0190】
<移動能力評価システムの構成例>
上述した実施の形態1および2に係る移動能力評価システム100は、専用のシステムによらず、通常のコンピュータシステムを用いても実現可能である。例えば、上述した移動能力評価処理を実行するためのプログラム(移動能力評価プログラム)をコンピュータ読取可能な記録媒体に格納して配布し、該プログラムをコンピュータにインストールして、移動能力評価処理を実行することによって移動能力評価システム100を構成してもよい。または、インターネット等のネットワーク上のサーバ装置に該プログラムを格納しておき、コンピュータにダウンロードできるようにしてもよい。
【0191】
図19は、本発明の一態様に係る移動能力評価システム100の他の構成例を示す図である。
図19に示すように、変更例に係る移動能力評価システム100は、加速度センサ1と、通信装置4と、サーバ8とを備える。サーバ8はネットワーク6に接続されている。
【0192】
通信装置4は、被験者Mが使用する端末であり、例えば、スマートフォンである。加速度センサ1および通信装置4は、互いに無線通信する。加速度センサ1と通信装置4とは、Bluetooth(登録商標)等の近距離無線通信の規格に従って接続される。
【0193】
サーバ8は、通信装置4と通信することにより、加速度センサ1の測定データをデータベースとして保持する。サーバ8は、図示しない記憶部および制御部を含む。サーバ8の記憶部は、フラッシュメモリ、RAM等により構成され、サーバ8が使用するプログラムおよび各種データを蓄積する。プログラムには、移動能力評価プログラムが含まれる。各種データには、登録されている被験者を管理するためのデータ、各被験者について取得される測定データ、データ閾値リストなどが含まれる。
【0194】
サーバ8の制御部は、記憶部に記憶される被験者の測定データに基づいて、被験者の移動能力を評価し、評価結果を通信装置4へ送信する。制御部は、さらに、評価結果に基づいて、被験者に応じた運動アドバイスを判別し、判別した運動アドバイスを通信装置4へ送信する。通信装置4は、サーバ8から送信される移動能力の評価結果および運動アドバイスを表示部に表示させる。
【0195】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態ではなく請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
移動能力評価装置は、通信部と、制御部とを備える。通信部は、被験者の腰部に装着された加速度センサにより測定された、被験者の移動中における前後加速度、左右加速度および上下加速度を取得するように構成される。制御部は、通信部により取得された前後加速度、左右加速度および上下加速度の時間的変化に基づいて、被験者の移動能力を評価するように構成される。被験者の移動能力は、被験者の移動時における前後バランス、左右バランスおよび体重移動の少なくとも1つを含む。