【実施例】
【0029】
以下、実施例および比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。なお、実施例における各物性は以下の方法によって測定した。いずれの測定値も3回の平均値で示した。
[1]黒鉛粉末のスプリングバック
図1(A)に示される内径15mmの金型に測定試料である黒鉛粉末2gを入れ、試料の上面を平らにした後、上型に5秒で5.4tの荷重がかかるようプレス機で圧縮した(
図1(B)参照)。圧縮状態を30秒間保持したのち、荷重を一気に解放した。ハイトゲージで各状態の上型上面の高さを測定し、次の計算式によりスプリングバックを求めた。
L
0:測定試料が入っていない状態の上型の高さ(mm)
L
1:荷重をかけた状態の上型の高さ(mm)
L
2:荷重を解放した状態の上型の高さ(mm)
スプリングバック(%)=(L
2−L
1)/(L
1−L
0)×100
[2]平均粒径
粒度分布測定装置(日機装(株)製)により測定した。
[3]固有抵抗
JIS H0602(シリコン単結晶およびシリコンウエーハの4探針による抵抗率測定方法)に基づいて測定した。
[4]ガラス転移点
熱分析装置(TAインスツルメンツ社製、Q400TMA)を使用し、昇温速度1℃/min、荷重5gの条件で測定を行い、得られた熱膨張係数の変曲点をガラス転移点とした。
[5]強度試験(曲げ強度、曲げ弾性率、曲げひずみ)
セパレータから切り出した100×20×2mmの試験片を用い、JIS K 6911「熱硬化性プラスチックの一般試験方法」に準じて、支点間距離40mmで3点曲げ試験を行い、曲げ強度、曲げ弾性率、曲げひずみを測定した。
[6]TOC
上記試験片をイオン交換水500mL中に入れ、内温90℃で1000時間加熱した。加熱終了後に試験片を取り出し、イオン交換水中のTOCをTOC計((株)島津製作所製 TOC−L)により測定した。
【0030】
[実施例1]
黒鉛粉末1(人造黒鉛、針状、スプリングバック23%、平均粒径(d50)50μm)100質量部に対し、エポキシ樹脂1(o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、日本化薬(株)製、EOCN−1020-65、エポキシ当量198g/eq)20.4質量部、フェノール樹脂(ノボラック型フェノール樹脂、アイカSDKフェノール(株)製ショウノールBRG−566、水酸基当量103g/eq)10.7質量部、および2−フェニルイミダゾール(以下、2PZ、四国化成工業(株)製)0.25質量部からなるエポキシ樹脂成分をヘンシェルミキサ内に投入し、800rpmで3分間混合して、燃料電池緻密質セパレータ用樹脂組成物を調製した。
得られた組成物を燃料電池用セパレータ作製用の金型内に投入し、金型温度185℃、成形圧力36.6MPa、成形時間9秒の条件で圧縮成形し、ガス流路溝を有する240mm×240mm×2mmの緻密質成形体を得た。
次いで、得られた緻密質成形体の全表面に対し、アルミナ研創材(平均粒径:d50=6μm)を用いて吐出圧力0.25MPa、搬送速度1.5m/分の条件でウェットブラストによる粗面化処理を施し、燃料電池用緻密質セパレータを得た。
【0031】
[実施例2]
黒鉛粉末1を、黒鉛粉末2(人造黒鉛、針状、スプリングバック30%、平均粒径(d50)50μm)に変更した以外は、実施例1と同様にして組成物を調製、圧縮成形し、燃料電池用緻密質セパレータを得た。
【0032】
[実施例3]
黒鉛粉末1を、黒鉛粉末3(人造黒鉛、針状、スプリングバック40%、平均粒径(d50)50μm)に変更した以外は、実施例1と同様にして組成物を調製、圧縮成形し、燃料電池用緻密質セパレータを得た。
【0033】
[実施例4]
黒鉛粉末1を、黒鉛粉末4(人造黒鉛、塊状、スプリングバック45%、平均粒径(d50)30μm)に変更した以外は、実施例1と同様にして組成物を調製、圧縮成形し、燃料電池用緻密質セパレータを得た。
【0034】
[実施例5]
黒鉛粉末1を、黒鉛粉末5(人造黒鉛、塊状、スプリングバック50%、平均粒径(d50)50μm)に変更した以外は、実施例1と同様にして組成物を調製、圧縮成形し、燃料電池用緻密質セパレータを得た。
【0035】
[実施例6]
黒鉛粉末1を、黒鉛粉末6(人造黒鉛、塊状、スプリングバック55%、平均粒径(d50)70μm)に変更した以外は、実施例1と同様にして組成物を調製、圧縮成形し、燃料電池用緻密質セパレータを得た。
【0036】
[実施例7]
黒鉛粉末1を、黒鉛粉末7(人造黒鉛、塊状、スプリングバック60%、平均粒径(d50)100μm)に変更した以外は、実施例1と同様にして組成物を調製、圧縮成形し、燃料電池用緻密質セパレータを得た。
【0037】
[実施例8]
黒鉛粉末1 100質量部を、黒鉛粉末1 20質量部と、黒鉛粉末9(人造黒鉛、塊状、スプリングバック75%、平均粒径(d50)50μm)80質量部の組み合わせに変更した以外は、実施例1と同様にして組成物を調製、圧縮成形し、燃料電池用緻密質セパレータを得た。
【0038】
[実施例9]
黒鉛粉末1 100質量部を、黒鉛粉末8(天然黒鉛、鱗片状、スプリングバック10%、平均粒径(d50)50μm)30質量部と、黒鉛粉末9 70質量部の組み合わせに変更した以外は、実施例1と同様にして組成物を調製、圧縮成形し、燃料電池用緻密質セパレータを得た。
【0039】
[実施例10]
エポキシ樹脂1 20.4質量部を、エポキシ樹脂3(ビフェニル型エポキシ樹脂、三菱化学(株)製、jER YX4000、エポキシ当量183g/eq)19.8質量部に、フェノール樹脂の添加量を11.3質量部に変更した以外は、実施例4と同様にして組成物を調製、圧縮成形し、燃料電池用緻密質セパレータを得た。
【0040】
[実施例11]
エポキシ樹脂1 20.4質量部を、エポキシ樹脂3 19.8質量部に、フェノール樹脂の添加量を11.3質量部に変更した以外は、実施例5と同様にして組成物を調製、圧縮成形し、燃料電池用緻密質セパレータを得た。
【0041】
[実施例12]
エポキシ樹脂1 20.4質量部を、エポキシ樹脂3 19.8質量部に、フェノール樹脂の添加量を11.3質量部に変更した以外は、実施例6と同様にして組成物を調製、圧縮成形し、燃料電池用緻密質セパレータを得た。
【0042】
[実施例13]
エポキシ樹脂1 20.4質量部を、エポキシ樹脂3 19.8質量部に、フェノール樹脂の添加量を11.3質量部に変更した以外は、実施例7と同様にして組成物を調製、圧縮成形し、燃料電池用緻密質セパレータを得た。
【0043】
[実施例14]
エポキシ樹脂1 20.7質量部を、エポキシ樹脂1 10.1質量部およびエポキシ樹脂3 10.1質量部の組み合わせに、フェノール樹脂の添加量を11.0質量部に変更した以外は、実施例5と同様にして組成物を調製、圧縮成形し、燃料電池用緻密質セパレータを得た。
【0044】
[実施例15]
エポキシ樹脂1 20.7質量部を、エポキシ樹脂1 14.4質量部およびエポキシ樹脂2(o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、日本化薬(株)製、EOCN−103S、エポキシ当量214g/eq)6.2質量部の組み合わせに、フェノール樹脂の添加量を10.6質量部に変更した以外は、実施例5と同様にして組成物を調製、圧縮成形し、燃料電池用緻密質セパレータを得た。
【0045】
[実施例16]
エポキシ樹脂1 20.7質量部を、エポキシ樹脂2 5.0質量部およびエポキシ樹脂3 15.1質量部の組み合わせに、フェノール樹脂の添加量を11.0質量部に変更した以外は、実施例5と同様にして組成物を調製、圧縮成形し、燃料電池用緻密質セパレータを得た。
【0046】
[比較例1]
黒鉛粉末1を、黒鉛粉末8に変更した以外は、実施例1と同様にして組成物を調製、圧縮成形し、燃料電池用緻密質セパレータを得た。
【0047】
[比較例2]
黒鉛粉末1を、黒鉛粉末9に変更した以外は、実施例1と同様にして組成物を調製、圧縮成形し、燃料電池用緻密質セパレータを得た。
【0048】
[比較例3]
黒鉛粉末1を、黒鉛粉末10(人造黒鉛、塊状、スプリングバック40%、平均粒径(d50)20μm)に変更した以外は、実施例1と同様にして組成物を調製、圧縮成形し、燃料電池用緻密質セパレータを得た。
【0049】
[比較例4]
黒鉛粉末1を、黒鉛粉末11(人造黒鉛、塊状、スプリングバック65%、平均粒径(d50)110μm)に変更した以外は、実施例1と同様にして組成物を調製、圧縮成形し、燃料電池用緻密質セパレータを得た。
【0050】
[比較例5]
黒鉛粉末1を、黒鉛粉末9に、エポキシ樹脂1 20.4質量部を、エポキシ樹脂3 19.8質量部に、フェノール樹脂の添加量を11.3質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして組成物を調製、圧縮成形し、燃料電池用緻密質セパレータを得た。
【0051】
[比較例6]
黒鉛粉末1を、黒鉛粉末10に、エポキシ樹脂1 20.4質量部を、エポキシ樹脂3 19.8質量部に、フェノール樹脂の添加量を11.3質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして組成物を調製、圧縮成形し、燃料電池用緻密質セパレータを得た。
【0052】
[比較例7]
黒鉛粉末1を、黒鉛粉末11に、エポキシ樹脂1 20.4質量部を、エポキシ樹脂3 19.8質量部に、フェノール樹脂の添加量を11.3質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして組成物を調製、圧縮成形し、燃料電池用緻密質セパレータを得た。
【0053】
上記実施例1〜16および比較例1〜7で得られた燃料電池用緻密質セパレータについて、固有抵抗、ガラス転移点、曲げ強度、曲げ弾性率、曲げひずみおよびTOCを測定した。結果を表1,2に示す。なお、表中「部」は質量部を意味する。
【0054】
【表1】
【0055】
【表2】
【0056】
表1,2に示されるように、黒鉛のスプリングバックおよび平均粒径が本発明に規定される範囲内である組成物から得られた実施例1〜16のセパレータは、固有抵抗が15mΩ・cm以下、Tgが135℃以上、曲げ強度が50MPa以上、曲げ弾性率が9.5GPa以上、TOCが7ppm以下と、燃料電池用緻密質セパレータとして好適な値を示すことがわかる。
比較例1〜8のセパレータは、黒鉛のスプリングバックまたは平均粒径が本発明に規定される範囲外である組成物を用いているため、固有抵抗もしくは強度、またはその双方において不十分であることがわかる。
具体的には、比較例1では、黒鉛粉末のスプリングバックが低すぎるため、樹脂の硬化は終了していると考えられるが(ガラス転移点167℃)、曲げ強度が低くなっている。
比較例2および比較例5では、黒鉛粉末のスプリングバックが高すぎるため、成形時間9秒では樹脂の硬化が終了せず(ガラス転移点125℃)、固有抵抗、TOCが高くなっている。
比較例3および比較例6では、黒鉛粉末の粒径が小さすぎるため、樹脂の硬化は終了していると考えられるが、固有抵抗が高くなっている。
比較例4および比較例7では、黒鉛粉末の粒径が大きすぎるため、樹脂の硬化は終了していると考えられるが、曲げ強度が低くなっている。
【0057】
[実施例17]
硬化促進剤2PZを、2−フェニル−4−メチルイミダゾール(以下、2P4MZ、四国化成工業(株)製)に変更した以外は、実施例5と同様にして組成物を調製、圧縮成形し、燃料電池用緻密質セパレータを得た。
【0058】
[実施例18]
硬化促進剤2PZ0.25質量部を、2PZ0.125質量部および2P4MZ0.125質量部の組み合わせに変更した以外は、実施例5と同様にして組成物を調製、圧縮成形し、燃料電池用緻密質セパレータを得た。
【0059】
[実施例19]
硬化促進剤2PZ0.25質量部を、2PZ0.075質量部および2P4MZ0.175質量部の組み合わせに変更した以外は、実施例5と同様にして組成物を調製、圧縮成形し、燃料電池用緻密質セパレータを得た。
【0060】
[実施例20]
硬化促進剤2PZ0.25質量部を、2PZ0.175質量部および2P4MZ0.075質量部の組み合わせに変更した以外は、実施例5と同様にして組成物を調製、圧縮成形し、燃料電池用緻密質セパレータを得た。
【0061】
[比較例8]
硬化促進剤2PZを、2−エチル−4−メチルイミダゾール(以下、2E4MZ、四国化成工業(株)製)に変更した以外は、実施例5と同様にして組成物を調製、圧縮成形し、燃料電池用緻密質セパレータを得た。
【0062】
[比較例9]
硬化促進剤2PZを、2−メチルイミダゾール(以下、2MZ、四国化成工業(株)製)に変更した以外は、実施例5と同様にして組成物を調製、圧縮成形し、燃料電池用緻密質セパレータを得た。
【0063】
[比較例10]
硬化促進剤2PZを、2−ウンデシルイミダゾール(以下、C11Z、四国化成工業(株)製)に変更した以外は、実施例5と同様にして組成物を調製、圧縮成形し、燃料電池用緻密質セパレータを得た。
【0064】
[比較例11]
硬化促進剤2PZを、2−ヘプタデシルイミダゾール(以下、C17Z、四国化成工業(株)製)に変更した以外は、実施例5と同様にして組成物を調製、圧縮成形し、燃料電池用緻密質セパレータを得た。
【0065】
[比較例12]
硬化促進剤2PZを、トリフェニルホスフィン(以下、TPP)に変更した以外は、実施例5と同様にして組成物を調製、圧縮成形し、燃料電池用緻密質セパレータを得た。
【0066】
上記実施例17〜20および比較例8〜12で得られた燃料電池用緻密質セパレータについて、固有抵抗、ガラス転移点、曲げ強度、曲げ弾性率、曲げひずみおよびTOCを測定した。結果を表3に示す。なお、表中「部」は質量部を意味する。
【0067】
【表3】
【0068】
表3に示されるように、2位にフェニル基を有するイミダゾール化合物を硬化促進剤として含む組成物から得られた実施例17〜20のセパレータは、固有抵抗が13mΩ・cm以下、Tgが160℃以上、曲げ強度が60MPa以上、曲げ弾性率が11GPa以上、TOCが7ppm以下と、燃料電池用緻密質セパレータとして好適な値を示すことがわかる。
比較例8〜12のセパレータは、硬化促進剤として2位にフェニル基を有しないイミダゾール化合物またはトリフェニルホスフィンを用いているため、固有抵抗が高く、また、強度も低いことがわかる。
具体的には、比較例8および比較例9では、硬化促進剤の活性が高すぎるため、金型内で急激な硬化反応による粘度上昇が起きて成形不良が発生し、固有抵抗が高くなっている。
比較例10〜12では、硬化促進剤の活性が低すぎるため、9秒では成形が終了せず、ガラス転移点が低くなり、固有抵抗、TOCが高く、曲げ強度が低くなっている。
【0069】
[実施例21,22および比較例13,14]
上記実施例1、実施例5、比較例1および比較例2で調製した樹脂組成物を用い、圧縮時間を3秒、5秒、7秒、12秒、15秒、20秒、30秒と変化させた以外は実施例1と同様にして燃料電池用緻密質セパレータを作製した。
得られた各セパレータについて、固有抵抗、曲げ強度およびTOCを測定した。
結果を表4〜6に示す。なお、各表には、実施例1,5および比較例1,2の結果(成形時間9秒)も併記する。また、これらの結果を
図2〜4に示す。
【0070】
【表4】
【0071】
【表5】
【0072】
【表6】
【0073】
表4〜6および
図2〜4に示されるように、スプリングバックが10%の黒鉛粉末8を含む樹脂組成物を用いた場合、成形時間が10秒未満であると、曲げ強度が不十分となることがわかる。
一方、スプリングバックが75%の黒鉛粉末9を含む樹脂組成物を用いた場合、成形時間が10秒未満であると、固有抵抗およびTOCが高くなることがわかる。
これらに対し、スプリングバックが23%および50%の黒鉛粉末1,5を含む樹脂組成物を用いた場合、成形時間が10秒未満でも、固有抵抗、曲げ強度およびTOCのいずれの特性も良好なセパレータが得られていることがわかる。
以上のことから、短時間の成形で特性の良好な燃料電池緻密質セパレータを得るためには、スプリングバック20〜70%の黒鉛粉末を用いることが好適であることがわかる。