特許第6332602号(P6332602)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6332602
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】親水化高分子不織布シート
(51)【国際特許分類】
   D06M 15/09 20060101AFI20180521BHJP
   A61M 1/22 20060101ALI20180521BHJP
   B01D 39/16 20060101ALI20180521BHJP
   A61K 35/14 20150101ALN20180521BHJP
   D06M 101/32 20060101ALN20180521BHJP
【FI】
   D06M15/09
   A61M1/22 527
   B01D39/16 A
   !A61K35/14 Z
   D06M101:32
【請求項の数】6
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2014-28754(P2014-28754)
(22)【出願日】2014年2月18日
(65)【公開番号】特開2015-151652(P2015-151652A)
(43)【公開日】2015年8月24日
【審査請求日】2017年2月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】加藤 典昭
(72)【発明者】
【氏名】小山 伸也
(72)【発明者】
【氏名】香山 晴彦
【審査官】 佐藤 玲奈
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭62−176508(JP,A)
【文献】 特開平06−101154(JP,A)
【文献】 特許第5424145(JP,B2)
【文献】 英国特許出願公開第02284820(GB,A)
【文献】 米国特許第05783094(US,A)
【文献】 特開平09−075694(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/022016(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M 13/00 − 15/715
D04H 1/00 − 18/04
A61M 1/22
B01D 39/16
A61K 35/14
D06M 101/32
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子不織布シートの表面にヒドロキシプロピルセルロースを被覆及び固着させ、前記高分子不織布シートに対する前記ヒドロキシプロピルセルロースの含有率が、0.05〜0.4重量%であること、プロトン核磁気共鳴装置を用いてヒドロキシプロピルセルロースのスペクトルピークを測定したときの3.75ppmに現れるスペクトルピークAの強度に対する4.12ppmに現れるスペクトルピークBの強度割合(B/A)が12%以上30%以下であることを特徴とする親水化高分子不織布シート。
【請求項2】
前記高分子不織布シートの表面積あたりのヒドロキシプロピルセルロースの被覆が、0.3〜2.0mg/mである請求項1に記載の親水化高分子不織布シート。
【請求項3】
前記高分子不織布シートが、ポリエステル繊維を含む請求項1または2に記載の親水化高分子不織布シート。
【請求項4】
前記高分子不織布シートが、細胞吸着材であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の親水化高分子不織布シート。
【請求項5】
前記高分子不織布シートが、白血球除去フィルターであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の親水化高分子不織布シート。
【請求項6】
前記高分子不織布シートを、ヒドロキシプロピルセルロースを含有した溶液への含浸処理、45〜72℃の熱水処理、洗浄処理をこの順で実施したのちに乾燥する親水化高分子不織布シートの製造法であって、45〜72℃の熱水処理時間が10秒〜5分であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の親水化高分子不織布シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒドロキシプロピルセルロースにより親水化された高分子不織布シートに関するものであり、特に医療、バイオサイエンス分野での血液製剤の白血球除去、体外循環治療における白血球除去療法、培養液や体液などからの所望の細胞除去、回収などに使用されるフィルターまたは吸着材に関する。さらに本シート材料を乾燥状態から、水に濡れた状態にする際に、容易な親水化を持つと同時に、親水化被覆成分の溶出が少ない、親水化高分子不織布シートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、フィルター材、吸着材としての不織布の産業利用の拡大はめざましく、繊維径や繊維の交絡、空隙率の形状因子の制御、加工、あるいは繊維素材への官能基の導入、荷電付与などの表面特性の改変技術などが大きく進歩してきている。また製造法においても、織物の解繊、スパンボンド法、メルトブロー法、静電紡糸法などの手法で、各種特徴のある不織布が作られている。
【0003】
不織布の用いられる用途も、気体、液体を問わず用いられ、繊維の形成する網目空間サイズに基づく篩い(大きさによる分離)としての利用のみならず、不織布の有する繊維集合体としての高い表面積を利用した、吸着のための担体としても多く利用されている。吸着のために必要な繊維の特性は、吸着対象により各種選定されるが、繊維表面の特性として、微細な凹凸や多孔質化といった特性、帯電化、疎水性や親水性、イオン性基などの物理化学的特性、さらには特定成分との結合力を有する成分を固定化したアフィニティー吸着などがある。また、細胞などの吸着には、繊維径自体の大きさに由来するような大きさの認識性による吸着などもある。
【0004】
医療用分野における不織布利用は、医療機器、用具としては安全性面のリスクの低い衛生材料、衣料材料などのディスポーザル製品群への利用に加えて、外科用材料や血液フィルターなどの直接治療に関わる製品、高度医療機器にも属するような製品への応用も発展してきている。本発明の技術分野である、細胞吸着や血液浄化機能を有するフィルターへの応用もその例である。
【0005】
本発明の目的をなす、極細繊維からなる不織布フィルターは、医療用分野では大別すると2つの目的で使用される。第一は白血球除去フィルターであり、第二は培養液や体液からの有価細胞の分離、回収フィルターである。白血球除去フィルターは、輸血用血液の白血球除去処理と血液体外循環治療の2つの目的で用いられている。前者は、輸血治療に伴う他家白血球由来の副作用(GVHDなど)の低減を目的とするものであり、後者は潰瘍性大腸炎やリウマチに対しての治療であり、そのメカニズムは炎症性サイトカインを産生する白血球を抑制するためとされている。一方、細胞の分離・回収フィルターとしては、血液からの単核球分離、骨髄液などからの造血幹細胞、間葉系幹細胞の分離などが実用化されている。対象となる細胞種は限られてはいるが、精密な遠心分離やセルソーターの使用が無くとも、目的の細胞を簡便に吸着・回収できるという利点が活かされている。白血球除去フィルター、細胞分離フィルターいずれも、それらの細胞(大きさ数μm〜数十μm)が、数μmの繊維を認識し、この繊維に対して何らかの高い接着性を発現するという、ほぼ同一の特性に基づくものであると考えられる。現実的には同じフィルターが両用途に適応されていることからも、ほぼ同じ技術思想で適応されていることが、想像できる。
【0006】
本発明は、高分子不織布フィルターの改質技術に関するものである。よって関連技術領域が広く確立しており、技術説明を明快にするため、白血球除去フィルターに関しての技術背景を中心に説明する。高分子不織布フィルターの改質は、多くの場合、フィルター素材の特性が、使用の目的に不適格な場合や、より高度な機能付与のために実施されることになる。フィルター素材は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアミドなどの熱溶融系の合成高分子により製造されることが一般である。これは、不織布の構成単位は繊維であることから容易に想定されるものである。特に数μmの極細繊維を無数に絡めてシート形成される極細繊維不織布は、モノフィラメント繊維技術として確立された素材を用いることが、フィルターシートの基本骨格を製造する上での紡糸加工や生産性が非常に優れたものとなる。従って、この加工精度のよい構造体を担体として、これに加えて所望の特徴を持たせることで、より高度な分離フィルターの製造が可能となる。特に、白血球除去フィルターのような、ある範囲での繊維径や、嵩密度などの基本構成が、理論的にも、経験的にも必須要件として明確となっている領域では、産業的に優位となる。
【0007】
白血球除去フィルターの改質目的は、白血球への選択性向上や、逆に他成分も吸着対象とするための複合化が主なものである。白血球への選択性の向上とは、主に血中に存在する血小板吸着の抑制や、白血球成分内の選択性(たとえば、顆粒球やリンパ球への選択性)を上げることなどである。また、吸着の複合化とは、白血球以外に特定のタンパク質類(サイトカインなど)も同時に同じフィルターで吸着させることを狙うものである。本発明の目的には、この繊維素材表面を親水化し、血液処理においては血小板の吸着を高度に抑制することが含まれるものである。
【0008】
従来技術の疎水性担体(ポリエステル等)への親水化改質を以下に説明する。第一の方法は、改質(表面被覆)を行う材料を、高分子不織布に対しては不溶性であり、被覆材を可溶化する溶液を、不織布に塗り、乾燥などの処理で、被覆材を繊維表面に残留固化させる方法である。この方法により、被覆材として各種の高分子材料を選択することで所望の特性、官能基を導入する技術が開示されている。主にアクリル系、メタクリル系のビニル化合物からなる合成高分子での被覆技術であり、ヒドロキシプロピル基(特許文献1)、メトキシエチル基(特許文献2)、ポリエチレンオキサイド基(特許文献3)、ピロリドン基(特許文献4)、グルコシル基(特許文献5)などの導入が開示されている。また、天然材料由来の多糖類も被覆材料としては有用であり、コート材料としては、メチルセルロース(特許文献6)、キトサン(特許文献7)などが試みられている。これらの技術に共通する点としては、導入する高分子は、非水溶性であり、被覆液をコートする溶剤として、乾燥での薄膜コート処理ができるような、揮発性の高い溶剤(アルコールなど)を用いることである。被覆高分子を水溶性にまで親水性を高めてしまうと、処理中に溶出してしまい安定な機能維持ができないことになる、また医療機器の場合には、溶出物による安全性の低下も危惧される。従って、ポリオレフィンの主鎖部や、共重合成分により、ある程度の疎水性を導入し、不織布基材との結合を高めておくことが必要である。この点は、多糖体においても同様である。
【0009】
第二の方法は、上記の課題を克服するために、基材との結合力を共有結合などの強固なものとして固定化させるものである。基材表面でのグラフト化を狙った、基材表面で被覆材料の重合を行う方法(特許文献8、特許文献9)、基材表面に被覆する前に高エネルギー処理を行い、それにより発生する過酸化物等の反応性基との一部反応、固定化を狙った方法(特許文献10、特許文献11)がある。この方法を用いれば、完全に水溶性を有するような高い親水性を持った高分子の被覆も可能となり、表面改質法としては、安定化に優れたものとなる。しかしながら、操作の煩雑さ、未反応モノマーの洗浄、基材自体の化学的損傷などの別の技術課題の克服が必要となる問題点を有する。
【0010】
また、疎水性素材の親水化のために用いられるものとして、分離膜の分野で周知されているものに、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドンなどがある。これらの水溶性高分子は、疎水性基材と相溶化しポリマーアロイの親水化材料に加工することが可能であるが、加工の方法としては、両者の混合溶融液を繊維化する方法、両者の共通溶媒に溶解した上で、湿式紡糸法により繊維に形成する方法が考えられるが、極細繊維を狙った不織布化の実施には、現在のところ有効な技術となり得ていない。
【0011】
従って理想的には、水溶性高分子のような、高い親水性を持つ高分子を、疎水性基材に安定に、かつ簡便に被覆させることができれば、優れた技術となる。本発明においては、被覆させる高分子として、ヒドロキシプロピルセルロースを用いている。またセルロース骨格からなる素材は、医療用素材としての安全性などの適性があり、ヒドロキシアルキルセルロースは、日本薬局方などにも収載の安全性に優れた被覆材としての資質を有するといえる。ヒドロキシアルキルセルロースを用いた被覆技術は、不織布への被覆(特許文献12)、疎水性多孔質膜への被覆(特許文献13、特許文献14、特許文献15)が開示されている。特許文献12は、白血球除去フィルターに血小板透過性を付与するための技術であるが、溶出の少ない安定な特性維持のためには架橋処理を実施することが必要であり、必ずしも満足のいくものではない。また該先行技術では、血小板の透過性を得る代わりに、白血球の除去性能を犠牲にしている。一方、特許文献13や特許文献14は、多孔質膜へのヒドロキシアルキルセルロースの被覆を行ったものである。オートクレーブあるいは沸騰水処理を行うことで、CWST(濡れ性)が向上し、膜の透水性やスループットが向上することを示している(特許文献13)。また、低分子化したヒドロキシプロピルセルロースを用いる(特許文献14、特許文献15)、ヒドロキシアルキル置換度が40%以下を用いる(特許文献14)、ヒドロキシアルキルメチルセルロース(一部メチル基導入)などの疎水基を増やす(特許文献15)などの利用により、ヒドロキシプロピルセルロースの固定化の向上を行った技術も開示されているが、処理の煩雑さや親水化を多少犠牲にするなどの欠点を有している。これらの技術を鑑みてみても、前述の各種改質技術が、安全な臨床への適応の視点からも、必ずしも満足できる技術となっていない。
【0012】
これら、改質されたシートを充填してなる分離デバイスは、使用される前には、必ず所定の液体(多くの場合は、生理食塩水、培養液などの水溶液からなる)で湿潤処理がなされなければならない。予め、これらの液体を充填した形態で市場に流通させることも可能であるが、製造プロセスの煩雑さ、菌やエンドトキシンへの対応などの生産性の低下、あるいは医療用デバイスとした場合には、実際に使用されるまで長ければ数年の期間、水などに浸漬されたものとして保管される可能性があるため、親水性成分が浸漬水に徐々に脱落してしまう懸念があり、さらに、充填液の洗浄、置換などを使用前に実施する必要があるなどの課題を有する。この点からは、使用の直前に湿潤化(プライミング)し、治療や処理に供すことができるデバイスとすることも有利となる。使用の直前に湿潤化するには、親水化された高分子不織布シートは、前述の吸着性能の観点からの改質のみならず、容易にシート内部に液体が充填されるような自発的な湿潤性を保有していることが好ましい。シートに濡れていない箇所が残ると、その部分は、吸着機能を発揮できないばかりか、通液する際の透過抵抗の増大、ある種の生理活性物質では気体界面での変性なども起きる可能性もあり、好ましくない。
【0013】
デバイスに充填された乾燥シートを完全に濡らす(プライミング操作)ためには、デバイス内の流路の工夫や、ケースを圧迫操作可能(変形可能な容器)とするなどの容器設計、あるいは通液圧の昇降操作や衝撃付与などの手技上の手間を掛ける必要がある。このような場合には、プライミングに要する液体が多く必要となる、使用者間でプライミング状態のバラツキが出るなどの課題を持つ。そのため、プライミング性の向上という点も、親水化処理での目的の一つとなる。この際に、注意すべきは、親水化の処理不足は当然のこと、過剰な親水化成分の含有や、不適切な親水化剤により処理することも、親水化剤によるフィルター内での膨潤を招くことがあり好ましくない。前述の各親水化技術においては、これらの点についての考慮がなされているとは言えない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】WO03/47655号公報
【特許文献2】特開2002−105136号公報
【特許文献3】特開2003−164521号公報
【特許文献4】特表2006−518420号公報
【特許文献5】特開平07−025775号公報
【特許文献6】特開2001−198215号公報
【特許文献7】特開2002−085551号公報
【特許文献8】特公平03−502094号公報
【特許文献9】特開2009−148567号公報
【特許文献10】特開2001−218834号公報
【特許文献11】特開2003−230627号公報
【特許文献12】米国特許US5783094号公報
【特許文献13】特開2007−136449号公報
【特許文献14】特開平09−075694号公報
【特許文献15】特開平08−141376号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、従来技術の問題を克服するためになされたものであり、特に医療、バイオサイエンス分野での血液製剤の白血球除去、体外循環治療における白血球除去療法、培養液や体液などからの所望の細胞除去、回収などに使用されるための、ヒドロキシプロピルセルロースにより親水化された高分子不織布シートに関するものである。また本発明は、疎水性高分子材料からなる高分子不織布シートを親水化することにより吸着細胞の選択性を向上させると共に、乾燥状態から水に濡れた状態にする際に、容易に湿潤化できる特性を持ち、親水化被覆成分の溶出が少ない安定性の高い親水化高分子不織布シートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、高分子不織布シートに特定量のヒドロキシプロピルセルロースを被覆及び固着させることにより、吸着細胞の選択性を向上させると共に、乾燥状態から水に濡れた状態にする際に、容易に湿潤化できる特性を持ち、親水化被覆成分の溶出が少ない安定性の高い親水化高分子不織布シートを発明するに至った。
【0017】
即ち本発明は、以下で構成される。
(1)高分子不織布シートの表面にヒドロキシプロピルセルロースを被覆及び固着させ、前記高分子不織布シートに対する前記ヒドロキシプロピルセルロースの含有率が、0.05〜0.4重量%であること、プロトン核磁気共鳴装置を用いてヒドロキシプロピルセルロースのスペクトルピークを測定したときの3.75ppmに現れるスペクトルピークAの強度に対する4.12ppmに現れるスペクトルピークBの強度割合(B/A)が12%以上30%以下であることを特徴とする親水化高分子不織布シート。
(2)前記高分子不織布シートの表面積あたりのヒドロキシプロピルセルロースの被覆が、0.3〜2.0mg/m2である(1)に記載の親水化高分子不織布シート。
(3)前記高分子不織布シートが、ポリエステル繊維を含む(1)または(2)に記載の親水化高分子不織布シート。
(4)前記高分子不織布シートが、細胞吸着材であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の親水化高分子不織布シート。
(5)前記高分子不織布シートが、白血球除去フィルターであることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の親水化高分子不織布シート。
(6)前記高分子不織布シートを、ヒドロキシプロピルセルロースを含有した溶液への含浸処理、45〜72℃の熱水処理、洗浄処理をこの順で実施したのちに乾燥する親水化高分子不織布シートの製造法であって、45〜72℃の熱水処理時間が10秒〜5分であることを特徴とする、(1)〜(5)のいずれかに記載の親水化高分子不織布シートの製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明の高分子不織布シートは、素材として、医療、生体材料として相応しい高分子を用いており、医療機器、バイオ研究などの選択的分離用フィルター、吸着器として用いることが可能である。特に、安全性が高く、プライミング性も良好であることから臨床応用も可能となるデバイスを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施例1の高分子不織布シートの走査型電子顕微鏡(SEM)写真を示す。
図2】ヒドロキシプロピルセルロースを65℃で処理した際のプロトンNMRスペクトルの例を示す。また、3.75ppmスペクトルの強度をA、4.12ppmのスペクトルの強度をBとする解析例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の親水化高分子シートについて説明する。本発明における、高分子不織布シートは、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリウレタン、アラミド、セルロースならびに、これらの誘導体や混合物などを原料として用いることができる。特に、ポリエステルを用いた高分子不織布シートは、素材の融解、溶融粘度や延伸挙動などの点から、本発明領域の極細繊維径、繊維形状を得られやすく、不織布とした場合の、繊維同士の交わり、適度な捲縮性などを得ることができ好ましい。中でもポリエチレンテレフタラートが好ましい。また表面に被覆するヒドロキシプロピルセルロースとの安定な固定の点からも、ポリエステルが好ましい高分子不織布シートの材料となる。
【0021】
高分子不織布を製造する方法は、スパンボンド法、メルトブロー法、サーマルボンド法、ニードルパンチ法、スパンレース法などを用いることができる。特に、メルトブロー法による製造法は、本発明の繊維径が数μmの長繊維(基本的には途切れの無い繊維)からなる極細繊維を製造するのに適しており好ましい。また、繊維間の絡みにおいて交点の接着が無い、繊維の糸端部が殆ど無いなどの点も、細胞分散液を通液する際に、過剰な透過抵抗や細胞へのダメージが少なく好ましい。
【0022】
不織布の形状は、繊維径(平均繊維径、バラツキ)、かさ密度(単位体積あたりの重量)、比表面積(単位体積あたりの繊維表面積)、目付け(単位シート面積あたりの重量)などで規定される。本発明では、繊維径は、1.2〜6.0μmであることが好ましい。この範囲での繊維は、細胞との適度な接触長や面積を有しており、細胞の捕集に優れた機能を発揮する。より好ましくは、1.6〜6.0μmである。かさ密度は、0.08〜0.40g/ccであることが好ましい。かさ密度は、不織布シート内部での繊維の充填量を示す値であり、この値が大きくなると、繊維が密に詰まった不織布となり、逆に小さな値になると疎な不織布となる。繊維が密すぎると、通液の抵抗や、細胞や血液が通過する際の抵抗や変形が大きくなり、通液処理に長時間を必要としたり、目詰まりを起こすなどの可能性があり好ましくない。また繊維が疎になりすぎると、吸着させたい成分との接触頻度が低下し、十分な吸着力を得られない可能性がある。より好ましくは、0.10〜0.25g/ccである。嵩密度は、繊維素材の密度や平均繊維径からの算出により、比表面積と関連付けられ、シートの空隙の平均的な孔径サイズと解釈される導水径とも関連付けられることから、吸着体としての表面積や篩い効果の網目サイズを反映する値となる。
【0023】
本発明では、前記不織布に対して、ヒドロキシプロピルセルロースを繊維表面に被覆する。ある種の水溶性高分子は、その水溶性が、温度により変化する特性を有するものが知られているが、ヒドロキシプロピルセルロースは、下限臨界共溶温度(LCST)を持ち、温度の上昇により水への溶解性が臨界的に低下し、低濃度であるほど、この臨界的な特性が顕著になることが知られている。(Macromolecules 22,2286-2292,1989)
【0024】
ヒドロキシプロピルセルロースの被覆は、被覆基材となる疎水性不織布に対して、溶液状態で塗布、あるいは液含浸により行うことができる。この際に、疎水性高分子不織布は、完全に溶液で濡れる必要がある。この濡れを確実にするためには、あらかじめ完全に水に濡らした不織布を、ヒドロキシプロピルセルロースの溶液と接触させる方法、ヒドロキシプロピルセルロースをアルコールなどの有機溶媒水溶液とする方法などがある。乾燥状態の不織布に対して、前処理無しに、ヒドロキシプロピルセルロース溶液で処理できる点では、後者の方法が有利となる。本発明では、アルコール溶液としての1%アルコール以上とすることで不織布を濡らすことが可能である。好ましくは、3%以上である。また、アルコール濃度が高すぎると、その後の工程への残留の影響や、基材自体へのダメージ、オリゴマーの析出などから好ましくない。好ましくは、30%以下である。
【0025】
ヒドロキシプロプルセルロース溶液を塗布または浸漬する際の温度は、下限臨界共溶温度(LCST)未満の温度である必要がある。この温度以下でないと、ヒドロキシプロピルセルロースが溶解液に均一相溶していないため、被覆が均一にならず好ましくない。また溶液の分散安定性にも欠ける。下限温度は、被覆、不織布への浸透のために、最適な粘度と流動性を持つ状態であることが必要である。通常は、室温程度の温度が最適である。安定性のためには、温度制御を実施することが好ましい。ヒドロキシプロピルセルロース溶液と不織布の接触時間は、シート内への充填が完結できる時間であれば良く、シートの密度などに依存するが、過剰な時間接触させる必要は無い。シート内部に気泡などが残留すると、その部分は修飾されないことから、振動や圧縮などにより、気泡は完全に除去する必要がある。また処理に要する時間は、5秒〜1分程度が最適である。また、接触後のシートは、シートの空隙部に存在する過剰な溶液を除去するために、マングルローラーでの絞りやエアーで飛ばす、遠心脱液などの抱液量の制御を行うことも有効である。
【0026】
本発明においては、ヒドロキシプロピルセルロースは、繊維表面に薄く均一に存在していることが必要である。本発明では、シート重量あたりの含有率が、0.05〜0.4重量%とすることが好ましい。これより少ないと、被覆が不十分(繊維全体が完全に被覆されない)であり、親水化の機能発現や、後述するヒドロキシプロピルセルロースの不溶化による固定化が不十分となる。被覆が多いと、過剰にヒドロキシプロピルセルロースが存在してしまうことから、溶出物の上昇を招いたり、余分のヒドロキシプロピルセルロースにより、繊維の交点で水掻き状のひだ部が形成されたりすることから好ましくない。また、過剰な親水化成分の被覆は、親水化成分による水和層(散漫層)により、本来吸着すべき接着性の高い細胞成分に対しても接着抑制を起こし、細胞成分への捕捉能力の低下を引き起こすこともある。より好ましくは、0.05〜0.35重量%である。また、本発明での被覆を別の指標でみると、不織布を構成する繊維表面積辺りの被覆は、0.3〜2.0mg/mである。この量で、不織布中の繊維表面が一様に必要十分な被覆が達成される。ここで示す面積とは、円形断面の繊維の場合は、繊維の平均径と繊維の全長(かさ密度、素材密度などから算出)から算出される繊維全表面積である。
【0027】
ヒドロキシプロピルセルロースは、その水溶液を44℃付近以上の温度で加熱することにより、水に対して不溶化する性質(ヒドロキシプロピルセルロース分子間での結合を促す相互作用の発生)がある。この性質を利用し、繊維へのヒドロキシプロピルセルロースの被覆において、前記のヒドロキシプロピルセルロース溶液との接触に引き続き、ヒドロキシプロピルセルロースを所定温度に加熱して不溶化させ、疎水性繊維ポリマー表面に固定化させる。ポリエステル繊維へのヒドロキシプロピルセルロースの固定化は、ポリエステル繊維の最表面に存在し接触しているヒドロキシプロピルセルロース分子の温度変化に伴うコンフォメーション変化、配位水の変化により、分子の疎水性部が露出することにより、この部分がポリエステル分子と直接的に吸着性の相互作用を起こすことによるものと推定される。また、この温度による転移挙動は、ヒドロキシプロピルセルロースの溶液濃度が低い程、急激、臨界的に引き起こされるものである(前記の参考文献)。この際のヒドロキシプロピルセルロース溶液の濃度は、熱処理前に浸漬付与される、前述のヒドロキシプロピルセルロース溶液の濃度により制御される。本発明では、ヒドロキシプロピルセルロース溶液の濃度として、0.01〜0.2重量%が好ましい。より好ましくは、0.05〜0.2重量%である。この範囲の濃度にある液を含浸したシートを、所定温度の熱水に投入した際に、前記の所望の付与量が達成されると共に、過剰な付与が抑制されるものである。この溶液は、前述のごとくアルコールも含有することが好ましい。44℃に満たない温度で処理を行った場合、ヒドロキシプロピルセルロースの不溶化処理ができず、その結果、繊維への固着化が困難になる。また、LCST超の温度にあったヒドロキシプロピルセルロース水溶液を、温度を下げると可逆的に溶液は可溶化する性質を有する。その場合、シートの洗浄時や使用時において水中にヒドロキシプロピルセルロースが溶け出し、繊維へのヒドロキシプロピルセルロース被覆が低減してしまい、親水性が失われたり、溶出物となることが考えられる。
【0028】
本発明では、前記の被覆量に制御することで、過剰な固定化成分を極力抑え、ポリエステル繊維表面と直接的に相互作用しているヒドロキシプロピルセルロース成分(ポリエステル分子との相互作用が強く、LCST未満の温度に下げても、水相への脱落が起き難い成分と考えられる)、および親水性付与に寄与する成分(この成分は、後述する過剰な変性を受けておらず、プロトンNMRにより性質が規定されるもの)を最適量とし、これらの2成分分子間の絡み合いも保持した固定化を制御するものである。この薄層吸着のみからなる固定化は、繊維表面からのヒドロキシプロピルセルロースの脱落に対して、厚塗りコートされたものより強固な固定化性を有する場合がある。推定であるが、厚塗りコートしたヒドロキシプロピルセルロースが可溶化された場合には、多量の可溶化成分の作用により、ポリエステル最表面にある分子までもが分子鎖の絡み合いのため引き剥がされたり、可溶化したヒドロキシプロピルセルロースが、界面活性剤的に働き、ポリエステルと吸着しているヒドロキシプロピルセルロース分子の間に介入することで相互作用を弱めてしまうなどの要因があるものと考えられる。この挙動は、固定化後の洗浄工程のみならず、細胞成分を吸着させた後も発生する可能性もあり、これによっても、細胞の捕捉能を低下させる可能性がある。処理温度の好ましい範囲としては45〜72℃である。処理温度が低いと、ヒドロキシプロピルセルロースをシートに固着させることが出来ず、被覆が低くなることで親水性の発現が不十分となる可能性があるため、好ましくない。処理温度が高いと、工業生産性の観点から好ましくないと共に、後述するように、ヒドロキシプロピルセルロースの熱変性を促進させすぎて親水性を低下させることにつながる。
【0029】
親水化処理は加熱処理する時間によっても変化する。好ましい処理時間としては、本発明のポリエステル極細繊維シートの場合は、10秒〜5分、より好ましくは20秒〜4分である。処理時間が短いと十分にヒドロキシプロピルセルロースをシートに固着させることが出来ず、好ましくない。処理時間が長いと、コート層が厚くなりすぎたり、後述するヒドロキシプロピルセルロースの熱変性が促進しすぎて親水性を低下させることにつながる。この処理時間は、繊維に被覆させるヒドロキシプロピルセルロースの量(被覆の厚み)や、繊維素材の特性によっても影響を受けることが、発明者の検討で知見されている。本発明の条件としては、ポリエステル繊維への、0.3〜2.0g/mの被覆に対して見出された条件となる。厚塗りコートを行う場合や、バルク溶液全体の不溶化を行う場合は、ある程度の長時間が必要であるが、薄層コートの場合は、むしろ短時間での前述の時間範囲が好ましい。ヒドロキシプロピルセルロース水溶液を用いた過剰な熱変性を起こす時間は、45℃超付近の温度では75分以上であることが発明者の検討で見出されているが、本発明のポリエステル不織布への被覆の場合は、処理時間と熱変性の関係は、必ずしもこのような長時間でなくとも、過剰変性への危惧があることから、処理時間の上限値を上記に設定したものである。
【0030】
このような、ヒドロキシプロピルセルロースの熱処理に関して、本発明者は、核磁気共鳴装置(プロトンNMR)を用いて被覆するヒドロキシプロピルセルロースの構造の同定を試みた。図2に、プロトンNMRスペクトルチャートの例を示す。3.75ppm近傍に現れるメチン基由来のスペクトルピークAの強度を基準として、4.12ppm近傍に現れるヒドロキシル基由来のスペクトルピークBの強度割合(B/A、%)を比較したとき、シートの安定な親水化性能と強度割合の間に相関があることを見出した。すなわち、該強度割合を12%以上に制御すれば、ヒドロキシプロピルセルロースの優れた親水特性を活かした状態でシートへの固着およびその持続性を発現せしめることが可能となる。該強度割合が12%未満の場合は、ヒドロキシプロピルセルロースの親水化が達成されない可能性があり、その結果、シートの細胞選択性や自発濡れ性低下の恐れがある。該強度割合を適切な範囲に制御せしめる条件について、発明者が鋭意検討した結果、熱処理温度を45℃〜72℃とし、かつ熱処理時間を10秒〜5分とすることが好ましいと分かった。このような、熱処理温度、熱処理時間によりヒドロキシプロピルセルロースの固着や親水特性に影響を及ぼす理由については、ヒドロキシプロピルセルロースが繊維上で形成する構造や相互作用などにおいて変化が生じたためであると考えられる。
【0031】
ヒドロキシアルキルセルロースの繊維上での変化(熱変性)について述べる。ヒドロキシプロピルセルロースが不溶化してシートに固着するようになった後は、ヒドロキシプロピルセルロースの親水性が保持されることが必要となる。ヒドロキシプロピルセルロースの親水性は、ヒドロキシプロピルセルロース分子中のOH基や−O−基と水分子が相互作用(水素結合)することによって発現される。ヒドロキシプロピルセルロースの不溶化は、ヒドロキシプロピルセルロース分子中のOH基や−O−基が隣接するヒドロキシプロピルセルロースのOH基や−O−基と水素結合を形成していくことによって生じるが、その分、ヒドロキシプロピルセルロース分子と水分子との水素結合数が減少していくので親水性が低下する。即ち、ヒドロキシプロピルセルロースを不溶化した場合であっても、加熱温度が高い、加熱時間が長いと(即ち、強く熱変性させると)、親水性が著しく低下する。同時にまた、繊維表面における繊維構成分子との相互作用においては、不溶化プロセスでのヒドロキシプロピルセルロースの脱水和に伴う分子内水素結合、分子間水素結合の進行により、ヒドロキシプロプルセルロース分子内の疎水性構造部の露出が進み、この部位と同じく疎水性基材素材であるポリエステルの間での相互作用(疎水性相互作用など)が増加し、両者の結合、固定化が促進され、安定な被覆構造となると考えられる。ポリエステル繊維表面と直接的に相互作用しているヒドロキシプロピルセルロース成分(ポリエステル分子との相互作用が強く、LCST未満の温度に下げても、水相への脱落が起き難い成分)、および親水性付与に寄与する成分(過剰な変性を受けておらず、プロトンNMRにより性質が規定されるもの)を最適量とし、これらの2成分分子間の絡み合いも保持した固定化を制御するものである。NMRでのシグナル強度割合B/Aは、ヒドロキシプロピルセルロースの不溶化後の水素結合の形成状態を反映した構造変化を表したものと推定される。すなわち、ヒドロキシプロピルセルロース分子が隣のヒドロキシプロピルセルロースと水素結合し、かつ、親水性を保っている状態が好ましい状態であり、先述のB/A=12%以上の範囲に示される。これを達成するには、ヒドロキシプロピルセルロースの好適な加熱温度と加熱時間の両方が必要になる。また、全く変性しない温度条件で処理したものでは30%超となる。従って、この範囲12〜30%にあれば、親水性を維持した状態での最適な固定が出来ているものと判断できる。より好ましいB/Aは12〜25%である。
【0032】
まとめると、繊維に固着されるヒドロキシプロピルセルロースは、湿潤状態で、まず45℃以上の加熱温度で不溶化処理を受けて不溶化されることが必要であり、この時点で疎水性素材への固定化を形成する相互作用を生じる。さらに加熱温度が高すぎたり、加熱時間が適切でなかったりすると、全てのヒドロキシプロピルセルロースの親水性が損なわれるまで進行してしまう。ヒドロキシプロピルセルロースの親水性が損なわれていない熱変性の状態として、ヒドロキシピロピルセルロースの分子の結合状態から上述のB/Aが特定の範囲にあることが重要である。
【0033】
本発明にて用いるヒドロキシプロピルセルロースの特性としては、ヒドロキシプロピル基の置換度、セルロース骨格部の重合度(ヒドロキシプロピルセルロースの分子量)なども選定される。ヒドロキシキシプロピルセルロースとして、ヒドロキシプロポキシル基含量、53.4〜77.5%、粘度2.0〜10.0(mPa・s、at2%水溶液、20℃)を用いることが好ましい。この例としては、日本曹達社製、日曹HPC−SSL、HPC−SL、HPC−Lなどが挙げられる。より好ましくは、粘度6.0〜10.0(mPa・s、at2%水溶液、20℃)である。この範囲の置換度であれば、所望のLCST特性が得られる。また、分子量(粘度)が低すぎると、被覆の際に十分な固定化量と安定性が得られず、高すぎると被覆液の粘度が大きくなったり、溶解性が低下したりするため、不織布への浸透に障害が発生するなどの問題がある。
【0034】
上記のヒドロキシプロピルセルロースの被覆処理後は、被覆に寄与しない成分を十分除くために、洗浄を行うことが好ましい。洗浄は、水洗槽への浸漬、シャワー噴霧などを行うことで実施されるが、被覆層を剥離してしまうような洗浄(例えばアルコール溶液などを用いる)ことは、好ましくない。さらに洗浄後のシートは、乾燥されることで、本発明のシートが形成されるものである。乾燥前には、乾燥効率の向上を目的とし、過剰な水分を絞りやブロー処理、遠心脱水などで低減させておくことも良い。乾燥は、通風乾燥、減圧乾燥、マイクロ波乾燥、凍結乾燥などの各種方法を適応することが可能であるが、この際にシートが濡れた状態で過剰な温度がかかることは、ヒドロキシプロピルセルロースの変性を招く恐れがあるため、温度は45℃を超えない条件にて実施することが好ましい。
【0035】
さらに、上記のヒドロキシプロピルセルロースの被覆後に、より固定化を強化するために、乾燥後に熱処理を行うことも有効である。一般には、被覆される基材のTg(ガラス転移温度)以上の温度処理を行うことで、基材高分子の非晶質部への被覆高分子中の疎水性側鎖などが食い込み、固定化を強固とすることができる。本発明においても、乾燥後での熱処理を用いることも可能である。ポリエステルとヒドロキシプロピルセルロースの固定化の強化にも、この効果は期待できるが、ヒドロキシプロピル基は、必ずしも十分な食い込み効果を発揮する側鎖とはいえないため、前記のような湿潤中でのゲル化挙動と併せて用いることが必要である。
【0036】
乾燥させたヒドロキシプロピルセルロースを被覆した高分子不織布シートの自発的な水濡れ性の指標としては、シート表面に水滴を滴下して、染みこみの時間を計測する方法が一般的である。この方法で、エステル繊維への親水性の付与、保持は大まかには判断することはできる。本発明では、シートをロール状にし、深さ2mmにためた水槽に垂直に立てた際に、ロール外周部において、水が液面から高さ50mmまで上昇する時間を計測することで、より正確な水濡れ性を評価する。この方法は、シートの親水化状態の適否やムラを確認することだけでなく、シートを組み込んだデバイスを想定した際の、初期湿潤化処置(プライミング)の良否を判断することができることから最適な方法となる。本発明では、240秒以内で水の吸い込み上昇が起きることとしている。この範囲であれば、シートの親水化処理が薄層で十分になされており、かつ過剰な不溶化状態になっていないことと考えることができる。240秒以上の時間がかかる場合は、親水化処理が不十分であるか、変性による親水化の低下が発生している可能性がある。より好ましくは、100秒以下であり、実使用でのプライミング操作においても支障の無い特性となる。
【0037】
ヒドロキシプロピルセルロースを被覆した高分子不織布シートからの溶出試験は、過剰量の残留や、固定化の状態、ヒドロキシプロピルセルロース間の相互作用など反映する指標となる。当然のことであるが、溶出物は低いことが好ましく、特に医療用のデバイスは当然のこと、実験用の細胞を扱うためのデバイスであっても、溶出物の低減は望まれることである。溶出成分の絶対値に関しては、各用途での規格に適応した値が適応されるため、一概に決めることは出来ないが、一般的なプラスチック原料の基準(例えば、輸液プラスチック基準など)などに照らし合わせて、その最適設計を計ることが必要である。溶出物試験液中にヒドロキシプロピルセルロースが溶出した際には、ヒドロキシプロピルセルロースの特性に起因し、その抽出液が泡立つことが鋭敏に観察される。泡立ちは各種の医療用デバイスなどでも検査項目として用いられることが多いが、過度の泡立ちは、デバイス通液処理の妨げや安全性にも影響するため好ましくない。本発明では、室温〜70℃程度の水により抽出されるヒドロキシプロピルセルロースの抽出量が、シート重量あたり、0.2mg/g以下であることが好ましい。これは浴比20で抽出した際のシートの抽出液が、泡立たない上限のヒドロキシプロピルセルロース抽出量に相当する。より好ましくは、0.1mg/g以下である。これらの根拠は、本発明者の検討により設計を行った事項に基づく。前出の輸液用プラスチック基準での抽出浴比は10と定められているが、不織布などのかさ高い物体の抽出では、この浴比条件は定量的な抽出が不可能である。また、100mlのカラム容器に、シート吸着材を5g充填した際の充填液の浴比は20となるが、このデバイス設計は、ほぼ不織布を充填するようなデバイスの一般仕様にあるものと判断される。このことから、かなり高濃度での抽出がされることになる、浴比20での抽出液の特性を持って、安全適性の設計判断とした。
【0038】
本発明では、ヒドロキシプロピルセルロースを被覆した高分子不織布シートの溶出試験として、25℃、30分の浸漬試験、および70℃、120分の浸漬試験を実施する。前述のごとく、25℃条件では、ヒドロキシプロピルセルロース分子は、水可溶化性の状態にあり、70℃、120分処理の条件では、完全に不溶化、かつ変性状態とすることができる。25℃での溶出では、非変性状態にあるものが選択的に溶出させることができ、70℃での溶出では、全てを変性状態化させるが、25℃より高い抽出力で変性状態化されたものも抽出することができるものと考える。この両条件で溶出させたヒドロキシプロピルセルロース量を評価することで、結合の安定化、過剰成分の有無を見積もることができる。本発明では、25℃、30分の浸漬試験で溶出させたヒドロキシプロピルセルロースの量に対する、70℃、120分の浸漬試験で溶出させたヒドロキシプロピルセルロース量の比が、0.8〜1.5である。この範囲にあれば、本来の可溶化成分と不溶化、熱変性により脱落してしまう成分に差異が無いことを示しており好ましい。0.8より低い場合は、全体に可溶性が多すぎることから、被覆での固定化が未熟である可能性が示唆され、溶出試験での70℃処理により初めて不溶化変性を起こしている成分が多数あると想定される、また1.5より高い場合は、すでに不溶化、変性している成分(上述のNMRでの変性成分と同様)が、過剰に含まれてしまっていることが示唆される。より好ましくは、0.9〜1.2である。さらに、これらの溶出試験を実施した後に乾燥させ、水滴の滴下により親水性の保持をみることでも、ヒドロキシプロピルセルロースが安定な薄層被覆層として形成していたかどうかの目安とすることもできる。
【0039】
これらの実施形体による本発明の高分子不織布シートは、細胞成分の吸着分離に優位な特性を有し、選択的分離用フィルター、吸着器として用いることが可能である。特に、溶出物を抑えることで安全性が高く、親水性を保持することでプライミング性も良好であるデバイスを提供できるものである。
【実施例】
【0040】
本発明の親水化高分子不織布シートの優れた効果を、以下の実施例によって示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例中で測定した特性値の評価方法を以下に記載する。
【0041】
(1)極細繊維不織布の繊維径
不織布の繊維径は、不織布を走査型電子顕微鏡(SEM)にて撮影し、撮影された繊維と縮尺情報より算出した。任意の繊維20本について計測し、その平均値を不織布の繊維径(μm)とした。
【0042】
(2)かさ密度
不織布を20×100(cm)に切断し、その重量A(g)を測定した。ついで、不織布の幅方向、長さ方向で広い範囲で、20箇所を選定し、厚み計を用いて厚みB(cm)を測定した。これらの値より、かさ密度は、A/B/(20×100)(g/cm)と算出した。
【0043】
(3)ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)含有率
不織布に被覆したヒドロキシプロピルセルロース含有率は、アンスロン試薬による糖の定量により実施した。アンスロン試薬は、アンスロン100mg、硫酸48ml、純水12.5mlを混合して作製した。サンプル20mgを精秤し、氷冷下で純水0.5mlを加え、次いでアンスロン試薬を3ml添加混和する。沸騰水浴中で、10分間加熱し、反応させる。ヒドロキシプロピルセルロースを所定量溶解した標準液を作製し、同様に0.5mlを添加しアンスロンとの反応を行う。冷却後の液をフィルターろ過を行い、620nmの吸光度を測定し、標準液の検量線より、ヒドロキシプロピルセルロースの濃度を求め、サンプルのヒドロキシプロピルセルロース含有率(%)に換算した。
【0044】
(4)NMR測定
ヒドロキシプロピルセルロースの熱変性によるNMR特性を確認するため、次に示す実験を実施した。水にヒドロキシプロピルセルロース(日本曹達 HPC−L)を濃度1重量%となるように均一溶解させた。これを用いて、所定温度と時間(例えば室温〜75℃、15分〜60分など)の処理を実施した。その後、先のそれぞれの加熱温度を超えないような条件下で乾固させて得たヒドロキシプロピルセルロースを10mg秤り取り、重DMSO(DMSO−d6)1mLに溶解させた。これをNMRチューブに投入して400MHz−プロトンNMR測定を行った。用いた測定装置はVarian社製 400MR、測定条件として、共鳴周波数399.796MHz、ロック溶媒DMSOd6、積算回数32回、待ち時間1秒とした。ケミカルシフトの基準として、DMSO由来のピークを2.51ppmとなるようにした。NMR装置付属の解析ソフトを用いて、スペクトルの解析を行った。得たスペクトルチャートから、3.75ppmに現れるスペクトルピークAの強度を基準として、4.12ppmに現れるスペクトルピークBの強度と比較した。具体的には、解析ソフトを用いてスペクトルチャートのベースラインを揃え、ピークAおよびBの強度値を得た後に、強度割合B/A(%)を算出した。これにより、変性に伴うNMRシグナルの特性を把握し、強い変性発生と見なす閾値としてB/Aが12%以下であると決定した。不織布シートに固定化したヒドロキシプロピルセルロースは、重DMSOにシートを浸漬し、重DMSO中にヒドロキシプロピルセルロースを溶出させたものを上記と同様に測定を実施した。
【0045】
(5)親水性試験(水吸い込み試験)
不織布シート12cm×160cmを二つ折にし、その折り目を内側にして、ロール状に丸め、固定リングを用いて形状固定化する。その不織布ロールを、深さ2mmにためた水槽に垂直に立てる(この時刻を時間の開始時間とする)。外部からの観察により、水がシートに吸い込まれる様子を観察し、ロール外周部において、最も早い位置での水が液面から高さ50mmまで上昇するまでの時間を計測する。なお、親水化処理していないものでは、300秒超の時間を要する。
【0046】
(6)溶出物試験(25℃、70℃)
フラスコに、サンプル2.5gに対して純水50mlを加え浸漬させる。この容器を、25℃または70℃の水浴に入れ、25℃は30分、70℃は120分間の抽出を行う。抽出後の液を測定液として、前述のアンスロン試薬を用いて、ヒドロキシプロピルセルロース濃度を定量し、サンプルからの溶出量(mg(HPC重量)/g(シート重量))を算出した。それぞれの値から、70℃溶出量÷25℃溶出量にて、溶出(70/25)比を算出した。なお、溶出量の検出限界は、0.02mg/gであった。
【0047】
(7)細胞捕捉試験(白血球、血小板の捕捉試験)
サンプルシートを、積層充填した吸着カラムを作製した。内径16mm径の円筒型カラムにシートを同サイズに加工し、重量約0.20gとなるように適当枚数を積層し、外周のショートパスが無いように液密に充填し、上下に処理液の流入口を有するキャップを取り付けたカラムを作製した。上下キャップによる挟み込みの調整により、シート層の厚みを調整し、所望のかさ密度とした。ヘパリン化ブタ新鮮血を用いて、カラムの通液テスト(通液の速度は、0.74ml/minの定速)を実施し、処理前後の血液をサンプリングし、含有する血球成分(白血球、血小板)の濃度測定を行った。前後の濃度比から各成分の捕捉率を算出した。出口液は、15、30、45、60分経過時点から各5分間のサンプリングを実施し、経時的な評価を実施した。これら通液の流速、カラム中の吸着材の量、入口部の面積などの関係は、概ね現在、臨床などで使用される実用サイズの吸着器の処理条件の比率と一致するものであり、30分間の処理時間が、おおよそ通常サイズでは1L程度の処理量に相当すると概算できる。実施例間の比較は、30分での値を用いて比較した。
【0048】
(不織布シートの作製)
ヒドロキシプロピルセルロース(HPC 日本曹達株式会社製 HPC−L)、2−プロパノール(IPA)、純水を所定量混合し、室温(25℃未満)にて溶解し均一な溶液とした。ヒドロキシプロピルセルロースの被覆処理は、連続的に処理を行える連続処理装置を用いて次の要領で行った。巻き出し用のフリーロールに被覆前のPET製不織布(平均糸径d、かさ密度S)を巻いたロールをセットし、該不織布を巻き出してヒドロキシプロピルセルロース溶液の入った含浸浴に気泡が入らないよう完全に浸漬させた。この間の浸漬時間(Time1)は、シートの走行速度、浸漬する2つの液中ガイド間の長さで制御される。含浸浴から引き上げた後、ニップローラーにて余剰なヒドロキシプロピルセルロース溶液を除去した後、所定の温度(Temp2)に制御した熱水処理(固定化処理)槽へ完全に浸漬させた。浸漬時間(Time2)は、シートの走行速度と浸漬する2つの液中ガイド間の長さで制御する。熱水処理後も再びニップローラーにて余剰水分を除去した。なお長時間の処置を実施する場合は、一旦走行を停止して浸漬のまま所定時間の処理を行った。熱処理に引き続き、洗浄のために、室温の純水をシャワー状に吹き付けた。洗浄時間は、30秒以上の処理を行った。洗浄後に絞り工程を経た後、室温での通風乾燥および低湿度下でのドライボックス放置により完全に乾燥させた。このようにして、ヒドロキシプロピルセルロースが被覆された親水性のPET不織布を作製し、所定の評価に用いた。
【0049】
(実施例1)
PETのメルトブロー不織布、平均繊維径1.8μm、目付け40g/m、かさ密度0.13g/cmの高分子不織布シートを用いて、HPC溶液として、HPC濃度0.05%、IPA濃度5%の水溶液を用い、Time1=15秒の処理を行い、熱処理としてTime2=20秒、Temp2=47℃の条件にて処理を行い、HPC被覆した不織布シートを作製した。得られた不織布シートのHPC含有率は、0.14%、被覆量は、0.84mg/m、NMRでのB/A=24%、溶出物(25℃)=0.04mg/g、溶出物(70℃)=0.04mg/g、溶出物比(70℃/25℃)=1.0、吸上げ時間=60秒であった。これらの条件、結果を表1に示す。本サンプルを用いて、かさ密度0.13g/cmで充填したデバイスを作製し、ブタ血評価を実施した。被覆処理を行っていないものも併せて実施し比較を行った。この結果を表2に示す。また、30分処理時点の性能を表1に示す。これらの結果より、親水化被覆成分の溶出が低減され、高度な白血球除去性能を維持したまま血小板に対する透過性が発現された親水化処置シートとなっている。
【0050】
(実施例2)
PETのメルトブロー不織布、平均繊維径1.8μm、目付け40g/m、かさ密度0.13g/cmのシートを用いて、HPC溶液として、HPC濃度0.05%、IPA濃度5%の水溶液を用い、Time1=15秒の処理を行い、熱処理としてTime2=240秒、Temp2=47℃の条件にて処理を行い、HPC被覆した不織布シートを作製した。得られた不織布シートのHPC含有率は、0.15%、被覆量は、0.90mg/m、NMRでのB/A=22%、溶出物(25℃)=0.04mg/g、溶出物(70℃)=0.05mg/g、溶出物比(70℃/25℃)=1.3、吸上げ時間=50秒であった。これらの条件、結果を表1に示す。本サンプルを用いて、かさ密度0.13g/cmで充填したデバイスを作製し、ブタ血評価を実施した。
【0051】
(実施例3)
PETのメルトブロー不織布、平均繊維径1.8μm、目付け40g/m、かさ密度0.13g/cmのシートを用いて、HPC溶液として、HPC濃度0.05%、IPA濃度5%の水溶液を用い、Time1=15秒の処理を行い、熱処理としてTime2=20秒、Temp2=70℃の条件にて処理を行い、HPC被覆した不織布シートを作製した。得られた不織布シートのHPC含有率は、0.15%、被覆量は、0.90mg/m、NMRでのB/A=22%、溶出物(25℃)=0.05mg/g、溶出(70℃)=0.05mg/g、溶出物比(70℃/25℃)=1.0、吸上げ時間=50秒であった。これらの条件、結果を表1に示す。本サンプルを用いて、かさ密度0.13g/cmで充填したデバイスを作製し、ブタ血評価を実施した。
【0052】
(実施例4)
PETのメルトブロー不織布、平均繊維径1.8μm、目付け40g/m、かさ密度0.13g/cmのシートを用いて、HPC溶液として、HPC濃度0.05%、IPA濃度5%の水溶液を用い、Time1=15秒の処理を行い、熱処理としてTime2=240秒、Temp2=70℃の条件にて処理を行い、HPC被覆した不織布シートを作製した。得られた不織布シートのHPC含有率は、0.17%、被覆量は、1.0mg/m、NMRでのB/A=15%、溶出物(25℃)=0.05mg/g、溶出物(70℃)=0.07mg/g、溶出物比(70℃/25℃)=1.4、吸上げ時間=130秒であった。これらの条件、結果を表1に示す。本サンプルを用いて、かさ密度0.13g/cmで充填したデバイスを作製し、ブタ血評価を実施した。
【0053】
(実施例5)
PETのメルトブロー不織布、平均繊維径1.8μm、目付け40g/m、かさ密度0.13g/cmのシートを用いて、HPC溶液として、HPC濃度0.20%、IPA濃度5%の水溶液を用い、Time1=15秒の処理を行い、熱処理としてTime2=240秒、Temp2=47℃の条件にて処理を行い、HPC被覆した不織布シートを作製した。得られた不織布シートのHPC含有率は、0.31%、被覆量は、1.9mg/m、NMRでのB/A=21%、溶出物(25℃)=0.09mg/g、溶出物(70℃)=0.08mg/g、溶出物比(70℃/25℃)=0.89、吸上げ時間=50秒であった。これらの条件、結果を表1に示す。本サンプルを用いて、かさ密度0.13g/cmで充填したデバイスを作製し、ブタ血評価を実施した。
【0054】
(実施例6)
PETのメルトブロー不織布、平均繊維径3.5μm、目付け50g/m、かさ密度0.15g/cmのシートを用いて、HPC溶液として、HPC濃度0.05%、IPA濃度5%の水溶液を用い、Time1=15秒の処理を行い、熱処理としてTime2=20秒、Temp2=47℃の条件にて処理を行い、HPC被覆した不織布シートを作製した。得られた不織布シートのHPC含有率は、0.11%、被覆量は、1.3mg/m、NMRでのB/A=23%、溶出物(25℃)=0.03mg/g、溶出物(70℃)=0.03mg/g、溶出物比(70℃/25℃)=1.0、吸上げ時間=80秒であった。これらの条件、結果を表1に示す。本サンプルを用いて、かさ密度0.25g/cmで充填したデバイスを作製し、ブタ血評価を実施した。
【0055】
(実施例7)
PETのメルトブロー不織布、平均繊維径6.0μm、目付け60g/m、かさ密度0.20g/cmのシートを用いて、HPC溶液として、HPC濃度0.05%、IPA濃度5%の水溶液を用い、Time1=15秒の処理を行い、熱処理としてTime2=20秒、Temp2=47℃の条件にて処理を行い、HPC被覆した不織布を作製した。得られた不織布のHPC含有率は、0.07%、被覆量は、1.4mg/m、NMRでのB/A=23%、溶出物(25℃)=0.02mg/g、溶出物(70℃)=0.02mg/g、溶出物比(70℃/25℃)=1.0、吸上げ時間=120秒であった。これらの条件、結果を表1に示す。本サンプルを用いて、かさ密度0.30g/cmで充填したデバイスを作製し、ブタ血評価を実施した。
【0056】
(比較例1)
PETのメルトブロー不織布、平均繊維径1.8μm、目付け40g/m、かさ密度0.13g/cmのシートを用いて、HPC溶液として、HPC濃度0.05%、IPA濃度5%の水溶液を用い、Time1=15秒の処理を行い、熱処理としてTime2=6秒、Temp2=47℃の条件にて処理を行い、HPC被覆した不織布シートを作製した。得られた不織布シートのHPC含有率は、0.04%、被覆量は、0.24mg/m、NMRでのB/A=32%、溶出物(25℃)=0.03mg/g、溶出物(70℃)=0.02mg/g、溶出物比(70℃/25℃)=0.67、吸上げ時間=300秒以上であった。これらの条件、結果を表1に示す。本サンプルを用いて、かさ密度0.13g/cmで充填したデバイスを作製し、ブタ血評価を実施した結果を表2に示す。これらの結果より、十分なHPC被覆が出来ておらず、プライミング性が悪く、血小板に対する透過性の低下を起こすシートとなっている。
【0057】
(比較例2)
PETのメルトブロー不織布、平均繊維径1.8μm、目付け40g/m、かさ密度0.13g/cmのシートを用いて、HPC溶液として、HPC濃度0.05%、IPA濃度5%の水溶液を用い、Time1=15秒の処理を行い、熱処理としてTime2=360秒、Temp2=70℃の条件にて処理を行い、HPC被覆した不織布シートを作製した。得られた不織布シートのHPC含有率は、0.21%、被覆量は、1.3mg/m、NMRでのB/A=8%、溶出物(25℃)=0.03mg/g、溶出物(70℃)=0.06mg/g、溶出物比(70℃/25℃)=2.0、吸上げ時間=300秒以上であった。これらの条件、結果を表1に示す。本サンプルを用いて、かさ密度0.13g/cmで充填したデバイスを作製し、ブタ血評価を実施した。これらの結果より、HPCの変性が多くなり、プライミング性が悪く、血小板に対する透過性の低下を起こすシートとなっている。
【0058】
(比較例3)
PETのメルトブロー不織布、平均繊維径1.8μm、目付け40g/m、かさ密度0.13g/cmのシートを用いて、HPC溶液として、HPC濃度0.05%、IPA濃度5%の水溶液を用い、Time1=15秒の処理を行い、熱処理としてTime2=20秒、Temp2=40℃の条件にて処理を行い、HPC被覆した不織布シートを作製した。得られた不織布シートのHPC含有率は、0.04%、被覆量は、0.24mg/m、NMRでのB/A=33%、溶出物(25℃)=0.02以下mg/g、溶出物(70℃)=0.02以下mg/g、溶出物比(70℃/25℃)は算出不能、吸上げ時間=300秒以上であった。これらの条件、結果を表1に示す。本サンプルを用いて、かさ密度0.13g/cmで充填したデバイスを作製し、ブタ血評価を実施した。これらの結果より、十分なHPC被覆が出来ておらず、プライミング性が悪く、血小板に対する透過性の低下を起こすシートとなっている。
【0059】
(比較例4)
PETのメルトブロー不織布、平均繊維径1.8μm、目付け40g/m、かさ密度0.13g/cmのシートを用いて、HPC溶液として、HPC濃度0.05%、IPA濃度5%の水溶液を用い、Time1=15秒の処理を行い、熱処理としてTime2=240秒、Temp2=75℃の条件にて処理を行い、HPC被覆した不織布シートを作製した。得られた不織布シートのHPC含有率は、0.21%、被覆量は、1.3mg/m、NMRでのB/A=10%、溶出物(25℃)=0.04mg/g、溶出物(70℃)=0.07mg/g、溶出物比(70℃/25℃)=1.8、吸上げ時間=300秒以上であった。これらの条件、結果を表1に示す。本サンプルを用いて、かさ密度0.13g/cmで充填したデバイスを作製し、ブタ血評価を実施した。これらの結果より、HPCの変性が多くなり、プライミング性が悪く、血小板に対する透過性の低下を起こすシートとなっている。
【0060】
(比較例5)
PETのメルトブロー不織布、平均繊維径1.8μm、目付け40g/m、かさ密度0.13g/cmのシートを用いて、HPC溶液として、HPC濃度0.20%、IPA濃度5%の水溶液を用い、Time1=15秒の処理を行い、熱処理としてTime2=20秒、Temp2=40℃の条件にて処理を行い、HPC被覆した不織布シートを作製した。得られた不織布シートのHPC含有率は、0.42%、被覆量は、2.5mg/m、NMRでのB/A=31%、溶出物(25℃)=0.29mg/g、溶出物(70℃)=0.21mg/g、溶出物比(70℃/25℃)=0.72、吸上げ時間=50秒であった。これらの条件、結果を表1に示す。本サンプルを用いて、かさ密度0.13g/cmで充填したデバイスを作製し、ブタ血評価を実施した。これらの結果より、被覆量が多く、かつ十分な安定な固定化が出来ておらず、溶出物の非常に高いシートとなっている。
【0061】
(比較例6)
PETのメルトブロー不織布、平均繊維径1.8μm、目付け40g/m、かさ密度0.13g/cmのシートを用いて、HPC溶液として、HPC濃度0.5%、IPA濃度5%の水溶液を用い、Time1=15秒の処理を行い、熱処理としてTime2=240秒、Temp2=70℃の条件にて処理を行い、HPC被覆した不織布シートを作製した。得られた不織布シートのHPC含有率は、0.70%、被覆量は、4.2mg/m、NMRでのB/A=26%、溶出物(25℃)=0.57mg/g、溶出物(70℃)=0.60mg/g、溶出物比(70℃/25℃)=1.1、吸上げ時間=60秒以上であった。これらの条件、結果を表1に示す。本サンプルを用いて、かさ密度0.13g/cmで充填したデバイスを作製し、ブタ血評価を実施した。これらの結果より、被覆量が多く、溶出物の非常に高いシートとなっている。
【0062】
【表1】
【0063】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の高分子不織布シートは、素材として、医療、生体材料として相応しい高分子を用いており、医療機器、バイオ研究などの選択的分離用フィルター、吸着器として用いることに極めて好適である。特に、安全性が高く、プライミング性も良好であることから臨床応用も可能となるデバイスを提供できるものである。
図1
図2