特許第6332603号(P6332603)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6332603
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】防錆剤組成物
(51)【国際特許分類】
   C23F 11/12 20060101AFI20180521BHJP
   C23F 11/16 20060101ALI20180521BHJP
   C23F 11/14 20060101ALI20180521BHJP
   C23F 11/18 20060101ALI20180521BHJP
【FI】
   C23F11/12 101
   C23F11/16
   C23F11/14
   C23F11/18
   C23F11/14 101
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-33064(P2014-33064)
(22)【出願日】2014年2月24日
(65)【公開番号】特開2015-157983(P2015-157983A)
(43)【公開日】2015年9月3日
【審査請求日】2016年11月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000132404
【氏名又は名称】株式会社スリーボンド
(72)【発明者】
【氏名】伊東 寛明
(72)【発明者】
【氏名】小嶋 一宏
【審査官】 辰己 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開平7−070558(JP,A)
【文献】 特表2012−508297(JP,A)
【文献】 特開2005−239885(JP,A)
【文献】 特開平11−350172(JP,A)
【文献】 特開2003−013266(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23F 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)〜(C)成分を含み、(C)成分が(C−1)〜(C−4)成分を含む防錆剤組成物。
(A)成分:媒体
(B)成分:クエン酸系緩衝剤またはリンゴ酸系緩衝剤
(C)成分:防錆剤
(C−1)成分:グルタミン酸ナトリウム
(C−2)成分:下記の式1の化学構造を有する化合物
(C−3)成分:下記の一般式2の化学構造を有する化合物
(一般式2の中で、Rは水素を示す)
(C−4)成分:硝酸ナトリウム
【請求項2】
クーラント添加剤として用いられる請求項1に記載の防錆剤組成物。
【請求項3】
アルミニウム合金製ラジエタに用いられる請求項1または2に記載の防錆剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特にアルミニウムまたはその合金に対して防錆効果を有する防錆剤組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
引用文献1には、トリアゾール類を含む防錆剤組成物が非鉄金属に対して防錆効果があると記載されている。しかしながら、アルミニウムまたはアルミニウム合金を対象にしておらず、常温における防錆試験を行っているのみである。
【0003】
引用文献2には、ベンゾトリアゾールと水溶性アミンの付加塩とt−ブチル安息香酸と水溶性アミンの付加塩を合成して添加している。付加塩として用いることで溶解性が向上する旨が記載されている。しかしながら、溶解性を必要としている理由は、引用文献2の発明を直接クーラントに投入するからであり、溶解した状態でクーラントに添加すれば付加塩にする必要は無い。また、リン酸系緩衝剤を用いており、昨今の環境汚染を発生させる恐れがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭60−251287号公報
【特許文献2】特開昭60−162785号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来は、腐食しやすいアルミニウムやその合金に対して防錆効果が発現しにくく、特にリン酸系緩衝剤を用いていない防錆剤組成物では、90℃雰囲気に放置する高温雰囲気などの信頼性試験では腐食が進みやすやすく、防錆効果を維持することが困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するべく鋭意検討した結果、防錆剤組成物に関する本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明の要旨を次に説明する。本発明の第一の実施態様は、(A)〜(C)成分を含み、(C)成分が(C−1)〜(C−4)成分を含む防錆剤組成物である。
(A)成分:媒体
(B)成分:緩衝剤
(C)成分:防錆剤
(C−1)成分:1分子中にカルボン酸とアミンを有する化合物および/またはその塩
(C−2)成分:下記の一般式1の化学構造を有する化合物および/またはその誘導体
(C−3)成分:下記の一般式2の化学構造を有する化合物および/またはその誘導体
(C−4)成分:硝酸塩
【0008】
本発明の第二の実施態様は、(B)成分が、クエン酸系緩衝剤またはリンゴ酸系緩衝剤である第一の実施態様に記載の防錆剤組成物である。
【0009】
本発明の第三の実施態様は、クーラント添加剤として用いられる第一又は第二の実施態様に記載の防錆剤組成物である。
【0010】
本発明の第四の実施態様は、アルミニウム合金製ラジエタに用いられる第一又は第二の実施態様に記載の防錆剤組成物である。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、腐食しやすいアルミニウムやその合金に対して防錆効果が発現し、リン酸系緩衝剤を用いていなくても、90℃などの高温雰囲気でも防錆効果を維持する防錆剤組成物である。本発明は、アルミニウムまたはその合金製のラジエタのクーラントに添加することができ、信頼性試験後も錆の発生を抑制する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の詳細を次に説明する。本発明で使用することができる(A)成分としては、各成分を溶解させる媒体であり、好ましくは組成物を透明で均一にする媒体である。特に好ましくは、親水性を有する媒体であり、1種類を単独で使用しても、2種類以上を混合して使用しても良い。
【0013】
(A)成分の具体例としては、イオン交換水、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ヘキシレングリコールなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0014】
本発明で使用することができる(B)成分としては、緩衝剤である。緩衝剤は、少量の酸や塩基を加えたり、多少濃度が変化したりしてもpHが大きく変化しないようにする緩衝作用を有する溶液を指す。
【0015】
緩衝剤の具体例としては、リン酸系緩衝剤、クエン酸系緩衝剤、リンゴ酸系緩衝剤などが知られている。環境汚染を配慮すると、特に好ましくはクエン酸系緩衝剤、リンゴ酸系緩衝剤である。クエン酸系緩衝剤としては、クエン酸一水和物とクエン酸三ナトリウムを質量比で1:4に混合した溶液などが知られ、リンゴ酸系緩衝剤としては、リンゴ酸とリンゴ酸二ナトリウムを質量比で1:4に混合した溶液などが知られているが、これらに限定されるものではない。(B)成分は媒体に溶解させた状態で(A)成分に添加しても、(B)成分をそのまま(A)成分に添加しても良い。
【0016】
(A)成分100質量部に対して、(B)成分は0.1〜5.0質量部添加されていることが好ましい。0.1質量部以上であれば、pHを安定化させることができる。一方、5.0質量部以下であれば、防錆剤組成物に発生する白濁や沈降が抑制できる。
【0017】
本発明で使用することができる(C)成分としては、特定の防錆剤の組み合わせであり、具体的には下記の(C−1)〜(C−4)成分の組み合わせである。また、防錆剤組成物の特性を低下させない範囲で、(C)成分以外の防錆剤を添加することもできる。
【0018】
(C−1)成分としては、1分子中にカルボン酸とアミンを有する化合物および/またはその塩である。1種類を単独で使用しても、2種類以上を混合して使用しても良い。(C−1)成分の具体例としては、グルタミン酸、グルタミン酸ナトリウム、グルタミン酸カリウム、アスパラギン酸、アスパラギン酸ナトリウム、アスパラギン酸カリウム、2,6−ジアミノヘキサン酸、2,6−ジアミノヘキサン酸ナトリウム、2,6−ジアミノヘキサン酸カリウム、2−アミノ−3−メチル吉草酸、2−アミノ−3−メチル吉草酸ナトリウム、2−アミノ−3−メチル吉草酸カリウムなどが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0019】
(C−2)成分としては、一般式1の化学構造を有する化合物および/またはその誘導体である。1種類を単独で使用しても、2種類以上を混合して使用しても良い。(C−2)の具体例としては、ベンゾチアゾール、2−メルカプトベンゾチアゾールなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0020】
(C−3)成分としては一般式2の化学構造を有する化合物および/またはその誘導体である。ここで、一般式2のRは水素または有機基を示す。1種類を単独で使用しても、2種類以上を混合して使用しても良い。(C−3)成分の具体例としては、ベンゾトリアゾール、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール、1H−ナフト[2,3−d]トリアゾール、4−ニトロベンゾトリアゾールなどが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0021】
(C−4)成分としては硝酸塩である。1種類を単独で使用しても、2種類以上を混合して使用しても良い。(C−4)成分の具体例としては、硝酸ナトリウム、硝酸マグネシウム、硝酸カルシウム、硝酸カリウム、硝酸ストロンチウム、硝酸アルミニウムなどが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【化1】
【化2】
【0022】
(A)成分100質量部に対して、(C)成分の合計が0.1〜20質量部添加されていることが好ましい。0.1質量部以上であれば、防錆効果が発現する。一方、20質量部以下であれば、防錆剤組成物に発生する白濁や沈降が抑制できる。また、(C−1)〜(C−4)成分の比率として、(C−1)成分:(C−2)成分:(C−3)成分:(C−4)成分=1:0.5〜1.5:0.05〜0.3:0.5〜1.5であることが好ましい。
【0023】
防錆剤組成物の最適なpHとしては7.00〜8.00であることが好ましい。当該範囲であれば、防錆剤組成物を高温雰囲気下で放置する際に沈降や白濁が発生しない。
【0024】
本発明の防錆剤組成物は、ラジエタ等に充填されるクーラントの添加剤として使用することができ、ラジエタなどの配管内部の金属腐食を防止することができる。特にアルミニウムやアルミニウム合金製のラジエタに使用することができる。
【0025】
本発明の防錆剤組成物には、本発明の特性を損なわない範囲において顔料、染料などの着色剤、金属粉、炭酸カルシウム、タルク、シリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム等の無機充填剤、難燃剤、有機充填剤、可塑剤、酸化防止剤、消泡剤、レベリング剤、レオロジーコントロール剤等の添加剤を適量配合しても良い。これらの添加により作業性・保存性等に優れた組成物およびその硬化物が得られる。
【実施例】
【0026】
次に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。(以下、防錆剤組成物を単に組成物と呼ぶ。)
【0027】
[参考1〜17、実施例1と2および比較例1〜6]
組成物を調製するために下記の成分を準備した。
(A)成分:媒体
・エチレングリコール(株式会社ゴードー製)
・イオン交換水(共栄製薬株式会社製)
(B)成分:緩衝剤
・緩衝剤1(クエン酸一水和物:クエン酸三ナトリウム=1:4(質量比))
・緩衝剤2(リンゴ酸:リンゴ酸二ナトリウム=1:4(質量比))
(C)成分:防錆剤
・グルタミン酸ナトリウム(試薬)
・ベンゾチアゾール(試薬)
・ベンゾトリアゾール(試薬)
・硝酸ナトリウム(試薬)
その他の防錆剤
・安息香酸ナトリウム(試薬)
・p−tert−ブチル安息香酸ナトリウム(試薬)
・マレイン酸(試薬)
・アジピン酸(試薬)
・ヘプタン酸(試薬)
・ステアリン酸(試薬)
・サリチル酸(試薬)
・ノナン酸(試薬)
・グルタミン酸ナトリウム(試薬)
・ベンゾチアゾール(試薬)
・ベンゾトリアゾール(試薬)
その他の成分
・アセチレン系消泡剤(オルフィンSPC 日信化学工業株式会社製)
【0028】
参考1〜17を調整するため、(A)成分と(B)成分を秤量して、60分間攪拌して(B)成分を溶解させる。その後、(C)成分またはその他の防錆剤、その他成分を秤量した後、60分間攪拌を行う。詳細な調製量は表1に従い、数値は全て質量部で表記する。
【表1】
【0029】
参考1〜17に対して、腐食試験を行った。また、各試験の点数の合計を「総合評価」として記載した。その結果を表2にまとめた。
【0030】
[腐食試験]
JIS K2234に記載の腐食液(1Lのイオン交換水に、硫酸ナトリウムを148mg、塩化ナトリウムを165mg、炭酸水素ナトリウムを138mg加えた溶液)を使用し、腐食液に対して組成物を2質量%添加して浸漬液とする。試験片としてアルミニウム、ステンレス、鉄、銅をそれぞれ浸漬液に浸漬して、媒体が揮発しない様に密封した状態で、25℃雰囲気下で300時間放置した。その後、試験片を取り出し乾燥させて、下記の評価基準により目視で試験片表面の腐食を確認する。それぞれの金属の確認結果を「アルミニウム」、「ステンレス」、「鉄」、「銅」と記載する。
評価基準
○(2点):試験片表面に錆が見られない
△(1点):試験片表面に部分的に錆が見られる
×(0点):試験片全体的に錆が発生している。
【表2】
【0031】
防錆剤を1種類用いた参考1〜11は、4種類の金属の中で少なくとも1種類の金属に錆が発生した。防錆剤を2種類用いた参考12においても、4種類の金属の中で鉄に錆が発生した。防錆剤を3種類用いた参考13〜17においては、防錆剤としてグルタミン酸ナトリウム、ベンゾチアゾール、ベンゾトリアゾールを組み合わせた参考17のみが25℃放置で錆が発生しなかった。
【0032】
実施例1と2および比較例1〜6を調整するため、(A)成分、(B)成分、(C)成分またはその他の防錆剤、その他成分を混合した後、60分間攪拌を行う。詳細な調製量は表3に従い、数値は全て質量部で表記する。
【表3】
【0033】
実施例1と2および比較例1〜6に対して、90℃促進試験後の腐食試験と90℃促進試験後の外観確認を行った。また、各試験の点数の合計を「総合評価」として記載した。その結果を表4にまとめた。
【0034】
[90℃促進試験後の腐食試験]
JIS K2234に記載の腐食液(1Lのイオン交換水に、硫酸ナトリウムを148mg、塩化ナトリウムを165mg、炭酸水素ナトリウムを138mg加えた溶液)を使用し、腐食液に対して組成物を2質量%添加して「浸漬液」とする。試験片としてアルミニウム、ステンレス、鉄、銅をそれぞれ浸漬液に浸漬して、試験片としてアルミニウム、ステンレス、鉄、銅をそれぞれ浸漬して、媒体が揮発しない様に密封した状態で、90℃雰囲気下で300時間放置した。その後、試験片を取り出し乾燥させて、下記の評価基準により目視で試験片表面の腐食を確認する。それぞれの金属の確認結果を「アルミニウム」、「ステンレス」、「鉄」、「銅」と記載する。
評価基準
○(2点):試験片表面に錆が見られない
△(1点):試験片表面に部分的に錆が見られる
×(0点):試験片全体的に錆が発生している
【0035】
[90℃促進試験後の外観確認]
90℃促進試験後の腐食試験の浸漬液について沈殿又は白濁発生の有無を目視により確認し、下記の評価基準により判断し、確認結果を「外観」と記載する。
評価基準
○(2点):浸漬液に沈殿又は白濁発生が無い
×(0点):浸漬液に沈殿又は白濁発生が有る
【表4】
【0036】
(C)成分としてグルタミン酸ナトリウム、ベンゾチアゾール、ベンゾトリアゾールを組み合わせた比較例1は、90℃雰囲気に放置すると金属に錆が発生しなかったものの、外観に問題があることが確認された。白濁や沈殿が発生する原因は明確ではないが、化学的に大きく変化していることが推測されるため、組成物の状態としては良い状態とは言えない。一方、グルタミン酸ナトリウム、ベンゾチアゾール、ベンゾトリアゾールに対してさらに硝酸ナトリウムを追加した実施例1、2においては、錆も白濁や沈殿が発生せず総合評価が最も良く、(B)成分を変えても同様の作用効果が発現した。(C)成分として硝酸ナトリウムを添加して、他の防錆剤を変えた比較例2〜6は外観に問題があると共に金属にアルミニウムに錆が発生する傾向が見られる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
近年、アルミニウムまたはアルミニウム合金が、車輌の軽量化の観点から使用されることがある。しかしながら、当該金属は腐食し易いという問題点が有り、車輌に使用するに当たっては腐食を抑制することが重要である。本発明の防錆効果であれば、クーラント添加剤に限らず、他の用途にも使用できる防錆剤組成物である。