特許第6332612号(P6332612)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6332612
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】無アルカリガラスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03B 1/00 20060101AFI20180521BHJP
   C03C 1/00 20060101ALI20180521BHJP
   C03C 3/085 20060101ALI20180521BHJP
   C03C 3/091 20060101ALI20180521BHJP
   C03C 3/093 20060101ALI20180521BHJP
   C03C 6/02 20060101ALI20180521BHJP
【FI】
   C03B1/00
   C03C1/00
   C03C3/085
   C03C3/091
   C03C3/093
   C03C6/02
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-67409(P2014-67409)
(22)【出願日】2014年3月28日
(65)【公開番号】特開2015-189620(P2015-189620A)
(43)【公開日】2015年11月2日
【審査請求日】2017年2月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】高谷 辰弥
(72)【発明者】
【氏名】小森 宏師
(72)【発明者】
【氏名】東條 真
【審査官】 吉川 潤
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/129404(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/183625(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/161273(WO,A1)
【文献】 特開2006−069881(JP,A)
【文献】 特許第4219816(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 1/00 − 1/02
C03C 1/00 − 1/02
C03C 3/076 − 3/093
C03C 6/00 − 6/10
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカ源とマグネシウム源を含む混合原料を溶融し、成形する無アルカリガラス基板の製造方法であって、シリカ源として、D50が30〜150μm(ただし、1〜30μmである場合を除く)であるシリカ原料を使用し、かつマグネシウム源としてD90が150μm以下の酸化マグネシウム原料を用いることを特徴とする無アルカリガラスの製造方法。
【請求項2】
ガラス組成中のMgOの含有量が0.5〜5質量%となるように、酸化マグネシウム原料の使用量を調整することを特徴とする請求項1に記載の無アルカリガラスの製造方法。
【請求項3】
マグネシウム源として、D50が50〜120μmである酸化マグネシウム原料を使用することを特徴とする請求項1又は2に記載の無アルカリガラスの製造方法。
【請求項4】
歪点が680℃以上であるガラスとなるように、混合原料を調合することを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の無アルカリガラスの製造方法。
【請求項5】
ガラス組成として酸化物換算の質量%でSiO 55〜70%、Al 16〜25%、B 0〜10%、MgO 0.5〜5%、CaO 3〜13%、SrO 0〜10%、BaO 0〜10%、ZrO 0〜5%を含有し、かつアルカリ金属酸化物の含有量が0.5%以下であるガラスとなるように、混合原料を調合することを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載のガラス基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
本発明は、無アルカリガラスの製造方法に関し、具体的には液晶ディスプレイ、有機EL(OLED)ディスプレイ等のディスプレイ基板等として好適な無アルカリガラスの製造方法に関する。高精細のディスプレイに用いられる無アルカリガラス基板には、多くの要求特性がある。その一つとして歪点が高いことが求められる。ディスプレイの製造工程には、成膜、アニール等の工程が含まれ、これらの工程でガラス基板は数100℃に熱処理される。そのため、熱処理の際に、ガラス基板が熱収縮すると、パターンズレ等が発生し易くなる。よって、ガラス基板には、熱収縮し難いこと、特に歪点が高いことが求められる。このような要求に応じるべく種々のガラス組成およびその製造方法が提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0002】
【特許文献1】特開2012−121738号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
一般に、ガラスは歪点が高いほど、高温粘度が高くなる。特にアルカリ金属成分を実質的に含まない無アルカリガラスは、高温粘度が非常に高く、難溶性ガラスとして知られている。このため、通常、無アルカリガラスの溶融は高温で行われる。ところが高温で溶融すると、ガラス溶融炉を構成する耐火物がガラス融液に侵食されやすくなり、炉の寿命が短くなる。またエネルギー効率も悪くなるので、経済的にも環境的にも問題がある。
【0004】
そこで可能な限り低い温度で無アルカリガラスを溶融することが求められている。しかしながら溶融温度を低下させるとガラスの均質性が悪くなり、脈理(スジ)や泡が製品に残って生産性が悪化する傾向がある。脈理は撹拌工程を通すことで改善することが可能であるが、泡については改善することが難しい。これはガラスの粘度が高いために、気泡が浮上しにくくなるためである。しかも無アルカリガラスの溶融温度を低下させると、SiO濃度の高い層が融液表面に生じ易くなる。この層は高い粘性を有することから、ガラス融液中の気泡がさらに抜け難くなり、ガラス製品に残存しやすくなる。
【0005】
本発明の課題は、溶融温度を低下させても、脈理がなく均質であり、しかも泡品位に優れた無アルカリガラスを得ることが可能な無アルカリガラスの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
SiO濃度の高い層が融液表面に生じる過程は大凡以下の通りである。まずガラス成分の中で、MgO、SrOなどのアルカリ土類金属成分が比較的低温で溶解し、複数の物質と反応して融液を形成し、未溶解原料の下方へ沈んでいく。逆にSiOなど難溶性成分は溶け残り、融液上部に浮きやすく、成分が分離(溶融分離)する。低温で無アルカリガラスを溶融すると、SiO成分が溶け残りやすくなり、この現象がさらに顕著になる。
【0007】
本発明者等は種々の実験を行った結果、粒径の細かい酸化マグネシウムをマグネシウム原料として使用することにより、上記課題が解決できることを見出し、本発明として提案するものである。
【0008】
即ち、本発明の無アルカリガラスの製造方法は、シリカ源とマグネシウム源を含む混合原料を溶融し、成形する無アルカリガラス基板の製造方法であって、マグネシウム源としてD90が150μm未満の酸化マグネシウム原料を用いることを特徴とする。本発明において「無アルカリガラス」とは、アルカリ金属酸化物の含有量が0.5%以下であるガラスを意味する。
【0009】
上記構成によれば、酸化マグネシウム原料が溶解する際に、周囲に存在するシリカ原料等と容易に反応し、シリカ成分とマグネシウム成分を含む融液が形成され、溶融炉底部へと沈降する。これにより、溶け残るシリカ原料が減少し、SiO濃度の高い層が融液表面に形成されにくくなる。その結果、融液に含まれる気泡が抜けやすくなる。またシリカ成分がマグネシウム成分等とともに融液化し、溶融分離が起こりにくいことから、得られるガラスが均質になりやすい。
【0010】
しかも溶融温度を高温にしなくても、脱泡や均質化が可能であるため、ガラス生産に必要なエネルギーを削減することも可能となる。またガラス溶融炉の長寿命化にも効果がある。
【0011】
本発明においては、ガラス組成中のMgOの含有量が0.5〜5質量%となるように、酸化マグネシウム原料の使用量を調整することが好ましい。
【0012】
本発明においては、シリカ源として、D50が10〜150μmであるシリカ原料を使用することが好ましい。
【0013】
上記構成によれば、シリカ原料が一層溶解し易くなる。
【0014】
本発明においては、歪点が680℃以上であるガラスとなるように、混合原料を調合することが好ましい。
【0015】
歪点が680℃以上であるガラスは、高温粘度が高く難溶融性であることから、本発明の効果を的確に享受することができる。
【0016】
本発明においては、ガラス組成として酸化物換算の質量%でSiO 55〜70%、Al 16〜25%、B 0〜10%、MgO 0.5〜5%、CaO 3〜13%、SrO 0〜10%、BaO 0〜10%、ZrO 0〜5%を含有し、かつアルカリ金属酸化物の含有量が0.5%以下であるガラスとなるように、混合原料を調合することが好ましい。
【0017】
上記組成のガラスは、高温粘度が高く難溶融性であることから、本発明の効果を的確に享受することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態のガラス基板の製造方法について説明する。なお、各成分の含有範囲の説明において、%表示は質量%を指す。
【0019】
まず、目標となるガラス組成となるようにガラス原料を調合し混合する。ガラス原料として、例えばシリカ源、ホウ素源、アルミナ源及びアルカリ土類金属源等となるガラス原料を混合してバッチを調製する。原料の混合方法は特に限定されるものではない。例えばパン型ミキサーやロータリーミキサー等が使用可能であり、1回あたりの混合重量に応じて最適な混合方法を適宜決定すればよい。
【0020】
目標ガラス組成として、例えば、酸化物基準の質量%で、SiO 55〜70%、Al 16〜25%、B 0〜10%、MgO 0.5〜5%、CaO 3〜13%、SrO 0〜10%、BaO 0〜10%、ZrO 0〜5%であり、かつアルカリ金属酸化物の含有量が0.5%以下となるようにガラス原料を調合する。このような目標ガラス組成とすることで、ディスプレイ用ガラス基板に要求される種々の特性を満足させることができる。なお、組成範囲を上記の通りとした理由は後述する。
【0021】
以下、本発明において使用するガラス原料について説明する。
(シリカ源)
シリカ源としては、天然珪砂(SiO)や珪石粉を用いることができる。シリカ原料は、D50が10〜300μm、20〜150μm、10〜150μm、特に30〜150μmのものを使用することが好ましい。シリカ原料の粒度が粗すぎると、酸化マグネシウム原料との反応が起こりにくくなり、溶融分離が生じてSiO濃度の高い層が融液表面に生じ易くなる。またこれを回避するために溶融温度を高くすると、溶融炉のライフが短くなったり、エネルギー効率が悪くなったりする。なおシリカ原料の粒度が細かすぎると、凝集が生じて粗大な二次粒子を形成し、SiOの未溶解粒子や溶融分離が発生するなどの不具合を生じるおそれがある。
(ホウ素源)
ホウ素源としては、オルトホウ酸(HBO)、メタホウ酸(HBO)、および四ホウ酸(H)等の含水ホウ酸塩、ならびに酸化ホウ素(B)等を用いることができる。オルトホウ酸、メタホウ酸、および四ホウ酸を合量で、全ホウ素源のうち80〜95質量%含むものをホウ素源として用いる。80%よりも少ないと、溶融ガラス中の水分量が不足して高温粘度が上昇し、均質な溶融ガラスを得難くなる。95%より多いと、ガラス原料バッチ中の水分量が多くなりすぎてガラス原料が凝集し易くなる。
(アルミナ源)
アルミナ源としては、アルミナ(Al)、及び水酸化アルミニウム(Al(OH))を用いることができる。アルミニウム源として、水酸化アルミニウムを、全アルミニウム源のうち質量割合で5〜100%含むものを用いることが好ましい。5%よりも少ないと溶融ガラス中の水分量が不足して高温粘度が上昇し、均質な溶融ガラスを得難くなる。
(アルカリ土類金属源)
カルシウム源として炭酸カルシウム(CaCO)等、マグネシウム源として酸化マグネシウム(MgO)等、バリウム源として硝酸バリウム(Ba(NO)等、ストロンチウム源として硝酸ストロンチウム(Sr(NO)等を用いることができる。
【0022】
本発明においては、マグネシウム源として用いる酸化マグネシウムにD90が150μm以下、好ましくは120〜150μm、特に130〜150μmのものを使用する。また酸化マグネシウムのD50は50〜120μm、特に70〜100μmであることが好ましい。酸化マグネシウム原料の粒度が粗すぎると、シリカ原料との反応性が低くなって、原料溶解時にSiO濃度の高い層が融液表面に生じ易くなり、融液中の気泡の除去が難しくなる。またこれを回避するために溶融温度を高くすると、溶融炉のライフが短くなったり、エネルギー効率が悪くなる等の不都合が生じる。なお酸化マグネシウム原料の粒度が細かすぎると、原料の混合時に偏析が発生する等の不具合が生じるおそれがある。
(ジルコニア源)
ジルコニア源としては、ジルコン(ZrO・SiO)、ジルコニア(ZrO)等を用いることができる。
【0023】
次に、目標組成において各成分の割合を上記のように限定した理由について説明する。
【0024】
高精細のディスプレイに用いられるガラス基板には、多くの要求特性がある。特に、以下の(1)〜(7)の特性が要求される。上記ガラス組成によれば、これらの特性を同時に満たすことができる。
【0025】
(1)ガラス中のアルカリ成分が多いと、熱処理中にアルカリイオンが成膜された半導体物質中に拡散し、膜の特性の劣化を招く。よって、アルカリ成分(特に、Li成分、Na成分)の含有量が少ないこと、望ましくは実質的に含有しないこと。
【0026】
(2)フォトリソグラフィーエッチング工程では、種々の酸、アルカリ等の薬液が使用される。よって、耐薬品性に優れていること。
【0027】
(3)成膜、アニール等の工程で、ガラス基板は数100℃に熱処理される。熱処理の際に、ガラス基板が熱収縮すると、パターンズレ等が発生し易くなる。よって、熱収縮し難いこと、特に歪点が高いこと。
【0028】
(4)熱膨張係数が、ガラス基板上に成膜される部材(例えば、a−Si、p−Si)に近いこと。例えば、熱膨張係数が30〜45×10−7/℃であること。なお、熱膨張係数が45×10−7/℃以下であると、耐熱衝撃性も向上する。
【0029】
(5)ガラス基板の撓みに起因する不具合を抑制するために、ヤング率(又は比ヤング率)が高いこと。
【0030】
(6)泡、ブツ、脈理等の溶融欠陥を防止するために、溶融性に優れていること。
【0031】
(7)ガラス基板中の異物発生を避けるために、耐失透性に優れていること。
【0032】
以下、ガラス組成の各成分について説明する。
【0033】
SiOの含有量は好ましくは55〜70%、より好ましくは58〜65%である。SiOの含有量が55%より少ないと、ガラスの歪点が低下し、ディスプレイ装置を製造する際の熱処理工程で、ガラス基板が割れたり、熱変形や、熱収縮が起こりやすくなったりする。また熱膨張係数が大きくなりすぎて、周辺材料の熱膨張係数との整合性が取りにくくなったり、耐熱衝撃性が低下しやすくなったりする。さらに、耐酸性も悪化する。一方、SiOの含有量が70%より多いと、ガラスの高温粘度が高くなり、ガラスの溶融や成形が困難となる。また、熱膨張係数が小さくなりすぎて、周辺材料の熱膨張係数との整合性が取りにくくなる。
【0034】
Alの含有量が多すぎると、ガラスの歪点が低下し、ディスプレイを製造する際の熱処理工程で、ガラス基板が割れたり、熱変形や熱収縮が起こりやすくなったりする。一方、Alの含有量が少なすぎると、ガラスの耐バッファードフッ酸性が低下したり、ガラスの液相温度が上昇してガラス基板の成形が困難になったりする。Al含有量の好適な範囲は16〜25%、より好ましくは16〜20%である。
【0035】
は、ガラスの粘性を低下させ、かつガラスの溶融性を高める成分であるが、過剰に含有すると、ガラスの歪点が低くなり、ディスプレイを製造する際の熱処理工程で、ガラス基板が割れたり、熱変形や熱収縮が起こりやすくなったりする。B含有量の好適な範囲は0.1〜10%、より好ましくは0.1〜7.5%、さらに好ましくは0.1〜6%である。
【0036】
MgOは、ガラスの歪点を低下させずに、高温粘度を低下させて、ガラスの溶融性を改善する成分である。MgOの含有量が多すぎると、クリストバライトやエンスタタイトの失透ブツが発生しやすくなる傾向にある。さらに耐バッファードフッ酸性が低下し、フォトエッチング工程でガラス基板が侵食され、その反応生成物がガラス基板の表面に付着し、ガラス基板が白濁しやすくなる。MgOの含有量が少なすぎると上記効果が得られない。MgO含有量の好適な範囲は0.5〜5%、より好ましくは0.5〜3%、さらに好ましくは0.5〜2.5%である。
【0037】
CaOは、ガラスの歪点を低下させずに高温粘度のみを低下させて、ガラスの溶融性を改善する。CaOの含有量が多すぎると、耐バッファードフッ酸性が低下するとともに、ガラスの密度や熱膨張係数が上昇する。CaOの含有量が少なすぎると高温粘度が上昇し溶融性が悪化し易くなる。CaO含有量の好適な範囲は3〜13%、より好ましくは2.5〜8%である。
【0038】
SrOは、ガラスの耐薬品性と耐失透性を向上させる成分である。SrOの含有量が多すぎると、ガラスの密度や熱膨張係数が上昇する。SrO含有量の好適な範囲は0〜10%、より好ましくは1.5〜4.5%である。
【0039】
BaOは、ガラスの耐薬品性と耐失透性を向上させる成分である。BaOの含有量が多すぎると、ガラスの密度や熱膨張係数が上昇する。BaO含有量の好適な範囲は0〜10%、より好ましくは、1〜10%である。
【0040】
ZrOは、ガラスの耐薬品性、特に耐酸性を改善し、ヤング率を向上させる成分である。ZrOの含有量が多すぎると、ガラスの液相温度が上昇し、ジルコンの失透ブツが出やすくなる。ZrO含有量の好適な範囲は0〜5%、より好ましくは0.1〜1%である。
【0041】
また、目標ガラス組成において、上記の成分以外にもZnO、TiO、P等を添加しても良い。
【0042】
ZnOは、ガラスの耐バッファードフッ酸性を改善するとともに、ガラスの溶融性を改善する成分である。ZnOの含有量が多すぎると、ガラスが失透しやすくなったり、歪点が低下したりする。ZnO含有量の好適な範囲は0〜5%である。
【0043】
TiOは、高温粘性を下げて溶融性を高め、また化学的耐久性を高める効果があるが、導入量が過剰になると、紫外線透過率が低下し易くなる。TiOの含有量は、好ましくは0〜5%以下である。なお、TiOを極少量導入(例えば0.001%以上)すると、紫外線による着色を抑制する効果が得られる。
【0044】
は、歪点を高める成分であると共に、アノーサイト等のアルカリ土類アルミノシリケート系の失透結晶の析出を抑制し得る成分である。但し、Pを多量に含有させると、ガラスが分相し易くなる。Pの含有量は、好ましくは0〜5%である。
【0045】
清澄剤として、As、Sb、SnO、SO、CeO、F、Cl等を用いることができる。これらの含有量は、合量で3%以下が好ましい。またこれらの清澄剤の中ではSnOを使用することが好ましく、その含有量は0.01〜2%であることが望ましい。
【0046】
本発明の方法で作製されるガラス基板が液晶ディスプレイ基板等に使用される場合、ガラス中にアルカリ金属酸化物(LiO、NaO、KO、特にLiO、NaO)を実質的に含有しないことが好ましい。アルカリ金属酸化物を実質的に含有しないとは、その含有量を0.5%以下に抑えるという意味である。アルカリ金属酸化物の含有量が合量で0.5%を超えると、基板上にTFTを成膜する際の熱処理時に、アルカリ金属が成膜されたTFT半導体物質中に拡散し、膜特性が劣化する。
【0047】
上記以外にも、ガラス特性が損なわれない限り、種々の成分を添加可能である。例えばY、La、Nd等を添加しても良い。
【0048】
目標ガラス組成は、得られるガラス基板の歪点が、680℃以上、690℃以上、特には700℃以上となるよう定めることが好ましい。
【0049】
次いで調合した原料混合物(及び必要に応じて、目標とするガラスと同じ組成のガラスカレット)を、溶融炉のガラス原料投入口から投入し、溶融、ガラス化する。溶融炉への原料バッチの投入は、原料フィーダー、例えばスクリューチャージャーなどを用い、連続的、或いは断続的に行う。溶融炉内部に投入された原料は、バーナーなどの燃焼雰囲気或いは電極の発熱等によって加熱され、個々の原料が反応して溶解、ガラス化する。ガラスの溶融温度は通常1500〜1700℃程度である。なおガラスカレットとは、ガラスの製造の過程等で排出されるガラス屑である。また溶融炉の構成は特に限定されないが、溶解、清澄及び撹拌機能を備えたものであることが好ましい。
【0050】
次に溶融ガラスを成形装置に供給し、所定の肉厚、表面品位を有するようにガラスを板状に成形する。溶融ガラスを成形装置に供給する際には、徐々に溶融ガラスの温度を低下させ、成形に適した粘度にする。成形方法としては、オーバーフローダウンドロー法を用いることが好ましい。オーバーフローダウンドロー法を用いることで、高い表面品位を有するガラス基板を連続的に容易に製造することができる。なお、スロットダウンドロー法やロールアウト法、フロート法等のその他の従来周知の板ガラス成形法を用いることも可能である。
【0051】
このようにして作製されたガラス基板は、例えば、液晶ディスプレイやOLEDディスプレイ等のフラットパネルディスプレイの基板として用いられる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に説明する。
【0053】
まず質量%で、SiO 59%、Al 19%、B 6.5%、MgO 2.5%、CaO 6%、SrO 1%、BaO 6%、アルカリ金属酸化物0.5%以下のガラス組成となるように、ガラス原料を調合してガラスバッチを調製した。なお、シリカ源としてはD50が90μmの珪砂を用い、またマグネシウム源としてはD50が500μm、D90が710μmの酸化マグネシウムを使用した。なおガラスバッチは、適量のバッチをパン型ミキサーに投入し、十分な時間混合し調製した。
【0054】
続いて調合したガラスバッチを連続溶融炉に投入し、1400〜1500℃で溶融した。続いて溶融ガラスをオーバーフローダウンドロー装置に供給し、ガラスを板状に成形した。
【0055】
このようにして得られたガラス板について、ガラス中に含まれる泡数を計数した。その結果、直径100μm以上の泡数は平均0.4個/kgであった。
【0056】
次に、マグネシウム源を、D50が86μm、D90が150μmの酸化マグネシウムに切り替えて、同様にしてガラス板を製造したところ、切り替え後の泡数は平均0.03個/kgとなった。