(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記森林復興育成支援システムは、森林の状態を観測する森林観測手段からの森林観測情報を受信し、前記投資家の端末に表示する植林成長観測部をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の森林復興育成支援システム。
前記森林復興育成支援システムは、前記森林の整備、育成にかかる費用の見積を森林整備事業者からオンラインで取得する森林整備事業者見積取得部を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の森林復興育成支援システム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、森林の維持、育成のためには、長期の年月と多額の費用を必要とし、国や地方公共団体の取り組みだけではなく、上記施策の最後にもあるように、国民参加の森林づくり(もりづくり)とその多様な利用の促進が不可欠である。特許文献1,2のような森林の排出権取引システムの活用は、民間企業の参加を促すものであるが、二酸化炭素削減目標を割り当てられた企業だけが関心を寄せるのではないかと危惧される。特に、被災地においては、多くの森林が失われたが、そのまま放置されている土地も多く、また、従来は森林ではない土地であっても元の用途に復元することが困難で緑化公園等に転用せざるを得ないような土地も多い、そのため、森林の復興や育成のためには、様々な方面からできる限り多くの支援が必要である。
【0007】
したがって、本発明では、上記のような課題に鑑み、森林の復興、育成を行う事業体に対する支援を提供し、より多くの人々が参加することができる森林復興育成支援システムを構築することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の森林復興育成支援システムは、以下のような解決手段を提供する。
【0009】
(1)森林の復興、育成を目的とする事業体を支援する森林復興育成支援システムであって、前記事業体が作成した前記森林の土地情報、植林区画マップ情報を含む森林復興育成計画の情報を入力させる森林復興育成計画入力手段と、前記入力された森林復興育成計画の情報をデータベースに格納する森林復興育成計画格納手段と、前記森林復興育成計画の対象となる森林の価値を評価値として算出する森林価値評価手段とを備え、前記森林価値評価手段は、前記森林の植林パターンの美的価値、観光価値、広告価値を含む商業的価値の評価値を所定のルールに基づき算出する植林パターン価値評価部と、前記森林復興育成計画格納手段に格納された前記森林復興育成計画及び前記植林パターンの提案に基づき、前記森林を育成、維持するための費用の見積金額を森林整備事業者から受信し、育成・維持コストの評価値を算出する育成・維持コスト評価部と、前記森林復興育成計画格納手段に格納された前記森林復興育成計画及び前記植林パターンの提案に基づいて、前記森林の炭素固定量を予測し、前記植林パターンのCO2吸収量の評価値を算出するCO2吸収量価値評価部と、を備えることを特徴とする。
【0010】
(2)上記(1)の森林復興育成支援システムにおいて、前記森林価値評価手段は、森林の防災的価値及び環境保全価値を専門家から取得し、評価値として数値化する防災・環境保全価値評価部をさらに備えることを特徴とする。
【0011】
(3)上記の(1)又は(2)の森林復興育成支援システムにおいて、前記森林復興育成支援システムは、前記森林復興育成計画格納手段に格納された森林復興育成計画をインターネットを介して投資家に提示する森林復興育成計画提示手段と、前記投資家に植林の樹木種及び樹木の配置計画を含む植林パターンの提案を募集する植林パターン提案受付手段と、をさらに備えることを特徴とする。
【0012】
(4)上記の(3)の森林復興育成支援システムにおいて、前記森林復興育成支援システムは、森林の状態を観測する森林観測手段からの森林観測情報を受信し、前記投資家の端末に表示する植林成長観測部をさらに備えることを特徴とする。
【0013】
(5)上記の(1)〜(4)のいずれかの森林復興育成支援システムにおいて、前記森林復興育成支援システムは、前記森林の整備、育成にかかる費用の見積を森林整備事業者からオンラインで取得する森林整備事業者見積取得部を備えることを特徴とする。
【0014】
(6)上記の(1)〜(5)のいずれかの森林復興育成支援システムにおいて、前記森林価値評価手段は、前記森林の整備、育成にかかる費用の見積から、地域の雇用創出人数を抽出し、前記森林の雇用創出価値の評価値を算出する雇用創出価値評価部をさらに備えることを特徴とする。
【0015】
(7)森林の復興、育成を目的とする事業体を支援する森林復興育成支援方法であって、コンピュータ・システムにおいて、前記事業体が作成した前記森林の土地情報、植林区画マップ情報を含む森林復興育成計画の情報を入力させるステップと、前記入力された森林復興育成計画の情報をデータベースに格納するステップと、前記森林復興育成計画の対象となる森林の価値を評価値として算出する森林価値評価ステップとを有し、前記森林価値評価ステップは、前記森林の植林パターンの美的価値、観光価値、広告価値を含む商業的価値の評価値を所定のルールに基づき算出する植林パターン価値評価ステップと、前記格納された森林復興育成計画及び前記植林パターンの提案に基づき、前記森林を育成、維持するための費用の見積金額を森林整備事業者から受信し、育成・維持コストの評価値を算出する育成・維持コスト評価ステップと、前記格納された森林復興育成計画及び前記植林パターンの提案に基づいて、前記森林の炭素固定量を予測し、前記植林パターンのCO2吸収量の評価値を算出するCO2吸収量価値評価ステップと、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、森林の復興、育成を行う事業体に対する支援を提供し、より多くの人々が参加することができる森林復興育成支援システムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態(以下、実施形態)について詳細に説明する。なお、実施形態の説明の全体を通して同じ要素には同じ番号または符号を付している。また、機能ブロック間の矢印は、データの流れ方向、又は処理の流れ方向を表している。
【0019】
図1は、本発明の実施形態に係る森林復興育成支援システム100の基本概念を示す図である。森林復興育成支援システム100は、森林化の対象となる土地の所有者、又はその土地の所有者の委託を受けた者が事業体(以下、森林復興育成事業体10とする)を形成し、その事業体が、森林化対象土地30を森林として復興(再生)、又は新たに造林し育成する事業を支援するためのシステムである。森林化対象土地30とは、例えば、災害や資源採掘によって荒れた山や土地、又は遊休地、耕作放棄地等であり、元々森林であった土地だけでなく、森林に転用可能な土地を含むものとする。森林復興育成支援システム100は、森林化対象土地30を有効利用することで価値を高め、様々な投資家(寄付を含む)を集め、従来の森林の概念に捉われない新たな森林の活用方法の提供を目指すものである。
【0020】
森林復興育成事業体10は、まず森林復興育成計画40(森林経営計画)を作成し、森林復興育成支援システム100に入力する。森林経営計画とは、本来は、森林の経営に関する長期の方針に基づいて、計画対象森林の現況並びに間伐及び主伐の施業、伐採、造林及び保育の実施計画等を定めた、主に林業に関する計画を意味するが、ここでは、林業だけでなく、より広い意味での森林の経営を意味し、土地情報(場所、面積、地形、土壌、日照条件等の情報)及び土地の環境に基づいた植林可能な区画のマップ情報(植林区画マップ情報)を含むものとする。
【0021】
森林の経営が成り立つためには、森林の育成、維持のための投資の費用対効果が重要であるが、多くの投資家が関心を持てるような魅力的な価値が必要である。そのために、森林復興育成支援システム100は、この森林の価値を数値的に評価し、その評価値の「見える化」を提供する仕組みを有する森林価値評価手段110を備えることを特徴とする。
【0022】
森林価値には、森林を木材資源や燃料資源として捉えた場合のバイオマス(生物由来の有機資源を意味する)価値、地球温暖化対策のためのCO2吸収資源として捉えた場合のCO2吸収量価値、及び防災対策又は水源保全、レクリエーション環境保全、生物多様性保全等の環境保全として捉えた場合の防災・環境保全価値があるが、森林復興育成支援システム100では、森林の樹木及び樹木の配置計画からなる植林パターンの造形美が醸し出す美的価値、森林の観光資源としての観光価値、森林をその地方や企業のPRのために利用する広告資源としての広告価値等の商業的価値を評価の対象とする。
【0023】
このために、森林価値評価手段110には、植林のパターンの美的価値、観光価値、広告価値を含む商業的価値を算出して評価する植林パターン価値評価部111を備えている。また、森林価値評価手段110は、森林の商業的価値を担保するために重要なCO2吸収量価値評価部112を備えている。また、森林を育成・維持していくためのコストも重要な経営的要素となるので、そのコストを見積り評価値として算出する育成・維持コスト評価部113も備えている。さらに、上記のような商業的価値だけでなく、防災や環境保全と言った公共資源としての森林の価値を評価するための防災・環境保全価値評価部114も備えている。ただし、森林復興育成支援システム100は、森林の育成、保全を目的とするため、森林を木材資源や燃料資源として捉えたバイオマス価値の評価は除外する(ただし、果樹林等からの収穫物は含めてもよい)。
【0024】
そして、森林価値評価手段110が、上記の評価項目から算出した総合的な森林価値に基づいて、森林復興又は育成や造成のための投資額を決定し、その投資額に応じて投資家を募り、投資を受け付けるようにしている。また、森林復興育成計画の具体的なデータ(土地データ、植林区画マップ等)が開示されるので、投資家自身も植林パターンを提案したり、提案された植林パターンを評価することができる。植林パターンの価値は、森林の面積や周辺環境によってほぼ一義的に定まるCO2吸収価値や防災・保全価値とは異なり、アイデアしだいで評価が高まり、その評価に基づいて投資を募ることができる。
【0025】
また、植林パターンは、結果として美しい(または珍しい)景色を産み出すこととなり、観光資源になり得る。美しい(珍しい)植林パターンが森林の機能をしっかり保持した上で観光資源になるのであれば、森林の評価は高くなるという考え方も可能である。例えば、「田んぼアート」は、水田の機能はそのまま維持しながら、新たな観光資源となって地域の活性化に貢献している事例である(http://www.nobi.or.jp/tanbo/ 参照)。このように、植林パターンの評価の導入は、森林の価値を大幅に高める可能性を持っている。
【0026】
図示するように、投資家には、個人や法人の一般投資家、CO2の排出権の購入を希望する企業、森林の育成に関心を持つ観光事業者や協賛企業等が含まれる。また、本システムを用いて森林復興事業に参加する場合、投資資金を「リース方式」で調達することにより、資金力のある投資家だけでなく、比較的資力に乏しい個人や小企業も復興事業に参画することが可能である。またリース方式を取ることによって、複数年継続して復興事業に関わることになり、企業のCSR活動にも長く貢献することが可能である。そして、これらの投資家自らも、商業的価値を生み出す植林パターンの提案をインターネットを介して森林復興育成支援システム100に送信することができる。もちろん、投資に直接参加しないがその他の個人や企業からも植林パターンの提案を募集することもできる。なお、投資家は個人であっても企業や団体であってもよいが、苗木1本からでも投資できるものとする。
【0027】
このようにして集められた植林パターンの提案は、植林パターン価値評価部111が、対象の森林に対して、投資家及び森林事業の専門家に投票を求め、その投票の結果から所定のルールに基づき評価値を算出する。そして評価値の高い提案は、実現性の検討後、森林復興育成経営計画に正式に含ませ、投資家からの投資を広く募集するようにする。評価のプロセス自体を公開するようにしてもよい。このようにすることで、行政や一部事業者だけの計画でなく、広く国民が参加可能な森林の復興育成計画とすることができる。なお、評価指標は、「森林の価値」だけでなく「森林復興事業の価値」に置き換えても良い。その際、事業評価の要素に「CSR活動への貢献度」を加えて評価すること等も有効である。
【0028】
図2は、本発明の一実施形態に係る森林復興育成支援システム100(以下、単に「本システム」と呼ぶ)の機能ブロックを示す図である。本図を用いて本システムの構成とその機能について詳しく説明する。
【0029】
本システムは、中核部として森林価値評価手段110を備えることは既に述べたが、さらに、森林復興育成計画入力手段101、植林区画マップデータベース102(図中ではデータベースをDBと略す)、森林復興育成計画提示手段103、植林パターン提案受付手段104、森林整備事業者見積取得部120、CO2排出権取引システムI/F部130、植林成長観測部140、投資受付部150を構成として備えている。以下、それぞれの構成を順に説明する。
【0030】
前述の森林価値評価手段110は、さらに、植林パターン価値評価部111、CO2吸収量価値評価部112、育成・維持コスト評価部113、防災・環境保全価値評価部114、雇用創出価値評価部115から構成されている。各評価部は、後述の植林パターン提案受付手段104が受け付けた植林パターンを評価し、その評価を数値化する。
【0031】
植林パターン価値評価部111は、森林の美的価値や観光価値や広告価値等の商業的価値を算出するために、他の投資家や森林事業や観光業等の専門家に対して、美的観点、商業的観点からの評価を入力してもらう手段を有している。具体的には、植林パターン計画を、本システムが生成する所定のWebサイトに掲示し、その植林パターン計画に対する評価点又は、自分が投資してもよいと考える投資額を投資家端末200から受信する。この評価点の点数を集計し、専門家の評価を加え、重み付けをして点数化する等の所定のルールで、植林パターンの評価値を算出する。この所定のルール自体も公開されるようにしてもよい。
【0032】
図3は、この植林パターンの具体例を概念的に示したものである。パターンAは、防災、景観を復興させるためのパターンであり、例えば、図の例では、津波で破壊された浜辺の森林を復興させるための植林パターンを示したものであり、防災林としての役割と景観面の価値を重視している。
【0033】
また、パターンBは、鉱山跡のように荒廃した山や丘を復興させるためのパターンであり、景観面と新たな観光地として成長させる観光価値を重視している。例えば、図の例では、山全体を桜の木で埋め尽くすような植林パターンの計画を示したものである。山全体を埋め尽くすと言っても、その美的価値、観光価値が重視されるのはもちろんである。
【0034】
また、パターンCは、耕作放棄地等、比較的市街地に近い土地を整備して植林し、植林パターンの広告価値を形成するパターンである。例えば、図の例は、企業のロゴマークを植林パターンとして表現し、その企業のPR効果やイメージアップを狙ったものである。この植林パターンの投資者は、その企業であることは言うまでもない。
【0035】
また、パターンDは、植林パターン自体が持つ造形美の美的価値を重視するパターンである。例えば、図の例のように、植林パターンを絵画やイラストのような芸術的なデザインとし、その絵画やイラストの図柄が樹木の成長と共に完成していく様子を楽しませたり、あるいは区画内の樹木の成長を競わせ陣取合戦のようなゲーム感覚を楽しませたりすることもできる。この場合は、投資家に自分が投資した区画の整備、育成に携わってもらってもよい。
【0036】
このように植林パターンに対して様々な人々からアイデアを出してもらうことによって、森林は、新たな観光スポットや人々の集まる場所として育成できる可能性が生まれる。また、森林への投資者自身がその森林の成長を楽しむことができる。
【0037】
図2に戻り、CO2吸収量価値評価部112は、森林のCO2吸収量を算出し、取引市場に構築されたCO2排出権取引システム400から取得された排出権相場に基づいて、CO2排出権の売却額を決定する。樹木のCO2吸収量は、
図4に示すように、樹木が光合成の際に吸収するCO2の量から、植物自体の呼吸により排出されるCO2量の差分である。これを炭素固定量と呼ぶこともある。光合成によるCO2吸収量は、樹木が成長期にある時期が最大となり、炭素固定量も最大となる。
【0038】
したがって、炭素固定量の算出は、樹木の種類や地域、日照条件等を長期にわたって考慮する必要がある。また、計算値と樹木の生長に合わせて実測値との比較もかかせない。ただし樹木の炭素固定量の算出方法(森林のCO2吸収量の算出方法)自体は、本発明の主眼ではないので、例えば上記特許文献1のような公知の技術を利用するものとする。
【0039】
図5は、森林価値の変化を示す図である。本システムは、すでに述べたように、森林価値評価手段110が、植林パターン価値、防災・環境保全価値、CO2吸収量価値(炭素固定量価値)、育成・維持コストの5つを、森林価値の評価項目として算出する。
図5は、この5つの評価値の変化を、樹齢と共に概念的に示したものである。
【0040】
まず、育成・維持コストは、土地の現状が森林ではなく、荒地であった場合、初期段階では、土地区画の整備、土壌の入れ替え、苗木の購入や植え付け等に多くの費用がかかるが、その後は徐々に減少していくものと考えられる。炭素固定量については、既に述べたように、樹木の成長期にはその価値が上昇していくが、樹木の生長がなくなればその後、徐々に減少していく。防災・環境面の価値は、樹木の生長と共に上昇していくが、その後は、一定の範囲に留まると考えられる。土地が荒地ではなく、既に森林が形成されている場合は、育成・維持コスト、防災・環境保全価値はほぼ一定であるが、炭素固定量価値は徐々に下がっていくことになる。したがって、この3つの価値判断だけでは、その後も収益をあげるためには、森林を伐採し、木材として販売する方向に行かざるを得なくなる。
【0041】
一方、植林パターン価値は、樹木の成長が止まっても価値が衰えることが少なく、逆に植林パターンのアイデアしだいでは、その価値を向上させることも可能である。また、樹木がある程度成長するまでは収益を出せるような植林パターンにまでには至らなくても、樹木の成長自体を楽しめるという心理的効果もある。また、植林パターンの価値は、広大な土地でなくともよく、面積が比較的狭く、防災・環境保全価値やCO2吸収量の価値が低い土地であっても、十分採算をとることも可能となる。さらに、成長が止まった段階であっても、植え替えによって植林パターンを変化させれば、新たな価値を生む可能性もある。本システムの森林価値評価手段110は、このような森林の持つ価値を総合的に、長期間にわたって判断し、その価値を算定し予測するものである。そして、森林を従来の林業とは異なる商業的価値を持った収益源として活用することを可能とするものである。
【0042】
図2に戻り、育成・維持コスト評価部113は、森林整備事業者又は後述する森林整備事業者取引システム300から森林面積、樹木種、樹木本数、植林パターンから森林造成維持育成コストの見積りデータを取得する。ここで取得した見積りデータも公開されようにしてもよい。ここで森林整備事業者取引システム300は、本システムとネットワークで接続され、見積依頼に対してオンラインで見積結果を返信可能なシステムを想定しているが、一部に手作業を含んでいてもよい。
【0043】
防災・環境保全価値評価部114は、外部の専門家等から、森林の持つ防災的価値の評価や、周囲の環境に対する観点からの評価を取得し、所定のルールにより数値化して格納する。外部の専門家に評価を委ねるのは、防災価値や水源保全等の環境保全価値を一般投資家が判断することは難しいからである。もちろん、この数値化のルール自体も公開される。
【0044】
雇用創出価値評価部115は、育成・維持コスト評価部113からの見積データから、その地域における雇用創出効果を抽出する。このため、森林整備事業者から、森林整備事業(造林、育成、維持事業)によって地域に新たに生まれる雇用創出人数(のべ人数)を、上記見積データの中に含ませてもらうようにすることが望ましい。このようにすることで、のべ雇用創出人数に所定の係数をかけて、森林の雇用創出価値を算出することができる。したがって、森林整備事業の見積金額が仮に同じあっても、森林整備事業者が地域内の企業か地域外の企業かによって雇用創出価値には差が生まれることになる。なお、雇用創出価値評価部115は、育成・維持コスト評価部113からデータを取得するので、雇用創出価値評価部115は、育成・維持コスト評価部113の一部と考えてもよい。
【0045】
その他、本システムにおける森林価値評価手段110を取り巻く構成の説明に移る。まず、森林復興育成計画入力手段101は、森林復興育成事業体10が作成した森林復興育成計画40を植林区画マップデータベース102に格納する。具体的には、植林区画マップDB102は、対象の森林全体及び対象の森林を所定の面積に区切った区画ごとに、場所、地形、面積、土壌、育成可能な樹木種、日照時間、水源等の各種データを記憶した森林復興育成計画データの格納手段である。
【0046】
森林復興育成計画提示手段103は、植林区画マップデータベース102に格納された森林復興育成計画データを一般投資家にも分かるように視覚的に投資家の端末に表示し、植林パターンの提案を募集する手段を提供する。森林復興育成計画データは、植林区画マップデータベース102(森林復興育成計画格納手段)に格納された情報に基づいて開示される。具体的には、例えば、システムが植林区画マップデータベース102に格納された情報に基づいて、森林ごとの所定の提示画面を生成し、投資家からの評価を受け付けるようにする。
【0047】
植林パターン提案受付手段104は、投資家端末200から掲示された対象森林の全体又はある区画の植林パターンの提案を受け付ける手段である。具体的には、例えば、システムが用意する所定の画面から、図面を添えた植林パターンの提案書を送信する。もちろん、森林復興育成事業体10自身が作成して植林パターン提案書も原案として受け付けるようにしてもよい。
【0048】
森林整備事業者見積取得部120は、森林整備事業者取引システム300から植林パターンごとの造林、育成、維持の費用の見積を取得する。従来、このような見積は、業者の人間の手でその都度行われていたが、本システムにおいては、多数の植林パターンの見積もりを継続的に取得する必要があるので、森林整備事業者との間で見積の依頼書をフォーマット化し、オンラインで見積結果(見積金額)を送信することができる見積システムを構築することが望ましい。
【0049】
CO2排出権取引システムI/F部130は、外部のCO2排出権取引システム400とのI/F(インターフェース)を備え、CO2排出権取引システム400から、CO2吸収量価値評価部112が算出した炭素固定量(CO2吸収量)に基づき、排出権相場から炭素固定量の経済的価値を算出し、CO2吸収量価値評価部112にフィードバックする。
【0050】
植林成長観測部140は、森林の状態を科学的に観測する森林観測手段500から各植林区画毎の基礎データを取得する。森林観測手段500には、例えば、特開2012−58772に記載のように、対象エリアの森林の衛星写真、航空写真、レーザデータ、及び現地調査のような各種方法又はそれらの組合せであってよいが、本システムと無線通信手段等で接続されることが望ましい。また、植林成長観測部140は、森林観測手段500から得られた各種の森林観測情報から生成した森林の基礎データ(樹種、樹高、樹木の胸高直径、林齢、面積)に基づいてCO2吸収量を算定する。このようにすることで、CO2吸収量価値評価部112が森林の評価時に予測したCO2吸収量に対して、実測に基づいたデータからフィードバックをかけることができる。なお、植林成長観測部140が取得した各種データは、投資家の端末にも表示でき、投資家は、視覚的に森林の状態を閲覧可能となる。
【0051】
投資受付部150は、森林価値評価手段110が算定した森林の評価値を投資家に提示し、一般ユーザに本システムを介して投資を募る機能を提供する。具体的には、本システムが提供する応募画面から投資を受け付け、送金を受領した時点で投資家としてのユーザIDが割り当てられる。森林か得られた収益は投資家に還元されるのは言うまでもない。
【0052】
このように本システムを構成することにより、森林の復興、育成を行う事業体に対する支援を提供し、より多くの人々を参加させるという本発明の目的を実現させることができる。
【0053】
上記の本システムの機能構成は、あくまで一例であり、一つの機能ブロック(データベース及び機能処理部)を更に分割したり、複数の機能ブロックをまとめて一つの機能ブロックとして構成したりしてもよい。各機能処理部は、装置又はコンピュータ・システムに内蔵されたCPU(Central Processing Unit)が、ROM(Read Only Memory)又はハードディスク等の記憶装置に格納されたコンピュータ・プログラムを読み出し、CPUにより実行されたコンピュータ・プログラムによって実現される。すなわち、各機能処理部は、このコンピュータ・プログラムが、記憶装置に格納されたデータベース(DB;Data Base)やメモリ上の記憶領域からテーブル等の必要なデータを読み書きし、場合によっては、関連するハードウェア(例えば、入出力装置、表示装置、通信インターフェース装置)を制御することによって実現される。また、本発明の実施形態におけるデータベース(DB)は、商用データベースであってよいが、単なるテーブルやファイルの集合体をも意味し、データベースの内部構造自体は問わないものとする。
【0055】
図6は、森林価値評価方法の処理フローをまとめた図である。以下の処理フロー図においては、各ステップの処理順序を入れ替えてもよい。
【0056】
森林価値評価手段110は、まずステップS10において、森林面積、樹木種、地域、樹木本数から炭素吸収量を算出し、CO2排出権取引市場での経済的価値を算出する。具体的には、特許文献1,2等に記載されているような公知の算出方法を用いてもよいが、より簡単には、
図7で示す幹材積収穫表や収穫表の曲線を用いて概算で計算してもよい。ただし、図中のBEF(Biomass Expansion Factor)は、地上部バイオマス(幹・枝・葉)と幹バイオマスとの比率であり、R(belowground to aboveground biomass ratio)は、地上部バイオマスに対する地下部バイオマス(根)の比率、D(basic wood density)は、容積密度(トン/m3)であり、拡大係数=BEF×(1+R)である。これらのパラメータ値から、森林の吸収量は以下の式で算出される。
【0057】
吸収量(炭素トン/年)=幹の体積の増加率(m3/年)×容積密度(トン/m3)×拡大係数×炭素含有率
【0058】
もちろん、森林育成前の状態では、幹の体積(幹材積ともいう)を直接調べることはできないので、樹木の種類と樹齢から平均的な幹材積を調べることができる「収穫表」を利用して計算する(
図7上段参照)。なお、図下段のグラフは、スギの収穫表の樹木の齢級に対する変化を示している。CO2吸収量評価値は、上記のようにして算出された吸収量に基づいて決定される。
【0059】
次に、森林価値評価手段110は、ステップS11において、防災・環境保全価値を専門家の評価をもとに数値化する。具体的には、例えば、専門家の評価が10段階で得られたとすると、その評価値に所定の係数を掛けて評価値とする。所定の係数は、森林復興育成事業体10が対象とする森林の復興育成の目的に応じて決定する。
【0060】
そして、森林価値評価手段110は、ステップS12において、投資家の投票により森林の観光的価値、美的価値を算出する。具体的には、例えば、植林パターンの計画に対する投資家の評価値を集め、専門家からも評価値を取得し一定の重みを掛け、投資家と専門家の評価値の合計にさらに所定の係数を掛けて植林パターンの評価値とする。所定の係数は、森林復興育成事業体10が対象とする森林の復興育成の目的に応じて決定する。投資家の評価値は、投資を申し出た金額そのものとしてもよい。
【0061】
さらに、森林価値評価手段110は、ステップS13において、森林整備事業者の見積価格から育成・維持コストを算出する。具体的には、森林整備事業者取引システム300から取得した見積価格の最低額又は中央値の額に基づいて評価値を算出する。
【0062】
続いて、森林価値評価手段110は、ステップS14において、森林整備事業者の見積データから雇用創出人数を抽出して評価値を算出する。具体的には、森林整備事業者取引システム300から取得した地域における雇用創出人数の見積に、所定の係数を掛けて評価値を算出する。もちろん、見積データに雇用創出人数が含まれていない場合は、評価値はゼロとなる。
【0063】
そして、森林価値評価手段110は、ステップS15において、上記の評価値から、
図8の評価テーブルで示すような森林の総合価値を算出する。ただし、この評価テーブルでは育成・維持コストは、マイナスの値で表している。すなわち、コストが高くなるほど、総合価値は低くなる。総合評価値は、最も単純には、上記の評価値を合計するだけでもよいが、この評価テーブルに基づいて、森林復興育成事業体10の内部で判定会議等を開催し、その結果を最終的な森林の総合価値としてもよい。森林の総合価値は、土地面積や樹木数だけで決まるものではないことに注意されたい。もちろん、このような森林価値総合評価テーブルも公開されるのは言うまでもない。
【0064】
最後に、森林価値評価手段110は、ステップS16において、上記ステップで算出された森林の総合価値に基づいて、森林の区画あたりの投資額を算出する。もちろん、最終的な投資額は、育成・維持コストの見積結果及び総合価値から算出された投資額を基に、森林復興育成事業体10の判定に基づいて決定される。なお、国や地方公共団体から補助金を受け取ることが可能な場合は、投資額は、総費用から補助金の額を減じたものとする。
【0065】
<実施形態の効果>
以上、本発明の実施形態によれば、以下のような効果が生じる。まず第一に、森林の復興、育成を行う事業体に対する支援を提供し、より多くの人々が参加することができるシステムを提供することができる。第二に、森林価値の評価には、防災・環境保全価値、CO2吸収量価値、植林パターン価値、雇用創出価値、及び育成維持コストを含めているので、単に防災・環境保全等の公共的要素だけでなく、森林の美的価値、観光価値、広告価値、地域活性化等の商業的要素を加えることができ、森林復興育成の投資を広い範囲から受けることを可能とする。特に、植林パターンの評価を加えたことで、樹木の成長が止まった後でも、植林パターンのアイデアしだいで森林の価値を高めることもできる。植林パターンの提案も投資家等から募集することで価値の高いアイデアを取得できる可能性が大きく広がる。そして第三に、評価プロセス自体をシステム化することで、森林事業者の見積結果もオンラインで取得し公開したり、評価方法自体も一般の投資家にも公開したりすることができ、透明性を保ち投資に対する見える化を進めることで、投資家は安心して森林投資への決断をすることができる。
【0066】
以上、実施形態を用いて本発明を説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されないことは言うまでもない。上記実施形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。またその様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。なお、また、上記の実施形態では、本発明を物の発明であるシステムとして説明したが、本発明は、コンピュータ・システムが実行する方法(森林復興育成支援方法)の発明としても捉えることもできる。