【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねてきた。その結果、クロム成分として3価クロム化合物を含む3価クロムめっき液中で不溶性陽極を用いてめっき処理を行う方法において、カチオン交換膜によってめっき液から分離された陽極室を有するめっき槽を用い、該陽極室中に、電解液として、ホウ酸及びその塩からなる群から選ばれた少なくとも一種のホウ酸化合物と電導性塩を含む酸性溶液を入れてめっき処理を行う方法によれば、6価クロムの生成を抑制して、3価クロムめっき浴を長期間連続して使用することが可能となることを見出した。特に、該電解液に含まれるホウ酸化合物と電導性塩として、3価クロムめっき液中に含まれるホウ酸化合物及び導電性塩と同一の化合物を用い、これらの成分を該3価クロムめっき液中の濃度と近似した濃度で含有する電解液を用いる場合には、6価クロムの生成を抑制する効果に加えて、3価クロムめっき液における各成分の濃度変化や液量の変化を抑制することができ、めっき液の濃度の濃度や液量の調整などの煩雑な作業を低減することが可能となることを見出した。本発明はこの様な知見に基づいて更に検討を重ねた結果、完成されたものである。
【0011】
即ち、本発明は、下記の3価クロムめっき方法を提供するものである。
項1. クロム成分として3価クロム化合物を含む3価クロムめっき液中で不溶性陽極を用いてめっき処理を行う方法であって、
カチオン交換膜によってめっき液から分離された陽極室を設けためっき槽を用い、該陽極室中に、ホウ酸及びその塩からなる群から選ばれた少なくとも一種のホウ酸化合物と電導性塩を含む酸性溶液からなる電解液を入れてめっき処理を行うことを特徴とする、3価クロムめっき方法。
項2. 陽極室中に入れる電解液が、更に、錯化剤を含むものである、上記項1に記載の3価クロムめっき方法。
項3. 陽極室に入れる電解液が、3価クロムめっき液から3価クロム化合物を除き、ホウ酸化合物、電導性塩、及び錯化剤として、3価クロムめっき液と同一の成分を含有する酸性溶液である、上記項1又は2に記載の3価クロムめっき方法。
項4. 不溶性陽極が、Ir−Ta複合酸化物薄膜で被覆したTi電極である、上記項1〜3のいずれかに記載の3価クロムめっき方法。
【0012】
以下、本発明のめっき方法について具体的に説明する。
【0013】
本発明のめっき方法では、クロム成分として3価クロム化合物を含む3価クロムめっき液中で不溶性陽極を用いてめっき処理を行う方法において、カチオン交換膜によってめっき液から分離された陽極室を有するめっき槽を用い、該陽極室中に、ホウ酸及びその塩からなる群から選ばれた少なくとも一種のホウ酸化合物と電導性塩を含む酸性溶液を電解液として入れて、めっき処理を行うことが必要である。
【0014】
図1は、本発明のめっき方法で使用するめっき装置の一例の概略図である。該めっき装置は、カチオン交換膜によってめっき液から分離された陽極室を設けためっき槽を有するものである。本発明のめっき方法では、この様なカチオン交換膜によってめっき液から分離された陽極室中に、ホウ酸及びその塩からなる群から選ばれた少なくとも一種のホウ酸化合物と電導性塩を含む酸性溶液を電解液として入れてめっき処理を行うことが必要であり、これによって、十分なめっき効率を維持した上で、陽極室中に3価クロムイオンが混入した場合であっても、ホウ酸又はその塩が存在することによって、6価クロムの生成を抑制して、長期間めっき液を安定に継続して使用することが可能となる。
【0015】
陽極室は、カチオン交換膜によって3価クロムめっき液から分離できる構造であればよく、例えば、カチオン交換膜によってめっき槽中の一部を区切って陽極室としてもよく、或いは、側面の内の一面にカチオン交換膜を設置した陽極室を別個に設け、これをめっき槽中に設置してもよい。陽極室は、1室だけではなく、めっき槽の構造や被めっき物の形態などに応じて、2室以上設置してもよい。陽極室中の電解液の液量については特に限定はないが、例えば、めっき液の液量に対して、陽極室中の電解液の液量の総量として1/20〜1/5程度とすればよい。
【0016】
カチオン交換膜としては、各種の市販のカチオン交換膜を使用できる。通常、カチオン交換膜は、陽イオン交換基として、スルホン酸基(−HSO
3)、カルボン酸基(−COOH)、リン酸基(−HPO
3)等を含有するものである。本発明では、特に、3価クロムめっき液に対して耐久性を有し、かつ十分なカチオン伝導性を有し、十分な機械的強度を有するものが好ましい。
【0017】
カチオン交換膜の材質についても特に限定はなく、例えば、パーフルオロカーボン系交換膜、スチレン系交換膜などが代表的なものであるが、これらに限定されるものではない。カチオン交換膜の具体例としては、ナフィオン(Du Pont社製)、アシプレックス、ネオセプタ((株)アストム製)、フレミオン、セレミオン(旭硝子(株)製)等の商標名で市販されているものを挙げることができる。
【0018】
本発明では、使用可能な不溶性陽極としては特に限定的ではなく、広い範囲の各種の不溶性陽極を用いることができる。例えば、Ti/Pt(Tiに白金系コーティングを施したもの)、Ti/Ir酸化物(TiにIr酸化物コーティングを施したもの)、Ti/Ru(TiにRu酸化物コーティングを施したもの)、Ti/Ir酸化物−Ru酸化物(TiにIr酸化物とRu酸化物を混合させてコーティングを施したもの)、Ti/Ir酸化物−Ta酸化物(TiにIr酸化物とTa酸化物を混合させてコーティングを施したもの)、Ti/Pt/Ir酸化物−Ru酸化物(Ti/PtにIr酸化物とRu酸化物を混合させてコーティングを施したもの)、Ti/Pt/Ir酸化物−Ta酸化物(Ti/PtにIr酸化物とTa酸化物を混合させてコーティングを施したもの)、ステンレス、アルミニウム、鉛合金(Pb−Sn合金,Pb−Ag合金,Pb−Sb合金)、鉛酸化物(一酸化鉛、二酸化鉛、三酸化鉛、四酸化三鉛)、鉛、酸化スズ、カーボン、ダイヤモンド電極(窒素やホウ素を含んだダイヤモンドをシリコンやニオブなどの基体に被覆したもの)、ITO電極(インジウムスズ酸化物)等を挙げることができる。特に、陽極室に3価クロムイオンが混入した場合であっても、6価クロムイオンの発生を抑制する効果が高い点で、Ir−Ta複合酸化物薄膜で被覆したTi電極を用いることが好ましい。
【0019】
本発明のめっき方法で使用できる3価クロムめっき液は、水溶性3価クロム化合物をクロム成分として含有する水溶液からなるめっき液であればよく、具体的な組成については特に限定されない。一般的に、3価クロムめっき浴には、水溶性3価クロム化合物に加えて、陰極反応界面でのpH上昇によるクロムの水酸化物などの生成を防止することを目的としてpH緩衝剤が添加され、更に、錯化剤、電導性塩、光沢剤などの各種の添加剤が添加されている。本発明のめっき方法では、このような各種の添加剤を含む3価クロムめっき液をいずれも用いることができる。
【0020】
該3価クロムめっき液に含まれる水溶性3価クロム化合物としては、クロム成分として3価クロムを含む水溶性化合物であれば特に限定的ではなく、硫酸クロム、塩化クロム、硝酸クロム、酢酸クロムなどを例示できる。これらの水溶性3価クロム化合物は、通常、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。3価クロム化合物の濃度については、一例を挙げると、3価クロムイオン濃度として1〜50g/L程度である。
【0021】
pH緩衝剤としては、ホウ酸、ホウ酸ナトリウム、塩化アルミニウムなどを例示できる。これらのpH緩衝剤は、通常、一種単独又は二種以上混合して添加される。pH緩衝剤の濃度については、一例を挙げると、10〜100g/L程度である。
【0022】
錯化剤としては、ギ酸、酢酸などのモノカルボン酸又はその塩;シュウ酸、マロン酸、マレイン酸などのジカルボン酸又はその塩;クエン酸、リンゴ酸、グリコール酸などのヒドロキシカルボン酸又はその塩等を例示できる。上記した各塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、アンモニウム塩などを例示できる。
【0023】
電導性塩としては、硫酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸カリウムなどのアルカリ金属塩;硫酸アンモニウム、塩化アンモニウムなどのアンモニウム塩等を例示できる。
【0024】
光沢剤としては、サッカリン、サッカリンナトリウム、ナフタレンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸ナトリウム、ブチンジオール、プロパルギルアルコール等を例示できる。
【0025】
これらの添加剤は、通常、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。これらの添加剤の濃度については特に限定的ではないが、一例を挙げると、錯化剤については5〜200g/L程度、電導性塩については10〜300g/L程度、光沢剤については0.5〜20g/L程度である。
【0026】
3価クロムめっき液のpHは、通常の3価クロムめっき処理時のpHと同様でよく、通常、pH2〜5程度の範囲内である。
【0027】
本発明のめっき方法では、陽極室中に入れる電解液としては、ホウ酸及びその塩からなる群から選ばれた少なくとも一種のホウ酸化合物と電導性塩を含有する酸性水溶液を用いる。
【0028】
電解液に用いるホウ酸塩としては、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸カリウム等を例示できる。ホウ酸化合物の濃度は、特に限定的ではないが、例えば、10〜100g/L程度とすればよい。
【0029】
電導性塩としては、例えば、硫酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸カリウムなどのアルカリ金属塩;硫酸アンモニウム、塩化アンモニウムなどのアンモニウム塩等を用いることができる。これらの電導性塩は、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。
【0030】
電解液中における電導性塩の濃度についても、特に限定的ではないが、例えば、10〜300g/L程度とすればよい。
【0031】
電解液は、良好な導電性とするために、酸を加えてpH1程度以下の強酸性の水溶液とすることが好ましい。pH調整に用いる酸の種類については特に限定的ではないが、使用する電導性塩と同一のアニオンを有する酸を用いることが好ましい。例えば、導電性塩として硫酸塩を用いる場合には、硫酸を用いてpH調整をすればよい。
【0032】
本発明では、特に、電解液中の電導性塩として、3価クロムめっき浴中に含まれる電導性塩と同一の化合物を用いることが好ましい。これにより、電解液が3価クロムめっき浴中に混入した場合であっても、3価クロムめっきに対する悪影響を避けることができる。
【0033】
電解液中には、更に、錯化剤が含まれていても良い。錯化剤としては、3価クロムめっき浴中に含まれる錯化剤と同様の化合物を用いることができる。例えば、ギ酸、酢酸などのモノカルボン酸又はその塩;シュウ酸、マロン酸、マレイン酸などのジカルボン酸又はその塩;クエン酸、リンゴ酸、グリコール酸などのヒドロキシカルボン酸又はその塩等を用いることができる。これらの錯化剤は、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。電解液中に錯化剤が含まれる場合には、電解液中に3価クロムイオンが混入した場合に、6価クロムの生成を抑制する効果がより向上する。電解液中における錯化剤の濃度は、特に限定的ではないが、例えば、5〜200g/L程度とすることができる。
【0034】
本発明では、特に、使用する3価クロムめっき液から3価クロム化合物を除き、ホウ酸化合物、電導性塩、及び錯化剤として、3価クロムめっき液と同一の成分を含有する酸性溶液を電解液として用いることが好ましい。この場合、各成分の濃度については、使用する3価クロムめっき液中の各成分の濃度に近似した濃度とすることが好ましく、例えば、3価クロムめっき液中の濃度の±30%程度の範囲内の濃度とすることが好ましく、±20%程度の範囲内の濃度とすることがより好ましい。更に、この電解液には、3価クロムめっき液に含まれるその他の成分、例えば、光沢剤などが含まれていても良い。
【0035】
この様な濃度の電解液を用いる場合には、電解液が3価クロムめっき液中に混入した場合であっても、3価クロムめっきに対する悪影響を防ぐことができる。更に、3価クロムめっき液中の各成分の濃度と、電解液中の各成分の濃度が近似していることにより、電解液中の水分がカチオン交換膜を通過して、めっき液中に移動することが抑制され、3価クロムめっき液の組成の変動や、液量の増加を防止することができ、3価クロムめっき液の濃度の調整や液量の調整を行うことなく、連続して効率よくめっき処理を継続することができる。
【0036】
本発明では、3価クロムめっきを行う際のめっき条件については特に限定はなく、使用する3価クロムめっき液の種類に応じて、通常のめっき条件と同様の条件を採用すればよい。
【0037】
例えば、めっき作業時の浴温については、低い場合にはつき回り性は向上するが製膜速度は低下する傾向があり、逆に浴温が高い場合には,製膜速度は向上するが低電流密度領域へのつき回り性は低下する傾向があるので、この点を考慮して適切な浴温を決めればよい。通常、工業的に使用する際の浴温は、30〜60℃程度の範囲である。
【0038】
陰極電流密度についても、使用する3価クロムめっき液の種類や被処理物の種類に応じて適宜決めればよく、例えば、1〜20 A/dm
2程度の陰極電流密度範囲から適切な陰極電流密度を適宜決めればよい。