特許第6332677号(P6332677)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6332677
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】3価クロムめっき方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 3/06 20060101AFI20180521BHJP
【FI】
   C25D3/06
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-94712(P2014-94712)
(22)【出願日】2014年5月1日
(65)【公開番号】特開2015-212406(P2015-212406A)
(43)【公開日】2015年11月26日
【審査請求日】2017年3月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】591021028
【氏名又は名称】奥野製薬工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 万洋
(72)【発明者】
【氏名】片山 順一
【審査官】 坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−206961(JP,A)
【文献】 特開2011−099126(JP,A)
【文献】 特表2012−511099(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 3/06
C25D 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロム成分として3価クロム化合物を含む3価クロムめっき液中で不溶性陽極を用いてめっき処理を行う方法であって、
カチオン交換膜によってめっき液から分離された陽極室を設けためっき槽を用い、該陽極室中に、ホウ酸及びその塩からなる群から選ばれた少なくとも一種のホウ酸化合物と電導性塩を含む酸性溶液からなる電解液を入れてめっき処理を行い、該電解液のpHは1以下であることを特徴とする、3価クロムめっき方法。
【請求項2】
陽極室中に入れる電解液が、更に、錯化剤を含むものである、請求項1に記載の3価クロムめっき方法。
【請求項3】
3価クロムめっき液が、ホウ酸化合物及び伝導性塩を含み、陽極室に入れる電解液中のホウ酸化合物及び伝導性塩が、3価クロムめっき液中のホウ酸化合物及び伝導性塩と同一である、請求項1又は2に記載の3価クロムめっき方法。
【請求項4】
不溶性陽極が、Ir−Ta複合酸化物薄膜で被覆したTi電極である、請求項1〜3のいずれかに記載の3価クロムめっき方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3価クロムめっき方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クロムめっきは、装飾用、工業用等の各種の分野で広く利用されており、従来から、主に、クロム成分として6価クロムを多量に含有する6価クロムめっき浴を用いてめっき処理が行われている。
【0003】
しかしながら、6価クロムめっき浴を用いる場合には、めっき時に発生する6価クロムを含有するミストの有害性が問題となっており、作業環境の改善や排水処理の効率などを考慮して、毒性の少ない3価クロム化合物を用いた3価クロムめっき浴が普及しつつある(下記非特許文献1等参照)。
【0004】
しかしながら、3価クロムめっき浴を用いた3価クロムめっきでは、めっき処理の経過に伴って、めっき浴中に6価クロムが蓄積し、これがめっき速度やめっき皮膜の外観等に悪影響を与えるという問題点がある
このような問題に対応すべく、めっき液の組成を改良することや、イオン交換膜等でアノードを区画し3価クロムとアノードを直接接触することを防止したアノードボックスを採用することなどによって、6価クロムの生成を抑制する試みがなされている。しかしながら、めっき液の組成の改良には限界があり、アノードボックスの使用はボックス内部液の更新等の管理が煩雑である。
【0005】
そこで、近年では3価クロムめっき用のアノードとして、導電性の電極基体上に、酸化イリジウム、Ir−Ta混合酸化物などの金属酸化物の被覆を施した不溶性電極等を用いることにより、3価クロムめっき浴中での6価クロムの生成を抑制する試みがなされている(下記特許文献1、2等参照)。
【0006】
しかしながら、このような電極を用いる場合には、めっき処理を開始してしばらくの間は6価クロムの生成を抑制することが可能であるが、長期間めっき処理を継続する場合には、6価クロムの生成を避けることができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−13199号公報
【特許文献2】特開2000−104199号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】表面技術 vol.56, No.6, 302p(2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記した従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、3価クロムめっき浴中での6価クロムの生成を抑制して、工業的に有利な方法によって、長期間継続して3価クロムめっき処理を行うことができる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねてきた。その結果、クロム成分として3価クロム化合物を含む3価クロムめっき液中で不溶性陽極を用いてめっき処理を行う方法において、カチオン交換膜によってめっき液から分離された陽極室を有するめっき槽を用い、該陽極室中に、電解液として、ホウ酸及びその塩からなる群から選ばれた少なくとも一種のホウ酸化合物と電導性塩を含む酸性溶液を入れてめっき処理を行う方法によれば、6価クロムの生成を抑制して、3価クロムめっき浴を長期間連続して使用することが可能となることを見出した。特に、該電解液に含まれるホウ酸化合物と電導性塩として、3価クロムめっき液中に含まれるホウ酸化合物及び導電性塩と同一の化合物を用い、これらの成分を該3価クロムめっき液中の濃度と近似した濃度で含有する電解液を用いる場合には、6価クロムの生成を抑制する効果に加えて、3価クロムめっき液における各成分の濃度変化や液量の変化を抑制することができ、めっき液の濃度の濃度や液量の調整などの煩雑な作業を低減することが可能となることを見出した。本発明はこの様な知見に基づいて更に検討を重ねた結果、完成されたものである。
【0011】
即ち、本発明は、下記の3価クロムめっき方法を提供するものである。
項1. クロム成分として3価クロム化合物を含む3価クロムめっき液中で不溶性陽極を用いてめっき処理を行う方法であって、
カチオン交換膜によってめっき液から分離された陽極室を設けためっき槽を用い、該陽極室中に、ホウ酸及びその塩からなる群から選ばれた少なくとも一種のホウ酸化合物と電導性塩を含む酸性溶液からなる電解液を入れてめっき処理を行うことを特徴とする、3価クロムめっき方法。
項2. 陽極室中に入れる電解液が、更に、錯化剤を含むものである、上記項1に記載の3価クロムめっき方法。
項3. 陽極室に入れる電解液が、3価クロムめっき液から3価クロム化合物を除き、ホウ酸化合物、電導性塩、及び錯化剤として、3価クロムめっき液と同一の成分を含有する酸性溶液である、上記項1又は2に記載の3価クロムめっき方法。
項4. 不溶性陽極が、Ir−Ta複合酸化物薄膜で被覆したTi電極である、上記項1〜3のいずれかに記載の3価クロムめっき方法。
【0012】
以下、本発明のめっき方法について具体的に説明する。
【0013】
本発明のめっき方法では、クロム成分として3価クロム化合物を含む3価クロムめっき液中で不溶性陽極を用いてめっき処理を行う方法において、カチオン交換膜によってめっき液から分離された陽極室を有するめっき槽を用い、該陽極室中に、ホウ酸及びその塩からなる群から選ばれた少なくとも一種のホウ酸化合物と電導性塩を含む酸性溶液を電解液として入れて、めっき処理を行うことが必要である。
【0014】
図1は、本発明のめっき方法で使用するめっき装置の一例の概略図である。該めっき装置は、カチオン交換膜によってめっき液から分離された陽極室を設けためっき槽を有するものである。本発明のめっき方法では、この様なカチオン交換膜によってめっき液から分離された陽極室中に、ホウ酸及びその塩からなる群から選ばれた少なくとも一種のホウ酸化合物と電導性塩を含む酸性溶液を電解液として入れてめっき処理を行うことが必要であり、これによって、十分なめっき効率を維持した上で、陽極室中に3価クロムイオンが混入した場合であっても、ホウ酸又はその塩が存在することによって、6価クロムの生成を抑制して、長期間めっき液を安定に継続して使用することが可能となる。
【0015】
陽極室は、カチオン交換膜によって3価クロムめっき液から分離できる構造であればよく、例えば、カチオン交換膜によってめっき槽中の一部を区切って陽極室としてもよく、或いは、側面の内の一面にカチオン交換膜を設置した陽極室を別個に設け、これをめっき槽中に設置してもよい。陽極室は、1室だけではなく、めっき槽の構造や被めっき物の形態などに応じて、2室以上設置してもよい。陽極室中の電解液の液量については特に限定はないが、例えば、めっき液の液量に対して、陽極室中の電解液の液量の総量として1/20〜1/5程度とすればよい。
【0016】
カチオン交換膜としては、各種の市販のカチオン交換膜を使用できる。通常、カチオン交換膜は、陽イオン交換基として、スルホン酸基(−HSO)、カルボン酸基(−COOH)、リン酸基(−HPO)等を含有するものである。本発明では、特に、3価クロムめっき液に対して耐久性を有し、かつ十分なカチオン伝導性を有し、十分な機械的強度を有するものが好ましい。
【0017】
カチオン交換膜の材質についても特に限定はなく、例えば、パーフルオロカーボン系交換膜、スチレン系交換膜などが代表的なものであるが、これらに限定されるものではない。カチオン交換膜の具体例としては、ナフィオン(Du Pont社製)、アシプレックス、ネオセプタ((株)アストム製)、フレミオン、セレミオン(旭硝子(株)製)等の商標名で市販されているものを挙げることができる。
【0018】
本発明では、使用可能な不溶性陽極としては特に限定的ではなく、広い範囲の各種の不溶性陽極を用いることができる。例えば、Ti/Pt(Tiに白金系コーティングを施したもの)、Ti/Ir酸化物(TiにIr酸化物コーティングを施したもの)、Ti/Ru(TiにRu酸化物コーティングを施したもの)、Ti/Ir酸化物−Ru酸化物(TiにIr酸化物とRu酸化物を混合させてコーティングを施したもの)、Ti/Ir酸化物−Ta酸化物(TiにIr酸化物とTa酸化物を混合させてコーティングを施したもの)、Ti/Pt/Ir酸化物−Ru酸化物(Ti/PtにIr酸化物とRu酸化物を混合させてコーティングを施したもの)、Ti/Pt/Ir酸化物−Ta酸化物(Ti/PtにIr酸化物とTa酸化物を混合させてコーティングを施したもの)、ステンレス、アルミニウム、鉛合金(Pb−Sn合金,Pb−Ag合金,Pb−Sb合金)、鉛酸化物(一酸化鉛、二酸化鉛、三酸化鉛、四酸化三鉛)、鉛、酸化スズ、カーボン、ダイヤモンド電極(窒素やホウ素を含んだダイヤモンドをシリコンやニオブなどの基体に被覆したもの)、ITO電極(インジウムスズ酸化物)等を挙げることができる。特に、陽極室に3価クロムイオンが混入した場合であっても、6価クロムイオンの発生を抑制する効果が高い点で、Ir−Ta複合酸化物薄膜で被覆したTi電極を用いることが好ましい。
【0019】
本発明のめっき方法で使用できる3価クロムめっき液は、水溶性3価クロム化合物をクロム成分として含有する水溶液からなるめっき液であればよく、具体的な組成については特に限定されない。一般的に、3価クロムめっき浴には、水溶性3価クロム化合物に加えて、陰極反応界面でのpH上昇によるクロムの水酸化物などの生成を防止することを目的としてpH緩衝剤が添加され、更に、錯化剤、電導性塩、光沢剤などの各種の添加剤が添加されている。本発明のめっき方法では、このような各種の添加剤を含む3価クロムめっき液をいずれも用いることができる。
【0020】
該3価クロムめっき液に含まれる水溶性3価クロム化合物としては、クロム成分として3価クロムを含む水溶性化合物であれば特に限定的ではなく、硫酸クロム、塩化クロム、硝酸クロム、酢酸クロムなどを例示できる。これらの水溶性3価クロム化合物は、通常、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。3価クロム化合物の濃度については、一例を挙げると、3価クロムイオン濃度として1〜50g/L程度である。
【0021】
pH緩衝剤としては、ホウ酸、ホウ酸ナトリウム、塩化アルミニウムなどを例示できる。これらのpH緩衝剤は、通常、一種単独又は二種以上混合して添加される。pH緩衝剤の濃度については、一例を挙げると、10〜100g/L程度である。
【0022】
錯化剤としては、ギ酸、酢酸などのモノカルボン酸又はその塩;シュウ酸、マロン酸、マレイン酸などのジカルボン酸又はその塩;クエン酸、リンゴ酸、グリコール酸などのヒドロキシカルボン酸又はその塩等を例示できる。上記した各塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、アンモニウム塩などを例示できる。
【0023】
電導性塩としては、硫酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸カリウムなどのアルカリ金属塩;硫酸アンモニウム、塩化アンモニウムなどのアンモニウム塩等を例示できる。
【0024】
光沢剤としては、サッカリン、サッカリンナトリウム、ナフタレンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸ナトリウム、ブチンジオール、プロパルギルアルコール等を例示できる。
【0025】
これらの添加剤は、通常、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。これらの添加剤の濃度については特に限定的ではないが、一例を挙げると、錯化剤については5〜200g/L程度、電導性塩については10〜300g/L程度、光沢剤については0.5〜20g/L程度である。
【0026】
3価クロムめっき液のpHは、通常の3価クロムめっき処理時のpHと同様でよく、通常、pH2〜5程度の範囲内である。
【0027】
本発明のめっき方法では、陽極室中に入れる電解液としては、ホウ酸及びその塩からなる群から選ばれた少なくとも一種のホウ酸化合物と電導性塩を含有する酸性水溶液を用いる。
【0028】
電解液に用いるホウ酸塩としては、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸カリウム等を例示できる。ホウ酸化合物の濃度は、特に限定的ではないが、例えば、10〜100g/L程度とすればよい。
【0029】
電導性塩としては、例えば、硫酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸カリウムなどのアルカリ金属塩;硫酸アンモニウム、塩化アンモニウムなどのアンモニウム塩等を用いることができる。これらの電導性塩は、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。
【0030】
電解液中における電導性塩の濃度についても、特に限定的ではないが、例えば、10〜300g/L程度とすればよい。
【0031】
電解液は、良好な導電性とするために、酸を加えてpH1程度以下の強酸性の水溶液とすることが好ましい。pH調整に用いる酸の種類については特に限定的ではないが、使用する電導性塩と同一のアニオンを有する酸を用いることが好ましい。例えば、導電性塩として硫酸塩を用いる場合には、硫酸を用いてpH調整をすればよい。
【0032】
本発明では、特に、電解液中の電導性塩として、3価クロムめっき浴中に含まれる電導性塩と同一の化合物を用いることが好ましい。これにより、電解液が3価クロムめっき浴中に混入した場合であっても、3価クロムめっきに対する悪影響を避けることができる。
【0033】
電解液中には、更に、錯化剤が含まれていても良い。錯化剤としては、3価クロムめっき浴中に含まれる錯化剤と同様の化合物を用いることができる。例えば、ギ酸、酢酸などのモノカルボン酸又はその塩;シュウ酸、マロン酸、マレイン酸などのジカルボン酸又はその塩;クエン酸、リンゴ酸、グリコール酸などのヒドロキシカルボン酸又はその塩等を用いることができる。これらの錯化剤は、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。電解液中に錯化剤が含まれる場合には、電解液中に3価クロムイオンが混入した場合に、6価クロムの生成を抑制する効果がより向上する。電解液中における錯化剤の濃度は、特に限定的ではないが、例えば、5〜200g/L程度とすることができる。
【0034】
本発明では、特に、使用する3価クロムめっき液から3価クロム化合物を除き、ホウ酸化合物、電導性塩、及び錯化剤として、3価クロムめっき液と同一の成分を含有する酸性溶液を電解液として用いることが好ましい。この場合、各成分の濃度については、使用する3価クロムめっき液中の各成分の濃度に近似した濃度とすることが好ましく、例えば、3価クロムめっき液中の濃度の±30%程度の範囲内の濃度とすることが好ましく、±20%程度の範囲内の濃度とすることがより好ましい。更に、この電解液には、3価クロムめっき液に含まれるその他の成分、例えば、光沢剤などが含まれていても良い。
【0035】
この様な濃度の電解液を用いる場合には、電解液が3価クロムめっき液中に混入した場合であっても、3価クロムめっきに対する悪影響を防ぐことができる。更に、3価クロムめっき液中の各成分の濃度と、電解液中の各成分の濃度が近似していることにより、電解液中の水分がカチオン交換膜を通過して、めっき液中に移動することが抑制され、3価クロムめっき液の組成の変動や、液量の増加を防止することができ、3価クロムめっき液の濃度の調整や液量の調整を行うことなく、連続して効率よくめっき処理を継続することができる。
【0036】
本発明では、3価クロムめっきを行う際のめっき条件については特に限定はなく、使用する3価クロムめっき液の種類に応じて、通常のめっき条件と同様の条件を採用すればよい。
【0037】
例えば、めっき作業時の浴温については、低い場合にはつき回り性は向上するが製膜速度は低下する傾向があり、逆に浴温が高い場合には,製膜速度は向上するが低電流密度領域へのつき回り性は低下する傾向があるので、この点を考慮して適切な浴温を決めればよい。通常、工業的に使用する際の浴温は、30〜60℃程度の範囲である。
【0038】
陰極電流密度についても、使用する3価クロムめっき液の種類や被処理物の種類に応じて適宜決めればよく、例えば、1〜20 A/dm2程度の陰極電流密度範囲から適切な陰極電流密度を適宜決めればよい。
【発明の効果】
【0039】
本発明のめっき方法によれば、3価クロムめっき処理を長期間継続した場合であっても、6価クロムの蓄積を防止することができる。更に、3価クロムめっき液の濃度や液量の変化を抑制することも可能であり、3価クロムめっきを長期間連続して行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1】本発明のめっき方法で用いるめっき装置の一例を示す概略図。
図2】実施例1で用いためっき装置の概略図。
図3】実施例1で測定した電解液中の6価クロム濃度変化を示すグラフ。
図4】実施例2で測定した3価クロムめっき液中の3価クロム濃度の変化を示すグラフ。
図5】実施例2で測定した3価クロムめっき液中の硫酸カリウム濃度の変化を示すグラフ。
図6】実施例2で測定した3価クロムめっき液中のホウ酸濃度の変化を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
【0042】
実施例1
側面の一面をパーフルオロカーボン系カチオン交換膜(商標名:Nafion)で形成した塩化ビニル製の容器を陽極室として用い、塩化ビニル製のめっき槽内の両側に、2個の陽極室を、カチオン交換膜がめっき槽の内側に向かう状態で設置した。それぞれの陽極室に、Ir−Ta複合酸化物薄膜で被覆したTi電極(ペルメレック製TCPアノード:10×100cm)からなる陽極を入れて、めっき装置を作製した。該めっき装置の概略図を図2に示す。
【0043】
3価クロムめっき液としては、硫酸クロム 75g/L(Cr=20g/L)、シュウ酸ナトリウム 100g/L、ホウ酸30g/L、及び硫酸カリウム 150g/Lを含有するpH2.5の水溶液を用い、上記めっき装置のめっき槽にこの3価クロムめっき液を100L入れた。
【0044】
陽極室の電解液としては、硫酸カリウム130g/L、及びホウ酸30g/Lを含有し、98%硫酸を50mL/L添加して、pH0.5とした水溶液を用い、めっき槽の両側に設置した陽極室にそれぞれ4Lずつ入れた。
【0045】
上記しためっき装置を用い、陰極としてニッケルめっき皮膜を形成した鉄板を用いて、浴温を35℃、陰極電流密度を10A/dm2、1日当たりの通電量を10Ah/Lとして30日間電解を行った。
【0046】
一方、比較試験として、陽極室の電解液として、98%硫酸の50mL/L水溶液を用いる他は、上記した方法と同様にして電解試験を行った。
【0047】
電解試験中、定期的に陽極室内の電解液を採取し、ジフェニルカルバジド法によりCr(VI)濃度を定量した。結果を図3のグラフに示す。図3では、電解液として硫酸水溶液を用いた場合の結果を曲線(A)として示し、硫酸、硫酸カリウム及びホウ酸を含有する電解液を用いた場合の結果を曲線(B)として示す。電解液として硫酸水溶液を用いた場合(曲線(A))には、稼働日数の増加と共に電解液中の6価クロムイオン濃度が上昇した。これは、3価クロムめっき液中の3価クロムイオンが陽極室の電解液中に混入し、陽極界面において一部が酸化されることによって6価クロムが生成したことによるものと考えられる。
【0048】
これに対して、硫酸、硫酸カリウム及びホウ酸を含有する電解液を用いた場合(曲線(B))には、6価クロムイオン濃度はほぼゼロに維持できた。これは、電解液中に3価クロムイオンが混入した場合であっても、上記組成の電解液を用いることによって6価クロムに酸化されることが抑制されることによるものと考えられる。
【0049】
実施例2
実施例1と同様の方法によって3価クロムめっき液の電解試験を行い、定期的に3価クロムめっき液を採取して、該めっき液中の3価クロムイオン濃度、硫酸カリウム濃度及びホウ酸濃度を測定した。結果を図4〜6に示す。各図では、電解液として硫酸水溶液を用いた場合の結果を曲線(A)として示し、硫酸、硫酸カリウム及びホウ酸を含有する電解液を用いた場合の結果を曲線(B)として示す。これらの結果から明らかなように、硫酸、硫酸カリウム及びホウ酸を含有する電解液を用いた場合(曲線(B))には、3価クロムイオン濃度、硫酸カリウム濃度及びホウ酸濃度は、いずれもほとんど変化することなく、初期の値を維持できた。これに対して陽極室の電解液として硫酸水溶液を用いた場合(曲線(A))には、稼働日数の増加と共に3価クロムめっき液中の3価クロムイオン濃度、硫酸カリウム濃度及びホウ酸濃度がいずれも低下した。
【0050】
これらの結果から、硫酸、硫酸カリウム及びホウ酸を含有する電解液を用いた場合には、電解液から3価クロムめっき液への水分の移動が防止されて、3価クロムめっき液の組成の変化を抑制することが可能となることが判る。
図1
図2
図3
図4
図5
図6