(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記二以上の平衡状態のうち、二つの状態に交互に変更することで秤の繰り返し性をチェックする性能確認手段を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の電磁平衡式電子秤。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
確かに、内蔵分銅を使えば天秤の繰返し性のチェックは容易にできる。しかし、実現するためには、載せ降ろしの駆動部含め分銅も内蔵しなければならず、費用が嵩んでしまう。
【0006】
また、内蔵分銅は校正にも使用するため、秤量に近い質量の分銅を設置することが多い。しかし実際には、ユーザはもっと微少な変化を計量したい場合が多く、微少な荷重での性能確認を行うには、通常の内蔵分銅は重すぎであり、実態と異なっている。
【0007】
また、内蔵分銅を利用する場合、分銅を含めた駆動系周りの空気の動きが測定値に少なからず影響を与える場合があり、高感度の天秤には、駆動系が最小限のメカニズムが望まれる。
【0008】
また、ライン組み込み用の天秤では、天秤自身にコンパクトなサイズが要求されるため、内蔵分銅を設置するとどうしても大型化してしまうので内蔵分銅を排除し、外部分銅でしか性能確認を行えない場合がある。
【0009】
本発明は、従来技術の問題点に基づいて為されたもので、外部分銅も内蔵分銅も使用せずに、自身の機構により荷重を載せ降ろしすることのできる電子秤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明に係るある態様の電磁平衡式電子秤では、計量皿からの荷重の伝達を案内するロバーバル機構と、前記ロバーバル機構に案内されて揺動するビームと、前記ビームの位置を検出するビーム位置検出部と、前記ビーム位置検出部の平衡状態を二以上設定するビーム平衡設定部と、を有する。
【0011】
または、ある態様の電磁平衡式電子秤では、計量皿からの荷重の伝達を案内するロバーバル機構と、前記ロバーバル機構に案内されて揺動するビームと、前記ビームの先端に穿設された窓部と、前記窓部を介した一方に配置された発光素子と、前記窓部を介した他方に配置され前記窓部に対して上下に配置された光起電力効果を備える受光素子とを有するビーム位置検出部と、前記上下の受光素子の出力した光電流の一方の電流/電圧変換部の変換係数を他方の電流/電圧変換部の変換係数とは異なる値に変更し、前記ビーム位置検出部の平衡状態を二以上設定するビーム平衡設定部と、を有する。
【0012】
上記態様で説明すれば、電流/電圧変換部(以下、I/V変換部)の変換係数が変更された直後、ビーム位置検出部の受光回路では、上下1:1であった既存の平衡比率が変更され、変換後の電圧が不均一となる。そのため、この電圧差が解消するようビームが動き、やがてビームは水平から傾いた位置で平衡する。このビーム位置のずれを受けて、測定されるゼロ点荷重も変化する。このことは、電子秤からみれば、あたかも荷重が計量皿に載っている(または荷重が計量皿から取り除かれた)のと同等の状態となる。
【0013】
すなわち、ビーム位置検出部における上下の受光素子の出力した光電流の一方I/V変換部の変換係数を、他方のものとは異なる値に変えることのできるビーム平衡設定部により、電磁平衡式電子秤の作動原理を利用して、故意にビーム位置検出部におけるビームの平衡位置を電気的にずらすことで、実際に分銅を載せなくとも、仮想的に荷重(仮想荷重)を発生させることができる。
【0014】
上記電磁平衡式電子秤において、好ましくは、前記二以上の平衡状態のうち、二つの状態に交互に変更することで秤の繰り返し性をチェックする性能確認手段を備える。
【0015】
上記電磁平衡式電子秤において、好ましくは、前記二以上の平衡状態のうち、二つの状態の測定値を利用して秤の校正を行う校正手段を備える。
【0016】
上記電磁平衡式電子秤において、仮想荷重の載せ降ろし、すなわちビーム平衡設定部にて変換係数を変更するには、具体的には、抵抗負荷手段による他の抵抗の接続ON/OFFで行うことができる。すなわち、電気的に、他の抵抗の負荷とその解除を繰り返すことで、仮想荷重の載せ降ろしが行えるため、秤の繰り返し性を容易にチェックすることができる。また、この仮想荷重を校正用の分銅として利用することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の電子秤によれば、外部分銅も内蔵分銅も使用せずに、自身の機構を利用して、自動で荷重を載せ降ろしすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の好適な形態について図面を参照して説明する。
【0019】
まず、本発明の前提となる電磁平衡式の電子秤1の基本形とその作動原理について、
図1を用いて説明する。
図1は電磁平衡式電子秤の装置構成図である。
【0020】
電磁平衡式の電子秤1は、ロバーバル機構2を有しており、ロバーバル機構2は、荷重を受ける柱状の浮き枠21、秤のケース等に固定される固定部22、浮き枠21と固定部22との間をヒンジ要素25を介して連結する上副桿23と下副桿24を備える。計量皿6は、浮き枠21の上面に支持されている。計量皿6で受けた荷重は、ロバーバル機構2に案内されて、浮き枠21に二つの吊りバンド26,27で連結されたビーム28に伝達される。
【0021】
固定部22には、電磁部30が設置されている。電磁部30は、ヨークおよびヨーク内に配置したマグネットを備えた永久磁石31と、マグネットの周囲に配置された駆動コイル32を備える。駆動コイル32はビーム28に固定されている。
【0022】
ビーム28には、ビーム位置検出部40が配置されている。
図2は従来の電磁平衡式電子秤の構成ブロック図であり、ビーム位置検出部40の詳細を記載している。ビーム位置検出部40は、窓部41、LED42、フォトダイオード(受光素子)43,44を備える。窓部41は、ビーム28の先端に穿設されている。窓部41を介した一方には、LED(発光素子)42が配置されている。他方には、フォトダイオード43,44が、上下に配置されている。
【0023】
図3はビーム位置検出部の様子を説明する図である。LED42からの光は、窓部41を通過し、ビーム28の上下の動きにつれて、上下のフォトダイオード43,44に受光される。計量皿6に荷重がかかっていない場合、つまり無負荷の場合、ビーム28は、基準の平衡位置(水平の位置、但し厳密な水平とは限らない略水平の状態)に平衡し、窓部41の投影像41aは上下のフォトダイオード43,44に均一に投影するため、上下のフォトダイオード43,44が受光する量は等量である(
図3に示す(a)の状態)。一方、計量皿6に荷重がかかると、ビーム28が旋回し、ビーム28の先端の窓部41の位置が上方に移動する(
図3に示す(b)の状態)。このとき、上のフォトダイオード43に達する光は、下のフォトダイオード44よりも大きくなる。上下のフォトダイオード43,44は、受光した光を電流(以下、上をIa、下をIbとする)に変換して出力する。上のフォトダイオード43の先には上側I/V変換部47aが接続されており、電流Iaは電圧Vaに変換される。下のフォトダイオード44の先には下側I/V変換部47bが接続されており、電流Ibは電圧Vbに変換される。上側I/V変換部47aの変換係数Kaおよび下側I/V変換部47bの変換係数Kbは固定され、かつ等価となるように設計されている。上側I/V変換部47aおよび下側I/V変換部47bには一般的に演算増幅器が利用されている。
【0024】
上側I/V変換部47aおよび下側I/V変換部47bの先には、前述した電圧Va、Vbの差分を出力する差動増幅器51と、PID制御部52と、ドライブアンプからなるコイル駆動部53とが接続されており、電圧Va、Vbの不均一を解消するよう機能する。すなわち、上記の基準の平衡位置から移動したビーム28を引き戻すため、上下のフォトダイオード43,44の出力した電圧VaとVbの差分Vcについて、Vc=0となるまで駆動コイル32に流す電流が増減され、ビーム28が再び基準の平衡位置 に至るまで、すなわち、ビーム位置検出部40が再び平衡と判断されるに至るまで、フィードバック制御が行われる。最終的には、荷重の大きさに応じた電流が駆動コイル32に流れる事になる。なお、計量皿6に荷重がかからず計量皿6のみの状態でも、計量皿6も含めたロバーバル機構2はゼロ点の荷重として負荷されるので、これに釣り合う電流が流れる。
【0025】
一方、駆動コイル32には、荷重電流用I/V変換器61、A/D変換器62、MPU(マイクロプロセッサ)63が接続されており、荷重電流用I/V変換器61にて駆動コイル32を通して流れる荷重電流を電圧に変換し、A/D変換器62により前記電圧を数値化し、MPU63にて荷重の測定値に変換される。MPU63は、図示しないCPU、ROM、RAMを含んでおり、ROMには各種制御プログラムが記録され、実行される。MPU63には、操作キー64、表示部65等が接続されており、各種操作や各種結果の確認が行える。
【0026】
以上が、電磁平衡式の電子秤1の基本形とその作動原理である。これに対し、本形態の構成を以下説明する。なお、従来と同様の構成については同一の符号を用いて説明を割愛する。
【0027】
図4は本発明の実施の形態に係る電磁平衡式電子秤の構成ブロック図、
図5は
図4の要部回路図である。従来と異なる点は、本形態では、上のフォトダイオード43に接続される上側I/V変換部47Aの変換係数KAは可変に構成されている。MPU63には、平衡比率決定部72が備えられている。上側I/V変換部47
Aおよび平衡比率決定部72がビーム平衡設定部となる。
【0028】
下のフォトダイオード44に接続される下側I/V変換部47bは、
図2に示す従来の下側I/V変換部47b と同一のものであり、変換係数Kbは固定である。
図5ではその構成の一例が記載されている。下側I/V変換部47bは、演算増幅器45bと抵抗46bを有する。一例として、抵抗46bの抵抗値は100kΩに設定されている。すなわち、この場合、変換係数Kbは、100kΩ(固定)である。
【0029】
一方、上側I/V変換部47Aは、
図5に示すように演算増幅器45aに、既存抵抗46aと、第1の抵抗73a1,第2の抵抗73a2,第3の抵抗73a3および第4の抵抗73a4が並列に接続されている。既存抵抗46aとこれら他の抵抗73a1〜73a4には、一対にアナログスイッチ71が接続されている。既存抵抗46aと他の抵抗73a1〜73a4は、それぞれ異なる抵抗値を持ち、一例として、既存抵抗46aは下の抵抗46bと等価の100kΩ、第1の抵抗73a1は91kΩ、第2の抵抗73a2は85kΩ、第3の抵抗73a3は39kΩ、第4の抵抗73a4は8kΩに設定されている。すなわち、この場合、変換係数KAは、100kΩ,91kΩ,85kΩ,39kΩ,8kΩのいずれかとなり、可変である。
【0030】
上側I/V変換部47Aの既存抵抗46a及び他の抵抗73a1〜73a4は、平衡比率決定部72からの変換比率選択信号(0)〜(4)により、いずれか一つが負荷される。既存抵抗46aは選択信号(0)で負荷され、第1の抵抗73a1は選択信号(1)で負荷され、第2の抵抗73a2は選択信号(2)で負荷され、第3の抵抗73a3は選択信号(3)で負荷され、第4の抵抗73a4は選択信号(4)で負荷される。
【0031】
通常の秤量物の計量作業を行う場合は、平衡比率決定部72は、上下の受光回路の比率が等価となるように、選択信号(0)により既存抵抗46aを使用する。これにより、従来通り、ビーム28が水平の状態で平衡が形成される(第1の平衡状態)。
【0032】
一方、後述する秤の性能確認方法または秤の校正方法を行う場合は、平衡比率決定部72は、上下の受光回路の変換比率を変更させるため、選択信号(1)〜(4)のいずれかを、生じさせたい仮想荷重に応じて選択する。
【0033】
ここで、平衡比率決定部72により、選択信号(2)が出力された場合で、本形態に係る電子秤1の動作を説明する。上下のフォトダイオード43,44には、定電流源75から例えば100μAの定電流が供給されており、選択信号(2)が出力された直後では、計量皿6は無負荷なのでビーム28は水平であり、上下のフォトダイオード43,44からの電流Ia、Ibは等価(50μA)である。しかし、選択信号(2)により、上の受光回路では、電流Iaには第2の抵抗73a2(85kΩ)が負荷されるため、電圧Vaが、既存抵抗46aを使用する場合(−5.0V)から小さくなり(−4.25V)、下の受光回路の電圧Vb(−5.0V)とのアンバランスが生じる。このため、電圧Va=電圧Vbとなるように機能し、ビーム28が上方に移動する。最終的に、ビーム28が上に傾いた状態で、上の受光回路の電流Iaが54μA、下の受光回路の電流Ibが46μA、電圧Va=Vb=略−4.6Vで収束する(第2の平衡状態)。ロバーバル機構2の平衡位置の変化に伴い、計量皿6が押される方向にずれるため以前よりも大きなゼロ点荷重となる。これを受けて、駆動コイル32から得られる電流値が変わり、ビーム28が水平状態のときに測定されるゼロ点荷重よりも大きなゼロ点荷重が測定される。このことは、電子秤1からみれば、あたかも荷重が計量皿6に載っているのと同等の状態となる。
【0034】
このように、本形態の電子秤1は、上下のフォトダイオード43,44の出力した光電流のI/V変換係数KAおよびKbを非等価にし、上下の平衡比率を変更して、ビーム位置検出部40で検出されるビーム28の平衡位置を、当初の基準の平衡位置 (第1の平衡状態)から故意に他の位置(第2〜第5の平衡状態)へずらすことで、各平衡状態に応じた仮想荷重を発生させることができる。すなわち、実際に分銅を載せなくとも、あたかも計量皿6に荷重を載せたのと同様の状態を作ることができる。
【0035】
なお、同様に、平衡比率決定部72により、選択信号(1)が出力された場合、電流Iaには第1の抵抗73a1が負荷され、第3の平衡状態が形成される。選択信号(3)が出力された場合、電流Iaには第3の抵抗73a3が負荷され、第4の平衡状態が形成される。選択信号(4)が出力された場合、電流Iaには第4の抵抗73a4が負荷され、第5の平衡状態が形成される。仮想荷重は、上下の平衡比率の差を大きく設定するほど、大きく発生させることができる。
【0036】
次に、この仮想荷重の載せ降ろしは、平衡比率決定部72の選択信号のON/OFFにより行うことができる。すなわち、電気的に、他の抵抗73a1〜73a4のいずれかの負荷とその解除を繰り返すことで、仮想荷重の載せ降ろしにより、秤の繰り返し性をチェックすることができる。以下、説明する。
【0037】
図6は、本発明に係る電子秤による秤の性能確認方法のフロー図である。まず、ステップS1で、操作キー64から、上下の受光回路の平衡比率の基準値A0、変更したい平衡比率となる変更値An、繰り返し回数Nを設定する。前記の設定は、操作キー64等から行われる。基準値A0は、受光回路の比率、上:下=50%(KA=100kΩ):50%(Kb=100kΩ)、A0=0.5/0.5=1.0を基本とする。ただし、自身のゼロ荷重を大きくとるためにベースとなる基準値を高め(例;A0=1.2)にしても良い。変更値Anは、上記の例であれば、上:下 =46%(KA=85kΩ):54%(Kb=100kΩ)でAn=0.46/0.54=0.85である。次にステップS2で、回路に基準値A0を指定する。上記の例であれば、平衡比率決定部72は、選択信号(0)を出力する。次にステップS3で、基準値A0のときの測定値W0を読み込む。次にステップS4で、回路に変更値Anを指定する。上記の例であれば、平衡比率決定部72は、選択信号(2)を出力する。次にステップS5で、変更値Anのときの測定値Wnを読み込む。次にステップS6で、測定値のスパンSnを計算する。スパンSn=Wn−W0であり、例えば測定値W0=20.0000gで測定値W1=23.3000gであれば、Sn=3.3000gである。次にステップS7で、ステップS1で設定した回数Nだけ繰り返したかを判断する。行っていなければ、ステップS2に戻る。行っていれば、MPU63で、N回分の測定値スパンSnから標準偏差σを算出して、終了する。以上の演算は、MPU63にて行われる。MPU63が性能確認手段である。
【0038】
すなわち、電子秤1は、ビーム平衡設定部(上側I/V変換部47A)により設定できる二以上の平衡状態のうち、基準の平衡位置と載置したい仮想荷重に対応する他の平衡位置との二つの状態に交互に変更することで、前記基準の平衡位置で測定された測定値と前記他の平衡位置で測定された測定値とから、秤の繰り返し性をチェックする性能確認手段を備える。
【0039】
図7は、
図6の性能確認方法による測定結果であり、例としてひょう量200gの天秤にて、受光部の上下の比率を変えたときの仮想荷重の値と繰り返し性(標準偏差)σを示す。標準偏差が0.1mg以下の場合を◎、標準偏差が0.1mg超〜10mgの場合を○、標準偏差が10mg超の場合を△と評価したものである。
【0040】
「標準状態」は、選択信号(0)により、下は抵抗46b、上は既存抵抗46aとしたものであり、受光回路の比率は上:下=50%(KA=100kΩ):50%(Kb=100kΩ)、変更値はAn=1.0である。「状態A」は、選択信号(1)により、下は抵抗46b、上は第1の抵抗73a1としたものであり、受光回路の比率は上:下=48%(KA=91kΩ):52%(Kb=100kΩ)、変更値はAn=0.92であり、結果、仮想荷重は1.7g、繰り返し性σは◎であった。「状態B」は、上記で詳述した例であり、選択信号(2)により、下は抵抗46b、上は第2の抵抗73a2としたものであり、受光回路の比率は上:下=46%(KA=85kΩ):54%(Kb=100kΩ)、変更値はAn=0.85であり、結果、仮想荷重は3.3g、繰り返し性σは◎であった。「状態C」は、選択信号(3)により、下は抵抗46b、上は第3の抵抗73a3としたものであり、受光回路の比率は上:下=29%(KA=39kΩ):71%(Kb=100kΩ)、変更値はAn=0.41であり、結果、仮想荷重は19g、繰り返し性σは○であった。「状態D」は、選択信号(4)により、下は抵抗46b、上は第4の抵抗73a4としたものであり、受光回路の比率は上:下=7%(KA=8kΩ):93%(Kb=100kΩ)、変更値はAn=0.08であり、結果、仮想荷重は63g、繰り返し性σは△であった。
【0041】
以上から、「状態A」「状態B」のような微小量の仮想荷重では、良好な繰り返し性が得られることがわかった。このことから、微少な荷重での性能チェックを行いたい場合に、本発明は非常に有効であることが確認できた。「状態C」「状態D」のような仮想荷重では、ビーム28の傾きが大きくなり、受光量が減る側のフォトダイオードの出力信号がノイズに埋もれてS/N比が劣化したと想定される。しかし、「状態C」「状態D」の仮想荷重には、現状正円形の窓部41の形状を縦長の長円に形成する等して受光量を拡大させることや適切な形状のフォトダイオードを選択することで対応でき、やはり十分有効に利用可能である。
【0042】
次に、本形態の電子秤1は、自身の機構を利用して仮想荷重を発生させることができるので、仮想荷重を校正用の分銅として利用することができる。以下、説明する。
図8は本発明に係る電子秤による秤の校正方法のフロー図である。
【0043】
まず、ステップS11で、操作キー64から、上下の受光回路の平衡比率の基準値A0、校正したい平衡比率となる校正用値Aaを設定する。前記の設定は、操作キー64等から行われる。基準値A0はA0=1.0を基本とする。ただし、自身のゼロ荷重を大きくとるためにベースとなる基準値を高め(例;A0=1.2)にしても良い。校正用値Anについて、例えば上記の例でも使用した、An=0.85(上:下=46%(KA=85kΩ):54%(Kb=100kΩ))を用いて説明する。次にステップS12で、回路に基準値A0を指定し、測定値W0(例えばW0=20.0000g)を読み込む。次にステップS13で、回路に校正用値Aaを指定し、測定値Wa(例えばWa=23.3000g)を読み込む。次にステップS14で、校正用データWc=Wa−W0を算出する(例えばWc=23.3000g-20.000g=3.3000g)。次にステップS15で、補正係数kを1とする。次にステップS16で、平衡比率決定部72は、回路の平衡比率を、基準値A0に戻す。次にステップS17で、計量データWn(補正前)を取得する。例えば、Wn=2.0000gを得る。次にステップS18で、補正係数kにて計量データWnを補正し、補正データWn´を表示部65に表示する。例えば、Wn(2.0000g)×k(1.0000)=2.0000gで、補正データWn´=2.0000gを得る。このようにして、通常、天秤の表示には補正された計量データが表示される。次にステップS19で、操作キー64から校正キーが押されたかを判断する。押されていなければ、ステップS17に戻る。押された場合は、ステップS20に移行する。ステップS20にすすむと、回路に基準値A0を設定し、測定値W0´(例えばW0´=20.0000g)を読み込む。次にステップS21で、回路に校正用値Aaを設定し、測定値Wa´(例えば、Wa´=23.3010g)を読み込む。次にステップS22で、ずれ分データWc´=Wa´−W0´を算出する(例えば、Wc´=Wa´−W0´=23.3010g-20.0000g=3.3010g)。次にステップS23で、補正係数k=Wc´/Wcを算出し、記憶する(例えば、k=3.3010/3.3000=1.0003)。
【0044】
次にステップS24で、回路を基準値A0に戻し、ステップS17に戻る。以降、k=1.0003としてS17,S18にて計量データ取得後、この補正がかかる。以上の演算は、MPU63にて行われる。MPU63が校正手段である。
【0045】
すなわち、電子秤1は、ビーム平衡設定部により設定できる二以上の平衡状態のうち、基準の平衡位置と校正用の分銅として利用したい仮想荷重に対応する他の平衡位置との二つの状態に変更し、予め前記基準の平衡位置で測定された測定値と前記他の平衡位置で測定された測定値とから校正用データを得て、校正時に前記基準の平衡位置で測定された測定値と前記他の平衡位置で測定された測定値とから偏差分データを得て、前記偏差分データを前記校正用データで除した補正係数で計量データを補正する秤の校正を行う校正手段を備える。
【0046】
また、ステップS19で校正キーが押されなくとも、自動でスパン値を定期的に点検し、測定値のずれ(スパン値不良)が分かった場合、アラーム等を発生させるのもよい。また、周囲温度の変化があれば、自動でスパン値を確認し補正係数を更新してもよい。
【0047】
次に、
図9は本発明の実施の形態の変形例である。
図9は、
図5の上下を交代した形であり、下の受光回路における下側I/V変換部47Bの変換係数KBが可変であり、上の受光回路における上側I/V変換部47aの変換係数kaを固定とした例である。上側I/V変換部47aには抵抗46a(100kΩ)のみが負荷されている。下側I/V変換部47Bには、
図5の上側I/V変換部47Aと同様に、既存抵抗46b(100kΩ)と、第1の抵抗73a1,第2の抵抗73a2,第3の抵抗73a3および第4の抵抗73a4が並列に選択的に接続されている。本形態では、下側I/V変換部47Bおよび平衡比率決定部72がビーム平衡設定部となる。
【0048】
この形態で、上記の例に倣い選択信号(2)を出力した場合には、上下の受光回路の比率が上記の例とは逆比となり、ビーム28が下方に移動し、最終的に、ビーム28が下に傾いた状態で、上の受光回路の電流Iaが46μA、下の受光回路の電流Ibが54μA、電圧Va=Vb=略−4.6Vで収束する。すなわち、受光回路の比率が上:下=46%:54%となり、ビーム28は下に移動し、
図6や
図7の測定値Wnがマイナス荷重として得られる。
【0049】
測定値Wnがマイナス値であっても、プラス荷重と同様に扱うことができるので、繰り返し性のチェックは
図6の方法で同様に行える。測定値Wnがマイナス値であっても、絶対値を使用して、秤の校正は
図8の方法で同様に行える。
【0050】
また、
図9の構成は、二次テコ(ビームが2本存在してテコ部が2つ連結される構造)と称される電磁平衡式電子秤に有効に適用できる。二次テコタイプの電子秤では、少ない電流で感度を上げるために、第1のビームと第2のビームにより荷重を伝達する機構となっている。平衡位置検出部は第2のビーム先端に本態様と同様に設けられており、計量皿に荷重がかかると、第1のビームは上方に傾き、第2のビーム282は下方に傾く。下方に傾く第2のビームの平衡を調整して計量を行うこの種の電子秤に、
図9の構成は好適である。
【0051】
次に、上記形態は、本発明を光式のビーム位置検出部を備える電磁平衡式電子秤で実施する形態であったが、本発明は、静電容量式のビーム位置検出部を備える電磁平衡式電子秤に利用することもできる。この形態は、ビーム位置検出部40の構成が異なるだけで、他の構成は上記の形態(
図4)と同様である。
【0052】
図10は本発明に係る他の実施の形態に係る電磁平衡式電子秤の構成ブロック図であり、静電容量式のビーム位置検出部40の詳細が記載されている。上記の形態と同一の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0053】
ビーム28の先端には、ビーム28と連動して上下に位置移動する可動電極48が固定されている。可動電極48の上下には、位置が固定された固定電極49a,49bが配置されている。これら可動電極48および固定電極49a,49bが、本形態のビーム位置検出部40である。
【0054】
このとき、固定電極49aと可動電極48との間の静電容量をCa、固定電極49bと可動電極48との間の静電容量をCbとする。可動電極48および固定電極49a,49bには、静電容量Caを検出する容量/電圧変換部47´Aと、静電容量Cbを検出する容量/電圧変換部47´Bが接続されている。従来では、静電容量Caと静電容量Cbとが同一となるように平衡をとるが、本形態では、MPU63の平衡比率決定部72により、容量/電圧変換部47´Aと容量/電圧変換部47´Bにてその変換係数を異ならせることで、他の平衡状態を形成することができる。すなわち、実際に分銅を載せなくとも、あたかも計量皿6に荷重を載せたのと同様の状態を作ることができる。また、本形態であっても、繰り返し性のチェックは
図6の方法で同様に行え、秤の校正は
図8の方法で同様に行える。
【0055】
以上、上記した複数の形態では、ビーム平衡設定部は、受光回路の上下の平衡比率を、1:1の状態と1:1から異ならせた状態(複数可)の二以上の平衡状態を形成させることができればよい。上下の受光回路の変換係数は、一方の受光回路のI/V変換係数を固定とし他方のI/V変換係数を可変としても、上下のI/V変換係数を可変として一方を他方とは異なる係数に設定するものであってもよい。
【0056】
また、上記において、ビーム平衡設定部は、選択信号により選択される抵抗群により構成されているが、抵抗接続のON/OFFさせる時間比率をPWM信号にて設定し等価的に任意の抵抗値を可変的に負荷するものとしてもよい。ここでPWM信号の周期は機構部が応答しない高い周波数を選ぶ事により、必要な荷重を選択的に自由に発生させる事ができる。
【0057】
また、平衡状態を変えると電磁力を発生させるコイル周辺の磁界の強さが変わる場合もあり、この場合は新しい平衡状態にて適切な補正(直線性補正や温度補正など)をかけておく事が望ましい。
【0058】
また、上記した複数の形態では、ビーム位置検出部に、光式と静電容量式のものを適用した例を示したが、この他にも、渦電流式、超音波式、レーザ式など、非接触タイプの位置検出方式はすべて適用可能である。
【0059】
上記した複数の形態の電子秤1の他の効果として、上記の電子秤1らは、自身の機構による電気的な動作で荷重を負荷できる。このため、内蔵分銅を利用する場合のように、分銅を含めた駆動系周りの空気の動きが測定値に影響を与えることがない。
【0060】
また、本形態の電子秤1は、内蔵分銅およびその駆動部を必要としないので、天秤自身の占有面積を最小化し、小型化が望まれるライン組み込み用天秤に応用することができる。
【0061】
また、電子秤1の機械部を組み立てるとき、オフセット荷重を調整する必要が生じる場合(戻り誤差の調整)があり、従来は、ビーム位置検出部40にスペーサを入れるなどして強制的に位置を変えていたが、本形態であれば、この作業は他の抵抗73a1〜73a4の選択により、電気的に、容易に行える。
【0062】
また、電子秤1が振動を検出する機構を備えている場合、逆の位相の揺れを電子秤1に与え、振動の影響を解消することに応用することも考えられる。