【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成25年度経済産業省「戦略的基盤技術高度化支援事業(ワクチン投与用針の植物由来性樹脂を用いた超精密射出成形加工)」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、添付図面を参照して説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る医療用針の表面側の斜視図であり、
図2は、この医療用針の裏面側の斜視図である。
図1および
図2に示すように、医療用針1は、生体を穿刺する穿刺部10と、穿刺部10の後端側に連設された保持部20とを備えており、全体として板状に形成されている。
【0015】
図3は、
図1に示す医療用針の要部である穿刺部10を示す平面図である。
図4は、
図3に示す医療用針の正面図である。
図1から
図4に示すように、穿刺部10は、偏平状に形成されて、表裏面が互いに平行な一対の平面部11,12とされており、穿刺方向に垂直な断面が台形状に形成されている。穿刺部10の断面形状としては、台形状の他に、矩形状や多角形状の他、円形状または楕円形状の外周面を互いに平行な平面部を形成するように軸方向に切り欠いた形状等を例示することができる。穿刺部10の両側面には、鋸状の凹凸部13,13が形成されており、穿刺後の生体内への穿刺部10の侵入を容易にしている。
【0016】
穿刺部10の幅は、本実施形態においては穿刺方向の全体にわたって略一定としているが、後方に向けて徐々に幅広となるように穿刺部10を形成してもよい。或いは、穿刺部10を後方に向けて幅狭となるように(幅が窄まるように)形成してもよく、生体内への穿刺部10の侵入状態を維持したい用途には特に好適である。穿刺部10が侵入する生体には、例えば、細胞、組織、臓器、消化管、血管、神経、皮膚、筋肉、眼、等が含まれる。
【0017】
穿刺部10の両側面の先端には、穿刺部10が先細になるように、穿刺方向に対して傾斜して延びる一対の側面傾斜部14,14が設けられている。一対の側面傾斜部14,14は、穿刺部10の表裏面(平面部11,12)と略直交する平面状に形成されている。一対の側面傾斜部14,14の先端同士は、正面視で穿刺部10の表裏面と直交する直線状の刃先部15を介して接合されており、刃先部15の強度を確保して、生体への穿刺を確実に行うことができる。
【0018】
穿刺部10の表面(平面部11)の先端には、穿刺部10が先細になるように、穿刺方向に対して傾斜して延びる表面傾斜部16が設けられている。表面傾斜部16は、平面状に形成されており、先端が刃先部15に接合されている。本実施形態において、刃先部15は、正面視において穿刺部10の表裏面に直交する直線状に形成されており、表面傾斜部16は、刃先部15の一端部に接合されているが、刃先部15の形状は特に限定されるものではない。例えば、刃先部15が、正面視において穿刺部10の表裏面に沿って直線状または曲線状に延びて、表面傾斜部16の先端が刃先部15の全体に接合される構成であってもよい。更に、一対の側面傾斜部14,14および表面傾斜部16の先端が、刃先部15において実質的に一点で接合された構成であってもよい。
【0019】
穿刺部10の表面側には、溝部17が形成されている。溝部17は、穿刺方向に沿って延びるように形成されており、先端側が一対の側面傾斜部14,14および表面傾斜部16の一部を切り欠くようにして形成されている。溝部16の後端側は、側壁により閉止されている。溝部17の底面17aは、平面部11,12と平行に形成されている。溝部17の幅が底面17aから表面(平面11)に向けて広がるように、溝部17の側壁はテーパ状に形成されている。溝部17は、刃先部15を残しつつ、一対の側面傾斜部14,14および表面傾斜部16にまたがるように形成されていることが好ましい。本実施形態においては、
図4に示すように、溝部17の底面17aの角部が一対の側面傾斜部14,14をそれぞれ切り欠き、溝部17の中央部が表面傾斜部16を切り欠くように、溝部17が形成されている。溝部17は、単一であることが好ましいが、一対の側面傾斜部14,14および表面傾斜部16を個別に切り欠くように複数形成することも可能である。
【0020】
溝部17の底面17aには、穿刺部10の裏面側に貫通する貫通孔18が形成されている。貫通孔18は、表面(平面11)側から裏面(平面12)側に向けてテーパ状に拡径されるように形成されている。穿刺部10の長さは、貫通孔18を生体内の所望の深さ位置に到達可能な程度(例えば、0.2〜300mm程度)であることが好ましい。貫通孔18は、本実施形態では単一としているが、溝部17の底面17aに、穿刺方向に沿って複数形成してもよい。
【0021】
保持部20は、生体内には侵入せず、生体外で穿刺部10を支持できるように、穿刺部10の後端側から大きく広がるように形成されている。保持部20の形状や大きさについては、特に限定はない。
【0022】
上記の構成を備える医療用針1は、皮膚などの生体表面に刃先部15を押し当てて穿刺する際に、一対の側面傾斜部14,14および表面傾斜部16が被穿刺物を押し開きながら挿入されるので、生体への穿刺部10の穿刺を確実に行うことができる。一対の側面傾斜部14,14は、穿刺部10の表裏面(平面部11,12)と略直交する平面状であることが好ましく、これによって、被穿刺物を幅方向に確実に押し開いて穿刺を行うことができる。
【0023】
また、穿刺部10の表面には、一対の側面傾斜部14,14および表面傾斜部16のそれぞれの一部を切り欠くように溝部17が形成されているため、穿刺部10の挿入に伴う穿刺抵抗の増大を抑制することができ、生体に与える痛みを軽減することができる。
図4に正面図で示すように、本実施形態においては、溝部17の底面17aが表面傾斜部16を横断して両側縁部が一対の側面傾斜部14,14まで延びており、これによって、一対の側面傾斜部14,14および表面傾斜部16の穿刺抵抗の低減が図られている。溝部17により切り欠かれた一対の側面傾斜部14,14および表面傾斜部16は、穿刺を確実に行える程度に刃先部15の周辺部が残存されていればよく、溝部17の形状、位置、大きさ等は特に限定されるものではない。
【0024】
溝部17および貫通孔18には、生体の皮膚に穿刺して目的とする血液、体液、組織等の被採取物を充填し、採取することができる。或いは、生体内に投与する薬剤等の投与物を溝部17および貫通孔18に予め充填しておき、生体の所定の部位に穿刺して、投与物をピンポイントで投与することができる。投与物及び被採取物は、液状、固形状、半固形状(ゲル状)、凍結乾燥状、ナノ粒子状など種々の性状であってよい。溝部17および貫通孔18の大きさに特に制限はないが、それぞれ内容積が0.001μl〜1ml程度のものを例示することができる。
【0025】
溝部17および貫通孔18に投与物を予め充填した場合、溝部17に充填された投与物が穿刺部10の表面側に露出する面積は、貫通孔18に充填された投与物が穿刺部10の裏面側に露出する面積よりも大きくなる。したがって、穿刺部10が生体内に穿刺されて外部から均一な圧力を受けると、投与物が穿刺部10の表裏面から受ける力の差が生じて、溝部17に充填されていた投与物が貫通孔18を通過して、穿刺部10の裏面側から放出され易くなる。一方、溝部17および貫通孔18に被採取物を採取する際には、貫通孔18から被採取物が吸引されて、溝部17に充填され易くなる。このように、溝部17の底面17aに貫通孔18を形成することにより、投与物の投与や被採取物の採取を容易且つ確実に行うことができる。
【0026】
溝部17の幅および貫通孔18の断面積は、穿刺部10の厚み方向に一定にしてもよいが、本実施形態のように内部から表面または裏面に向けてテーパ状に拡がるように形成することが好ましい。この構成によれば、溝部17および貫通孔18の内壁と投与物や被採取物との接触面積を増大させることができ、溝部17および貫通孔18の内部に投与物や被採取物を保持し易くすることができると共に、投与物の投与や被採取物の採取を容易に行うことができる。このような接触面積増大の効果は、溝部17および貫通孔18が微小(例えば、内容積が100nL以下)である場合に特に顕著である。
【0027】
穿刺部10の穿刺及び抜き取りは、保持部20を器具や手で摘まんで行うことができる。穿刺部10の抜き取りは、単なる穿刺のみを目的とする場合には、穿刺直後に瞬間的に行ってもよい。一方、薬剤の投与や被採取物の採取を行う場合には、薬剤の種類や投与法などに応じて、穿刺部10を生体内に所定時間留置した後に、穿刺部10を抜き取るようにしてもよい。これにより、正確な量の薬剤を生体内に放出することができ、あるいは、被採取物を必要な量だけ採取して計測等を行うことができる。
【0028】
穿刺部10は、生体適合性材料により作製することができる。生体適合性材料としては、例えば、高分子ポリマ、生体高分子、蛋白質、および生体適合性無機材料が含まれる。
【0029】
高分子ポリマとしては、医療用に使用可能なものが好ましく使用可能であり、例えば、ポリ塩化ビニル,ポリエチレングリコール,パリレン,ポリエチレン,ポリプロピレン,シリコーン,ポリイソプレン,ポリメチルメタクリレート,フッ素樹脂,ポリエーテルイミド,ポリエチレンオキサイド,ポリエチレンテレフタレート,ポリエチレンサクシネート,ポリブチレンテレフタレート,ポリブチレンサクシネート,ポリブチレンサクシネートカーボネート,ポリフェニレンオキサイド,ポリフェニレンサルファイド,ポリホルムアルデヒド,ポリアンヒドリド,ポリアミド(6ナイロン、66ナイロン),ポリブタジエン,ポリ酢酸ビニル,ポリビニルアルコール,ポリビニルピロリドン,ポリエステルアミド,ポリメタクリル酸メチル,ポリアクリロニトリル,ポリサルホン,ポリエーテルサルホン,ABS樹脂,ポリカーボネート,ポリウレタン(ポリエーテルウレタン、ポリエステルウレタン、ポリエーテルウレタン尿素),ポリ塩化ビニリデン,ポリスチレン,ポリアセタール,ポリブタジエン,エチレン酢酸ビニル共重合体,エチレンビニルアルコール共重合体,エチレンプロピレン共重合体,ポリヒドロキシエチルメタクリレート,ポリヒイドロブチレート,ポリオルトエステル,ポリ乳酸,ポリグリコール,ポリカプロラクトン,ポリ乳酸共重合体,ポリグリコール酸・グリコール共重合体,ポリカプロノラクトン共重合体,ポリジオキサノン,パーフルオロエチレン−プロピレン共重合体,シアノアクリレート重合体,ポリブチルシアノアクリレート,ポリアリルエーテルケトン,エポキシ樹脂,ポリエステル樹脂,ポリイミド,フェノール樹脂、アクリル樹脂が挙げられる。
【0030】
生体高分子としては、例えば、セルロース,でんぷん,キチン・キトサン,寒天,カラギーナン,アルギン酸,アガロース,ブルラン,マンナン,カードラン,キサンタンガム,ジェランガム,ペクチン,キシログルカン,グアーガム,リグニン,オリゴ糖,ヒアルロン酸,シゾフィラン,レンチナンなどが含まれ、蛋白質としてはコラーゲン,ゼラチン,ケラチン,フィブロイン,にかわ,セリシン,植物性蛋白質,牛乳蛋白質,ラン蛋白質,合成蛋白質,ヘパリン,核酸が含まれ、糖、あめ、ブドウ糖、麦芽糖、ショ糖、マントース、単糖類、多糖類およびこれらのポリマーアロイなどが挙げられる。
【0031】
生体適合性無機材料としては、例えば、ガラス等のセラミック,ナノ複合化セラミック,Al
2O
3/ZrO
2複合セラミックス,Si
3N
4系ナノ複合材料,水酸化アパタイト,炭酸カルシウム,カーボン,グラファイト(ナノグラファイバー),カーボンナノチューブ(CNT),フラーレン複合材料,ハイドロキシアパタイト・ポリマー複合材料,コバルトクロム合金,ステンレス、チタン、チタン合金などが挙げられる。
【0032】
これらの生体適合性材料のうち、例えば、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、コラーゲン、でんぷん、ヒアルロン酸、アルギン酸、キチン、キトサン、セルロース、ゼラチンなどを含む生分解性ポリマ、およびこれらの化合物などから選択される生分解性材料を用いることが好適である。微生物存在下の環境に配置することで分解されるため、使用後の廃棄が容易だからである。
【0033】
特に、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、ポリジオキサノン、およびこれらの共重合体から選択される材料を用いることが好適である。血液や体液等の生体組成液に対する適度な親和性があるため、溝部17および貫通孔18内に生体組成液を収容し易いだけでなく、生体組成液中の成分の過剰な吸着を抑制し易いからである。
【0034】
また、このような生体適合性材料により作製された穿刺部10では、表面全体に生体適合性向上処理が施されているのが好適であり、特に、溝部17および貫通孔18の内壁面に生体適合性向上処理を施すことが好ましい。この生体適合性向上処理とは、生体組成液に接触する表面を改質したり、表面処理剤を付着させることにより、生体組成液との親和性を調整したり、生体組成液中の成分の吸着を抑制し易くする表面処理である。
【0035】
生体組成液との親和性を調整するための生体適合性向上処理は、例えば、ポリエチレングリコール、水酸化ナトリウム、クエン酸、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリソルベート、Poloxamer、シリコーン等の薬剤を付着して固定化することで行うことができる。
【0036】
また、生体組成液中の成分の吸着を抑制し易くするための生体適合性向上処理は、例えば、ヘパリン、燐酸、ポリエチレングリコール、水酸化ナトリウム、クエン酸、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリソルベート、Poloxamer、シリコーン等の薬剤を付着して固定化することで行うことができる。
【0037】
特に限定されるものではないが、生体組成液との親和性は、例えば接触角の大きさにより評価することができ、これにより適宜選択された親和性を確保すれば、溝部17および貫通孔18内に生体組成液を収容し易くすることができる。一方、生体組成液中の成分の吸着は出来るだけ抑制されるのが好ましく、生体組成液との親和性を阻害しない範囲で適切に付着させることが可能である。
【0038】
保持部20は、穿刺部10の材料と異なる材料から作製することも可能であるが、穿刺部10と同じ材料により一体的に作製することが好ましい。例えば、上述のような材料により、上型及び下型からなる成形型を用いて穿刺部10及び保持部20を一体に成形することが可能である。
【0039】
穿刺部10の溝部17および貫通孔18は、例えば、対応する突状部位をそれぞれ備える上型および下型を用いた射出成形により、形成することができる。このような形成方法は、溝部17および貫通孔18の容量が微少(例えば、100nL(ナノリットル)以下)である場合に、特に有効である。但し、溝部17および貫通孔18の大きさによっては、エキシマレーザやフェムト秒レーザなど微細加工用のレーザ加工や切削加工等により溝部17および貫通孔18を形成することも可能である。
【0040】
以上、本発明の一実施形態について詳述したが、本発明の態様は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、本実施形態においては、溝部17の底面17aに貫通孔18を形成しているが、
図5に示すように、貫通孔18を有しない構成にすることも可能である。
図5に示す構成も、生体への穿刺を確実に行いつつ、生体に与える痛みを緩和することができると共に、溝部17を利用して被採取物の採取や投与物の投与を行うことができる。なお、
図5において、
図1等と同様の構成部分には同一の符号を付して、詳細な説明を省略する(以下の図面においても同様)。
【0041】
また、
図6に示すように、保持部20の表面側に、溝部17に連通される流路22を形成することで、穿刺部10の穿刺により溝部17に採取される血液等の生体組成液を、毛細管現象により吸引することができる。流路22の基端側は、流路22を複数に分岐させることにより形成された収容部24と連通しており、収容部24に生体組成液を収容して測定や分析等を行うことができる。流路22は、生体組成液を保持部20の外部に案内するように形成することも可能である。
【0042】
本実施形態においては、保持部20が単一の穿刺部10を保持するように構成しているが、
図7に示すように、保持部20が複数の穿刺部10を保持するように構成することも可能である。この構成によれば、複数の穿刺部10がそれぞれ被採取物の採取や投与物の投与を行うことができるので、被採取物や投与物の量が多い場合に特に有効である。各穿刺部10は、
図7においては同じ大きさ、形状としているが、穿刺方向の長さや溝部の大きさ等を互いに異ならせてもよい。例えば、各穿刺部10の穿刺方向の長さを異ならせることにより、皮内、皮下、筋肉内など生体内における深さ方向の異なる部位に対して、投与物の投与や被採取物の採取を行うことができる。複数の穿刺部10により投与物を投与する場合、穿刺部10によって投与物を異ならせることが可能である。また、一の穿刺部10により投与物を投与すると同時に、他の穿刺部10で被採取物を採取することが可能である。
【0043】
上記各実施形態の医療用針1は、単独で使用することが可能である。あるいは、本発明の医療用針は、ケーシング内に進出可能に収容した穿刺具として使用することも可能である。穿刺具としては、軟質材料から形成されたケーシング(外針)の内部に、上記各実施形態の医療用針を内針として備える留置針の他、穿刺器具本体に着脱可能に装着される穿刺針カートリッジや、穿刺器具本体を要することなく単独で穿刺が可能な穿刺装置などを例示することができる。
【0044】
図8は、
図1に示す医療用針1を、ケーシング内に収容して穿刺具として使用する構成の一例を示す斜視図である。
図8に示す医療用針1は、保持体30に一体成形等により固定されている。保持体30は、医療用針1を備える本体31と、本体31の両側に設けられた一対のアーム32,32と、本体31の基端側に延びるロッド33とを備えている。
【0045】
図9は、
図8に示す医療用針1を備える穿刺具の一例を示す断面図である。
図9に示すように、穿刺具100は、内ケーシング110および外ケーシング120からなるケーシング内に、医療用針1を備える保持体30が進退可能に収容されて、構成されている。
【0046】
内ケーシング110は、本体111の先端に生体組織の表面と当接する当接部112を備えており、この当接部112が外ケーシング120の先端側に突出するように、内ケーシング110が外ケーシング120に収容されている。当接部112の中央には、医療用針1の穿刺部を突出させる突出口113が形成されている。また、保持体30のロッド33には、コイルばね40が挿通されている。
【0047】
上記の構成を備える穿刺具100は、
図10(a)に示すように、外ケーシング120に対して内ケーシング110を、コイルばね40のばね力に抗して矢示A方向に押し込むことにより、内ケーシング110が保持体30と共に後方へ移動し、コイルばね40のばね力が徐々に蓄積される。これに伴い、保持体30の一対のアーム32,32の後端側が、互いの間隔を狭めるように内側に湾曲し、係合部115とアーム32との係合が解除される。
【0048】
係合部115とアーム32との係合が解除されると、保持体30は、コイルばね40に蓄積されたばね力によって、
図10(b)に示すように矢示B方向へと勢いよく移動し、穿刺部10が突出口113から突出して穿刺が行われる。この後、コイルばね40の長さが自然長に戻ることで、
図10(c)に示すように保持体30が矢示C方向に移動し、医療用針1が内ケーシング110の内部に収容される。
【0049】
上述した穿刺具100は、医療用針1により生体組織の所望の深さを穿刺して、血液などの体液を採取するランセットとして使用することができ、あるいは、生体組織の所望の深さに薬剤等の投与物を投与する用途にも使用することができる。このように、医療用針1がケーシング(内ケーシング110および外ケーシング120)内で進退可能な穿刺具100は、インフルエンザワクチン接種等のように、所望の深さ位置(例えば皮内)に短時間の穿刺を行いたい場合に特に効果的である。但し、穿刺具100の構成は、ケーシング内で医療用針1が進退可能な構成に限定されず、医療用針がケーシングから進出して穿刺位置で保持される(すなわち、医療用針がケーシングから進出した後に退避しない)構成であってもよい。
【0050】
本発明の医療用針は、保持部を備えず穿刺部10のみから構成することも可能である。この医療用針は、全体が生体内に侵入するため、生分解性材料により形成することが好ましく、溝部17や貫通孔18に投与物を充填した状態で穿刺して生体内に留置させることにより、医療用針1を生体内で分解させて投与物の吸収を促すことができる。このように、医療用針1の全体が生体内に侵入して留置可能に構成することで注射針の回収が不要になるので、医療廃棄の問題を解消することができ、特にドラッグデリバリーシステム(DDS)において効果的である。
【0051】
図11および
図12は、
図1に示す医療用針1を射出成形により形成した後、X線CT装置(Xradia)により内部観察した画像の一例を示している。穿刺部の幅は900μm以下と微小であるが、穿刺部10の構成(特に、側面傾斜部、表面傾斜部および溝部の形状や配置)については、所望のとおりのものが得られていることを確認した。