(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6332806
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 11/03 20060101AFI20180521BHJP
B60C 11/13 20060101ALI20180521BHJP
【FI】
B60C11/03 300B
B60C11/13 B
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-204154(P2014-204154)
(22)【出願日】2014年10月2日
(65)【公開番号】特開2016-74243(P2016-74243A)
(43)【公開日】2016年5月12日
【審査請求日】2017年6月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】東洋ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 敏彦
【審査官】
鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−182126(JP,A)
【文献】
特開2009−6877(JP,A)
【文献】
特開2010−52502(JP,A)
【文献】
特開2010−179895(JP,A)
【文献】
特開平5−319026(JP,A)
【文献】
特開2003−146024(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 11/00−11/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部は、主溝と横溝で区画される複数のブロック陸部を有し、
タイヤ幅方向一方において2つの横溝の間に区画される1又は複数のブロック陸部と、タイヤ幅方向他方において前記2つの横溝に対して前記主溝を挟んで対面する2つの横溝の間に区画される1又は複数のブロック陸部と、を対応する1グループとし、タイヤ周方向に沿って複数のグループが配置されるように、前記複数のブロック陸部が形成されており、
互いに対面する主溝壁は、1グループのタイヤ周方向両端部からタイヤ周方向中央部へ向けて前記主溝の内側へ徐々に突出し、1グループ内におけるタイヤ周方向中央部の主溝幅をタイヤ周方向両端部の主溝幅よりも狭くする突出壁を有し、前記主溝は、前記突出壁によってタイヤ周方向に幅狭部位と幅広部位とが交互に配置され、
前記主溝壁は、踏面の法線に沿った平坦面である前記突出壁と、前記突出壁と踏面を接続するテーパ状平坦面とを有し、
前記主溝の両側の少なくとも一方における前記突出壁のタイヤ周方向中央部には、前記テーパ状平坦面及び前記踏面に開口する細溝が形成されていることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記主溝がタイヤ赤道を通るセンター主溝である場合には、前記1グループを構成するタイヤ幅方向一方のブロック陸部と前記センター主溝を挟んでタイヤ幅方向他方にある対応するブロック陸部が1個対1個の関係に設定されている請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記主溝がタイヤ幅方向の最も外側にあるショルダー主溝である場合には、前記1グループを構成するタイヤ幅方向外側にあるブロック陸部と前記ショルダー主溝を挟んでタイヤ幅方向内側にある対応するブロック陸部がN個対M個の関係(ただし、N及びMは1以上の自然数であり、N>M)に設定されている請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、気柱管共鳴音を含むノイズを低減する空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤが接地した状態では、タイヤ周方向に延びる主溝と路面とにより管状空間が形成される。タイヤが回転すると、管状空間で圧縮された空気が外に放出され、その結果、気柱管共鳴音が発生する。気柱管共鳴音は、周波数が1kHz前後の耳障りなノイズであり、従来から気柱管共鳴音を低減することが求められている。
【0003】
例えば、特許文献1には、タイヤ周方向に延びる主溝に、拡幅部と縮幅部をタイヤ周方向に繰り返し形成したタイヤが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−11508号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1によれば、騒音低減効果が得られるとの記載がある。しかし、気柱管共鳴音を含むノイズの更なる低減が望まれる。
【0006】
本開示の目的は、気柱管共鳴音を含むノイズの低減性能を向上させた空気入りタイヤを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、上記目的を達成するために、次のような手段を講じている。
【0008】
本開示の空気入りタイヤは、
トレッド部は、主溝と横溝で区画される複数のブロック陸部を有し、
タイヤ幅方向一方にある1又は複数のブロック陸部と前記主溝を挟んでタイヤ幅方向他方にある対応する1又は複数のブロック陸部を1グループとし、タイヤ周方向に沿って複数のグループが配置されるように、前記複数のブロック陸部が形成されており、
互いに対面する主溝壁は、1グループのタイヤ周方向両端部からタイヤ周方向中央部へ向けて前記主溝の内側へ徐々に突出し、1グループ内におけるタイヤ周方向中央部の主溝幅をタイヤ周方向両端部の主溝幅よりも狭くする突出壁を有し、前記主溝は、前記突出壁によってタイヤ周方向に幅狭部位と幅広部位とが交互に配置され、
前記主溝壁は、踏面の法線に沿った平坦面である前記突出壁と、前記突出壁と踏面を接続するテーパ状平坦面とを有し、
前記主溝の両側の少なくとも一方における前記突出壁のタイヤ周方向中央部には、前記テーパ状平坦面及び前記踏面に開口する細溝が形成されている。
【0009】
このように、主溝は、突出壁によって幅狭部位と幅広部位が周方向に交互に配置され、幅狭部位を形成する突出壁のタイヤ周方向中央部に細溝が形成されているので、空気が細溝に逃げ、圧力低下が生じてノイズが低減される。さらに、突出壁と踏面はテーパ状平坦面で接続されているので、接地時に細溝が潰れにくくなり、ノイズ低減の効果を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施形態の空気入りタイヤのトレッドパターンを模式的に示す図。
【
図4】ブロック陸部と細溝の位置関係に関する説明図。
【
図5】比較例1に係る空気入りタイヤのトレッドパターンを模式的に示す図。
【
図6】比較例2に係る空気入りタイヤのトレッドパターンを模式的に示す図。
【
図7】比較例3に係る空気入りタイヤのトレッドパターンを模式的に示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の一実施形態について説明する。図において、「PD」はタイヤ周方向を意味し、「WD」はタイヤ幅方向を意味する。
【0012】
本実施形態の空気入りタイヤは、図示を省略するが、通常の空気入りタイヤと同様に、一対のビードコアと、該ビードコアを巻回しトロイダル形状を成すカーカスと、該カーカスのクラウン部のタイヤ半径方向外側に配置されたベルト層と、該ベルト層のタイヤ半径方向外側に配置されたトレッド部と、を備える。
図1に示すように、トレッド部は、タイヤ周方向PDに延びる主溝1a,1bと、タイヤ幅方向に延びる横溝2と、主溝(1a,1b)と横溝2で区画される複数のブロック陸部3,3a,3b、3cを有する。ここで「横溝」とは、新品の状態で踏面を複数のブロック陸部に区画すればよく、細い溝及びサイプも含まれる。主溝は、タイヤ周方向に延びていれば、タイヤ周方向に一致していても傾斜してもよく、ジグザグ状であってもよい。横溝は、タイヤ幅方向に延びていれば、タイヤ幅方向に一致していても傾斜していてもよい。
【0013】
図1に示すように、複数のブロック陸部3は、タイヤ幅方向一方にある1又は複数のブロック陸部3a(3c)と主溝1a(1b)を挟んでタイヤ幅方向他方にある対応する1又は複数のブロック陸部3b(3a)を1グループG1(G2)とし、タイヤ周方向PDに沿って複数のグループG1(G2)が配置されるように、形成されている。例えば、主溝がタイヤ赤道CLを通るセンター主溝1bである場合には、1グループG1を構成するタイヤ幅方向一方のブロック陸部3aとセンター主溝1bを挟んでタイヤ幅方向他方にある対応するブロック陸部3bが1対1の関係に設定されている。また、主溝がタイヤ幅方向WDの最も外側にあるショルダー主溝1aである場合には、1グループ2Gを構成するタイヤ幅方向外側にあるブロック陸部3cとショルダー主溝1aを挟んでタイヤ幅方向内側にあるブロック陸部3aがN対Mの関係に設定されている。ただし、N及びMは1以上の自然数であり、N>Mとなる。
図1では、N=2、M=1となる。その他の例として、N=3、M=2等が挙げられる。
【0014】
図2は、ブロック陸部3bを示す斜視図である。
図1及び
図2に示すように、互いに対面する主溝壁は、1グループG1(G2)のタイヤ周方向両端部5aからタイヤ周方向中央部5bへ向けて主溝1a,1bの内側へ徐々に突出し、1グループG1(G2)内におけるタイヤ周方向中央部5bの主溝幅をタイヤ周方向両端部5aの主溝幅よりも狭くする突出壁4を有する。主溝1a,1bは、突出壁4によってタイヤ周方向PDに幅狭部位と幅広部位とが交互に配置される。
【0015】
図3は、主溝1bの断面図である。
図2及び
図3に示すように、主溝壁は、踏面6の法線に沿った平坦面である突出壁4と、突出壁4と踏面6を接続するテーパ状平坦面7とを有する。ここで「踏面の法線に沿った平坦面」とは、踏面の法線と完全に一致する平坦面だけを意味するのではなく、踏面の法線に対する傾斜角度が±5度以内の平坦面も含まれることを意味する。
【0016】
図1、
図2及び
図3に示すように、主溝1a,1bの両側の少なくとも一方における突出壁4のタイヤ周方向中央部5bには、テーパ状平坦面7及び踏面6に開口する細溝8が形成されている。ここで「細溝」とは、主溝よりも幅狭な溝又はサイプを意味する。本実施形態では、細溝8は、サイプであり、
図1に示すブロック陸部3a,3b内で終端するクローズドサイプでもよく、同図に示すブロック陸部3,3cを貫通して開放されるオープンサイプとしてもよい。
図1の例では、主溝1aの両側における突出壁4に細溝8が形成され、主溝1bの両側における一方の突出壁4に細溝8が形成される。
【0017】
図3に示すように、突出壁4の高さD1は、溝底を基点として主溝深さDの50%以上100%以内であればよい。細溝8の深さD2は、踏面を基点として主溝深さDの50%以上100%以内であればよい。テーパ状平坦面7の深さD3は、踏面を基点として少なくとも1mmあればよい。
図4に示すように、1グループにおけるタイヤ周方向中央部5bに細溝8が形成されるが、このタイヤ周方向中央部5bは、タイヤ周方向PDに沿ったタイヤ周方向両端部5a間の距離をWとした場合に、中央Cを中心としてW×15%の範囲を意味し、完全な中心ではなくても中心cから多少ズレてもよいことを意味する。
【実施例】
【0018】
以下、本開示の構成と効果を具体的に示す実施例などについて説明する。なお、「ノイズ低減性能」は、JASO−C606に準拠し、時速80km/hでオーバーオールレベルを測定し、比較例1のタイヤとの騒音差を示している。マイナス値が大きくなればなるほどタイヤ騒音が低減して好ましいことを示す。
【0019】
実施例1
図1に示すように、ブロック陸部3,3a,3b、3cの主溝壁に、突出壁4及びテーパ状平坦面7を形成し、ブロック陸部で構成される1グループG1におけるタイヤ周方向中央部5bに細溝8を配置した。
【0020】
比較例1
図5に示すように、ブロック陸部3の主溝壁に、本開示の突出壁4を設けず、主溝1a,1bの溝幅がほぼ一定となるトレッドパターンを形成した。
【0021】
比較例2
図6に示すように、ブロック陸部3の主溝壁に、本開示の突出壁4を設け、主溝に幅狭部位と幅広部位とがタイヤ周方向PDに交互に配置されるようにした。本開示の細溝8及びテーパ状平坦面7は形成していない。
【0022】
比較例3
図7に示すように、テーパ状平坦面7を形成していない点以外は実施例1と同じとした。
【0023】
【表1】
【0024】
表1の結果から、実施例1のタイヤは、比較例1〜3に比して、ノイズが低減できていることが分かる。比較例1に対して比較例2がノイズ低減していることから、本開示の突出壁4を設けることで、主溝に幅狭部位と幅広部位をタイヤ周方向PDに交互に設けることがノイズ低減に効果があることが分かる。メカニズムとしては、幅狭部位を空気が通過する際に摩擦抵抗が生じ、熱エネルギーに変換され、空気の振動(ノイズ)が低減すると考えられる。
【0025】
比較例2に対し比較例3がノイズ低減していることから、本開示の細溝8を設けることでノイズ低減に効果があることが分かる。メカニズムとしては、本開示の突出壁4によって幅狭部位を空気が通るときに流速が速くなり、圧力が抑えられる。幅狭部位に細溝8を設けることで、空気が細溝8に逃げるので、圧力低下が更に顕著となり、ノイズ低減効果が大きくなると考えられる。
【0026】
比較例3に対し実施例1がノイズ低減していることから、本開示のテーパ状平坦面7を設けることでノイズ低減に効果があることが分かる。メカニズムとしては、テーパ状平坦面7が無ければ、細溝8が踏面に開口しているため、接地時に変形して細溝8の大半が閉じてしまう。細溝8が閉じると、空気の逃げが少なくなり、圧力低下が進まず、ノイズ低減効果が十分に発揮されない。これに対して、テーパ状平坦面7を設けると、テーパ状平坦面7よりも径方向内側にある細溝8が接地時に閉じにくくなり、荷重をかけないときの細溝8の幅と同様の幅を保持できると考えられる。したがって、テーパ状平坦面7は、接地時に細溝8の溝幅を確保する横溝閉塞抑制部として機能すると考えられる。
【0027】
以上のように、本実施形態の空気入りタイヤは、トレッド部は、主溝1a,1bと横溝2で区画される複数のブロック陸部3,3a,3b、3cを有する。タイヤ幅方向一方にある1又は複数のブロック陸部3a(3c)と主溝1a(1b)を挟んでタイヤ幅方向他方にある対応する1又は複数のブロック陸部3b(3c)を1グループG1(G2)とし、タイヤ周方向PDに沿って複数のグループG1(G2)が配置されるように、複数のブロック陸部3,3a,3b、3cが形成されている。互いに対面する主溝壁は、1グループG1(G2)のタイヤ周方向両端部5aからタイヤ周方向中央部5bへ向けて主溝1a(1b)の内側へ徐々に突出し、1グループG1(G2)内におけるタイヤ周方向中央部5bの主溝幅をタイヤ周方向両端部5aの主溝幅よりも狭くする突出壁4を有する。主溝1a(1b)は、突出壁4によってタイヤ周方向PDに幅狭部位と幅広部位とが交互に配置される。主溝壁は、踏面6の法線に沿った平坦面である突出壁4と、突出壁4と踏面6を接続するテーパ状平坦面7とを有する。主溝1a(1b)の両側の少なくとも一方における突出壁4のタイヤ周方向中央部5bには、テーパ状平坦面7及び踏面6に開口する細溝8が形成されている。
【0028】
このように、主溝1a(1b)は、突出壁4によって幅狭部位と幅広部位が周方向に交互に配置され、幅狭部位を形成する突出壁4のタイヤ周方向中央部5bに細溝8が形成されているので、空気が細溝8に逃げ、圧力低下が生じてノイズが低減される。さらに、突出壁4と踏面6はテーパ状平坦面7で接続されているので、接地時に細溝8が潰れにくくなり、ノイズ低減の効果を向上させることが可能となる。
【0029】
本実施形態では、主溝がタイヤ赤道CLを通るセンター主溝1bである場合には、1グループG1を構成するタイヤ幅方向一方のブロック陸部3aとセンター主溝1bを挟んでタイヤ幅方向他方にある対応するブロック陸部3bが1対1の関係にされている。
【0030】
このようにすれば、センター領域におけるタイヤ幅方向の剛性バランスをとりやすく、他の性能の悪化を防止することが可能となる。
【0031】
本実施形態では、主溝がタイヤ幅方向WDの最も外側にあるショルダー主溝1aである場合には、1グループG2を構成するタイヤ幅方向外側にあるブロック陸部3cとショルダー主溝1aを挟んでタイヤ幅方向内側にある対応するブロック陸部3aがN対Mの関係(ただし、N及びMは1以上の自然数であり、N>M)に設定されている。
【0032】
このようにすれば、ショルダー側の陸部を細かく分割でき、ショルダー側をセンター側に比べて剛性を低下させて、耐摩耗性を含む他性能が悪化することを抑制することが可能となる。
【0033】
以上、本発明の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものでないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明だけではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0034】
上記の各実施形態で採用している構造を他の任意の実施形態に採用することは可能である。各部の具体的な構成は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0035】
1a,1b…主溝
2…横溝
3,3a,3b、3c…ブロック陸部
4…突出壁
5a…タイヤ周方向両端部
5b…タイヤ周方向中央部
6…踏面
7…テーパ状平坦面
8…細溝
G1,G2…1グループ