特許第6332903号(P6332903)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6332903
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】タイヤ用ゴム組成物及び空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   C08L 9/00 20060101AFI20180521BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20180521BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20180521BHJP
   C08L 53/02 20060101ALI20180521BHJP
【FI】
   C08L9/00
   B60C1/00 A
   C08K3/36
   C08L53/02
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-260123(P2012-260123)
(22)【出願日】2012年11月28日
(65)【公開番号】特開2014-105292(P2014-105292A)
(43)【公開日】2014年6月9日
【審査請求日】2015年9月4日
【審判番号】不服2017-3532(P2017-3532/J1)
【審判請求日】2017年3月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】日野原 祐子
(72)【発明者】
【氏名】横山 結香
【合議体】
【審判長】 大島 祥吾
【審判官】 上坊寺 宏枝
【審判官】 小柳 健悟
(56)【参考文献】
【文献】 特表2012−520385(JP,A)
【文献】 特表2009−523131(JP,A)
【文献】 特開2004−2622(JP,A)
【文献】 特開2000−256509(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/161222(WO,A1)
【文献】 特開平8−283465(JP,A)
【文献】 特開昭53−96047(JP,A)
【文献】 特開2000−265007(JP,A)
【文献】 特許第6208422(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/16
B60C 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン量が20〜60質量%のスチレンブタジエンゴム及びブタジエンゴムを含むゴム成分と、シリカと、重量平均分子量Mwが1×10〜2×10のスチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体とを含有し、
前記ゴム成分100質量%中、前記スチレンブタジエンゴム及び前記ブタジエンゴムの合計含有量が90〜100質量%、前記スチレンブタジエンゴムの含有量が45〜85質量%、前記ブタジエンゴムの含有量が10〜50質量%であり、
前記ゴム成分100質量部に対して、前記シリカの含有量が5〜200質量部、前記スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体の含有量が1〜40質量部であるタイヤ用ゴム組成物。
【請求項2】
前記スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体のスチレン量が1〜50質量%である請求項1記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項3】
請求項1又は2記載のゴム組成物を用いて作製した空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ用ゴム組成物、及びそれを用いた空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車用の空気入りタイヤに要求される特性は、低燃費性(転がり抵抗特性)のほか、ウェットグリップ性能(操縦安定性)、耐摩耗性など多岐にわたり、これらの性能を向上するために種々の工夫がなされている。
【0003】
耐摩耗性を向上させる方法として、例えば、ゴム成分として天然ゴムやブタジエンゴムを使用する方法が知られているが、この方法を用いると、ウェットグリップ性能が悪化する傾向がある。また、耐摩耗性及びウェットグリップ性能を両立する方法として、例えば、カーボンブラックやシリカなどの補強剤を増量する方法が挙げられるが、この方法を用いると、低燃費性が悪化する傾向がある。このように、低燃費性、ウェットグリップ性能及び耐摩耗性はそれぞれ相反する関係にあり、これらの性能をバランス良く改善することは困難であった。
【0004】
特許文献1には、耐摩耗性を向上させつつ、低燃費性を改善することを目的として、スチレンモノマーユニットのブロックセグメント及びゴムモノマーユニットのブロックセグメントから構成されるトリブロック共重合体をゴム組成物に配合する技術が開示されているが(特許文献1)、低燃費性、ウェットグリップ性能及び耐摩耗性をバランス良く改善するという点で改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−2622号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記課題を解決し、低燃費性、ウェットグリップ性能及び耐摩耗性をバランス良く改善し、更に、良好な加工性も得られるタイヤ用ゴム組成物、及び該ゴム組成物を用いて作製した空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、スチレン量が20質量%以上のスチレンブタジエンゴムを含むゴム成分と、シリカと、重量平均分子量Mwが5×10以上のスチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体とを含有し、上記ゴム成分100質量%中、上記スチレンブタジエンゴム及びブタジエンゴムの合計含有量が90質量%以上であり、上記ゴム成分100質量部に対して、上記シリカの含有量が5〜200質量部、上記スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体の含有量が1〜40質量部であるタイヤ用ゴム組成物に関する。
【0008】
上記スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体のスチレン量が1〜50質量%であることが好ましい。
【0009】
上記スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体の重量平均分子量Mwが5×10〜2×10であることが好ましい。
【0010】
上記スチレンブタジエンゴムのスチレン量が20〜60質量%であることが好ましい。
【0011】
本発明はまた、上記ゴム組成物を用いて作製した空気入りタイヤに関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高スチレン量のスチレンブタジエンゴム及びブタジエンゴムの合計含有量が所定量以上であるゴム成分に対して、シリカと、重量平均分子量Mwが所定値以上のスチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体とをそれぞれ所定量配合したゴム組成物であるので、低燃費性、加工性、ウェットグリップ性能及び耐摩耗性がバランスよく改善された空気入りタイヤを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、スチレン量が20質量%以上のスチレンブタジエンゴムを含むゴム成分と、シリカと、重量平均分子量Mwが5×10以上のスチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)とを含有し、上記ゴム成分100質量%中、上記スチレンブタジエンゴム(SBR)及びブタジエンゴム(BR)の合計含有量が90質量%以上であり、上記ゴム成分100質量部に対して、上記シリカの含有量が5〜200質量部、上記ブロック共重合体の含有量が1〜40質量部である。
【0014】
高スチレン量のSBR及びBRの合計含有量が多いゴム成分に対して、重量平均分子量Mwが所定値以上のSBSを所定量配合することで、ゴム成分とシリカとの相溶性を改善し、これにより、低燃費性、加工性、ウェットグリップ性能及び耐摩耗性をバランスよく改善できる。
【0015】
SBSは、スチレンブロック、ブタジエンブロック及びスチレンブロックで構成されるトリブロック共重合体であり、一般的な方法で合成できる。SBSは、極性官能基を有する化合物で変性されていてもよい。
【0016】
SBSのスチレン量は、好ましくは1質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは20質量%以上、特に好ましくは25質量%以上、最も好ましくは30質量%以上である。1質量%未満であると、シリカとの相互作用が充分に得られず、低燃費性が悪化する傾向がある。SBSのスチレン量は、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下である。50質量%を超えると、混練りが困難となり、充分な加工性を確保できないおそれがある。
【0017】
SBSにおいて、ブタジエンブロックを挟持するスチレンブロックの比率(モル比)は、1:1であることが好ましい。すなわち、SBSは、ブタジエンブロックを中心として左右対称な構造を有することが好ましい。これにより、ゴム成分とシリカとの相溶性を改善し、シリカの分散不良の発生を抑制できる。
【0018】
SBSの重量平均分子量Mwは、5.0×10以上、好ましくは6.0×10以上、より好ましくは7.0×10以上、特に好ましくは1.0×10以上である。5.0×10未満であると、ウェットグリップ性能、耐摩耗性、低燃費性が悪化するおそれがある。SBSの重量平均分子量Mwは、好ましくは2.0×10以下、より好ましくは1.5×10以下、更に好ましくは1.3×10以下である。2.0×10を超えると、混練りが困難となり、充分な加工性を確保できないおそれがある。
なお、本発明において、Mwは、GPCを用い、標準ポリスチレンより換算した値である。
【0019】
SBSの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、1質量部以上、好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上である。1質量部未満であると、相溶性向上の効果が充分ではなく、耐摩耗性を充分に改善できない傾向がある。SBSの含有量は、40質量部以下、好ましくは30質量部以下、より好ましくは20質量部以下である。40質量部を超えると、ゴム物性が低下し、コストの増加に見合った効果が得られない傾向がある。
なお、本発明において、SBSは、添加剤として使用しており、ゴム成分には含まれない。
【0020】
本発明のゴム組成物は、ゴム成分として、高スチレン量のSBRと、必要に応じてBRを含有する。ゴム成分100質量%中のSBR及びBRの合計含有量は、90質量%以上、好ましくは95質量%以上、より好ましくは99質量%以上、更に好ましくは100質量%である。90質量%未満であると、天然ゴム(NR)など、SBR及びBR以外のゴム量が多いため、ゴム成分の相溶性が低下し、界面剥離が起こるおそれがある。
【0021】
SBRのスチレン量は、20質量%以上、好ましくは24質量%以上、より好ましくは28質量%以上、更に好ましくは30質量%以上であり、好ましくは60質量%以下、より好ましくは50質量%以下、更に好ましくは45質量%以下、特に好ましくは40質量%以下である。上記範囲内であれば、低燃費性、ウェットグリップ性能及び耐摩耗性がバランス良く得られる。
【0022】
ゴム成分100質量%中のSBRの含有量は、好ましくは35質量%以上、より好ましくは45質量%以上であり、また、好ましくは85質量%以下、特に好ましくは80質量%以下である。上記範囲内であれば、低燃費性、加工性、ウェットグリップ性能及び耐摩耗性がバランス良く得られる。
【0023】
BRとしては特に限定されず、例えば、日本ゼオン(株)製のBR1220、宇部興産(株)製のBR130B、BR150Bなどの高シス含有量のBR;宇部興産(株)製のVCR412、VCR617などのシンジオタクチックポリブタジエン結晶を含有するBRなど、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。
【0024】
ゴム成分100質量%中のBRの含有量は、0質量%であってもよいが、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上である。5質量%未満であると、低燃費性が悪化する傾向がある。BRの含有量は、好ましくは60質量%以下、より好ましくは50質量%以下である。60質量%を超えると、耐摩耗性が悪化する傾向がある。
【0025】
本発明のゴム組成物は、充填剤として、シリカを含有する。シリカとしては特に限定されず、例えば、乾式法シリカ(無水ケイ酸)、湿式法シリカ(含水ケイ酸)などが挙げられるが、シラノール基が多いという理由から、湿式法シリカが好ましい。
【0026】
シリカの窒素吸着比表面積(NSA)は、好ましくは40m/g以上、より好ましくは50m/g以上、更に好ましくは100m/g以上、特に好ましくは150m/g以上である。40m/g未満では、加硫後の破壊強度が低下し、充分な耐摩耗性を確保できないおそれがある。シリカのNSAは、好ましくは500m/g以下、より好ましくは300m/g以下である。500m/gを超えると、低燃費性、加工性が悪化する傾向がある。
なお、シリカのNSAは、ASTM D3037−81に準じてBET法で測定される値である。
【0027】
シリカの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、5質量部以上、好ましくは10質量部以上、より好ましくは15質量部以上、更に好ましくは20質量部以上、特に好ましくは40質量部以上である。5質量部未満であると、充分な低燃費性を確保できないおそれがある。シリカの含有量は、200質量部以下、好ましくは150質量部以下、より好ましくは100質量部以下である。200質量部を超えると、シリカの分散が困難になり、加工性が悪化する傾向がある。
【0028】
本発明のゴム組成物は、シリカとともに、シランカップリング剤を含有することが好ましい。シランカップリング剤としては特に限定されないが、例えば、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2−トリメトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)トリスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)トリスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)ジスルフィド、3−トリメトキシシリルプロピル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3−トリエトキシシリルプロピル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、2−トリエトキシシリルエチル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、2−トリメトキシシリルエチル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3−トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾリルテトラスルフィド、3−トリエトキシシリルプロピルベンゾチアゾールテトラスルフィド、3−トリエトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド、3−トリメトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィドなどのスルフィド系;3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、2−メルカプトエチルトリメトキシシラン、2−メルカプトエチルトリエトキシシランなどのメルカプト系;ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシランなどのビニル系;3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノ系;γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシランなどのグリシドキシ系;3−ニトロプロピルトリメトキシシラン、3−ニトロプロピルトリエトキシシランなどのニトロ系;3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシラン、2−クロロエチルトリメトキシシラン、2−クロロエチルトリエトキシシランなどのクロロ系などがあげられる。また、メルカプト系としては、メルカプト基が保護された構造を有するモメンティブ社製のNXT、NXT−Zなども使用できる。これらのシランカップリング剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0029】
シランカップリング剤の含有量は、シリカ100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは2質量部以上である。1質量部未満では、未加硫ゴム組成物の粘度が高く、加工性が悪化する傾向がある。シランカップリング剤の含有量は、好ましくは20質量部以下、より好ましくは15質量部以下である。20質量部を超えると、コストの増加に見合った効果が得られない傾向がある。
【0030】
本発明ゴム組成物は、充填剤として、カーボンブラックを含有することが好ましい。これにより、ウェットグリップ性能、耐摩耗性をより改善できる。カーボンブラックとしては特に限定されず、SAF、ISAF、HAF、FF、GPFなど、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。
【0031】
カーボンブラックの平均粒子径は、好ましくは31nm以下、より好ましくは25nm以下、更に好ましくは23nm以下である。31nmを超えると、破断強度が大幅に悪化し、充分な耐摩耗性を確保できないおそれがある。カーボンブラックの平均粒子径は、好ましくは15nm以上、より好ましくは19nm以上である。15nm未満であると、配合したゴムの粘度が大幅に上昇し、加工性が悪化するおそれがある。
なお、カーボンブラックの平均粒子径は数平均粒子径であり、透過型電子顕微鏡により測定される。
【0032】
カーボンブラックのジブチルフタレート(DBP)吸油量は、好ましくは100ml/100g以上、より好ましくは105ml/100g以上、更に好ましくは110ml/100g以上である。100ml/100g未満であると、補強性が低く、耐摩耗性の確保が困難となるおそれがある。カーボンブラックのDBP吸油量は、好ましくは160ml/100g以下、より好ましくは150ml/100g以下である。160ml/100gを超えると、カーボンブラック自体の製造が困難となる。
なお、カーボンブラックのDBP吸油量は、JIS K6217−4の測定方法によって求められる。
【0033】
カーボンブラックの窒素吸着比表面積(NSA)は、好ましくは80m/g以上、より好ましくは90m/g以上である。80m/g未満であると、破断強度が大幅に悪化し、充分な耐摩耗性を確保できないおそれがある。カーボンブラックのNSAは、好ましくは200m/g以下、より好ましくは150m/g以下である。200m/gを超えると、配合したゴムの粘度が大幅に上昇し、加工性が悪化するおそれがある。
なお、カーボンブラックのNSAは、JIS K6217のA法によって求められる。
【0034】
カーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは2質量部以上、より好ましくは5質量部以上である。2質量部未満では、補強性が低く、充分な耐摩耗性を確保できないおそれがある。カーボンブラックの含有量は、好ましくは50質量部以下、より好ましくは20質量部以下、更に好ましくは15質量部以下である。50質量部を超えると、低燃費性が悪化する傾向がある。
【0035】
シリカ及びカーボンブラックの合計100質量%中のシリカ含有量(含有率)は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは55質量%以上である。50質量%未満であると、充分な低燃費性、ウェットグリップ性能を確保できないおそれがある。また、該シリカ含有量は、好ましくは95質量%以下である。95質量%を超えると、充分な耐摩耗性、加工性を確保できないおそれがある。
【0036】
本発明のゴム組成物は、シリカやカーボンブラック以外に、他の充填剤を含有してもよい。他の充填剤としては、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、モンモリロナイト、セルロース、各種短繊維、ガラスバルーン、卵殻などがあげられるが、これらに限定されるものではない。
【0037】
本発明のゴム組成物は、上述の成分以外に、ワックス、老化防止剤、ステアリン酸、酸化亜鉛、硫黄、加硫促進剤などを適宜配合することができる。
【0038】
本発明のゴム組成物は、一般的な方法で製造される。すなわち、バンバリーミキサー、ニーダー、オープンロールなどの混練機で上記各成分を混練りしその後加硫する方法などにより製造できる。
【0039】
加硫剤及び加硫促進剤以外の添加剤を配合する場合、混練温度は、通常50〜200℃であり、好ましくは80〜190℃であり、混練時間は、通常30秒〜30分であり、好ましくは1分〜30分である。加硫剤、加硫促進剤を配合する場合、混練温度は、通常100℃以下であり、好ましくは室温〜80℃である。
【0040】
加硫剤、加硫促進剤を配合した組成物は、通常、プレス加硫などの加硫処理を行って用いられる。加硫温度としては、通常120〜200℃、好ましくは140〜180℃である。
【0041】
本発明のゴム組成物は、タイヤの各部材に使用することができ、トレッドに好適に使用できる。
【0042】
本発明の空気入りタイヤは、上記ゴム組成物を用いて通常の方法で製造される。すなわち、上記成分を配合したゴム組成物を、未加硫の段階でトレッドなどの形状にあわせて押出し加工し、他のタイヤ部材とともに、タイヤ成型機上にて通常の方法で成形することにより、未加硫タイヤを形成する。この未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧することにより、本発明の空気入りタイヤを製造できる。
【実施例】
【0043】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0044】
以下、ブロック共重合体(SBS)の合成時に用いた各種薬品について、まとめて説明する。なお、薬品は必要に応じて定法に従い精製を行った。
n−ヘキサン:関東化学(株)製
スチレン:関東化学(株)製
1,3−ブタジエン:東京化成工業(株)製
テトラヒドロフラン:和光純薬工業(株)製
n−ブチルリチウム:関東化学(株)製の1.6M n−ブチルリチウムヘキサン溶液
2,6−tert−ブチル−p−クレゾール:大内新興化学工業(株)製のノクラック200
【0045】
<ブロック共重合体の分析>
下記により得られたブロック共重合体について、以下の方法で分析した。分析結果を表1に示す。
【0046】
(重量平均分子量Mwの測定)
ブロック共重合体の重量平均分子量Mwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)(東ソー(株)製GPC−8000シリーズ、検出器:示差屈折計、カラム:東ソー(株)製のTSKGEL SUPERMULTIPORE HZ−M)による測定値を基に標準ポリスチレン換算により求めた。
【0047】
(ブロック共重合体の構造同定)
ブロック共重合体の構造同定は、BRUKER社製AV400の装置を用いて行った。測定結果から、ブロック共重合体中のスチレン量を算出した。
【0048】
<ブロック共重合体の合成>
(ブロック共重合体1)
充分に窒素置換した耐熱容器に、n−ヘキサン1500ml、スチレン0.37mol、テトラヒドロフラン0.2mmolを加え、40℃に昇温した。次にn−ブチルリチウム2.3mmolを加えた後、50℃に昇温させ1時間撹拌した。次に、1,3−ブタジエン2.2molを加えて30分間撹拌した。その後、スチレン0.37molを加えて1時間撹拌した。その後、アルコールを加えて反応を止め、反応溶液に2,6−tert−ブチル−p−クレゾール1gを添加後、再沈殿精製によりブロック共重合体1を得た。得られたブロック共重合体1の重量平均分子量Mwは100,000、スチレン量(スチレン成分含有率)は40質量%であった。
【0049】
(ブロック共重合体2〜4)
表1の処方に従ってブロック共重合体1と同様の方法で合成した。
【0050】
【表1】
【0051】
以下に、実施例及び比較例で用いた各種薬品について説明する。
SBR1:日本ゼオン(株)製のNipol NS522(スチレン量:39質量%、油展比率:ゴム成分100質量部に対し、37.5質量部のオイルを含有、表2ではゴム成分のみの量を記載)
SBR2:JSR(株)製のSL574(スチレン量:15質量%)
BR:宇部興産(株)製のウベポールBR150B
NR:RSS#3
ブロック共重合体1〜4:上記方法で合成
シリカ:デグッサ社製のウルトラシルVN3(NSA:175m/g)
カーボンブラック:三菱化学(株)製のダイアブラックN339(NSA:96m/g、DBP吸油量:124ml/100g、平均粒子径:26nm)
シランカップリング剤:デグッサ社製のSi69(ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド)
オイル:(株)ジャパンエナジー製のX−140
ワックス:大内新興化学工業(株)製のサンノックN
ステアリン酸:日油(株)製のステアリン酸 「桐」
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の亜鉛華1号
老化防止剤:大内新興化学工業(株)製のノクラック6C(N−1,3−ジメチルブチル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン)
硫黄:鶴見化学(株)製の粉末硫黄
加硫促進剤1:大内新興化学工業(株)製のノクセラーCZ
加硫促進剤2:大内新興化学工業(株)製のノクセラーD
【0052】
<実施例及び比較例>
表2に示す配合内容に従い、(株)神戸製鋼所製の1.7Lバンバリーミキサーを用いて、硫黄及び加硫促進剤以外の材料を150℃の条件下で5分間混練りし、混練り物を得た。次に、得られた混練り物に硫黄及び加硫促進剤を添加し、オープンロールを用いて、80℃の条件下で5分間練り込み、未加硫ゴム組成物を得た。得られた未加硫ゴム組成物を170℃で15分間プレス加硫し、加硫ゴム組成物を得た。
【0053】
得られた未加硫ゴム組成物及び加硫ゴム組成物について、以下に示す試験方法により加工性、低燃費性、ウェットグリップ性能及び耐摩耗性を評価した。結果を表2に示す。
【0054】
<評価項目及び試験方法>
(加工性)
JIS K6300−1に基づいて、上記未加硫ゴム組成物のムーニー粘度(ML1+4)を130℃で測定し、下記計算式により測定結果を指数表示した。指数が大きいほど、未加硫時の加工性が良好であることを示す。
(加工性指数)=(比較例1のムーニー粘度)/(各配合のムーニー粘度)×100
【0055】
(低燃費性)
(株)上島製作所製スペクトロメーターを用いて、動的歪振幅1%、周波数10Hz、温度50℃で上記加硫ゴム組成物のtanδを測定し、下記計算式により測定結果を指数表示した。指数が大きいほど転がり抵抗が小さく、低燃費性に優れることを示す。
(低燃費性指数)=(比較例1のtanδ)/(各配合のtanδ)×100
【0056】
(ウェットグリップ性能)
(株)上島製作所製フラットベルト式摩擦試験機(FR5010型)を用いてウェットグリップ性能を評価した。上記加硫ゴム組成物からなる幅20mm、直径100mmの円筒形のゴム試験片をサンプルとして用い、速度20km/時間、荷重4kgf、路面温度20℃の条件で、路面に対するサンプルのスリップ率を0〜70%まで変化させ、その際に検出される摩擦係数の最大値を読みとった。そして、下記計算式により測定結果を指数表示した。指数が大きいほどウェットグリップ性能に優れることを示す。
(ウェットグリップ性能指数)=(各配合の摩擦係数の最大値)/(比較例1の摩擦係数の最大値)×100
【0057】
(耐摩耗性)
ランボーン型摩耗試験機を用いて、室温、負荷荷重1.0kgf、スリップ率30%の条件で上記加硫ゴム組成物のランボーン摩耗量を測定した。測定したランボーン摩耗量から容積損失量を計算し、各配合の容積損失量を下記計算式により指数表示した。指数が大きいほど耐摩耗性に優れることを示す。
(耐摩耗性指数)=(比較例1の容積損失量)/(各配合の容積損失量)×100
【0058】
【表2】
【0059】
表2に示すように、所定量のブロック共重合体を配合した実施例のゴム組成物は、比較例のゴム組成物と比較して、加工性、低燃費性、ウェットグリップ性能及び耐摩耗性がバランス良く改善された。特に、スチレン量が多いブロック共重合体1を配合した実施例1で、優れた性能が得られた。
【0060】
比較例2は、ブロック共重合体の含有量が多すぎて、加工性及び低燃費性が大きく悪化した。比較例3は、NRの配合によってSBR及びBRの含有量が少なくなっているため、所定量のブロック共重合体を配合しているにも関わらず、ウェットグリップ性能が大きく悪化した。重量平均分子量Mwが小さいブロック共重合体4を配合した比較例4は、実施例1と比較して低燃費性、ウェットグリップ性能及び耐摩耗性が劣っており、ウェットグリップ性能及び耐摩耗性は基準とする比較例1よりも劣っていた。スチレン量が少ないSBR2を配合した比較例5は、加工性は良好であったが、低燃費性、ウェットグリップ性能及び耐摩耗性が大きく悪化した。