特許第6332910号(P6332910)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6332910
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】トランスミッション及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16H 1/32 20060101AFI20180521BHJP
【FI】
   F16H1/32 B
【請求項の数】14
【外国語出願】
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-68230(P2013-68230)
(22)【出願日】2013年3月28日
(65)【公開番号】特開2013-242042(P2013-242042A)
(43)【公開日】2013年12月5日
【審査請求日】2016年3月14日
(31)【優先権主張番号】10 2012 102 802.8
(32)【優先日】2012年3月30日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】500542240
【氏名又は名称】ヴィッテンシュタイン エスエー
(74)【代理人】
【識別番号】100114410
【弁理士】
【氏名又は名称】大中 実
(74)【代理人】
【識別番号】100108992
【弁理士】
【氏名又は名称】大内 信雄
(72)【発明者】
【氏名】シュミット ミハエル
(72)【発明者】
【氏名】シュライベル ハイコ
(72)【発明者】
【氏名】ミシェール フランク
(72)【発明者】
【氏名】ベイヤー トーマス
【審査官】 瀬川 裕
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−523906(JP,A)
【文献】 特開平06−066350(JP,A)
【文献】 特開2007−205397(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
同軸トランスミッション又は直線的トランスミッションであって、
歯部(5)と、
複数の歯状セグメント(71〜73)を前記歯部(5)に噛み合わせるように収容し、前記歯状セグメント(71〜73)を径方向に移動可能に支持するホルダーと、
対向する前記歯状セグメント(7)が最も延びたときに前記歯部(5)の隙間に到達するように、前記歯状セグメント(71〜73)を径方向に駆動させるための輪郭であるプロファイル(22)を有する駆動要素(20)とを備え、
初期内部応力を有し、
前記歯部(5)、前記歯状セグメント(71〜73)及び/又は前記駆動要素(20)を含むトランスミッション(1)の構成要素の寸法を、初期内部応力を有さないトランスミッションの構成要素の寸法に比べて、初期内部応力が発生する程度に大きくするオーバーサイズによって前記初期内部応力が発生している
ことを特徴とするトランスミッション(1)。
【請求項2】
記歯状セグメント(71〜73)が剛性を有することを特徴とする請求項1に記載のトランスミッション(1)。
【請求項3】
前記歯状セグメント(71〜73)のそれぞれに対して設けられ、前記歯状セグメント(71〜73)のビード(26)が嵌合する凹部を具備し、周方向に互いに移動可能である枢動セグメント(24)が少なくとも前記歯状セグメント(71〜73)と前記プロファイル(22)との間に配置されることを特徴とする請求項1又は2に記載のトランスミッション(1)。
【請求項4】
前記歯状セグメント(71〜73)のうちの少なくとも1つは、枢動セグメント(24)に緩接続されていることを特徴とする請求項1に記載のトランスミッション(1)。
【請求項5】
前記歯状セグメント(71〜73)は、前記ホルダー内に径方向に及び/又は直線的に案内され、及び/又は、前記歯状セグメント(71〜73)が前記ホルダーに対してトランスミッション(1)の長軸回りに相対回転する自由度は阻止されていることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載のトランスミッション(1)。
【請求項6】
前記歯状セグメント(71〜73)のうちの少なくとも2つが前記歯部(5)の1つのフランク面と噛み合うことを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載のトランスミッション(1)。
【請求項7】
前記歯部(5)に駆動される第1の歯状セグメント(71)は、歯状セグメント(71)の前方のフランク面でのみ前記歯部(5)の各フランク面と噛み合い、
前記歯部(5)に駆動される第2の歯状セグメント(72)は、歯状セグメント(72)の後方のフランク面でのみ前記歯部(5)の各フランク面と噛み合うことを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載のトランスミッション(1)。
【請求項8】
トランスミッション(1)が停止状態で、前記第1の歯状セグメント(71)が前記第2の歯状セグメント(72)から初期内部応力を受けることを特徴とする請求項7に記載のトランスミッション(1)。
【請求項9】
前記駆動要素の最大外径及び/又は前記歯部(5)の直径0.0001%以上及び/又は0.2%以下分だけオーバーサイズされていることを特徴とする請求項1に記載のトランスミッション(1)。
【請求項10】
前記駆動要素(20)は、カムディスクを有することを特徴とする請求項1〜9の何れか1項に記載のトランスミッション(1)。
【請求項11】
前記プロファイル(22)は、1つ、2つ、3つ又は少なくとも4つの凸部を有することを特徴とする請求項1〜10の何れか1項に記載のトランスミッション(1)。
【請求項12】
初期内部応力がトランスミッション(1)の定格負荷の少なくとも5%に相当することを特徴とする請求項1〜11の何れか1項に記載のトランスミッション(1)。
【請求項13】
請求項1〜12の何れか1項に記載のトランスミッション(1)の製造方法であって、
トランスミッション(1)の剛性を決定する工程と、
剛性と所望される初期トルクとの関数としてオーバーサイズする寸法を決定する工程と、
オーバーサイズしてトランスミッション(1)の構成要素の寸法を選定する工程と、
トランスミッション(1)を組み立てる工程とを含むことを特徴とするトランスミッション(1)の製造方法。
【請求項14】
オーバーサイズする寸法を前記歯状セグメント(71〜73)の少なくとも1つと前記歯部(5)との間の相対運動学の関数として決定し、及び/又は、オーバーサイズする寸法を前記駆動要素(20)の前記プロファイル(22)を研磨することによって調整することを特徴とする請求項13に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1に係るトランスミッションと、従属項に係るトランスミッションの製造方法又は動作方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、歯状セグメントを備えるトランスミッションが知られており、歯状セグメントは径方向に移動可能なようにホルダーに取り付けられる。歯状セグメントを駆動するために、プロファイルを有する駆動要素、例えば、カムディスクが用いられる。歯状セグメントの歯は、歯部と噛み合う。このため、歯状セグメントが取り付けられたホルダーと、歯部との間の相対運動が起こる。歯部と歯状セグメントとの間の相対運動は、プロファイルを有する駆動要素の運動より少なくとも1桁小さい。高いトランスミッションレートを得ることができるトランスミッションとして、ドイツ特許出願公開第102007011175号公報に記載されたトランスミッションを例示できる。
【0003】
このようなトランスミッションは、非常に高いねじり剛性を有するが、負荷が変化することでねじり遊びが生じる。しかしながら、高精度の装置では、広範囲の負荷に対して高精度に位置調整するために、高いねじり剛性を有し、ねじり遊びがないことが必要とされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】ドイツ特許出願公開第102007011175号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、従来より知られたトランスミッションに対して、特に高精度の位置調整の観点から、デメリットを解消又は少なくとも減少させたトランスミッションを提供することを目的とする。望ましくは、高出力密度を有し、高いねじり剛性を有し、全体として低摩耗で高い弾力を有するトランスミッションである。さらに、そのようなトランスミッションを製造する製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
斯かる目的は、請求項1に係るトランスミッションや従属項に係るトランスミッションの製造方法により達成される。有利な実施形態は、従属項や本明細書中に見出される。
【0007】
本発明の実施形態は、特に、同軸トランスミッションに関する。基本的に、本発明に係るトランスミッションは、駆動要素としてプロファイルを有する内部カムディスクと、内部歯部を有するリングギアとを備える。又は、内部プロファイルを有する外部駆動要素と、内部ギアホイールとを備える。又は、外部駆動要素がある場合には、歯部が設けられたギアラックを備える。実施形態の構成は、回転駆動を直線運動に変換する直線的トランスミッションに関する。本発明に係るトランスミッションは、初期内部応力とも称される内部応力を有する。通常、トランスミッションが停止状態で、トランスミッションの個々の構成に互いに応力がかかっていることを意味する。これにより、トランスミッションの最小化、すなわち、トランスミッション内の遊びを無くすことができる。
【0008】
典型的な実施形態では、歯部は、円周歯である。また、典型的な実施形態では、歯状セグメントの歯又は先端部は、歯部と噛み合っており、歯状セグメントは、ホルダーに対して径方向に直線的に移動可能なように取り付けられている。「径方向に直線的に」とは、歯状セグメントが径方向にのみ移動可能に案内されることを意味する。典型的な実施形態では、歯状セグメントは、その案内によってまさに一方向に直線的に移動可能である。例えば、歯状セグメントの移動方向でのある断面において、ホルダーが歯状セグメント用の開口部を有していてもよい。基本的に、歯状セグメントは、まさに一方向に移動可能なようにホルダー内に支持される。さらに、典型的な実施形態では、ホルダーに対して歯状セグメントがトランスミッションの長軸回りに回転する自由度は阻止されている。例えば、ホルダー内で径方向に直線的に歯状セグメントを案内する手段により実現される。結果として、歯状セグメントは、ホルダーと共にトランスミッションの長軸回りに回転するが、ホルダーに対して回転するものではない。
【0009】
本発明に係るトランスミッションの典型的な実施形態では、少なくとも歯状セグメントの一部が剛性を有するように設計されている。「剛性」とは、技術的に理解されることであり、すなわち、歯状セグメントの材質の剛性に起因して歯状セグメントの曲げが小さくなることである。
【0010】
剛性を有する歯状セグメントは、金属合金、特に、合金鋼、すなわち、チタン合金、ニッケル合金、その他合金により形成される歯状セグメントからなる。さらに、剛性を有する歯状セグメントは、プラスチックから形成されていてもよく、特に、トランスミッションの場合には、少なくとも以下の部品(リングギア又はギアホイールの歯、ホルダー、駆動要素)のひとつはプラスチックから形成されていてもよい。
【0011】
本発明の典型的な実施形態では、ホルダーと歯状セグメントとが金属合金から形成されている。好ましくは、歯部と駆動要素とが金属合金から形成されている。そのようなトランスミッションの利点は、大きなねじり剛性を有し、高い弾性を有することである。プラスチックから形成されるトランスミッションは、軽量になるという利点を有する。「剛性」とは、特に、歯状セグメントの横軸についての曲げ剛性を意味する。つまり、歯状セグメントを歯状セグメントの基部から先端部に延びる線と見た場合に、基部と先端部との間で実質的に曲げ変形を防止するような曲げ剛性が存在することを意味する。曲げ剛性により、トランスミッションの高い弾性やねじり剛性を得ることができる。
【0012】
典型的な実施形態では、フットジョイント(foot joint)が歯状セグメントとプロファイルとの間に配置される。有利な実施形態では、プロファイルを有する駆動要素と少なくともひとつの歯状セグメントとの間のそれぞれに配置される枢動セグメントを備える。枢動セグメントは、フットジョイントを形成するために用いることができる。フットジョイントにより、歯状セグメントがプロファイルに対して、又は、枢動セグメントに対して傾斜可能である。典型的な実施形態では、歯状セグメントは、枢動セグメントに緩接続されている。ここで、「緩接続」とは、歯状セグメントが枢動セグメント上に配置されるだけであり、直接的に配置されていることを意味する。好ましい枢動セグメントは、歯状セグメントが枢動セグメント上で滑ることを防止するような輪郭を有する。又は、枢動セグメントが少なくともある方向に滑ることを防止するような輪郭を有する。よって、枢動セグメントがホルダーに対して周方向に位置するように保持されて、径方向に直線的に歯状セグメントが案内される。そのようなプロファイルは、例えば、凹部に嵌合するビードとすることができる。これにより、歯状セグメントが枢動セグメント上を滑ることがない。従って、枢動セグメントが歯の位置に固定され、その結果、歯状セグメントと枢動セグメントとの間で周方向に相対運動しなくなる。好ましくは、枢動セグメントの輪郭は、周方向に移動することを阻止するように形成されるため、周方向に滑ることを防止する。しかしながら、他の実施形態では、枢動セグメントが歯状セグメントに対して滑ることを防止するように球状のキャップ形状、ボール状、その他の複数の凸部(elevations)がプロファイルに設けられていてもよい。
【0013】
典型的な実施形態では、枢動セグメントは、セグメント化されたベアリングとすることができる。典型的な実施形態では、枢動セグメント又は板状の他のベアリングのセグメントは、セグメント化ベアリングを形成する。セグメント化ベアリングによれば、駆動要素のプロファイルに適用可能であり、径方向に信頼性のある力の伝達が可能である利点を有する。枢動セグメントと駆動要素との間の相対運動からの摩擦を低減するために、摩擦軸受やころ軸受のような、特に、典型的な実施形態で用いることができる針状ころ軸受や玉軸受のようなベアリングを設けることができる。好ましくは、枢動セグメントは、凸部と凹部とが互いに対向するエッジを有し、例えば、そのエッジは、波状やジグザグ状の形状とされる。これにより、枢動セグメント間に大きな距離があったとしても、枢動セグメントの下に配置される針状ころが枢動セグメントと駆動要素との間の空間で確実に保持されることが可能であるという利点を有する。
【0014】
歯状セグメントと枢動セグメントとが緩接続されることにより、容易に組み立てることができるという利点を有する。この場合に、「緩接続」とは、特に、歯状セグメントが、枢動セグメントから離間して持ち上げられることを防止しないことを意味する。汎用のトランスミッションでは、歯状セグメントの歯の先端が歯部によって案内されることで、一般に、歯状セグメントは枢動セグメントから離間して持ち上げられることを防止する。
【0015】
本発明の典型的な実施形態は、プロファイルを有する駆動要素を備える。好ましくは、プロファイルは、非円形状又は非楕円形状の弧の輪郭又は湾曲を有する。非円形状又は非楕円形状の弧の輪郭により、例えば、異なるトランスミッションレートを実現するために任意のプロファイルを用いることができるという利点を有する。この実施形態によれば、たとえ円形状が存在していたとしても、中心軸でなく回転軸のみが偏心器とともに円形状に相当するので、偏心器も円形状又は楕円形状を含む。典型的な実施形態では、ホルダー又は歯部は、円形状に設計されている。このため、ホルダーや歯部の形状が簡単であるという利点を有する。典型的な実施形態では、歯部とホルダーとの間で力がトランスミッションの遅い側(slow side)に伝達される。このため、力を伝達するための経路が極めて短くなるという利点を有し、その結果、非常に高い剛性をもたらす。これらの条件を満足する実施形態は、包括的な実施形態、つまり、駆動用としての内部カムディスクと歯部を有する外部のリングギアとを具備するトランスミッションであって、ホルダーがリングギアとカムディスクとの間に配置され、リングギアに歯部の中心に向かって径方向に移動する歯状セグメントを駆動する外部プロファイルを備える。本発明に係る初期内部応力に関連して、本実施形態は、上述した駆動力を伝達するための力の経路が極めて短いという効果を奏するが、初期内部応力が少なくとも2つの歯の領域にわたるため、初期内部応力が複数の要素と長い距離に亘って伝達される。その結果、初期内部応力に起因する大幅な損失なしに力を伝達するための高い剛性を得ることができる。
【0016】
そのような実施形態では、通常、トランスミッションが停止状態にあるとき、少なくとも2つの歯状セグメント、すなわち、歯状セグメントの少なくとも2つのサブグループが歯部の一方のフランク面と噛み合う。典型的な実施形態では、少なくとも2つの歯状セグメント、すなわち、歯状セグメントの少なくとも2つのサブグループが、いずれの場合も異なる歯部のフランク面と噛み合う。ここでは、「異なる」とは、例えば、第1のサブグループが第1の回転方向にあるフランク面と噛み合い、第2のサブグループが第1の回転方向と反対の第2の回転方向にあるフランク面と噛み合うことを意味する。その結果、初期内部応力は、2つのサブグループの間に、すなわち、2つの歯状セグメントの間に蓄積する。
【0017】
本発明に係る典型的な実施形態では、歯部に駆動される第1の歯状セグメントの前方のフランク面のみが歯部の各フランク面と噛み合い、歯部に駆動される第2の歯状セグメントの後方のフランク面のみが歯部の各フランク面と噛み合う。「前方」及び「後方」とは、通常、これらの2つのフランク面が、伝達負荷の異なる方向、すなわち、周方向での異なる方向に相当するという意味であるとして理解される。よって、「前方」及び「後方」とは、ランダムに選択された周方向に対応する。第1の歯状セグメントは歯状セグメントの第1のサブグループともすることができ、第2の歯状セグメントは、歯状セグメントの第2のサブグループともすることができる。典型的な実施形態では、同様のフランク面を有する2以上の隣り合う歯状セグメントは、対応する歯部のフランク面と噛み合う。典型的な実施形態では、トランスミッションが停止状態であるとき、第1の歯状セグメント、すなわち、歯状セグメントの第1のサブグループは、第2の歯状セグメント、すなわち、歯状セグメントの第2のサブグループから初期内部応力を受ける。第1の歯状セグメントと第2の歯状セグメントとの間に、少なくとももうひとつの歯状セグメントがあり、そのいずれのフランク面も歯部のフランク面と噛み合わないことが好ましい。さらに、このもうひとつの歯状セグメントが、通常、径方向に遊びを有するように、歯状セグメント、歯部、枢動セグメント又はリングギアの形状が選定されることが好ましい。その結果、摩擦損失を低減する。通常、この中間に配置されたもうひとつの歯状セグメントは、カムディスクの輪郭における最大半径、すなわち、最大外径の位置にある。第1の歯状セグメントと第2の歯状セグメントとの間の少なくとも1つの歯状セグメントの歯の先端は、典型的な実施形態では、歯部の基部に相当する湾曲に位置する。ここで、「第1の歯状セグメントと第2の歯状セグメントとの間」とは、第1の歯状セグメントと第2の歯状セグメントとのより短い周方向での間を意味する。カムディスクの最小輪郭に位置する歯状セグメントはフランク面と噛み合わない。このことは、トランスミッションの回転中に当てはまり、停止状態では、もうひとつの歯状セグメントは前述した位置にある。
【0018】
典型的な実施形態では、オーバーサイズを行うことによって初期内部応力を発生させることができる。オーバーサイズとは、駆動要素、出力要素、枢動セグメント、複数か全ての歯状セグメント、又は、歯部の寸法を大きくすることである。調和をとって複数の構成要素の寸法を大きくすることも可能である。典型的な実施形態では、公差の繋がり(chain)又はオーバーサイズの繋がりは、所望されたオーバーサイズの寸法となる。
【0019】
典型的な実施形態では、歯部と歯状セグメントの歯とは、湾曲したフランク面を有する。フランク面の湾曲としては、円筒形状の湾曲、又は、対数螺旋形状の湾曲を例示できる。ドイツ特許出願公開第102007011175号公報に、対数螺旋形状に形成された湾曲の一実施形態が提案されている。この曲面により、噛み合うフランク面が、線や点だけでなく、表面に対して位置するという利点を有する。その結果、歯部と歯状セグメントとの間に力が伝達されるときに、高い剛性が得られる。
【0020】
オーバーサイズを行う寸法は、歯部の直径、すなわち、歯部の内径、好ましくは0.0001%以上、より好ましくは0.0005%以上、さらに好ましくは0.001%以上の寸法とされる。また、典型的な実施形態では、オーバーサイズを行う寸法は、歯部の直径、すなわち、歯部の内径、0.2%以下、好ましくは0.05%以下、より好ましくは0.01%以下の寸法とされる。その設計からトランスミッションの高い剛性が得られることで、弾性要素をなくすことが可能であり、オーバーサイズを行うわずかな量だけで、例えば、トランスミッションの定格トルクの少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも50%、又は、最大100%の初期内部応力を得るのに十分である。典型的な実施形態では、ばね要素がない、すなわち、弾性要素がない。典型的な実施形態では、「ばね要素なし」又は「弾性要素なし」とは、トランスミッション、又は、トランスミッションにより伝達される力の経路、例えば、歯部から歯状セグメント、ホルダーを経由して力を出力する構成、すなわち、スラスト軸受に関連する。これにより、高い剛性を得ることができる。本発明に係る実施形態によれば、ばね要素等を必要とせず、極めてわずかにオーバーサイズを行うことで初期内部応力を得ることができるという特有の効果を奏する。その結果、高い剛性で、遊びがなく、低摩耗であることが達成される。典型的な実施形態では、初期内部応力は、トランスミッションの定格負荷の最大50%、又は最小50%である。「定格負荷」とは、典型的な実施形態では、トランスミッションにより連続的に伝達可能なトルク、すなわち、直線的トランスミッションが連続的に伝達可能な駆動トルクを意味する。また、典型的な実施形態では、トランスミッションの定格負荷の少なくとも80%、又は、少なくとも100%に相当する初期内部応力を有する。その結果、トランスミッションの負荷範囲全体で遊びがないことが達成される。
【0021】
トランスミッションを製造するための方法及び実施形態では、オーバーサイズにより大きくする寸法は、剛性と所望する初期内部応力との関数として得られる。典型的な実施形態の特別な特徴は、トランスミッションの全ての要素が、駆動、すなわち、力の伝達を促進するための剛性を有するように設計されおり、歯状セグメントを含むこれらの剛性を有するように設計された要素が、非常に静的で(hyperstatic)、予め応力が存在するシステムをもたらす。これは、制約状態(constrained states)を回避するために、初期内部応力と共に多数の静的冗長性(static redundancies)を回避するトランスミッションに関する既存の教示とは対照的である。
【0022】
セグメント化されたベアリングと湾曲したフランク面の輪郭との組み合わせは、例えば対数螺旋形状で、予め応力が存在するトランスミッションにおいて特に高いトルクを伝達するのに有用であることが証明されている。典型的な実施形態では、枢動セグメント、又は、歯状セグメントのフットジョイントが、それぞれ周方向に相対的に移動する。これにより、歯状セグメントが枢動セグメントにより強制的に案内されない。その結果、初期内部応力と共に過度の拘束力(excessive constraining forces)が回避される。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、遊びのないトランスミッションを設計することができ、非常に高い剛性を有するという効果を奏する。歯状セグメントが、リングギア、ギアホイール又はギアラックの歯部に対して両フランク面で噛み合わないことで、初期内部応力がトランスミッションの問題とならない。その結果、他の従来のトランスミッションとは対照的に、制約状態が効果的に回避される。本発明に係るトランスミッションの実施形態によれば、特に、中空設計された駆動要素として外部カムディスク又は内部カムディスクを有することができるという特有の効果を奏する。拘束パラメータ(constraining parameters)は、拘束力を減少するために中空シャフトとしてカムディスクを設計することにより補正することができる。対照的に、歯部による力の伝達は、非常に短く、トランスミッションは、高い伝達剛性をもたらすホルダーに歯状セグメントを横切る方向に剛性を有する。また、適度な、又は、大きな外部負荷が初期内部応力を超えるように初期内部応力を選定することができるという効果を奏する。その結果、外部負荷が初期内部応力よりも大きくなるときに、同じ方向に対向する歯状セグメントのフランク面のみが歯部に噛み合い、これにより高負荷での摩耗を低減し、同時に低負荷でのねじり遊びを排除することができる。本発明によれば、エネルギー効率と費用対効果を高めるために、所定の動作点によって任意の適用先に調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、本発明の第1の実施形態の概略断面図である。
図2図2は、本発明の他の実施形態の概略断面図である。
図3図3は、本発明の方法の実施形態の概略フローチャートである。
図4図4は、本発明の実施形態の概略側面図である。
図5図5は、図4に示す実施形態の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の典型的な実施形態について、図面を参照しながら説明する。本発明は、以下に述べる実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲は特許請求の範囲によって定められる。本実施形態では、異なる図であっても特定の状況においては、同一の要素又は近似した要素に対して、同一の参照符号が使用される。また、異なる実施形態に対しても、説明をより理解し易くするために、同一の参照符号が使用される。しかし、これは本発明の対応する要素がその実施形態に記載された例に限定されることを意味するものではない。
【0026】
図1は、本発明の一実施形態を概略的に説明する側面図である。図1は、内周に歯部(toothing)5を具備するリングギア3を備えたトランスミッション1の断面図を示す。歯状セグメント(tooth segments)7は、歯部5に噛み合う。図面を明瞭にするため、図1に示された全ての歯状セグメント7に、参照符号7を付しているわけではない。歯状セグメント7は、径方向に移動可能なようにホルダー11 (tooth holder)内で支持されている。ホルダー11は、ホルダー11において歯状セグメント7を径方向に案内するため、径方向に配列され、チャンネル状に丸い(channel-like round)、又は、溝が設けられた開口部15を有する。開口部15における径方向の案内により、歯状セグメント7は径方向のみに移動可能であり、長軸周りには回転不可能である。
【0027】
歯状セグメント7は、中空のカムディスクとして設計されている駆動要素20によって駆動される。駆動要素20は、歯状セグメント7を径方向に駆動させるためのプロファイル(profiling)22を有する。プロファイル22は、対向する歯状セグメント7が最も延びたときに歯部5の隙間(tooth gap)に到達するように、外周に亘る2つの凸部(elevations)を備えた輪郭を有する。
【0028】
歯状セグメント7は、ホルダー11による案内によって、駆動要素20とリングギア3の歯部5との間でクランプされるように設計されている。これは、歯状セグメント7が歯部5の直径の0.01%分だけ寸法が大きいことによって生じる。従って、歯状セグメント7は、初期内部応力の条件下では、トランスミッション1内に収容されるのに十分な長さを有するように設計されている。これにより、トランスミッション1内には、初期内部応力が発生する。
【0029】
図1に記載のトランスミッションにおける歯状セグメント7は、滑り軸受によって、駆動要素20のプロファイル22上に配置される。このように、歯状セグメントは、駆動要素のプロファイル上に緩接続すれば十分である。ホルダー内で歯状セグメントは径方向に直線的に案内され、さらに、歯部のフランク面(flanks)に案内されるからである。一般的に、歯状セグメントが固定されることなく、歯状セグメントの基部を移動可能とするこの種のベアリングは、本願において、ルーズベアリング(loose bearing)と称する。このようにして、歯状セグメントの基部は、強制的に径方向にのみ案内される。歯状セグメントが歯部によって駆動要素のプロファイルに押圧されなければ、歯状セグメントが駆動要素のプロファイルから離間できるということが、ルーズベアリングの特徴である。このルーズベアリングによれば、非常に単純な設計が可能である。また、それと同時に、歯状セグメントの基部が周方向に強制的に案内されないので、駆動要素のプロファイルの領域における不必要な初期内部応力の発生を回避することが可能である。
【0030】
図1に示す実施形態の歯状セグメントは、オーバーサイズされて大きめの寸法で取り付けられている。しかしながら、歯部、駆動要素又はトランスミッションの他の構成要素にオーバーサイズを行って大きめの寸法で取り付けることにより初期内部応力を発生させることも可能である。初期内部応力とは、トランスミッションが停止状態であるとき、すなわち外部駆動又は外部負荷がトランスミッションに作用していない状態のときに存在する初期応力を意味する。
【0031】
図1の実施形態において、駆動要素は内側に配置されており、歯部は外側に配置されている。このような配置により、歯部を具備するリングギアにおいて又はホルダーにおいて、出力が引き出され(tapped)、いずれの場合も、他の要素は固定されることが特徴である。他の実施形態においては、駆動要素は外側、すなわちホルダーの外側に配置され、歯部は、内側に配置される。内側に配置された歯部から又はホルダーから出力を引き出すことも可能である。開口部を有するホルダーを歯状ケージ(tooth cage)と呼ぶことが可能である。歯状ケージにおいて、歯状セグメントは、移動可能に収容され、径方向に直線的に案内される。
【0032】
図2は、本発明の他の実施形態に係るトランスミッション1(同軸トランスミッション)の断面図を示す。図2に示す実施形態において、歯状セグメント71〜73は、セグメント化されたベアリングで支持されている。図面をより明瞭にするために、図2においては、トランスミッション1における全ての歯に参照符号を付しているのではなく、いくつかの要素に参照符号を付している。セグメント化ベアリングは、複数の枢動セグメント24を備える。各枢動セグメント24は、歯状セグメント71〜73のビード26が嵌合する凹部を具備する。枢動セグメント24は、歯状セグメント71〜73のそれぞれに対して設けられている。好ましくは、歯状セグメント71〜73は、少なくとも2つの歯を備える。これらの歯は、安定性を増加させるために、軸方向に隣接して配置される。各ビード26は、歯状セグメント71〜73のためのフットジョイント(foot joint)を形成する。これにより、歯状セグメント71〜73は、枢動セグメント24に対して傾斜可能となり、強制的に案内されないことになる。
【0033】
枢動セグメント24は、周方向に互いに移動可能である。従って、枢動セグメント24間の距離は変更可能である。このように、枢動セグメント24の周方向についての自由度も制限されない。このため、駆動要素20のプロファイル22を使用することで、枢動セグメント24はそれぞれ移動可能になり、それぞれ径方向の駆動が可能になる。針状ころ (needle rollers)28は、プロファイル22と枢動セグメント24との間の摩擦抵抗が最小となるように設けられている。他の実施形態においては、ボール又は他のローラーベアリング(roller bearing)が枢動セグメントを支持するために設けられる。
【0034】
典型的な実施形態では、枢動セグメント24は、周方向について、波状又はジグザグ状の形状であるエッジを有する。これにより、各枢動セグメント24間がかなり離れている場合であっても、針状ころ28はベアリングの隙間内に保持される。
【0035】
歯部5は、対数螺旋形状のフランク面(toothing flank)を有する。これは、好ましくは、少なくともフランク面の一部が対数螺旋形状であることを意味する。同様に、典型的な実施形態では、歯状セグメント71〜73のフランク面も対応する形状、すなわち対数螺旋形状を有する。また、これにより、歯部5の表面と歯状セグメント71〜73の表面とが、噛み合うときに接触可能となる。図2に示す歯状セグメント71〜73は、複数のグループに分類できる。第1の歯状セグメント71の第1のグループは、時計回りの方向に位置するフランク面によって歯部5に常に噛み合う。第2の歯状セグメント72の第2のグループは、時計回りの方向に位置するフランク面と反対側のフランク面によって歯部5に常に噛み合う。これら2つの歯状セグメント71、72のグループの中間に存在するのが、中間の歯状セグメント73である。歯状セグメント73は、プロファイル22が最も外径が大きく変形している位置に存在する。
【0036】
この歯状セグメント73のいずれのフランク面も、歯部5と噛み合わず、歯状セグメント73の先端のみが噛み合う。歯状セグメント73の先端は、歯部5の対応する隙間の対応する基部に接触する。第1の歯状セグメント71の第1のグループと第2の歯状セグメント72の第2のグループとの間に初期内部応力が蓄積している一方、歯状セグメント71、72を横切るリングギア3からホルダー11までの短い経路で力が伝達されるため、トルクの伝達に対する高い剛性が実現されるが、初期内部応力に対する剛性は比較的低い。歯状セグメント71、72、73は、図2に示すトランスミッション1の他の構成要素と同様に、剛性を有し、鋼製である。異なる鋼種や、チタン合金やニッケル合金などの異なる合金を使用することも可能である。さらに、プラスチック製のトランスミッションは、典型的な実施形態である。
【0037】
図3は、本発明の典型的な方法を示す。この方法では、まず最初に、ステップ100において、トランスミッションの剛性が決定される。トランスミッションとしては、例えば図1図2に対応するトランスミッションや、又は本発明に係る上記の典型的な実施形態の一つに記載した他のトランスミッションを例示できる。このようなトランスミッションは、任意の初期内部応力で構成可能であり、剛性は試験台で決定可能である。剛性を決定する他の方法としては、例えば、有限要素法を用いた計算が挙げられる。次のステップ110において、トランスミッションに対して所望される初期内部応力が選定される。
【0038】
所望される初期内部応力は、適用先を分析し、更に適用先が必要とする剛性を分析することにより決定できる。他の可能性として、トランスミッションの使用者や顧客によって指定される要求事項に応じて決定される場合もある。「初期応力」の語句は、力とトルクの両方であると一般的に理解されるであろう。例えば、ステップ110において、初期内部応力をトランスミッションの定格負荷の20%に指定することが可能である。他の例として、50%や70%に指定することも可能である。他の初期内部応力も選定可能である。
【0039】
トランスミッションの相対運動学は、ステップ120において決定される。この場合、歯状セグメントの径方向の移動、すなわち、歯状セグメントの拡張と、その結果もたらされるトランスミッションの回転との関係が重要である。この関係は、特に歯部の圧力角によって決定される。典型的な実施形態において、少なくとも歯状セグメントと歯部との間で、圧力角は、実質的に一定のままであり、通常は20°〜50°、典型的な実施形態では25°〜40°の値を示す。一定の圧力角によって、所望される初期内部応力を得るための寸法(オーバーサイズを行う寸法)を容易に決定可能である。典型的な実施形態では、相対運動学は、解析幾何モデル(analytical geometric model)によって決定されるが、固体シミュレーション(solid body simulation)によっても決定され得る。典型的な実施形態では、歯状セグメントと歯部との間の相対運動学は、特に重要である。これにより、ホルダー内における歯の径方向の移動と、トランスミッションの出力側の回転との関係が、特定の角度によって決定されるからである。直線的トランスミッション(linear transmission)においては、ギアラック等の直線的な移動に対する歯状セグメントの直線的な移動の関係が同様にして決定される。ステップ130において、このようにして計算される数値と所望される初期内部応力とによって、歯状セグメントの寸法(オーバーサイズを行う寸法)が決定される。一般的に、トランスミッションの構成要素のいずれか一つの寸法(オーバーサイズを行う寸法)又は構成要素の一つのグループの寸法(オーバーサイズを行う寸法)を決定すれば十分である。オーバーサイズを行うものとしては、例えば、駆動要素、枢動セグメント、針状ころ(利用する場合)、歯状セグメント、歯部又はリングギアを例示できる。さらに、他の構成を有するトランスミッションにおいては、初期内部応力を高めるために、他の構成要素にオーバーサイズを行って大きめの寸法にすることが可能である。歯状セグメント又は枢動セグメントに関しては、上記のステップ100からステップ120において計算された数値を使用することで、歯状セグメントの対応する拡張、すなわち、対応する寸法(オーバーサイズを行う寸法)が設定される。これは、相対運動学に関連する特定の回転角に対応し、剛性図(rigidity diagram)から導かれるこの回転角は、予め選定された初期内部応力にも対応する必要がある。
【0040】
このように、ステップ130において、オーバーサイズを行う寸法が決定される。最後に、ステップ140において、歯状セグメントに対応する寸法が選定され、さらにトランスミッションの組立品に対応する歯状セグメントが選定される。他の典型的なオプションとして、特定の寸法(オーバーサイズを行う寸法)に調整するために、カムディスクのプロファイルを研磨することが挙げられる。この場合、特定の寸法に調整することが容易である。製造方法の実施形態において、典型的な実施形態では、個々の構成要素の公差を検討する必要がある。公差は、相互によく調和する歯状セグメントの分類を形成することによって、選定可能である。カムディスクを研磨する際、正確な幾何形状を得るため、測定した構成要素の寸法を考慮するのが通常である。次に、ステップ150において、トランスミッションは組み立てられる。オーバーサイズを行う構成要素として歯状セグメントに関する例を挙げたが、他の構成要素、特に上述した典型的な構成要素についても同様にオーバーサイズを行うことができる。
【0041】
図4は、トランスミッション1の概略的な側面図を示す。図4に示すトランスミッション1は、回転運動を直線運動に変換する、あるいは、直線運動を回転運動に変換する典型的な実施形態である。トランスミッション1は、その中間領域に歯部5を具備する内部ロッド203を備える。図4に示すロッド203の歯部5は、ねじ付きロッドの歯部と同種のものである。しかしながら、ロッド203の歯部5は、ねじとして使用されない。ロッド203の回転自由度は阻止されている。すなわち、ロッド203は、回転不能に取り付けられている。
【0042】
図4に示す典型的な実施形態は、ロッド203に対して同心状に配置されたホルダー11を備える。ホルダー11は、同じくロッド203に対して同心状に配置された駆動ブーツ(drive boot)220内に入れられている。この駆動ブーツ220は、回転可能に取り付けられている。これと対照的に、ホルダー11の軸方向回りの回転自由度は阻止され、固定されている。すなわち、ホルダー11はロッド203に対して回転しない。
【0043】
駆動ブーツ220は、ホルダー11に収容された歯を駆動するためのプロファイルを具備する内部カムディスク(図4には図示せず)を囲繞している。前記歯が径方向に直線的に移動可能なようにホルダー内に取り付けられることで、前記歯はロッド203に噛み合うように整列する。駆動ブーツ220が回転するとき、ロッド203は、トランスミッション1の長軸230方向に、ホルダー11に対して直線的に移動する。ホルダー11を固定した状態で取り付け、駆動ブーツ220を回転させることで、ロッド203を直線的に移動させる、すなわち、ロッド203から推力(thrust)を引き出すことが可能である。リニアスラストについて、比較対象となる他のトランスミッションよりも優れた特有の利点は、ホルダー11とロッド203とが回転するように取り付けられる必要がないということである。これにより、トランスミッション1は、コンパクトであるにも関わらず、強い推力と、高い剛性とを有することが可能になる。図4図5に示されるトランスミッション1の歯は、初期内部応力を有するように、オーバーサイズを行った大きめの寸法で製造されている。
【0044】
図5は、図4に示すトランスミッションの長軸に沿った部分的な断面図を示す。図5においても、同一の要素又は近似した要素に対して、同一の参照符号が使用されており、既出の参照符号が使用されている要素については、必ずしも詳細には説明しないこととする。
【0045】
円周方向に延びる4列の開口部15がホルダー11内に配置され、この4列の開口部15内に、4つの歯付きディスクにおける歯7が収容されている。この歯7は、ロッド203の歯部5と噛み合う。ロッド203の歯部5と歯7とは、歯7のフランク面と歯部5のフランク面とが同一視できるように、断面に対してわずかな角度を成すように配置されている。図5に示す断面において、歯7の先端が歯部5の先端に接するように配置されるために、図に示すトランスミッション1の位置では、図に示す歯7は完全に引き抜かれている。図に示す歯7は、ちょうど真ん中に位置する。
【0046】
ホルダー11の外周の他の位置に配置されている他の歯は、完全に引き抜かれることはなく、異なる位置に位置する。具体的には、他の歯は、歯部5の基部(ちょうど真ん中の底部)に完全に挿入されるか又はフランク面と噛み合わされる。
【0047】
カムディスクの形態である駆動要素20を駆動することで、歯7は径方向に移動する。前述したカムディスク状の駆動要素20は、外周に亘って変化するプロファイルを有する。歯7は、2つの群に分けられ、各群では、長軸230方向に互いに隣接する2つの歯7が1つの枢動セグメント24に収容されている。枢動セグメント24は、駆動要素20内で針状ころ28によって支持される。駆動要素20により、2列の歯が配置され、周方向に連続的に設けられた枢動セグメント24が駆動される。1つの枢動セグメント24で2つの歯7を支持することにより、枢動セグメント24がねじりに抗して固定され、これにより枢動セグメント24がトランスミッション1の径方向での回転に対して定まった位置に固定されるという利点が得られる。典型的な実施形態では、枢動セグメント24は凹部を有する。この凹部は、対応する形状を有する基部が歯7のビードに嵌合する部分である。
【0048】
ホルダー11上のボールベアリング260によって、カムディスクは駆動ブーツ220と共に取り付けられる。ホルダー11は、ねじを用いて定常的に固定されるためのブラインドホール(blind hole)262を備える。ホルダー11が定常的に固定される一方、ロッド203は回転を阻止されるのみであり、2つのベアリングスリーブ264によって軸方向に移動可能に取り付けられる。しかしながら、ロッド203は、軸方向に連続した複数の歯7付きディスクによって支持されている。
【0049】
トランスミッション1が駆動ブーツ20で駆動され、これに応じてプロファイルを有する駆動要素としてのカムディスクが回転すると、カムディスクの位置及び各歯7の位置に応じて、歯7は、駆動要素20によって径方向内側に向けて駆動されるか、歯部5によって径方向外側に向けて駆動される。これにより、ロッド203は、ホルダー11に対して直線的に移動する。
【0050】
典型的な実施形態では、ロッドは、平坦なベアリングブッシュ (bearing bush)によって、軸方向に移動可能に支持される。このベアリングブッシュは、ベアリングスリーブとも称される。好ましくは、ベアリングスリーブは、ロッドの歯部の先端でのみ滑動する。これにより、組立が容易となる。他の典型的な実施形態では、ロッドは少なくとも一端で支持される。これは、ベアリング用の十分な領域を確保するためにはロッドをできるだけ長くする必要があるものの、安定性を高めることが可能であることを意味する。
【0051】
本発明は、上記の実施形態に限定されない。本発明の範囲は、添付する特許請求の範囲によって定められる。
【符号の説明】
【0052】
1・・・トランスミッション
3・・・リングギア
5・・・歯部
7・・・歯状セグメント
11・・・ホルダー
15・・・開口部
20・・・駆動要素
22・・・プロファイル
24・・・枢動セグメント
26・・・ビード
28・・・針状ころ
71・・・歯状セグメントの第1のグループ
72・・・歯状セグメントの第2のグループ
73・・・中間歯状セグメント
100〜150・・・方法のステップ
203・・・ロッド
220・・・駆動ブーツ
260・・・ボールベアリング
262・・・ブラインドホール
264・・・ベアリングスリーブ
図1
図2
図3
図4
図5