【実施例1】
【0012】
図1は、本発明の一実施例のシュー間隙自動調整装置10付ドラムブレーキであるリーディング・トレーリング型の四輪車両用ドラムブレーキ(以下、ドラムブレーキという)12であって、ブレーキドラム14を取り外して示す正面図である。ブレーキドラム14は、
図1の1点鎖線で示す2つの同心円で表されており、その2つの円のうちの中心側の円はブレーキドラム14の内周面16を示している。
【0013】
ドラムブレーキ12には、
図1に示すように、略円板形状を成し、たとえば図示しない車軸管、アクスルハウジング、サスペンション装置などの車体側部材すなわち非回転部材に一体的に固設されたバッキングプレート18が備えられている。
【0014】
ドラムブレーキ12には、
図1に示すように、バッキングプレート18の外周部に凸側が外側になる姿勢で互いに接近離間可能に略対称的に配設された円弧形状の一対のブレーキシュー20および22と、その一対のブレーキシュー20および22の一端部すなわち
図1の上端部の間においてバッキングプレート18に位置固定に設けられたホイールシリンダ24と、一対のブレーキシュー20および22の一端部を互いに接近する方向に常時付勢するために、その一端部間に張設されたコイル状のリターンスプリング26と、一対のブレーキシュー20および22の一端部間に掛け渡され、非制動時における一対のブレーキシュー20および22とブレーキドラム14との間すなわちシュー間隙を自動的に調節するシュー間隙自動調整装置10と、一対のブレーキシュー20および22の他端部すなわち
図1の下端部の間に位置固定に設けられたアンカ28と、一対のブレーキシュー20および22の下端部間に張設されてそれら下端部をアンカ28に常時当接させるスプリング30とが備えられている。
【0015】
一対のブレーキシュー20および22は、何れも、バッキングプレート18の平らな平板部18aと略平行な平板状を成し且つ
図1に示す正面図において全体が円弧形状に湾曲した形状に打ち抜かれたシューウェブ32および34と、それらの円弧形状を成す外周側端縁に沿って断面が略T字状を成すように一体的に固設された帯板状のシューリム36および38と、それらシューリム36および38の外周面に接着剤などで一体的に固着された摩擦材から成るライニング40および42とによってそれぞれ構成されている。
【0016】
一対のブレーキシュー20および22は、シューウェブ32およびシューウェブ34にそれぞれ配設されたシューホールドダウン装置44および46によってバッキングプレート18側へ押圧されることによりそのバッキングプレート18に対して面方向の相対移動可能に保持されている。
図1に示すように、ブレーキシュー20の一端部には、長手平板状のパーキングブレーキレバー48の基端部48aがピン50により相対回動可能に連結されている。
【0017】
シュー間隙自動調整装置10には、
図1乃至
図3に示すように、一対のブレーキシュー20および22の一端部間に掛け渡たされ、ドラムブレーキ12の非制動時における一対のブレーキシュー20および22の接近を阻止してそれらの待機位置を規定するストラット52と、そのストラット52に備えられたアジャストレバー54とが備えられている。
【0018】
ストラット52には、
図2および
図3に示すように、ブレーキシュー20のシューウェブ32の一端部およびパーキングブレーキレバー48の基端部48aに係合する第1係合部56aを有する長手状の第1ストラット部材56と、ブレーキシュー22のシューウェブ34の一端部に係合する第2係合部58aを有する長手状の第2ストラット部材58と、第1ストラット部材56と第2ストラット部材58との間に介在し軸心C1まわりに回転させられることによって第1ストラット部材56と第2ストラット部材58との間の距離を伸長させる調節部材60とが備えられている。
【0019】
調節部材60には、
図2および
図3に示すように、外周歯が形成された略円板形状のアジャストホイール60aと、そのアジャストホイール60aの中心部から第1ストラット部材56側に略円柱形状に突き出すとともにその第1ストラット部材56に形成された雌ねじと螺合する雄ねじが形成された螺子軸部60bと、アジャストホイール60aの中心部から第2ストラット部材58側に略円柱形状に突き出してその第2ストラット部材58に軸心C1方向および軸心C1まわりに摺動可能に嵌合された嵌合軸部60cとが一体的に備えられている。なお、アジャストホイール60aは、螺子軸部60bおよび嵌合軸部60cの径および第1ストラット部材56および第2ストラット部材58の径より大径に形成されている。
【0020】
このため、ストラット52は、アジャストレバー54によってアジャストホイール60aが所定方向例えば調節部材60の螺子軸部60bが右ねじであれば左回りの方向に回動させられると、調節部材60の螺子軸部60bに形成された雄ねじと第1ストラット部材56の雌ねじ穴56bの内周部に形成された雌ねじとのねじの作用によって、第1ストラット部材56が第2ストラット部材58から離間する方向に移動させられ、第1ストラット部材56の第1係合部56aと第2ストラット部材58の第2係合部58aとの間の距離すなわちストラット52の長手方向の距離が伸長する。
【0021】
図2および
図3に示すように、第1ストラット部材56の第1係合部56aには、ブレーキシュー20のシューウェブ32の一端部およびパーキングブレーキレバー48の基端部48aが嵌め入れられるように切り欠かれた第1切欠56cが形成されており、第2ストラット部材58の第2係合部58aには、ブレーキシュー22のシューウェブ34の一端部が嵌め入れられるように切り欠かれた第2切欠58cが形成されている。このため、ストラット52は、リターンスプリング26の付勢力によって、ブレーキシュー20のシューウェブ32の一端部とパーキングブレーキレバー48の基端部48aとが第1ストラット部材56の第1係合部56aにおける第1切欠56cによって形成された第1当接面56dに当接されると共に、ブレーキシュー22のシューウェブ34の一端部が第2ストラット部材58の第2係合部58aにおける第2切欠58cによって形成された第2当接面58dに当接されることにより、ドラムブレーキ10の非制動時における一対のブレーキシュー20および22の待機位置が規定されている。
【0022】
アジャストレバー54には、
図1乃至
図3に示すように、第2ストラット部材58に設けられた略円柱形状のピン62により回動可能に取り付けられた基端部54aと、その基端部54aからアジャストホイール60a側に延長され先端部が図示しないブレーキペダルの操作によるドラムブレーキ12の制動時に略円板形状のアジャストホイール60aの外周面に備えられた複数の外周歯の一つに係合する長手平板状の係合部54bと、その係合部54bからブレーキシュー22のシューウェブ34の一端部における内周側端面34a側に延長されその内周側端面34aに当接する当接部54cとが一体に備えられている。
【0023】
アジャストレバー54の係合部54bには、
図1および
図4に示すように、その先端がアジャストホイール60aの第1ストラット部材56側に位置するように曲げられた曲げ部54dが備えられている。また、上記曲げ部54dは、
図4に示すように、ストラット52の長手方向におけるアジャストホイール60aの第1ストラット部材56側の面60dに対して所定の間隔を隔てて係合部54bの先端がストラット52の軸心C1に接近するように曲げられている。
【0024】
アジャストレバー54には、
図1乃至
図3に示すように、そのアジャストレバー54をピン62の軸心(基端部54aの回動中心)C2回り矢印F方向に回動するように常時付勢する捩りばね64が備えられている。このため、アジャストレバー54の当接部54cは、
図2に示すように、捩りばね64の付勢力によって、第2ストラット部材58すなわちストラット52を一対のブレーキシュー20および22のブレーキシュー20側に常時付勢している。なお、捩りばね64の付勢力は、リターンスプリング26の付勢力より小さいものである。
【0025】
第2ストラット部材58には、
図5に示すように、アジャストレバー54の曲げ部54dがアジャストホイール60aの第1ストラット部材56側に位置させられるようにそのアジャストレバー54の当接部54cを受け止める円柱形状の受止めピン58eが形成されている。
【0026】
図4および
図5は、シュー間隙自動調整装置10がドラムブレーキ12に組み付けられる前の状態を示す図である。それら
図4および
図5に示すように、アジャストレバー54は、捩りばね64の付勢力によってピン62の軸心C2回り矢印F方向に回動するように付勢されており、そのアジャストレバー54の当接部54cが第2ストラット部材58の受止めピン58eに受け止められると、曲げ部54dがアジャストホイール60aの第1ストラット部材56側に位置させられるようになっている。なお、第2ストラット部材58の受止めピン58eは、アジャストレバー54の当接部54cが受止めピン58eに受け止められた時に、アジャストレバー54の曲げ部54dがアジャストホイール60aの第1ストラット部材56側に位置させられるように配置されている。このため、例えば、シュー間隙自動調整装置10をドラムブレーキ12を組み付ける際において、調節部材60の嵌合軸部60cが第2ストラット部材58の嵌合穴58bすなわちストラット52から脱落しようとすると、アジャストホイール60aの第1ストラット部材56側に位置させられたアジャストレバー54の曲げ部54dにアジャストホイール60aが当接するので、その調節部材60の嵌合軸部60cのストラット52からの脱落が防止される。
【0027】
以上のように構成されたドラムブレーキ12は、図示されていないブレーキペダル操作に伴ってホイールシリンダ24により一対のブレーキシュー20および22の一端部が互いに離隔する方向に拡開される。そして、ライニング40および42が摩耗しシュー間隙が大きくなった状態で、ホイールシリンダ24により一対のブレーキシュー20および22が待機位置から拡開させられて、ストラット52がアジャストレバー54の当接部54cにより一対のブレーキシュー20および22のブレーキシュー20側に移動すると、
図3に示すように第2ストラット部材58とブレーキシュー22との離間距離すなわち一対のブレーキシュー20および22の拡開量に応じてアジャストレバー54の基端部54aが回動すると共に係合部54bがアジャストホイール60aの外周歯に係合することによってアジャストホイール60aが所定方向例えば調節部材60の螺子軸部60bが右ねじであれば左回りの方向に回動される。それにより、ストラット52が伸長させられシュー間隙が調整される。
【0028】
上述のように、本実施例のドラムブレーキ12のシュー間隙自動調整装置10によれば、シュー間隙自動調整装置10がドラムブレーキ12に組み付けられる前において、アジャストレバー54の曲げ部54dは、アジャストホイール60aの第1ストラット部材56側に位置させられているので、従来のシュー間隙自動調整装置のようにアジャストレバーにそのアジャストレバーが過度に回転することを阻止するストッパを設ける必要性がなく、アジャストレバー54の形状を簡素化することができる。また、調節部材60の嵌合軸部60cがストラット52から脱落しようとすると、アジャストホイール60aの第1ストラット部材56側に位置させられたアジャストレバー54の曲げ部54dによってその調節部材60の嵌合軸部60cのストラット52からの脱落が防止されるので、ドラムブレーキ12にシュー間隙自動調整装置10を組み付ける時の組付け性が向上する。
【0029】
また、本実施例のドラムブレーキ12のシュー間隙自動調整装置10によれば、アジャストレバー54は、そのアジャストレバー54が捩りばね64により基端部54aの回動中心回りに回動するように付勢されており、第2ストラット部材58には、アジャストレバー54の曲げ部54dがアジャストホイール60aの第1ストラット部材56側に位置させられるようにそのアジャストレバー54を受け止める受止めピン58eが形成されている。このため、シュー間隙自動調整装置10がドラムブレーキ12に取り付けられる前において、アジャストレバー54が第2ストラット部材58に形成された受止めピン58eに受け止められることによって、そのアジャストレバー54の曲げ部54dがアジャストホイール60aの第1ストラット部材56側に確実に位置させられる。
【0030】
以上、本発明の一実施例を図面に基づいて説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0031】
たとえば、本実施例のシュー間隙自動調整装置10は、そのシュー間隙自動調整装置10がドラムブレーキ12に組み付けられる前において、アジャストレバー54が受止めピン58eに受け止められることによって、アジャストレバー54の曲げ部54dがアジャストホイール60aの第1ストラット部材56側に位置させられていたが、必ずしも第2ストラット部材58に受止めピン58eが設けられる必要性はない。例えば、外力が加えられていない自由状態において、アジャストレバー54の曲げ部54dがアジャストホイール60aの第1ストラット部材56側に位置させられるように成形された捩りばね64を使用して、アジャストレバー54の曲げ部54dをアジャストホイール60aの第1ストラット部材56側に位置させても良い。
【0032】
また、本実施例のシュー間隙自動調整装置10において、アジャストレバー54の曲げ部54dは、アジャストホイール60aの第1ストラット部材56側の面60dに対して所定の間隔を隔てて係合部54bの先端がストラット52の軸心C1に接近するように曲げられていたが、そのアジャストレバー54の曲げ部54dの形状は、どのような形状であっても良い。すなわち、アジャストレバー54の係合部54bの先端がアジャストホイール60aの第1ストラット部材56側に位置するように曲げられたものであれば、アジャストレバー54の曲げ部54dの形状はどのような形状であっても良い。
【0033】
また、本実施例のシュー間隙自動調整装置10において、一対のブレーキシュー20および22の拡開量に応じてアジャストレバー54の基端部54aが回動すると共に係合部54bによってアジャストホイール60aが所定方向に回動されたが、たとえば、ドラムブレーキ12の解除時のアジャストレバー54の係合部54bの戻りによってアジャストホイール60aを所定方向に回動させてストラット52を伸長させても良い。
【0034】
また、本実施例のドラムブレーキ12は、四輪車に使用されていたが、四輪車以外の他の車両例えば二輪車等に適用することもできる。
【0035】
その他一々例示はしないが、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。