(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0045】
実施形態1
本実施形態は、還元雰囲気での熱処理で金属を析出する金属錯体に関わる実施形態である。本発明における被接合体を接合する原料は、7段落で説明したように、熱処理で金属を析出する金属化合物の粉体が分子状態で分散された分散液である。また、7段落で説明したように、金属化合物の分散媒体はアルコールが適している。このため金属化合物は、アルコールに分散し、接合面に塗布された金属化合物は、金属微粒子の集まりを析出する性質を持つことが必要になる。
ここで、アルコールに分散する金属化合物の実施形態を説明する。ここでは金属を銅とし、銅化合物を例として説明する。塩化銅、硫酸銅、硝酸銅などの無機銅化合物はアルコールに溶解し、銅イオンが溶出してしまい、多くの銅イオンが銅微粒子の析出に参加できなくなる。従って、銅化合物は溶剤に溶解せず、溶剤に分子状態で分散する性質を持つことで、接合面に塗布された金属化合物の全てが金属微粒子の析出に参加する。また、酸化銅、塩化銅、硫化銅などの無機銅化合物はアルコール類に分散しない。このため、これらの無機銅化合物は銅化合物として適切でない。
次に、銅化合物は、接合面に銅微粒子の集まりを析出する性質を持つ。銅化合物から銅が生成される化学反応の中で、最も簡単な処理による化学反応に熱分解反応がある。つまり、銅化合物を昇温するだけで、銅化合物が熱分解して銅が析出する。さらに、銅化合物の熱分解温度が低ければ、分散液の熱処理温度が低くなり、耐熱性が低い被接合体の接合が可能になり、また、熱処理費用も安価で済む。無機物の分子ないしはイオンが配位子となって、分子構造の中央に位置する銅イオンに配位結合する銅錯イオンは、合成が容易な銅錯イオンである。さらに、こうした銅錯イオンを有する無機塩からなる銅錯体は、還元雰囲気での熱分解温度は銅化合物の中で最も低い。つまり、金属と無機物とに分解される温度が低く、さらに、分解された無機物が容易に気化する。従って、こうした銅錯体は、有機銅化合物より高価な物質であるが、より低い熱処理温度で銅を析出する原料になる。
なお、金属錯体には多くの種類があり、有機物が配位子となる金属錯体は、金属と有機物に分解される温度が高く、さらに、有機物の気化に多くの熱エネルギーが必要になり、金属が析出する温度は、無機物が配位子となる金属錯体に比べて高い。また配位子に酸素原子が含まれる場合は、金属酸化物を析出する。さらに、金属錯イオンの合成に多くの費用を要し、無機物が配位子となる金属錯イオンに比べて製造費が高い。これに対し、無機物の分子ないしはイオンが配位子となって金属イオンに配位結合する金属錯イオンは合成が容易である。また、こうした金属錯イオンの無機塩も合成が容易である。さらに、こうした金属錯イオンの無機塩からなる金属錯体は、金属化合物の中で最も低い温度で金属を析出する。従って、無機物の分子ないしはイオンが配位子となって金属イオンに配位結合する金属錯イオンの無機塩は、低温度で金属を析出する原料になる。
すなわち、無機物の分子ないしはイオンが配位子となって銅イオンに配位結合する銅錯イオンを構成する分子の中で、銅イオンが最も大きい。ちなみに、銅原子の共有結合半径は132±4pmであり、一方、窒素原子の共有結合半径の71±1pmであり、酸素原子の共有結合半径は66±2pmである。このため、銅錯イオンを有する銅錯体の分子構造において、無機物の分子ないしはイオンからなる配位子が銅イオンに配位結合する配位結合部の距離が最も長い。従って、還元雰囲気の熱処理においては、最初に配位結合部が分断され、金属と無機物とに分解し、無機物の気化が完了した後に銅が析出する。
さらに、銅錯イオンの中で、アンモニアNH
3が配位子となって銅イオンに配位結合するアンミン銅錯イオンは、他の銅錯イオンに比べてさらに合成が容易であり、安価な製造費用で製造できる。このアンミン銅錯イオンとして、テトラアンミン銅錯イオン[Cu(NH
3)
4]
2+、ないしはヘキサアンミン銅錯イオン[Cu(NH
3)
6]
2+がある。さらに、アンミン銅錯イオンを有する銅錯体の中で、アンミン銅錯イオンの無機塩は銅が析出する温度が低い。このような銅錯体として、テトラアンミン銅硝酸塩[Cu(NH
3)
4](NO
3)
2や、ヘキサアンミン銅硫酸塩[Cu(NH
3)
6]SO
4などがある。これらのアンミン銅錯イオンの無機塩は、アンモニアガスや水素ガスなどの還元性雰囲気で熱処理すると、配位結合部位が最初に分断され、金属と無機物とに分解され、無機物の分子量が小さいため、200℃程度の低い温度で無機物の気化が完了して銅が析出する。また、メタノールやn−ブタノールなどのアルコールに10重量%近くの分散濃度まで分散する。
以上に説明したように、無機物の分子ないしはイオンが配位子となって金属イオンに配位結合する金属錯イオンを有する無機塩からなる金属錯体は、合成が容易で、より低い温度で金属を析出する。このため、耐熱性が低い被接合体を接合する原料になる。また、金属より酸化ないしは腐食しにくい合金の皮膜で被接合体を接合する場合は、同一の配位子からなる複数種類の金属錯体が、耐熱性が低い被接合体を接合する原料になる。つまり、複数種類の金属錯体が同一の配位子から構成されるため、複数種類の金属錯体が同時に無機物と金属とに熱分解し、無機物の気化が完了した後に各々の金属錯体のモル濃度に応じて金属が析出する。これらの金属は不純物を持たない活性状態にあり、これらの金属からなる合金が生成される。
【0046】
実施形態2
本実施形態は、大気雰囲気での熱処理で金属を析出するカルボン酸金属化合物に関わる実施形態である。本発明における被接合体を接合する原料は、7段落で説明したように、熱処理で金属を析出する金属化合物の粉体が分散された分散液である。また、7段落で説明したように、金属化合物の分散媒体はアルコールが適している。このため、金属化合物は、アルコールに分散し、接合面に塗布された金属化合物が、接合面に金属微粒子の集まりを析出する性質を持つことが必要になる。
ここで、金属微粒子の原料となる金属化合物について、アルコールに分子状態で分散する金属化合物の実施形態を説明する。ここでは金属をアルミニウムとし、アルミニウム化合物を例として説明する。塩化アルミニウムは水に溶け、水酸化アルミニウムと塩酸に加水分解する。また、水酸化アルミニウムはアルコールに分散しない。さらに、硫酸アルミニウムはアルコールに溶解し、アルミニウムイオンが溶出してしまい、多くのアルミニウムイオンがアルミニウムの析出に参加できなくなる。また、酸化アルミニウムは、アルコールに分散しない。このため、これらの無機アルミニウム化合物は、アルミニウム化合物として適切でない。
いっぽう、アルミニウム化合物は、接合面でアルミニウム微粒子の集まりを析出する。つまり、アルミニウム微粒子が生成される化学反応が接合面で起こる。アルミニウム化合物からアルミニウムが生成される化学反応の中で、最も簡単な処理による化学反応に熱分解反応がある。つまり、アルミニウム化合物を大気雰囲気で昇温するだけで、アルミニウムが析出する。さらに、アルミニウム化合物の合成が容易でれば、アルミニウム化合物が安価に製造できる。こうした性質を兼備するアルミニウム化合物にカルボン酸アルミニウムがある。
つまりカルボン酸アルミニウム化合物を構成するイオンの中で、最も大きいイオンはアルミニウムイオンである。従って、カルボン酸アルミニウム化合物におけるカルボキシル基を構成する酸素イオンが、アルミニウムイオンに共有結合すれば、アルミニウムイオンとカルボキシル基を構成する酸素イオンとの距離が、イオン同士の距離の中で最も長い。こうした分子構造上の特徴を持つカルボン酸アルミニウム化合物を大気雰囲気で昇温させると、カルボン酸の沸点において、カルボン酸とアルミニウムとに分解する。さらに昇温すると、カルボン酸が飽和脂肪酸で構成されれば、カルボン酸が気化熱を奪って気化し、カルボン酸の気化が完了した後にアルミニウムが析出する。従って、カルボン酸の沸点が低いほど、カルボン酸アルミニウムの分解が始まる温度は低く、また、アルミニウムが析出する温度も低い。なお、還元雰囲気でのカルボン酸アルミニウムの熱分解は、大気雰囲気での熱分解より高温側で進む、つまり熱分解反応が遅い。このため、大気雰囲気での熱分解がアルミニウムを析出させる条件として望ましい。
一方、カルボン酸が不飽和脂肪酸であれば、炭素原子が水素原子に対して過剰になるため、不飽和脂肪酸からなるカルボン酸アルミニウムが熱分解すると、アルミニウムの酸化物が析出する。さらに、カルボン酸アルミニウムの中で、カルボキシル基を構成する酸素イオンが配位子となってアルミニウムイオンに近づいて配位結合するカルボン酸アルミニウム(この物質はアルミニウム錯体の一種で、有機物のカルボキシル基が配位子を構成する)では、アルミニウムイオンと酸素イオンとの距離が短くなり、反対に、酸素イオンがアルミニウムイオンと反対側で結合するイオンとの距離が最も長くなる。このようなカルボン酸アルミニウムの熱分解反応では、酸素イオンがアルミニウムイオンと反対側で結合するイオンとの結合部が最初に分断され、この結果、酸化アルミニウムが析出する。このようなカルボン酸アルミニウムは、アルミニウムを析出する原料として適切でない。
さらに、カルボン酸アルミニウムは合成が容易で、安価な有機アルミニウム化合物である。つまり、カルボン酸を水酸化ナトリウムなどの強アルカリ溶液中で反応させると、カルボン酸アルカリ金属が生成される。このカルボン酸アルカリ金属を、硫酸アルミニウムなどの無機アルミニウム化合物と反応させると、カルボン酸アルミニウムが容易に生成される。以下に、カルボン酸アルミニウムの実施形態を説明する。
飽和脂肪酸からなるカルボン酸アルミニウム化合物の組成式は、Al(RCOO)
3で表わせられる。Rはアルカンで、組成式はC
mH
nである(ここでmとnとは整数である)。カルボン酸アルミニウムを構成する物質の中で、組成式の中央に位置するアルミニウムイオンAl
3+が最も大きい物質になる。このため、アルミニウムイオンAl
3+とカルボキシル基を構成する酸素イオンO
−とが共有結合する場合は、アルミニウムイオンAl
3+と酸素イオンO
−との距離が最大になる。ちなみに、アルミニウムイオン原子の共有結合半径は121±4pmであり、酸素イオン原子の共有結合半径は66±2pmであり、炭素原子の共有結合半径は73pmである。このため、アルミニウムイオンとカルボキシル基を構成する酸素イオンとが共有結合するカルボン酸アルミニウムは、カルボン酸の沸点を超えると、結合距離が最も長いアルミニウムイオンとカルボキシル基を構成する酸素イオンとの結合部が最初に分断され、アルミニウムとカルボン酸とに分離する。さらに昇温すると、カルボン酸が飽和脂肪酸であれば、カルボン酸が気化熱を奪って気化し、カルボン酸の気化が完了した後にアルミニウムが析出する。このカルボン酸アルミニウムとして、オクチル酸アルミニウム、ラウリン酸アルミニウム、ステアリン酸アルミニウムなどがある。
さらに、飽和脂肪酸で構成されるカルボン酸アルミニウムについて、飽和脂肪酸の沸点が相対的に低ければ、カルボン酸アルミニウムは相対的に低い温度で熱分解し、耐熱性が低い被接合体の接合が可能になり、また、アルミニウムを析出させる熱処理費用が安価で済む。飽和脂肪酸を構成する炭化水素が長鎖構造である場合は、長鎖が長いほど、つまり飽和脂肪酸の分子量が大きいほど、飽和脂肪酸の沸点が高くなる。ちなみに、分子量が200.3であるラウリン酸の大気圧での沸点は296℃で、分子量が284.5であるステアリン酸の大気圧での沸点は361℃である。従って、長鎖構造の飽和脂肪酸の分子量が相対的に小さい飽和脂肪酸からなるカルボン酸アルミニウムは、熱分解温度が相対的に低くなるので、アルミニウムを析出する原料として望ましい。
また、飽和脂肪酸が分岐鎖構造を有する飽和脂肪酸である場合は、直鎖構造の飽和脂肪酸より鎖の長さが短く、沸点が相対的に低くなる。これによって、分岐鎖構造を有する飽和脂肪酸からなるカルボン酸アルミニウム化合物は、相対的に低い温度で熱分解する。さらに、分岐鎖構造を有する飽和脂肪酸は極性を持つため、分岐鎖構造を有する飽和脂肪酸からなるカルボン酸アルミニウム化合物も極性を持ち、アルコールなどの極性を持つ有機溶剤に相対的に高い割合で分散する。このような分岐構造の飽和脂肪酸としてオクチル酸がある。すなわち、オクチル酸は構造式がCH
3(CH
2)
3CH(C
2H
5)COOHで示され、CHでCH
3(CH
2)
3とC
2H
5とのアルカンに分岐され、CHにカルボキシル基COOHが結合する。オクチル酸の大気圧での沸点は228℃で、前記したラウリン酸より沸点が68℃低い。このため、より低い温度でアルミニウムを析出する原料として、オクチル酸アルミニウムが最も望ましい。ちなみに、オクチル酸アルミニウムは、大気雰囲気で290℃で熱分解が完了してアルミニウムが析出し、メタノールやn−ブタノールなどに10重量%まで分散する。
いっぽう、合金を生成する原料として、同一の飽和脂肪酸から構成される複数種類のカルボン酸金属化合物を用いることができる。つまり、複数種類のカルボン酸金属化合物が、同一の飽和脂肪酸から構成されるため、飽和脂肪酸の沸点を超える温度で複数種類のカルボン酸金属化合物が同時に熱分解し、飽和脂肪酸の気化が完了した後に、各々のカルボン酸金属化合物のモル濃度に応じて複数種類の金属が析出する。複数種類の金属は不純物を持たない活性状態にあるため、複数種類の金属からなる合金が生成される。
【0047】
実施形態3
本実施形態は、第一にアルコールに溶解ないしは混和し、第二にアルコール溶解液ないしはアルコール混和液が、アルコールより高い粘度を有し、第三にアルコールより沸点が高く、第四に金属錯体ないしはカルボン酸金属化合物を熱処理する温度より沸点が低い、これら4つの性質を有する有機化合物に関する実施形態である。つまり、こうした有機化合物を、金属錯体ないしはカルボン酸金属化合物がアルコールに分散した分散液に溶解ないし混和させるだけで、被接合体を接合する接合剤が製造できる。
このような有機化合物として、カルボン酸ビニルエステル類、アクリル酸エステル類、メタクリル酸エステル類、グリコール類、ないしは、スチレンモノマーなどの有機化合物に、前記した4つの性質を兼備するものがある。
カルボン酸ビニルエステル類は、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ミリスチン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、ピパリン酸ビニル、オクチル酸ビニル、モノクロロ酢酸ビニル、アジピン酸ビニル、クロトン酸ビニル、安息香酸ビニルなど様々なカルボン酸ビニルがある。
例えば、酢酸ビニルは化学式がCH
3COO−CH=CH
2で示され、メタノールに溶解し、メタノールより高い粘性を持ち、沸点がメタノールの沸点より高い72.7℃で、45段落で説明した金属錯体、46段落で説明したカルボン酸金属化合物の熱分解温度より低い。従って、金属錯体ないしはカルボン酸金属化合物をメタノールに分散し、この分散液に酢酸ビニルを添加して撹拌すると、添加した酢酸ビニルの量に応じて分散液の粘度が増大する。このため、酢酸ビニルは前記した4つの性質を兼備する有機化合物である。なお、酢酸ビニルは、酢酸とビニルアルコールとを反応させたエステルで、ポリ酢酸ビニルの合成に用いる原料で、安価な有機化合物である。
またモノクロロ酢酸ビニルは化学式がCl−CH
2COO−CH=CH
2で示され、n−ブタノールに溶解し、n−ブタノールより高い粘性を持ち、さらに、沸点がn−ブタノールの沸点より高い136℃で、45段落で説明した金属錯体、46段落で説明したカルボン酸金属化合物の熱分解温度より低い。従って、金属錯体ないしはカルボン酸金属化合物をn−ブタノールに分散し、この分散液にモノクロロ酢酸ビニルを添加して撹拌すると、添加したモノクロロ酢酸ビニルの量に応じて分散液の粘度が増大する。このため、モノクロロ酢酸ビニルは前記した4つの性質を兼備する有機化合物である。なお、モノクロロ酢酸ビニルは、アクリルゴムの架橋サイトとして用いられている安価な有機化合物である。
さらに、アクリル酸エステル類は、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2エチルヘキシルなどの様々なアクリル酸エステルがある。
例えば、アクリル酸メチルは化学式がCH
2=CH−COOCH
3で示され、メタノールに溶解し、メタノールより高い粘性を持ち、さらに、沸点がメタノールの沸点より高い80℃で、45段落で説明した金属錯体、46段落で説明したカルボン酸金属化合物の熱分解温度より低い。従って、金属錯体ないしはカルボン酸金属化合物をメタノールに分散し、この分散液にアクリル酸メチルを添加して撹拌すると、添加したアクリル酸メチルの量に応じて分散液の粘度が増大する。このため、アクリル酸メチルは前記した4つの性質を兼備する有機化合物である。なお、アクリル酸メチルはアクリル樹脂の原料であって、安価な有機化合物である。
また、アクリル酸ブチルは化学式がCH
2=CH−COOC
4H
9で示され、n−ブタノールに溶解し、n−ブタノールより高い粘性を持ち、さらに、沸点がn−ブタノールの沸点より高い148℃で、45段落で説明した金属錯体、46段落で説明したカルボン酸金属化合物の熱分解温度より低い。従って、金属錯体ないしはカルボン酸金属化合物をn−ブタノールに分散し、この分散液にアクリル酸ブチルを添加して撹拌すると、添加したアクリル酸ブチルの量に応じて分散液の粘度が増大する。このため、アクリル酸ブチルは前記した4つの性質を兼備する有機化合物である。なお、アクリル酸ブチルは、アクリル酸とn−ブタノールを反応させたエステルで、繊維処理剤、粘接着剤、塗料、合成樹脂、アクリルゴム、エマルションの原料として使用されている安価な有機化合物である。
また、メタクリル酸エステル類は、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸アルキル、メタクリル酸トリデシル、メタクリル酸ステアリルなど様々なメタクリル酸エステルがある。
例えば、メタクリル酸エチルは、化学式がH
2C=C(CH
3)COOC
2H
5で示され、メタノールに溶解し、メタノールより高い粘性を持ち、さらに沸点がメタノールの沸点より高い117℃で、45段落で説明した金属錯体、46段落で説明したカルボン酸金属化合物の熱分解温度より低い。従って、金属錯体ないしはカルボン酸金属化合物をメタノールに分散し、この分散液にメタクリル酸エチルを添加して撹拌すると、添加したメタクリル酸エチルの量に応じて分散液の粘度が増大する。このため、メタクリル酸エチルは前記した4つの性質を兼備する有機化合物である。なおメタクリル酸エチルは、顔料、塗料、接着剤、繊維処理剤、成形材料、歯科用材料の原料として用いられている安価な有機化合物である。
さらに、メタクリル酸nブチルは、化学式がCH
2C(CH
3)COO(CH
2)
3CH
3で示され、n−ブタノールに溶解し、n−ブタノールより高い粘性を持ち、さらに、沸点がn−ブタノールより高い163.5℃で、45段落で説明した金属錯体、46段落で説明したカルボン酸金属化合物の熱分解温度より低い。従って、金属錯体ないしはカルボン酸金属化合物をn−ブタノールに分散し、この分散液にメタクリル酸nブチルを添加して撹拌すると、添加したメタクリル酸nブチルの量に応じて分散液の粘度が増大する。このため、メタクリル酸nブチルは前記した4つの性質を兼備する有機化合物である。なお、メタクリル酸nブチルは、塗料、分散剤、繊維処理剤の原料として用いられている安価な有機化合物である。
さらにスチレンモノマーは化学式がC
6H
5CH=CH
2で示され、n−ブタノールと混和し、n−ブタノールより高い粘性を持ち、さらに、沸点がn−ブタノールの沸点より高い145℃の液状モノマーで、45段落で説明した金属錯体、46段落で説明したカルボン酸金属化合物の熱分解温度より低い。従って、金属錯体ないしはカルボン酸金属化合物をn−ブタノールに分散し、この分散液にスチレンモノマーを添加して撹拌すると、添加したスチレンモノマーの量に応じて分散液の粘度が増大する。このため、スチレンモノマーは前記した4つの性質を兼備する有機化合物である。なお、スチレンモノマーは、ポリスチレンを始めとして、発泡ポリスチレン、アクリロニトリル・スチレン、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン、不飽和ポリエステルなどの合成樹脂材料の原料となる安価な有機化合物である。
また化学式がC
2H
4(OH)
2で示されるエチレングリコールは、n−ブタノールと混和し、沸点が197.3℃の液状モノマーである。さらにジエチレングリコールは、化学式がO(CH
2CH
2OH)
2で示され、n−ブタノールと混和し、沸点が244.3℃の液状モノマーである。さらに、化学式がCH
3CHOHCH
2OHで示されるプロピレングリコールは、n−ブタノールと混和し、沸点が188.2℃の液状モノマーである。さらに、ジプロピレングリコールは、化学式が[CH
3CH(OH)CH
2]
2Oで示され、n−ブタノールと混和し、沸点が232.2℃の液状モノマーである。またトリプロピレングリコールは、化学式が[CH
3CH(OH)CH
2]
2Oで示され、n−ブタノールと混和し、沸点が265.1℃の液状モノマーである。従って、カルボン酸金属化合物をn−ブタノールに分散し、この分散液にグリコール類を添加して撹拌すると、添加したグリコール類の量に応じて分散液の粘度が増大する。このため、これらのグリコール類は前記した4つの性質を兼備する有機化合物である。なお、グリコール類は、樹脂の中間原料として用いるほか、溶剤としての性質に優れ、さらに湿潤作用、保湿作用、保存作用、乳化作用、高沸点、低凝固点などの特長を活かして、食品、医薬品、化粧品、熱媒、冷媒、不凍液などに幅広く用いられている安価な有機化合物である。
【0048】
実施例1
本実施例は、結晶性樹脂同士からなる被接合体の接合に係わる事例である。ポリアミド樹脂に属するナイロン12樹脂とポリプロピレン樹脂とからなる組み合わせとし、試料の形状を5cm×5cm×5mm(厚み)の正方形とし、これら2枚の板を銅の皮膜で接合した。銅の原料は、最も合成が容易である銅錯イオンの一つである4個のアンミンが銅イオンCu
2+に配位結合したテトラアンミン銅イオン[Cu(NH
3)
4]
2+の硝酸塩であるテトラアンミン銅硝酸塩[Cu(NH
3)
4](NO
3)
2(例えば、三津和化学薬品株式会社の製品)を用いた。
なお、接合する結晶性樹脂は、ナイロン12樹脂とポリプロピレン樹脂との組み合わせに限定されることはない。合成樹脂が重合された成形品が熱分解を開始する温度が、合成樹脂を接合する際の熱処理温度より高ければ、どのような合成樹脂であっても接合できる。ちなみに、ナイロン12樹脂の熱分解開始温度は430℃であり、ポリプロピレン樹脂の熱分解開始温度は420℃である。本実施例では銅錯体を接合剤の原料として用い、銅の皮膜を介して結晶性の合成樹脂を接合するが、接合手段は銅の皮膜に限定されない。被接合体の使用される環境を考慮して、皮膜の材質を決定すればよい。
図1に合成樹脂の板を接合する工程を示す。最初に、テトラアンミン銅硝酸塩を、10重量%になるようにn−ブタノールに分散する(S10工程)。この分散液に、スチレンモノマーが5重量%の割合になるように投入して撹拌し、接合剤である分散液を製作した(S11工程)。次に、合成樹脂の試料の表面に接合剤である分散液を塗布した(S12工程)。接合剤の塗布にあたっては、メッシュの厚みが25μmで開口率が30%のマイクロテック社の印刷装置MT−320TVを用いた。さらに、分散液が塗布された塗布面を重ね合わせ、5kgの重りを載せた(S13工程)。この後、重ね合わせた合成樹脂の板の10組を水素ガスの還元熱処理炉に入れる(S14工程)。最初に、120℃に昇温してn−ブタノールを気化し、気化したn−ブタノールを回収する(S15工程)。さらに145℃に昇温してスチレンモノマーを気化し、気化したスチレンモノマーを回収する(S16工程)。さらに200℃に5分間放置し、テトラアンミン銅硝酸塩を還元した(S17工程)。この際、熱処理した合成樹脂の板を第一の試料として取り出した。最後に280℃に10分間放置した(S18工程)。この後重ね合わせた合成樹脂の板を第二の試料として取り出した。
次に、熱処理した試料をインストロン社の引張試験機で、接合面の鉛直方向で、互いに反対方向の引張荷重を加えて引張強度を調べた(引張接着強さ試験JIS K6849に基づく)。第一の試料の引張強度は1.0−1.3kgf/mm
2の値を持ったのに対し、第二の試料の引張強度は2.5−2.8kgf/mm
2の値を持った。
さらに、熱処理した試料を切断し、その切断面の観察と分析を電子顕微鏡によって行なった。電子顕微鏡は、JFEテクノリサーチ株式会社の極低加速電圧SEMを用いた。この装置は100Vからの極低加速電圧による表面観察が可能で、試料に導電性の被膜を形成せずに直接試料の表面が観察できる特徴を持つ。最初に、反射電子線の900−1000Vの間にある2次電子線を取り出して画像処理を行った。第一の試料は、40−60nmの大きさからなる粒状の微粒子同士が接合された状態であった。第二の試料は、5μm前後の厚みで皮膜状の物質が形成されていた。次に、反射電子線の900−1000Vの間にあるエネルギーを抽出して画像処理を行い、画像の濃淡によって材質の違いを観察した。濃淡が認められなかったので、同一の物質から形成されている。さらに、特性エックス線のエネルギーとその強度を画像処理し、微粒子を構成する元素を分析した。銅原子のみが存在した。
以上の分析結果から、200℃における熱処理では、銅の粒状微粒子が接合された状態であり、銅微粒子の集まりからなる接合強度は小さい。これに対し、280℃における熱処理では、銅微粒子が接合面の平面方向に成長して粗大化が進み、連続した皮膜を形成した。この結果、銅の皮膜は接合面の表面の凹部内にも形成され、この皮膜によって接合面が接合され、一定の接合強度を持ったと考えられる。
【0049】
実施例2
本実施例は、実施例1におけるナイロン12樹脂とポリプロピレン樹脂とからなる5cm×5cm×5mm(厚み)の正方形の2枚の板の表面を、フィルム研磨によって研磨し、表面粗さをRa3μmに粗くしたものを試料として用い、実施例1と同様に銅の皮膜で接合した。接合剤は実施例1と同様であり、還元処理の条件も実施例1と同様である。なお、フィルム研磨とは、ポリエステルフィルムの上にミクロンサイズの砥粒が、接着剤によって均一に塗布された研磨テープである。
熱処理した試料をインストロン社の引張試験機によって、接合面の鉛直方向で、互いに反対方向の引張荷重を加えて引張強度を調べた。試料の引張強度は3.5−3.8kgf/mm
2まで増大した。接合面の粗さを粗くすることによって、接合面の凹部の体積が増大し、この体積が増大した凹部に銅皮膜が入り込んで形成され、接合面におけるアンカー効果が増大し、接合強度が増大した結果である。つまり、接合する部品ないしは基材の面積が大きく、部品同士ないしは基材同士からなる被接合体の接合強度を増やす場合は、被接合体の接合面の表面粗さをより粗くし、表面の凹部の面積を広げるとともに、凹部の体積が増大する。これによって、接合面の凹部に入り込んだ金属ないしは合金の体積が増大するため、接合面におけるアンカー効果が増大する。なお、接合面の表面をより平坦にする加工、つまり鏡面研磨は多くの加工費用を要する加工になるが、接合面の表面をより粗くする加工は、表面粗さの均一性が不要になるため、加工費用は安価で済む。このように接合する被接合体の大きさや重さに応じて、接合面をより粗い表面状態とすることで、より大きな接合強度が得られる。
【0050】
実施例3
本実施例は、実施例1におけるナイロン12樹脂の試料を、直径5cmで厚みが5mmの円板とし、その中央部に直径が1cmの穴をあけ、穴の加工精度を隙間バメのH6として加工した。また、実施例1におけるポリプロピレン樹脂の試料を、直径が1cmで長さが2cmの円柱とし、外径の加工精度を隙間バメのh6とした。ナイロン12樹脂の穴と、ポリプロピレン樹脂の試料の中央部との5mmの幅に、実施例1で作成した接合剤を刷毛塗りし、両者を嵌合した。この後、実施例1と同様の還元焼成条件で試料を熱処理した。
熱処理した試料をインストロン社の引張試験機によって、接合面の鉛直方向で、互いに反対方向の引張荷重を加えて引張強度を調べた。試料の引張強度は3.2−3.5kgf/mm
2の実施例2に近い値を持った。この結果から、隙間バメで嵌合した試料は、嵌合部の表面粗さが実施例2に近い表面粗さであり、この嵌合部に銅の皮膜が形成され、この銅の皮膜で両者が接合された結果であると考えられる。
なお、実施例1と2では板状の試料を接合し、実施例3では嵌合部を有する試料を接合した。接合する被接合体の形状は、これらの実施例に限定されない。被接合体の接合面に接合剤が塗布できれば、どのような形状からなる被接合体であっても接合できる。
【0051】
実施例4
本実施例は、合成樹脂からなる部品ないしは基材を、金属からなる部品ないしは基材と接合する実施例である。本実施例ではアルミニウムとフェノール樹脂との接合を事例として説明するが、金属と合成樹脂との組み合わせが本実施例に限定されない。合成樹脂が重合された成形品が熱分解を開始する温度が、接合する際の熱処理温度より高ければ、どのような合成樹脂であっても接合できる。ちなみにフェノール樹脂が重合された成形品の熱分解開始温度は315℃である。また金属の融点は、合成樹脂の成形品が熱分解を開始する温度より著しく高いため、どのような金属であっても合成樹脂との接合ができる。
本実施例は、試料の形状を5cm×5cm×5mm(厚み)の正方形の2枚の板とし、フィルム研磨によって接合面を研磨し、表面粗さをRa3μmに粗くした。つまり、接合する被接合体の重量が大きく、被接合体の接合強度を増やす必要があるとの前提に立ち、接合面の表面粗さを粗くした。被接合体の重量が小さければ、あえて接合面の表面を粗くする必要はない。また、これら2枚の板を、ニッケルの皮膜で接合した。ニッケルの原料は、最も合成が容易であるニッケル錯イオンの一つである6個のアンミンが、ニッケルイオンNi
2+に配位結合したヘキサアンミンニッケルイオン[Ni(NH
3)
6]
2+の塩化物であるヘキサアンミンニッケル塩化物[Ni(NH
3)
6]Cl
2(例えば、三津和化学薬品株式会社の製品)を用いた。なお、本実施例ではニッケルの皮膜で接合面同士を接合するが、ニッケルに制限されることはない。被接合体の使用される環境を考慮して、皮膜の材質を決定すればよい。
図2に、アルミニウムとフェノール樹脂の成型品を接合する工程を示す。最初に、ヘキサアンミンニッケル塩化物を、10重量%になるようにn−ブタノールに分散する(S20工程)。この分散液に、スチレンモノマーが5重量%の割合になるように投入して撹拌し、接合剤である分散液を製作した(S21工程)。次に、接合面に分散液を実施例1と同様に塗布した(S22工程)。さらに、分散液が塗布された塗布面を重ね合わせ、5kgの重りを載せた(S23工程)。この後、重ね合わせた試料の10組を水素ガスの還元焼成炉に入れる(S24工程)。最初に、120℃に昇温してn−ブタノールを気化し、気化したn−ブタノールを回収した(S25工程)。さらに、145℃に昇温してスチレンモノマーを気化し、気化したスチレンモノマーを回収した(S26工程)。さらに、220℃に5分間放置し、ヘキサアンミンニッケル塩化物を還元した(S27工程)。この際、熱処理した試料を第一の試料として取り出した。最後に、300℃に10分間放置した(S28工程)。この後、熱処理した試料を第二の試料として取り出した。
次に、熱処理した試料をインストロン社の引張試験機で、接合面の鉛直方向で、互いに反対方向の引張荷重を加えて引張強度を調べた。第一の試料は1.2−1.5kgf/mm
2の値を持ったのに対し、第二の試料は4.5−4.8kgf/mm
2の値を持った。
さらに、熱処理した試料を切断し、切断面の観察と分析とを、実施例1と同様に電子顕微鏡によって行なった。最初に、反射電子線の900−1000Vの間にある2次電子線を取り出して画像処理を行った。第一の試料は、40−60nmの大きさからなる粒状の微粒子同士が接合された状態であった。第二の試料は、5μm前後の厚みで皮膜状の物質が形成されていた。次に、反射電子線の900−1000Vの間にあるエネルギーを抽出して画像処理を行い、画像の濃淡によって材質の違いを観察した。濃淡が認められなかったので、同一の物質から形成されていることが分かった。さらに、特性エックス線のエネルギーとその強度を画像処理し、微粒子を構成する元素を分析した。ニッケル原子のみが存在した。
以上の分析結果から、220℃における熱処理では、ニッケルの粒状微粒子が接合された状態であり、ニッケル微粒子の集まりによる接合強度は小さい。これに対し、300℃における熱処理では、ニッケル微粒子が接合面の平面方向に成長して粗大化が進み、連続した皮膜を形成した。この結果、ニッケルの皮膜は接合面の表面の凹部内にも形成され、これによって、一定の接合強度を持ったと考えられる。
【0052】
実施例5
本実施例は、実施例4におけるフェノール樹脂の試料を、直径5cmで厚みが5mmの円板とし、その中央部に直径が1cmの穴をあけ、穴の加工精度を隙間バメのH6として加工した。また、実施例4におけるアルミニウムの試料を、直径が1cmで長さが2cmの円柱とし、外径の加工精度を隙間バメのh6とした。フェノール樹脂の穴と、アルミニウムの試料の中央部との5mmの幅に、実施例4で作成した接合剤を刷毛塗りし、両者を嵌合した。この後、実施例4と同様の還元焼成条件で試料を熱処理した。
熱処理した試料をインストロン社の引張試験機によって、接合面の鉛直方向で、互いに反対方向の引張荷重を加えて引張強度を調べた。試料の引張強度は4.2−4.5kgf/mm
2の実施例4に近い値を持った。この結果から、隙間バメで嵌合した試料は、嵌合部の表面にニッケルの皮膜が形成され、ニッケルの皮膜で両者が接合された結果である。
なお、実施例4で板状の試料を接合し、実施例5で嵌合部を有する試料を接合したが、接合する被接合体の形状はこれらの実施例に限定されない。被接合体の接合面に接合剤が塗布できれば、どのような形状からなる被接合体であっても接合できる。
【0053】
実施例6
本実施例は、合成樹脂のフィルムと金属箔とを接合する実施例である。本実施例では、ポリエチレンテレフタレート(以下ではPETという)からなるフィルムと銅箔とを銅の皮膜で接合する事例として説明するが、合成樹脂のフィルムがPETフィルムに限定されない。接合時の熱処理温度が、合成樹脂が重合された成形品の熱分解の開始温度より低ければ、金属箔との接合が可能になる。ちなみに、PETの成形品の還元雰囲気での熱分解が開始される温度は400℃を超え、大気雰囲気では380℃を超える。さらに、皮膜の材質は銅に限定されず、被接合体の使用される環境を考慮して、皮膜の材質を決定すればよい。
PETフィルムの試料を5cm×5cm×25μm(厚み)の板とし、また、圧延銅箔の試料を5cm×5cm×18μm(厚み)の板とし、これらの試料の接合面をブラスト処理でRz5μm以下に加工した。つまり、現実に接合する被接合体の面積が大きく、被接合体の接合強度を増やす必要があるとの前提に立って、接合面の表面粗さを粗くした。現実の被接合体の面積が小さければ、あえて接合面の表面を粗くする必要はない。これら試料の接合面を実施例1における銅皮膜で接合した。銅の原料は、実施例1と同様にテトラアンミン銅硝酸塩を用いた。
図3に、PETフィルムと銅箔とを銅の皮膜で接合する工程を示す。最初に、テトラアンミン銅硝酸塩を4重量%になるようにn−ブタノールに分散する(S30工程)。この分散液に、スチレンモノマーが5重量%の割合になるように投入して撹拌し、接合剤である分散液を製作した(S31工程)。次に、試料の表面に接合剤である分散液を、実施例1と同様の方法で塗布した(S32工程)。さらに、分散液が塗布された塗布面を重ね合わせ、5kgの重りを載せた(S33工程)。この後、重ね合わせた試料の10組を水素ガスの還元焼成炉に入れる(S34工程)。最初に、120℃に昇温してn−ブタノールを気化し、気化したn−ブタノールを回収する(S35工程)。さらに、145℃に昇温してスチレンモノマーを気化し、気化したスチレンモノマーを回収する(S36工程)。さらに、200℃に5分間放置し、テトラアンミン銅硝酸塩を還元する(S37工程)。この際、熱処理した試料を第一の試料として取り出した。最後に、280℃に10分間放置した(S38工程)。この後、接合した試料を第二の試料として取り出した。
次に、熱処理した試料を、インストロン社の引張試験機で、接合面の鉛直方向で、互いに反対方向の引張荷重を加えて引張強度を調べた。第一の試料は1.0−1.3kgf/mm
2の値を持ったのに対し、第二の試料は3.5−3.8kgf/mm
2の値を持った。
さらに、熱処理した試料を切断し、切断面の観察と分析を実施例1と同様に電子顕微鏡によって行なった。最初に、反射電子線の900−1000Vの間にある2次電子線を取り出して画像処理を行った。第一の試料は、40−60nmの大きさからなる粒状の微粒子同士が接合された状態であった。第二の試料は、2μm前後の厚みで皮膜状の物質が形成されていた。次に、反射電子線の900−1000Vの間にあるエネルギーを抽出して画像処理を行い、画像の濃淡によって材質の違いを観察した。濃淡が認められなかったので、同一の物質から形成されている。さらに、特性エックス線のエネルギーとその強度を画像処理し、微粒子を構成する元素を分析した。銅原子のみが存在した。
以上の分析結果から、200℃における熱処理では、銅の粒状微粒子が接合された状態であり、銅微粒子の集まりによる接合強度は小さい。これに対し280℃における熱処理では、銅微粒子が接合面の平面方向に成長して粗大化が進み、連続した皮膜を形成した。この結果、銅の皮膜は接合面の表面の凹部内にも形成され、これによって、一定の接合強度を持ったと考えられる。
【0054】
実施例7
本実施例は、ガラス同士を接合する実施例である。本実施例では、石英ガラスと硼珪酸ガラスとをコバールの皮膜で接合する。コバールはNi29%、コバルト17%、鉄54%とからなるニッケル・コバルト・鉄合金で、熱膨張率が5×10
−6/Kであり、石英ガラスと硼珪酸ガラスの熱膨張率に近い値を持つ。なお、ガラス同士の組み合わせが本実施例に限定されず、同質のガラスでも異質のガラスの組み合わせでもよい。接合面に合金の皮膜を形成する温度が、ガラスの軟化点より著しく低いため、どのような材質のガラスの組み合わせであっても接合できる。また、皮膜の材質はコバールに限定されず、被接合体の使用される温度環境を考慮して、皮膜の材質を決定すればよい。
接合するガラスを、直径5cmで厚みが2mmの円板とし、フロスト加工で接合面をRz5μm以下に加工した。つまり、接合する被接合体の重量が大きく、被接合体の接合強度を増やす必要があるとの前提に立ち、接合面の表面粗さを粗くした。被接合体の重量が小さければ、あえて接合面の表面を粗くする必要はない。コバールの原料として、オクチル酸ニッケルNi(C
7H
15COO)
2と、オクチル酸鉄Fe(C
7H
15COO)
3(例えば、日本化学産業株式会社の製品)と、オクチル酸コバルトCo(C
7H
15COO)
2(例えば、東栄化工株式会社の製品)とを用いた。
図5に2枚のガラス板をコバールの皮膜で接合する工程を示す。最初に、オクチル酸ニッケルの2.9モルとオクチル酸コバルトの1.7モルとオクチル酸鉄の5.4モルとを混合し、これらの混合物が10重量%になるようにn−ブタノールに分散する(S40工程)。この分散液に、スチレンモノマーが5重量%の割合になるように投入して撹拌し、接合剤である分散液を製作した(S41工程)。次に、接合面に接合剤である分散液を実施例1と同様に塗布した(S42工程)。さらに、分散液が塗布された塗布面を重ね合わせ、10kgの重りを載せた(S43工程)。この後、重ね合わせた試料の10組を水素ガスの還元焼成炉に入れる(S44工程)。最初に120℃に昇温してn−ブタノールを気化し、気化したn−ブタノールを回収する(S45工程)。さらに、145℃に昇温してスチレンモノマーを気化し、気化したスチレンモノマーを回収する(S46工程)。さらに、290℃に1分間放置し、3種類のオクチル酸金属化合物を同時に熱分解した(S47工程)。この際、熱処理した試料を第一の試料として取り出した。最後に、370℃に10分間放置した(S48工程)。この後、熱処理した試料を第二の試料として取り出した。
熱処理した試料をインストロン社の引張試験機で、試料の接合面の鉛直方向で、互いに反対方向の引張荷重を加えて引張強度を調べた。第一の試料の引張強度は1.2−1.5kgf/mm
2の値を持ったのに対して、第二の試料の引張強度は4.0−4.3kgf/mm
2の値を持った。
さらに、熱処理した試料を切断し、その切断面の観察と分析を、実施例1と同様に電子顕微鏡によって行なった。最初に、反射電子線の900−1000V間にある2次電子線を取り出して画像処理を行った。第一の試料は、40−60nmの大きさからなる粒状の微粒子同士が接合された状態であった。第二の試料は、5μm前後の厚みで皮膜状の物質が形成されていた。次に、反射電子線の900−1000Vの間にあるエネルギーを抽出して画像処理を行い、画像の濃淡によって材質の違いを観察した。濃淡が認められたので、複数の物質から形成されていることが分かった。さらに特性エックス線のエネルギーとその強度を画像処理し、微粒子を構成する元素を分析した。ニッケル原子とコバルト原子と鉄原子とが存在していることが確認できた。接合剤の原料として、オクチル酸ニッケルの2.9モルとオクチル酸コバルトの1.7モルとオクチル酸鉄の5.4モルとを混合したため、29%ニッケルと17%コバルトと54%の鉄とからなるニッケル・コバルト・鉄合金であると考えられる。
以上の分析結果から、290℃における熱処理では、コバールからなる粒状微粒子が接合された状態であり、微粒子の集まりによる接合強度は小さい。これに対し、370℃における熱処理では、微粒子が接合面の平面方向に成長して粗大化が進み、連続した皮膜を形成した。この結果、コバールの皮膜は接合面の表面の凹部内にも形成され、これによって、一定の接合強度を持ったと考えられる。
【0055】
実施例8
本実施例は、実施例7における硼珪酸ガラスの試料を、直径5cmで厚みが2mmの中央部に、直径が1cmの穴をあけ、穴の加工精度を隙間バメのH6として加工した。また、実施例7における石英ガラスの試料を、直径が1cmで長さが2cmの円柱とし、外径の加工精度を隙間バメのh6とした。硼珪酸ガラスの穴と、石英ガラスの試料の中央部の2mmの幅に、実施例7で作成した接合剤を刷毛塗りし、両者を嵌合した。この後、実施例7と同様の焼成条件で試料を熱処理した。
熱処理した試料を、インストロン社の引張試験機で、接合面の鉛直方向で、互いに反対方向の引張荷重を加えて引張強度を調べた。試料の引張強度は3.7−4.0kgf/mm
2の実施例7に近い値を持った。この結果から隙間バメで嵌合した試料は、嵌合部の表面にコバールの皮膜が形成され、コバールの皮膜で両者が接合された結果である。
なお実施例7では板状の試料を接合し、実施例8では嵌合部を有する試料を接合した。接合する被接合体の形状はこれらの実施例に限定されない。被接合体の接合面に接合剤が塗布できれば、どのような形状からなる被接合体であっても接合できる。
【0056】
実施例9
本実施例はセラミックス同士を接合する実施例である。本実施例は、絶縁性のアルミナと導電性の炭化珪素を、合金の中で熱膨張率が最も小さいインバーと呼ばれる36%Ni・Fe合金の皮膜で接合する。インバーは、熱膨張率が1.5−2.0×10
−6/Kであり、合金の中でも最も小さい熱膨張率を持つ。なお、接合面に金属ないしは合金の皮膜を形成する温度が、セラミックスの耐熱温度より著しく低いため、どのような材質からなるセラミックスの組み合わせであっても接合できる。また皮膜の材質は36%Ni・Fe合金に限定されず、被接合体の使用される温度環境を考慮して、皮膜の材質を決定すればよい。
試料を直径5cmで厚みが2mmの板とし、ダイアモンド定盤によるホーニング加工で接合面をRmax3μmに加工した。つまり、現実にセラミックス同士を接合する多くの場合は、被接合体の接合強度を増やす必要があるので、本実施例では接合面の表面粗さを粗くした。現実の被接合体の重量が小さければ、あえて接合面の表面を粗くする必要はない。また、インバーの原料は、オクチル酸ニッケルとオクチル酸鉄とを用いた(例えば日本化学産業株式会社の製品)。
図5に2枚のセラミックス板をインバーの皮膜で接合する工程を示す。最初にオクチル酸ニッケルの3.6モルとオクチル酸鉄の6.4モルとを混合し、混合物が10重量%になるようにn−ブタノールに分散する(S50工程)。この分散液に、スチレンモノマーが5重量%の割合になるように投入して撹拌し、接合剤である分散液を製作した(S51工程)。次に、接合面に接合剤である分散液を実施例1と同様に塗布した(S52工程)。さらに、分散液が塗布された塗布面を重ね合わせ、20kgの重りを載せた(S53工程)。この後、重ね合わせた試料の10組を大気雰囲気の焼成炉に入れる(S54工程)。最初に、120℃に昇温してn−ブタノールを気化し、気化したn−ブタノールを回収する(S55工程)。さらに145℃に昇温してスチレンモノマーを気化し、気化したスチレンモノマーを回収する(S56工程)。さらに290℃に1分間放置し、オクチル酸ニッケルとオクチル酸鉄とを同時に熱分解する(S57工程)。この際、熱処理した試料を第一の試料として取り出した。最後に、370℃に10分間放置した(S58工程)。この後、熱処理した試料を第二の試料として取り出した。
次に、熱処理した試料をインストロン社の引張試験機によって、接合面の鉛直方向で、互いに反対方向の引張荷重を加えて引張強度を調べた。第一の試料は、1.2−1.5kgf/mm
2の値を持ったのに対して、第二の試料は5.0−5.3kgf/mm
2の値を持った。
さらに、熱処理した試料を切断し、切断面の観察と分析を、実施例1と同様に電子顕微鏡によって行なった。最初に、反射電子線の900−1000Vの間にある2次電子線を取り出して画像処理を行った。第一の試料は、40−60nmの大きさからなる粒状の微粒子同士が接合された状態であった。第二の試料は、5μm前後の厚みで皮膜状の物質が形成されていた。次に、反射電子線の900−1000Vの間にあるエネルギーを抽出して画像処理を行い、画像の濃淡によって材質の違いを観察した。2種類の元素が存在することが分かった。さらに、特性エックス線のエネルギーとその強度を画像処理し、微粒子を構成する元素を分析した。ニッケル原子と鉄原子が存在していることが確認できた。接合剤の原料として、オクチル酸ニッケル3.6モルに対して、オクチル酸鉄6.4モルを混合したため、36%ニッケル・鉄合金であると考えられる。
以上の分析結果から、290℃における熱処理では、36%ニッケル・鉄合金の粒状微粒子が接合された状態であり、合金の微粒子の集まりによる接合強度は小さい。これに対し370℃における熱処理では、合金の微粒子が接合面の平面方向に成長して粗大化が進み、連続した皮膜を形成した。この結果、合金の皮膜は接合面の表面の凹部内にも形成され、これによって、一定の接合強度を持ったと考えられる。
【0057】
実施例10
本実施例は、実施例9におけるアルミナの試料を、直径5cmで厚みが2mmの中央部に、直径が1cmの穴をあけ、穴の加工精度を隙間バメのH6として加工した。また、実施例9における炭化ケイ素の試料を、直径が1cmで長さが2cmの円柱とし、外径の加工精度を隙間バメのh6とした。アルミナの穴と、炭化ケイ素の試料の中央部の2mmの幅に、実施例9で作成した接合剤を刷毛塗りし、両者を嵌合した。この後、実施例9と同様の焼成条件で試料を熱処理した。
熱処理した試料をインストロン社の引張試験機によって、接合面の鉛直方向で、互いに反対方向の引張荷重を加えて引張強度を調べた。試料の引張強度は4.5−4.8kgf/mm
2の実施例9に近い値を持った。この結果から、隙間バメで嵌合した試料は、嵌合部の表面にインバーの皮膜が形成され、インバーの皮膜で両者が接合された結果である。
なお実施例9では板状の試料を接合し、実施例10では嵌合部を有する試料を接合した。接合する被接合体の形状はこれらの実施例に限定されない。被接合体の接合面に接合剤が塗布できれば、どのような形状からなる被接合体であっても接合できる。
【0058】
実施例11
本実施例は、金属箔同士を接合して積層する実施例である。本実施例では、アルミニウム箔をアルミニウムの皮膜で接合し、アルミニウム箔を積層する。なお、金属箔の軟化点が、接合面に形成する金属皮膜の熱処理温度より著しく高いため、どのような材質の金属箔でもよい。また、皮膜の材質はアルミニウムに限定されず、被接合体の使用される温度環境を考慮して、皮膜の材質を決定すればよい。
接合するアルミニウム箔の試料を5cm×5cm×30μm(厚み)の板とし、ブラスト処理で接合面をRz5μm以下に加工した。つまり、現実に接合する被接合体の面積が大きく、被接合体の接合強度を増やす必要があるとの前提に立って、接合面の表面粗さを粗くした。現実の被接合体の面積が小さければ、あえて接合面の表面を粗くする必要はない。これら20枚のアルミニウム箔をアルミニウムの皮膜で接合した。アルミニウムの原料は、オクチル酸アルミニウムAl(C
7H
15COO)
3(例えば、日東化成工業株式会社の製品)を用いた。
図6に20枚のアルミニウム箔をアルミニウムの皮膜で接合する工程を示す。最初にオクチル酸アルミニウムを、4重量%になるようにn−ブタノールに分散する(S60工程)。この分散液に、スチレンモノマーが5重量%の割合になるように投入して撹拌し、接合剤を製作した(S61工程)。次に、接合面に分散液を実施例1と同様に塗布した(S62工程)。さらに、分散液が塗布された塗布面を重ね合わせて積層し、5kgの重りを載せた(S63工程)。この後、重ね合わせた試料の10組を大気雰囲気の熱処理炉に入れる(S64工程)。最初に120℃に昇温してn−ブタノールを気化し、気化したn−ブタノールを回収する(S65工程)。さらに145℃に昇温してスチレンモノマーを気化し、気化したスチレンモノマーを回収する(S66工程)。さらに、290℃に1分間放置し、オクチル酸アルミニウムを熱分解する(S67工程)。この際、熱処理した試料を第一の試料として取り出した。最後に370℃に10分間放置した(S68工程)。熱処理した試料を第二の試料として取り出した。
次に、熱処理した試料をインストロン社の引張試験機で、接合面の鉛直方向で、互いに反対方向の引張荷重を加えて引張強度を調べた。第一の試料は1.0−1.3kgf/mm
2の値を持ったのに対し、第二の試料は3.0−3.3kgf/mm
2の値を持った。
さらに、熱処理した試料を切断し、切断面の観察と分析とを、実施例1と同様に電子顕微鏡によって行なった。最初に、反射電子線の900−1000Vの間にある2次電子線を取り出して画像処理を行った。第一の試料は、40−60nmの大きさからなる粒状の微粒子同士が接合された状態であった。第二の試料は、2μm前後の厚みで皮膜状の物質が形成されていた。次に、反射電子線の900−1000Vの間にあるエネルギーを抽出して画像処理を行い、画像の濃淡によって材質の違いを調べた。濃淡が認められなかったので、同一の物質から形成されていることが分かった。さらに、特性エックス線のエネルギーとその強度を画像処理し、微粒子を構成する元素を分析した。アルミニウム原子のみが存在した。
以上の分析結果から、290℃における熱処理では、アルミニウムの粒状微粒子が接合された状態であり、アルミニウム微粒子の集まりによる接合強度は小さい。これに対し、370℃における熱処理では、アルミニウム微粒子が接合面の平面方向に成長して粗大化が進み、連続した皮膜を形成した。この結果、アルミニウムの皮膜は接合面の表面の凹部内にも形成され、これによって、一定の接合強度を持ったと考えられる。
【0059】
実施例12
本実施例は、融点の異なる金属同士ないしは合金同士を接合する。本実施例では、融点が1390−1420℃の炭素鋼(C0.5以下)と融点が650℃であるジュラルミンとを、融点が1083℃である銅の皮膜で接合する事例である。また、銅の熱膨張率は、炭素鋼とジュラルミンの熱膨張率の中間の値を持つ。なお、接合面に皮膜を形成する温度が、金属ないしは合金の融点より著しく低いため、どのような金属ないしは合金の組み合わせであっても接合できる。また、皮膜の材質は銅に限定されず、被接合体の使用される温度環境を考慮して、皮膜の材質を決定すればよい。
接合する炭素鋼とジュラルミンとの試料を5cm×5cm×5mm(厚み)の板とし、ブラスト処理で接合面をRz5μm以下に加工した。つまり、現実に接合する被接合体の重量が大きく、被接合体の接合強度を増やす必要があるとの前提に立って、接合面の表面粗さを粗くした。銅の原料は、オクチル酸銅Cu(C
7H
15COO)
2(例えば、三津和化学薬品株式会社の製品)を用いた。
図7に、炭素鋼とジュラルミンとを銅皮膜で接合する工程を示す。最初に、オクチル酸銅を10重量%になるようにn−ブタノールに分散する(S70工程)。この分散液に、スチレンモノマーが5重量%の割合になるように投入して、接合剤である分散液を製作した(S71工程)。次に、試料の表面に接合剤である分散液を、実施例1と同様の方法で塗布した(S72工程)。さらに、分散液が塗布された塗布面を重ね合わせ、20kgの重りを載せた(S73工程)。この後、重ね合わせた試料の10組を大気雰囲気の熱処理炉に入れる(S74工程)。最初に、120℃に昇温してn−ブタノールを気化し、気化したn−ブタノールを回収する(S75工程)。さらに145℃に昇温してスチレンモノマーを気化し、気化したスチレンモノマーを回収する(S76工程)。さらに、290℃に1分間放置し、オクチル酸銅を熱分解する(S77工程)。この際、熱処理した試料を第一の試料として取り出した。最後に、370℃に10分間放置した(S78工程)。この後、接合した試料を第二の試料として取り出した。
次に、熱処理した試料をインストロン社の引張試験機で、接合面の鉛直方向で、互いに反対方向の引張荷重を加えて引張強度を調べた。第一の試料は1.2−1.5kgf/mm
2の値を持ったのに対し、第二の試料は6.5−6.8kgf/mm
2の値を持った。
さらに、熱処理した試料を切断し、切断面の観察と分析とを、実施例1と同様に電子顕微鏡によって行なった。最初に、反射電子線の900−1000Vの間にある2次電子線を取り出して画像処理を行った。第一の試料は、40−60nmの大きさからなる粒状の微粒子同士が接合された状態であった。第二の試料は、5μm前後の厚みで皮膜状の物質が形成されていた。次に、反射電子線の900−1000Vの間にあるエネルギーを抽出して画像処理を行い、画像の濃淡によって材質の違いを調べた。濃淡が認められなかったので、同一の物質から形成されていることが分かった。さらに、特性エックス線のエネルギーとその強度を画像処理し、微粒子を構成する元素を分析した。銅原子のみが存在した。
以上の分析結果から、290℃における熱処理では、銅の粒状微粒子が接合された状態であり、銅微粒子の集まりによる接合強度は小さい。これに対し370℃における熱処理では、銅微粒子が接合面の平面方向に成長して粗大化が進み、連続した皮膜を形成した。この結果、銅の皮膜は接合面の表面の凹部内にも形成され、これによって、一定の接合強度を持ったと考えられる。
【0060】
実施例13
本実施例は、実施例12における炭素鋼の試料を、直径5cmで厚みが5mmの中央部に、直径が1cmの穴をあけ、穴の加工精度を隙間バメのH6として加工した。また、実施例13におけるジュラルミンの試料を、直径が1cmで長さが2cmの円柱とし、外径の加工精度を隙間バメのh6とした。炭素鋼の穴と、ジュラルミンの試料の中央部の5mmの幅に、実施例12で作成した接合剤を刷毛塗りし、両者を嵌合した。この後、実施例12と同様の焼成条件で試料を熱処理した。
熱処理した試料をインストロン社の引張試験機によって、接合面の鉛直方向で、互いに反対方向の引張荷重を加えて引張強度を調べた。試料の引張強度は6.0−6.3kgf/mm
2の実施例12に近い値を持った。この結果から、隙間バメで嵌合した試料は、嵌合部の表面に銅の皮膜が形成され、この銅の皮膜で両者が接合された結果である。
【0061】
実施例14
本実施例は、セラミックスと金属とを接合する実施例である。本実施例では、セラミックスの中でも耐熱衝撃性に優れ、800℃近い高温まで強度を保ち、高靭性である窒化珪素Si
3N
4をセラミックスの試料として用いる。また、金属の試料としては、機械構造用の炭素鋼鋼材としては最もポピュラー炭素鋼S45Cを用いた。さらに、合金の中でも熱膨張率が小さい42アロイと呼ばれる42%ニッケル・鉄合金の皮膜で、窒化珪素と炭素鋼とを接合した。なお、接合面に金属ないしは合金の皮膜を形成する温度が、金属ないしはセラミックスの融点より著しく低いため、どのような金属ないしはセラミックスの組み合わせであっても接合できる。また、接合面に形成する皮膜は42%ニッケル・鉄合金に限定されず、被接合体の使用される温度環境を考慮して、皮膜の材質を決定すればよい。
接合する窒化珪素と炭素鋼との試料を5cm×5cm×5mm(厚み)の板とし、ブラスト処理で接合面をRz5μm以下に加工した。つまり、現実に接合するセラミックスと金属とからなる被接合体の多くは、被接合体の接合強度を増大する必要があるため、接合面の表面粗さを粗くした。42%ニッケル-鉄合金の原料として、オクチル酸ニッケルとオクチル酸鉄とを用いた(いずれの金属石鹸として市販されている薬品で、例えば、日本化学産業株式会社の製品である)。
図8に、窒化珪素と炭素鋼とを42%ニッケル-鉄合金の皮膜で接合する工程を示す。最初に、オクチル酸ニッケルの4.2モルとオクチル酸鉄の5.8モルとを混合し、混合物が10重量%になるようにn−ブタノールに分散する(S80工程)。この分散液に、スチレンモノマーが5重量%の割合になるように投入して、接合剤である分散液を製作した(S81工程)。次に、試料の表面に接合剤である分散液を、実施例1と同様の方法で塗布した(S82工程)。さらに、分散液が塗布された塗布面を重ね合わせ、30kgの重りを載せた(S83工程)。この後、重ね合わせた試料の10組を大気雰囲気の熱処理炉に入れる(S84工程)。最初に、120℃に昇温してn−ブタノールを気化し、気化したn−ブタノールを回収する(S85工程)。さらに、145℃に昇温してスチレンモノマーを気化し、気化したスチレンモノマーを回収する(S86工程)。さらに、290℃に1分間放置し、オクチル酸ニッケルとオクチル酸鉄とを同時に熱分解する(S87工程)。この際、熱処理した試料を第一の試料として取り出した。最後に、370℃に10分間放置した(S88工程)。この後、接合した試料を第二の試料として取り出した。
次に、熱処理した試料をインストロン社の引張試験機で、接合面の鉛直方向で、互いに反対方向の引張荷重を加えて引張強度を調べた。第一の試料は1.2−1.5kgf/mm
2の値を持ったのに対し、第二の試料は7.0−7.3kgf/mm
2の値を持った。
さらに、熱処理した試料を切断し、切断面の観察と分析とを、実施例1と同様に電子顕微鏡によって行なった。最初に、反射電子線の900−1000Vの間にある2次電子線を取り出して画像処理を行った。第一の試料は、40−60nmの大きさからなる粒状の微粒子同士が接合された状態であった。第二の試料は、5μm前後の厚みで皮膜状の物質が形成されていた。次に、反射電子線の900−1000Vの間にあるエネルギーを抽出して画像処理を行い、画像の濃淡によって材質の違いを調べた。複数の元素がほぼ同じ割合から形成されていることが分かった。さらに、特性エックス線のエネルギーとその強度を画像処理し、微粒子を構成する元素を分析した。ニッケル原子と鉄原子とが存在していることが確認できた。接合剤の原料を、オクチル酸ニッケル4.2モルに対して、オクチル酸鉄5.8モルを混合したため、42%Ni・Fe合金であると考えられる。
以上の分析結果から、290℃における熱処理では、42%Ni・Fe合金の粒状微粒子が接合された状態であり、合金微粒子の集まりによる接合強度は小さい。これに対し、370℃における熱処理では、42%Ni・Fe合金の微粒子が接合面の平面方向に成長して粗大化が進み、連続した皮膜を形成した。この結果、42%Ni・Fe合金の皮膜は接合面の表面の凹部内にも形成され、一定の接合強度を持ったと考えられる。
以上に、14の実施例によって、様々な材質の組み合わせからなる被接合体を、接合面に形成した金属ないし合金の皮膜によって接合する事例を説明した。いずれの実施例においても、金属錯体ないしはカルボン酸金属化合物が分散された接合剤を接合面に塗布し、接合面を重ね合わせ、この後、重ね合わされた被接合体に荷重をかけて熱処理すると、金属錯体ないしはカルボン酸金属化合物を構成する金属ないしは合金の皮膜によって、接合面同士が接合される。このため、接合面の清浄化、接合面の平坦化および活性化のいずれもが不要になる。また、接合面の溶融や軟化を伴う高温処理も不要になる。このため、安価な費用で被接合体が接合できる。また、被接合体が異質の材質の組み合わせであっても接合でき、さらに、接合剤の熱処理によって性質が不可逆変化しなければ、どのような組み合わせであっても被接合体の接合ができる。