【実施例1】
【0036】
この実施例では、所望する光学特性を得るために二枚の液晶素子を重ね合わせた光変調
ユニットについて、歪のない本来の位相変調特性曲線(これを以降、所望特性曲線と呼ぶ)と、二枚の液晶素子のそれぞれの面精度バラツキに起因して発生した位相差を相殺するように重ね合わせた時の位相差(これを以降、相殺位相差と呼ぶ)が所望特性曲線に重畳された位相変調特性曲線(これを以降、相殺特性曲線と呼ぶ)と、二枚の液晶素子のそれぞれの面精度バラツキに起因して発生した位相差が増長されるように重ね合わせた時の位相差(これを以降、増長位相差と呼ぶ)が所望特性曲線に重畳された位相変調特性曲線(これを以降、増長特性曲線と呼ぶ)との比較を示し、相殺特性曲線が所望特性曲線とほぼ同じ特性曲線となることを説明する。
【0037】
所望する光学特性を得るために二枚の液晶素子を重ねた実施形態として、第1の実施形態に屈折率勾配型レンズ特性を有する二枚の液晶素子を重ね合わせた光変調ユニットを、第2の実施形態にコマ収差補正特性を有する二枚の液晶素子を重ね合わせた光変調ユニットを、第3の実施形態に球面収差補正特性を有する二枚の液晶素子を重ね合わせた光変調ユニットを、第4の実施形態にコマ収差補正特性を有する液晶素子と球面収差補正特性を有する液晶素子とを重ね合わせた光変調ユニットを順に説明する。
【0038】
[実施例1の第1の実施形態の説明:
図1、
図2]
まず、
図1、
図2を用いて本発明の光変調ユニットの実施例1の第1の実施形態を説明する。
以下の液晶素子の図に示される各要素は、説明の便宜上、誇張して図示されており、実際の厚さの比と異なっている。
【0039】
図1は、面精度バラツキによって発生する位相差が最小になるように重ね合わせた屈折率勾配型レンズ特性の液晶素子を有する光変調ユニットの構成を説明する図である。
図1(a)は、面精度バラツキが波形形状の二枚の液晶素子を重ね合わせた形態の斜視図であり、
図1(b)は、
図1(a)に示すA−A断面の端面図であり、
図1(c)は、先述の
図12(b)のグラフと同様、重ね合わせた二枚の液晶素子を透過する直線偏光の位相差を表すグラフであり、横軸は透明電極パターンの中心を原点とした液晶断面の幅を示し、縦軸は直線偏光の位相差を示す。
【0040】
図2は、第1の実施形態の光変調ユニットの屈折率勾配型レンズ特性の所望特性曲線、例えば、上に凸の曲線と、所望特性曲線に面精度バラツキを有する二枚の液晶素子の重ね合わせで生ずる相殺位相差または増長位相差が重畳された光変調ユニットの位相変調曲線(相殺特性曲線または増長特性曲線)との関係を説明するグラフである。
図2(a)は、第1の実施形態の所望特性曲線と、相殺位相差と、増長位相差のグラフを示し、
図2(b)は、第1の実施形態の相殺特性曲線と所望特性曲線の比較を示し、
図2(c)は、第1の実施形態の増長特性曲線と所望特性曲線の比較を示す。
【0041】
第1の実施形態の特徴は、屈折率勾配型レンズ特性を有する光変調ユニットにあって、個々の液晶素子の面精度バラツキが波形形状であっても、面精度バラツキの影響による光路長差を相殺するように二枚の液晶素子を重ね合わせ、それによって位相差を最小にすることにより、歪の少ない屈折率勾配型レンズ特性のレンズパワーを向上した光変調ユニットを提供するものである。そして、ここで説明する光変調ユニットの二枚の液晶素子は、量産された数多くの液晶素子の中から、ほぼ同じ面精度バラツキの形状で、ほぼ同じ位相差を有する液晶素子をピックアップしたものである。
【0042】
図1(a),(b)に示すように、液晶素子1aは、二枚の透明基板10a、11aと、シール部材12aと封口部材13aで形成されたギャップ空間に、液晶分子が封入されて矢印で示す配向方向Mに沿って配向された液晶層16aを形成している。透明基板10aの液晶層16a側の光束の透過面には、ITOからなる透明電極パターン14aが形成
され、屈折率勾配型レンズの特性を有する同心円状のパターンで形成されて図示しない配線電極によって引出し電極15Ra、15Laと電気的に接続されている。
【0043】
もう一方の透明基板11aの液晶層16a側の光束の透過面には、透明基板10aと同様の図示しない透明電極パターン、或いは、液晶層全体を覆う電極が形成されており、引出電極15Ra、15Laと電気的に接続されている。
【0044】
なお、液晶素子1aの引出し電極の符号は、封口部材13aを上方に見て、右側が引出し電極15Ra、左側が引出し電極15Laと付している。これらの透明電極パターン14aに引出し電極15Ra、15Laのどちらかを経由して電圧を印加することによりレンズの特性を有する屈折率勾配型のレンズが形成される。
【0045】
この液晶素子1aの面精度バラツキは、例えば、透明基板11aの波形形状の歪みと、シール部材12aの厚みが均一ではなく、液晶層16aの引出し電極15La側が厚く、引出し電極15Ra側が薄く形成されていることによる歪みとを重畳したものである。すなわち、
図13(a)に記載したような右下がりの直線勾配の位相差に、波形形状の位相差を重畳した
図13(c)のような位相差を有する。
【0046】
液晶素子1bも、液晶素子1aと全く同様の構成で、ほぼ同じ面精度バラツキによって発生するほぼ同じ位相差を有し、同一の部材の構成ではあるが、区別するため各部材の符号の末尾を「a」から「b」に変えて記す。そして、透明基板11bも、液晶素子1aの透明基板11aとほとんど同じ波形形状であり、液晶層16bも、液晶層16aと同様に、引出し電極15Lb側が厚く、引出し電極15Rb側が薄いため、
図13(c)と同様の位相差を有している。
【0047】
従って、
図1(b)に示すように、二枚の液晶素子1a、1bの面精度バラツキによる位相差を相殺する重ね合わせは、光束の透過軸の中心、すなわち、透明電極パターン14a、14bの同心円の中心軸と、配向方向Mを同じ方向に揃え、液晶層16aの厚い部分と液晶層16bの薄い部分、そして、液晶層16aの薄い部分と液晶層16bの厚い部分を重ねるために、引出し電極15La側と引出し電極15Rb側を合わせ、引出し電極15Ra側と引出し電極15Lb側を合わせることである。
【0048】
図1(c)のグラフに示すように、上述した液晶素子1aと液晶素子1bとを、面精度のバラツキによって発生する位相差を相殺するように重ね合わせることで、面精度バラツキを有する液晶層16a、16bの位相差が互いに打ち消され、補完されているから、直線偏光が透過しても、位相差が最小となる相殺位相差20を得ることが可能となる。
【0049】
上述したように、面精度バラツキが同じ傾向にある液晶素子の重ね合わせは、液晶素子1aに対して液晶素子1bを透明電極パターン14a、14bの同心円の中心を軸に透過面に沿って180°回転することで位相差を最小に抑えられることになる。そして、引出し電極を液晶素子の配向方向に沿って両側に用意しておくことによって、同じ側に配置された引出し電極15Ra、15Lb、或いは、引出し電極15La、15Rbのどちらか都合の良い方にFPCを熱圧着して制御回路との接続を容易にすることが可能となる。そして、制御回路からFPCを経由して電圧が印加されることで液晶の実効屈折率を変化させて焦点距離を可変する屈折率勾配型レンズの光変調ユニットを提供することが可能となる。
【0050】
図2(a)は、光変調ユニットの理想的な所望特性曲線と、面精度バラツキを有する二枚の液晶素子の位相差を相殺した相殺位相差と、面精度バラツキを有する二枚の液晶素子の位相差が大凡倍に増長された増長位相差のグラフを示す図であり、所望特性曲線30を
一点鎖線で、相殺位相差20を点線で、増長位相差204(
図14(c)参照)を破線で示す。
【0051】
図2(a)に示す通り、所望特性曲線30は光変調ユニットに歪のない理想的な屈折率勾配型レンズの光学効果が得られる特性曲線を示している。また、相殺位相差20は二枚の液晶素子1a,1bのそれぞれの面精度バラツキに起因する位相差を相殺するように重ねあわせた位相差を示しており、ほぼ無いに等しい。増長位相差205は
図14(c)で説明したとおり、二枚の液晶素子のそれぞれの面精度バラツキに起因する位相差が大凡倍になるように重なった位相差を示しており、大きな歪を生じている。
【0052】
図2(b)は、
図2(a)で示した所望特性曲線30と所望特性曲線30に相殺位相差20を重畳した相殺特性曲線、言い換えると、光変調ユニットの所望する屈折率勾配型レンズ特性である特性曲線30が面精度バラツキを相殺した位相差歪の影響を受けた相殺特性曲線のグラフを示す図であり、所望特性曲線30を一点鎖線で、相殺特性曲線31を実線で示す。
【0053】
図2(c)は、
図2(a)で示した所望特性曲線30と所望特性曲線30に増長位相差204を重畳した増長特性曲線、言い換えると、光変調ユニットの所望する屈折率勾配型レンズ特性の特性曲線30が面精度バラツキによって大凡倍に増長された位相差歪の影響を受けた増長特性曲線のグラフを示す図であり、所望特性曲線30を一点鎖線で、増長特性曲線32を実線で示す。
【0054】
図2(b)に示す通り、所望特性曲線30に対して、相殺特性曲線31は差がほとんどなく、面精度バラツキによる位相差の影響を受ける度合いがかなり少ないことが明確であり、光変調ユニット本来の光学特性とほぼ同一の特性を得ることができる。
【0055】
一方、
図2(c)に示す通り、所望特性曲線30に対し、増長特性曲線32は大きく歪みが生じており、所望する光変調ユニットの光学特性は期待できないことは明らかである。
【0056】
以上に説明した通り、個々の液晶素子の面精度のバラツキが波形形状であっても、波形形状の光路長差を相殺するように二枚の液晶素子を重ね合わせることによって、その光変調ユニット自体の位相差を最小にすることにより、二枚の液晶素子を重ね合わせて特性を向上しても歪のない屈折率勾配型レンズ特性を有する光変調ユニットを提供することが可能となる。
【0057】
前述の光変調ユニットでは、二枚の液晶素子の電極パターンがそれぞれ屈折率勾配型レンズ特性を持つ液晶素子として説明をしたが、所望する光変調ユニットの光学特性はこれに限定されず、種々の設計に応じた特性の液晶素子にも適応できる。以下に他の実施形態を説明する。
なお、第1の実施形態とは透明電極パターンと透明電極パターンによって得られる所望特性曲線が異なるのみであり、その他の同等の構成部材については説明を省略する。
【0058】
[実施例1の第2の実施形態の説明:
図3、
図4]
次に、
図3、
図4を用いて実施例1の第2の実施形態を説明する。
図3は、
図1と同様に、二枚の液晶素子を重ね合わせた光変調ユニットであるが、それぞれの液晶素子がコマ収差を補正する電極パターンが形成されている点が、第1の実施形態と異なる。従って、
図4は、第1の実施形態の
図2と異なり、光変調ユニットのコマ収差補正特性曲線と、面精度バラツキを有する二枚の液晶素子の重ね合わせで生ずる位相差による光変調ユニットの位相変調量の関係を説明するグラフとなる。
【0059】
第2の実施形態の特徴は、コマ収差の補正特性を有する光変調ユニットにあって、個々の液晶素子の面精度のバラツキが波形形状であっても、第1の実施形態と同様に、波形形状の光路長差を相殺するように二枚の液晶素子を重ね合わせて、光路長差によって発生する位相差を最小にすることにより、二枚の液晶素子でコマ収差補正特性の補正量を増加した光変調ユニットを提供するものである。
【0060】
図3(a)は、コマ収差補正パターンが形成された液晶素子を有する光変調ユニットであって、面精度バラツキが波形形状の二枚の液晶素子を重ね合わせた形態の斜視図であり、
図3(b)は、
図3(a)に示すB−B断面の端面図であり、
図3(c)のグラフは、
図1(c)のグラフと同様、重ね合わせた二枚の液晶素子を透過する直線偏光の位相差を表す。
【0061】
図4(a)は、第2の実施形態の光変調ユニットのコマ収差補正特性の所望特性曲線と、相殺位相差の曲線と、増長位相差の曲線のグラフを示し、
図4(b)は、第2の実施形態の所望特性曲線と相殺位相差が重畳された相殺特性曲線との比較を示し、
図4(c)は、第2の実施形態の所望特性曲線と増長位相差が重畳された増長特性曲線との比較を示す。
【0062】
図3(a),(b)に示すように、液晶素子1c、1dは、第1の実施形態と同様の構成であって、区別するため構成部材の符号の末尾を「c」、「d」と変えて記す。そして、第1の実施形態と異なるのは、透明電極パターン14c、14dがコマ収差補正特性を有するパターンで形成されていることだけである。
【0063】
それぞれの液晶素子1c、1dは、シール部材12c,12dによる液晶層16c、16dの厚みバラツキと、透明基板11c、11dの変形とが重畳された面精度バラツキによって発生する位相差をそれぞれが有している。
【0064】
従って、二枚の液晶素子1c、1dの面精度バラツキによって発生する位相差を相殺する重ね合わせは、第1の実施形態と全く同様に、透明電極14c、14dの同心円の中心軸を合わせ、配向方向Mを同じ方向に揃え、そして、液晶層16cの厚い部分と液晶層16dの薄い部分、液晶層16cの薄い部分と液晶層16dの厚い部分を重ねること、すなわち、引出し電極15Lc側と引出し電極15Rd側を合わせ、引出し電極15Rc側と引出し電極15Ld側を合わせることである。
【0065】
図3(c)のグラフに示すように、液晶素子1cと液晶素子1dを面精度バラツキによって発生する位相差を相殺する重ね合わせにより、面精度バラツキを有する液晶層16c、16dの位相差が互いに打ち消され、補完されているから、直線偏光が透過しても、位相差が最小となる相殺位相差21を得ることが可能となる。
【0066】
従って、第1の実施形態と同様に、面精度バラツキが同じ傾向にある液晶素子の重ね合わせは、液晶素子1cに対して液晶素子1dを透明電極14c、14dのパターンの同心円の中心を軸に透過面に沿って180°回転することで位相差が最小に抑えられることになる。
【0067】
図4(a)は、光変調ユニットの理想的なコマ収差補正特性の所望特性曲線と、面精度バラツキを有する二枚の液晶素子の位相差を相殺した相殺位相差と、面精度バラツキを有する二枚の液晶素子の位相差が大凡倍に増長された増長位相差のグラフを示す図であり、所望特性曲線40を一点鎖線で、相殺位相差21を点線で、増長位相差204(
図14(c)参照)を破線で示す。
【0068】
図4(b)は、
図4(a)で示した所望特性曲線40と、所望特性曲線40に相殺位相差21が重畳した相殺特性曲線との比較を示すグラフであり、所望特性曲線40を一点鎖線で、相殺特性曲線41を実線で示す。
【0069】
図4(c)は、
図4(a)で示した所望特性曲線40と、所望特性曲線40に増長位相差204が重畳された増長特性曲線との比較を示すグラフであり、所望特性曲線40を一点鎖線で、増長特性曲線42を実線で示す。
【0070】
図4(b)のグラフに示す通り、相殺特性曲線41は所望特性曲線40と差がなく、面精度バラツキによる位相差の影響を受ける度合いがかなり少ないことが明確であり、光変調ユニットの本来の光学特性とほぼ同一の特性を得ることができる。
【0071】
一方、
図4(c)のグラフに示す通り、増長特性曲線42は所望特性曲線40に対して、大きな歪みを生じており、光変調ユニットの本来の光学特性は期待できない。
【0072】
従って、個々の液晶素子の面精度のバラツキが波形形状であっても、波形形状の光路長差を相殺するように二枚の液晶素子を重ね合わせて、光路長差によって発生する位相差を最小にすることにより、二枚の液晶素子を重ね合わせて補正量の増加をしても歪のないコマ収差補正特性を有する光変調ユニットを提供することが可能となる。
【0073】
[実施例1の第3の実施形態の説明:
図5、
図6]
次に、
図5、
図6を用いて実施例1の第3の実施形態を説明する。
図5は、
図1と同様に、二枚の液晶素子を重ね合わせた光変調ユニットであるが、それぞれの液晶素子が球面収差を補正する電極パターンが形成されている点が、第1の実施形態と異なる。従って、
図6は、第1の実施形態の
図2と異なり、光変調ユニットの球面収差補正特性曲線の曲線と、面精度バラツキを有する二枚の液晶素子の重ね合わせで生ずる位相差による光変調ユニットの位相変調量の関係を説明するグラフである。
【0074】
第3の実施形態の特徴は、球面収差補正特性を有する光変調ユニットにあって、個々の液晶素子の面精度のバラツキが波形形状であっても、第1の実施形態と同様に、光路長差を相殺するように二枚の液晶素子を重ね合わせて、それにより発生する位相差を最小にすることにより、球面収差補正特性の補正量の増加をした光変調ユニットを提供するものである。
【0075】
図5(a)は、球面収差補正パターンが形成された液晶素子を有する光変調ユニットであって、面精度バラツキが波形形状の二枚の液晶素子を重ね合わせた形態の斜視図であり、
図5(b)は、
図5(a)に示すC−C断面の端面図であり、
図5(c)のグラフは、
図1(c)のグラフと同様、重ね合わせた二枚の液晶素子を透過する直線偏光の位相差を表す。
【0076】
図6(a)は、第3実施形態の光変調ユニットの所望特性曲線と、相殺位相差と、増長位相差のグラフを示し、
図6(b)は、第3の実施形態の所望特性曲線と、所望特性曲線に相殺位相差が重畳された相殺特性曲線との比較を示し、
図6(c)は、第3の実施形態の所望特性曲線と、所望特性曲線に増長位相差が重畳された増長特性曲線との比較を示す。
【0077】
図5(a)(b)に示すように、液晶素子1e、1fは、第1の実施形態と異なるのは、球面収差補正特性を有する透明電極パターン14e、14fが形成されていることであって、その他の構成は全く同様である。従って、各構成部材に付した符号の末尾を「e」
「f」として重複する説明は省略する。
【0078】
そして、二枚の液晶素子1e、1fの面精度のバラツキの位相差を相殺する重ね合わせは、液晶層16eの厚い部分と液晶層16fの薄い部分、そして、液晶層16eの薄い部分と液晶層16fの厚い部分を重ねることであり、第1、2の実施形態と全く同様であり、重複するので説明を省略する。
【0079】
図5(c)のグラフに示すように、液晶素子1eと液晶素子1fを面精度バラツキによって発生する位相差を相殺する重ね合わせにより、面精度バラツキを有する液晶層16e、16fの位相差が互いに打ち消され、補完されているから、直線偏光が透過しても、位相差が最小となる相殺位相差22を得ることが可能となる。
【0080】
従って、第1の実施形態と同様に、面精度バラツキが同じ傾向にある液晶素子の重ね合わせは、液晶素子1eに対して液晶素子1fを透明電極14e、14fのパターンの同心円の中心を軸として180°回転することで位相差が最小に抑えられることになる。
【0081】
図6(a)は、光変調ユニットの理想的な球面収差補正特性の所望特性曲線と、面精度バラツキを有する二枚の液晶素子の位相差を相殺した相殺位相差と、面精度バラツキを有する二枚の液晶素子の位相差が大凡倍に増長された増長位相差のグラフを示す図であり、所望特性曲線50を一点鎖線で、相殺位相差22を点線で、増長位相差204(
図14(c)参照)を破線で示す。
【0082】
図6(b)は、
図6(a)で示した所望特性曲線50と、所望特性曲線50に相殺位相差22が重畳された相殺特性曲線との比較を示すグラフであり、所望特性曲線50を一点鎖線で、相殺特性曲線51を実線で示す。
【0083】
図6(c)は、
図6(a)で示した所望特性曲線50と、所望特性曲線50に増長位相差204が重畳された増長特性曲線との比較を示すグラフであり、所望特性曲線50を一点鎖線で、増長特性曲線52を実線で示す。
【0084】
図6(b)に示す通り、相殺特性曲線51は所望特性曲線50との差がなく、面精度バラツキによる位相差の影響を受ける度合いがかなり少ないことが明確であり、光変調ユニットの本来の光学特性とほぼ同一の特性を得ることができる。
【0085】
一方、
図6(c)のグラフに示す通り、増長特性曲線52は所望特性曲線50に対して、大きな歪みを生じており、光変調ユニットの本来の光学特性は期待できない。
【0086】
従って、個々の液晶素子の面精度のバラツキが波形形状であっても、波形形状の光路長差を相殺するように二枚の液晶素子を重ね合わせて、光路長差による位相差を最小にすることにより、二枚の液晶素子を重ね合わせて補正量の増加をしても歪のない球面収差補正特性を有する光変調ユニットを提供することが可能となる。
【0087】
[実施例1の第4の実施形態の説明:
図7、
図8]
次に、
図7、
図8を用いて実施例1の第4の実施形態を説明する。
図7は、
図1と同様に、二枚の液晶素子を重ね合わせた光変調ユニットであるが、一方がコマ収差、他方が球面収差と収差補正の異なる電極パターンが形成された液晶素子を重ね合わせる点が、第1の実施形態と異なる。従って、
図8は、第1の実施形態と異なり、第4実施形態の光変調ユニットのコマ収差と球面収差補正特性曲線の波形形状の曲線と、面精度バラツキを有する二枚の液晶素子の重ね合わせで生ずる位相差による光変調ユニットの位相変調量の関係を説明するグラフである。
【0088】
第4の実施形態の特徴は、2つの収差補正特性、すなわち、コマ収差と球面収差補正特性を有する光変調ユニットにあって、それぞれの液晶素子の面精度バラツキが波形形状であっても、第1の実施形態と同様に、光路長差を相殺するように二枚の液晶素子を重ね合わせて、光路長差による位相差を最小にすることにより、歪のないコマ収差と球面収差の両方の補正特性を有する光変調ユニットを提供するものである。
【0089】
図7(a)は、一方がコマ収差、他方が球面収差の補正パターンが形成された二枚の液晶素子を有する光変調ユニットであって、面精度バラツキが波形形状の二枚の液晶素子を重ね合わせた形態の斜視図であり、
図7(b)は、
図7(a)に示すD−D断面の端面図であり、
図7(c)のグラフは、
図1(c)のグラフと同様、重ね合わせた二枚の液晶素子を透過する直線偏光の位相差を表す。
【0090】
図8(a)は、第4実施形態の光変調ユニットの歪のない本来のコマ収差と球面収差補正特性曲線と、二枚の面精度バラツキを有する液晶素子の重ね合わせで、相殺した相殺位相差と、増長位相差のグラフを示し、
図8(b)は、コマ収差と球面収差の液晶素子を重ねあわせた所望特性曲線と、所望特性曲線に相殺位相差が重畳された相殺特性曲線との比較を示し、
図8(c)は、所望特性曲線と、所望特性曲線に増長位相差が重畳された増長特性曲線との比較を示す。
【0091】
図7(a)(b)に示すように、液晶素子1h、1iは、第1の実施形態と異なるのは、液晶素子1hがコマ収差補正特性を有する透明電極パターン14h、液晶素子1iが球面収差補正特性を有する透明電極パターン14iが形成されていることであって、その他の構成は全く同様である。従って、各構成部材に付した符号の末尾を「h」「i」として重複する説明は省略する。
【0092】
二枚の液晶素子1h、1iの面精度バラツキによって発生する位相差を相殺する重ね合わせは、第1から第3の実施形態と全く同様であり、重複するので説明を省略する。
【0093】
図7(c)のグラフに示すように、液晶素子1hと液晶素子1iの面精度バラツキによって発生する位相差を相殺する重ね合わせにより、面精度バラツキを有する液晶層16h、16iの位相差が互いに打ち消され、補完され、直線偏光が透過しても、位相差が最小になる相殺位相差23を得ることが可能となる。
【0094】
従って、第1の実施形態と同様に、面精度バラツキが同じ傾向にある液晶素子の重ね合わせは、液晶素子1hに対して液晶素子1iを透明電極14h、14iのパターンの同心円の中心を軸として180°回転することで位相差が最小に抑えられることになる。
【0095】
図8(a)は、光変調ユニットの理想的なコマ収差と球面収差とを重畳した補正特性である所望特性曲線と、面精度バラツキを有する二枚の液晶素子の位相差を相殺した相相殺位相差と、面精度バラツキを有する二枚の液晶素子の位相差が大凡倍に増長された増長位相差のグラフを示す図であり、所望特性曲線60を一点鎖線で、相殺位相差23を点線で、増長位相差204(
図14(c)参照)を破線で示す。
【0096】
図8(b)は、
図8(a)で示した所望特性曲線60と、所望特性曲線60に相殺位相差23が重畳された相殺特性曲線との比較を示すグラフであり、所望特性曲線60を一点鎖線で、相殺特性曲線61を実線で示す。
【0097】
図8(c)は、
図8(a)で示した所望特性曲線60と、所望特性曲線60に増長位相差204が重畳された増長特性曲線との比較を示すグラフであり、所望特性曲線60を一
点鎖線で、増長特性曲線62を実線で示す。
【0098】
図8(b)に示す通り、相殺特性曲線61は所望特性曲線60との差がなく、面精度バラツキによる位相差の影響を受ける度合いがかなり少ないことが明確であり、変調ユニットの本来の光学特性とほぼ同一の特性を得ることができる。
【0099】
一方、
図8(c)のグラフに示す通り、増長特性曲線62は所望特性曲線60に対して、大きな歪みを生じており、光変調ユニットの本来の光学特性は期待できない。
【0100】
従って、個々の液晶素子の面精度のバラツキがあっても、光路長差を相殺するように二枚の液晶素子を重ね合わせて、その光路長差によって発生する位相差を最小にすることにより、2種類の収差補正特性を有する、すなわち、コマ収差と球面収差補正特性を有する光変調ユニットを提供することが可能である。
【0101】
また、本実施形態においては、各種位相変調特性を有する液晶素子がコマ収差と球面収差補正特性を有する液晶素子の構成で説明を行ったが、これに限定されず、例えば収差補正特性を有する液晶素子とレンズ特性を有する液晶素子とを重ね合わせた場合や、収差補正を行う直線偏光方向が互いに直交するように二枚の液晶素子を重ね合わせた場合など、任意に選択が可能である。
【0102】
以上説明したとおり、実施例1の第1から第4の実施形態においては、位相差を最小に抑えながら各種位相変調特性を有する光変調ユニットの液晶素子が二枚である構成で説明したが、これに限定されることなく、三枚またはそれ以上の枚数の組み合わせでも可能である。
【実施例3】
【0113】
[実施例3の製造工程の説明:
図10]
次に、
図10を用いて光変調ユニットの製造工程、特に複数の液晶素子からなる光変調ユニットのそれぞれの液晶素子を面精度バラツキに起因する位相差が相殺できるようにピックアップし、重ねあわせた後に実装するまでの工程を説明する。
【0114】
本実施例においては、実施例1または実施例2に記載した二枚の液晶素子を重ね合わせた光変調ユニットの製造方法で説明する。また、各液晶素子の組立工程は従来から知られている液晶素子の製造方法を用いて作成が可能であるため説明を省略し、複数の液晶素子を作成した後の工程から説明をする。
【0115】
図10に示す通り、光変調ユニットの製造工程は面精度測定工程(ステップS01)、
面精度分類工程(ステップS02)、液晶素子選択工程(ステップS03)、FPC圧着工程(ステップS04)、電極端子削除工程(ステップS05)、重ねあわせ工程(ステップS06)、位置決め固定工程(ステップS07)の順に行われる。
【0116】
まず、ステップS01の面精度測定工程において、光変調ユニットに組み込むための、単個の状態にある液晶素子を準備し、一個ずつ、例えば光学式の非接触表面形状測定機で、液晶素子の光束の透過面の面精度バラツキを測定する。特に、液晶素子を構成する液晶分子やシール材、透明基板などの線膨張係数の違いにより、温度が変化すると膨張または収縮による歪みの影響を受けて面精度バラツキの状態が変化する。このため、光変調ユニットを実際の使用温度に調節した状態で面精度バラツキを測定するのが好ましい。
【0117】
次に、ステップS02の面精度分類工程において、測定した液晶素子を、例えば
図13(a)、(b)、(c)で示した形状と、それと対をなす類似形態の形状と、その変形量を数段階に分けて分類し、クラス分けを行う。従って、分別された液晶素子は、類似形状、類似変形量の複数の集団である類似クラスにクラス分けされる。
【0118】
次に、ステップS03の液晶素子選択工程において、前述の面精度分類工程(ステップS02)でクラス分けされた液晶素子を類似クラスから二枚を対でピックアップする。実施例1で説明したように、面精度のバラツキが同じ変形形状であれば、透明電極パターンの中心、すなわち、光束の透過軸を中心として、透過面に沿って180°回転することで、配向方向を変えずに、面精度のバラツキによる位相差を相殺して歪みを最小にすることが可能な二枚の液晶素子の組合せとなる。
【0119】
次に、ステップS04のFPC圧着工程において、光変調ユニットを組み込む装置の都合によって、例えば、
図1(a)において、FPCを引出し電極15La、15Rb側が良いならば、引出し電極15Laと引出し電極15RbにFPCをACF(異方性導電膜)で熱圧着する。このように複数の電極の組合せから任意の電極を選択することができるため、共通のFPCを使用することができ、便利である。
【0120】
次に、ステップS05の電極端子削除工程において、前工程でFPCを圧着しなかった側の引出し電極、例えば、
図1(a)の例では、透明基板10a、10bの引出し電極15Ra、15Lb部をシール部材12a、12bに沿って割り削除する。これにより、使用しない側の電極を含む領域の分だけ体積を少なくすることができるため、小型化が可能である。ただし、光変調ユニットに液晶素子の組み込み寸法に余裕があれば、FPCを取り付けなかった引出し電極を無理に削除する必要はなく、この工程を省くことがあっても良い。
【0121】
次に、ステップS06の重ね合わせ工程において、FPCが熱圧着された液晶素子1a、1bを液晶素子の透明電極パターンの中心と、引出し電極15La、15Rbの位置と方向を合わせて光変調ユニットに組み込む。或いは、FPCの引き回しによっては、
図9のように一方の液晶素子を裏返して重ねることも可能である。その結果、実施例1または実施例2で示したようにそれぞれの液晶素子が有する面精度バラツキに起因する光路長差によって発生する位相差を最小にすることができる。
【0122】
次に、ステップS07の位置決め固定工程において、光変調ユニットに組み込まれた液晶素子を接着剤で充填し、固定する。その結果、面精度バラツキによって発生する位相差を最小にして、位相変調特性を強化向上した光変調ユニットを提供することが可能となる。
【0123】
以上のような製造工程によって、光変調ユニットに組み込まれる二枚の液晶素子は、そ
れぞれの面精度のバラツキを相殺する位置関係に組み込まれるから、それぞれが有する位相差を相殺することで最小にすることが可能となり、歪みのないレンズ特性、波面収差補正特性であって、更に、それらの特性を強化向上した光変調ユニットが提供可能となる。
【0124】
また、液晶素子は、位相差を相殺するために、二枚の液晶素子で説明してきたが、同様の考え方で、より枚数の多い複数枚の液晶素子を用いて位相差を相殺した光変調ユニットを提供することも可能である。
【0125】
また、液晶素子の重ね合わせにおいては、重ね合わせ方は配向方向と液晶素子の回転対称性によって拘束され、前述の実施例のように配向方向が一つの方向であれば、回転方向の選択肢は0°または180°の二回対称となる。このため、各液晶素子の引出し電極も180°回転させた時に同じ位置となるように配置すると、FPCの圧着が同じ場所で行えるため便利である。
さらに、各液晶素子に複数の配向領域があり、配向方向が90°回転対称性であれば、0°、90°、180°、270°の四回対称となるため、各液晶素子の引出し電極も90°回転させた時に同じ位置となるよう配置すると、FPCの圧着が同じ場所で行えるため便利である。例えば、液晶素子の基板平面が概略正方形であれば、引出し電極の形成位置を二回対称の場合には対向する辺に、四回対称の場合には各辺に設けるのが好ましい。これらは、透明電極パターンと引出し電極を電気的に接続する配線電極を両面配線や多層配線とすることによって作成することが可能である。
【0126】
なお、(360/n)°回転対称性(nは自然数)であればn回対称となるため、引出し電極を(360/n)°で重なるようにn個配置すると、FPCの圧着が同じ場所で行えるため便利である。
【0127】
さらに、引出し電極を透明基板の反対の面に同じ数配置(つまり2n個)すれば、裏返して重ね合わせた場合にもFPCの圧着が同じ場所で行えるため非常に便利である。これは、上述の配線電極の少なくとも一部を両面配線とすることによって作成することが可能である。
【0128】
なお、各実施例では、光変調素子として、液晶素子を例に説明したが、面精度のバラツキにより、光路長差が発生する光変調素子であれば、液晶素子に限定されず、いかなる光変調素子においても、本発明は、効果を発揮する。また、本発明は、上述した光変調ユニットの実施例に限定されることなく、それらの全てを行う必要もなく、特許請求の範囲の各請求項に記載した内容の範囲で種々に変更や省略をすることが出来ることは言うまでもない。