特許第6332986号(P6332986)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6332986ナノカーボン繊維被覆ダイヤモンド粒子の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6332986
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】ナノカーボン繊維被覆ダイヤモンド粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/28 20170101AFI20180521BHJP
   B24D 3/00 20060101ALI20180521BHJP
   B24D 11/00 20060101ALI20180521BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20180521BHJP
   C01B 32/168 20170101ALI20180521BHJP
【FI】
   C01B32/28
   B24D3/00 330D
   B24D11/00 G
   B24D3/00 320B
   H01L21/304 611W
   C01B32/168
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-19145(P2014-19145)
(22)【出願日】2014年2月4日
(65)【公開番号】特開2015-145324(P2015-145324A)
(43)【公開日】2015年8月13日
【審査請求日】2016年12月13日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 発行者名 フラーレン・ナノチューブ・グラフェン学会 刊行物名 第45回フラーレン・ナノチューブ・グラフェン 総合シンポジウム講演要旨集 発行年月日 平成25年8月5日 集会名 第45回フラーレン・ナノチューブ・グラフェン 総合シンポジウム 開催日 平成25年8月7日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24年度、経済産業省、戦略的基盤技術高度化支援事業「CNT複合めっきによる次世代ソーワイヤの実用化」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】391015638
【氏名又は名称】アイテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111855
【弁理士】
【氏名又は名称】川崎 好昭
(72)【発明者】
【氏名】小泉 将治
(72)【発明者】
【氏名】坪川 紀夫
【審査官】 小野 久子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−064217(JP,A)
【文献】 特開2011−137213(JP,A)
【文献】 木村和 他,カーボンナノチューブで修飾されたダイヤモンド微粒子の合成,高分子学会予稿集,2013年 8月28日,62巻2号,第2334頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00−32/991
B24D 3/00
B24D 11/00
C01B 32/168
H01L 21/304
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラファイト化したダイヤモンド粒子表面の芳香族環とフェロセン含有ポリマーとの配位子交換反応をさせてフェロセン含有ポリマーをダイヤモンド粒子表面にグラフト化し、ダイヤモンド粒子表面にグラフト化されたフェロセン含有ポリマーとナノカーボン繊維との配位子交換反応をさせてフェロセン含有ポリマーを介してダイヤモンド粒子表面をナノカーボン繊維により被覆するナノカーボン繊維被覆ダイヤモンド粒子の製造方法。
【請求項2】
ナノカーボン繊維とフェセロン含有ポリマーとの配位子交換反応をさせてフェセロン含有ポリマーをナノカーボン繊維にグラフト化し、ナノカーボン繊維にグラフト化されたフェロセン含有ポリマーとグラファイト化したダイヤモンド粒子表面の芳香族環との配位子交換反応をさせてフェロセン含有ポリマーを介してダイヤモンド粒子表面をナノカーボン繊維により被覆するナノカーボン繊維被覆ダイヤモンド粒子の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の製造方法により製造されたナノカーボン繊維被覆ダイヤモンド粒子を0.5g〜10g/リットルの添加量で分散させた金属めっき液を調製し、調製された金属めっき液を用いて金属製素線の表面をめっき処理して前記ナノカーボン繊維被覆ダイヤモンド粒子を表面に分散しためっき被膜を形成するソーワイヤの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイヤモンド粒子の表面にカーボンナノチューブ等のナノカーボン繊維を付着させて被覆する製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、中空体のカーボンナノチューブ又は中空体ではないナノカーボン繊維(本発明では、これらをまとめてナノカーボン繊維と称する)は、その特異な性質、すなわち繊維直径がナノサイズの微細な繊維であること、アスペクト比(繊維長/繊維直径)が大きいこと及び優れた機械強度を有すること等に着目され、様々な分野で用いられている。例えば、特許文献1では、電解めっきによる皮膜の中に、直径10〜100nm、アスペクト比(=長さ/直径)5〜200であるナノカーボン繊維を均一に含有する複合金属めっき被膜を表面に形成したナノカーボン繊維含有電着工具が記載されている。
【0003】
シリコン結晶、サファイア、ガリウム砒素、水晶、ガラス、磁性材料等の脆性材料のスライシング加工には、走行するワイヤ(ソーワイヤ)に被切削材料を押し付けながら切削するワイヤソーが使用されている。ワイヤソーの方式としては、遊離砥粒式ワイヤソーが挙げられ、ソーワイヤを往復又は一方向に走行させ、遊離砥粒を含むスラリー液を連続供給しながら被加工物を切削加工する。
【0004】
次世代の方式として、ダイヤモンド砥粒をソーワイヤ表面に金属めっき或いは樹脂バインダで固着させた固定砥粒式ワイヤソーが提案され、実用化されつつある。固定砥粒式ワイヤソーに用いられる電着ダイヤモンドソーワイヤは、スラリー液を用いる必要がないため、遊離砥粒式に比べてシリコンウェハの切削加工効率は優れている。また、遊離砥粒の飛散・廃液処理が生じないため、作業環境に優れるとともに製造コストを低減させることができるといった利点がある。しかしながら、ダイヤモンド砥粒をワイヤ表面に固着する製造コストが高く、また、表面のダイヤモンド砥粒が切削加工中に脱落することにより生じるワイヤ自体の断線や、切削能率の低下が課題となっている。従来市販されている電着ダイヤモンドワイヤは、ピアノ線へのコーティングのベースとなるニッケルめっきとの親和性を上げるために、ダイヤモンド砥粒の表面に炭化チタンや炭化珪素といった導電性炭素化合物やニッケル金属をコーティングしたものが用いられており、これによりニッケルめっき被膜との密着性を確保している(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−253318号公報
【特許文献2】特開2011−137213号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したコーティングダイヤモンド砥粒は、ソーワイヤの製造工程においてワイヤ表面にニッケルめっきにより固着しているため、ダイヤモンド砥粒表面にニッケルめっきが析出することによる初期切削性能の低下、ダイヤモンド砥粒とニッケルめっきとの密着性が十分でないことによる切削加工中のダイヤモンド砥粒の脱落、及び、こうしたトラブルによる切削加工能率の低下及びソーワイヤの断線の発生等の課題があった。そのため、ダイヤモンド砥粒を表面に固着したソーワイヤの初期切削性を向上させるとともに切削加工能率を持続させるような材料設計が盛んに行われている。
【0007】
一方、ダイヤモンド砥粒に用いられるダイヤモンド粒子の表面処理についても研究開発が進められている。ダイヤモンド粒子の表面処理を行うためのグラフト反応は、粒子表面の官能基を足場にして行われるため化学的に安定であり、表面に存在する官能基の数が少ないダイヤモンド粒子表面のグラフト化は困難であった。そのため、ダイヤモンド粒子を酸処理し、カルボキシル基等を導入することで、これらを足場にアミノシランによるカップリング反応を用いた、ダイヤモンド粒子の表面処理方法が報告されている(坪田敏樹 外7名、「シランカップリング剤を利用したダイヤモンド粉末の表面改質」、表面技術、Vol.53、No.6、p.413-418、2002年)が、アミノシランは溶液中では加水分解を生じるため、こうした表面処理はソーワイヤに用いるダイヤモンド粒子には向いていない。
【0008】
本発明は、上述した課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、ナノカーボン繊維で表面を被覆したダイヤモンド粒子を製造し、得られたダイヤモンド粒子を砥粒として用いてめっき被膜との間の密着性を改善して、優れたダイヤモンド砥粒の保持力と安定した切削能率を有するソーワイヤを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るナノカーボン繊維被覆ダイヤモンド粒子の製造方法は、グラファイト化したダイヤモンド粒子表面の芳香族環とフェロセン含有ポリマーとの配位子交換反応をさせてフェロセン含有ポリマーをダイヤモンド粒子表面にグラフト化し、ダイヤモンド粒子表面にグラフト化されたフェロセン含有ポリマーとナノカーボン繊維との配位子交換反応をさせてフェロセン含有ポリマーを介してダイヤモンド粒子表面をナノカーボン繊維により被覆する。
本発明に係る別のナノカーボン繊維被覆ダイヤモンド粒子の製造方法は、ナノカーボン繊維とフェセロン含有ポリマーとの配位子交換反応をさせてフェセロン含有ポリマーをナノカーボン繊維にグラフト化し、ナノカーボン繊維にグラフト化されたフェロセン含有ポリマーとグラファイト化したダイヤモンド粒子表面の芳香族環との配位子交換反応をさせてフェロセン含有ポリマーを介してダイヤモンド粒子表面をナノカーボン繊維により被覆する。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、ナノカーボン繊維存在下において、グラファイト化ダイヤモンド表面の芳香族環とフェロセン含有ポリマーとの配位子交換反応をさせることで、ナノカーボン繊維被覆ダイヤモンド粒子を得ることができる。得られたダイヤモンド粒子を用いてソーワイヤのめっき処理を行うことで、ダイヤモンド粒子表面のナノカーボン繊維がめっき被膜中に取り込まれてアンカー効果を発揮するようになる。そのため、めっき被膜とダイヤモンド粒子との間の密着性が改善されて、優れたダイヤモンド砥粒の保持力と安定した切削能率を有するソーワイヤが得られる。
【0011】
また、本発明は、ナノカーボン繊維被覆ダイヤモンド粒子を高温に晒すことなく製造できるため、母材であるダイヤモンド粒子の破壊強度、硬度等の機械的特性をほぼ維持したままで、ナノカーボン繊維被覆ダイヤモンド粒子を得ることが可能となり、ソーワイヤの砥粒として用いた場合に切削能率の低下を抑止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】カーボンナノチューブ被覆ダイヤモンド粒子の製造工程を示す説明図である。
図2A】処理前のダイヤモンド粒子の表面を撮影した画像である。
図2B】処理後のダイヤモンド粒子の表面を撮影した画像である。
図3】カーボンナノチューブ被覆ダイヤモンド粒子の別の製造工程を示す説明図である。
図4】処理後のダイヤモンド粒子の表面を撮影した画像である。
図5】カーボンナノチューブ被覆ダイヤモンド粒子のさらに別の製造工程を示す説明図である。
図6】処理後のダイヤモンド粒子の表面を撮影した画像である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明におけるナノカーボン繊維被覆ダイヤモンド粒子の製造方法は、表面をグラファイト化したダイヤモンド粒子の表面にフェロセン含有ポリマー及びナノカーボン繊維をグラフト化することでナノカーボン繊維被覆ダイヤモンド粒子を製造することを特徴とする。
【0014】
本発明者らは、塩化アルミニウム触媒存在下で、表面をグラファイト化したダイヤモンド粒子とフェロセン含有ポリマーとの反応を行うと、グラファイト化ダイヤモンド粒子表面の芳香族環とフェロセン含有ポリマーのフェロセン部位との配位子交換反応が進行し、ダイヤモンド粒子表面へフェロセン含有ポリマーがグラフト化することを見出した。
【0015】
本発明では、ダイヤモンド粒子表面をグラファイト化することで、ダイヤモンド表面グラファイト層の芳香族環とフェロセン含有ポリマーとの配位子交換反応を利用し、従来法では困難であったダイヤモンド粒子表面のグラフト化の高効率化が可能となり、ナノカーボン繊維をダイヤモンド粒子表面に被覆することが可能である。
【0016】
本発明に係るナノカーボン繊維被覆ダイヤモンド粒子の製造方法において使用されるダイヤモンド粒子は、窒素雰囲気中で表面をグラファイト化したダイヤモンド粒子を使用する。ダイヤモンド粒子の平均粒子径は、1μm〜1000μmが好ましく、より好ましくは、5μm〜50μmのものを使用するとよい。こうしたダイヤモンド粒子は、通常入手可能な、単結晶タイプ、多結晶タイプのものを用いることができる。また、ダイヤモンド粒子表面のグラファイト層の厚さは特に限定されないが、グラファイト自体は疎水性を示すため、この層が厚過ぎると疎水性相互作用によりダイヤモンド粒子同士が凝集し易くなるため、グラファイト層の厚さは0.1nm〜100nmが好ましく、より好ましくは0.5nm〜50nmであり、さらに好ましくは1nm〜20nmのものを使用するとよい。
【0017】
ナノカーボン繊維においても特に限定されないため、一般に市販されている単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブを使用することが好ましく、繊維直径1nm〜200nm及びアスペクト比(=繊維長/繊維直径)1〜500に設定されたものを用いるのがよい。本発明では、ワイヤソーによる切削工程においてダイヤモンド粒子の脱落の抑制を目的とするため、ナノカーボン繊維を分散させる必要はなく、凝集し易い性質(バンドル化)を利用してグラファイト化ダイヤモンド粒子表面にナノカーボン繊維を被覆させることができる。そして、ダイヤモンド粒子表面を被覆するナノカーボン繊維が金属めっき被膜中に取り込まれてアンカー効果を発揮することで、ダイヤモンド砥粒として用いられた場合に優れた保持力が得られると考えられる。また、ダイヤモンド粒子のサイズが大きい場合でも、ダイヤモンド粒子をめっき被膜中に保持して脱落しにくくするようになる。
【0018】
ナノカーボン繊維被覆ダイヤモンド粒子を製造するには、上述したようにダイヤモンド粒子表面に形成されたグラファイト層の芳香族環とフェロセン含有ポリマーとの配位子交換反応が必要である。既に塩化アルミニウム触媒存在下で、カーボンブラック表面の縮合芳香族環とフェロセンとの配位子交換反応が進行し、粒子表面ヘシクロペンタジエニル基が導入できることが報告されている(参考文献:M. Miyake, K. Yasuda, T. Takashima, T. Teranishi :Chem. Lett., 1999, 1037)。このような配位子交換反応を利用することにより、カーボンブラックの縮合芳香族環のエッジ部ではなく、グラフェンシート表面の利用が初めて可能になった。また、本発明者らは、カーボンブラック、炭素繊維、さらにはグラファイトなどの炭素材料表面の縮合芳香族環とビニルフェロセン含有コポリマーとの配位子交換反応による炭素材料表面へのグラフト反応について報告している(参考文献:N. Tsubokawa, N. Abe, Y. Seida, K. Fujiki : Chem. Lett.,2000, 900.)。こうした報告によれば、炭素繊維とビニルフェロセン−メタクリル酸メチル共重合体(poly(Vf-co-MMA))(Mn=2.1×104)との反応は、アルミニウムや塩化アルミニウムを加えない系では、グラフト率はわずか2%以下であったが、これに対して、塩化アルミニウムの存在下では、炭素繊維表面へのpoly(vf-co-MMA)のグラフト反応が進行し、グラフト率は4.4%であった。さらに、塩化アルミニウムとアルミニウムとの共存下では、poly(Vf-co-MMA)のグラフト反応が促進され、グラフト率は27.6%に達した。
【0019】
本発明は、これらの反応を利用したものであり、塩化アルミニウム触媒存在下で、表面をグラファイト化したダイヤモンド粒子とフェロセン含有ポリマーを反応させ、グラファイト化ダイヤモンド粒子表面の芳香族環とフェロセン含有ポリマーのフェロセン部位との配位子交換反応により、ダイヤモンド粒子表面へフェロセン含有ポリマーをグラフト化させる。そして、ナノカーボン繊維を加えることで、ナノカーボン繊維被覆ダイヤモンド粒子を得ることができる。
【0020】
ソーワイヤの素線としては、ピアノ線等の鋼母線が一般に用いられており、素線の線径は、用途に応じて適宜設定され、特に限定されないが、0.1mm〜0.2mmのものが好ましい。素線には、黄銅、銅、ニッケル等のめっき処理が予め施されていてもよい。
【0021】
素線のめっき処理に使用されるめっき液としては特に制限はないが、ニッケルイオン、コバルトイオン、銅イオン、金イオン、鉄イオン、パラジウムイオン、白金イオン、スズイオン及びロジウムイオンよりなる群から選ばれた1種又は2種以上の金属イオンを含むものが使用でき、特に好ましいものとしてはニッケルイオンを含む金属めっき液が挙げられる。
【0022】
めっき液中において、上述したナノカーボン繊維被覆ダイヤモンド微粒子を均一に分散させるために、超音波振動による機械的な撹拌も可能であるが、ダイヤモンド微粒子の凝集・沈殿を抑制し、めっき液中でダイヤモンド粒子を安定して分散させるために、分散剤として界面活性剤を添加することが好ましい。添加する界面活性剤としては、アニオン性、カチオン性等のイオン性界面活性剤、又は非イオン性界面活性剤が挙げられる。例えば、イオン性界面活性剤の場合、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩等であり、これらはダイヤモンド粒子の表面に導入したイオン性官能基により適宜選択すればよい。ここで用いるアルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル等の炭素数1〜6の整数である。
【0023】
めっき液に添加するダイヤモンド粒子の添加量は、めっき液中の組成において0.5〜10g/リットルであることが好ましい。ダイヤモンド粒子の添加量をこの範囲に調整しためっき液を用いてめっき処理すれば、金属めっき被膜中にダイヤモンド粒子を均一に分散させることができ、さらに切削時に最適なダイヤモンド粒子の付着量を任意で調整することもできる。
【0024】
上述のように製造されためっき液を用いて公知の電解めっき処理を実施する場合、ダイヤモンド粒子が安定して分散されためっき液に対して、ソーワイヤの素線を電解めっき処理させることにより、素線の表面において、ダイヤモンド粒子が分散された金属めっき被膜を形成させることができる。そして、ダイヤモンド粒子の表面を被覆するナノカーボン繊維が金属めっき被膜中に取り込まれてアンカー効果を発揮し、ダイヤモンド粒子の保持力を高めることが可能となる。
【実施例】
【0025】
以下に実施例を挙げ、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら制約されるものではない。
【0026】
(実施例1)
1.ビニルフェロセン−メタクリル酸メチル共重合体[Poly(vinyl ferrocene-co-methyl methacrylate);poly(Vf-co-MMA)]の合成
重合試験管に、ビニルフェロセン(Vf;Sigma-Aldrich Co.製)を5.40ミリモル、メタクリル酸メチル(MMA;関東化学株式会社製)を48.0ミリモル、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN;関東化学株式会社製)を0.54ミリモル、トルエン(関東化学株式会社製)を5.0ミリリットルを加え、真空封管とし、70℃で24時間重合処理を行った。重合処理後、反応溶液を過剰のメタノール(関東化学株式会社製)中に滴下し、生成したPoly(Vf-co-MMA)を吸引濾過した。その後、得られたPoly(Vf-co-MMA)を再びトルエン中に溶かし、同様の操作を2回繰り返した後、減圧乾燥させてから使用した。
【0027】
得られたPoly(Vf-co-MMA)の分子量は1.3×104、ビニルフェロセン含有量は9.3モル%であった。
【0028】
2.カーボンナノチューブ被覆ダイヤモンド粒子の製造(1段階法)
図1に示すように、還流冷却器を取り付けた試験管にPoly(Vf-co-MMA)を0.05g、カーボンナノチューブとして多層カーボンナノチューブ(MW-CNT;Nanocyl Ltd.製)を0.025g、表面がグラファイト化したダイヤモンド粒子(GD;住石マテリアルズ株式会社製)を0.1g加え、次いで、無水塩化アルミニウム(AlCl3;関東化学株式会社製)を92.4mgとアルミニウム粉(Al;粒子径53μm〜150μm)を4.73mg、反応溶媒として1,4-ジオキサン(関東化学株式会社製)を10ミリリットル加えた。
【0029】
そして、窒素気流中で、マグネチックスターラーで攪拌しながら80℃で24時間グラフト化反応させた。反応後、メタノールを加え、塩化アルミニウムの活性を失活させて反応を停止させた。また、反応後に得られた生成物中におけるアルミニウムの除去は、生成物を超音波照射により溶媒中へ分散させ、数分後、沈殿したアルミニウムを除去した。
【0030】
なお、上澄み液には非グラフトポリマーも含まれているので、これを取り除くため、反応生成物をポリマーの良溶媒であるジオキサン中へ分散させ、約5分間超音波洗浄を行い、その後1.5×104rpmで約40分間遠心分離を行って、非グラフトポリマーが溶解している上澄み液を除去した。この操作を3回繰り返し、非グラフトポリマーを除去した。
【0031】
さらに、生成物中に含まれている塩化アルミニウムの除去は、塩化アルミニウムが塩酸中に溶解するので、1モル/リットルの希塩酸を用いて超音波洗浄を行い、その後遠心分離を行って上澄み液を除去することにより行った。得られたカーボンナノチューブ被覆ダイヤモンド粒子を減圧下、50℃で十分乾燥させた。なお、未反応のカーボンナノチューブの分離は、ダイヤモンド微粒子とカーボンナノチューブとの比重差を利用して行った。
【0032】
得られたカーボンナノチューブ被覆ダイヤモンド微粒子の表面を走査型電子顕微鏡(SEM;日本電子株式会社製)で撮影した。図2Aは、処理前のダイヤモンド粒子の表面を撮影した画像を示し、図2Bは、処理後のダイヤモンド粒子の表面を撮影した画像を示す。これらの画像を比較すると、ダイヤモンド粒子の表面がカーボンナノチューブにより被覆されていることがわかる。
【0033】
(実施例2)
に示すように、Poly(Vf-co-MMA)及びグラファイト化ダイヤモンド粒子(GD)をグラフト化した後カーボンナノチューブ(CNT)と反応させる2段階法によりカーボンナノチューブ被覆ダイヤモンド粒子を製造した。
【0034】
1.Poly(Vf-co-MMA)グラフト化ダイヤモンド粒子の合成
還流冷却器を取り付けた試験管に、実施例1で用いたグラファイト化ダイヤモンド粒子(GD)を0.1gと実施例1で得られたPoly(Vf-co-MMA)を0.05g加え、次いで、実施例1と同様に、無水塩化アルミニウム92.4mg及びアルミニウム粉4.73mg、反応溶媒として1,4-ジオキサンを10ミリリットル加え、窒素気流中で、マグネチックスターラーで攪拌しながら80℃で24時間グラフト化反応させた。反応後、メタノールを加え、塩化アルミニウムの活性を失活させて反応を停止させた。また、反応後に得られた生成物中におけるアルミニウムの除去は、生成物を超音波照射により溶媒中へ分散させ、数分後、沈殿したアルミニウムを除去した。
【0035】
なお、上澄み液には非グラフトポリマーも含まれているので、これを取り除くため、反応生成物をポリマーの良溶媒であるジオキサン中へ分散させ、約5分間超音波洗浄を行い、その後1.5×104rpmで約40分間遠心分離を行って、非グラフトポリマーが溶解している上澄み液を除去した。この操作を3回繰り返し、非グラフトポリマーを除去した。
【0036】
さらに、生成物中に含まれている塩化アルミニウムの除去は、塩化アルミニウムが塩酸中に溶解するので、1モル/リットルの希塩酸を用いて超音波洗浄を行い、その後遠心分離を行って上澄み液を除去することにより行った。得られたPoly(Vf-co-MMA)グラフト化ダイヤモンド粒子を減圧下、50℃で十分乾燥させた。ダイヤモンド粒子へのPoly(Vf-co-MMA)のグラフト率(グラフトしたポリマーのダイヤモンド粒子に対する質量%)は、32.7%であった。
【0037】
2.Poly(Vf-co-MMA)グラフト化ダイヤモンド粒子とカーボンナノチューブとの反応
還流冷却器を取り付けた試験管に、得られたPoly(Vf-co-MMA)グラフト化ダイヤモンド粒子0.05g及び実施例1で用いたカーボンナノチューブ0.025gを加え、次いで、実施例1と同様に、無水塩化アルミニウム92.4mg及びアルミニウム粉4.73mg、反応溶媒として1,4-ジオキサンを10ミリリットル加え、窒素気流中で、マグネチックスターラーで攪拌しながら80℃で24時間反応させた。反応後、メタノールを加え、塩化アルミニウムの活性を失活させて反応を停止させた。また、反応後に得られた生成物中におけるアルミニウムの除去は、前述の方法と同様に行った。
【0038】
なお、未反応のカーボンナノチューブの分離は、実施例1と同様に、ダイヤモンド粒子とカーボンナノチューブとの比重差を利用して行った。得られたカーボンナノチューブ被覆ダイヤモンド粒子の表面をSEMで撮影した。図4に撮影した画像を示す。撮影画像をみると、ダイヤモンド粒子の表面がカーボンナノチューブにより被覆されていることがわかる。
【0039】
(実施例3)
に示すように、Poly(Vf-co-MMA)及びカーボンナノチューブ(CNT)をグラフト化した後グラファイト化ダイヤモンド粒子(GD)と反応させる2段階法によりカーボンナノチューブ被覆ダイヤモンド粒子を製造した。
【0040】
1.Poly(Vf-co-MMA)グラフト化カーボンナノチューブの合成
還流冷却器を取り付けた試験管に、実施例1で用いたカーボンナノチューブ0.1gとPoly(Vf-co-MMA)0.1gを加え、次いで、実施例1と同様に、無水塩化アルミニウム92.4mg及びアルミニウム粉4.73mg、反応溶媒として1,4-ジオキサンを20ミリリットル加え、窒素気流中で、マグネチックスターラーで攪拌しながら80℃で24時間グラフト化反応させた。反応後、メタノールを加え、塩化アルミニウムの活性を失活させて反応を停止させた。また、反応後に得られた生成物中におけるアルミニウムの除去は、生成物を超音波照射により溶媒中へ分散させ、数分後、沈殿したアルミニウムを除去した。
【0041】
なお、上澄み液には非グラフトポリマーも含まれているので、これを取り除くため、反応生成物をポリマーの良溶媒であるジオキサン中へ分散させ、約5分間超音波洗浄を行い、その後1.5×104rpmで約40分間遠心分離を行って、非グラフトポリマーが溶解している上澄み液を除去した。この操作を3回繰り返し、非グラフトポリマーを除去した。
【0042】
さらに、生成物中に含まれている塩化アルミニウムの除去は、塩化アルミニウムが塩酸中に溶解するので、1モル/リットルの希塩酸を用いて超音波洗浄を行い、その後遠心分離を行って上澄み液を除去することにより行った。得られたPoly(Vf-co-MMA)グラフト化カーボンナノチューブを減圧下、50℃で十分乾燥させた。なお、カーボンナノチューブへのPoly(Vf-co-MMA)のグラフト率(グラフトしたポリマーのカーボンナノチューブに対する質量%)は54.5%であった。
【0043】
2.Poly(Vf-co-MMA)グラフト化カーボンナノチューブとダイヤモンド粒子との反応
還流冷却器を取り付けた試験管に、得られたPoly(Vf-co-MMA)グラフト化カーボンナノチューブ0.05g及び実施例1で用いたダイヤモンド粒子0.05gを加え、次いで、実施例1と同様に、無水塩化アルミニウム92.4mg及びアルミニウム粉4.73mg、反応溶媒として1,4-ジオキサンを10ミリリットルを加え、窒素気流中で、マグネチックスターラーで攪拌しながら80℃で24時間反応させた。反応後、メタノールを加え、塩化アルミニウムの活性を失活させて反応を停止させた。また、反応後に得られた生成物中におけるアルミニウムの除去は、1.と同様の方法で行った。なお、未反応カーボンナノチューブの分離は、実施例1と同様に、ダイヤモンド粒子とカーボンナノチューブとの比重差を利用して行った。得られたカーボンナノチューブ被覆ダイヤモンド粒子の表面をSEMで撮影した。図6に撮影した画像を示す。撮影画像をみると、ダイヤモンド粒子の表面がカーボンナノチューブにより被覆されていることがわかる。
【0044】
(実施例4)
作製されたカーボンナノチューブ被覆ダイヤモンド粒子を純水中に1g/リットルの濃度で分散させ、超音波処理により十分に分散させた後、カチオン性界面活性剤(ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド)を0.02g/リットルの濃度となるように添加し、さらに超音波処理により十分に分散させた。
【0045】
得られたダイヤモンド微粒子及び界面活性剤が均一に分散した分散液を金属めっき液に添加し、下記の組成のめっき液を調製した。
・硫酸ニッケル四水和物500g/リットル
・塩化ニッケル5g/リットル
・ホウ酸10g/リットル
・カーボンナノチューブ被覆ダイヤモンド粒子10g/リットル
【0046】
調製しためっき液は、スルファミン酸又は炭酸ニッケル溶液を適宜添加してpH5.0に調整した。次に、めっき液の温度を60℃(めっき液の使用温度)に昇温させた。このとき、攪拌によりめっき液中のカーボンナノチューブ被覆ダイヤモンド微粒子は、良好な分散状態を維持しており、製造されためっき液は、使用温度に昇温しても安定した分散状態を保持することが確認できた。分散状態は、凝集による沈殿或いは浮遊物の有無を目視でチェックして良好な分散状態であることを確認した。
【0047】
調製したカーボンナノチューブ被覆ダイヤモンド粒子含有めっき液を用いて、ピアノ線(線径0.12mm;トクセン工業株式会社製)に脱脂、下地処理、ダイヤモンド粒子固着めっき処理(電流密度:1A/dm2)、最後に仕上げめっき(電流密度:3A/dm2)による砥粒の固着処理を行い、ソーワイヤを製造した。
【0048】
得られたソーワイヤ及び従来のソーワイヤをシングルワイヤソー(株式会社タカトリ製)によるシリコンインゴットの切削を行うことで、砥粒保持力向上の検証を行った。切削加工条件は以下の通りである。
<単結晶シリコン切削条件>
・ワークサイズ 直径150mm×長さ125mm
・ワイヤ仕様 直径0.12mm
・固着したダイヤモンド粒子 粒径10μm〜20μm
・線速度 800m/分
・ワイヤピッチ 1.0mm
・張力 20N
・クーラント ユシロ化学工業株式会社製
・シングルワイヤソー WSD−K2(株式会社タカトリ製)
・切断時間 30分
・ワイヤ供給量 0.3m/分
【0049】
評価方法としては、シリコンの移動量を30mm/回とし、昇降速度を1.2mm/分にて切削を行い、これを3回繰り返した後のソーワイヤ表面のダイヤモンド砥粒の残存個数を観察した。その結果、従来品に比べて得られたソーワイヤは、表面のダイヤモンド粒子が多く残存しており、切削時におけるダイヤモンド粒子の保持力の向上が認められた。
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6