(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ゴム成分は、エチレン−プロピレン−ジエンゴム、水素添加ニトリルゴム及びフッ素ゴムからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係るシール材の製造方法は、
(1)ゴム成分〔A〕100重量部と、有機過酸化物0.5〜5重量部及びニトロオキサイド化合物を含有する複合架橋剤〔B〕と、トリメチロールプロパントリメタクリレート及びトリメチロールプロパントリアクリレートからなる群から選択される少なくとも1種である液状共架橋剤〔C〕2〜20重量部とを含むシール材用ゴム組成物を架橋成形する工程(架橋成形工程);及び
(2)得られる架橋成形物を熱処理する工程(熱処理工程)
を含む。
【0019】
(1)架橋成形工程
架橋成形されるシール材用ゴム組成物が含有するゴム成分〔A〕としては、例えば、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、エチレン−プロピレンゴム(EPM)、ニトリルゴム(NBR;アクリロニトリルブタジエンゴム)、水素添加ニトリルゴム(HNBR;水素添加アクリロニトリルブタジエンゴム)、ブチルゴム(IIR)、フッ素ゴム(FKM)、シリコーンゴム(Q)等を用いることができる。中でも、シール材用のゴムとして良好な特性を兼ね備えていることから、EPDM、HNBR、FKM等が好ましい。ゴム成分〔A〕は1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0020】
EPDMは、耐熱性、耐薬品性及びクリーン性等に優れたゴムであり、また、NBR、HNBR、FKM、Q等に比べて廉価であることから、シール材用途に適したゴム成分の1つである。ゴム成分〔A〕としてEPDMを用い、架橋剤として有機過酸化物を用いたゴム組成物においては、NBRやQ等に比べて成形加工性に劣る場合がある(例えば、架橋成形物の粘着性が高くなって架橋成形物取り出し時にその一部が金型に付着し、金型を汚染するという問題が、NBRやQ等に比べて生じやすい傾向にある。)。しかしながら、EPDMのような、それ自体の成形加工性が比較的高くないゴム成分を用いる場合においても、本発明によれば、上述のような金型汚染の問題を抑制しつつ、低アウトガス特性に優れるシール材を製造することができる。
【0021】
EPDMは、エチレン由来の構成単位、プロピレン由来の構成単位及びジエンモノマー由来の構成単位からなる三元共重合体である。EPDMにおいては、エチレン由来の構成単位とプロピレン由来の構成単位との含有比を調整することによってゴム特性を制御することができる。例えば、エチレン由来の構成単位の比率を高めると、ゴムの耐薬品性及び結晶化度(従って機械的強度)は高まる傾向にある。一方、エチレン由来の構成単位の比率を高めると、EPDMの成形加工性及び流動性は低下する傾向にある。
【0022】
EPDMの成形加工性を高め、かつ、より高品質のシール材を製造するために、EPDMにおけるエチレン由来の構成単位の含有量は、65重量%以下とすることが好ましく、60重量%以下とすることがより好ましい。エチレン由来の構成単位の含有量が65重量%以下であれば、EPDMに良好な流動性を与えることができるとともに、シール材に良好な耐熱性及びシール性を付与することができる。一方、エチレン由来の構成単位の含有量が過度に低すぎると、得られるシール材の引張強度が不足する。従って、エチレン由来の構成単位の含有量は、45重量%以上であることが好ましく、50重量%以上であることがより好ましい。
【0023】
EPDMを構成するジエンモノマーの具体例は、5−エチリデン−2−ノルボルネン(ENB)、ジシクロペンタジエン(DCPD)、1,4−ヘキサジエン(1,4−HD)、メチルテトラヒドロインデン、5−メチレン−2−ノルボルネン、シクロオクタジエン、ジシクロオクタジエン等の非共役ジエンモノマーを含む。これらの中でも、EPDMが良好な架橋速度(加硫速度)を示し、また、得られるシール材の耐熱性にも優れることから、ENB、1,4−HDを用いることが好ましく、とりわけ架橋速度に優れることから、ENBを用いることがより好ましい。ジエンモノマーは1種のみを単独で用いてよいし、2種以上を併用してもよい。
【0024】
EPDMにおけるジエンモノマー由来の構成単位の含有量は、架橋速度及びゴム組成物の成形加工性を高める観点から、1重量%以上とすることが好ましく、3重量%以上とすることがより好ましい。また、架橋後に二重結合が多量に残存することによるシール材の劣化のしやすさを考慮して、ジエンモノマー由来の構成単位の含有量は、12重量%以下とすることが好ましく、10重量%以下とすることがより好ましい。
【0025】
本発明において使用し得るEPDMの市販品の具体例を挙げれば、例えば、いずれも商品名で、三井化学(株)製の「EPT」、住友化学(株)製の「エスプレン」、JSR(株)製の「EP」、ランクセス(株)製の「KELTAN」等である。
【0026】
後述するように、ゴム組成物の成形加工性を高める観点から、ゴム組成物の粘度は、JIS K6300−1に準拠して測定される100℃におけるムーニー粘度〔ML(1+4)100℃〕で60以下であることが好ましい。従って、このような粘度のゴム組成物を実現するために、使用するゴム成分の粘度は、ムーニー粘度〔ML(1+4)100℃〕で50以下であることが好ましく、48以下であることがより好ましい。
【0027】
なお、低ムーニー粘度品として油展タイプのゴム成分が市販されているが、これはオイル成分を多量に含むものである。このようなゴム成分の使用は、可塑剤を含有する場合と同様、[発明が解決しようとする課題]の項で述べた〔ア〕〜〔エ〕の問題を招来し得るため、好ましくない。
【0028】
複合架橋剤〔B〕は、ゴム成分〔A〕を架橋させる架橋剤としての有機過酸化物と、ニトロオキサイド化合物とを含有するものである。複合架橋剤を用いることにより、架橋開始時期を適度に遅延させ、金型内での流動可能時間を延ばすことができるとともに、架橋開始から架橋完了までの時間を短縮することができる。このような架橋特性は、ゴム組成物の成形加工性を向上させ、ゴム組成物を各種成形法、とりわけインジェクション成形に適したものとすることができる。また、架橋開始から架橋完了までの時間の短縮は、成形時間の短縮及び成形コスト低減をもたらす。複合架橋剤の使用は、得られるシール材の最終的な架橋密度を低下させないので、所望の架橋密度を有し、所望の優れた特性を示すシール材を得ることができる。
【0029】
また複合架橋剤を用いることは、所定の他の配合成分〔A〕及び〔C〕を所定量使用することと相俟って、上述した金型汚染の問題の抑制にも有利である。
【0030】
これに対して、架橋開始時期を遅らせるためにゴム組成物に架橋遅延剤を添加することが知られているが、従来使用されている架橋遅延剤は、架橋開始時期を遅らせることができる反面、得られるシール材の最終的な架橋密度を低下させるという問題を抱えている。
【0031】
有機過酸化物としては、架橋剤として従来公知のものを用いることができ、例えば、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルジクミルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルジクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、イソブチリルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、α,α’−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、パラクロルベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーベンゾエート、3,3,5−トリメチルヘキサノンパーオキサイド、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレート、ジ−sec−ブチルパーオキシジカーボネート、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロドデカン等を挙げることができる。有機過酸化物は1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。中でも、ジクミルパーオキサイド、α,α’−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレート等を好ましく用いることができる。
【0032】
複合架橋剤は、ゴム成分100重量部に対する有機過酸化物の含有量が0.5〜5重量部となるようにゴム組成物中に添加され、好ましくは0.8〜4.5重量部となるようにゴム組成物中に添加される。複合架橋剤の添加量は、例えば1〜20重量部程度あるいは1〜15重量部程度である。ゴム成分100重量部に対する有機過酸化物の含有量を0.5重量部以上とすることにより、十分な架橋密度を得ることができる。これによりシール材に良好なゴム弾性、硬度、機械的強度、耐熱性、シール性を付与することができる。また、ゴム成分100重量部に対する有機過酸化物の含有量を0.5重量部以上とすることは、上述した金型汚染の問題の抑制にも有利である。
【0033】
一方、ゴム成分100重量部に対する有機過酸化物の含有量を5重量部以下とすることは、得られるシール材に発泡や粘着性が生じることを抑制又は防止できる点、得られるシール材の耐熱性やシール性が向上され得る点で有利である。
【0034】
ニトロオキサイド化合物の具体例は、例えば、
2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、
4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、
4−メトキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、
4−オキソ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、
2,2,5,5−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、
ビス(2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシ−4−イル)セバケート、
4,4’−[(1,10−ジオキソ−1,10−デカンジイル)ビス(オキシ)]ビス[2,2,6,6−テトラメチル]−1−ピペリジジニルオキシ、
2,2,6,6−テトラメチル−4−ヒドロキシピペリジン−1−オキシルモノフォスフェート、
3−カルボキシ−2,2,5,5−テトラメチルピロリジン−1−オキシル
等である。
【0035】
上記の中では、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、4,4’−[(1,10−ジオキソ−1,10−デカンジイル)ビス(オキシ)]ビス[2,2,6,6−テトラメチル]−1−ピペリジジニルオキシが好ましく用いられる。
【0036】
複合架橋剤におけるニトロオキサイド化合物の含有量は、好ましくは有機過酸化物の含有量の1〜20重量%の範囲内であり、より好ましくは2〜15重量%の範囲内であり、さらに好ましくは2.5〜10重量%の範囲内である。ニトロオキサイド化合物の含有量をこの範囲内にすることにより、良好な架橋開始時期の遅延効果及び架橋時間の短縮効果を得ることができる。
【0037】
複合架橋剤は、有機過酸化物及びニトロオキサイド化合物のみから構成されていてもよいが、フィラー成分等の他の成分を含有していてもよい。フィラー成分としては、無機顔料(炭酸カルシウム、シリカ、クレー、タルク等)、有機顔料、樹脂成分等を挙げることができる。複合架橋剤の形態は特に制限されず、液状、粉末状の他、成形体(例えば、顆粒状、ペレット状、シート状等)であることもできる。フィラーは1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0038】
本発明において使用し得る複合架橋剤の市販品としては、例えば、いずれも商品名で、Arkema社製の「Luperox DC40P−SP2」(有機過酸化物:ジクミルパーオキサイド40重量%、ニトロオキサイド化合物:4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル2.4重量%、残部:フィラー);「Luperox F40P−SP2」(有機過酸化物:α,α’−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン40重量%、ニトロオキサイド化合物3.8重量%、残部:フィラー);「Luperox 101XL45−SP2」(有機過酸化物:2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン45重量%、ニトロオキサイド化合物及びフィラーからなる)等がある。
【0039】
シール材用ゴム組成物は、共架橋剤として、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート又はこれらの混合物からなる液状共架橋剤(常温常圧において液体である共架橋剤)〔C〕を含む。従来のシール材用ゴム組成物においては、硫黄、硫黄系化合物、キノンジオキシム、エチレングリコールジメタクリレート、ジビニルベンゼン、ジアリルフタレート、トリアリルイソシアヌレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、1,2−ポリブタジエン、メタクリル酸金属塩、アクリル酸金属塩等が、特段の区別なく共架橋剤として使用されてきたが、本発明においては所望の効果を得るために、上記特定の液状共架橋剤〔C〕を用いることが必要である。すなわち、特定の液状共架橋剤〔C〕を用いることにより、所定の他の配合成分〔A〕及び〔B〕を所定量使用することと相俟って、可塑剤を含有しない場合であっても良好な架橋開始時期の遅延効果及び架橋時間の短縮効果を得ることができ、低アウトガス特性に優れるシール材を成形加工性良く製造することが可能となる。
【0040】
また、特定の液状共架橋剤〔C〕を用いることにより、ゴム組成物の架橋速度を調整したり、シール材の特性(例えば、伸び特性や耐熱性、シール性、機械的強度)を向上させたりすることもできる。
【0041】
これに対して、固体共架橋剤(常温常圧において固体である共架橋剤)や、特定の液状共架橋剤〔C〕以外の液状共架橋剤を用いると、本発明所定の他の配合成分〔A〕及び〔B〕を所定量使用する場合であっても、上記のような所望の効果を得ることができない。本発明が奏する上述の効果は、特定の液状共架橋剤〔C〕を用いることによるゴム組成物の流動性、とりわけ成形加工初期における流動性の向上が一因であると考えられる。
【0042】
シール材用ゴム組成物における液状共架橋剤〔C〕の含有量は、ゴム成分100重量部あたり2〜20重量部であり、好ましくは5〜20重量部であり、より好ましくは5〜10重量部である。このように液状共架橋剤〔C〕は、所望の効果をより効果的に得るために、従来の共架橋剤の添加量に比べて比較的多量に添加されることが好ましい。多量に添加することによる弊害(例えば、架橋反応の阻害等)は認められず、所望の架橋密度を有するシール材を得ることができる。液状共架橋剤〔C〕の含有量が上記の範囲内で大きいほど、所望の効果をより効果的に得ることができるとともに、良好な伸び特性を維持しつつシール材の硬度及び耐熱性をより高めることが可能である。これに対して、トリアリルイソシアヌレートのような共架橋剤は液状ではあるが、多量に添加すると自己重合を起こし、正常な架橋反応を阻害する。
【0043】
液状共架橋剤〔C〕の含有量がゴム成分100重量部に対して2重量部未満又は25重量部超であると、加工性良く成形を行うために必要な適度なゴム組成物の流動性(とりわけ成形加工初期における流動性)を確保できなかったり、成形時の不具合により高品質のシール材を得ることが困難な傾向にある。また、液状共架橋剤〔C〕の含有量がゴム成分100重量部に対して2重量部未満又は25重量部超である場合には、得られるシール材に十分な伸び特性、耐熱性、シール性及び/又は機械的強度を付与できない傾向にある。
【0044】
シール材用ゴム組成物は、必要に応じて、上記成分〔A〕〜〔C〕以外の他の成分〔D〕を含有することができる。他の含有成分としては、例えば、フィラー(体質顔料及び着色顔料を含む意味である)、老化防止剤、酸化防止剤、加硫促進剤、加工助剤、安定剤、粘着付与剤、シランカップリング剤、可塑剤、難燃剤、離型剤、ワックス類、滑剤等の添加剤を挙げることができる。添加剤は1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0045】
フィラーの具体例は、カーボンブラック、シリカ、アルミナ、酸化亜鉛、二酸化チタン、クレー、タルク、珪藻土、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化カルシウム、マイカ、グラファイト、水酸化アルミニウム、ケイ酸アルミニウム、ハイドロタルサイト、粒状又は粉末状樹脂、金属粉、ガラス粉、セラミックス粉等を含む。
【0046】
老化防止剤の具体例は、フェノール誘導体、芳香族アミン誘導体、アミン−ケトン縮合物、ベンズイミダゾール誘導体、ジチオカルバミン酸誘導体、チオウレア誘導体等を含む。加硫促進剤の具体例は、チウラム系、チアゾール系、スルフェンアミド系、チオ尿素系の化合物等を含む。
【0047】
シール材用ゴム組成物が上記の添加剤を含有する場合、その含有量は当該分野において通常用いられる量であってよい。
【0048】
ただし、上述したような本発明の目的に鑑み、可塑剤の含有量はできるだけ少ないことが好ましく(例えば、ゴム成分100重量部に対して10重量部以下、好ましくは5重量部以下、より好ましくは2重量部以下、さらに好ましくは1重量部以下)、可塑剤を含有しないことが極めて好ましい。可塑剤を含有しないゴム組成物を用いることにより、[発明が解決しようとする課題]の項で述べた〔ア〕〜〔エ〕の問題を解消することができ、可塑剤に由来するアウトガスを抑制できるとともに、良好な耐熱性及びシール性を示すシール材を製造することができる。
【0049】
また、本発明のシール材用ゴム組成物においては、シール材に接触する物体に汚染を生じさせ得る他の添加剤、例えば、離型剤、ワックス類、滑剤、液状の加工助剤等の含有量をできるだけ少なくすることが好ましく(例えば、ゴム成分100重量部に対して10重量部以下、好ましくは5重量部以下、より好ましくは2重量部以下、さらに好ましくは1重量部以下)、このような添加剤を含有しないことがより好ましい。
【0050】
なお、ここでいう可塑剤とは、狭義の可塑剤(フタル酸エステル系、アジピン酸エステル系、脂肪族二塩基酸エステル系、リン酸エステル系、クエン酸エステル系、トリメリット系可塑剤等)の他、オイル(ナフテン系プロセスオイル、パラフィン系プロセスオイル、芳香族系プロセスオイル、植物油、エポキシ化植物油等)も含まれる。
【0051】
本発明のシール材用ゴム組成物は、ゴム成分〔A〕、複合架橋剤〔B〕、液状共架橋剤〔C〕、及び任意で添加される他の成分〔D〕を均一に混練りすることにより調製できる。混練り機としては、例えば、ミキシングロール、加圧ニーダー、インターナルミキサー(バンバリーミキサー)等の従来公知のものを用いることができる。この際、各配合成分のうち、複合架橋剤、液状共架橋剤等の加硫反応に寄与する成分を除く成分を先に均一に混練しておき、その後、加硫反応に寄与する成分を混練するようにしてもよい。混練り温度は、例えば常温付近であることができる。
【0052】
シール材用ゴム組成物は、JIS K6300−1に準拠して測定される100℃におけるムーニー粘度〔ML(1+4)100℃〕が60以下であることが好ましく、55以下であることがより好ましい。成分〔A〕〜〔C〕の含有量を上記所定の範囲内としたうえで、粘度をこの範囲内に調整することにより、成形加工性の良好な、とりわけインジェクション成形容易なゴム組成物とすることができる。ただし、過度に粘度が小さいと、ゴム組成物の流動性が大きくなりすぎて、シール材の外観や品質に不具合が生じやすい。従って、シール材用ゴム組成物のムーニー粘度〔ML(1+4)100℃〕は、40超であることが好ましく、42以上であることがより好ましく、44以上であることがさらに好ましい。
【0053】
架橋成形工程では、上述のようなシール材用ゴム組成物を架橋成形することによって架橋成形物を得る。架橋成形方法は、インジェクション成形、圧縮成形、移送成形等の従来公知の方法を採用することができるが、シール材の量産においては、成形時間の短縮及び成形コスト低減の観点から、インジェクション成形が有利である。架橋成形時の温度(架橋温度)は、例えば100〜200℃程度(好ましくは150〜190℃、より好ましくは160〜180℃)であり、加熱時間(架橋時間)は、例えば0.5〜120分程度である。
【0054】
(2)熱処理工程
本工程は、架橋成形工程で得られた架橋成形物を熱処理する工程である。この工程を経ることによって、原料のゴム成分等に元々含まれる低分子量成分(又はそれが反応して生じた低分子量成分)、未反応成分(ゴム成分や架橋剤)、さらには可塑剤に含有される低分子量成分に起因するアウトガスの発生が抑制されたシール材を得ることができる。なお、上述の架橋成形工程にてゴム組成物の架橋は十分に進行しており(例えばJIS K6300−2に準拠してダイ加硫試験A法によって架橋特性を測定したとき、架橋成形工程後のゴム組成物(架橋成形物)は、そのトルク値が最大トルク値の92%程度以上、より典型的には95%程度以上に達している。)、本工程において架橋は進行しないか、又はあってもその進行は僅かである。
【0055】
熱処理の温度は、通常150〜300℃であり、好ましくは150〜280℃である。熱処理温度が過度に高いと、得られるシール材に熱劣化が生じ架橋密度が低下して、シール材の機械的強度や耐熱性が低下してしまうおそれがある。熱処理は、架橋成形時の温度より高い温度で行ってもよい。
【0056】
熱処理の時間は、その温度にもよるが、0.5〜32時間であることが好ましい。熱処理の時間が32時間を超えると、低アウトガス性は得られるが、シール材に熱劣化が生じ、架橋密度が低下して、シール材の機械的強度や耐熱性が低下してしまうおそれがある。
【0057】
熱処理時の圧力は通常、上述の架橋成形工程より低く、この点で、成形を行うために相応の加圧下で熱処理を行う上述の架橋成形工程と相違する。熱処理時の圧力は、例えば常圧(若しくはその近傍)又は常圧より低い圧力であることができる。なお、本工程の熱処理の代わりに、上述の架橋成形工程の時間を延長した場合には、架橋が進行しすぎるスコーチが生じ、逆に架橋密度が低下して、シール材の機械的強度や耐熱性が低下してしまう。
【0058】
本発明の方法によって得られるシール材(例えばOリング)は、低アウトガス特性に優れているため、とりわけ、シール材によってシールされるべき流体(液体、気体等)のアウトガスによる汚染(及びこれに伴う劣化)が抑制されるべき用途に適している。このような用途としては、例えば、電解液等の液体に接触し得る部位にシール材を用いる電池用途(鉛蓄電池、リチウム電池、ニッケル電池、レドックスフロー電池、ナトリウム・硫黄電池、アルカリ二次電池等)や、半導体製造装置用途を挙げることができる。また、本発明の方法によって得られるシール材は、成形加工時においてゴム組成物の流動性や架橋挙動に起因する不具合が生じにくいため、シール材としての優れた特性(伸び特性、硬度、耐熱性、シール性、機械的強度等)を示し得るとともに、良好な外観品質も示し得る。
【実施例】
【0059】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0060】
<実施例1〜5、比較例1〜4>
(1)シール材の作製
次の手順に従って、シール材用ゴム組成物を調製し、次いでシール材を作製した。まず、表1に示される配合組成に従って(表1における配合量の単位は重量部である)、ゴム成分(EPDM)、老化防止剤、加工助剤及びフィラー1,2の所定量(比較例2〜4においてはさらに可塑剤)を加圧ニーダーにより混練した。この際、加圧ニーダーの回転速度は30rpm、混練時間は混練物の最大温度が120℃に到達するまでの時間とした。冷却後、得られた混練物に、複合架橋剤又は架橋剤、及び、液状共架橋剤1を投入し、加圧ニーダーにより混練を行って、シール材用ゴム組成物を調製した。
【0061】
次に、得られたシール材用ゴム組成物を表1に示される条件でインジェクション成形機を用いて架橋成形を行った後、オーブンに入れ、常圧下、表1に示される条件で熱処理を行って、Oリングであるシール材を得た。ただし、比較例1及び2においては熱処理工程を実施しなかった。
【0062】
【表1】
【0063】
実施例及び比較例で用いた各成分の詳細は次のとおりである。
〔1〕EPDM:エチレン由来の構成単位の含有量が56重量%、ジエンモノマーである5−エチリデン−2−ノルボルネン由来の構成単位の含有量が5重量%であり、JIS K6300−1に準拠して測定される100℃におけるムーニー粘度〔ML(1+4)100℃〕が40であるエチレン−プロピレン−ジエンゴム、
〔2〕老化防止剤:ジメチルベンジルジフェニルアミン、
〔3〕加工助剤:ステアリン酸、
〔4〕フィラー1:酸化亜鉛2種、
〔5〕フィラー2:ファーネスブラック、
〔6〕可塑剤:パラフィン系プロセスオイル、
〔7〕複合架橋剤:Arkema社製の「Luperox DC40P−SP2」〔有機過酸化物:ジクミルパーオキサイド40重量%、ニトロオキサイド化合物:4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル2.4重量%、残部:フィラー(炭酸カルシウム及びシリカ)〕、
〔8〕架橋剤:ジクミルパーオキサイド、
〔9〕液状共架橋剤1:トリメチロールプロパントリメタクリレート。
【0064】
(2)シール材の評価
〔ア〕シール材の常態物性
実施例・比較例で用いたのと同じゴム組成物を用い、同じ方法で架橋成形及び熱処理を行って、JIS K6250に従い、2mmの厚さのシート状架橋成形品を作製した。このシート状架橋成形品から、JIS K6251に従い、ダンベル状3号型試験片を型抜きした。この試験片を、500mm/分で引張し、引張強さ、切断時伸びを測定した。また、JIS K6253に従い、タイプAデューロメータ硬さ試験機にてシート状架橋成形品の硬度を測定した。これらの試験はすべて25℃の温度下で行った。結果を表1に示す。
【0065】
〔イ〕シール材の低アウトガス性
加熱脱離法によってシール材のアウトガス量を測定した。具体的には、発生ガス濃縮導入装置(株式会社島津製作所製のサーマルディソープションシステム)を用い、シール材から切り出した試料約0.3gを不活性Heガス気流中で180℃で加熱し、試料から発生したアウトガスを吸着剤(TENAX TA)で捕集濃縮し、280℃で再脱離させたガスを、ガスクロマトグラフ質量分析計(株式会社島津製作所製「GCMS−QP2010Plus」)に導入して、試料1gから発生するアウトガス量(μg)を測定した。ガスクロマトグラフ質量分析計のキャピラリーカラムには、株式会社島津製作所製の「Rxi−1ms」(内径:0.25mm×長さ:60m、膜厚:0.25μm、固定相:100%ポリジメチルシロキサン)を用いた。そして、次の評価基準に従って、低アウトガス性を評価した。結果を表1に示す。
【0066】
A(良好):アウトガス量が10μg/g未満、
B(やや良好):アウトガス量が10μg/g超20μg/g未満、
C(やや不良):アウトガス量が20μg/g超30μg/g未満、
D(不良):アウトガス量が30μg/g超。
【0067】
<参考例1〜3及び比較参考例1〜9>
(1)シール材の作製
次の手順に従って、シール材用ゴム組成物を調製し、次いでシール材を作製した。まず、表2に示される配合組成に従って(表2における配合量の単位は重量部である)、ゴム成分(EPDM)、老化防止剤、加工助剤及びフィラー1,2の所定量(比較参考例8においてはさらに可塑剤)を加圧ニーダーにより混練した。この際、加圧ニーダーの回転速度は30rpm、混練時間は混練物の最大温度が120℃に到達するまでの時間とした。冷却後、得られた混練物に、複合架橋剤又は架橋剤、及び、表2に示される共架橋剤(比較参考例9においてはさらに架橋遅延剤)を投入し、加圧ニーダーにより混練を行って、シール材用ゴム組成物を調製した。
【0068】
次に、得られたシール材用ゴム組成物を170℃でインジェクション成形機を用いて架橋成形を行って(熱処理工程は実施しなかった)、Oリングであるシール材を得た。
【0069】
【表2】
【0070】
参考例及び比較参考例で用いた、上記〔1〕〜〔9〕以外の各成分の詳細は次のとおりである。
【0071】
〔10〕液状共架橋剤2:トリアリルイソシアヌレート、
〔11〕固体共架橋剤:N,N’−m−フェニレンジマレイミド、
〔12〕架橋遅延剤:N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン。
【0072】
(2)シール材用ゴム組成物及びシール材の評価
得られたシール材用ゴム組成物及び架橋成形品(シール材)について、下記の項目を測定、評価した。結果を表2〔下記〔ア〕v)については
図1〕に示す。
【0073】
〔ア〕シール材用ゴム組成物の成形加工性
i)ムーニー粘度
JIS K6300−1に準拠して、シール材用ゴム組成物のムーニー粘度〔ML(1+4)100℃〕を測定した。
【0074】
ii)架橋成形品のバリ
架橋成形品のバリを目視で観察し、下記基準:
A(良好):架橋成形品の量産において、バリが薄く架橋成形品から容易に除去することができ、またバリの波打ち(ビビリ)及び金型へのバリの粘着が無い、
B(やや不良):架橋成形品の量産において、バリに僅かなビビリが認められる、
C1(不良):架橋成形品の量産において、バリにかなりのビビリが認められる、
C2(不良):架橋成形品の量産において、バリを除去する際、バリとともに製品部分が一部引きちぎられる程度にバリが厚い、
C3(不良):架橋成形品の量産において、金型へのバリの粘着が認められる、
に従って評価した。B及びC1〜C3の不良は、ゴム組成物の流動性が十分でない場合や、ゴム組成物が、成形に適した架橋特性(架橋開始時期が適度に遅延されているが、架橋開始から架橋完了までの時間が短いという架橋特性)を有していない場合に生じ得る。
【0075】
iii)シール材用ゴム組成物の流動性
得られた架橋成形品を目視で観察し、下記基準:
A(良好):架橋成形品の量産において、金型内を流動する際に生じる跡(架橋成形品表面の曇りを含む)、及び、凹み(架橋成形品表面の凹凸)が無い、
B(やや不良):架橋成形品の量産において、上記跡若しくは凹みが僅かに認められることがある、又は、架橋成形品中に僅かな発泡が認められることがある、
C(不良):架橋成形品の量産において、上記跡若しくは凹みが顕著に認められる、又は、上記発泡が顕著に認められることがある、
に従って評価した。上記の跡、凹み及び発泡はいずれもゴム組成物の流動性が十分でない場合や過度に高い場合に生じ得る。
【0076】
iv)金型の汚染
架橋成形品取り出し後の金型を目視で観察し、下記基準:
A(良好):架橋成形品の量産において、架橋成形品材料による金型の汚れは皆無である、
B(やや不良):架橋成形品の量産において、架橋成形品材料による金型の汚れがAと比較して明らかに増加している(ただし、下記Cほどではない)、
C(不良):金型への架橋成形品の粘着が顕著であり、架橋成形品の量産が困難である、
に従って評価した。架橋成形品材料による金型の汚染は、架橋反応不足によって生じ得る。
【0077】
v)シール材用ゴム組成物の架橋特性
参考例1及び比較参考例3のシール材用ゴム組成物並びに比較参考例9のシール材用ゴム組成物(比較参考例3のシール材用ゴム組成物に、ゴム成分100重量部に対して架橋遅延剤としてのN−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミンを2重量部添加したゴム組成物)について、JIS K6300−2に準拠し、ダイ加硫試験A法(170℃×30分)によって架橋特性(架橋挙動)を測定した。結果を
図1に示す。
【0078】
〔イ〕架橋成形品の常態物性
参考例・比較参考例で用いたのと同じゴム組成物を用い、同じ方法で架橋成形を行って、JIS K6250に従い、2mmの厚さのシート状架橋成形品を作製した。このシート状架橋成形品から、JIS K6251に従い、ダンベル状3号型試験片を型抜きした。この試験片を、500mm/分で引張し、引張強さ、切断時伸び、100%引張応力を測定した。また、JIS K6253に従い、タイプAデューロメータ硬さ試験機にてシート状架橋成形品の硬度を測定した。これらの試験はすべて25℃の温度下で行った。
【0079】
〔ウ〕架橋成形品の圧縮永久歪率
JIS K6262に準拠し、150℃×72時間、圧縮率25%の条件で、線径φ1.9 Oリングを使用して圧縮永久歪率を測定した。
【0080】
表2に示す評価結果のとおり、参考例1〜3のゴム組成物においては、可塑剤を含有しないにもかかわらず、成形加工(とりわけインジェクション成形)に適した適度な流動性及び架橋特性を有しているために、成形加工性良く高品質のシール材を作製することができた。得られたシール材は優れた常態物性を有していた。また、参考例1のゴム組成物からなるシール材は、可塑剤を用いた比較参考例8及び架橋遅延剤を用いた比較参考例9と比較して、優れた圧縮永久歪率(耐熱性及びシール性)を有することが確認された。耐熱性及びシール性の観点から、圧縮永久歪率は40%以下であることが好ましい。
【0081】
これに対して、液状共架橋剤2(トリアリルイソシアヌレート)又は固体共架橋剤を用いた比較参考例1及び2のゴム組成物は流動性が悪い(ムーニー粘度も高い)ため、架橋成形品に金型内を流動する際に生じる跡や凹みが発生した。また、流動性が悪いことに起因してバリも厚かった。複合架橋剤ではなく、ジクミルパーオキサイドのみを用いた比較参考例3のゴム組成物では、ムーニー粘度は良好であるものの、スコーチによる明らかなビビリがバリに確認された。このことは、架橋成形品においてもスコーチが起こっていることを意味している。また僅かながら、上記跡や凹みが発生していた。
【0082】
この点、
図1に示すように、本発明で用いるゴム組成物によれば、架橋開始時期を適度に遅延させることができるとともに、架橋開始から架橋完了までの時間を短縮することができる(
図1の「参考例1」参照)。複合架橋剤ではなく、ジクミルパーオキサイドのみを用いた場合には、流動時に架橋が進行し過ぎるスコーチ(及びこれに伴うビビリ)が生じる(
図1の「比較参考例3」参照)。スコーチは架橋遅延剤の添加により抑制することが可能であるが、この場合、架橋反応を完了させることが難しく、架橋密度が低下する(
図1の「比較参考例9」参照)。
図1より、本発明で用いるゴム組成物によれば、比較参考例3と同等の最大トルク(最終的な架橋密度)を確保しつつ、架橋開始時期を適度に遅延できることがわかる。
【0083】
液状共架橋剤1の含有量が少ない比較参考例4のゴム組成物では、ムーニー粘度が高めであり、また、バリに僅かなビビリが認められるとともに、架橋成形品に上記跡や凹みが僅かに発生していた。液状共架橋剤1の含有量が多い比較参考例5のゴム組成物では、バリに関しては問題はないが、流動性が高すぎて、架橋成形品に上記跡や凹みが顕著に発生した。
【0084】
複合架橋剤の含有量が少ない比較参考例6のゴム組成物では、架橋反応が不十分であるためにバリの粘着が顕著であり、これに起因して金型の汚染も顕著であった。複合架橋剤の含有量が多い比較参考例7のゴム組成物においてもバリの粘着が確認された。また、比較参考例7のゴム組成物においては、ゴム組成物の流動性不足及び過剰有機過酸化物の分解生成物に起因して、架橋成形品中に僅かな発泡が認められた。
【0085】
比較参考例8及び9のゴム組成物では、可塑剤又は架橋遅延剤の影響により、圧縮永久歪率が大きく悪化した。