(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6333020
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】ディスクブレーキ装置
(51)【国際特許分類】
F16D 65/46 20060101AFI20180521BHJP
F16D 65/18 20060101ALI20180521BHJP
F16D 55/226 20060101ALI20180521BHJP
F16D 121/14 20120101ALN20180521BHJP
F16D 125/38 20120101ALN20180521BHJP
【FI】
F16D65/46 A
F16D65/18
F16D55/224 104A
F16D121:14
F16D125:38
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-71745(P2014-71745)
(22)【出願日】2014年3月31日
(65)【公開番号】特開2015-194189(P2015-194189A)
(43)【公開日】2015年11月5日
【審査請求日】2017年1月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000226677
【氏名又は名称】日信工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000501
【氏名又は名称】特許業務法人 銀座総合特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 直樹
(72)【発明者】
【氏名】長原 純一
【審査官】
竹村 秀康
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−183712(JP,A)
【文献】
米国特許第05123505(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 65/46
F16D 65/18
F16D 121/14
F16D 125/38
F16D 55/224
F16D 55/226
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスクロータを跨いで配設されるキャリパボディの作用部側にシリンダ孔を備えるとともに、該シリンダ孔内には、シャフト部と該シャフト部のディスクロータ側に形成されたフランジ部とを備えたシャフトと、前記フランジ部の反ディスクロータ側の対向位置に組みつけられたプレートと、該プレートと前記フランジ部との間に組みつけられたボール部材とが配置されて成るボールランプ機構を備えたディスクブレーキ装置であって、
前記シャフトを貫通可能とする貫通孔を設けたアジャスト部材を備え、
該アジャスト部材は、前記プレートの反ディスクロータ側の背面に当接した状態でキャリパボディのシリンダ孔底部に、シリンダ孔の軸方向に位置調節可能に取り付けられるとともに、
前記アジャスト部材をディスクロータ側に前進させることにより、前記シャフトを前進可能とすることを特徴とするディスクブレーキ装置。
【請求項2】
前記アジャスト部材は、外周面にねじ部が形成され、このねじ部をキャリパボディのシリンダ孔底部に螺合することにより、前記アジャスト部材を一方向に回転させて前進可能とすることを特徴とする請求項1のディスクブレーキ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はボールランプ機構を備えたディスクブレーキ装置であって、摩擦パッドとディスクロータとの間隙を調節可能とするものに関する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実公昭59−10432号公報
【特許文献2】実公昭61−18262号公報
【0004】
例えば特許文献1、2では、手動にて間隙調節を行う構成が開示されている。そして特許文献1では、調整ねじ部(33)を備えたロッド(17)が、ナット部材(12)を貫通するねじ部(35)に螺合するようになっている。また、特許文献2では間隙調節用ボルト(36)が、摺動カム板(29)を貫通する雌ねじ孔(29a)に螺合されるようになっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、特許文献1、2では、ナット部材や摺動カム板といったボールランプ部を構成する部品に貫通孔(ねじ孔)を形成しておく必要があり、加工に手間がかかる。また、ナット部材や摺動カム板の内部にロッドや間隙調節用ボルトを配置することから、ボールランプ部の構成について小型化を図るのが難しい。
【0006】
そこで、本発明は上述の如き課題を解決しようとするものであって、従来のような加工の手間を省くことができるとともに、ボールランプ部の構成について小型化を図ることができるディスクブレーキ装置を得ようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上述の如き課題を解決するため、
ディスクロータを跨いで配設されるキャリパボディの作用部側にシリンダ孔を備えるとともに、該シリンダ孔内には、シャフト部と該シャフト部のディスクロータ側に形成されたフランジ部とを備えたシャフトと、前記フランジ部の反ディスクロータ側の対向位置に組みつけられたプレートと、該プレートと前記フランジ部との間に組みつけられたボール部材とが配置されて成るボールランプ機構を備えたディスクブレーキ装置を前提とするものである。
【0008】
そして、前記シャフトを貫通可能とする貫通孔を設けたアジャスト部材を備え、
該アジャスト部材は、前記プレー
トの反ディスクロータ側の背面に当接した状態でキャリパボディのシリンダ孔底部に、シリンダ孔の軸方向に位置調節可能に取り付けられるとともに、前記アジャスト部材をディスクロータ側に前進させることにより、前記シャフトを前進可能とするものである。
【0009】
また、前記アジャスト部材は、外周面にねじ部が形成され、このねじ部をキャリパボディのシリンダ孔底部に螺合することにより、前記アジャスト部材を一方向に回転させて前進可能とするものであってもよい。このように構成することにより、簡単な構成によってアジャスト部材の位置を調節することが可能となる。
【発明の効果】
【0010】
本発明は上述の如く構成することにより、アジャスト部材をディスクロータ側に前進させることでボールランプ機構を前進させることができるため、ボールランプ機構を構成するシャフトにねじ孔を設ける必要がなく、従来のような加工の手間を省くことが可能となり、生産性の向上を図ることができる。また、シャフト内部に位置調節用の部品などを配置する必要がないため、ボールランプ機構の小型化を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】実施例1を示す、
図1とは垂直方向の断面図。
【実施例1】
【0012】
本発明の実施例1を
図1、2において説明すると、(1)はディスクブレーキのキャリパボディであって、このキャリパボディ(1)は、
図1に示す如くディスクロータ(2)の両側に配設された作用部(3)及び反作用部(4)と、この作用部(3)と反作用部(4)とをディスクロータ(2)を跨いで連結したブリッジ部(5)とから成るものである。そして、前記ディスクロータ(2)の作用部(3)側にはシリンダ孔(6)を貫通形成している。
【0013】
そして、このシリンダ孔(6)のディスクロータ(2)側には断面コップ型のピストン(7)を、底部をディスクロータ(2)側にして配置している。また、このピストン(7)の開口部(8)側には、本実施例のボールランプ機構(10)を構成するシャフト(11)を設けている。このシャフト(11)は、シャフト部(13)と、このシャフト部(13)のピストン(7)側に、半径方向に突出して形成された円盤状のフランジ部(12)とを備えている。そして、上記フランジ部(12)のディスクロータ(2)側の面を、ピストン(7)の開口部(8)に当接配置している。
【0014】
また、上記フランジ部(12)の反ディスクロータ(2)側の対向位置には、シャフト(11)とともに本実施例のボールランプ機構(10)を構成するプレート(14)を組み付けている。即ち、このプレート(14)は中央に挿通穴(15)を形成しており、この挿通穴(15)にシャフト(11)のシャフト部(13)を摺動可能に挿通配置することにより、プレート(14)をシャフト(11)に組み付けている。またキャリパボディ(1)には、シリンダ孔(6)の反ディスクロータ(2)側の開口部(18)を閉塞する固定プレート(20)が、ボルトによって取り付けられており、この固定プレート(20)によってシリンダ孔(6)の底部(16)が形成される。
【0015】
また、上記の如く配置したシャフト(11)のフランジ部(12)及びプレート(14)には、
図1に示す如くそれぞれ対向する内面にランプ溝(21)を設けており、各ランプ溝(21)は、フランジ部(12)とプレート(14)との各対向位置にそれぞれ形成配置している。また、上記の如くフランジ部(12)とプレート(14)とに形成した対向するランプ溝(21)の内部には、ボール部材(17)を収容している。
【0016】
また、このボール部材(17)がランプ溝(21)から脱落しないよう、フランジ部(12)をプレート(14)側に付勢している。即ち、ピストン(7)の開口部(8)外周に鍔部(22)を形成し、この鍔部(22)をスプリング(23)の一端を当接配置するとともに、このスプリング(23)の他端を、シリンダ孔(6)のディスクロータ(2)側の内壁に突設した内周段部(24)に当接配置することにより、スプリング(23)によってピストン(7)を介してフランジ部(12)をプレート(14)側に付勢している。
【0017】
上記の如くフランジ部(12)をプレート(14)側に付勢することにより、ボール部材(17)がフランジ部(12)のランプ溝(21)とプレート(14)のランプ溝(21)との間で保持可能となるため、ボール部材(17)が各ランプ溝(21)から脱落するのを防ぐことができる。尚、ブレーキの非作動時には、上記ボール部材(17)は各ランプ溝(21)の最も深い部分に位置している。
【0018】
また、前記ピストン(7)の底部側には摩擦パッド(25)を配置するとともに、前記キャリパボディ(1)の反作用部(4)にも前記作用部(3)側の摩擦パッド(25)と同様に形成した摩擦パッド(26)を、前記作用部(3)側の摩擦パッド(25)に対向させて固定配置している。これにより、
図1に示す如く反作用部(4)側の摩擦パッド(26)と作用部(3)側の摩擦パッド(25)との間にディスクロータ(2)が位置するものとなる。尚、上記一対の摩擦パッド(25)(26)は、キャリパボディ(1)の作用部(3)側と反作用部(4)側との間に架設したハンガーピン(27)にそれぞれ摺動可能に係合している。
【0019】
そして、上記固定プレート(20)の中央に係合穴(28)を形成し、この係合穴(28)に螺溝を設けるとともに、この螺溝に螺合可能なねじ部(38)を、円筒状に形成したアジャスト部材(30)の外周に設けている。そしてこのアジャスト部材(30)を固定プレート(20)の係合穴(28)に螺合してアジャスト部材(30)を固定プレート(20)に組み付け、プレート(14)の背面側に当接配置している。
【0020】
また、上記アジャスト部材(30)は軸心方向に貫通孔(31)を貫通形成しており、この貫通孔(31)に、シャフト(11)のシャフト部(13)を摺動可能に貫通配置している。また、このアジャスト部材(30)の外周に形成したねじ部(38)を固定プレート(20)に螺合した状態で、固定プレート(20)の背面側からナット(32)をねじ部(38)に螺合して締め付けることにより、アジャスト部材(30)を固定プレート(20)に回動不能に固定している。また、上記シャフト(11)の他端部(37)には、回動アーム(33)の一端(34)を固定配置し、この回動アーム(33)とシャフト(11)とが一体的に回動するよう組み付けている。一方、この回動アーム(33)の他端(35)にはブレーキワイヤー(図示せず。)を接続するとともに、このブレーキワイヤーを、運転者が操作するブレーキべダルやブレーキレバーなどのブレーキ操作子(図示せず。)に連結している。
【0021】
上記の如く構成したものにおいて、ディスクブレーキの制動を行う場合について以下に説明する。まず、回動アーム(33)とキャリパボディ(1)との間に設けられたリターンスプリング(図示せず。)の付勢力に抗してブレーキ操作子(図示せず。)にてブレーキワイヤーを牽引することにより、回動アーム(33)が一方向に回動する。そしてこの回動アーム(33)の回動に伴ってシャフト(11)が上記回動アーム(33)とともに同一方向に回動する。
【0022】
上記の如くシャフト(11)と回動アーム(33)とがともに固定され同時に回動するが、シャフト部(13)をアジャスト部材(30)の貫通孔(31)及びプレート(14)の挿通穴(15)に対して摺動可能に組み付けるとともに、アジャスト部材(30)が固定プレート(20)に回動不能に固定されているため、シャフト(11)を回動させても、プレート(14)やアジャスト部材(30)は回動しない。そのため、プレート(14)に対してシャフト(11)のフランジ部(12)が回動するものとなる。
【0023】
従って、上記プレート(14)の回動により、制動開始前には対向位置にあったプレート(14)のランプ溝(21)とフランジ部(12)のランプ溝(21)との位相がずれることから、ランプ溝(21)の最も深い位置にあった各ボール部材(17)がランプ溝(21)の浅い位置に移動し、プレート(14)とフランジ部(12)との間隔が広がるものとなる。この時、プレート(14)は上記の如く、アジャスト部材(30)に当接しているため、フランジ部(12)とは離反方向に摺動できないことから、シャフト(11)がディスクロータ(2)側に摺動するものとなる。
【0024】
そしてこのシャフト(11)の摺動によって、ピストン(7)が付勢されてディスクロータ(2)側に摺動するため、このピストン(7)に当接配置した作用部(3)側の摩擦パッド(25)がディスクロータ(2)側に摺動してディスクロータ(2)の表面に圧接されるものとなる。また、前記作用部(3)側の移動に伴う反力によって、キャリパボディ(1)が前記ピストン(7)の移動方向とは反対方向に移動し、このキャリパボディ(1)の移動によって反作用部(4)側の摩擦パッド(26)がディスクロータ(2)側に移動してディスクロータ(2)の反作用部(4)側の側面に圧接されるものとなる。これにより、作用部(3)側及び反作用部(4)側にそれぞれ設けた一対の摩擦パッド(25)(26)が、
図1に示す如くディスクロータ(2)の両面に圧接してディスクブレーキによる制動が行われる。
【0025】
次に制動の解除について以下に説明すると、まずブレーキ操作子(図示せず。)の操作によってブレーキワイヤーの牽引を解除することにより、回動アーム(33)とキャリパボディ(1)との間に設けられたリターンスプリングの付勢力によって回動アーム(33)が制動時とは逆方向に回動して制動開始前の元位置に復元する。これにより、シャフト(11)が制動時とは逆方向に回動して制動開始前の位置に戻り、シャフト(11)のフランジ部(12)のランプ溝(21)とプレート(14)のランプ溝(21)が非制動時の位置である対向位置に復元し、ボール部材(17)が各ランプ溝(21)の最も深い位置に戻される。
【0026】
この、ボール部材(17)の戻りに伴って、ピストン(7)がスプリング(23)の付勢力によりシリンダ孔(6)底部(16)側に摺動し、ディスクロータ(2)とは離反方向の元の位置に復元する。よって、上記ピストン(7)に当接していた摩擦パッド(25)によるディスクロータ(2)側への押圧が解除される。また、上記の如き作用部(3)側の移動に伴う反力によって、キャリパボディ(1)が移動して反作用部(4)側が反ディスクロータ(2)側に移動し、反作用部(4)側の摩擦パッド(26)によるディスクロータ(2)側への押圧も解除される。これにより、ディスクブレーキの制動解除が行われる。
【0027】
また、使用により摩擦パッド(25)(26)が摩耗した場合には、摩耗前と比較して摩擦パッド(25)(26)とディスクロータ(2)との間隔が広がる。そのため、摩擦パッド(25)(26)の摩耗が生じた場合には摩擦パッド(25)(26)とディスクロータ(2)との間隔を摩耗前の状態に戻す必要があり、摩擦パッド(25)(26)の位置をディスクロータ(2)側に移動させて位置調節を行う必要がある。
【0028】
この摩擦パッド(25)(26)の位置調節について以下に説明すると、まず、アジャスト部材(30)に螺合締結しているナット(32)を緩めてアジャスト部材(30)を固定プレート(20)に対して回動可能な状態とし、アジャスト部材(30)を固定プレート(20)に対して一方向に回動する。これにより、アジャスト部材(30)は回動しながらディスクロータ(2)側に前進し、このアジャスト部材(30)のディスクロータ(2)側への前進によって、アジャスト部材(30)の先端面に当接していたプレート(14)がディスクロータ(2)側に回動することなく前進する。
【0029】
そして、このプレート(14)のディスクロータ(2)側への前進により、ボール部材(17)を介してシャフト(11)のフランジ部(12)がボール部材(17)とともにディスクロータ(2)側に押動される。これにより、ボールランプ機構(10)が全体的にディスクロータ(2)側に前進するものとなる。
【0030】
このようにボールランプ機構(10)全体をディスクロータ(2)側に前進させることにより、プレート(14)に当接配置したピストン(7)がディスクロータ(2)側に前進するものとなる。そして、ナット(32)をアジャスト部材(30)に螺合締結して固定することにより、摩擦パッド(25)(26)の位置調節が完了する。
【0031】
上記の如く、アジャスト部材(30)を前進させることでボールランプ機構(10)を前進させることができるため、ボールランプ機構(10)を構成するシャフト(11)にねじ孔を設ける必要がなく、従来のような加工の手間を省くことが可能となり、生産性の向上を図ることができる。また、シャフト(11)内部に位置調節用の部品などを配置する必要がないため、ボールランプ機構(10)の小型化を図ることが可能となる。
【符号の説明】
【0032】
1 キャリパボディ
6 シリンダ孔
10 ボールランプ機構
11 シャフト
14 プレート
16 底部
17 ボール部材
30 アジャスト部材
31 貫通孔
38 ねじ部