(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の各実施例におけるモータ、制御システム及び制御方法を図面と共に説明する。
【0017】
アクチュエータの設計時の目標の1つは、与えられた適用例に対して十分な力、変位及び速度を提供することにある。また、他も目標の1つは、出力または力密度、応答性及びエネルギ消費特性を考慮してシステム性能を向上することにある。これらの既定の特性は、典型的にはアクチュエータの設計を支配するが、アクチュエータのエネルギ消費を抑制することで大規模なエネルギ源への依存度が低くなり、余分なエネルギを消費することなく多くのアクチュエータを協調動作させることができる。これらの目標のバランスを取ることは、特定の力及び変位出力が望まれるメカトロニクス及びロボットシステムの場合特に重要であるが、モバイル装置の場合には電源が限られたエネルギ供給しかできないことがある。アクチュエータの設計のこれらの目標を同時に満足することは難しい。
【0018】
ロボット及びメカトロニクスシステム用に開発された、力及び変位の密度を最大化する多くの従来のアクチュエータは、同時に高速応答性と低消費電力を同時に実現できない。これらの従来のアクチュエータは、一般的には誘電性または容量性のアクチュエータとみなされる。典型的には高い帯域幅を有する磁気力モータなどの誘電性のアクチュエータでは、トルク出力は電流の関数であり、アクチュエータ速度にかかわらず大きなトルクが提供される場合には消費電力が高くなる。代わりに、油圧及び空気アクチュエータなどの容量性のアクチュエータは、典型的には低い帯域幅で動作するものの、圧力などの作用変数の関数として力を出力する。従って、これらのアクチュエータは、小またはゼロ変位量の力を提供する場合は限られたエネルギしか消費しない。これにより、例えば、大きな重力または他の静的荷重を動作中長期間支えなければならない地上設置型ロボットのエネルギ効率を向上できる。
【0019】
圧電アクチュエータは、10kHzを超える高い動作帯域幅及び約10
8W/mの出力密度を提供可能な容量性のアクチュエータの一種である。圧電アクチュエータのこれらの重要な性能のため、音響、振動制御及び精密位置決めのような小規模な適用例で圧電アクチュエータを使用する機会が増えている。一方、圧電アクチュエータの出力ストロークは、依然として極めて小さい。例えばPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)などの圧電スタックアクチュエータで実現できる増幅されないひずみは、0.1%のオーダである。このような小さなひずみのため、実現できる変位量は4×10
−2mmのオーダであり、典型的なロボットまたはメカトロニクスへの適用には不十分であり、変位増幅装置を使用する必要がある。
【0020】
圧電ひずみの増幅は、一般的には内的レバレッジ設計、外的レバレッジ設計及び周波数レバレッジ設計に分類される。スタック、ベンダ及びユニモルフアクチュエータなどの内的レバレッジアクチュエータは、変位増幅のために圧電材料の幾何学的配置を適切に選定している。ストローク出力は、アクチュエータの内部剛性により制限される。スタックアクチュエータは、高出力密度を維持できる、構成が簡単であり効果的な内的レバレッジアクチュエータであり、外的レバレッジ機構及び周波数レバレッジ機構の両方の構成ブロックとして使用できる。
【0021】
USM(超音波モータ)としても知られている周波数レバレッジ機構では、圧電アクチュエータは摩擦駆動によりアクチュエータ出力に動きを加えるために共振周波数で駆動される。回転型USMの場合、この出力は制限のない回転となる一方、直動装置においては「インチワーム」運動を用いてトラックに沿って摺動するように変位量を増幅する。USMは、直接駆動モータとして動作するため、一般的には低速であり高トルクである。しかし、駆動力及びトルクは、摩擦駆動材料の摩耗による悪影響を受ける可能性がある。
【0022】
フレクステンショナルアクチュエータを含む、数種類の外的レバレッジまたは機械的増幅アクチュエータが提案されている。これらのアクチュエータは、典型的にはスタックアクチュエータ構成ブロックの変位増幅量より振幅のオーダが1桁大きい変位増幅を生成できる。近年の外的レバレッジの研究は、非線形構造の座屈を有効利用する増幅機構について行われており、このような非線形構造の座屈によればアクチュエータ1段により振幅のオーダが2桁大きい変位増幅を実現できる。
【0023】
図1は、座屈型アクチュエータの一例を示す図である。座屈型アクチュエータ500は、一対の圧電素子501、サイドブロック600及び出力ノード(または、キーストーン)514を含む。各圧電素子501は、一端がサイドブロック600に連結され、他端が出力ノード514を介して他の圧電素子501に連結されている。圧電素子501とサイドブロック600との間のジョイントは、ローリングジョイント(または、回転継ぎ手)であり、圧電素子501と出力ノード514との間のジョイントは、ローリングジョイントである。圧電素子501は、説明の便宜上、円柱で示されている。
【0024】
圧電素子501は、活性化されると
図1中破線で示す位置まで移動し、出力ノード514をy方向へ移動する。これにより、座屈型アクチュエータ500は、出力ノード514の単極性ストローク505または双極性ストローク506を生成して後述する非線形な力出力を生成する座屈型増幅機構を形成する。出力変位方向の制御は、後述する追加の制約により管理可能である。
【0025】
圧電素子501は、従来の容量性アクチュエータと同様の制約を生じさせる。しかし、座屈型増幅機構を形成する圧電素子501は、1つ上のレベルの性能を示す。一実施例における効率的で力密度の高い直動圧電モータの設計及び解析について、以下に説明する。直動圧電モータは、ギア歯を有するロッド(以下、「ギア出力ロッド」とも言う)と係合する複数の座屈型アクチュエータ500を用いて構成される。ギア出力ロッドについては、
図2と共に後述する。複数の座屈型アクチュエータ500は、ギア出力ロッドに沿って所定の位相差で配置されており、複数の座屈型アクチュエータ500の動きを調整することでロッド位置にかかわらず略一定の力を発生する。複数の座屈型アクチュエータ500により形成された転がり接触座屈型機構は、高エネルギ伝達率で座屈型アクチュエータ500からギア出力ロッドへの損失が低い特性を持ち、大きな変位増幅量を提供できる。この直動圧電モータは、容量性アクチュエータの特性を有し、効率的に静的荷重を支えることができる。また、ポリアクチュエータアーキテキチャを含む直動圧電モータのアクチュエータアーキテキチャは、モジュラな設計により柔軟に機能や性能を向上できる。
【0026】
先ず、座屈型増幅機構のPAS(Phased Array Shaped)ギア出力ロッドへの係合について、出力される力と変位特性の解析と共に説明する。
【0027】
直動圧電モータは、好ましくは出力密度の高い圧電素子を含むアクチュエータにより駆動され、標準的なロボット及びメカトロニクスで求められる力の要件、大きな変位量及び静的荷重保持時の低エネルギ消費を実現する。直動圧電モータは、好ましくは以下の追加の制約i)乃至vi)を満足する。
【0028】
i) 長いストローク出力、
ii) 高い出力密度の出力、
iii)電力を略使用することなく、どのアクチュエータ出力位置においても静的荷重を支えることのできる高エネルギ効率、
iv) 典型的な周波数レバレッジアクチュエータを超える力の制御性、
v) 個々の機械的仕事素子の故障によりアクチュエータ機能が損なわれない故障許容力、及び
vi) 逆駆動の際のモータストロークインピーダンスが最小化される逆駆動性。
【0029】
直動圧電モータは、線形形状のギア出力ロッドと接続する転がり接触座屈型機構の位相を有する双極性の活性化により動作する。座屈型機構を介した座屈型アクチュエータの往復力により、
図2に示すように、線形形状のギア出力ロッドの波状溝に垂直な力入力を印加する。
【0030】
図2は、一実施例における直動圧電モータの第1の例を示す図である。直動圧電モータは、
図2に示すように、正弦波形状のギア(または、カム)を有するPAS線形ギア出力ロッド520に接続された複数の座屈型アクチュエータ500
1乃至500
Nを含み、座屈型アクチュエータ500
1乃至500
Nの位相を有する双極性アクチュエータにより駆動される。複数の座屈型アクチュエータ500
1乃至500
Nは、座屈型アクチュエータ500
1乃至500
Nの出力をモータ出力に変換するギア出力ロッド520のギア(または、カム)に対して一定の位相間隔で配置されている。
【0031】
座屈型アクチュエータ500
iを形成する複数の圧電素子501の力に基づく出力ノード514の往復運動は、出力ノード514のフォロワ522
iを介してギア出力ロッド520の波状溝に垂直な力F
yiを印加する。ギア出力ロッド520のギア(または、カム)は、ギア出力ロッド520のギア(または、カム)と係合する座屈型アクチュエータ500
iの係合部の一例である出力ノード514
iの移動軌跡が、ギア出力ロッド520のギア(または、カム)に対して正弦波形状となるような形状を有する。座屈型アクチュエータ500
1乃至500
Nとギア出力ロッド520の組み合わせにより、動作時に高いモータ出力効率を得ることができ、その容量的性質により静的保持時のエネルギ消費を低くすることもできる。座屈型アクチュエータ500
iからギア出力ロッド520に伝達される力F
xiに含まれる力のリップルまたは非線形性は、他の座屈型アクチュエータの位相制御により打ち消すことが可能である。つまり、ゼロの力を伝達するノードと、出力される力が変化する領域とを、強める干渉または弱める干渉を用いる方法により組み合わせることで、有効出力の力を円滑なものとすることができる。また、複数の座屈型アクチュエータ500
1乃至500
Nを並行して動作させることで、出力される力を増大させると共に、圧電素子510、座屈型アクチュエータ500または力伝達部品の一部が故障した場合に、冗長性と故障許容力を提供できる。
【0032】
図2中、φ
i(i=2についてのみ示す)は、i番目の座屈型アクチュエータ500
iのレイアウト位置を示し、xは直動圧電モータのギア位置を示し、yは座屈型アクチュエータ500
iの出力変位量を示し、Ψは直動圧電モータの出力位置を示し、λはフォロワ522
iの中心の移動軌跡の1サイクルの長さを示し、F
xは右方向へ連続したギア力を示す。
【0033】
アクチュエータアーキテキチャの構成ブロックには、上記非特許文献1にて提案されている転がり接触、座屈及び変位増幅機構を用いることができる。この提案されている変位増幅機構は、圧電素子とモータの外部負荷との間で機械的仕事を高い割合で伝達できる。この提案されている変位増幅機構と上記の如き形状のギア出力ロッド520をと組み合わせることで、動作時の線形モータ出力の効率を高くすることができ、容量的性質は静的保持時のエネルギ消費を低くすることができる
上記非特許文献1は、転がり接触ジョイント及び提案されている変位増幅機構のフレーム構造の構造上の弾性の悪影響についても説明している。本実施例では、転がり接触の剛性は、座屈型アクチュエータによる力の出力及びフレーム剛性を向上するために向上させる。以下に、いくつかの転がり接触の幾何学的配置について検討する。
【0034】
フレーム構造に起因する2次的な構造弾性は、荷重方向に沿って材料の剛性が増加する非等方性材料を用いることで向上できる。本実施例は、高弾性率のカーボンファイバの主荷重構造を用いる。
【0035】
圧電モータのモジュラなポリアクチュエータアーキテキチャは、以下の機能を提供することができる。第1に、複数の座屈型アクチュエータを並行に使用することで、線形モータ力の出力を高解像度で制御することができる。座屈型アクチュエータに伝達される力のリップルまたは非線形性は、他の座屈型アクチュエータの位相制御により打ち消すことが可能である。つまり、ゼロの力を伝達するノードと、出力される力が変化する領域とを、強める干渉または弱める干渉を用いる方法により組み合わせることで、有効出力の力を円滑なものとすることができる。第2に、複数の座屈型アクチュエータを並行して動作させることで、出力される力を増大させると共に、圧電素子、座屈型アクチュエータまたは力伝達部品の一部が故障した場合に、冗長性と故障許容力を提供できる。
【0036】
座屈増幅機構の双極性の動きを有効利用するには、出力ノードにおける往復変位とギア出力ロッドへの非線形な力の印加を処理する必要がある。ギア出力ロッドへの力のリップルを最小化して駆動するべき負荷に円滑な力を入力するために、ギア出力ロッドの位相形状のパラメータを制御する。また、アクチュエータの力の出力と座屈型機構の力の出力との間で座屈増幅機構において機械的な伝動が起こるが、ギア出力ロッドのギアのピッチの長さと振幅を調整することで、さらに向上された機械的な伝動が可能となる。
【0037】
ギア出力ロッドを駆動するには座屈増幅機構の双極性の動きが必要となるため、座屈型アクチュエータの出力方向は、適切なロッド位置で所定方向に移動するように制御する必要がある。各座屈型機構における運動特異点、即ち、座屈特異点は、決定論的なものとはならないため、上記所定方向または方向性は、外部から制御しなければならない。外部制御は、座屈型機構の出力とギア出力ロッドの形状面との間の連続的な接触係合により実現できる。座屈特異点から離れた領域では、座屈型機構の動きは決定論的でありギア出力ロッドを駆動する。座屈特異点では、ギア出力ロッドの動きが特異点を横切って略ゼロのインピーダンスで座屈型機構を付勢する。座屈型アクチュエータの出力方向は、その後再度決定論的となる。
【0038】
次に、
図2に示す直動圧電モータの座屈型アクチュエータの力特性について、
図2と共に説明する。直動圧電モータの静的出力の力F
xは、一般的には次式(1)で表すことができ、ここで、iはi番目の座屈型アクチュエータ500
i、Nは座屈型アクチュエータ500
1乃至500
Nの数の最大値、Ψはギア出力ロッド520の位相角度で表される直動圧電モータの出力位置、φ
iはギア出力ロッド520の位相角度におけるi番目の座屈型アクチュエータ500
iのレイアウト位置、F
xiはi番目の座屈型アクチュエータ500
iの直動圧電モータの出力する力への付勢力、Gはギア出力ロッド520のプロファイルに沿った座屈型アクチュエータ500のフォロワ522
iの中心の移動軌跡、Rは直動圧電モータの実際の出力位置xに対する移動軌跡Gの傾斜角度、F
yiはi番目の座屈型アクチュエータ500
iの出力する力、u
iはi番目の座屈型アクチュエータ500
iに対する入力、λは実際の出力位置の移動軌跡Gの1サイクルの長さを示す。
【0039】
【数1】
座屈型アクチュエータ500
1乃至500
Nは、ギア出力ロッド520を介して並行に接続されているので、座屈型アクチュエータ500
1乃至500
Nの全ての出力はギア出力ロッド520による変換後に加算される。上記の式(1)は、直動圧電モータの設計に以下の4つの自由度a)乃至d)があることを表している。
【0040】
a) 座屈型アクチュエータ500
1乃至500
Nの特性、
b) ギア出力ロッド520のギア形状により決定される移動軌跡G、
c) ギア出力ロッド520に対する座屈型アクチュエータ500
1乃至500
Nのレイアウト、
d) 座屈型アクチュエータ500
1乃至500
Nへの入力。
【0041】
上記の式(1)は、全ての座屈型アクチュエータ500
1乃至500
Nがギア出力ロッド520を介して相互作用を有することも表している。例えば、Nの値が小さいと、ギア出力ロッド520を介した座屈型アクチュエータ500
1乃至500
Nの相互作用を考慮する。一方、Nの値が大きいと、座屈型アクチュエータ500
1乃至500
Nのグループのインピーダンスは各座屈型アクチュエータ500
1乃至500
Nの個々のインピーダンスより大きいので、各座屈型アクチュエータ500
1乃至500
Nとギア出力ロッド520の個々の相互作用を考慮する。
【0042】
次に、座屈型アクチュエータの幾何学的特性について説明する。座屈型アクチュエータは、例えば上記非特許文献1に説明された解析方法により解析することができる。
図1に示す座屈型アクチュエータにおいて、理想的な強固なベース構造及び理想的なジョイントを有すると仮定すると、ジョイント角度θに対する瞬間的変位増幅率R
Bは、次式(2)に基づいて求めることができる。
【0043】
【数2】
図3は、ジョイント角度θに対する瞬間的変位増幅率R
Bの一例を示す図である。
【0044】
特異点の存在により、局所的に無限の増幅が理論的にはゼロ角度/変位量の構成において発生する。この直動圧電モータの構成によれば、特異点の近傍では、他の1段のレバレッジ機構と比べて非常に大きな増幅率を得ることができる。
【0045】
次に、
図1において出力ノード514と圧電素子501との間、及び圧電素子501と各再度ブロック600との間に設けられたジョイント機構について、
図4、
図5A及び
図5Bと共に説明する。
図4は、座屈型アクチュエータ500の構成を説明する図である。
図4中、
図1と同一部分には同一符号を付し、その説明は省略する。説明の便宜上、ジョイント501Rc,501Re,501Le,501Lcは同じ半径r
2の丸い、または、半球状の形状を有し、出力ノード514及びサイドブロック600R,600Lは同じ半径r
1の丸い、または、半球状の形状を有する。対称的なアクチュエータ構造のため、出力ノード514は
図4において回転することなく出力軸D1の方向に移動することができる。
【0046】
図5A及び
図5Bは、
図4に示す座屈型アクチュエータ500の表記を説明する図である。
図5Aは圧電素子501Lの水平状態を示し、
図5は圧電素子501Lの活性化された、傾斜状態を示す。
図5A及び
図5Bにおいて、dはジョイント501Le,501Lcの曲率半径の中心間の距離を示し、zは圧電素子501Lの変位量を示し、bはジョイント501Le,501Lcの接触点CP1,CP2における垂線間の距離を示す。
【0047】
距離dと変位量zの和がゼロ(0)であると、距離bも同じくゼロ(0)になる。しかし、変位量zは圧電素子501Lの活性化に応じて変化し、距離dは一定であるため、全ての動作状態において距離bをゼロ(0)に保つことはできない。距離bはゼロ(0)ではなく、システムにおける相互作用の力がゼロ(0)ではないと、ジョイント501Leとサイドブロック600Lとの間及びジョイント501Lcと出力ノード514との間の接触点CP1,CP2において摩擦力が発生し、接触点CP1,CP2に作用する垂線方向の力と距離bにより、モーメントと力のバランスを維持することができる。結果的に得られる相互作用の力をF
z、接触点CP1,CP2間の距離をL、接触点CP1とサイドブロック600Lの曲率半径の中心を繋ぐ仮想線と水平軸とがなす角度をθで示すと、摩擦力F
Fricは次式(3)から求めることができる。
【0048】
【数3】
摩擦は、接触点CP1,CP2における滑りを引き起こすモーメントを打ち消すことができる。しかし、転がり接触の場合は微小な滑りが起こること、及び、微小な滑りは各動作毎に蓄積されることは、既に知られている。座屈動作を不安定にする滑りを防止するため、距離dをゼロ(0)に設定してz<<Lにより摩擦を無視できる程度に小さいθの領域に低減しても良い。この条件が、ジョイント501Le,501Lcの曲率半径の中心が同一であることを表すことは、次式(4)から確認することができる。次式(4)は、例えば0.1ラジアン未満といった、無視できる程度に小さいθの領域において、三角関数の近似により定義することができる。
【0049】
【数4】
座屈型アクチュエータ500における予荷重については、関連した制約がある。第1の制約は、圧電素子501R,501Lの出力を最大化することである。この例において用いられている圧電素子501R,501Lは、圧電セラミックと電極の薄膜が積層されているので、圧電素子501R,501Lは、許容圧縮力に比べて大きな引張力に対する耐性が不十分である可能性がある。しかし、十分に大きな予荷重の力が印加されると、結果的に得られる圧電素子501R,501Lの力及び予荷重の力により、高い引張力及び高い圧縮力を許容し、座屈型アクチュエータ500から圧縮力及び引張力の両方を出力させることができる。第2の制約は、各圧電素子501R,501Lの全ての変位領域において一定の力を維持することであり、これは、予荷重の剛性が出力変位量を減少させ、各圧電素子501R,501Lから抽出可能な仕事が減少してしまうからである。第3の制約は、各接触面に作用する圧縮力を維持することであり、これは、各接触面に作用する圧縮力を維持することで摩擦力により圧電素子501R,501L及び出力ノード514の位置を保持できるからである。第4の制約は、接触面における非線形剛性を利用して直列的な弾性を低減することである。
【0050】
上記の各制約を満足させるには、
図6に示すように、線形予荷重補償バネ(PCS)k
PCSを機械モデルにおける出力ノード514に接続し、フレーム624と各サイドブロック600R,600Lとの間に水平に予荷重の力F
PLを印加する。
図6は、機械モデルにおける座屈型アクチュエータ500の弾性特性を説明する図である。
【0051】
予荷重は、出力ノード514とサイドブロック600R,600L間の短縮された距離により生成される。圧電素子501R,501Lの変位量は、出力ノード514とサイドブロック600R,600L間の距離に比べると小さいので、ジョイント501Le,501Lc,501Re,501Rcの変位量は、曲率半径の中心が同一であるジョイント501Le,501Lc,501Re,501Rcの直径の変化とみなすことができる。この結果、予荷重の力F
PLとPCSk
PCSにより生成された力との間の力のバランスは、次式(5)で表すことができる。ここで、Lは出力ノード514の中心と各サイドブロック600R,600Lの中心との間の距離を示す。予荷重の力F
PLとPCSk
PCSとの間の関係は、三角関数の近似により次式(6)で表すことができる。
【0053】
【数6】
図6に示す弾性の、機械モデルは、圧電素子501R,501Lにより駆動される座屈型アクチュエータ500の静的出力特性を計算するのに用いることができる。PCSk
PCSと、各圧電素子501R,501Lと、各ジョイント501Le,501Lc,501Re,501Rcと、フレーム624とには、4つの弾性特性が存在する。次式(7)で表される基本的な関係から、静的出力特性を表し座屈型アクチュエータ500から出力される力F
yは、次式(8)から求めることができる。
【0055】
【数8】
上記の式(7)及び式(8)において、F
PZTは圧電素子501R,501Lへの入力電圧V
PZTにより定義され、圧電素子501R,501Lの逆圧電効果を表す係数e
PZTは次式(9)で表すことができる。
【0056】
【数9】
上記の式(8)における予荷重の力F
PLとPCSk
PCSとの間の関係は、弾性特性により上記の式(6)の関係から変化する。
【0057】
上記の式(8)に基づき、座屈型アクチュエータ500の出力特性は
図7に示すようになる。
図7は、座屈型アクチュエータ500の出力特性の一例を示す図である。
図7中、縦軸は座屈型アクチュエータ500の圧電素子501R,501Lの推力を示し、横軸は圧電素子501R,501Lの変位量を示す。また、
図7中、実線は圧電素子501R,50Lが活性化されてオンである状態を示し、破線は圧電素子501R,501Lが非活性化されてオフである状態を示す。
図7及び後述する
図8乃至
図10中、「a.u.」は任意単位を示す。
【0058】
座屈型アクチュエータ500の1つの特徴的な特性は、圧電素子501R,501Lが、全てのジョイント501Le,501Lc,501Re,501Rcが
図1において水平方向に一列に整列した「ゼロ出力位置」から、
図1において自然に上下の両方向に移動する所謂「双方向移動」である。座屈型アクチュエータ500の双方向移動は、上述の特異点がゼロ出力位置で発生することで可能となる。この特異性により、座屈型アクチュエータ500は変位量を例えば50倍に増幅することができる。双方向移動は、ストロークを2倍として、例えば約100倍の変位増幅を作り上げる。最大出力変位量y
maxは、圧電素子500R,500Lへの最小入力(F
PZT=0)及び最大入力F
PZT=F
PZTmax)で出力される力がゼロになる位置間の距離で定義され、次式(10)から求めることができる。
【0059】
【数10】
ヘルツの接触定理によれば、転がり接触ジョイントの剛性k
Jは、曲面間の接触剛性として次式(11)で表すことができる。ここで、F
Jは接触力を示し、δは接触線近傍に主に発生する変形を示し、L
Jは各圧電素子501R,501Lを表す円柱の長さを示し、Eは円柱材料のヤング率を示し、vはポアソン比を表す。
【0060】
【数11】
上記の式(11)で表されているように、転がり接触ジョイントの剛性k
Jは、圧電素子501R,501L及び予荷重の力F
PLの合力と等しい接触力F
Jに応じて変動する。しかし、座屈増幅機構を介して印加される予荷重により、動作状態における転がり接触ジョイントの剛性k
Jの変動は極めて小さく、
図8に示すように例えば10%のオーダである。
図8は、転がり接触ジョイントの剛性k
J、即ち、接触剛性変動の一例を示す図である。
図8中、縦軸は接触剛性を示し、横軸は接触力を示す。
図8において、梨地で示す領域は、動作状態で使用される領域を示す。
【0061】
上記の式(1)で表される静的出力の力F
xを生成する直動圧電モータの一般的な特性に応じて、各種PASギア出力ロッドを使用することができる。本実施例では、使用されるギア出力ロッド520は、
図2に示すギア及びローラフォロワのタイプである。従来の設計方法と同様にして、ギア及びフォロワ514の両方の移動方向が変わる時に連続的な遷移を可能とするために、フォロワの軌跡の最小曲率半径はフォロワ514の半径より大きくなければならない。さらに、本実施例では、ギアとフォロワ514との間の円滑なエネルギ伝達及びフォロワ514の自然な往復運動を可能とするために、ギア出力ロッド520はフォロワ514の中心の移動軌跡を正弦波形状にする。フォロワ中心の移動軌跡は、次式(12)で表すことができる。ここで、y
FCは直動圧電モータの出力方向に向かうギア出力ロッド520に沿った位置を示し、y
FCmaxはフォロワ中心の最大変位量を示し、λはギア出力ロッド520の波長を示し、xは直動圧電モータの出力方向に向かう座屈型アクチュエータ500とギア出力ロッド520との間の相対変位量を示す。
【0062】
【数12】
上記の式(8)及び式(12)を考慮すると、ギア出力ロッド520により変換された座屈型アクチュエータ500の力特性は、次式(13)で表すことができる。
【0063】
【数13】
図9は、ギア出力ロッド520により変換された座屈型アクチュエータ500の力特性の一例を示す図である。
図9において、左側の縦軸は直動圧電モータの推力を示し、右側の縦軸は
図2中y方向へのフォロワの軌跡を示し、横軸はフォロワ中心の
図2中x方向への変位量を示す。また、
図9において、実線は圧電素子501R,501Lが活性化されてオンである状態を示し、一転鎖線は圧電素子501R,501Lが非活性化されてオフである状態を示し、破線はフォロワの軌跡を示す。
【0064】
上記の式(13)中、F
PZTを含む項は、圧電素子501R,501Lを介して入力される電源からのエネルギの作用を表す。式(13)中の他の項は、座屈型アクチュエータ500の弾性特性により蓄積されたエネルギの作用を表す。弾性特性の作用は、ギア出力ロッド520の波形サイクルの2倍と4倍である2つの周期的成分に分離される。
【0065】
上記式(13)の係数A
Fx,A
Fpztは、次式(14)で表すこともできる。
【0066】
【数14】
y
FCmaxがy
maxと等しい場合、F
PZTがF
PZTmaxと等しいと、(A
Fpzt・F
PZT)は4になり、
図9に示すように圧電素子501R,501Lのオン状態とオフ状態の間で水平及び垂直方向に対称なF
xu特性が得られる。係数A
FxはR
y2と共に増加するが、これと同時に、弾性特性の静的出力の力F
xに対する影響もR
y4と共に増加する。従って、パラメータR
yが大きくなるにつれて、静的出力の力F
xの制御がより難しくなることがわかる。
【0067】
上記の式(13)を上記の式(1)に代入することで、座屈型アクチュエータ500の力特性は次式(15)から求めることができる。
【0068】
【数15】
上記の式(15)から、静的出力の力F
xは1PAS波長λ内で2サイクル及び4サイクルの成分を含み、PASの波形サイクルに対してπ/2ラジアンの距離を有する二(2)つの座屈型アクチュエータ500により、効率的にギア出力ロッド520の位置にかかわらず静的出力の力F
xを生成できることがわかる。
【0069】
正弦と余弦の和の定理から、次式(16)が得られる。ここで、k=1,...,Nである。
【0070】
【数16】
上記の式(16)は、次式(17)に一般化することができる。
【0071】
【数17】
上記の式(17)は、式(17)の位相セットから発生する剰余を2πラジアンで除算すると、上記の式(16)の位相セットと同じになることを示している。
【0072】
上記の式(15)及び式(17)を考慮すると、以下に示すように、異なる静的出力の力F
xを生成する数種類のレイアウト設計を得ることができる。
【0073】
ケース1.弾性作用の完全な打ち消し:
φ
iがPAS波形サイクルに対してラジアンで示される位相セットのみを有する場合、F
PZT,iを含む項以外の項は、次式(18)からもわかるように、座屈型アクチュエータ500間で打ち消し合う。
【0074】
【数18】
この場合、静的出力の力F
xは、次式(19)で表すことができる。
【0075】
【数19】
上記の式(19)は、PAS波形の位相のみに依存する他の出力の項を考慮するだけで、F
PZT,iを調整することで静的出力の力F
xを制御できることを表している。直動圧電モータからのモータ出力が不要である場合には、大きなエネルギ損失を発生することなくF
PZT,iを一定に維持することができる。
【0076】
上述の力特性は、次式(20)で表されるように、元の位相セット及び位相シフトを有する他の位相セットを含むPAS波形のサイクルに対するラジアンで示される位相セットの各種組み合わせから求めることができる。
【0077】
【数20】
ケース2.弾性作用の部分的な打ち消し:
φ
iがPAS波形サイクルに対してラジアンで示される位相セットのみを有する場合、F
PZT,iを含む項以外の項は、次式(21)からもわかるように、座屈型アクチュエータ500間で打ち消し合う。
【0078】
【数21】
この場合、静的出力の力F
xは、次式(22)で表すことができる。
【0079】
【数22】
上記の式(22)は、直動圧電モータが圧電素子501からの力の入力を受けることなく周期的な力を生成することを示している。このような力特性により、直動圧電モータは、自己の位置を自己で保持する自己保持機能を有する。
【0080】
上述の力特性は、次式(23)で表されるように、元の位相セット及び位相シフトを有する他の位相セットを含むPAS波形のサイクルに対するラジアンで示される位相セットの各種組み合わせから求めることができる。
【0081】
【数23】
他のレイアウト設計では、モータ出力にPAS波形サイクルに対して4倍のサイクル成分を含んでも良い。しかし、4倍成分の蓄積は、力に大きなリップルを発生させる可能性があり、モータ出力の制御を難しくする。このため、本実施例で用いられているようなタイプの直動圧電モータの場合は、上述のレイアウト設計が好ましい。
【0082】
図9から、各座屈型アクチュエータ500は、PAS波形の位相に対して各λ/4位置で圧電素子への入力をオン状態からオフ状態に切り替え、オフ状態からオン状態に切り替えることで、直動圧電モータのモータ出力として常に正方向及び負方向の両方向の力を出力可能であることがわかる。また、予荷重の力とPCS力の座屈型アクチュエータの力出力への作用の打ち消しにより、圧電素子がオンであり出力ノードがPAS波形の山から谷といったゼロから終点まで移動する場合の力の遷移と、圧電素子がオフであり出力ノードがPAS波形の終点からゼロまで移動する場合の力の遷移とは、同じになる。
【0083】
直動圧電モータの全ての座屈型アクチュエータから出力される力の正の合力により、直動圧電モータから最大出力を得ることができる。
図10は、使用される座屈型アクチュエータ数に応じた直動圧電モータの最大出力特性の一例を示す図である。
図10において、左側の縦軸は直動圧電モータの最大推力を示し、右側の縦軸はy方向に沿ったフォロワ軌跡を示し、横軸はx方向に沿ったフォロワ中心の変位量を示す。また、
図10において、実線は六(6)つの座屈型アクチュエータ500を使用した場合を示し、粗い破線は四(4)つの座屈型アクチュエータ500を使用した場合を示し、細かい破線はフォロワ軌跡を示す。六(6)つの座屈型アクチュエータ500が使用される場合と四(4)つの座屈型アクチュエータ500が使用される場合の両方では、上述の位相レイアウトを採用した。使用する座屈型アクチュエータ500の数が大きくなる程、直動圧電モータから出力される推力の平均値が大きくなり、直動圧電モータの最大推力の変動が小さくなる。
【0084】
圧電素子への入力がオン状態からオフ状態に、そしてオフ状態からオン状態に切り替えられる切り替え位置を、PAS波形の位相に対する各λ/4位置から変えることで、直動圧電モータから出力される平均推力を制御することができる。
【0085】
次に、直動圧電モータの連続電圧駆動制御について説明する。
【0086】
直動圧電モータの各圧電素子に供給される電圧が連続的に変えられると、直動圧電モータは特定の力特性を示す。上記の式(9)と共に説明したように、解析は、圧電素子の入力電圧がF
PZTに比例している点を考慮しても良い。このため、以下の説明では、入力電圧の代わりにF
PZTのパターンについて説明する。F
PZTのある特定のパターンは、次式(24)で表すことができる。ここで、F
PZTinは、圧電素子の力入力の振幅(以下、「圧電力入力」とも言う)を示し、P
inは位相コマンドで指定される位相を示す。
【0087】
【数24】
上記の式(24)を上記の式(15)に代入することで、静的出力の力F
xは次式(25)で表すことができる。
【0088】
【数25】
上記の式(25)中、3番目の和の項は一定入力条件と全く同じであり、これは、3番目の和の項に依存する力が上述のレイアウト設計に依存する力とは多少異なる性質を有することを表す。この違いにより、圧電素子の力入力F
PZTinによる作用が1/2になる。上記の式(25)の1番目の項は、位相P
inによりλ/2波長に対して制御可能な静的出力の力F
xを生成する直動圧電モータから出力される力の平均出力を決定する。上記の式(25)の1番目の項における位相P
inの役割を考慮すると、位相P
inは好ましくは上記の式(25)の2番目の項と3番目の和の項のバランスを制御するのには使用されない。さらに、座屈型アクチュエータが上述のケース1またはケース2のレイアウト設計に応じて配置されており、正弦波成分のサイクルがPAS波形の4倍である場合、レイアウト位相は互いに打ち消し合う。
【0089】
この場合、静的出力の力F
xは、以下のようにレイアウト設計を考慮して定義することができる。
【0090】
ケース1.弾性作用の完全な打ち消し:
このレイアウト設計では、静的出力の力F
xは、次式(26)から求めることができる。
【0091】
【数26】
上記の式(26)は、静的出力の力F
xが、力のリップルを生じることなく、圧電力入力F
PZTin及び位相P
inの両方により制御可能であることを表している。
【0092】
ケース2.弾性作用の部分的な打ち消し:
このレイアウト設計では、静的出力の力F
xは、次式(27)から求めることができる。
【0093】
【数27】
上記の式(27)は、圧電力入力F
PZTIinがF
PZTmaxと等しくR
yがA
FpztとF
PZTinの積を2にする場合、静的出力の力F
xが、力のリップルを生じることなく、位相P
inのみにより制御可能であることを表している。その他の場合には、上記の式(27)の2番目の項がある程度のレベルを有し、力のリップルを発生する可能性がある。
【0094】
図11は、一実施例における制御システム50の一例を示すブロック図である。
図11に示す制御システム50は、電源51、駆動装置52、複数の圧電素子53、座屈型機構54、ギア55、負荷56及びコントローラ57を含む。駆動装置52は、電源52からの電源電圧を供給され、圧電素子53を駆動する。圧電素子53は、上述の直動圧電モータの圧電素子501(501R,501L)に相当するものであっても良く、上述の座屈型アクチュエータ500を形成しても良い。駆動装置52は、コントローラ57からのコマンドに基づいて、例えばオン及びオフ状態或いは正弦波状の遷移などの、各圧電素子53の電圧条件を制御する。
【0095】
座屈型機構54は、上述の座屈型アクチュエータ500のような、弾性特性を有する複数の座屈型アクチュエータを含んでも良い。複数の座屈型アクチュエータは、ギア55に対して一定の位相間隔で配置されており、位相間隔は弾性特性の少なくとも一部を打ち消す。弾性特性の非線形成分が多項式で近似される場合、位相間隔は多項式の高調波成分により発生されるモータ推力の高調波成分の少なくとも一部を打ち消しても良い。従って、駆動装置52は、座屈型機構54の座屈型アクチュエータを形成する圧電素子53を駆動することで座屈型機構54を駆動する。ギア55は、上述の線形ギア出力ロッド520に相当するものであっても良く、複数の座屈型アクチュエータの出力をモータ出力に変換する。ギア55は、ギア55と係合する複数の座屈型アクチュエータの係合部の移動軌跡がギア55に対して正弦波形状となるような形状を有する。
【0096】
駆動装置52、圧電素子53、座屈型機構54及びギア55は、直動圧電モータを形成可能である。負荷56は、直動圧電モータのギア55により駆動される駆動対象であっても良い。負荷56は、直動圧電モータの一部を含んでも良い。コントローラ57は、CPU(Central Processing Unit)などのプロセッサにより形成可能である。
【0097】
図11に示す例では、負荷56がセンサ部560を含む。しかし、センサ部560は、ギア55に対して設けられて直動圧電モータの一部を形成するものであっても良い。例えば、センサ部560は周知の手段でギア55の速度を検出する速度センサと、ギア55のギア位相角度を周知の手段で検出する位相センサを含んでも良い。速度センサが用いる構成と方法は、特定の種類に限定されず、速度センサの出力からギア55の速度、そして直動圧電モータの速度が検出可能であれば良い。また、例えば位置センサなどのその他の種類のセンサを用いる場合には、これらのセンサからの信号に基づいて、ギア55の速度、そして直動圧電モータの速度を観測可能であれば良い。位相センサが用いる構成と方法は、特定の種類に限定されず、速度センサの出力からギア55のギア位相角度、そして直動圧電モータの回転位相角度が検出可能であれば良い。また、例えば位置センサなどのその他の種類のセンサを用いる場合には、これらのセンサからの信号に基づいて、ギア55のギア位相角度、そして直動圧電モータの回転位相角度を観測可能であれば良い。
【0098】
コントローラ57は、直動圧電モータの目標速度とセンサ部560から受信する直動圧電モータの速度に基づいて、直動圧電モータの目標推力を生成することができる。コントローラ57は、ギア55のギア位相角度とセンサ部560から受信するギア55のギア位相角度に基づいて、目標ギア位相角度と圧電素子に入力する電圧の目標振幅を生成することができる。従って、コントローラ57は、目標推力に基づいて、座屈型機構54を形成する座屈型アクチュエータの各圧電素子53の電圧を調整する第1の位相と、目標ギア位相角度とギア55のギア位相角度に基づいて、各圧電素子53に対する第2の位相を求めることができる。さらに、コントローラ57は、第1位相と第2の位相を比較して、第1及び第2の位相の比較結果を示す、座屈型機構54の座屈型アクチュエータの電圧条件を生成することができる。
【0099】
従って、コントローラ57は、駆動装置52にコマンドを出力して、電圧条件に基づいて複数の圧電素子53への電圧入力を制御することができる。この結果、駆動装置52は、複数の圧電素子53に、ギア55の対応する位相角度に応じた、例えば正弦波成分を含む電圧を入力する。このような複数の圧電素子53への電圧入力は、正弦波成分の振幅、及び/または、ギア55の形状と波形形状の違いに応じてモータ推力を調整するように決定することができる。このようにして、座屈型機構54の各座屈型アクチュエータは座屈力を出力するように駆動され、その後各座屈力は各ギア位相におけるギア55の傾斜に応じて変換される。座屈型機構54の複数の座屈型アクチュエータの合力は、ギア55を駆動し、さらに負荷56を駆動することができる。
【0100】
図12は、一実施例における制御方法を採用する制御処理の一例を説明するフローチャートである。
図12に示す制御処理は、弾性特性を有し複数の圧電素子を含む複数の座屈型アクチュエータと、複数の座屈型アクチュエータの出力をモータ出力に変換するギアを備えた直動圧電モータを制御する。制御処理は、例えば
図11に示す制御システム500により実行されても良い。
【0101】
図12に示すステップS101において、コントローラ57は、座屈型機構54の座屈型アクチュエータの電圧条件を、
図11と共に説明した方法で生成する。ステップS102において、コントローラ57は、電圧条件に基づいて複数の圧電素子53への電圧入力を制御するコマンドを駆動装置52へ出力する。具体的には、コントローラ57は、駆動装置52を制御して、複数の圧電素子53に、ギア55の対応する位相角度に応じた、例えば正弦波成分を含む電圧を入力させる。このような複数の圧電素子53への電圧入力は、正弦波成分の振幅、及び/または、ギア55の形状と波形形状の違いに応じてモータ推力を調整するように決定することができる。このようにして、座屈型機構54の各座屈型アクチュエータは座屈力を出力するように駆動され、その後各座屈力は各ギア位相におけるギア55の傾斜に応じて変換される。座屈型機構54の複数の座屈型アクチュエータの合力は、ギア55を駆動し、さらに負荷56を駆動することができる。
【0102】
コントローラ57は、駆動装置52を制御して、複数の圧電素子53に、ギア55の対応する位相角度に応じた、例えば矩形波成分を含む電圧を入力させても良い。
【0103】
上述の制御システム及び制御方法は、例えば
図2に示す直動圧電モータ(または、アクチュエータ)以外の直動圧電モータを同様にして駆動及び制御することができる。直動圧電モータの例は、以下に
図13及び
図14と共に説明するものを含んでも良い。
【0104】
図13は、一実施例における直動圧電モータの第2の例を示す図である。直動圧電モータは、
図13に示すように、改良された正弦波形状のギアを有する線形ギア出力ロッド520に接続された複数の座屈型アクチュエータ500を含み、複数の座屈型アクチュエータ500の位相を有する双極性アクチュエータにより駆動される。
【0105】
座屈型アクチュエータを形成する複数の圧電素子の力に基づく出力ノードの方向D1に沿った往復運動は、フォロワを介してギア出力ロッド520の波状溝に垂直な力を印加する。これにより、直動圧電モータまたはギア出力ロッド520が線形ガイド521に案内されて出力方向D3に移動し、モータの変位がセンサ523を用いた周知の手段により検出される。
【0106】
最大定格速度v
xmaxは、圧電素子の熱特性を考慮して設定できる。電圧及び周波数は、座屈型アクチュエータ500におけるエネルギ損失と熱的励起に影響を及ぼす。圧電素子に用いられる材料は、材料のキュリー温度を超えると圧電特性を失う。これらの理由で、直動圧電モータの実用的な動作条件は、温度を考慮して決定しても良い。
【0107】
PASの波長λは、PASと座屈型アクチュエータ500により駆動されるフォロワとの接触応力を考慮して決定できる。最大接触応力は、PASの歯の山で発生するため、ジョイントの曲率半径はある半径より大きく、ジョイントは例えば硬化工具鋼で形成されることが好ましい。
【0108】
図14は、一実施例における直動圧電モータの第3の例を示す図である。直動圧電モータは、座屈型アクチュエータ500を含む。座屈型アクチュエータ500は、フレーム524と、圧電素子510R,510Lを含む。圧電素子510Rは、第1及び第2の回転ジョイントを介して、フレーム524上のサイドブロック512Rと出力部514との間に接続される。第1の回転ジョイントは、サイドブロック512R上の支持部511により支持された回動可能な部材510Reを含み、第2の回転ジョイントは、出力部514により支持された回転可能な部材510Rcを含む。同様に、圧電素子510Lは、第3及び第4の回転ジョイントを介して、フレーム524上のサイドブロック512Lと出力部514との間に接続される。第3の回転ジョイントは、サイドブロック512L上の支持部511により支持された回動可能な部材510Leを含み、第4の回転ジョイントは、出力部514により支持された回転可能な部材510Lcを含む。
図14中、CP1,CP2は圧電素子510Lの接触位置を示し、CP3,CP4は圧電素子510Rの接触位置を示す。
【0109】
出力部514は、一対の円柱フォロワ522が設けられる開口部を有するフレーム526を含む。六角形状を有するPCS(Preload Compensation Spring)518は、フレーム526の両側に設けられている。各PCSは、支持部(図示ぜず)などに固定されても良い。線形ギア出力ロッド(図示せず)は、出力部514のフレーム526に設けられた開口部を貫通、フォロワ522と係合する。座屈型アクチュエータ500を形成する圧電素子510R,510Lの力に基づく出力部514の方向D1に沿った往復運動は、フォロワ522を介してギア出力ロッドの波状溝に垂直な力を印加する。これにより、直動圧電モータまたはギア出力ロッドが出力方向D3に移動する。
【0110】
上記実施例は線形型アクチュエータに適用されているが、上記実施例は同様にして回転型アクチュエータに適用可能である。
【0111】
以上、本発明を実施例により説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々の変形及び改良が可能であることは言うまでもない。