特許第6333025号(P6333025)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6333025顔料分散液用の炭素微粒子の製造方法、顔料分散液の製造方法、及びインクジェット用インクの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6333025
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】顔料分散液用の炭素微粒子の製造方法、顔料分散液の製造方法、及びインクジェット用インクの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09C 1/44 20060101AFI20180521BHJP
   C01B 32/15 20170101ALI20180521BHJP
   C09D 17/00 20060101ALI20180521BHJP
   C09D 11/322 20140101ALI20180521BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20180521BHJP
【FI】
   C09C1/44
   C01B32/15
   C09D17/00
   C09D11/322
   B41M5/00 120
【請求項の数】7
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-74617(P2014-74617)
(22)【出願日】2014年3月31日
(65)【公開番号】特開2015-196744(P2015-196744A)
(43)【公開日】2015年11月9日
【審査請求日】2017年3月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】390029148
【氏名又は名称】大王製紙株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000165376
【氏名又は名称】兼松株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082647
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 義久
(72)【発明者】
【氏名】岩井 俊博
【審査官】 仁科 努
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−177502(JP,A)
【文献】 特開2013−237774(JP,A)
【文献】 特開2009−155199(JP,A)
【文献】 特開2009−067912(JP,A)
【文献】 特開2011−178841(JP,A)
【文献】 特開2008−063573(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09C 1/44
C09D 17/00
C09D 11/322
C01B 32/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リグニン含有液から顔料分散液用の炭素微粒子を製造する方法であって、
前記リグニン含有液に無機塩を混合して無機塩混合液とし、
この無機塩混合液を液滴化及び乾燥して無機塩含有微粒子とし、
この無機塩含有微粒子を500℃以上で熱分解して熱分解微粒子とし、
この熱分解微粒子から無機塩を除去して平均粒子径が1〜20μm、外殻の厚さが50〜200nmの中空状の炭素微粒子とし、
この平均粒子径が1〜20μmの炭素微粒子を平均粒子径が50〜200nmとなるまで湿式粉砕して前記顔料用の炭素微粒子とする、
ことを特徴とする顔料分散液用の炭素微粒子の製造方法。
【請求項2】
前記無機塩混合液のリグニン濃度を5〜7(質量/容量)%と
前記無機塩の除去は、前記熱分解微粒子をスラリー化し、このスラリーをフィルタープレスで正洗浄及び一次圧搾した後、二次洗浄することで行い、
前記正洗浄及び一次圧搾に際して排出された一次ろ液は、pH12〜14として前記熱分解微粒子のスラリー化に使用する、
請求項1記載の顔料分散液用の炭素微粒子の製造方法。
【請求項3】
顔料と分散剤及び水とを混合して顔料分散液を製造する方法であって、
前記顔料として請求項1又は請求項2記載の製造方法によって得られた炭素微粒子を使用する、
ことを特徴とする顔料分散液の製造方法。
【請求項4】
前記炭素微粒子の混合を、ビーズ径0.2〜0.4mmの分散媒体を用いて行う、
請求項3記載の顔料分散液の製造方法。
【請求項5】
顔料分散液用の炭素微粒子の製造方法であって、
請求項1又は請求項2記載の製造方法によって前記炭素微粒子の比表面積450〜550m2/g、吸油量800〜900ml/100gとする、
ことを特徴とする顔料分散液用の炭素微粒子の製造方法
【請求項6】
顔料、分散剤及び水が配合された顔料分散液の製造方法であって、
前記顔料の主成分は、請求項1請求項2、又は請求項5記載の製造方法によって得られた炭素微粒子であり、
前記分散剤の主成分は、ナフタレン・カルボン酸である、
ことを特徴とする顔料分散液の製造方法
【請求項7】
顔料、分散剤及び水が配合された顔料分散液に、添加剤が配合されたインクジェット用インクの製造方法であって、
前記顔料分散液は、請求項6記載の製造方法によって得られた顔料分散液である、ことを特徴とするインクジェット用インクの製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製紙工場において排出される黒液等から顔料分散液用の炭素微粒子を製造する方法、当該炭素微粒子を使用して顔料分散液を製造する方法、及びインクジェット用インクを製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェット印刷機に用いられるインクジェット用インクとしては、水溶性染料を水等と混合して得た染料系インクのほか、カーボンブラック等の顔料を分散剤や水等と混合し、更にこの顔料分散液を各種添加剤等と混合して得た顔料系インクが存在する。この顔料系インクは、染料系インクと比較して耐水性や耐光性に優れるという利点を有するが、不溶性の顔料を水等に分散させて得るものであり、顔料の分散性が悪いため、ノズルの目詰まりが生じ易い等の問題を有している。
【0003】
そこで、現在では、分散性の向上等を目的として、分散剤の種類を特定する提案(例えば、特許文献1,2参照。)や、顔料として使用するカーボンブラックを改質する提案(例えば、特許文献3参照。)、顔料、分散剤、水等の混合方法を特定する提案(例えば、特許文献4参照。)、等が行われている。
【0004】
一方、顔料系インクに使用する顔料としては、従来から、カーボンブラックが多用されている(上記特許文献3,4参照。)。このカーボンブラックは、天然ガスや石油、クレオソート油等の化石燃料を熱分解することで得られる炭素微粒子であり、黒色、かつ微粒子状である。しかしながら、カーボンブラックは、化石燃料を原料とするため、近年の環境保護を推進する社会の要請に沿わない側面を有する。
【0005】
そこで、資源を有効利用し、もって環境保護を推進するという観点から、製紙工場において排出される黒液や、バイオエタノール抽出後の溶液等のリグニン含有液が注目を集めている。具体的には、例えば、製紙工場においては、蒸解工程において多量の黒液が排出されており、この黒液は蒸解薬液由来のナトリウムや硫黄等のアルカリ薬品の他、リグニン等の有機物を含む。現在、この黒液に含まれるリグニンの有効利用が種々検討されており、例えば、特許文献5は、リグニン含有液から炭素微粒子を製造する方法を提案する。この提案は、リグニン含有液を微小液滴化・乾燥して微粒子とし、この微粒子を熱分解して炭素微粒子を製造するというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−146558号公報
【特許文献2】特開2002−38072号公報
【特許文献3】特許第4769081号公報
【特許文献4】特開2009−67912号公報
【特許文献5】特開2009−155199号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
引用文献5は、このようにして製造される炭素微粒子がカーボンブラック等の代替品になることを期待しており、さまざまな試験結果を開示して製造される炭素微粒子が有用であることを明らかにしようとしている。しかしながら、同文献は、例えば、段落[0056]において「本発明の製造方法で生成された炭素微粒子は軽量であり、比表面積が市販の活性炭と同等であるものも存在するため、タイヤ等のゴムの補強剤としての利用の他、活性炭、除放材、黒色顔料、トナー、カラーフィルター、導電材料、静電防止剤、電池電極材料、及び粘性流体等としての利用が期待される」とするに留まる。つまり、同文献は、得られる炭素微粒子の一般的な用途を挙げるに留まり、顔料分散液やインクジェット用インクの顔料として使用するに好適な炭素微粒子やその製造方法を提案するものではない。また、リグニン含有液から製造される炭素微粒子がカーボンブラックと全く同じ物性であれば顔料分散液やインクジェット用インクの顔料として使用するに困難はないが、当該炭素微粒子の物性はカーボンブラックの物性と異なる。
【0008】
本発明が解決しようとする主たる課題は、黒液等のリグニン含有液から顔料分散液用とするに好適な炭素微粒子を製造する方法、当該炭素微粒子を使用して顔料分散液を製造する方法、及びインクジェット用インクを製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題を解決するための本発明は、次の通りである。
〔請求項1記載の発明〕
リグニン含有液から顔料分散液用の炭素微粒子を製造する方法であって、
前記リグニン含有液に無機塩を混合して無機塩混合液とし、
この無機塩混合液を液滴化及び乾燥して無機塩含有微粒子とし、
この無機塩含有微粒子を500℃以上で熱分解して熱分解微粒子とし、
この熱分解微粒子から無機塩を除去して平均粒子径が1〜20μm、外殻の厚さが50〜200nmの中空状の炭素微粒子とし、
この平均粒子径が1〜20μmの炭素微粒子を平均粒子径が50〜200nmとなるまで湿式粉砕して前記顔料用の炭素微粒子とする、
ことを特徴とする顔料分散液用の炭素微粒子の製造方法。
【0010】
〔請求項2記載の発明〕
前記無機塩混合液のリグニン濃度を5〜7(質量/容量)%と
前記無機塩の除去は、前記熱分解微粒子をスラリー化し、このスラリーをフィルタープレスで正洗浄及び一次圧搾した後、二次洗浄することで行い、
前記正洗浄及び一次圧搾に際して排出された一次ろ液は、pH12〜14として前記熱分解微粒子のスラリー化に使用する、
請求項1記載の顔料分散液用の炭素微粒子の製造方法。
【0011】
〔請求項3記載の発明〕
顔料と分散剤及び水とを混合して顔料分散液を製造する方法であって、
前記顔料として請求項1又は請求項2記載の製造方法によって得られた炭素微粒子を使用する、
ことを特徴とする顔料分散液の製造方法。
【0012】
〔請求項4記載の発明〕
前記炭素微粒子の混合を、ビーズ径0.2〜0.4mmの分散媒体を用いて行う、
請求項3記載の顔料分散液の製造方法。
【0013】
〔請求項5記載の発明〕
顔料分散液用の炭素微粒子の製造方法であって、
請求項1又は請求項2記載の製造方法によって前記炭素微粒子の比表面積450〜550m2/g、吸油量800〜900ml/100gとする、
ことを特徴とする顔料分散液用の炭素微粒子の製造方法
【0014】
〔請求項6記載の発明〕
顔料、分散剤及び水が配合された顔料分散液の製造方法であって、
前記顔料の主成分は、請求項1請求項2、又は請求項5記載の製造方法によって得られた炭素微粒子であり、
前記分散剤の主成分は、ナフタレン・カルボン酸である、
ことを特徴とする顔料分散液の製造方法
【0015】
〔請求項7記載の発明〕
顔料、分散剤及び水が配合された顔料分散液に、添加剤が配合されたインクジェット用インクの製造方法であって、
前記顔料分散液は、請求項6記載の製造方法によって得られた顔料分散液である、ことを特徴とするインクジェット用インクの製造方法
【0016】
(主な作用効果等)
本発明者等は、種々の試験を行い、その過程で無機塩含有微粒子の熱分解温度と得られる炭素微粒子の分散性とが相関性を有することを知見した。そこで、更に試験を重ね、熱分解温度を550〜1000℃にすると、分散性が良好な炭素微粒子が得られることを知見し、もって本発明を完成するに至った。
【0017】
なお、前述特許文献5は、段落[0028]において「本発明でいう熱分解とは、リグニンを含む有機物顔料を300℃〜1200℃で加熱して炭素化することをいう。一般的には熱分解は、500℃から800℃で行われる」としている。しかるに、この熱分解温度は、単に炭化するのに適する温度を規定したものである。つまり、本発明が創作される前においては、無機塩含有微粒子の熱分解温度と分散性とが相関性を有するとの知見が存在しなかったため、引用文献5の存在を知見していた本発明者等も、当該文献からは本願発明を想到することができなかった。
【発明の効果】
【0018】
本発明によると、黒液等のリグニン含有液から顔料分散液用とするに好適な炭素微粒子を製造する方法、当該炭素微粒子を使用して顔料分散液を製造する方法、及びインクジェット用インクを製造する方法となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】炭素微粒子の製造設備フロー図である(無機塩混合工程、液滴化及び乾燥工程、熱分解工程等)。
図2】炭素微粒子の製造設備フロー図である(洗浄工程、粉砕工程、乾燥工程等)。
図3】洗浄工程の詳細フロー図である。
図4】(1)は炭素微粒子のサンプル写真、(2)は当該炭素微粒子の外殻部分の拡大サンプル写真である。
図5】(1)は別の例に係る炭素微粒子のサンプル写真、(2)は当該炭素微粒子の外殻部分の拡大サンプル写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明の実施の形態を説明する。
本形態に係る顔料分散液用の炭素微粒子の製造方法は、リグニン含有液を原料とする。このリグニン含有液としては、例えば、製紙工場の蒸解工程等において排出される黒液や、バイオエタノール抽出後の溶液等を使用することができる。
【0021】
〔無機塩の添加等〕
リグニン含有液は、必要により、酸化、脱水等して、脱水ケーキとし、図1に示すように、この脱水ケーキC1を、コンテナ等を使用して撹拌槽70まで搬送し、この撹拌槽70に供給する。また、撹拌槽70には、無機塩X及びろ過清水等の水Wを供給する。無機塩X及び水Wは、各別に撹拌槽70に直接供給することもできる。ただし、撹拌槽70における処理の安定化を図るために、両者X,Wをいったん予備槽60に供給し混合したうえで、流路R1を通して撹拌槽70まで流送し、当該撹拌槽70に供給するのが好ましい。
【0022】
この撹拌槽70において得られるリグニン及び無機塩Xを含むスラリー(無機塩混合液)S1は、リグニン濃度が4〜10(質量/容量)%となるように調節するのが好ましく、4〜8(質量/容量)%となるように調節するのがより好ましく、6〜8(質量/容量)%となるように調節するのが特に好ましい。リグニン濃度が10(質量/容量)%を上回ると、後述するスプレードライヤ80において得られる無機塩含有微粒子の外殻が厚くなり過ぎ、後述するフィルタープレス120において無機塩Xを除去して得た中空状粒子が硬くなり過ぎるため、炭素微粒子の分散性が不十分になるおそれがある。他方、リグニン濃度が4(質量/容量)%を下回ると、上記無機塩含有微粒子の外殻が十分な厚さとならず、フィルタープレス120において無機塩Xを除去する際に中空状粒子が不均一に崩れてしまうため、炭素微粒子の粒度分布がブロードになるおそれがある。
【0023】
リグニン含有液と混合する無機塩Xとしては、メタ珪酸ナトリウムを使用するのが好ましく、メタ珪酸ナトリウム及び水酸化ナトリウムを組み合わせて使用するのがより好ましい。メタ珪酸ナトリウムを使用すると、後述する無機塩Xの洗浄が容易になる。
【0024】
メタ珪酸ナトリウム及び水酸化ナトリウムを組み合わせて使用する場合、リグニンとメタ珪酸ナトリウムと水酸化ナトリウムとの混合質量割合は、100:98〜888:0.06〜5.4となるように調節するのが好ましく、100:296〜888:1.8〜5.4となるように調節するのがより好ましい。リグニン100質量部に対する無機塩X(メタ珪酸ナトリウム及び水酸化ナトリウム)の混合割合が98.06質量部を下回ると、後述するフィルタープレス120において無機塩Xを除去するのが困難になるおそれがある。また、無機塩Xの混合割合が98.06質量部を下回ると、熱分解中に当該無機塩Xが溶融してしまい、得られる熱分解粒子を中空状に出来なくなるおそれがある。他方、リグニン100質量部に対する無機塩X(メタ珪酸ナトリウム及び水酸化ナトリウム)の混合割合が893.4質量部を上回ると、後述するフィルタープレス120において無機塩Xを除去する際に中空状粒子が不均一に崩れてしまい、炭素微粒子の粒度分布がブロードになるおそれがある。
【0025】
本形態の撹拌槽70には、モーターMを駆動源とする撹拌翼71が備えられている。この撹拌翼71による撹拌によって、脱水ケーキC1中のリグニン及び無機塩Xが均等に混合される。また、撹拌槽70、あるいは上記した予備槽60には、高濃度での処理を可能とするために、加温装置を備えるのが好ましい。
【0026】
〔液滴化及び乾燥等〕
撹拌槽70において得られたリグニン及び無機塩Xを含むスラリー(無機塩混合液)S1は、流路R2を通して液滴化・乾燥手段であるスプレードライヤ80まで流送し、このスプレードライヤ80において液滴化及び乾燥する。このスプレードライヤ80内には、例えば、送風手段Fから送風が行われ、また、スラリーS1が図示しないスプレーノズルから噴霧される。
【0027】
スラリーS1の流送に際しては、フィルターたるスリーン75を通すのが好ましい。スクリーン75を通すことで、スラリーS1中の未溶解物によって上記スプレーノズルが詰まるのが防止される。なお、スクリーン75としては、例えば、150〜250メッシュのものを、好ましくは200メッシュのものを使用することができる。
【0028】
スプレードライヤ80にはスラリーS1とともに熱風G1を吹き込み、スラリーS1を液滴化及び乾燥して無機塩含有微粒子とする。この際、スラリーS1の乾燥後の粉末の粒子径は二次粒子で1〜25μmとするのが好ましく、1〜12μmとするのがより好ましく、1〜10μmとするのが特に好ましい。二次粒子径が25μmを上回ると炭素微粒子の粒子径が大きくなりすぎ、分散処理を行った際に粒度分布がブロードになり、また、画像濃度や光沢の低下に繋がるおそれがある。二次粒子径が1μmを下回ると炭素粒子の粒子径が小さくなりすぎ、バグフィルターでの回収効率の低下やハンドリングの悪化に繋がるおそれがある。なお、平均粒子径(μm)は、レーザー回折方式の粒度分布径(型番:マイクロトラックMT−3000II、日機装製)を用いて測定した体積平均粒子径(D50)である。
【0029】
また、スラリーS1の噴霧圧は、0.2〜0.5MPaとするのが好ましく、0.4〜0.5MPaとするのがより好ましく、0.45〜0.5MPaとするのが特に好ましい。噴霧圧が0.5MPaを上回ると、炭素微粒子の粒子径が小さくなり過ぎ、炭素微粒子を中空状とすることによる効果、すなわち、顔料分散液中における沈降遅延効果が十分に得られなくなるおそれがある。他方、噴霧圧が0.2MPaを下回ると、炭素微粒子の粒子径が大きくなり過ぎ、分散処理を行った際の粒度分布がブロードになるおそれがある。
【0030】
さらに、スプレードライヤ80に吹き込む熱風G1の温度は、280〜330℃とするのが好ましく、300〜320℃とするのがより好ましく、320℃とするのが特に好ましい。このように温度調節することによって、スプレードライヤ80からの排風温度が130℃となるようにすると更に好適である。
【0031】
スプレードライヤ80において得られる無機塩含有微粒子は粉末状であり、ファンにより流路R3を通してサイクロン90まで風送し、このサイクロン90で捕集するのが好ましい。
【0032】
サイクロン90においては、無機塩含有微粒子が集塵され、底部から排出される。他方、無機塩含有微粒子が集塵された後の排ガスは、流路R4を通してバグフィルタ91まで風送される。このバグフィルタ91においては、排ガス中に残存する微細な無機塩含有微粒子が集塵される。
【0033】
バグフィルタ91において微細な無機塩含有微粒子が集塵された後の排ガスG2は、大気中に排気することもできるが、排風ファンF2が備わる流路R6を通して適宜の酸化処理設備50に送ることもできる。排ガスG2は、二酸化炭素ガスを含んでおり、また、熱を有する。したがって、排ガスG2を酸化処理設備に送り、酸化処理ガスとして使用することで、二酸化炭素ガスの有効利用及び排出量削減が実現される。また、排ガスG2が有する熱も有効利用される。なお、バグフィルタ91に変えてスクラバー等を使用することもできるが、排ガスG2が有する熱(排ガスG2は、例えば、130℃程度の温度を有する。)の有効利用という観点からは、バグフィルタ91を使用する方が好ましい。
【0034】
〔熱分解等〕
サイクロン90及びバグフィルタ91において集塵された無機塩含有微粒子は、流路R5を通して熱分解手段たる外熱ジャケット100aが備わる外熱式のロータリーキルン100まで送り、このロータリーキルン100内に供給して熱分解する。
【0035】
この熱分解は、500℃以上で行うことが好ましく、好適には550〜1000℃で行うのが好ましく、より好適には600〜1000℃で行うのがより好ましく、更には700〜1000℃で行うのが特に好ましい。然しながら、熱分解温度が3000℃を上回ると、最終的に得られる炭素微粒子が硬くなり、分散性が不十分になるため、好ましい上限としては1200℃以下に調整することが製造効率や製造コストの面で好ましい。他方、熱分解温度が550℃を下回ると、最終的に得られる炭素微粒子が未焼成となり、分散性が不十分になる。
【0036】
無機塩含有微粒子の熱分解は、1〜6時間かけて行うのが好ましく、2〜3時間かけて行うのがより好ましい。本形態の無機塩含有微粒子は中空状であるところ、この熱分解を急速に行うと系内の水蒸気濃度が上昇し、リグニン成分が溶融して中空状を維持できないおそれがある。
【0037】
無機塩含有微粒子に含まれる水分や結晶水がロータリーキルン100内に留まることを防止するためには、熱分解処理前に無機塩含有微粒子の温度を100〜200℃として1〜4時間放置するのが好ましい。
【0038】
熱分解に際して発生した熱分解ガスN1は、外熱ジャケット100aに熱風を供給する熱風炉101の燃焼用ガスとして使用する。この熱分解ガスN1の使用により、熱風炉101に新たに供給するLPGガス等の燃料N2の使用量を減らすことができる。
【0039】
熱風炉101で生成した燃焼ガスは、外熱ジャケット100a内に供給し、ロータリーキルン100の外熱源として利用する。さらに、外熱源として利用した後の外熱ジャケット100aから排出された排ガスG3は、上記排ガスG2と同様に、二酸化炭素ガスを含んでおり、また、熱を有する。したがって、排ガスG3も、流路R7を通して適宜の酸化処理設備50に送り、酸化処理ガスとして使用するのが好ましい。排ガスG3を酸化処理ガスとして使用することで、二酸化炭素ガスの有効利用及び排出量削減を実現することができ、また、排ガスG3が有する熱が有効利用される。
【0040】
ロータリーキルン100において熱分解した熱分解微粒子C2は、有機物が熱分解され炭化されているものの、脱水ケーキC1と混合した無機塩X由来の無機塩を含有する。そこで、次に、熱分解微粒子C2を洗浄して当該熱分解微粒子C2から無機塩を除去する。以下、詳細に説明する。
【0041】
〔スラリー化等〕
熱分解微粒子C2は、図2に示すように、コンベア等を使用してスラリー化槽110まで搬送し、このスラリー化槽110に供給する。スラリー化槽110には、熱分解微粒子C2とともに、ろ過清水等の水Wを供給し、熱分解微粒子C2をスラリー化する。このスラリー化は、得られるスラリーS2の固形分濃度が10〜30質量%となるように、好ましくは15〜20質量%となるように行う。
【0042】
スラリー化槽110には、モーターMを駆動源とする撹拌翼111が備えられている。この撹拌翼111による撹拌によって、熱分解微粒子C2の分散が迅速に行われ、また、分散濃度が均一化される。
【0043】
スラリー化槽110内のスラリーS2は、必要により、例えば60℃に加温することができる。この加温は、スラリー化槽110に供給する水Wを加温することによって、あるいはスラリー化槽110自体を加温することによって、あるいは熱分解微粒子C2が保持する熱を利用することによって行うこと等ができる。
【0044】
〔脱水等〕
スラリー化槽110において得られたスラリーS2は、流路R8を通して脱水手段たるフィルタープレス120まで流送し、このフィルタープレス120に圧入する。ただし、このスラリーS2の流送に際しては、その途中においてスラリーS2をフィルターたるスクリーン115に通すのが好ましい。スラリーS2をスクリーン115に通すことによってフィルタープレス120における無機塩の除去を均一に行うことができ、一部無機塩が除去されていない炭素微粒子が製造されてしまうのを防止することができる。
【0045】
脱水手段としては、フィルタープレス120に変えて、例えば、ベルトプレス等を使用することも考えられる。また、スクリーン75としては、例えば、150〜250メッシュのものを、好ましくは200メッシュのものを使用することができる。さらに、スラリーS2をフィルタープレス120に圧入するに先立っては、当該スラリーS2に含まれる無機塩Xを沈殿させ、沈殿した無機塩Xを除去することもできる。
【0046】
スラリーS2をフィルタープレス120に圧入した際に発生する圧入ろ液D1は、廃液処分することもできるが、前述した予備槽60に返送し、この予備槽60に供給するのが好ましい。フィルタープレス120は無機塩Xの除去を行う手段であり、圧入ろ液D1は無機塩Xを含む。したがって、圧入ろ液D1を予備槽60に返送することで、圧入ろ液D1に含まれる無機塩Xが再利用されることになり、予備槽60に新たに供給する無機塩Xの量を減らすことができる。
【0047】
圧入ろ液D1は、ただちに予備槽60に返送することもできるが、図3にも示すように、検知手段121においてpH及び電気伝導度を検知し、圧入ろ液D1の状態を確認したうえで予備槽60に返送するのが好ましい。この際の圧入ろ液D1は、通常pH12〜14、好ましくはpH13〜14である。また、電気伝導度は、通常13〜20S/m(ジーベック毎メートル)、好ましくは18〜20S/mである。
【0048】
フィルタープレス120に圧入したスラリーS2は、ろ過清水等の水Wによって正洗浄した後、一次圧搾する。この正洗浄及び一次圧搾に際して排出された一次ろ液D2は、無機塩Xを含むものの正洗浄に利用した水Wによって無機塩Xの濃度が極めて薄くなっている。したがって、予備槽60に返送するのは効率的ではなく、スラリー化槽110に返送するのが好ましい。なお、この工程において排出される一次ろ液D2は、続いて行う二次洗浄において無機塩Xが溶解し易いpHに維持するという観点から、pH12〜14とするのが好ましく、pH13〜14とするのがより好ましい。また、電気伝導度は、通常8〜12S/m、好ましくは10〜12S/mである。
【0049】
一次圧搾が終了したら、水Wを使用して逆洗浄を行い、更に二次圧搾を行って脱水ケーキC3を得る。また、この二次圧搾が終了したら、フィルタープレス120に窒素、空気等の置換ガスG4を吹き込む。この置換ガスG4の吹き込みにより、脱水ケーキC3中の無機塩Xを含む水分が置換ガスG4によって置き換えられ、水分率及び無機塩Xの含有率がより低下する。
【0050】
逆洗浄、二次圧搾及びガス置換に際して排出された二次ろ液D3は、ただちに廃液処理することもできるが、検知手段121においてpH及び電気伝導度を検知し、無機塩Xが除去されているか否か、つまり洗浄の進み具合を確認するのが好ましい。なお、この工程において排出される二次ろ液D3は、通常pH8.0〜9.5、好ましくはpH8.0〜9.0である。また、電気伝導度は、通常100〜1200μS/m、好ましくは100〜500μS/mである。
【0051】
〔粉砕・乾燥等〕
洗浄後の炭素微粒子は、例えば、平均粒子径が1〜20μm、より好ましくは平均粒子径が1〜12μmで、外殻の厚さが50〜200nmの中空状であり、また、嵩密度が40〜60kg/m3である。したがって、極めて軽量である。
【0052】
しかるに、当該炭素微粒子を顔料分散液用とする場合は、より微細であることが要求される。そこで、脱水ケーキC3は、コンテナ等を使用して分散槽141まで搬送し、この分散槽141において、ろ過清水等の水Wや有機溶剤等と混合して炭素微粒子の分散液とする(スラリー化)。この炭素微粒子の分散液は、流路R9を通してビーズミル等の湿式粉砕機140へ流送し、この湿式粉砕機140において炭素微粒子を湿式粉砕する。この湿式粉砕によって、例えば、1〜20μmであった炭素微粒子が50〜200nmとなるまで粉砕される。
【0053】
この湿式粉砕後の炭素微粒子は、そのまま液体品として製品化することも、流路R10を通して乾燥機130に流送等し、この乾燥機130において乾燥して乾燥品として製品化することもできる。
【0054】
乾燥機130としては、例えば、自然対流式、定温式、循環式等の各種形式のものを使用することができる。ただし、炭素微粒子は非常に嵩密度が低いため、熱風による飛散を防止するという観点から、定温式の乾燥機を使用して乾燥するのが好ましい。この乾燥の温度は、好ましくは100〜130℃、より好ましくは110〜130℃である。この乾燥によって炭素微粒子の乾燥品が得られる。
【0055】
〔炭素微粒子〕
以上のようにして製造した炭素微粒子は、比表面積が450〜550m2/gであるのが好ましく、480〜520m2/gであるのがより好ましい。比表面積が550m2/gを上回ると、顔料分散液の顔料として使用した場合において、凝集力が強く、分散性が不十分になるおそれがある。また、比表面積が550m2/gを上回ると、インクジェット用インクの顔料として使用した場合において、耐光性が不十分になるおそれがある。他方、比表面積が450m2/gを下回ると、顔料分散液の顔料として使用した場合において、分散粒径が大きくなり、沈降が生じ易くなるため、分散性が不十分になるおそれがある。
【0056】
なお、本発明に関して比表面積(m2/g)は、窒素吸着によるBET法によって測定した値である。
【0057】
また、以上のようにして製造した炭素微粒子は、吸油量が800〜900mL/100gであるのが好ましく、800〜850mL/100gであるのがより好ましい。吸油量が900mL/100gを上回ると、顔料分散液の顔料として使用した場合において、粘度が上昇するため、分散性が不十分になるおそれがある。また、吸油量が900mL/100gを上回ると、インクジェット用インクの顔料として使用した場合において、印刷濃度や光沢性が不十分になるおそれがある。他方、吸油量が800mL/100gを下回ると、溶剤との親和性が低下するおそれがある。
【0058】
なお、本発明に関して吸油量(mL/100g)は、JIS K 5101−13−1:2004顔料試験方法−第13部:吸油量−第1節:精製あまに油法によって測定した値である。
【0059】
〔顔料分散液及びその製造方法〕
本形態の顔料分散液を製造するにあたっては、顔料と分散剤及び水とを混合する。
(顔料)
顔料としては、上記した本形態の炭素微粒子を使用する。この点、顔料としては、本形態の炭素微粒子の他、例えば、カーボンブラック等の公知の顔料を混合使用することもできるが、本形態の炭素微粒子が主成分(例えば50質量%以上、好適には90質量%以上。)となるように使用するのが好ましい。特に本形態においては、顔料として炭素微粒子のみを使用する。
【0060】
顔料分散液中における顔料の固形分濃度は、5〜20質量%であるのが好ましく、10〜15質量%であるのがより好ましい。顔料の固形分濃度が5質量%を下回ると、画像濃度低下となるおそれがある。他方、顔料の固形分濃度が20質量%を上回ると、流動性悪化となるおそれがある。
【0061】
(分散剤)
分散剤としては、例えば、非イオン界面活性剤、高分子界面活性剤、エポキシ変性アクリル等、ナフテレン・カルボン酸を使用することができる。ただし、分散剤としては、ナフタレン・カルボン酸を使用するのが好ましく、特殊高分子界面活性剤を使用しないのが好ましい。分散剤としてナフタレン・カルボン酸を使用すると、炭素微粒子の凝集が抑制され、また、顔料分散液の粘度が抑制される。これに対し、分散剤として特殊高分子界面活性剤を使用すると、炭素微粒子が凝集し易くなる。
【0062】
顔料分散液中における分散剤は、顔料100質量部に対し、5〜30質量部であるのが好ましく、5〜20質量部であるのがより好ましい。分散剤が、5質量部を下回ると、顔料が十分に分散しないおそれがある。他方、分散剤が30質量部を上回ると、本形態の顔料分散液を使用して製造されたインクジェット用インクが、耐水性の悪いものとなり、本形態の顔料分散液をインクジェット用インクの原材料として使用できなくなるおそれがある。
【0063】
(混合)
分散剤や水と混合した炭素微粒子は、例えば、ビーズミル、衝突法、液中プラズマ等の分散機を使用して分散させる(分散処理)。この分散処理においては、凝集している炭素微粒子が一次粒子又は一次粒子に近い状態まで解砕される。この際の炭素微粒子の平均粒子径は、例えば50〜200nm、好ましくは50〜150nmである。なお、平均粒子径(μm)は、レーザー回折方式の粒度分布径(島津製作所社製、製品名SA−LD−2200)を用いて体積平均粒子径(D50)を測定した値である。
【0064】
また、この分散処理は、ビーズ(分散媒体)を使用して行うのが好ましい。ビーズとしては、例えば、ガラス、鉄、ステンレス、セラミックス等の材質からなるものを使用することができる。ただし、ビーズ径が0.2〜0.4mmのビーズを使用するのが好ましく、0.1〜0.3mmのビーズを使用するのがより好ましい。ビーズ径が0.4mmを上回ると、単位体積当たりのビーズ個数が少なくなり、炭素微粒子とビーズとの衝突回数が減るため、炭素微粒子の分散処理が不十分になるおそれがある。他方、一般的に、ビーズ径が小さくなると、ビーズ1個当たりの質量が軽くなり、顔料に対する衝撃力が弱くなるため、顔料の分散処理が不十分になるとされているが、本形態の炭素微粒子は極めて脆く、衝撃に弱いため、ビーズ径が0.2mm以上であれば顔料の分散処理を行うことができる。
【0065】
本形態の顔料分散液は、25℃における粘度が、1〜50mPa・Sであるのが好ましく、1〜10mPa・Sであるのがより好ましい。なお、粘度は、雰囲気温度25℃、ローター回転数60rpmの条件下において、B型粘度計(東機産業(株)製、TVM−10M)を用いて測定した値である。
【0066】
〔インクジェット用インク及びその製造方法〕
インクジェット用インクを製造するにあたっては、顔料分散液と水性媒体や各種添加剤とを混合する。顔料分散液としては、上記した本形態の顔料分散液を使用する。また、水性媒体としては、水や水性溶剤を使用することができる。水性溶剤としては、例えば、保湿剤として機能するもの、浸透剤として機能するもの、乾燥促進剤として機能するもの等が存在するが、本形態においいては、いずれの水性溶剤も使用することができる。添加剤としては、例えば、吐出安定性を付与する機能を有するノニオン性、アニオン性、カチオン性、両イオン性の界面活性剤や、防カビ剤、キレート剤、pH調整剤、消泡剤等を使用することができる。
【0067】
インクジェット用インク中における顔料分散液の配合率は、0.5〜10質量%であるのが好ましく、2〜6質量%であるのがより好ましい。また、インクジェット用インク中における水性媒体の配合率は、70〜90質量%であるのが好ましく、75〜85質量%であるのがより好ましい。さらに、インクジェット用インク中における各種添加剤の配合率は、10〜30質量%であるのが好ましく、15〜25質量%であるのがより好ましい。なお、顔料分散液、水性媒体、各種添加剤の合計は、100質量%を超えることはない。
【0068】
(平均粒子径)
平均粒子径(μm)は、レーザー回折方式の粒度分布径(型番:マイクロトラックMT−3000II、日機装製)を用いて測定した体積平均粒子径(D50)である。測定試料の調製は、0.1%ヘキサメタ燐酸ソーダ水溶液に粒子を添加し超音波で1分間分散した。
【0069】
(吸油量)
吸油量(mL/100g)は、JIS−K5101−1:2004に準じて測定した。すなわち105℃以上110℃以下で2時間乾燥した試料2g以上5g以下をガラス板に取り、精油アマニ油(酸化4以下のもの)をビュレットから少量ずつ試料の中央に滴下しその都度ヘラで練り合わせして、滴下練り合わせの操作を繰り返し、全体が初めて一本の棒状にまとまったときを終点として、精製アマニ油の滴下量を求め、下記式(1)によって吸油量を算出した。
吸油量(mL/100g)=[アマニ油量(mL)×100]/試料(g)…(1)
【0070】
(粘度)
粘度(mPa・s)は、雰囲気温度20℃、ローター回転数60rpmの条件下において、B型粘度計(東機産業(株)製、TVM−10M)を用いて測定した値である。
【実施例1】
【0071】
次に、本発明の実施例を説明する。
本発明者等は、製紙工場の蒸解工程において排出される黒液をリグニン含有液として使用した試験を行った。この黒液(pH14,固形分濃度50〜60質量%)は、酸化、脱水等して、pH1.0〜2.5、水分率40〜50%、灰分率0.5〜3.0%の脱水ケーキ(一次ケーキ)とした。
【0072】
この一次ケーキは、固形分濃度が14.3(質量/容量)%、28.6(質量/容量)%となるようにスラリー化した。このスラリー化に際しては、無機塩としてメタ珪酸ナトリウム及び水酸化ナトリウムを添加した。この添加は、リグニン1.0kgに対して、メタ珪酸ナトリウムが2.96kg、水酸化ナトリウムが0.18kgとなるように行った。なお、この添加量によると、固形分濃度が13.0(質量/容量)%の場合においてはリグニンの濃度が約4(質量/容量)%となり、固形分濃度が26.3(質量/容量)%の場合においてはリグニンの濃度が約8(質量/容量)%となる。
【0073】
無機塩を添加した後のスラリーは、スプレードライヤで液滴化及び乾燥し、無機塩含有微粒子とした。スプレードライヤで乾燥させた乾燥粒子の平均粒子径は1〜25μmであり、噴霧圧は0.5MPaとした。スプレードライヤに供給する際のスラリーの温度は40〜80℃、スプレードライヤに供給する熱風の温度は320℃、スプレードライヤから排気されるガスの温度は120℃であった。
【0074】
スプレードライヤにおいて得られた無機塩含有微粒子は、サイクロンを使用して集塵(回収)した。集塵した無機塩含有微粒子の成分構成は、質量基準でリグニン:無機塩:水=2:6.28:0.82であった。
【0075】
無機塩含有微粒子は、外熱式のロータリーキルンを使用して有機分を熱分解(焼成)した。熱分解温度は700℃、焼成時間は2時間とした。得られた熱分解微粒子の成分構成は、質量基準で炭素微粒子:無機塩:水=0.5:4.5:0.0となった。
【0076】
熱分解微粒子は、加温したろ過清水を使用してスラリー化した。このスラリー化は、固形分濃度が10%及び20%の二種類となるように行った。得られたスラリーは、いずれも温度が60℃であった。
【0077】
熱分解微粒子のスラリーは、フィルタープレス(ろ過面積0.6m2、ろ室容積7.8L、ろ布:ポリプロピレン製)に圧入し、更に正洗浄、一次圧搾、逆洗浄、二次圧搾、ガス置換をして脱水ケーキ(二次ケーキ)とした。圧入圧力は0.2MPa、一次圧搾圧力及び二次圧搾圧力は1.5MPa、洗浄液の供給圧力は0.1MPa、置換ガスの供給圧力は0.5MPaとした。洗浄液としてはろ過清水を使用し、置換ガスとしては空気を使用した。二次ケーキの成分構成は、炭素微粒子:無機塩:水分=0.48:0.01:3.8であった。この結果から無機塩が十分に除去されていることが分かる。
【0078】
なお、本発明者等が試験したところによると、一次ケーキに添加する無機塩の質量をリグニン1.0kgに対して9.0kgとした場合は、上記二次ケーキに含まれる無機塩が4.0質量%となり、また、添加する無機塩の質量をリグニン1.0kgに対して0.98kgとした場合は無機塩を除去することができなかった。このことから、脱水ケーキに添加する無機塩は、リグニン100質量部に対して300質量部以上とするのが好ましいことを知見した。
【0079】
無機塩を除去した後の二次ケーキは、定温式乾燥機を使用して乾燥した。また、乾燥温度は、120℃とした。このようにして得られた炭素微粒子(乾燥品)のサンプル写真を、図4及び図5に示した。図4の(1)は得られた炭素微粒子(二次粒子)のサンプル写真であり、(2)は当該炭素微粒子の外殻部分を拡大したサンプル写真である。また、図5は別のサンプル写真である。これらの写真から、得られた炭素微粒子(二次粒子)は中空状であり、外殻がナノスケール一次粒子によって多孔質状であること等が分かる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明は、製紙工場において排出される黒液等から顔料分散液用の炭素微粒子を製造する方法、当該炭素微粒子を使用して顔料分散液を製造する方法、及びインクジェット用インクを製造する方法として適用可能である。
【符号の説明】
【0081】
50…酸化処理設備、60…予備槽、70…撹拌槽、80…スプレードライヤ、90…サイクロン、91…バグフィルタ、100…ロータリーキルン、110…スラリー化槽、120…フィルタープレス、130…乾燥機、140…湿式粉砕機、141…分散槽、C1…脱水ケーキ、C2…熱分解微粒子、C3…脱水ケーキ。
図1
図2
図3
図4
図5