(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、押出チューブ成形性、成形されたチューブの巻状態で保管された場合の耐くっつき性及び耐キンク性に優れ、医療用途に好適なチューブを得ることのできる、塩化ビニル系樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、鋭意研究した結果、特定の分子量、及び分子量分布を有する塩化ビニル系樹脂と特定の可塑剤との樹脂組成物により、上記課題を達成できることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、
(a)下記(1)及び(2)の特徴を満たす塩化ビニル系樹脂100質量部;及び
(b)ジイソノニルシクロヘキサン−1,2−ジカルボキシレート可塑剤15〜150質量部;を
含有する塩化ビニル系樹脂組成物である。
(1)ゲル浸透クロマトグラフィにより測定した微分分子量分布曲線のポリスチレン換算質量平均分子量が165,000以上235,000以下である。
(2)分子量分布Mw/Mnが2.03〜2.22である。但し、Mwはゲル浸透クロマトグラフィにより測定した微分分子量分布曲線のポリスチレン換算質量平均分子量であり、Mnはポリスチレン換算数平均分子量である。
【0008】
第2の発明は、上記成分(b)が、シス異性体80〜100モル%と、トランス異性体20〜0モル%との混和物であることを特徴とする第1の発明に記載の塩化ビニル系樹脂組成物である。但し、シス異性体とトランス異性体との和は100モル%である。
【0009】
第3の発明は、押出成形用であることを特徴とする第1の発明又は第2の発明に記載の塩化ビニル系樹脂組成物である。
【0010】
第4の発明は、医療用であることを特徴とする第1〜3の発明の何れか1に記載の塩化ビニル系樹脂組成物である。
【0011】
第5の発明は、チューブ用であることを特徴とする第1〜4の発明の何れか1に記載の塩化ビニル系樹脂組成物である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の塩化ビニル系樹脂組成物は、成形性、特に押出チューブ成形性に優れる。また本発明の塩化ビニル系樹脂組成物からなるチューブは、巻状態で保管された場合の耐くっつき性及び耐キンク性に優れる。そのため医療用チューブとして好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の塩化ビニル系樹脂組成物は、(a)下記(1)及び(2)の特徴を満たす塩化ビニル系樹脂を含む。
(1)ゲル浸透クロマトグラフィ(以下、GPCと略すことがある。)により測定した微分分子量分布曲線(以下、GPC曲線と略すことがある。)のポリスチレン換算質量平均分子量が165,000〜235,000である。
(2)分子量分布Mw/Mnが2.03〜2.22である。但し、Mwはゲル浸透クロマトグラフィにより測定した微分分子量分布曲線のポリスチレン換算質量平均分子量であり、Mnはポリスチレン換算数平均分子量である。
【0014】
上記成分(a)は、塩化ビニル系樹脂であり、上記(1)及び(2)の特徴を満たすこと以外は制限されず、任意の塩化ビニル系樹脂を用いることができる。
【0015】
塩化ビニル系樹脂としては、−CH
2−CHCl−で表される基を有する全ての重合体、例えば、塩化ビニルの単独重合体;塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル・(メタ)アクリル酸共重合体、塩化ビニル・(メタ)アクリル酸メチル共重合体、塩化ビニル・(メタ)アクリル酸エチル共重合体、塩化ビニル・マレイン酸エステル共重合体、塩化ビニル・エチレン共重合体、塩化ビニル・プロピレン共重合体、塩化ビニル・スチレン共重合体、塩化ビニル・イソブチレン共重合体、塩化ビニル・塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル・スチレン・無水マレイン酸三元共重合体、塩化ビニル・スチレン・アクリロニトリル三元共重合体、塩化ビニル・ブタジエン共重合体、塩化ビニル・イソプレン共重合体、塩化ビニル・塩素化プロピレン共重合体、塩化ビニル・塩化ビニリデン・酢酸ビニル三元共重合体、塩化ビニル・アクリロニトリル共重合体、塩化ビニル・各種ビニルエーテル共重合体等の塩化ビニルと塩化ビニルと共重合可能な他のモノマーとの共重合体;後塩素化ビニル共重合体等の塩化ビニル単独重合体や塩化ビニル系共重合体を改質したもの;更には塩素化ポリエチレン等の構造上塩化ビニル樹脂と類似の塩素化ポリオレフィンなどをあげることができる。
【0016】
上記成分(a)としては、これらの1種又は2種以上の混合物を用いることができる。これらの中で、塩化ビニルの単独重合体が成形性、耐くっつき性、及び耐キンク性の観点から好ましい。
【0017】
上記成分(a)は、(1)GPCにより測定したGPC曲線のポリスチレン換算質量平均分子量が165,000〜235,000、好ましくは165,000〜205,000である。成分(a)のポリスチレン換算質量平均分子量が、上記範囲にあるときに、成形性、耐くっつき性、及び耐キンク性は、驚くべきことに、特異的に優れたものになる。
【0018】
また上記成分(a)は、(2)分子量分布Mw/Mnが2.03〜2.22、好ましくは2.06〜2.12である。ここでMwはGPCにより測定したGPC曲線のポリスチレン換算質量平均分子量であり、MnはGPCにより測定したGPC曲線のポリスチレン換算数平均分子量である。成分(a)の分子量分布Mw/Mnが、上記範囲にあるときに、成形性、耐くっつき性、及び耐キンク性は、驚くべきことに、特異的に優れたものになる。
【0019】
本明細書でいうゲル浸透クロマトグラフィにより測定した微分分子量分布曲線のポリスチレン換算分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィによる分子量測定において、ポリ塩化ビニル系樹脂の分子量を相対的に示す尺度である。ポリスチレン換算分子量は、ポリ塩化ビニル系樹脂と同一のGPC測定条件を用いて測定した分子量が既知の種々の分子量の単分散直鎖ポリスチレンから得られた保持容量とポリスチレン分子量との関係を示す較正曲線を、ポリ塩化ビニル系樹脂に適用することによって算出される。この点、ポリスチレン換算分子量は、ポリスチレン相当分子量であるとも換言される。同一の保持容量に溶出したポリ塩化ビニル系樹脂とポリスチレン(両者は同じポリスチレン換算分子量である)とは同一慣性半径を持つ。それゆえ、ポリ塩化ビニル系樹脂のポリスチレン換算分子量は、当該樹脂が直鎖状であるか、長鎖分岐、短鎖分岐、あるいは両分岐を持つ等の分岐構造に依らない。
【0020】
本明細書において、GPC測定は、典型的には以下のように行うことができる。システムとして、日本分光株式会社の高速液体クロマトグラフィシステム「LC−2000Plus(商品名)」(デガッサー、送液ポンプ「PU−2080(商品名)」、オートサンプラー「AS−2055(商品名)」、カラムオーブン及びRI(示差屈折率)検出器を含むシステム。)を用い;カラムとして、昭和電工株式会社のスチレンジビニルベンゼン共重合体カラム「GPC KF−806L(商品名)」2本を連結して用い;和光純薬工業株式会社の特級テトラヒドロフラン(安定剤不含)を移動相として;流速1.0ミリリットル/分、カラム温度40℃、試料濃度1.5ミリグラム/ミリリットル、試料注入量100マイクロリットルの条件で測定する。なお、各保持容量における溶出量は、ポリ塩化ビニル系樹脂の屈折率の分子量依存性が無いとみなしてRI検出器の検出量から求める。
【0021】
試料は、上記移動相に使用したテトラヒドロフラン10ミリリットルに、樹脂組成物15ミリグラムを投入し、室温で静置して溶解後、トムシック(TOMISIC)株式会社のシリンジフィルター「TITAN3−PTFE(商品名)」のポアサイズ0.45μmのものを使用して濾過し、調製する。また、保持容量からポリスチレン換算分子量への較正曲線は、アジレントテクノロジー(Agilent Technology)株式会社の標準ポリスチレン「EasiCal PS−1(商品名)」(Plain Aの分子量6870000、841700、152800、28770、2930;Plain Bの分子量2348000、327300、74800、10110、580)を使用して作成する。解析プログラムは、日本分光株式会社の「ChromNAV GPC(商品名)」を使用する。なお、カラムとしては、「GPC KF−806L(商品名)」2本を連結して用いる以外に、「GPC KF−802(商品名)」1本および「GPC KF−801(商品名)」1本を連結して用いることもでき、また、「GPC KF800D(商品名)」等1本を「GPC KF−806L(商品名)」2本に連結して用いることもできる。
【0022】
GPCの理論及び測定の実際については、共立出版株式会社の「サイズ排除クロマトグラフィー 高分子の高速液体クロマトグラフィー、著者:森定雄、初版第1刷1991年12月10日」などの参考書を参照することができる。
【0023】
本発明の塩化ビニル系樹脂組成物は、(b)ジイソノニルシクロヘキサン−1,2−ジカルボキシレート可塑剤を含む。
【0024】
上記成分(b)は、好ましくは、シス異性体80〜100モル%と、トランス異性体20〜0モル%との混和物である。ここでシス異性体とトランス異性体との和は100モル%である。成形性、耐くっつき性、及び耐キンク性の特に優れた樹脂組成物を得ることができる。
【0025】
なお上記成分(b)のシス異性体とトランス異性体との比率は、プロトンの核磁気共鳴スペクトル(以下、
1H−NMRと略すことがある。)により求めることができる。ジアルキルヘキサヒドロフタレートのメチンのプロトンは2.5〜3.0ppmにシグナルが現れ、該シグナルのうち2.7〜3.0ppmはシス異性体に、2.5〜2.7ppmはトランス異性体に帰属される。従って、シス異性体の比率は2.5〜3.0ppmの積分面積に対する2.7〜3.0ppmの積分面積として、トランス異性体の比率は2.5〜3.0ppmの積分面積に対する2.5〜2.7ppmの積分面積として、求めることができる。
1H−NMRの測定は、例えば、特表2005−504119号公報などを参照して行うことができる。また株式会社三井化学分析センターなどに測定を依頼して行うこともできる。
【0026】
上記成分(a)と上記成分(b)との配合比は、成形性、耐くっつき性、及び耐キンク性の観点から、成分(a)100質量部に対して、成分(b)15〜150質量部、好ましくは20〜120質量部である。
【0027】
本発明の樹脂組成物には、本発明の目的に反しない限度において、上記成分(b)以外の可塑剤、例えば、フタル酸エステル、トリメリット酸エステル、脂肪酸2塩基性エステル、リン酸エステル、エポキシ系可塑剤、及びポリエステル系可塑剤を1種又は2種以上含ませてもよい。
【0028】
本発明の樹脂組成物には、塩化ビニル系樹脂及びその樹脂組成物に通常用いられる安定剤を、更に含ませることができる。上記安定剤としては、例えば、有機スズ化合物系、バリウム−亜鉛系、カルシウム−亜鉛系、及び鉛系の安定剤などをあげることができる。これらの中で、環境問題の観点から、有機スズ化合物系、バリウム−亜鉛系、及びカルシウム−亜鉛系の安定剤が好ましい。安定剤の配合量は、上記成分(a)100質量部に対して、0.1〜10質量部が好ましい。
【0029】
本発明の樹脂組成物には、各種金属セッケン、脂肪酸、及びポリエチレンワックスなどの滑剤を、更に含ませることができる。滑剤の配合量は、上記成分(a)100質量部に対して、0.1〜10質量部が好ましい。
【0030】
本発明の樹脂組成物には、本発明の目的に反しない限度において、所望により、塩化ビニル系樹脂及びその樹脂組成物に通常用いられる各種添加剤(例えば、熱安定剤、充填剤、滑剤、発泡剤、顔料、紫外線吸収剤など。)や各種充填材(例えば、炭酸カルシウム、クレー、タルクなど。)を更に含ませることができる。
【0031】
本発明の樹脂組成物は、上記成分(a)、上記成分(b)、及び所望に応じて用いる任意成分を、単軸押出機、二軸押出機、ロール、ミキサー又は各種のニーダー等を使用して溶融混練することにより得ることができる。好ましくは加圧ニーダーを用い、樹脂温度150〜180℃で溶融混練することにより得ることができる。
【実施例】
【0032】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0033】
使用した原材料
(a)塩化ビニル系樹脂:
(a−1)Mw=170,000、Mw/Mn=2.04の塩化ビニル単独重合体。
(a−2)Mw=180,000、Mw/Mn=2.06の塩化ビニル単独重合体。
(a−3)Mw=200,000、Mw/Mn=2.12の塩化ビニル単独重合体。
(a−4)Mw=230,000、Mw/Mn=2.20の塩化ビニル単独重合体。
【0034】
(a’)比較塩化ビニル系樹脂:
(a’−1)Mw=140,000、Mw/Mn=2.06の塩化ビニル単独重合体。
(a’−2)Mw=170,000、Mw/Mn=2.02の塩化ビニル単独重合体。
(a’−3)Mw=200,000、Mw/Mn=2.25の塩化ビニル単独重合体。
(a’−4)Mw=240,000、Mw/Mn=2.20の塩化ビニル単独重合体。
【0035】
(b)ジイソノニルシクロヘキサン−1,2−ジカルボキシレート可塑剤:
(b−1)シス異性体80モル%、トランス異性体20モル%のジイソノニルシクロヘキサン−1,2−ジカルボキシレート可塑剤。
(b−2)シス異性体90モル%、トランス異性体10モル%のジイソノニルシクロヘキサン−1,2−ジカルボキシレート可塑剤。
(b−3)シス異性体100モル%、トランス異性体0モル%のジイソノニルシクロヘキサン−1,2−ジカルボキシレート可塑剤。
【0036】
(C)任意成分:
(C−1)株式会社ADEKAのジオクチル錫メルカプト系安定剤「アデカスタブ465(商品名)」。
(C−2)株式会社ADEKAのバリウム−亜鉛系複合安定性。
(C−3)三井化学株式会社のポリエチレンワックス系滑剤「ハイワックス4202E(商品名)」。
【0037】
測定方法
(1)押出チューブ成形性:
スパイラルダイ出口の樹脂温度170℃、冷却水温度15℃、引取速度10m/分、及び真空水槽の真空度−7.0KPaの条件で、内径2.1mm、外径3.3mmの押出チューブを成形する際の、ドローダウン性、押出チューブ表面外観、及び押出チューブ形状を目視観察し、以下の基準で評価した。
◎:ドローダウン性、押出チューブ表面外観、及び押出チューブ形状の全てが良好である。
○:押出チューブの表面にやや肌荒れがあるが、ドローダウン性と押出チューブ形状は良好である。
△:押出チューブの表面に肌荒れがあり、形状にも乱れがあるが、ドローダウン性は良好である。
×:押出チューブの表面に顕著な肌荒れがあり、形状にも大きな乱れがある。またドローダウン性も悪い。
【0038】
(2)押出チューブが巻状態で保管された場合の耐くっつき性:
上記押出チューブ成形性の評価で得た押出チューブから長さ5メートルのサンプルを採取し、ドーナッツ状(ドーナッツの穴の大きさを直径20cmにした。)に巻き束ね、温度70℃、相対湿度60%の恒温恒湿機中に1週間静置し、温度23度、相対湿度50%の環境で24時間状態調整した後、以下の基準で評価した。
◎:チューブ間のくっつきは全く生じておらず、簡単にほどけた。
○:チューブ間のくっつきが僅かに生じている。
△:チューブ間のくっつきがあり、かつチューブを手で触るとややべたつき感がある。
×:チューブ間のくっつきがあり、かつチューブの表面にやや肌荒れが目視観察される。
【0039】
(3)耐キンク性
上記押出チューブ成形性の評価で得た押出チューブから長さ10cmのサンプルを採取し、温度23度、相対湿度50%の環境で24時間状態調整した後、同環境下で、引張圧縮試験機を使用し、圧縮速度120mm/分、チャック間距離50mmの条件でチューブを圧縮し、サンプルの長さ方向の中央部周辺においてキンクが発生した時点のチャック移動距離(L)を求め、以下の基準で評価した。ここで「キンク」とは、チューブが折れ曲がる等して閉塞され、導通管としての機能を果たせなくなった状態をいう。
○:L≧40mm
×:L<40mm
【0040】
実施例1〜11、比較例1〜4
表1〜3の何れか1に示す量(質量部)の成分を、加圧ニーダーを使用して排出時樹脂温度160℃の条件で溶融混練し、塩化ビニル樹脂組成物を得た。上記(1)〜(3)の評価を行った。結果を表1〜3の何れか1に示す。
【0041】
【表1】
【0042】
【表2】
【0043】
【表3】
【0044】
本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、押出チューブ成形性に優れる。また得られたチューブは、巻状態で保管された場合の耐くっつき性及び耐キンク性に優れる。
【0045】
一方、成分(a)のMwが規定よりも小さい比較例1、成分(a)の分子量分布Mw/Mnが規定よりも小さい比較例2、成分(a)の分子量分布Mw/Mnが規定よりも大きい比較例3、及び成分(a)のMwが規定よりも大きい比較例4は、何れも押出チューブ成形性に劣る。また得られたチューブは、巻状態で保管された場合の耐くっつき性及び耐キンク性の何れも劣る。