【文献】
萩原伸彦,ガラスカーテンウォールの音響透過損失の簡易推定法,日本建築学会 学術講演梗概集 2010年度大会(北陸),2010年 7月20日,D−1,P.215−216
【文献】
山本耕三、他,周辺支持部の制振特性の違いによる窓サッシ遮音性能,2009技術交流会 資料集,制振工学研究会,2009年12月22日,P.51−58
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】遮音性試験における板ガラスの支持構造を説明する図であり、板ガラスをパテにより固定した状態を示す図である。
【
図2】板ガラスがシーリング材により支持されてサッシ枠に嵌め込まれた状態を示す図である。
【
図3】板ガラスの遮音性能における、板ガラスの寸法と固定方法による影響を示すグラフである。
【
図4】遮音性試験によって求められた音響透過損失を、横軸に板ガラスの面密度Mと周波数fの積として示したプロット図である。
【
図5】遮音性試験の結果を3つの範囲に分割して解析することを説明する概略図である。
【
図6】本発明の実施形態に係る方法により求めた計算値を、
図4のプロット図に重ねて記載した図である。
【
図7】本発明の実施形態で用いられる板ガラス遮音性能算出ツールのフローチャートを示す図である。
【
図8】本発明の実施形態で用いられる板ガラス遮音性能算出ツールの周波数設定サブルーチンのフローチャートを示す図である。
【
図9】本発明の実施形態で用いられる板ガラス遮音性能算出ツールの入力画面の例を示す図である。
【
図10】本発明の実施形態で用いられる板ガラス遮音性能算出ツールの出力画面の例を示す図である。
【
図11】本発明の実施形態により求められる計算値と、実際の実験により求めた実験値及び板硝子協会の実験値とともに示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
ビルディング等の建築物の遮音性が求められる最近においては、サッシの開発、設計を行う上で、サッシに嵌め込まれる板ガラスの選定が重要な事項となっている。
【0010】
板ガラスの選定に利用される板硝子協会の発行する資料における遮音性能は、例えば
図1に示されるような、板ガラス1をパテ3により固定した状態で行われる遮音性試験により求められており、また、板ガラスの寸法については、幅1230mm、高さ1480mmの一定の寸法の板ガラスを使用して行われていた。
【0011】
しかしながら、実際にビルディング等の建築物に装着されるサッシにおいては、例えば
図2に示すように、板ガラス1がシーリング材4によりサッシ枠2に固定されるのが通常であって、さらに、
図3に示すように、板ガラスの寸法によっても遮音性能が異なることから、上記資料の遮音性能は、そのまま建築物への設置状態での遮音性能として用いるには適してはいなかった。
【0012】
一般に、面積が十分に広い均質な薄い壁の音響透過損失は、入射音の周波数f(Hz)と材料の面密度M(kg/m
2)の対数に比例することが知られている(質量則)。しかしながら、板ガラスの音響透過損失については、コインシデンス効果により質量則より外れる現象が生じる。
【0013】
本発明は、板ガラスの音響透過損失が入射音の周波数f(Hz)とガラスの面密度M(kg/ m
2)との積との関係において独特の変化を示すことに着目し、周波数f(Hz)とガラスの面密度M(kg/m
2)との積の値を複数の範囲に分割して、それぞれの範囲毎に板ガラスの音響透過損失を解析することにより、実際の遮音性能に近い推定式を導き出すことができることを見いだし、発明に至ったものである。
【0014】
−発明の実施形態−
本発明の板ガラスの遮音性能の算出方法を、
図2〜11に示す実施形態を用いて説明する。
本発明の実施形態の算出方法は、主に、1.実験値を取得する行程、2.板ガラスの遮音特性を利用して実験値を区分する行程、3.区分に基づいて推定式を設定する行程、4.板ガラスに関する情報を入力して遮音性能を算出する行程により構成されており、特に、シーリング材により支持されてサッシに嵌め込まれる単板ガラスに対して適している。
【0015】
(実験値を取得する行程)
板ガラスの遮音性能を推定するために、シーリング材により支持されてサッシに嵌め込まれた単板ガラスの遮音性能を測定する実験を行い、実測値情報を取得する。
遮音性試験は、JISA1416「実験室における建築部材の空気音遮断性能の測定方法」に準じて行った。
簡単に説明すると、試験室の音源室と受音室との間の開口部に、被試験体を設置し、音源室の音源より定常で測定対象周波数範囲の全体にわたって連続的なスペクトルをもつ音を発生し、音源室及び受音室のそれぞれにおいて、1/3オクターブバンド中心周波数(100Hz,125Hz、160Hz,200Hz,250Hz,315Hz,400Hz,500Hz,630Hz,800Hz,1000Hz,1250Hz,1600Hz,2000Hz,2500Hz,3150Hz,4000Hz及び5000Hz)ごとに室内平均音圧レベルを求めた。
【0016】
求めた室内平均音圧レベル及び受音室の等価吸音面積から、音響透過損失を次式により求めた。
【数1】
【0017】
被試験体は、ガラス見付け面積0.6m
2以上、ガラス見付け幅338mm以上2046mm以下、ガラス見付け高さ803mm以上2729mm以下の単板ガラスを使用した。実際に遮音性試験に供した27種の単板ガラスを表1に示す。なお、表1の「ガラス種」の「FL」はフロート板ガラス(単板ガラス)を示し、そのあとの数値は板厚を表している。従来より、サッシの設計段階等において、種々の寸法の板ガラスについてその遮音性が検討されているが、上記表1に示す27種類の板ガラスは、過去に遮音性について検討されたことのある寸法の約80%を包含しており、上記表1に示す27種類の板ガラスを用いることにより、より現実的で信頼性の高い板ガラスの遮音性能の推定を行うことができる。
【0019】
上記の遮音性試験によって求められた各1/3オクターブバンド中心周波数における音響透過損失を、横軸にガラスの面密度Mと周波数fの積(=ρ(ガラスの密度[kg/m
3])×t(板厚[mm])×f(周波数[Hz])/1000)とし、縦軸に音響透過損失としてプロットした。そのグラフを
図4に示す。なお、ガラスの密度ρ=2500kg/ m
3である。
【0020】
(板ガラスの遮音特性を利用して実験値を区分する行程)
図4にも示されるように、単板ガラスの音響透過損失は、低音域では、比較的質量則に従ってガラスの面密度Mと周波数fの積が上昇するにしたがって音響透過損失は直線的に上昇する傾向にあるが、
図4に示す「第1の値」を境にして大きく下降し、さらに、同「第2の値」から再び上昇していることがわかる。これはコインシデンス効果により音響透過損失の落ち込みがあり、ガラスの遮音性能における特性である。
【0021】
そこで、本発明では、ガラスの面密度Mと周波数fの積に対して、第1の値以下の範囲(以下、「第1の範囲」という。)、第1の値以上第2の値以下の範囲(以下、「第2の範囲」という。)、及び、第2の値以上の範囲(以下、「第3の範囲」という。)に分割し、各範囲の実験データに対して、それぞれ全く異なる推定式を設定することにより、サッシにより遮音するべき周波数範囲における実際のサッシに嵌め込まれた状態に近い状態での遮音性能が得られる推定式を設定した。
【0022】
第1の値、及び、第2の値を設定するに際しては、第1の値として、音響透過損失が最初に降下し始める際の極大値のガラスの面密度Mと周波数fの積の値、第2の値として、音響透過損失が降下した後に上昇し始める際の極小値のガラスの面密度Mと周波数fの積の値、をそれぞれ設定することとした。
【0023】
具体的には、第1の値として20000(kg・Hz/m
2)が設定され、第2の値として31250(kg・Hz/m
2)が設定されている。第1の値、及び、第2の値が設定されることにより、第1〜3の範囲が以下のように設定される。
第1の範囲:M・f ≦ 20000(kg・Hz/ m
2)
第2の範囲:20000(kg・Hz/m
2)≦ M・f ≦ 31250 (kg・Hz/m
2)
第3の範囲:M・f ≧ 31250(kg・Hz/m
2)
【0024】
(区分に基づいて推定式を設定する行程)
図5に示すように第1〜3の範囲を設定するとともに、各範囲において推定式を立案する。低音域では、比較的質量則に従ってガラスの面密度Mと周波数fの積が上昇するにしたがって音響透過損失は直線的に上昇することから、第1の範囲においては、単回帰分析が採用され、第2及び第3の範囲においては、重回帰分析を採用することにより、全体の近似曲線を算出することとした。
【0025】
そして、各範囲における回帰分析により求めた推定式は以下のとおりである。
なお、ここでは、係数等を有効数字3桁で表記した概略式を示す。
【数2】
ここで、各変数の計算式は、表2のとおりである。
【表2】
【0026】
1式〜3式の推定式に対して、一例として、ガラス見付け幅を2038mm、ガラス見付け高さを2729mm、板厚を19mm、ガラス溝幅を45mmとして遮音性能を算出して、
図4のプロットデータに重ねて
図6に示した。それぞれの範囲での遮音性能を示す式は、その境界において完全には連続しないが、いずれか小さい方の音響透過損失を選択することにより1式〜3式の推定式を連結し、防音性能を保証することができる。それにより、使用者に対して、過剰な遮音性能を提示することが防げる。
【0027】
(板ガラスに関する情報を入力して遮音性能を算出する行程)
求めた推定式においては、板ガラスに関するガラス見付け幅、ガラス見付け高さ、板厚、及び、ガラス溝幅を入力すれば、その板ガラスの遮音性能を推定することができる。推定式から板ガラスの遮音性能を算出するには、例えば表計算ソフトを用いることにより、板ガラス遮音性能算出ツールとして構築することができる。
【0028】
一例として、
図7、8に、ガラス見付け幅、ガラス見付け高さ、板厚、及び、ガラス溝幅から板ガラスの遮音性能を算出する板ガラス遮音性能算出ツールのフローチャートを示す。
【0029】
図7に示す板ガラス遮音性能算出ツールにおいて、推定開始の指示がなされると推定の対象となる板ガラスに関する情報の入力を待つ画面が表示される。一例として、表計算ソフトで構築した遮音性能算出ツールの入力画面を、
図9に示す。
【0030】
使用者は、Step1で、
図9に示された入力画面に対して、ガラス見付け幅、ガラス見付け高さ、板厚、及び、ガラス溝幅を入力する。ガラスの見付け幅、ガラス見付け高さ、板厚、及び、ガラス溝幅が入力されると、Step2で、n=1が設定され、Step3に進む。Step3では、周波数を設定するサブルーチン(
図8)に進む。
【0031】
図8の周波数設定サブルーチンでは、nの値に従って周波数が設定される。設定される周波数は、n=1〜18に対して、1/3オクターブバンド中心周波数の、100Hz,125Hz、160Hz,200Hz,250Hz,315Hz,400Hz,500Hz,630Hz,800Hz,1000Hz,1250Hz,1600Hz,2000Hz,2500Hz,3150Hz,4000Hz及び5000Hzが順に設定される。
【0032】
Step3の周波数設定サブルーチンにおいて周波数が設定されると、Step4において、M・f<20000であるか否かが判断され、M・f<20000であればStep5に進み、音響透過損失TLを1式により算出した値として、Step13に進む。一方、M・f<20000でなければStep6に進む。
【0033】
Step6において、M・f=20000であるか否かが判断され、M・f=20000であればStep7に進み、音響透過損失TLを1式か2式により算出された値のうちいずれか小さい方の値としてStep13に進む。一方、M・f=20000でなければStep8に進む。
【0034】
Step8において、20000<M・f<31250であるか否かが判断され、20000<M・f<31250であればStep9に進み、音響透過損失TLを2式により算出された値として、Step13に進む。一方、20000<M・f<31250でなければStep10に進む。
【0035】
Step10において、M・f=31250であるか否かが判断され、M・f=31250であればStep11に進み、音響透過損失TLを2式か3式により算出された値のうちいずれか小さい方の値として、Step13に進む。一方、M・f=31250でなければStep12に進に、音響透過損失TLを3式により算出された値として、Step13に進む。
【0036】
Step13において、横軸に1/3オクターブバンド中心周波数、縦軸に算出された音響透過損失TLとして、計算された値をプロットし、n=n+1としてStep14に進む。
Step14において、n≧19であるか否かが判断され、n≧19であれば終了し、n≧19でなければStep3に戻り、繰り返す。
【0037】
上記の板ガラス遮音性能算出ツールによりプロットされる出力の例として、表1のFL8について出力した出力画面を
図10に示す。T−1〜T−4は、遮音等級線を表し、JISA4706に規定する遮音等級T−1に相当している。
【0038】
−推定式の検証−
図8に示す板ガラス遮音性能算出ツールにより、一例として表1のNo.ST06のFL8について求めた遮音性能の計算値を、実際の実験により求めた実験値及び板硝子協会の実験値とともに表3,
図11に示す。
【0040】
表3、
図11より、本発明の板ガラス遮音性能算出ツールにより求めた計算値が、板硝子協会の資料に記載されている実験値に比べて、シーリング材により支持されてサッシに嵌め込まれたガラスの実験値に近い値を算出していることがわかる。そして、表1に示す全ての板ガラスについて同様の良好な結果が確認されている。
【0041】
−本発明の実施形態による作用・効果−
以上のように、本発明の実施形態によれば、ガラス見付け幅、ガラス見付け高さ、板厚、及び、ガラス溝幅を入力することにより、特に、シーリング材により支持されてサッシに嵌め込まれた単板ガラスの遮音性能を把握することができ、建築物開口部に採用する単板ガラスの板厚を効率よく設定することができる。